作家でごはん!鍛練場
ショコラ

 百日紅の下で

 切り立つ崖の高みから放りだされた渓流が勢いあまって盛り上がり、真っ白なしぶきとなってなだれ落ちてくる。
 滝つぼは碧色の水をたたえ、河津川のほとり、滝の落ちる崖を仰ぐ岸辺に露天風呂がある。夜が明けたばかりのこの時刻、他に客はいない。直人はどっぶり温泉に浸かって、絶え間なく豪快な音をとどろかす大滝を見上げていた。
 心地よい湯も、圧巻の眺めも、すべて独り占めである。
 大きく息を吸うと、水と緑の入り混じった匂いがする。滝の上はうっそうとした雑木の林、流れ落ちる水の左右にそそり立つ崖は岩肌である。
 滝はひたすら激しく落ちる。自然の妙か、白い泡立ちが光の具合で、ときとしてまさに水色と呼ぶべき淡い彩りを帯びる瞬間があって、見飽きない。ずっとこうしていられたら、今日という日を生きる実感も湧いてくるだろう。だがしかし休暇が終わったらすぐにも東京に舞い戻らなくてはならない。あの忙しない日常がまた始まるのかと思い、直人が肩を落した、ちょうどその時だ。
 時空をつんざくような音が鳴り渡った。
 銃声か。
 滝の響きがやみ、白いしぶきが絵のように固まって、流れが止まっている。
 直人が目も耳も疑った、ちょうどそのとき、静止した画像を眠りから醒ますかのように、もう一度、緑の渓谷に硬質な爆音がこだましていった。
 滝が流れだし、泡立ちながら勢いよく落ちる水音がまた、とどろき始めている。
「あたら若きお命でした」
 どこからか声がして振り返った。しかし誰もいない。
 空耳か。直人は姿勢を戻した
 すると露天風呂の真ん前に、白い毛並みの小型犬が首をかしげているではないか。大滝を背にちんまりと、おすわりのポーズで腰を下ろしている。しげしげと顔を観察してみたところ、顎は細く鼻づらのとんがった逆三角の輪郭だ。二十七年あまり生きてきて、こんな吊り目の犬は見たことがない。尻尾はふさふさと太い。
 あ、そうか。
狐だ。 
「おまえ、今しゃべったろ」
 問いかけてみたものの、返事はない。おとぎ話じゃあるまいし、人の言葉を話してたまるかと、直人が冷静さを取り戻したとき、狐は不意におすわりをやめ立ち上がった。
 毛並みが 真っ白な蛍光色に輝きだしている。
狐は水辺まで走っていくと、ぐうんと力をため、みごとに跳ねて、一足飛びに滝つぼを越え、向こう岸へと渡り切った。
 直人は風呂から腰を浮かして、渡った先を眺めやった。
白く光る狐は滝つぼにせりだした岩場の上でこちらを向いて立ち、まるで黒曜石のようにつややかな双の目を直人のほうへ向けている。
 目を合わすや突然、身をひるがえし、崖を駆け上がって、うっそうとした雑木林へ入っていった。
 人を化かしに現れたか。
自問して、我ながら阿呆くさくなってしまい、左右から軽く頬を叩いた。
直人はまた滝を見上げて、早朝の温泉に肩まで浸かり、透きとおった湯を両手で掬い、ごしごし顔を洗った。銃声だの、人の言葉をしゃべる狐だの、あまりにも現実離れしている。疲労からくる幻覚に違いなかった。
ここんところずっと働きづめで、心がおかしくなってくるのが自分でもわかるくらいだからな。
 医学部を卒業したとき、呼び出されたら、すぐ応じられるように、直人は大学病院の近くにワンルームマンションを借りて、一人暮らしを始めた。それから三年と数か月、病院と自宅の行き来だけ、在宅中もいつスマホが鳴るか、鳴らなくても担当している患者が目に浮かび、病状が気になって落ち着かず、一日中勤務しているような生活が続いている。
 人の命を救う仕事なのだ。疲れたなんて言ってはいられない。一か月の残業はしばしば百時間を超えてしまう。
しかしもう限界だ。思い悩んだ末、現況から抜けなくては自分が壊れてしまうと考えて、上司の松宮先生に辞意を伝えたのはおとといのことである。
「仕事のないとき、いつもなにしとる?」
「ゲームか、ごろ寝してテレビですかね」
 松宮先生は、やはりという顔でうなずいた。
「飯だって、たいていコンビニ弁当なんと違うか。狭い部屋に独りでおらんで、外の空気を吸え。家族や気の合う仲間と会ってだなあ、好きなことするとか、うまいもんでも食うとかせにゃあ、気がふさぐばっかりだ。疲れはとれんよ。とりあえず今週いっぱい休め。のんびりしたら気も変わるさ」
「そんなに休んじゃっていいんですか」 
「分かってんだろ」松宮先生は苦笑いを漏らした。「鈴木先生に辞められちゃあ、もっと困るんだ。一週間くらいなんとかするさ。ローテーションも見直しとくからな、頼む、踏ん張ってくれよ」
 大学病院は激務な上に薄給だから、なかなか人が集まらない。現実を超えたところにある誇りだとか志だとか、精神的なものを高く保てないと挫けてしまう。だからますます忙しくなる。悪循環なのだ。
 みんなで支え合わなくては、医局が成り立たっていかないのは直人にもわかっている。
「だけど先生、慢性的な人員不足が解消されない限り、ローテーションをいじったところで、状況は善くならないじゃないですか」
「状況なんか変わらんでもだな、ずっとつづけていくうちにゃあ、うまいことガス抜きしながら、こなせるようになるもんさ」
 松宮先生はきっと、今より厳しい状況で研修したという五十代の本音として、これだからゆとりはなあと呆れかえっているに違いなかった。そこの辺りを内心に収め、穏やかに慰留してくれたのは彼の人柄ゆえだろう。 
 そう考えたらもう、松宮先生に悪くって辞めたいとは言えなくなってしまった。
「親戚んちがな、伊豆の旅館なんだ。夏休みは客でいっぱいだが、やっと梅雨が明けたとこなんで、まだ空いてるだろう。宿をとるから行ってみないか」
 はいとしか言えない直人のために、先生はここ大滝の旅館に電話して、どんどん話を進め、格安で一週間泊まれるよう手配してくれたのだった。
「温泉だけじゃないぞ。河津にゃあ、海水浴できる浜もあるしな。せっかくの夏休みだ。なんなら彼女でも誘ってな、思いっきり羽を伸ばして来いや」 
 特別な彼女はいない。友人はみな働いている。独りで何して遊べというのだろう。
 しかし、病院から離れ楽になれるのは束の間でもうれしい。直人はなるたけ安いルートを調べ、品川に出て東海道線で熱海、伊東から伊豆急と乗り継いで、昨日、河津の駅に降り立ったのである。 

 朝食後、フロントに寄ったところ、松宮先生の従姉だという親切な女将がいて、パンフレットを開き、地図にマークをつけながら、『天城の瞳』と呼ばれる八丁池へ向かうハイキングコースを勧めてくれた。 
 直人は女将に教わったとおり、旅館前の停留所から修善寺行きのバスに乗り、天城峠で降りて、鳴きしきる蝉の声を浴びせられる旧道を歩き、重要文化財に指定されているというトンネルに着いた。
 正面に立ち覗いてみると、美術で習った遠近法さながら、あっちへ行くほど高さも横幅も狭まっていき、出口が小さな光になって見える。入り口の縁取りに組み上げられた積み石も苔むして、古めかしく『天城山隧道』と刻まれた名にも歴史の重みみたいなものが感じられた。
 トンネル脇から山へ入れる。
 しばらく行くと、絶え間ない蝉しぐれと、時おり頭上のどこかで啼き交わす野鳥の声しか聞こえなくなった。道連れもなく、誰とも行き合わない。一本道なのだ。迷うはずがないと思いつつも、確信がもてなくなる。
 陽炎のように空気がゆがんだ。
 葉の茂る高い梢がざわめいている。叫びだしたいような情動が胸に湧き、動悸が不規則になってくる。
 まずい。近頃よくこの感覚に悩まされるのだ。とにもかくにも不安でいっぱいな自分に克たねばならない。早く平常心を取り戻さなくてはと焦りつつ、大きく息を吸い込んだとたん、木製の道標が目に入った。
 今来たばかりの背後を指す板には天城峠、行く手向きに示す方角には八丁池と記されている。やはり一本道、迷ってはいなかったのだ。
 途中、林の切れ目から富士山を眺望できて、心が洗われた。
 さらに歩き、ワサビ田の谷を抜けたところで標識に従って脇道に入り、見晴らし台まで登っていった。
 崖の上に立つ。
 眼下に八丁池の全貌が現れた。
 伊豆の山々が織りなす緑に囲まれて、まさに『天城の瞳』と呼ばれるにふさわしい青く澄んだ湖である。
 今歩いてきた脇道を下って標識まで戻り、もとの一本道に復帰して進んでいけば、あの湖畔まで、じきに着くだろう。直人は真っ青な水に吸い込まれそうだなと思いながら、天城の山並をシンメトリーに映す鏡のような湖に見惚れていた。
 視線を感じる。誰だろうか。
 振り向くと、倒木のかたわらに白い狐が潜み、じいっとこちらの様子をうかがっている。今は輝きのない、ふつうに白い毛並みであるものの、朝の河原で滝つぼを一気に越えた狐だろう。
「またお目にかかりましたね」
 狐は確かにそう言った。やはり、しゃべるのか。
「あのとき、二発、銃声がしたよな」
「はかなくも遠き幻の音でありました」 
「幻? あたら命とか言ってたろ。どういうことなんだ」
 霧が流れてくる。
「お知りになりたくば、我があるじにお訊きなさいませ」
 黒い吊り目は澄んでいる。人をだますとも思えない
「ご案内いたしましょう」
 白い狐はそう言うと、うっすら霧に煙りかけた深い林に入っていった。
 けもの道なのか、ハイキングコースから外れていく道なき道で、道標もないのが不安ではある。しかしこうなったからにはもう、狐の正体、そして行く先に誰が待つのか、きっちり見届けずにはいられない。
 狐は林立する幹を縫うように、ひたひたと朽葉の積もった土を踏み、上ったり下ったり勾配がきつくなってもペースを落とさない。霧がだんだん濃くなっていくようである。ふさふさした白い尻尾を見失ってはいけないと直人は歩を速め、ぴったり後ろをついていった。 
 歩みが止まった。着いたらしい。
 みるみる霧が晴れていき、黒い切妻屋根に煉瓦の煙突、丸太づくりの山荘が現れてくる。板のデッキの中央がくり抜かれて、大きな百日紅の木が植わり、しだれた枝の先にたくさんの細かい花を咲かせている。
 狐は直人を見返った。
「こちらです」
 言い置いて一礼するや、山荘の中へ走り込んでいった。
 入れ替わりにデッキに出てきた若い女は二十歳前後か、狐の女主人なのだろう。両耳の後ろで丸く結った髪の片方だけに百日紅の花房を飾り、ふっくらした顔の周りでつややかな黒い毛を波うたせている。
 左と右に離れ気味の大きすぎない目が親しげでもあり、聡明そうでもあり、心惹かれる。くるぶしで絞った白いズボンに隠されて、脚の形こそ見えないものの、金糸銀糸で唐草模様を刺繍した、赤紫のチャイニーズドレスは胸のふくらみから胴にかけてくびれていく、ぴっちりしたデザインなのに、なまめかしいというよりもむしろ、彼女はすっきり着こなしている。
「ようこそ。お会いできて、うれしいですわ」
 高すぎない声で、品のいい日本語を話すが、異国の人かもしれなかった。
「しゃべる狐のご主人なのですね」
 彼女は「ええ」とうなずいた。
「幻だという銃声、今朝、確かに二発したんだ。あれはいったい、なんだったんです?」
「まあ、さように」柳の葉のように整った弧を描く、眉山のいただきを彼女はいくぶん、つんと尖らせている。「お急ぎにならなくても」
「すみません。初対面の女性に、ぶしつけな言い方だったかもしれない。朝からもう、不思議なことばっかりだったもので」
 直人が言い訳すると、彼女は屈託のない、天真爛漫そうな笑顔になった。
「どうか、お気になさらずに。まずはどうぞ、お掛けになってくださいな」
 デッキの上、百日紅の木陰にはガーデンチェアが二脚並んで、さっき狐の尻尾を追いながら抜けてきた、雑木の林が眺められるように置かれている。直人がすわるのを待って、彼女はもう片方に腰を下ろした。
「狐がしゃべるなんて、びっくりなさったでしょうけれど、誰にでもというわけではありませんのよ。白い狐と書いてビャッコ。大陸から渡ってきた神聖な狐でしてね、人の心を嗅ぎ分ける力があります。白狐がお連れした方ですもの、さぞかし、つらいことがおありなのでしょう。どんなお悩みなのかしら。わたくしにお話しなさってはいかが」
「君に?」
「ええ、是非とも」彼女は直人の目を真っすぐ見つめ、力強くうなずいた。
「君が誰かも知らないのに?」
「ですわねえ。すこしお待ちになって」
 彼女はいったん屋内に入ると、ぴっちりしたチャイニーズドレスと共布で作られた、赤紫の巾着を持って席に戻り、メモ帳と万年筆を取り出した。
「わたくし、キンエイセイと申しますの」
 そう言って、メモ帳の紙を一枚はがし、はね・とめ・はらいをゆるがせにしない律儀な書体でありながら、やわらかい流麗な筆致で『金瑛星』と書いてくれ、にこやかに万年筆と紙を差し出したので、直人も名を書き、読んでみせた。
「まあ、直人さんとおっしゃるの、どうぞよろしくね。お察しでしょうけれど、わたくしの父は中国人です。でも母は日本人ですんで、幼いころから日本の教育を受けてまいりました」
「なるほど。それで日本語が堪能なんですね」 
「ええ。母の里は戦後も幸い没落せずにすみましたので、蔵書もたくさんございまして、好きな本を読みあさり、気ままに育ってまいりましたのよ」
 かなりのお嬢さまなのだろう。 
「好きな本か」直人はうっかり、肩をすくめそうになってしまい、にこっと笑って、取り繕った。「いいですね。僕はためになる本しか読んだことがない。小さいころからずっと忙しくって、時間をむだにはできなかったんだ」
「まあ、それは大変でいらしたのね。わたくし、真摯に生きる方を心から尊敬しておりますの。どんなお仕事をなさってらっしゃるのかしら」
 瑛星はおっとりした笑みを浮かべている。直人は自分の置かれた状況をありのまま話してみる気になった。

 僕はね、新米の医者なんですよ。君みたいなお育ちのいいお嬢さまは影響を受けなかったかもしれないけどね、僕らの世代は生まれてすぐバブルがはじけてしまい、景気の良かった時代なんか全く知らないで、平成不況の真っ只中に育ったからさ、夢らしい夢が描けないというか、現実的なビジョンしか持てないとこがある。
 先の見えないこの時代、確実に稼げるように医師を目指せという親の助言は説得力があった。トップの成績を維持しつづけることに充足感もあって、僕は精一杯の努力を重ねてきたんだ。
 だから遊んでばかりいた奴らと一緒くたに、ゆとり世代なんて呼ばれたくない。公教育のカリキュラムが削られたのは確かだが、小学生のときから受験のための塾に通い、私学に進んでからも、系列大学の医学部進学を勝ち取るため、ハードな勉学を重ねつづけてきたんだからね。
 高い学資を負担してくれてるんだってことは子ども心にも分かっていたから、せっかく出してくれるんなら乗っかろうというずるさもあったかな。とにかく僕はずっと、未来の自分のために今は我慢だと歯を食いしばってきたんだよ。
 医学部に入るのが大変だっただけじゃない。医師国家試験というのはね、世間一般で考えられているよりもずっと難しくって、六年生の冬は猛勉しなくちゃならなかった。
 そんなにまでした努力の先に待っていたのはだよ、夢見てきた暮らしとは程遠い、薄給で長時間労働の日々だった。それでもまだ初めの二年はグループに分かれて、いろんな科を回る研修だったから、忙しくはあっても数週間で目先が変わるし、学生時代の仲間と一緒だったから、励まし合い落ち込まずにいられた。
 だけど去年の春、小児科に入局してからというもの、子どもたちを救いたいという使命感とは裏腹に、いい医師であろうとすればするほど疲れちゃってさ、逃げ出したくなってしまう。
 子どものころからいつか楽になる、いつか楽になると自分で自分を励ましてきたのに、どこまで進んでも出口に行きつかない。だったらさ、八方ふさがりの状況に自分で風穴を開けるしかない。僕としては追い詰められた末の決断で、辞めたいと上司に申し出たんだ。
 だけど、頼むから踏ん張ってくれと言われちゃってね。
 その上司、松宮先生というんだけども、いい人なんだ。辞めるなというのだって医局の都合ばかりじゃないというか、小さいころから努力に努力を重ねて、せっかく医者になれたというのに、ここで道から外れたら元も子もないし、親たちを裏切ることにもなる。
 思いとどまれというのは間違いなく適切な助言だろう。
 だけど頭で分かってもね、僕はもう大学病院に戻りたくない。というか戻れない。あの毎日に戻るのかと思っただけで息が苦しくなるくらい怖くって、身がすくんでしまう。
 今はただ、心をおびやかす終わりの見えない忙しさから抜け出したいだけなんだよ。

「でしたら冥界に」瑛星は腹の据わった声で言い、中華風の巾着からなにか取り出した。
 ピストルだ。
「お連れしましょうか」 
 隣のチェアにすわったまま、両手で構え、直人に銃口を向けている。
「なにをするんだ」
「白狐がこちらにお連れした方ですもの。心のどこかで死に場所を探しておいでよね」
 彼女の顔つきは硬く、きつい眼をして、今にも撃たんとする構えを解こうとしない。
「さっきも、君が撃ったのか」
「いいえ。ねえ、直人さん」皮肉っぽい声で呼びかけて、目を覗きこんでくる。「ほんとうに使命感をお持ちなのかしら。あなたはお医者さまなのですもの、もっと高潔でなくてはいけないわ」
「だけど医者だって、生身の人なんだ。精励刻苦ばかりなんて、やってらんないよ」
 瑛星は首を振っている。
「医師として、社会の役に立ちたいと、使命感に燃えていらしたなら、刻苦だなんて、お考えにならないんじゃないかしら。楽したい、楽になりたいと、ご自分のことばかり、だからつらくなるのではない?」
 図星かもしれない。直人は言い返せなかった。
 彼女は銃口を下げ、ピストルを膝の上に置き、まるで扇でも扱うように手を添えた。柔和な笑みを浮かべ、穏やかな眼差しに戻っている。
「まあねえ、それはそれでいいのかもしれないわ。あの人が楽な生き方を望んで、理想なんか放り捨ててしまったら、わたくしたち、死なずにすんだもの」
「死なずにすんだ?」
「ええ、わたくしたち」瑛星は目を細め、百日紅の梢を見上げていった。「この木の下で死んだんですのよ。冬のことでしたから花なんか、全く咲いてなくって、寂しいだけの林でした」
「からかうなよ」
「いいえ。あの二発はね。六十年も昔に撃たれた銃の音ですの」
 直人が「まじかよ」と思い、目で問うと、瑛星はうなずいた。
「今の方はご存じないでしょうけど、かなり話題になったみたいでしてよ」
「調べさせてくれ」
「ご存分に」
 直人はスマホを取り出して、『金瑛星』と入れ検索、ウィキペディアを読んでみた。
 確かに金瑛星は昭和三十二年の師走、大学二年生のとき、伊豆天城の山中で、同級の学生だった大野真道という男と共に拳銃自殺を遂げていた。
 育ちが良さそうだとは思ったが、なんと瑛星の父は女真族の血を引くラストエンペラーの弟、母は藤原北家の末裔で旧侯爵のお家柄なのだという。お嬢さまどころか、世が世なら、お姫さまではないか。 
 ネット上には、金瑛星の気品に満ちつつも親しみのある写真が数種、掲載され、たった今直人の隣にすわる彼女はまさにその顔立ちなのだった。
「要するに君は中国最後の王朝の姫君で、母方は摂関家までさかのぼれる華族さま、しかもだよ、朝からいろいろあったんで、今さら腰を抜かしはしないけどさ、六十年も前の冬、この百日紅の下でピストル心中した亡霊だというわけか」
「ええ。わたくしたちが死んだ後、身分違いの悲劇だの、天国に結ぶ恋だの、いや男の横恋慕だろうとか、いろいろ噂されたようですけど、すべて見当はずれのことですわ」

 戦後の学制で新設されましてから十年にも満たない大学にわたくしたちは通っておりました。華族階級は廃止され、男女も平等になった新制度ですので、身分やら性別やらで分け隔てすることなく接するべきだと考えまして、わたくしはどなたとも仲良くいたしておりました。
 ですから雪国ご出身で、かつて平民でいらした真道さんとも親しくなっていったのです。
 お力になりたかった、それが一番、わたくしの心情に近い気がします。
 真道さんは旧華族の多い校風に溶け込めなくて、なかなか友人ができないようでした。それにね、形而上のものを大切になさるというのかしら、大変純粋で、現実のご自分とうまく折り合えない方でした。ですから、彼を支えて差し上げられるのはわたくししかないと、今にして思えば、うぬぼれていたのですわ。
 まあ、そういううぬぼれこそが恋愛感情ですんで、二年生に上がりますころには密かにですけどね、卒業したら結婚しようと約束を交わすまでになりました。
 けれども、わたくしの心には迷いが生まれ、だんだん大きく膨らんでいきまして……。
 分かって下さるかしらねえ、家柄のことで母に反対されるとか、そういうことではないのです。だってもし娘が心底望んでいると知ったなら、母はきっとわたくしたちの結婚を認めてくれたでしょうから。
 真道さんには閉鎖的なところがあって、社交的なわたくしをとがめだてするようになったのです。
「誰かれかまわず男子学生と馴れ馴れしくするのはよくないよ」
「どうして?」
「気があると誤解されたら面倒だろ」
「いつも二人だけでいたら、わたくしたち、孤立してしまうでしょう」
 そうした不毛なやりとりから始まって、「さっき、あいつとなにか話してたよな」とか、「やけにうれしそうに笑ってたろ、誰なんだ」とか、学生同士のささいな交流をいちいち気にするものですから、このままでは二人とも心がずたずたになってしまうと考えましてね、十一月の終わるころ、わたくしは婚約解消を決意して、真道さんから頂いた書簡をすべてお返ししました。
 すると師走の初めのこと、ちょうどインドの首相が来日されていらした時期で、大学を休んでレセプションに伺うつもりが、熱が出てしまい自宅で伏せっておりましたら、真道さんから電話がありました。
「やっぱり、うちにいたのか。レセプションなんて嘘だったんだな。なぜ俺を避ける?」
「嘘なんかじゃない」
「だったら出て来いよ」
「無理だわ、熱があるの」
 押し問答の末、彼は悲痛な声で言いました。
「会いたいんだ。会ってくれ」
 わたくしは胸が切なく疼いて、こばめなくなってしまい、自由が丘の喫茶店で真道さんと会ったのですが、横にならんでソファ席にすわったとたん、胸に硬いものを感じ、はっとしました。
 ピストルの銃口が押し当てられていたのです。
「君を失いたくない。一緒に死のう」
「どうしてピストルなんか」
「親父が兵隊だったときのさ。納屋で見つけたんだ」
 彼は本気のようでした。
 止めなくてはならない。でもどうやって。
 わたくしは目まぐるしく頭を回転させました。
「愛してくださるなら、お願い、死のうなんて言わないで」 
 三十八度を超える熱があるのは事実でしたので、嘘ではなかったと彼も納得してくれ、その日はなんとか思いとどまらせることができました。
 けれども数日後、一時限の授業に出るため大学へまいりましたら、正門の外に真道さんが立っていまして、わたくしがあえて明るく朝の挨拶をいたしましても、彼はにこりともしませんでした。
「君がよくしてくれたこと、なにがあっても忘れないよ」
 わたくしは笑い飛ばそうとしました。
「やあね。まるで永訣の朝みたい」
「今さら友だちになんか戻れない。はっきり決着をつけるべきなんだ」
 目のすわった彼の顔を見ているうちに、胸騒ぎが増していきました。
「お昼休みにでも、ゆっくり話しましょう」
「いや、これから伊豆へ行く」
 ピストルが頭をよぎりました。
「なら連れてって」
 放っておいたら、彼は命を絶つ、瞬時にそう確信したのです。
 真道さんは銀座に寄って、デパートが開くのを待ち、高価なものはいただけないと固辞しましたのに、婚約していた記念にしたいんだと言って、二月の誕生石、アメジストの指環を買いました。東京駅から『特急はと』に乗り、食堂車で早めのランチを食べて、熱海に到着したのは昼過ぎでした。
 冬の浜辺にならんで立ち、わたくしたちは、水平線に島が浮かぶ海を眺めました。
「いいお天気ね。風が冷たくならないうちに、お散歩しましょう」
「いや、これからすぐ、天城へ向かう」
「そんな遠くまで? 日帰りできなくなるわ」
 波が寄せ、砂をならして、沖へと返していきました。
「恥をさらすことになる。だが君にはすべて知ってほしいんだ」夏に帰省したとき、真道さんは、お父さまに愛人がいると知ったのだそうです。「理想の夫婦だと思ってた。あの父が女を作るんだものな」
「つらいでしょうけれど、お父上はお父上、あなたはあなたなんですもの、恥だなんて思わなくってもいいんじゃないかしら」
「血は血だよ。このまま生きていったら、俺も汚れた存在に堕していくだろう」
「悲しいこと言わないで」
「万物は移ろう。それがさだめだ」彼はわたくしの頬を両手で包み、じいっと見つめました。「君は今、心はもちろん、姿形もまぶしいくらいに美しい。君に命を奉げたいと思う」
 胸がいっぱいになりました。
「死んじゃいや」
「このいとしさを移ろわせたくないんだ。愛が色あせてもいい。一緒に死ぬ価値はないと君が言うなら、俺一人でも決行する」
 真道さんはわたくしをきつく抱きしめました。彼の腕に包まれたらもう、涙がこみあげ、別れたくないとしか考えられなくなりまして……。 
「あなた一人で死なせない」
 死の誘惑から彼を救いだすどころではなく、理性が曇ってしまったのでした。わたくしはそそくさと、家族や友人にメモのように短い遺書をしたためて、駅の売店で切手を買い、ポストに投函しました。
 鉄道では伊東駅までしか行けません。どうせタクシーを使うならと熱海から乗って、くねくね曲がった砂利道を二時間ぐらいかけて天城峠へ向かい、トンネルの入り口付近で降ろしてもらいました。
 砂利を跳ね上げ、走り去っていくタクシーを目で追いながら、引き返せないところまで来てしまったのだと実感したものです。
「行こうか」
 わたくしたちはうなずき合い、トンネルの脇から冬枯れのハイキングコースを歩いていって、直人さん、さっきあなたのいらした、あの八丁池を望む見晴らし台に立ちましたのよ。
 明るいうちに着けたのは幸いでした。二人ならんで、眼下に見える青く澄んだ湖を記憶に収めましてからね、真道さんはわたくしの左手を取りまして、薬指にアメジストの指環をはめてくれ……。
「今夜、愛を完結させよう。永遠の真実にするんだ」
 媚薬のようなささやきに酔い、感性がおかしくなってしまったのでしょうか、死は親密で怖くもなんともありませんでした。
 落葉した林に踏み入って、二人で樹間をさまよい、黄昏の迫りくるころ、この百日紅の下で横になりますと、彼はやさしく腕枕して、目を瞑ったわたくしのこめかみに銃口を当てたのです。

「さっきの二発は、そのときの銃声ってことか」
 瑛星は唇をかみ、ピストルをなでた。
「このピストルさえなかったら……」
 聞きとがめ、直人は思わず問い返してしまった。
「覚悟のうえの心中なんだろ」
「どうかしら。もちろん無理心中ではありませんし、真道さんは心が決まっていらしたでしょう。けれどその彼にしたって、わたくしへの愛というよりもむしろ、ご自分の美学みたいなものを貫きたかったということではないかしら。ましてわたくしはねえ、恋なんていう刹那の情に流されて、この世になにも残せず死んだ悔いがあって、冥界からさまよいでてしまうのですわ」
「もっと生きたかったんだね」
「ええ。幼いころ生き別れになった父にもとうとう会えないまま、先立つことになってしまいましたしねえ。日本と中国の架け橋になることこそ、わたくしに与えられた使命だと考えて、中学生になったころからずっと中国語を習ってきたのですもの」
 戦後、瑛星の母親と妹は日本に戻ることができたものの、王朝の血を引く父親だけは大陸で囚われの身となっていたため、父に会いたいと中国語でしたためた嘆願書を周恩来主席に送ったところ、瑛星の思いが通じて文通が許されるようになったのだと、さっきスマホで調べたとき、確かに書いてあった。
「ああ、どんなに子どものころからの夢を果たしたかったことかしら。なにがあっても、心の在り処だけはね、見失っちゃいけなかったのよ。直人さんも、ひとときの迷いで志を捨ててしまったら、きっと後悔なさるわ」
「心の在り処か」
 小学校の卒業文集が目に浮かんだ。直人は濃い鉛筆で、ぼくはお医者さんになって、病気の人を治して、喜んでもらいたいですとつづったのだった。
 瑛星はピストルを巾着に入れて、椅子に置きながら立ち上がり、百日紅の幹に手を触れた。
 そのとき風の吹き過ぎる音がして、梢がざわめいた。霧が立ちこめてくる。しかし、ほんの一瞬眼前を隠しただけで、深い林の奥へ流れ去っていった。
 霧の晴れた視界に目を凝らしても、煉瓦の煙突も切妻屋根も板のデッキも、山荘は跡形もなく消えている。瑛星の姿を求めても、今はただ花盛りの百日紅の下に、おすわりした白狐がいて、直人を見上げるばかりである。
「まさか、瑛星さんに化けて、たぶらかしたのか」
「滅相もない。姫君さまはすでに亡く、形のない霊魂になっておいでですので、あなたさまの目に見え声が聞こえますように、この身をお貸ししたまでのこと。どうか信じてくださいませ」
「そもそもなんで、彼女にこの僕を?」
「死にたいなぞと考えますのはご自分のことしか考えないからにほかならず、勝手に死なせればよいものを、思いやり深い姫君さまは放っておくことがおできにならないのです。それで六十年前のあの日も、ピストル心中に巻き込まれてしまい――わたしめは天命を受け、姫君さまをお守りするために、はるばる大陸からお付き添いしてまいりましたのに、任務を全うできませんでした」
 狐は無念そうに顔をゆがめた。
「ですから、この伊豆に残り、今は亡き姫君さまの霊をお守りしつづけ、あなたさまのようなお方のお力になれとの新たな天命を授かったのです」
「僕みたいな者の力に?」
「ささやかながら」
 直人は狐と見つめ合った。
「ありがとな」
「いえ」
 一礼して白狐は立ち、輝きながら走り去ろうとして、歩みを止め、振り向いた。
「お元気で」

 銃声がひびき、直人は意識が遠のいていった。
 ふっと気づくと、八丁池を眼下に望む、もといた見晴らし台に立っている。倒木のかたわらに視線を向けても、狐の姿はない。
 白昼夢でも見たかと目をこすったとき、瑛星の声がした。
『恋なんていう刹那の情に流されて、この世になにも残せず死んだ悔いがあって、冥界からさまよいでてしまうのですわ』
 湖水は青く澄んでいる。
                     了

 百日紅の下で

執筆の狙い

作者 ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

歴史を題材にしたファンタジーです。

コメント

もんじゃ
KD111239165145.au-net.ne.jp

ショコラさま

拝読しました。

歴史を題材にしたファンタジー、という狙いの一文が目に入り、苦手だな、と感じながら、見送る心積りで、しかし何気なく本文を開けたら、

冒頭の一行目、

>切り立つ崖の高みから放りだされた渓流が勢いあまって盛り上がり、真っ白なしぶきとなってなだれ落ちてくる。

素晴らしい一文であるな、とお見受けしました。放りだされて、盛り上がったそれが、そのしぶきがありありと目に浮かびました。リズムもメロディラインもたおやかであります。この一文を目にしてしまったので、全文を拝読すること、即決いたしました。

二文目、

>滝つぼは碧色の水をたたえ、河津川のほとり、滝の落ちる崖を仰ぐ岸辺に露天風呂がある。

「滝つぼは碧色の水をたたえ、」と、「河津川のほとり、滝の落ちる崖を仰ぐ岸辺に露天風呂がある。」との繋がりがよく見えず、? と感じました。けれども一文目がよすぎて、二文目を飲み込もうと何度も読み直しました。

精読モードに入ってしまったので、

>直人はどっぶり温泉に浸かって

どっぷり であろう誤字などにも気を取られてしまうのでありました。一文目から生じた期待が読む目をより厳しいものにしてしまっていて。

ともあれ、直人の登場もすっとしていて、ごたごた感がなく綺麗で、続く描写も美しく、読んでいて目が嬉しく、とてもよい作品を発見してしまったことに心が喜びました。
細かな粗を、ちらほら見えてしまいはする粗を、とても拾う気になれない。話に埋没してしまおう、と自らの手綱をほどく思いで肩の力を抜きました。

よいな、よいな、と読み進め、この一文、

>そう言って、メモ帳の紙を一枚はがし、はね・とめ・はらいをゆるがせにしない律儀な書体でありながら、やわらかい流麗な筆致で『金瑛星』と書いてくれ、にこやかに万年筆と紙を差し出したので、直人も名を書き、読んでみせた。

とめはねをゆるがせにしない、されど「流麗な」筆致、御作の形容に実にふさわしい、と感じ、にやりとしてしまいました。

>恋なんていう刹那の情に流されて、この世になにも残せず死んだ悔いがあって、冥界からさまよいでてしまうのですわ

そういうことか。
一気読みでありました。白狐の尻尾を追うみたいに読み進め、読み終わり、

>湖水は青く澄んでいる

みたいな読後感に満たされ、命に対する、美学、めいたことに浸かれたな、と、ピストルやら出てきて物騒でもある筋を、滝を見上げるような眼差しで眺め、気が付けば終始は温浴していたような気分、これはひとえに文章に心をさすられていたからでありましょう。

伊豆、という舞台、天城の峠という設定にも浸かれました。

読ませてくださり、ありがとうございました。

まちゃひこ
sp49-98-73-166.mse.spmode.ne.jp

 ご無沙汰しております。
 本作を拝読するのは何度目かになるかと思います。思いがけず立ち寄るとなつかしい名前を見つけたので、記念にひとつ感想でも書かせてもらいたくなりました。

 つい最近、怪異や怪談について調べる機会があり、いくらか本を読みかじったのですが、そのなかに「怪談から幻想文学への派生」について述べられたものがありました。その説では、ターニングポイントはやはりというか『雨月物語』らしく、特に本居宣長のフィクション観を引いてこんなことが述べられています。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 作り物語とは何か。それは範疇論的に、実人生・実社会などの「世の中」そのものとは別なものだ、それは「世の中」を基礎としてできている。しかし、それは作者が創造した架空のものだ、という識別において、いわゆる「夢のごとし」というのは、そういう虚なる世界のみ固有な、真実性、美、あるいはそれらへの詠嘆語なのだと、宣長はいっているのである。

香川雅信『江戸の妖怪革命』(角川ソフィア文庫)より引用

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 ここで「夢」とは「現実ならざる空間」の一例で、幻想文学とはその空間の創出に想像力がかけられた作品という見方になります。そして今回のの作品『百日紅の下で』は、そうした仮定的な(あくまでも仮定の域を出ません)モデルを使った読みかたの範疇にある小説だとおもいました。主人公が生きる現実の世界があり、金瑛星の冥界があり、そしてこの物語は「魔境」とも呼べるそのあわいが舞台となっているように読みました。

 文章は一文単位で練られていると感じられ、そこに美を描きだそうとする意思がみられます。しかしながら、非常に惜しいことにその努力が身を結んでいないように思えます。差し出がましいことを申し上げると、全体の構造と細部の関係性が、もしかしたら書き手自身が掴めていないのではないか……という気がしました。
 現実と冥界、そのつなぎが必ずしもなめらかである必要はありません。しかし今作ではその不整合に起因する不自然さが気になりました。具体的には、

・主人公の聞き分けが良すぎる(状況を飲み込めすぎている)
・話が説教くさい

 という現れかたをしています。
 この小説では、しゃべる狐に誘われて金瑛星のもとへやってきますが、そこからちょっと話していきなりクライマックスという性急な展開になっています。事件なしにいきなり解答編がはじまるミステリみたいな……。
 世界Aから世界Bへの移行のしかたが、作品の性質と実態で噛み合っておらず、その皺寄せを主人公が受けているように見えました。
 このへんの調整がうまくいけば、尺を長くすることなく短編として収まりの良いものに改稿できるはず。がんばってください!

でんでんむし
p0163482-vcngn.ttri.nt.ngn.ppp.ocn.ne.jp

ショコラ さん

拝読しました。
他の方が冒頭の文章を褒めておられたので、私も身構えて読み始めました。
滝があって、喋る狐があって、おお、怪談だ、と思いました。期待大でわくわく気分でした。なんか、鏡花風な世界が広がるのかな、と思っていました。
 ところが、なぜ来たのかの説明が、上司の医師との会話風な、説明調の作りであって、せっかく摩訶不思議な世界にいたはずなのに、急に平凡な感じになってしまいました。
それから、金瑛星が出て来るのですが、せっかく怪談の主人公が現れたのに、文章は普通の感じになって、妖幻も何もなくなってしまいました。

医局の話とか、医者としての話とかが口語調で書かれていたとしても、せめて彼女の出る部分くらい、冒頭のようなかっこいい文がほしかったなと思いました。
前後の落差が激しくて、途中からさほど楽しめなくなりました。

いやいや、これは怪談じゃないよ、ということかもしれません。しかし、瀧があって、水があって、秘境の雰囲気に狐がいて、なので、私はすっかり怪談を読むつもりになっていて、それが悪いといことかもしれませんが、まあ、そんなことを感じましたので、書かせてもらいました。

以下は与太で、どうでもいいことですが、私は怪談もホラーも大好きなんです。日本だけじゃなく、西洋の物もかなり読んだつもりです。特にイギリスのペーパーブックスには、あきれるほどのたくさんアンソロジーがあって、そしてどれにも共通するのが、怪談、というかブンガク的なホラーには、台詞が少なく、徹底した描写がある、ということでした。台詞で話を進めないで、じっくり描いて読ませるという感じでしょうか。
映画でもその通りで、古い家になぜか女が住み込んで、幽霊に遭遇するというワンパターンで、アホみたいな設定の話がたくさありますが、たいてい一人対幽霊という形を取って、台詞は極力削られています。そして製作者が気を配るのは、絵としての美しさ、怖さということになります。だって、話は毎度毎度似たようなものですから。でも、絵として見せようとしているので、その映像的な美しさについ見入ってしまうのです。小説でいえば、文章ということでしょうか。
幽霊が来ても、絶対に声を出してはならないというような、チョー静かな怪談?もありますよ。逆にスプラッターは、絵は平凡で、どうでもいいみたいです。大事なのは血糊だけ。
御作は、きちんとした怪談調のホラーで始まって、つまり、よくわからない比喩を使えば、冒頭は芥川賞風なのに、医者の話になってから、急に直木賞風になって、そのままラストまで行ってしまった。なので、申し訳なかったのですが、幽霊の美しさ、厳かさ、何か、そういうものがあまり感じられませんでした。どっちかに統一されていれば、もっと普通に読めた気がします。
なので、もったいないな、と思ったので、感想入れさせてもらいました。あくまで、一つの意見です。

13hPaブロでしょ
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ファンタジーって、つまりどういうことなんですかね。

喋らないものが喋ったらそれは不思議ですけど、それで十分なら小説なんて要らないと思うんですよね。
単純に作為不明瞭というか、ファンタジーっていう建前に甘えたのかうっかり誤解から踏み込んだようなすわりの悪さが終始付きまとっている気がします。


百日紅はいいとしても、天城であることにこだわる印象はないし、丹念な情景描写はどこまでどうして必要としたつもりで書かれたものなのか、それは単純にこのサイズに対してってことだと思うんですけど、要するに必要なものがなくて余計なことに筆を割き過ぎだと個人的には感じさせられたってことです。

銃声の掴みは早い段階で世界に連れて行ってくれてとても良かったです。
良かったところはそれだけです個人的には。

金瑛星の話しぶりに品がないのがすごく気になるばかりに、彼女の過去のエピソードも言い方悪いんですけど所詮ただの世間知らずがだらだらと言いなり死、っていうかまんまとヘンな壺買わされちゃった人の末路とか、何だか重要なエピソードのはずがやけに軽率な印象。
読者として性格悪いだけかもしれないんですけど、何だか求心力低い気がします。

それぞれが語る自らのエピソードが地の長文に化けることにがっくりきました。
それで済むなら新聞なりネット漁るなりでも十分だし六十年とか必要ですかね、なんて言い方はいい加減にクチ慎めって自分でも思うんですけどつまり、小説って何なの? ってことだと思うんですよね。

そもそもこのお話は長く書くつもりはなかったってことですか。
初めからサイズを想定して書くことに疎い人間なので、すでにそれもわかりづらいハナシではあるんですけど。


ファンタジーって、何なんですかね。


ものすごく下衆なこと言ってしまうと、近頃にありがちな構成で考えたならこの手のお話って例えば直人と瑛星それぞれのエピソードが別事らしく交わりながらやがて因縁らしく百日紅の下に時空を超えて帰結する、みたいなのが恐らくは最低ラインとか、エンタメにまったく興味のないあたしですらその程度の水準は想像するわけで、それ以下ならはっきりと物足りなくて文句を食らうっていうのがやっぱり水準で正常な反応のはずだとも想像するわけです。
説教臭いとか、そういう問題ではない気がします。
十行、二十行そこらの説明で根幹を織り成して良しと出来る魂胆は、小説という欲求においていかがなものなのか?
大層手抜きのように感じさせられる気がする、っていうのは意地悪な見立てと感じますか。
それよりも噴き出す滝の情景が美しいとか、本筋に関わらないエピソードに筆を割く理由が先に立つものですか。


ファンタジーって何なんだろ。
小説って、何なんだろ?

っていうのが率直な感想です。

アリアドネの糸
dhcp.nipne.ro

 冒頭はずっと情景描写を眺めていないと思いたくなるぐらい、流麗な文章でした。きれいな文章っていろいろあって、こういう美しさを前面に押し出した類のものもその一つで、ごてごてと厚化粧して十二単のような美麗に属するものは美しいけど流れないってこともザラなんですけど、御作はそんなことはなく、流麗でした、美しいまま流れました。アホ丸出しな感想を書くと、古文の物語で感じたあの感覚を思い出しました。
 
 お話が動きだした瞬間に、文章の印象ががらりと変わった感じはあります。依然としてきれいではあるのですけど、流麗ではなくなった。確かに、あの流麗さのままでは作り出せない、動きとかストーリの緊張感ってのがありますから、仕方がないのかもしれません。これは、その良し悪しを言いたいわけじゃなくて、ギャップとして感じたという事実をお伝えしたいだけです。

 あと、いろいろな意味で、逐一丁寧だと思った。情景描写もそうですが、話の進め方、情報の出し方、会話文のおき方。ここまで多角的に丁寧に書くってことは、そうそうできないことで、感服いたしました。ただ、それらは、作品世界のもつ了解ではなくて、書くことの良識の方に、支えられている気がしました。語弊を恐れずに書くと、全てがレシピどおりに作られている。これって技巧の高さを証明するものだと思う反面、いつも言葉と世界の紙一重のズレがつきまとうように思います。
 たぶん、会話文を例に挙げるのが、一番わかりやすいと思います。物騒な状況がもたらす緊張感はあるけど、会話という表現がもたらす緊張感はそれほどない。丁寧さは美点ですけど、等間隔での丁寧さにはそれほど幅がないとか、うまく表現できないですけど、そういう物足りなさを思ったのです。作品がここの表現にまで求めるところのメリハリってことなのでしょうか? 単純には。

 個人的には、情景描写はずっと眺めていたい気持ちになるぐらいよかったです。まじまんじ。

5150
5.102.2.172

拝読しました。

大まかな話の筋は楽しめました。展開も割と王道的だし、滝や秘境の雰囲気と相まっての、後半の事件の顛末。60年前に起きた。学生カップルによる遂げられない恋。心中。耽美的ですね。丁寧に書かれた文章が心地よかったです。

冒頭部分は丁寧で風景描写はよかったのですが、通しで読むと全体的な統一感にムラがあって、チグハグ感が所々で見受けられたのが残念でした。

>だがしかし休暇が終わったらすぐにも東京に舞い戻らなくてはならない。あの忙しない日常がまた始まるのかと思い、直人が肩を落した、ちょうどその時だ。

細かいですがこういうところ。私は冒頭の風景描写から、銃の音が聞こえて狐が出てくるところを、現実から幻想世界への橋渡し的場面と読みました。このシーンはすごくよかったのですが、こういう文があるために上手く入り込めないんですよね。流れとしてはおかしくないし必要なのですが、遮断される感じで、気持ちよく入らせてくれませんでした。

続く直人の生活部分の説明。医者で疲れている。療養にきた。そういう精神状態のため異世界へと踏み入れることになったと読んだのですが、いかんせんこの部分が平坦で、興醒めします。せっかく異世界に入ったと思ったのに、戻されてしまいます。果たしてここまで長く書く必要があったのか、もっと短くしてもよかったのかなんて思います。

上手く騙されて気持ちよく異世界に入り浸りたかったんですよね。

気になったのは、主人公が狐に選ばれる(?)というか、接点がいまいちよくわからなかった点です。欲を言ったら、直人の現在の状況と、話の後半で心中事件と少しだけリンクしたら(風向きが変わるだけでも)最高だったのですけれど。辛口ですみません。全体的にはとてもよかったと思いました。

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

もんじゃさま
はじめまして。ご感想、ありがとうございます。

ここ二年ばかり、全く書けなくて、本作は数年前に書いたものを、今回投稿するにあたり、表現を中心に推敲したものです。その際、冒頭をいじり、「放りだされた河津川の渓流」から「河津川」を削ったことが、功を奏したようです。
 そこで二文目に「河津川」を移したことがわかりにくさにつながったものと思われます。ここではまだ舞台を特定せずに、描写に徹するべきでした。

>滝つぼのほとり、崖を仰ぐ河原に岩で囲まれた露天風呂がある。
くらいの感じでしょうか。さらに推敲してみます。

>どっぷり であろう誤字
誤字はなかなか見つけづらいので、ご指摘、大変助かります。

お気に召して、一気にお読みくださったとのこと、うれしい限りです。
ご精読、ありがとうございました。

ショコラ
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まちゃひこさま
 ご感想ありがとうございます。お久しぶりです。ホントおなつかしゅう。
 
>本作を拝読するのは何度目かになるかと思います。
 本作をこちらに投稿するのは初めてだと思いますので、過日個人的に読んでいただいたのがこの作品だったのですね。

『雨月物語』は好きで、以前、「さりともと思ふ心にはかられて 世にもけふまでいける命か」をモチーフにしたものを書いたことがあります。
 >虚なる世界のみ固有な、真実性、美、あるいはそれらへの詠嘆語
ここがうまく作れていないために、「主人公が生きる現実の世界」と「金瑛星の冥界」がちぐはぐになってしまっているのですね。
 
> 文章は一文単位で練られていると感じられ、そこに美を描きだそうとする意思がみられます。しかしながら、非常に惜しいことにその努力が身を結んでいないように思えます。
いつも、そうなってしまうのでした。

>全体の構造と細部の関係性が、もしかしたら書き手自身が掴めていないのではないか……という気がしました。
>現実と冥界、そのつなぎが必ずしもなめらかである必要はありません。しかし今作ではその不整合に起因する不自然さが気になりました。
 温めていた二つのテーマを一つの作品に入れ込んだのが原因ですね。別々に仕上げるべきでした。本作の主人公はなにかしら瑛星と因縁をもつ人物に設定すべきでした。

>具体的には、
・主人公の聞き分けが良すぎる(状況を飲み込めすぎている)
・話が説教くさい
 なるほどです。

 >世界Aから世界Bへの移行のしかたが、作品の性質と実態で噛み合っておらず、その皺寄せを主人公が受けているように見えました。 このへんの調整がうまくいけば、尺を長くすることなく短編として収まりの良いものに改稿できるはず。がんばってください!
 アドバイス、生かしたいです。
 励まし、ありがとうございました。

ショコラ
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でんでんむしさま

ご感想、ありがとうございます。お久しぶりです。
>滝があって、喋る狐があって、おお、怪談だ、と思いました。期待大でわくわく気分でした。なんか、鏡花風な世界が広がるのかな、と思っていました。
 ところが、なぜ来たのかの説明が、上司の医師との会話風な、説明調の作りであって、せっかく摩訶不思議な世界にいたはずなのに、急に平凡な感じになってしまいました。

 でんでんむしさまはじめ、皆さまからのご指摘で、敗因がはっきりわかりました。


>それから、金瑛星が出て来るのですが、せっかく怪談の主人公が現れたのに、文章は普通せめて彼女の出る部分くらい、冒頭のようなかっこいい文がほしかったなと思いました。

 ホントそうですよね。


>前後の落差が激しくて、途中からさほど楽しめなくなりました。

 ご期待していただいたのに、申し訳ないことです。


>怪談、というかブンガク的なホラーには、台詞が少なく、徹底した描写がある、ということでした。台詞で話を進めないで、じっくり描いて読ませるという感じでしょうか。

 よいことを教えていただきました。いつか現代版牡丹灯篭を書いてみたいなと思っていますので、生かしたいです。
「絵としての美しさ、怖さ」つまり描写ですね。


>つまり、よくわからない比喩を使えば、冒頭は芥川賞風なのに、医者の話になってから、急に直木賞風になって、そのままラストまで行ってしまった。なので、申し訳なかったのですが、幽霊の美しさ、厳かさ、何か、そういうものがあまり感じられませんでした。どっちかに統一されていれば、もっと普通に読めた気がします。
 
 なるほどです。尻つぼみになてしまい、お恥ずかしい限りでした。鋭い分析感謝いたします。ありがとうございました。


 御作、長編ですので、後日じっくり読ませていただきます。

ショコラ
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13hPaブロでしょ さま

 ご感想ありがとうございます。お久しぶりです。


>ファンタジーって、つまりどういうことなんですかね。
>単純に作為不明瞭というか、ファンタジーっていう建前に甘えたのかうっかり誤解から踏み込んだようなすわりの悪さが終始付きまとっている気がします。

「執筆のねらい」に軽い気持ちで「ファンタジー」と書いてしまい、反省しております。


>百日紅はいいとしても、天城であることにこだわる印象はないし、
 
 愛新覚羅慧生の天城心中を下敷きにしたのでした。


>要するに必要なものがなくて余計なことに筆を割き過ぎだと個人的には感じさせられたってことです。
 
 なるほどです。


>銃声の掴みは早い段階で世界に連れて行ってくれてとても良かったです。
良かったところはそれだけです個人的には。
 
 ここだけは皆さまからお褒めいただきましたけれど、その先がダメダメでした。


>金瑛星の話しぶりに品がないのがすごく気になるばかりに、彼女の過去のエピソードも言い方悪いんですけど所詮ただの世間知らずがだらだらと言いなり死、っていうかまんまとヘンな壺買わされちゃった人の末路とか、何だか重要なエピソードのはずがやけに軽率な印象。
読者として性格悪いだけかもしれないんですけど、何だか求心力低い気がします。
>それぞれが語る自らのエピソードが地の長文に化けることにがっくりきました。
それで済むなら新聞なりネット漁るなりでも十分だし六十年とか必要ですかね、小説って何なの? ってことだと思うんですよね。

 安易に実話を組み込まずに、虚構世界は虚構のまま完結させるべきなのでしょうね。


>そもそもこのお話は長く書くつもりはなかったってことですか。
 
 枚数が決まっている公募に出すつもりで書きました。


>、近頃にありがちな構成で考えたならこの手のお話って例えば直人と瑛星それぞれのエピソードが別事らしく交わりながらやがて因縁らしく百日紅の下に時空を超えて帰結する、みたいなのが恐らくは最低ラインとか、エンタメにまったく興味のないあたしですらその程度の水準は想像するわけで、それ以下ならはっきりと物足りなくて文句を食らうっていうのがやっぱり水準で正常な反応のはずだとも想像するわけです。

 おっしゃるとおりです。
 新米医師の話、天城心中、頭に二つのテーマがあって、安易に一つの作品に盛り込んでしまったことが最大の敗因だと、でしょさまはじめ皆さまからご指摘いただき、痛感いたしております。二人になんらかの因縁を設定すべきでした。


>十行、二十行そこらの説明で根幹を織り成して良しと出来る魂胆は、小説という欲求においていかがなものなのか?
大層手抜きのように感じさせられる気がする、っていうのは意地悪な見立てと感じますか。

 いえ、ご指摘のとおりです。感謝しております。


>それよりも噴き出す滝の情景が美しいとか、本筋に関わらないエピソードに筆を割く理由が先に立つものですか。

 わたしの悪い癖です。文をいじりまわして、磨いていくのが好きなだけなんですよね。


>ファンタジーって何なんだろ。
小説って、何なんだろ?

 難しいですね。そこがわかっていないから、失敗作になってしまうのだと思います。


 丁寧に読んでくださり、ありがとうございました。

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

アリアドネの糸さま
 ご感想ありがとうございます。はじめまして。御作がもう7面でしたので、先に感想をしたためさせていただきました。
 冒頭の情景描写、お気に召していただき、うれしいです。推敲に費やした甲斐がありました。 
 

>お話が動きだした瞬間に、文章の印象ががらりと変わった感じはあります。依然としてきれいではあるのですけど、流麗ではなくなった。

 いきなりタッチが変わってしまい、連続性が感じられなかったのですね。これは最大の反省点です。


>語弊を恐れずに書くと、全てがレシピどおりに作られている。これって技巧の高さを証明するものだと思う反面、いつも言葉と世界の紙一重のズレがつきまとうように思います。
 
 描くべき虚構世界に、技法がマッチしていない。


 >丁寧さは美点ですけど、等間隔での丁寧さにはそれほど幅がないとか、うまく表現できないですけど、そういう物足りなさを思ったのです。作品がここの表現にまで求めるところのメリハリってことなのでしょうか? 単純には。

 のっぺりしてメリハリのない作品になってしまう傾向があるのです。もっと斬新な切り口ですとか、ためを作るとか、工夫しないといけませんね。

丁寧に読んでくださり、ありがとうございました。

アリアドネの糸
dhcp.nipne.ro

ショコラ様

 拙作に感想くださりありがとうございました。返信させていただきました。
 数日内に作品が流れてしまいそうなので、報告まで。

10月はたそがれの国
n219100086113.nct9.ne.jp

>切り立つ崖の高みから放りだされた渓流が勢いあまって盛り上がり、真っ白なしぶきとなってなだれ落ちてくる。


書き出しは、申し訳ないけど、「悪文」に思う。

のっけから「記載順が悪い」ために、状況(風景)が正しく像を結ばない。目に浮かばない、理解に苦しむ。

「これで分かる」って人は、たぶん《前の原稿の状態から見てて、中身知ってる人》だろうと思う。
(初見・初読では無理でしょう)


〔切り立つ崖の高みから 放りだされた渓流が 勢いあまって盛り上がり、真っ白なしぶきとなってなだれ落ちてくる。〕

違和感の源は、「切り立つ崖の高み」ってー、『イグアスの滝か? 華厳の滝か?』なフレーズと、
直後に来る「渓流」。

「渓流= 谷間を流れ下る」で、
渓流にも段差で滝になってる箇所はあるんだけど、それには「切り立つ崖の高み」って表現は、普通持ってこない・・と思う。



この書き出しでダメだったんで、読み進めらんなかった。


画面傍観とタイトルで『愛新覚羅エイセイさんの心中事件下敷きなんだな』は分かったんだけど、
冒頭にいる「主人公の医学生」とは「時間軸が異なる」から・・

普通より一層「主人公の いま・ここ(現在地)を明瞭にしておく」必要があるでしょう。



「時間軸を超えた淡い恋物語」とか、まあ、ワタシも書いてんですけども、
幻想譚でゆく場合、《するっと異世界にすべりこむ》んだけど、
そこに「そうなるだけの理由、必然性。説得力、読者の納得」がなきゃ、お話にならない。



中身読んでないんでアレなんだけど、
書き出しが「あえて滝」で、
その滝に《それを頭に持って来るだけの理由》が明確にあって、中盤や後段で《装置として機能する》んであれば、まあ、この入り方でもいいんだろうけど、

《滝に理由がない。機能しない》んであれば、
【タイトル通り、さくっと百日紅から入】った方が得なんじゃないかなー??


天城心中事件 =百日紅 だし。


タイトルに掲げてるぐらいなら、それはそれは見事な百日紅情景・百日紅エピが、展開しているのだろうな??
(と、読者は当然期待する)

10月はたそがれの国
n219100086113.nct9.ne.jp

温泉地で、いきなり動物と普通に会話して、過去と面妖な事件に巻き込まれてゆく・・

って話は、万城目学(だったかな?)の『城崎裁判』が、読みやすくてよかった記憶。


あれは、突然「ヤモリ」に話かけられる……んじゃなかったっけか??

本作は「天城で狐」みたいなんだけど、
狐はメジャーでエリアも広いんだけども、


【百日紅とはなんかあんましイメージが重ならない】ような気が 個人的にはして、
それもあって、なんか読めなかった。。


絵本のヴィジュアルとかのイメージなんだ(ろう)とは思うんだけど、
【萩】とかだったら、全然違和感ない。


日本って、「月に雁」「紅葉に鹿」・・と、セットにするものが決まってるじゃん??

百日紅には「何」なんだろう??

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

5150さま
ご感想ありがとうございます。はじめまして。


>大まかな話の筋は楽しめました。展開も割と王道的だし、滝や秘境の雰囲気と相まっての、後半の事件の顛末。60年前に起きた。学生カップルによる遂げられない恋。心中。耽美的ですね。丁寧に書かれた文章が心地よかったです。
 
うれしいです。


>、通しで読むと全体的な統一感にムラがあって、チグハグ感が所々で見受けられたのが残念でした。
 
そこなんですよね。直人の物語と瑛星の物語がうまくかみ合っていないせいなのだと、5150さまはじめ皆さまからご指摘いただき、よくわかりました。


>私は冒頭の風景描写から、銃の音が聞こえて狐が出てくるところを、現実から幻想世界への橋渡し的場面と読みました。このシーンはすごくよかったのですが、
>続く直人の生活部分の説明。医者で疲れている。療養にきた。そういう精神状態のため異世界へと踏み入れることになったと読んだのですが、いかんせんこの部分が平坦で、興醒めします。せっかく異世界に入ったと思ったのに、戻されてしまいます。果
 
リリカルな世界からいきなり現実に引き戻してしまう構成のまずさですね。


>気になったのは、主人公が狐に選ばれる(?)というか、接点がいまいちよくわからなかった点です。欲を言ったら、直人の現在の状況と、話の後半で心中事件と少しだけリンクしたら(風向きが変わるだけでも)最高だったのですけれど。

まさにここですね。
天城心中の物語と医局の過酷さという二つの腹案があって、別々の物語にすべきところ、安易にリンクさせてしまったのが敗因だと気づかせていただきました。狐に選ばれ、瑛星に出会うにはもっと別の主人公を造形すべきだったのですね。二人のミスマッチが読み手の皆さまを興ざめさせてしまったのだと痛感しております。


>辛口ですみません。

とんでもない。助かります。

丁寧に読んでくださり、ありがとうございました。

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

10月はたそがれの国さま
ご感想ありがとうございます。はじめまして。


>書き出しは、申し訳ないけど、「悪文」に思う。
のっけから「記載順が悪い」ために、状況(風景)が正しく像を結ばない。目に浮かばない、理解に苦しむ。

残念なことでした。


>「これで分かる」って人は、たぶん《前の原稿の状態から見てて、中身知ってる人》だろうと思う。
(初見・初読では無理でしょう)
 
本作はこのサイトも含め初投稿です。まちゃひこさまには、以前メールをやりとりしたとき、お読みいただきましたけれど、他の皆さまは初見初読でいらっしゃいます。


>違和感の源は、「切り立つ崖の高み」ってー、『イグアスの滝か? 華厳の滝か?』なフレーズと、直後に来る「渓流」。

伊豆大滝温泉の滝を描写したのですけど、崖のサイズが大きく伝わりすぎて、渓谷の一筋の滝に見えなかったのですね。


>画面傍観とタイトルで『愛新覚羅エイセイさんの心中事件下敷きなんだな』は分かったんだけど、
冒頭にいる「主人公の医学生」とは「時間軸が異なる」から・・
普通より一層「主人公の いま・ここ(現在地)を明瞭にしておく」必要があるでしょう。

はい。医学生と天城心中のつながりの悪さは皆さま、おっしゃるところです。反省しております。


>《滝に理由がない。機能しない》んであれば、
【タイトル通り、さくっと百日紅から入】った方が得なんじゃないかなー??
天城心中事件 =百日紅 だし。

伊豆舞台にこだわりすぎました。天城トンネルからハイキングでしか行けない奥地の百日紅が事件の現場でして、そこに行くには大滝温泉にでも一泊するのが便利かなというろころでした。もっと架空の舞台を設定したほうがいいのかもしれませんね。


>タイトルに掲げてるぐらいなら、それはそれは見事な百日紅情景・百日紅エピが、展開しているのだろうな??
(と、読者は当然期待する)

 確かに他の方からも、瑛星のシーンをもっとしっかり描写したらというご指摘をいただいております。百日紅を妖艶に描き出すべきでした。


>温泉地で、いきなり動物と普通に会話して、過去と面妖な事件に巻き込まれてゆく・・
って話は、万城目学(だったかな?)の『城崎裁判』が、読みやすくてよかった記憶。
あれは、突然「ヤモリ」に話かけられる……んじゃなかったっけか??

 残念ながら、未読です。プロの方はお上手ですものね。確かに拙作との落差は大きいことでしょう。


>【百日紅とはなんかあんましイメージが重ならない】ような気が 個人的にはして、なんか読めなかった。日本って、「月に雁」「紅葉に鹿」・・と、セットにするものが決まってるじゃん??

 ですよねえ。


>それもあっ本作は「天城で狐」みたいなんだけど、
狐はメジャーでエリアも広いんだけども、

 はい。身近な説話にもよく登場しますしね、中国から渡来した白狐という設定にしました。


>百日紅には「何」なんだろう??
 
 まあ、猿ということもないでしょうしねえ。


いろいろご提案くださり、ありがとうございました。

13hPaブロでしょ
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愛新覚羅は知ってるけど、天城とくれば石川さゆりさんのあたしが知るはずもないおハナシだったんですね。

ヘンな壺買わされた人とかすげえこと言ってるあたしは無知ムチムチでかなりヤバめだと思うんですけど、だからこうなったのかってこともわかった気もする。


激務真っ只中の直人の頭の中で突如銃声が響いたら、狐はバス停のベンチかどっかで座ってたのかもしれないとかな。

生意気な白狐にガンくれられて“ンだコノヤロウ……”って元ヤンインテリ直人がチラついて誘われるままに飛び乗ったバスがしめしめと魔界転生、六十年前の天城にふわっと到着直人ったら統合失調的主観に毒されて卒倒錯乱、傍らにガンくれ白狐再降臨で「出来るのか、お前に」ってどっかで聞いたことあるいきなりのタメ口で直人「ンだとコノ……」




……って、ふざけてすみません。
要するに何言いたいかって、もうそのおはなしは済んでますもんね帰りますかえります。

自分が関わったスレにはちょっかい出したいタチなだけでした。
おつかれさまです。

10月はたそがれの国
n219100086113.nct9.ne.jp

>本作はこのサイトも含め初投稿です。まちゃひこさまには、以前メールをやりとりしたとき、お読みいただきましたけれど、他の皆さまは初見初読でいらっしゃいます。

>>違和感の源は、「切り立つ崖の高み」ってー、『イグアスの滝か? 華厳の滝か?』なフレーズと、直後に来る「渓流」。

>伊豆大滝温泉の滝を描写したのですけど、崖のサイズが大きく伝わりすぎて、渓谷の一筋の滝に見えなかったのですね。



↑ ええと、【何やら落差の大きな滝…… 華厳の滝を連想させるフレーズから始まる】のが、
【はっきり悪い】と、秒で感じた理由を、

はじめの感想でハッキリ書かなかったもんで、『いまひとつ理解されなかったんだな』と。。



愛新覚羅エイセイさんの心中事件は、「かなり知られた事件」なんですけども、
【その場所が天城】ってのまで、完全把握してる人は「レア」なんじゃないだろうか??

ワタシも「場所」までは把握してなくて、ほかの【有名な心中事件、投身事件の舞台】と混じっちゃって、
つらつら思い返し・記憶整理したもん。


前者(心中)が、三原山。
後者(投身)が、華厳の滝!


エイセイさんより、華厳の滝の人の方が有名じゃろう。
そんで、華厳の滝の人は「一高生。いまで言うところの東大生」だから、、、


《医学部の人が滝んとこにいる》から始められちゃうと、『混じって嫌!』って気持ちになるのは、
ワタシだけじゃないと思う。


(華厳の滝と遺書のフレーズが、あまりに有名すぎんですよ、ホレイショ)

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

13hPaブロでしょさま

 再訪くださり、ありがとうございます。


>……って、ふざけてすみません。

 いえ、色々なアイデア、ありがとうございます。


>要するに何言いたいかって、もうそのおはなしは済んでますもんね帰りますかえります。
自分が関わったスレにはちょっかい出したいタチなだけでした

 そういうことでしたら、いつでもどうぞ。

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

10月はたそがれの国さま

 再訪くださり、ありがとうございます。

 タイトルの「百日紅」を見れば、愛新覚羅の心中事件ということはたやすくわかる。けれどもそれが天城の山奥の百日紅で、ピストル自殺とまで知っている読み手は少ない。自死の話で冒頭に壮大な滝が描かれると、もっと有名な華厳の滝で形而上の理由で亡くなった自殺事件と混同する読み手が出てくるから、まずい冒頭文だと直感なさった。そういうことですね。

 おっしゃること、よくわかりました。

中野太郎信長(予定)
M014009196000.v4.enabler.ne.jp

ショコラ様復活おめでとうございます

一読したけども、まあなんというか余韻のようなものがもっとあるといいかなと思いました。
なんというか素直なお話なのでこれはこれでいいような気はしますが、もっと引っ張る方がいいかなと。
あともう少しお話を変えて捻りを出すのもやり方としてはありますが、幽霊ものとしてこれはこれで十分な気もしますのでちょっと文章なんかで余韻エイと工夫されるといいかと
まあ王道のような気がしました

まあ僕は書けない病にかかってしまいかけません涙

中野太郎信長(予定)
M014009196000.v4.enabler.ne.jp

まあなんと申しますか。素直すぎるかなあとも
昔大沢在昌さんの小説作法の本に小説というのはトゲがあるといいということでしたが
なんというか例えばね。僕が障害年金二級から三級に落ちて自己破産だというと事実なんですけど、なんというかピリっとくるじゃないですか。そういうのが必要じゃあないかなあと。
だから心中の説明受けて気を失ってどうしたと言ったら片目が見えなくなっていたとか、
そういう祟りでもいいし、なんらかの仕掛けでもいいしなんか素直すぎるということは言っておきます。でもこれはこれでいいような気がするのも事実です。

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

中野太郎信長(予定) さま

 ご感想ありがとうございます。


>ショコラ様復活おめでとうございます

 いえ、わたしも相変わらず書けない病、というか今は全く書いていません。本作は数年前に書き、まだこちらに投稿していないというだけの旧作です。
 業平物を構想していたその矢先、日経に業平の小説が載っていると友人から聞き及び、わたし自身は読んでいないのですけど、敗北感がありました。そこに京アニ事件、ワナビのわびしさ愚かしさを痛感、そこで筆が止まっています。


>一読したけども、まあなんというか余韻のようなものがもっとあるといいかなと思いました。
なんというか素直なお話なのでこれはこれでいいような気はしますが、もっと引っ張る方がいいかなと。

 そうなんですよね。もっとインパクト、タメや捻りがないとね。


>まあなんと申しますか。素直すぎるかなあとも
 
 そこを改善するための秘策、中野さまには数々ご指南いただきましたけど、うまくいかないです。


>昔大沢在昌さんの小説作法の本に小説というのはトゲがあるといいということでしたが

 安穏と生きている延長では小説にならない。


 いつもありがとうございます。お書きになれるようになるといいですね。

たまゆら
p1817002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

読ませて頂きました。
 
ショコラさんの作品を、以前何度か読んだことがあります。当時と変わらぬ美文、すっかり堪能させてもらいました。特に冒頭の滝の情景は秀逸でした。立体感もあり、画面から飛沫が立ち上がってくるような錯覚を覚えました。
 
ただ、すぐ説明に入ってしまったことに多少の不満を感じます。
セリフも画一的な気がしました。そのためキャラが没個性になってしまった印象がぬぐえません。
 
それと一点だけ。
 
>「でしたら冥界に」瑛星は腹の据わった声で言い、中華風の巾着からなにか取り出した。
 ピストルだ。
・時代はピストルかもしれませんが、だからといって、主人公が死語であるピストルと言うのは腑に落ちません。後に拳銃自殺と表記しているので、ここは拳銃で統一されたほうがいいかと。できるのなら軍用銃でも。
 
それにしてもラストの一文は最高でしたね。余韻が深まりました。
今も感想を書きながらラストの一文の余韻に浸っています。

ショコラ
h175-177-040-032.catv02.itscom.jp

たまゆらさま
 ご感想ありがとうございます。
 御作がもう7面でしたので、先に感想をしたためさせていただきました。


>ショコラさんの作品を、以前何度か読んだことがあります。当時と変わらぬ美文、すっかり堪能させてもらいました。

 うれしいです。


>特に冒頭の滝の情景は秀逸でした。立体感もあり、画面から飛沫が立ち上がってくるような錯覚を覚えました。

 推敲を重ねた甲斐がありました。
 

>ただ、すぐ説明に入ってしまったことに多少の不満を感じます。
セリフも画一的な気がしました。そのためキャラが没個性になってしまった印象がぬぐえません。

 はい、いつもそうなってしまうのでした。
 
 
>・時代はピストルかもしれませんが、だからといって、主人公が死語であるピストルと言うのは腑に落ちません。後に拳銃自殺と表記しているので、ここは拳銃で統一されたほうがいいかと。できるのなら軍用銃でも。

 なるほどです。ご指摘ありがとうございます。
 
 丁寧に読んでくださり、ありがとうございました。

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