作家でごはん!鍛練場
おでん鬼

暴行

夏の夜空に月が一つ浮かんでいます。(これは私が月が二つ見える星からやってきた異星人であるということではありません。)
私は駅に向かっていたのでしばらくは前を向いて歩いていましたが駅へ繋がる歩道橋へ昇る際に少し目線を上へやらなければなりませんでした。目の前をゆく、ひどく汗臭い、豚のように太った中年の背の向こうに見えた夜空には月の他に何もありませんでした。
先日、偶然に新宿にて出会った友人は言っていました。
「午後七時を過ぎると空にクラゲが泳ぐんよ。つい昨日、いや半年前かな。捕まえようとしたらよ、これ見てみ。」
友人はすっかり汗を吸ってクタクタになった長袖をぐいと捲り、痩せ細った前腕の内側をむき出しにしました。胸を悪くするほどに青白い肌へ赤黒い斑点がびっしりと広がっていて、掻きむしったような痕がほんのり赤く残っていました。
「刺された。痛痒くて堪らない。お前も気をつけてな。」友人はそう言って左腕をさすりながらふらふら路地裏へ抜けて行ってしまいました。彼がクラゲに刺されていないということは分かっておりましたが、それでも彼はあのような姿になってなお私に「気をつけてな。」と言ったのです。私はきっと彼より良い給料をもらっているはずでしょう。彼は私よりひどい物を食べているでしょう。彼には恋人も居ないでしょう。身なりも、地位も、彼が私に勝るものはないでしょう。そんな彼が私に対し、「気をつけてな。」ですって。
舐め腐りやがって。刺してやる。
目の前に階段が二つある。右手側の階段を登れば都心へ向かう列車が停まるホーム。左手側の階段を登れば横浜へ向かう列車が停まるホーム。私はあの友人を打ちのめす為に右手側の階段へ足をかけた。段を一つ二つ飛ばしたり、律儀に一段づつ踏みしめながら昇る。規則性などない。私は最後の一段を踏み外し、今しがた昇ってきた段を背中に感じながら降りてゆく。衝撃とひどい耳鳴りが私を私でなくする。階段の中腹の所にいた豚が私の肩を揺さぶる。私は薄れゆく意識の最中、よろめきながら立ち上がり、その男の鼻っ面に握り拳を突き立て、そのまま豚に被さって眠った。

暴行

執筆の狙い

作者 おでん鬼
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ささいなことで豹変する人が書きたかったです。

コメント

5150
5.102.22.168

特に最近、自制力がなく余裕のない人が増えているように思えるのですが。読んでいて他人事でないような気がしました。

おでん鬼
om126255047100.24.openmobile.ne.jp

5150さん
ありがとうございます。増えているかどうかはわかりませんが、そういった人がいることは確かですね。自分を俯瞰で見ることを忘れないでいたいものです。

アン・カルネ
219-100-28-87.osa.wi-gate.net

怖ーい。

もうずっと前から「かわいそう」は上から目線という風潮で、漱石先生大好きな私としては、「えー。可哀想とは惚れたって事よの世界観はどこへー。ここはもう日本じゃないのー」と心の中で思い続け、そりゃ確かに「かわいそうよね(ふふん)」みたいな使い方の時にはこの「かわいそう」は本当の可哀想じゃなくて、もっと言えば上から目線どころかこの「かわいそう」は「かわいそう」と書いて「ざまみろ」と読む、がいっそ正しいのだろうって気がするわけだけど、ここに来て、遂に「気をつけて」までが上から目線の範疇で捉えられてしまいますかって、そこ、衝撃でした(笑)。
にしてもかつてはお金せびるにしても「夜も涼し寝覚めの仮庵手枕も真袖も秋に隔てなき風」等と風流にオシャレにしてみせたのに、そういう心はもう日本からは消えてゆくのかしらね。
それとは別に。
「午後七時を過ぎると空にクラゲが泳ぐんよ」ここからちょっとヘンテコで粋な空想世界が広がってゆくのかなあ、なんて思ってました。

おでん鬼
an038193.ppp.asahi-net.or.jp

アン・カルネさん

ふふふ。もし私が「気をつけて」と言われれば素直に受け取ると思うのでこの主人公がおかしいだけだと思います。
たしかに今や「無骨」や「たおやか」な言葉遣いは物語でしか目にしませんね。言葉は移り変わるものなので仕方ありません。 

偏差値45
KD106154139067.au-net.ne.jp

現実的ではない設定に現実的ではない行動なので
分かりにくいかな。
正常があって異常がある。この方が分かりやすいですからね。
「面白さを感じること」よりも「解釈に気をつかう」ので、
個人的には良い評価は出来ないかな。

夜の雨
ai209080.d.west.v6connect.net

「暴行」読みました。

タイトルは「暴行」よりも執筆の狙いにある「ささいなことで豹変する人が書きたかったです。」から『豹変』のほうが、適しているのではないかと思いました。

以下、説明です。
ーーーーーーーーーーーーーー
>夏の夜空に月が一つ浮かんでいます。(これは私が月が二つ見える星からやってきた異星人であるということではありません。)<

導入部の入り方が面白いと感じました。
「月が一つ浮かんでいる」は当たり前で、それをいちいち「これは私が月が二つ見える星からやってきた異星人であるということではありません。」
これって、伏線なのかとニタリとしました。あとからニタリの原因を書きます。

>私は駅に向かっていたのでしばらくは前を向いて歩いていましたが駅へ繋がる歩道橋へ昇る際に少し目線を上へやらなければなりませんでした。目の前をゆく、ひどく汗臭い、豚のように太った中年の背の向こうに見えた夜空には月の他に何もありませんでした。<

ここでまた月が出てきました。
「ひどく汗臭い、豚のように太った中年」これは、ふつうの人間ではない。

>先日、偶然に新宿にて出会った友人は言っていました。
「午後七時を過ぎると空にクラゲが泳ぐんよ。つい昨日、いや半年前かな。捕まえようとしたらよ、これ見てみ。」
友人はすっかり汗を吸ってクタクタになった長袖をぐいと捲り、痩せ細った前腕の内側をむき出しにしました。胸を悪くするほどに青白い肌へ赤黒い斑点がびっしりと広がっていて、掻きむしったような痕がほんのり赤く残っていました。<

「クラゲが午後七時を過ぎると空に泳ぐ」という友人の話から、捕まえようとしたら「赤黒い斑点がびっしりと広がっていて」ということで、刺された、という意味。
そのあたりの描写もあり。
ここが、かなり面白くてニタリです。
友人もちょっとおかしい人物です。

>「刺された。痛痒くて堪らない。お前も気をつけてな。」友人はそう言って左腕をさすりながらふらふら路地裏へ抜けて行ってしまいました。彼がクラゲに刺されていないということは分かっておりましたが、それでも彼はあのような姿になってなお私に「気をつけてな。」と言ったのです。私はきっと彼より良い給料をもらっているはずでしょう。彼は私よりひどい物を食べているでしょう。彼には恋人も居ないでしょう。身なりも、地位も、彼が私に勝るものはないでしょう。そんな彼が私に対し、「気をつけてな。」ですって。
舐め腐りやがって。刺してやる。<

主人公が反応して切れました。
ふつうに読むと、「気をつけてな。」と目下が言ったとしても、切れるような場面ではありません。
ところが「舐め腐りやがって。刺してやる。」なので、アドレナリンが爆発したというような感じ。
ふらふら路地裏へ抜けて行ってしまいました。  ← 異界へ抜けたと考えられる。

>目の前に階段が二つある。右手側の階段を登れば都心へ向かう列車が停まるホーム。左手側の階段を登れば横浜へ向かう列車が停まるホーム。私はあの友人を打ちのめす為に右手側の階段へ足をかけた。段を一つ二つ飛ばしたり、律儀に一段づつ踏みしめながら昇る。<

主人公の正体がだんだんわかってきました。
「友人を打ちのめす為に」とか言っていますが、友人ではなくて裏の世界(異界)の住人だったりして。

>規則性などない。私は最後の一段を踏み外し、今しがた昇ってきた段を背中に感じながら降りてゆく。衝撃とひどい耳鳴りが私を私でなくする。階段の中腹の所にいた豚が私の肩を揺さぶる。私は薄れゆく意識の最中、よろめきながら立ち上がり、その男の鼻っ面に握り拳を突き立て、そのまま豚に被さって眠った。<

再び豚が出てきました。
この豚も普通の人間ではありませんよね、異界と関係している。
だからにおいもすごい。
降りてゆく。  ← 落ちてゆく。


つまり御作がどういう世界の話かというと、「月が二つ見える星からやってきた異星人」ではなくて「月が三つ見える異界からやってきた人物。
こちらの世界と異界との結界がやぶれており、人間もどき共がこちらからあちら、あちらからこちらに行きかいしている。
夜になるとクラゲが空に泳ぐというのは、現実でそれは異界から迷い込んできている。
夜になると異界との結界がゆるくなる。

さて、主人公が切れやすい性格というのは、キャラクターとしてなにか問題を抱えている証拠でありますが、それがこちらと異界とに関係があるのではないかということになる。

タイトルが「暴行」から『豹変』となると、世界観としても伝わるのではないかと思いますね。
つまり主人公は豹変するような「何者か」ということになります。


以上、御作からイメージを広げさせていただきました。

たかなし
heated.hdfilmseti.com

 主人公の異常な心変わりと、所々に差し込まれている異常なエピソード(異星人や空のクラゲ)とが、異物感満載で却ってお似合いでした。金銭トラブルだとか、痴情のもつれだとかよりも、空のクラゲに刺されないように心配されたからという理由のほうが、何故だか納得してしまいます。三島由紀夫さん作「命売ります」の主人公の自殺した理由が、新聞の文字がゴキブリに見えたから、というのと似たような納得感がありました。

13hPa
softbank221022130005.bbtec.net

豹変も移り変わりもあったものではないですし、まして異界がどうのなんてことは鈍らな読み手ならではのおためごかしってことでしかないはずなんですけど、真に受ける人がどれほどいるものかって眺めてみれば案外作者本人こそそのつもりらしく。

ただ気がふれただけのことをふれたままに書き捨てることは誰よりも作者自身が何も知らないだけの手抜きあるいは未熟以外の何ものでもないと見切って当たり前なのが恐らくは読み手としてせめてもの及第点のはずで、無視する不評は親切かただの腰抜けか、ってことだと思うんですね。

どれもこれも、書いても読んでも所詮つまらないのはそのせいなんです。
同好の嗜みとはいえ、簡単ではないですよね。

おでん鬼
an038193.ppp.asahi-net.or.jp

偏差値45さん
ありがとうございます。
わたしはファンタジーは恥ずかしくて書けないのでこれは現実のつもりです。

おでん鬼
om126255044166.24.openmobile.ne.jp

夜の雨さん
すっかり別の味付けにしていただきありがとうございます。

おでん鬼
om126255044166.24.openmobile.ne.jp

たかなしさん
ありがとうございます。
不条理物だーいすき。

おでん鬼
om126255044166.24.openmobile.ne.jp

13hPaさん
えわたしに対して何か言ってる?ちょっとわからないです。
シコってるところ見てもらいたいだけならその文章は満点だと思いますが、人に何か伝えたいならもう少し噛み砕いてから書き込むことをお勧めします

13hPa
softbank221022130005.bbtec.net

その程度って言っただけだから気にすんな
おつかれ脊髄

夜の雨
ai215138.d.west.v6connect.net

ふつうに感想を書くと導入部の「これは私が月が二つ見える星からやってきた異星人であるということではありません。」というところでは、主人公は自分がほかの者と変わっていることに自覚がある、という意味にとれます。
つまり豹変したり暴行を働くような人間は一般的に数が少ないので、自分で異星人に例えている。
しかし悪いとは思っていないので、自覚はあるが、「異星人(豹変したり暴行を働くような人間)」とは違うと言っている。

>目の前をゆく、ひどく汗臭い、豚のように太った中年の背の向こうに見えた夜空には月の他に何もありませんでした。<
主人公が内心イラつき始めるが、まだ、月のことを言っていて、「異星人(豹変したり暴行を働くような人間)」でないことを強調している。

>友人のクラゲの話と、彼が病人のように腕が異様な状態<
そんな彼に「気をつけてな。」と言われて、ブチ切れるわけですが、ここは彼と主人公が自分を比較していますが、何か問題を抱えているから相手よりも上の自分が豹変する。
しかしこの豹変がリアルタイムではなくて、後日になっているところに主人公の抱えている問題が別のところにあると思われます。
友人と偶然遭ったのは昨日なので。
つまり主人公は普段はおとなしい好人物かもしれません。

 ラストで階段から転げ落ちたところを他人に助けてもらっているのに、相手を豚(導入部の件と同じ)と思ってしまい拳を突き立ててそのまま豚に被さって眠った。
で、オチ。
転げ落ちたのも普段なら階段を踏み外すことはないと思うので、相当興奮状態だったのでしょうね。
主人公の背景の部分が書かれていませんが、友人と比較している部分では、一般かそれ以上の生活をしているようです。
その生活を支えるために仕事他でがんばっているので、ストレスから他人に対して攻撃的になるのでしょう。

御作は普通に書けば精神的にストレスがある人物の話になるところですが、月がどうとか、相手が豚とか、空にクラゲがどうのとかで、腕が……、と、演出していると思います。
この演出するところが、創作活動のなせるところです。

もう少し主人公の生活面の情報を書き込むと、わかりよくなると思います。

お疲れ様です。

アリアドネの糸
dhcp.nipne.ro

 実験作っぽいって思った。

 時系列も因果も虚実も捩れた不条理文章は、総体として不条理!、って感じで興味深くはあったけど、お話のストーリとか意味とかを、考えちゃいけないような気もした。
ぼくたちにクラゲ星人のロジックはよくわかんないからね。
ていうか、誰もがみんなそれぞれがそれぞれクラゲ星人ってことなだけかもしんないけど。

 文章の仕掛けの作為を、クラゲ星人の構造へと昇華しようとしているのかな、と思ったわけですけれど、執筆の狙いを読む限り、そういう意図はないのかな? 
 もし、ただおかしくなって豹変しちゃった人を気を衒ったやり方で書いているのだとしたら、おかしくなって豹変したという、額面以上のことが、総体としては、実は描けなくなっちゃうという、そんな言葉の反作用もあるかもしんないね。とはいえ、ところどころにぶすりと心理的に刺さる印象に残る表現があったため、心理的アンカーボルトのタイミングと角度はただしい気もしていて、御作のアプローチは、ただしいような、ただしくないような、ふわふわした感じです。

おでん鬼
om126255044166.24.openmobile.ne.jp

夜の雨さんは私以上にこの作品について考えてくださっています。実のところ、アイデアのメモとして、眠る前急いで書いた物なのでそんなに練られてないのです。大まかな構造はあったのですが、それより広いところまで考えてくれたあなたに感謝します。

おでん鬼
om126255044166.24.openmobile.ne.jp

アリアドネの糸さん
ありがとうございます。
とにかく不条理物は普通ではない点も全て肯定していかなければならないのでこういった形になったのだと思います。

飼い猫ちゃりりん
dw49-106-174-111.m-zone.jp

おでん鬼様
 発想は面白い。でもまだ描き切れていない。「普通」から「異常」への豹変が描き切れていないように感じます。
 世の中に異常な人なんて山ほどいる……というか正常な人の方が珍しい。
 実は「普通」という名の異常ほど恐ろしいものはない。
 猫をの殺処分は人間社会では普通のことなのでしょう。この「普通」の異常性を感じない人は異常です。
 ちなみに、あの時代、ホロコースも普通でした。

飼い猫ちゃりりん
dw49-106-174-111.m-zone.jp

おでん鬼様
「猫の」「ホロコースト」でした。
つい感情的になって誤字脱字。恥ずかしい。

おでん鬼
om126212250175.14.openmobile.ne.jp

飼い猫ちゃりりんさん
ありがとうございます。たしかに短編ほどの長さにすればギャップが生まれて驚きに繋がるでしょうね。
ちなみにわたしは野良猫が苦手なのであなたの持つ普通の価値観とは少々相容れないかもしれません。

小次郎
128-27-44-169f1.nar1.eonet.ne.jp

ただただ、暴力的ですね。豹変したとは感じませんでした。それより、この主人公が、異常、という印象です。もともと、異常。
豹変を書かれるのなら、変化が必要かと。すごく優しかったのに、いきなり態度が変わるとかです。

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