作家でごはん!鍛練場
古代ローマ

春萌ゆる木々の詩

 東歴1467年。
 世界は、どんよりした悲壮感に覆われていた。
 周辺の蛮族は日々勢いを増して国境を脅かしている。
 度重なる戦争で疲弊し没落した市民には、もはや国家防衛を遂行するための余力が残されていなかった。農民たちは、蛮族に領土を奪われ、田畑を奪われ、その日食べる食料にさえ事欠いていた。
 それを守るはずの兵士たちさえ、自分たちが忠誠を誓った国家を命がけで守る気概を失いかけていた。賄賂が横行し、正義が死に絶え、腐敗し切った国家の体たらくに見切りをつけ、蛮族側に寝返る者が続出した。
 王は正義の人だったが、王宮にはびこる悪徳に対して一人で立ち向かうにはあまりに手強い敵たちに囲まれ過ぎていた。貴族、大商人、その他新興の勢力に国家は内部から食い荒らされ、千年近く続いた王朝はもはや瓦解寸前だった。
 しかし、彼は、それでも国家を見捨てることが出来なかった。彼は、その気になれば、国を見捨てて、居心地の良い離宮に身を潜めて、風流な池のカモを眺めながら、のんびり暮らすことも出来た。だが、彼はそうはせず、王としての使命を全うするため、その孤独な身を玉座に据えて、国家と王のためなら命をも捨てることが出来る、有徳の士だけをそば近くに置いて、どのように自分の国を再興すべきか、その術を日々模索していた。
 ここ、モッカミール帝国は、繁栄がピークだった1世紀前までは「ほとんど日の沈むことのない帝国」と呼ばれていたのが、今では、「ほとんど陽の目を見ない帝国」という残念なあだ名をつけられていた。
 そんな停滞した雰囲気が国に蔓延していたある日のこと。
 伝説の戦士の血を引くと言われるトトは、現在18歳の壮健な若者であり、カモジュース製造で生計を立てる農家の長男だった。
 トトの先祖は国家建設にも貢献した有力な軍人の家系だったが、数世代に渡る権力争いに敗れ、現在、その子孫は、小規模の農家を経営する一族となっていた。その一族が、時代を遡れば、国家建設に貢献した偉大な英雄であるということを知っている者はもうほとんどいなかった。一族の間で、その伝説が口頭で受け継がれているくらいだったし、今更あえてそれを誰かに自慢するというわけでもなかった。
 トトの家族は3代前から都市からだいぶ離れた農村に移住し、そこで小さな畑を所有し、毎年夏に収穫される果物からカモジュースと呼ばれる一種の国民食を製造して販売し、そこから得られるわずかな収入で、細々と暮らしていた。
 その日も、トトは、汗を流しながら、果物の収穫に精を出していた。
 そこに、突然、馬車に乗った騎士がやって来て、王宮に来るようにとの指令を伝えられた。
 トトは王城を訪れた。塀も壁もボロボロに崩れ落ちたその痛々しい様子を目にして、トトは暗澹とした気分になった。
 トトが役人に案内されて王の間に足を踏み入れると、初老の王が、威厳と優しさのこもった表情でトトを迎えた。
 王が直々に語るには、
「世界は無気力と諦めに満ちている。人々は国家を信用出来なくなり、内側に閉じこもってしまい、進歩と発展に背を背けてしまった。この状況を打破するには、新しい文学が必要だ」
「科学ではなく、文学ですか?」
 とトトは聞いた。
「そうだ。科学は、人の生活を便利にした。だが、使い道を悪徳に支配された科学は、かえって人間の心を貧しくしてしまった。どれほど科学が発展しても、それを扱う人間の心が貧しければ、何の役にも立たない。真にこの世界と人生を豊かにするのは、夢と希望と愛にあふれた文学なのだ」
 と王は言った。
 それを聞いて、トトは納得した。トトは近頃この国に漂う閉塞感に、戸惑いと悲しみを覚えていた。トトはこの国の自然、文化、人々が好きだった。このまま国家が弱体化していけば、この国の領土と文明に目がくらんだ周辺の蛮族に武力で侵略され、彼らの奴隷にされてしまうという不安が次第に現実味を帯び始めていた。
「ここからはるか東の彼方に位置する島国に、『春萌ゆる木々の詩(うた)』という書物があるらしい。その本の中には、打ちひしがれた者たちの心を潤す、実にかぐわしい美文が書き連ねられているという。それを民に読ませ、あるいは語り聞かせることで、この国の人々も、生きる意味を取り戻し、再び夢と希望に満ちた未来に向かって進んで行けるようになるだろう」
 王はそう言って、トトを見送った。

 トトは東目指して歩んだ。
 突然、草むらから、ゴジという穴だらけの紙のお化けが現れた。
 ゴジの先制攻撃!
 トトは5ポイントのダメージを受けた。残り体力15ポイント。
 トトは剣を振りかざした。
 ゴジは2ポイントのダメージを受けた。残り体力10ポイント。
 ゴジは誤字の羅列をまくしたてた。
 トトは意識が混濁した。
 ゴジの攻撃!
 トトは7ポイントのダメージを受けた。残り体力8ポイント。
 トトはめまいに襲われている。
 ゴジの攻撃!
 トトは7ポイントのダメージを受けた。残り体力1ポイント。
 ゴジは勝利を確信した。
 その時、しゅっと、風を切るような音がしたかと思うと、ゴジの紙状の体がどろどろと溶けて、液状に変化してしまった。その液体はしばらくすると、地面に吸い込まれて消えてしまった。そうして、この戦闘では、トトが勝利することとなった。
 朦朧とした意識でよろめいているトトに、何者かが回復系呪文をかけた。
 トトは全快した。
 トトがその恩人を見ると、小柄な、エルフの少年がそこにいた。人間で言えば、13歳くらいの年頃だろうか。透き通る白い肌、金色の髪、青く輝く瞳、丈夫だが軽い革の服、膝まである長靴。そして、鋭く尖ったレイピア。背中には弓矢をかけている。
「君は、エルフ?」
「初めまして。僕はエルフ戦士、エドワードです」
「ありがとう。助けてくれて」
「聞きましたよ。君は春萌ゆる木々の詩を手に入れる旅をしているんだってね」
「ええ。王から頼まれたものだから」
「僕も協力しますよ。この国に活気を与えるために、役に立ちたいんです」
「本当に? いやあ、君のような人が一緒にいてくれれば、心強い」
 こうして、トトはエドワードという強力な味方を手に入れた。
 
 草原を進み、灼熱の砂漠を過ぎ、峻険な山を超えて、とうとう、水平線の向こうに、うっすらと島国の姿が見えた。
「あれが、目的の島。ジャパングだな」
 とトトは感動した。
「船で渡るしかないようだね」
 とエルフは言った。
 砂浜に降り、船がないか探したが、そう都合よく見つかるはずもなかった。
 と、そこに、
「おめえさんたち、何してるだよ」
 と背の低いドワーフのおじさんが丘の上から声をかけて来た。
「船が必要なんです」
 とエドワードが言った。
「おお、ちょっとそこで待っとるがいいぞ」
 とドワーフは言って、斧で大木を切り倒し、器用に丸木舟を作った。
 それを軽々と運びながら坂道を降りて来て、砂浜を歩いて、大きな丸木舟を「よっこらせ」と浅瀬に浮かべた。
「うわあ、すごい、あっという間に舟が出来た」
 エドワードが感激した。
「いくらで譲ってもらえますか」
 とトトが尋ねると、
「いやあ、ちょうど俺も、商売のためにあの島に渡るところだったんだ。ついでにおめえさんたちも乗せてやるよ」
 とドワーフは気前が良かった。
 そして、穏やかな風の中を、3人を乗せた丸木舟は進み、とうとうジャパングに到達した。
 
「実は、僕たちは、春萌ゆる木々の詩を探しているんです」
 とトトがドワーフに言うと、
「何と。それは素晴らしい。実はこのわしも、全く無学なんだが、その本だけはどうしても読んでみたかった。わしも協力するぞ」
 とドワーフが興奮気味に言った。
 こうして、ドワーフが仲間に加わった。彼の名前を聞くと、「わしはマッケンジーという名前で、この辺のドワーフ族の族長を任されている」と言った。

 3人は夏の暑い陽射しの中、深い森に入った。森の中は、背の高い木々が陽射しを遮断して、それから、何か神秘的な雰囲気に包まれていて、それが森全体を涼しげにしていた。
 しばらく歩くと、小さな湖の前に出た。
 そして、どこからともなく美しい竪琴の音色と、それに合わせて歌う女性の声が聞こえて来た。
 その声のする方に進むと、想像した通りの若い美女が、その彫刻のように均整の取れた肉体を白く輝くキトンで包み、湖畔の切り株に腰を下ろし、細くしなやかな指で弦を軽やかに弾きながら、夢見るような調べを歌っているのだった。
「あのう、すみません」
 とトトが声をかけた。女性は、演奏を止め、笑顔で3人を見上げた。
「何でしょうか?」
「私たちは、春萌ゆる木々の詩を探しているのですが」
 とトトが尋ねると、女性はにっこり微笑んで、
「私が今歌っていた曲が、まさにそれです」
 と言った。
 3人は驚いて、思わず、えっと声を上げてしまった。
「本当ですか? 実は、私たちはその本を手に入れて、国の民を元気づけようと思って、長い旅をしてここまでたどり着いたのです」
「では、私が歌って差し上げますから、それを覚えてくださいな。3番まであります」
 と女性は言って、演奏を始めた。
 3人は、それを聞いているだけで、心が慰められ、励まされ、不思議な力が湧いて来た。
 しかし、演奏が終わった時、ほとんど覚えていなかった。結構、長い曲だったのだ。
「あの、もう一度聞かせていただけるでしょうか?」
 とトトが頼んだ。
「いいですよ」
 と女性は快くうなずいた。
 演奏が始まる前に、3人は作戦を立てた。
 マッケンジーが他の2人と肩を組んで、彼らの顔を自分に引き寄せ、
「一人で全部を覚えるのは大変だ。トト、お前が一番を暗記しろ、エルフ、お前が2番、わしが3番を記憶する」
 という作戦を立てた。
 女性が歌い始めた。3人はそれを聞いて、また夢心地になったが、同時にそれをしっかり頭に叩きこむことも忘れなかった。
 3人は二度目の演奏の方がますます深い感動を覚え、気が付けば3人とも涙を流していた。
「素晴らしい!」
 と3人は拍手喝采の嵐。
「ありがとうございます」
 と女性。
「どうだ、お前たち、覚えたか?」
 とマッケンジーが確認すると、二人は自信を持ってうなずいた。
「そうか。いいぞ。俺もしっかり覚えた。忘れられるもんか、こんな素晴らしい詩」
 と彼は、感極まった。

 3人は島を後にし、母国へ帰還した。
 3人は王宮に入り、それぞれが暗記した部分を王に、歌って聞かせた。傍らに控えている10人の書記がそれをしっかりとパピルスに記録した。
 王は感動し、滝のような涙を流した。
「王が泣いた。あの王が。百戦錬磨のライオン王と呼ばれたあの強い王が、初めて人々の前で涙を流した」
 と役人や貴族たちの間で話題になるくらいに、王は感涙にむせんだのであった。
「素晴らしい! よくやったぞ、トト、それから、協力者たちよ。お前たちには存分に褒美を取らせよう」
 そうして、3人は莫大な財宝を手にしたが、それまでの生活とほとんど変わらない生活を続けた。
 トトはカモジュース農家として果物の収穫に励み、マッケンジーは樵の仕事に戻り、エルフは森での狩猟生活に戻った。
 それから、数年後、偶然村の酒場で再開した3人は、話し合い、それぞれが王からいただいた財宝を用いて、文学と音楽を振興するための学校を設立した。そうして、この国ではますます文学と音楽がさかんになった。
 蛮族さえも、春萌ゆる木々の詩を聞くと、戦意を喪失した。これほど素晴らしい歌を奏でる国家を攻撃し、破壊し、侵略するよりも、むしろ軍門に降って、多くの優れた文化を学びたいという気持ちにさせられたのだった。
 帝国と蛮族の間に和平条約が結ばれた。圧倒的に帝国側有利な内容だった。文学と音楽が帝国を救ったのだ。
 王は、吟遊詩人や、国立音楽学校の教師や生徒たちを全国各地に派遣し、国の隅々にまで、この名曲を響き渡らせた。国民は、朝と昼と夜、この歌を心を込めて歌った。
 文学教と音楽教がこの国の二大宗教となった。それでいて、その二つの教えは互いに争うことなく融和して、この国を動かす一組の車輪となってこの国の偉大な歴史を前進させた。
 それまで気力を失っていた国民たちは、俄かに夢と希望を取り戻した。彼らのみなぎる自信が30年に渡る前代未聞の長期に渡る経済成長を成し遂げた。国民は皆豊になり、それでいて平等な社会が実現した。
 ある人は「歌が世界を救う」と言い、ある人は「文学が世界を救う」とも言った。
 それ以来、この国では、歌と文学が国家運営の基礎に据えられた。
 中央官庁に文学省と音楽省を新たに設置し、全ての省庁の中で最高の権威が与えられ、経済や軍事を扱う省よりも高い格を与えられた。時には、王と同等の権力を与えられることさえあった。
 こうして、人々は、文学と音楽の力で、新たな生命を授かった。
 ある哲学者はこう言ったと言う。
『人間は二度生まれる。
 一度目は精神の器たる肉体として。
 そして、二度目は、文学と音楽を理解する高貴な存在として』

春萌ゆる木々の詩

執筆の狙い

作者 古代ローマ
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文学は私に生きる力を与えてくれました。そして、音楽は心の傷を癒してくれました。
それらの素晴らしさを伝えたくて、この物語を書きました。

コメント

茅場義彦
M106072175192.v4.enabler.ne.jp

最初のほうよかったのに途中で微苦笑してもうた

椎名
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

とりあえずジャンルを決めてみてはいかがでしょうか。純文学、大衆文学、ライトノベルとありますが。それらのジャンルの本を読み、それと似たような物語を書いた方がいいと思います。どのジャンルでも場面は大体現代です。とりあえず読者が読んでおもしろさを感じるものを書いてみるのはどうでしょう。

古代ローマ
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>茅場義彦様

文学への感謝の気持ちを表現できればいいなと思いながら書きました。

古代ローマ
p1435003-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>椎名様

今回はファンタジーというジャンルでした。
場面は現代ではなく、架空の世界ですね。

ぷーでる
45.92.32.11

今回はファンタジーというジャンルでした。
場面は現代ではなく、架空の世界ですね。

< なんだか、イメージがよく分からない話でした。ファンタジーは、想像の話なので描写がうまくいかないと読者はついていけません。ファンタジーというより、加茂さんの妄想私小説って感じです。

ファンタジーモノは、難しいと思います。単に語るだけでは、意味のない夢世界をしゃべっているだけで
聞いている方が疲れてしまう様な感じです。

古代ローマ
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>ぷーでる様

>ファンタジーモノは、難しいと思います。単に語るだけでは、意味のない夢世界をしゃべっているだけで
>聞いている方が疲れてしまう様な感じです。

私は、ファンタジーの世界に憧れがあったので、
何となくファンタジーっぽいものを書いてみたくて、
ジャンルとしてファンタジーっぽいものを書ければ、それで満足というところがあったと思います。
次に書く時は、
もっと、読者をぐいぐい引っ張り込めるような、
魅力的な設定と描写で壮大なファンタジー世界を描けるように、努力したいと思います。

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