作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

大外強襲

 昨夜まで降っていた雨が上がり、日曜日は柔らかい春の陽射しが降り注いでいた。一人娘の菫(すみれ)は朝早くからテニス大会に出かけている。
「そろそろ出るで」
 と言いながら四郎が台所を覗いてみると、妻の登喜子はまだ弁当を作っていた。
「食堂があるんやで」
「でも、弁当の方が楽しいやんか。遠足みたいで」
 登喜子の嬉しそうな様子をみると、弁当など無駄だとは言えない。
 四郎は京都競馬場へ行くつもりであった。登喜子もついて来ると言う。競馬のことを何も知らない登喜子を連れて行くのは煩わしかったが、時には女房孝行も良かろうと思って連れて行くことにした。女房を連れて行っても邪魔にはなるまい。目指すは関西牝馬特別、G3レースであり、四郎が肩入れしているトンガクロスが出走する。
 登喜子は弁当を背負い、空を見上げた。
「晴れてよかったね」
小さい雲が空の端の方に流れていく。
 女学生のようにはしゃぎながら四郎の腕を取った。体にぴったりのジーンズをはいて、紺色の毛糸のセーターの姿は、とても三十代後半で中学生の娘がいる女には見えない。うっすらと化粧をした妻の顔は若やいで見えた。
 結婚して十五年、仕事が忙しい事を口実に登喜子と二人きりで外出することは絶えてないことである。 
 京阪電車の中では、四郎は売店で買った競馬新聞に目を注いだ。
「ねえ、馬はそばで見られるんでしょ」
 登喜子が話しかける度に、生返事をしながら新聞に赤丸をつける作業を続ける。車内には大勢の男達が同じように新聞を広げている。
 話しかけるのを諦めて登喜子は窓の外を眺めていた。
「ねえ、見て。ゴルフをしているよ」
 楠葉駅に停車した時、登喜子が四郎の肩をつついて河川敷のゴルフ場を指さした。
「ちょっと静かにしてんか。いま研究してるんやから」
四郎は顔をしかめる。
 不満そうに登喜子が口をつぐんだ。
 淀駅で下りてしばらく歩く。登喜子は四郎の腕を恋人のようにしっかりと抱え込む。さわやかな風が吹き抜け、登喜子の香水の匂いが漂った。
「わあ、広いねえ」
 中学校の校庭に比べれば、競馬場は途轍もなく広い。雑踏の中を登喜子の手を引いて場所を探す。コースでは障害レースが行なわれていた。
「うわあ、馬が走ってる」
 登喜子が興奮して叫んだ。周りの人がいぶかしげにこちらを見る。四郎はそっと登喜子の袖を引いた。
「ここは競馬場やで。馬が走るのは当たり前や」
「あんなとこ飛び越えて転ばへんのかなあ」
 登喜子が声を潜めて言った。
 好天に誘われて人出は多かった。その人並をかき分けてパドックに向かう。厩務員に引かれた馬が輪を描いて歩いている。
「どうして走ってないの?」
 登喜子の間の抜けた質問にうんざりする。やはり連れて来なければ良かったと思う。
 馬券売り場で馬券を買った。
「どうしてそんなもの買うの?」
「これはな、馬券いうてこの番号が当たれば金が貰えるんや」
「何でやのん?」
 いちいち馬券の仕組みを説明するのも煩わしい。
「うるさいなあ。黙ってみてたらええんや」
 ついつっけんどんな口調になってしまう。登喜子が口を開きかけてやめた。
 第七レースが始まった。千八百メートル、芝コースである。
 白い逃げ馬がぐんぐん引き離して行く。
「わーい、あの白馬すごい。頑張ってー」
 登喜子が小躍りして叫んだ。中段から徐々に馬群がかたまっていく。それでも逃げ馬は懸命に逃げる。四コーナーを回り、逃げ馬は馬群に呑込まれようとしている。
「ああー」
 登喜子が悲鳴を上げた。逃げていた白馬は、ついにゴール直前で差してきた二頭に交わされた。
「やった!」
 四郎が腕を振り上げた。 
「惜しかったねえ。もうちょっとやったのに」
「これで当りなんや。これはちょっと大きいでえ」
 四郎は息をはずませながら馬券を見せた。
「八番が一着で五番が二着やったやろ。五―八で当りなんや。当たったら金が貰えるんや」
 へーと登喜子が目を丸くした。
「それでいくら貰えるの?」
「六万四千円や」
「六万四千円も……」
 登喜子は信じられないという面もちで四郎の顔を見つめる。
「二千円づつで、五つの組み合わせを買うたやろ。そのうちの一つが当たったんや」
 三十二倍の配当であった。
 早速馬券を現金に変える。
「ねえ、お弁当食べない?」
 登喜子が背負っていた弁当を下ろした。四郎は新聞に印をつける手を止めた。
「弁当か。次のレース、狙ってるんやけどな」
「でも、お腹減ってるんやもん」
 登喜子の楽しみは芝生の上で弁当を開くことらしい。
「しゃあないな。そんなら次のレースは見送りやな」
 新聞の馬柱(レースデーター表)を見ながら四郎が未練そうに呟き、どうしようか思案した。
「見送りてなに?」
 全てが珍しく、登喜子が子供のように質問する。それに答えるのが面倒になり、
「弁当を食べたいんやろ」
 と口を封じるように歩き始めた。
人混みから離れて、芝生の上にビニールの風呂敷を敷く。
 登喜子はいそいそと弁当を並べた。
「運動会みたいやね」
 嬉しそうに登喜子が料理を四郎の取り皿に運ぶ。そういえば、娘の運動会にも顔を出したことはなかった。登喜子の嬉しそうな顔を見ると少し心が痛む。
 レースが終わって大歓声があがった。掲示板を見て、
「あーっ」
 と四郎が叫んだ。登喜子が驚いて顔を上げた。
「どないしたん?」
「万馬券や。買うとくんやった。えらいことしてしもうた」
 四郎は膝を叩いて悔しがった。
「万馬券いうてなんやのん?」
「百円が一万円になることや。二十万円儲け損ねたんや」
 登喜子はぽかんとして四郎の残念がる様子を見つめた。
「お前が弁当を食べよう言うたから買い損ねたんや」
 四郎は赤ボールペンで新聞を叩いた。入着した番号に赤丸がつけてあり、ご丁寧にも穴狙いと記入してある。
「くそっ」
 吐き出すような言葉を聞いて登喜子が青ざめた。事情はよく分からないが、何か大変なことが起きたと思ったのだろう。もし登喜子が昼弁当にしようと言わなければ、この万馬券を買っていたのにと思うと余計に悔しさが増してくる。
「これ、おいしいよ」
 機嫌を取るように差しだした登喜子の箸を邪慳に払いのけた。料理が芝生に飛んだ。
 逃した魚は大きい。買わなかった時に限って万馬券が当たる。世の中はそんなものだ。買おうと思えば買えなかった訳ではない。それほど期待していなかったから買わなかっただけなのだ。登喜子の責任ではないことは承知していながら、登喜子に当り散らすしかなかった。
 なぜ叱られたのか分からぬまま、登喜子は黙って弁当を片付けはじめた。
「弁当にせんで、馬券買うといたらよかった。お前のせいや」
 未練がましく呟く四郎に、ごめんねと登喜子が謝った。別に登喜子が謝ることではないのだ。
第九レースと第十レースはどちらも外れた。
 くそっと舌打ちをする。第八レースの万馬券を逃したことでツキが落ちたらしい。四郎の舌打ちの回数が増える。その度に心配そうに登喜子がのぞき込む。
 第十一レースは、メインレースの関西牝馬特別である。パドックで食い入るように馬の毛並を眺める。四番、トンガクロスの調子は良さそうであった。よし、軸は決まりだと呟いた。後は相手を何にするかだ。
「私も馬券買うてもいいかしら」
 登喜子が突然言った。
「好きなようにせえ」
「ほんとにええんやね」
 登喜子は自分も馬券を買うことで四郎の機嫌を取ろうとしたのかもしれない。
 トンガクロスの相手探しの思考を中断されて、不機嫌そうに四郎は新聞を見ながら探った財布の中で手に触れた札を渡した。渡したのが一万円札と気づいて、
「あんまりようけ買うたらあかんで」
 と念を押した。  「うん、一つだけにする」
とうなずいて登喜子は馬券売り場に消えた。
 パドックでの馬の様子を見る。馬柱から過去の戦績を見る。最近の調教タイムを見る。ここは穴狙いではなく、固くいくのが正解だと思った。思案の末、トンガクロスから流す相手の5頭を決めた。
 登喜子がにこにこしながら戻ってきた。
「買うたんか?」
「うん、買うた」
「よう買い方、わかったな」
「うん、そばにいたおっちゃんに買うて貰うたんや」
「そんで、何を買うたんや」
「トキシグレとハツスミレや」
「なんやと?」
 四郎はオッズ表を見上げた。出走する十八頭中、トキシグレは十五番人気、ハツスミレは十七番人気である。
「何でそんなもん買うたんや」
「登喜子やからトキシグレやろ。それにスミレは娘の名前やんか」
「ほかの馬は?」
「それだけや」
「それだけいうことは馬連の一点か?」
「そうや」
「お前、アホか」
「なんで?」
「そんな人気の無い馬が来るわけないやろ」
「そうやろか」
「当り前や。まあええ、お釣りを返してんか」
「お釣りあれへん」
「なんやて? ほんなら、一万円買うたんか」
「そうや。一万円札をおっちゃんに渡して買うて貰うたんや」
「アホウ!」
 思わず四郎は怒鳴った。
 登喜子は目を見開いた。なぜ叱られたのか判らなかったらしい。周囲の視線が二人に注がれる。四郎はあわてて登喜子の手を引っ張り、場所を変えた。
「一万円、どぶに捨てたんやぞ」
「ようけやのうて一つ買うただけやんか」
第八レースの万馬券を逸した鬱憤が一挙に爆発した。
「万馬券、取り損ねさせて、その上一万円も只で捨てるんか」
 登喜子は唇を咬んでうつむいた。
「馬券、買うてもええ言うたやんか」
「ようけ買うたらあかん言うたやろ」
「そやから馬連一つだけにしたんや」
「アホウ! カスみたいな馬に一万円もつぎ込みやがって」
「だって、あんたが一万円くれたやんか。そない言うんなら、その一万円、私が払う」
 登喜子は涙声で財布から一万円札を取り出して四郎に渡した。その札を受取りながら冷やかに、
「この一万円かて俺が稼いだ金やで」
 と言った。
 登喜子の肩がぴくりと揺れ、頬がゆがんだ。
 流れる雲に太陽がおおわれ、辺りが日陰に入った。風がひんやりと首筋をなでていく。
「ごめんね。これ、あんたに上げる」
 小声で言って登喜子がそっと馬券を差し出した。
「アホ、こんな紙屑、いらんわ」
 四郎は馬券を放り投げた。あわてて登喜子が拾い、泣きそうな顔でまた差し出した。
弁当の時に後悔した筈なのに又登喜子にあたり散らしてしまった。登喜子が好きで買った馬券、どうせ外れるに決まっているが、それでも構わないではないか。来るはずのない馬券を一万円も買ったのは馬鹿げているが、これも馬券の買い方をちゃんと教えなかった四郎が悪いのである。手に触れた一万円札ではなく、面倒がらずに財布を捜して、千円札を一枚だけ渡しておけば良かったのだ。万馬券を逸した悔しさとはいえ、四郎は登喜子に辛く当たったことを後悔した。
 四郎はその馬券をポケットに納めて、馬券売り場に向かった。登喜子は悄然としてついて来る。
三番人気のトンガクロスを軸に、流しで五点を買った。トンガクロスの調子を考えれば当たる確率は高いだろう。ついでにトンガクロスの単賞も五千円買った。
 馬場では既に騎手が乗って返し馬(ウオーミングアップ)をしている。四郎はトンガクロスを目で探した。
「ほら、あの灰色のまだらの馬がいるやろ。あれがトンガクロスや」 
「あの馬が勝ったら当たるんやね」
四郎に声をかけて貰って、ほっとしたように登喜子が寄り添った。
雲が切れて、午後の柔らかい陽射しが戻ってきた。馬場全体が明るくなり、馬の毛並が白く光った。
ゲートインが始まった。トンガクロスは四番ゲート、好位置である。
 各馬は綺麗にスタートした。逃げ馬が二頭飛び出し、トンガクロスはその次の二番手集団中段につけている。一番人気の九番サザンレディをマークしているようだ。
「いいぞ!」
 四郎が叫んだ。
 四コーナーまでに逃げ馬が吸収された。四コーナーを回って四番トンガクロスと九番サザンレディが一馬身ほど集団から抜けでてきた。
「このまま逃げきれ!」
 四郎が腕を振り上げて怒鳴る。
「頑張って!」
 登喜子も合わせて叫ぶ。
 後続馬が迫って来る。内側から差してきた一頭が並びかけた。
 あと百メートル、五十メートル。息詰まる叩き合いが続く。
そのとき、馬群の中央から大外に出るや否や、猛然と追い上げて来る一頭があった。たちまち先頭集団に追いつき、大喚声の中で四頭は一団となってゴールインした。
勝ったのは四番トンガクロスか、九番サザンレディか。観衆は固唾を飲んで掲示板を見つめる。写真判定の写の字がでただけで着順はなかなかでない。
「どうなったの?」
 登喜子が尋ねた。
「殆ど同時やったやろ。ゴールの写真を見て判定するんや」
 しばらくして、五着に十二がでた。あとの四頭の判定が微妙である。
 三着に四が、続いて四着に九がでた。トンガクロスは三着であるから四郎が買った馬券は全部外れている。
「くそっ」
 四郎が馬券を空中に放り投げた。
「あかんかったの?」
「ゴール前で追いついた馬がいたやろ。そいつに抜かれたんや」
「惜しかったね」
「これで一万五千円パーや。お前の分を入れて二万五千円の大損や」
 登喜子は黙ってうつむいた。
 やっと一着と二着の数字がでた。七と十であった。場内が大きなどよめきに包まれた。
 七百六十倍の超万馬券である。百円が七万六千円になるのだから、当たれば大変なことだ。京都競馬場始まって以来、有数の高配当である。
 四郎の頭に衝撃が走った。慌てて新聞に眼を走らせ、震える手で登喜子の買った馬券を確かめてみた。馬連で七―十である。登喜子の目を盗んで何度も確かめる。汗が噴き出す。口がからからに乾いた。
「どうしたの? 気分でも悪いの?」
 何も知らない登喜子が心配そうにのぞき込んだ。
 急に黙り込んだのは、馬券が外れたショックだと勘違いしたのだろう。登喜子は笑顔を作って慰めるように、
「今日はとても楽しかったよ」
 と言った。
 七百六十万円。しがないサラリーマンの四郎には夢でも見たことがないほどの大金だ。
 四郎は喚きたい気持ちを懸命に押さえた。
 この馬券を買ったことで登喜子を叱っている。四郎は自分の短気を悔んだ。そんなことがなければ、この超万馬券を登喜子に知らせて素直に喜ぶことが出来たのに。今更これが超万馬券だったとは言いにくい。
 それにしても、この金額は大きすぎる。四郎は七百六十万円を登喜子に知らせるべきかどうかを迷った。登喜子に知らせたらどんな顔をするだろうか。登喜子はその馬券を返せと言うだろうか。馬券は四郎が貰ったことになっているのだから、返せとは言うまい。登喜子はこの馬券は外れたものと思っているはずだ。それなら登喜子には黙っていよう。その代わり、後日換金したら内緒で登喜子名義で貯金しておこう。
 この金は初めからなかったものとして、登喜子のため以外には決して使うまいと心に決めた。
「帰ろう」
 震える声で言って登喜子をうながした。登喜子は黙ってついてきた。帰りの電車でもあまり喋らない。
 京橋駅が近づいてきた。
「京橋でビール飲んで行こうか」
 四郎が言うと、登喜子の顔が明るくなった。 
「行こう。ビール飲もう」
 朝の楽しそうな登喜子に戻ったようであった。
 京橋のこぎれいな店で向かい合って座った。これも久しぶりの事であった。店内には、あちこちで若いカップルが陽気な語らいをみせている。
 ビールのグラスをカチリと合わせた。
「今日の競馬、面白かったね。ありがとう」
 そう言って微笑んだ登喜子の顔がまぶしかった。一緒に競馬に行っただけでこれだけ登喜子が喜ぶとは意外であった。日頃から殆ど登喜子に構ってやらなかったことを済まないと思った。これからはもっと登喜子に構ってやろう。
四郎はそっとポケットを押さえて超万馬券の感触を確かめた。
 大外から猛然と差してきて超万馬券をもたらせた七番のトキシグレは、きっと登喜子の化身であったに違いないと思った。
 
                 おわり

大外強襲

執筆の狙い

作者 大丘 忍
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以前に投稿したことがありますが、その時の感想を参考に推敲しております。
私は競馬場には行った事はありません。テレビで時々京都競馬場の実況放送を見るくらいです。実際の競馬場の様子が小説のようなものかどうかは知りません。
雰囲気を出すため時々空模様の描写を入れておりますがその効果は感じられたでしょうか。

コメント

13hPaブロでしょ
KD111239114119.au-net.ne.jp

さすが大丘パイセン。
即効ずぶとい速攻。


カリカチュアライズはアンチヒーローのバロメーターレアメタルなのでむしろ喜んでおいたらいいですよ、どうせ嫌われてんだしやらかす奴こそろくなもんじゃないんだし平気だよね、つまんないし。

ボケ防止楽しんでよ、エロ人格最悪でも憚らないもん生きたモン勝ちなんでしょ。
共感ゼロだけど、ああいう恥知らずはアレだよねえって痛み入ってあげようキライだけど。




読んでないけど。

ひらパー兄さん
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主人公のクズ男っぷりがよく書けていると思います。でも、タイトルと中身が合ってない感じがしました。

夜の雨
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「大外強襲」読みました。

よくできた作品ですね。
特にキャラクターは書けています。
主人公の四郎の人物像が抜群です。これだけ自己中によく書けるなぁと、感心しきりです。
ヒロインの登喜子は外見描写はありませんが、可愛い奥さんぶりが伝わってきました。
これは彼女の行動が描かれているからだと思います。
競馬場に弁当を四郎と自分の二人分作っていくところなどもいいですね。

>京都競馬場へ四郎が行くのですが。登喜子もついて来るというあたりも、煩わしかったが、時には女房孝行も良かろうと思って連れて行くことにした。女房を連れて行っても邪魔にはなるまい。<
まあ、確かに競馬のことを知らない妻を連れていくのは競馬好きの四郎には煩わしいかもしれませんが。妻の登喜子は子供ではないので、馬のことを説明したりするのは四郎にとっては楽しいかもしれません。
馬が競馬が、どれだけ面白いかを知らない者に説明して共感を得る理解を得ることは、それは楽しいと思いますが。
しかしこのご主人の四郎は馬一筋というところが、馬というよりも賭け事が好きだけの男という描き方のように思いました。そのあたりの壊れっぷりもよかったかな。

現場で四郎は一度は儲けますが、弁当を食べる間に購入を検討していた馬券を買えずに儲け損ねるところが、伏線になっていて、そのあと登喜子が当たるはずがない万馬券を購入するところなどは、小説の構成から見ると、当然「あたり」になり、多額の儲けが出るということが考えられますが、それでも御作を読んでいると、その通りの展開になり思わず「にやり」とさせられました。

馬が走る前からその馬券を四郎が捨てるところはなかなかの見せどころです。
よく馬券を破らなかったところです。

>七百六十万円を後日換金したら内緒で登喜子名義で貯金しておこう。<
このあたりは、立派です。四郎もまともなところがあります。使い込まないように、よろしく。

ちなみに導入部で「一人娘の菫(すみれ)は朝早くからテニス大会に出かけている。」として、四郎と登喜子のふたりだけで話を進めたのも構成的にはよかったと思います。

>大外から猛然と差してきて超万馬券をもたらせた七番のトキシグレは、きっと登喜子の化身であったに違いないと思った。<
ちなみにこれがタイトルの「大外強襲」とつながっていて、「登喜子の化身」と関連付けているわけですが、それをするのなら、四郎が登喜子が購入した万馬券の馬のレースをよく見ておく必要があるのではなかと思いました。それのほうが、夫婦愛の深さ(登喜子の四郎を思う愛情)に四郎が気づくエピソードになると思います。
四郎が購入した馬が逃げてあとから登喜子の馬が追いかける。
自分たち夫婦と比較することができるので。

エンタメとして、なかなかの作品でした。

そうげん
119-231-167-60f1.shg1.eonet.ne.jp

良かったです。

万馬券を奥さんが当てたのにそれを言い出せない夫の無駄な矜持がいかにも現実の年配者にありそうで、リアルだなと思えたわけでした。男性と女性の立場に同権というよりも秤で測ったような等価が求められる昨今の現状をベースに考えては、おそらくこの小説は古色蒼然としたものに映るかと思います。しかし多くの夫婦において、その関係性の大半はやはり作中に置けるような立場の高低が主に妻側に置いて意識されているものと思っています。作品の途中でこれは妻の買った馬券が当たる流れだなとはわかりましたが、それが当たったうえに、夫が妻に事情を説明できないその複雑な心境のあり様が、身近で接するリアルな妻側の夫に対する思い、夫が妻に対して感じている矜持というものをしっかり照応してくれていると感じられました。大丘さまの文章は端正でありますのでラストまですっきり読み進めることができます。最後までしっかり読めるということが小説の存在理由の第一義でありますから、読むことができて良かったと思いました。

いまは京都競馬場は改修工事に入ってます。わたしは滋賀県在住で競馬をするというと、ネット経由でもなく、いまだに実際にJRと京阪を乗り継いで京都競馬場に行くということをしてましたので、京都競馬場が舞台であるのは身近に感じました。でも現在だと、京阪の電車内で競馬新聞を広げるのは年配者の幾割かといった程度で、多くはスマホで情報収集をしている印象です。以前は駅を降りて競馬場に行くまでに怪しげな的屋が多かったですけど、もう見なくなりました。競馬場は30代40代の割合が多くて、親近感を覚えます。

改修が終わったらまた京都競馬場に行ってみたいと思ってます。

大丘様へ★
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

男の見栄……なのか。
それが分かれば結婚出来る……のか。

いや、結婚してますけど……。(?!)

大丘 忍
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夜の雨様

 競馬小説を読んで頂き、感想を有難うございます。今から数十年昔、まだ若い中年のころでしたが、栗東厩舎の調教師たちが私のクリニックの人間ドックと契約しており、毎年多くの調教師が検査のために入院しておりました。そこで競馬の話を聞くと面白そうで時々テレビを見るようになりました。そんなことで、考えたのがこの小説です。
 競馬好きの夫が競馬には全く無知な妻を連れて競馬に行く話ですが、馬券を当てようといきり立っている夫には、こんな競馬には全く無知な女はさぞうっとうしかっただろうと思います。妻は学校の運動会気分でついていくのですが、夫の機嫌が悪くて当惑します。
 そこでこの小説にはある試みを入れてみました。風景描写としてところどころに空模様を入れておりますが、これはその時の妻の心の晴れ具合を描いたものでした。単なる風景描写として入れているので読者は気づかなかったと思いますが、私は潜在意識下での効果はあったのではないかと思います。
 超万馬券は妻に対するお礼として当ったことにしました。実際に馬券を買ったことはありませんが、馬券を買ったらこんな風に苛立ってくるのではないかと想像しました。
 いつもご丁寧なる感想を頂き感謝しております。

大丘 忍
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そうげん様
 競馬には全く無知な妻を競馬に連れて行き、狙っていた穴馬券を妻の昼飯のために買い損ねて大いに不機嫌になります。妻はなぜ夫の機嫌がそんなに悪くなっとかさっぱりわからず困惑しています。夫の機嫌を取ろうと自分も買った馬券がまた大波乱を起こしました。馬券たるものは何かも知らず、夫と同じようにして夫の機嫌を取ろうとして馬券を買ったのは良いが、飛んでもない馬を買ってしまった。多少でも競馬の事を知っておれば、こんな馬券は買わないのですがね。
 当然夫は怒りますが、妻にはなぜ夫が怒っているのかわからない。途方にくれます。しかしこんな馬券、もし当たればとんでもないことになりますね。
 夫としては、今更これが超万馬券であったとはいえない。そこで、帰りに京橋でビールを飲むことで妻を慰めようとします。夫としては、万馬券を単純に妻に伝えられない事情がありますからね。おそらく、妻が馬券を買ったときにもっと優しく扱っておけば良かったとの悔いがあったと思います。
 私の文書は愚直でわかりやすいことを心掛けておりますが、それが伝わっているようで安心しました。これからもよろしくお願いいたします。

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