作家でごはん!鍛練場
夢咲香織

酸素カフェ

酸素カフェ
●序章

 俺は喫茶店の店長である。四十二歳になるが、嫁さんはいない。従って子供もいない。このメガシティ東京では今時珍しくもない。喫茶店経営はボチボチ。長年の少子高齢化の影響か、常連客の年齢は高めだ。まあ俺だって出生率の低下に一役かっているわけだから文句は言うまい。

「店長~。何ブツブツ言ってるんですか? もう閉店の時間なんですけど」

 大川奈々《おおかわなな》の不服そうな声で我に帰った。彼女はうちでアルバイトをしている。少々口煩いが、きびきびとよく働く。最近は人手不足の解消と人件費削減のため、こういった仕事はアンドロイドを使うことが多い。だが俺には縁の無い話だ。

「よし、閉めるか。客もいないしな」

 今日の客入りは芳しくなかった。いつものことではある。俺は溜め息をついて、マンションの部屋の鍵を開けた。コンビニで買った弁当を電子レンジに放り込み、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、リビングに向かった。ソファーに腰を降ろして、テレビのスイッチをオンにする。ニュース映像が映っていた。首都高速で起きた玉突き事故だの、医療ミスによる訴訟だの、相変わらずだ。ビールを飲みながらレンジの弁当を取りに行き、戻ってくると「今日のトピックス」をやっていた。

 なんでも最近は新しいタイプのアンドロイドが出回っていて、そいつは植物の様に光合成でエネルギーを作り出して活動するらしい。昼間蓄えたエネルギーで夜間も活動出来る。太陽光と水と二酸化炭素さえ有れば活動出来るので、エネルギー補給の要らない新型アンドロイドとして期待されていた。

 だが問題が起きた。彼等は出荷前の工場で労働プログラムを注入されて出荷される。最初の内は良く働く。だがしばらくすると働かなくなる。彼等は自力でエネルギーを生み出せるため、そもそも労働して糧を得るという発想が無い。だから労働プログラムを注入する訳だが、ある時働く必要なんて無いのではないかということに気付くというのだ。そして持ち主の元から逃げる。回収してプログラムを再注入しても、やはり同じ道を辿るという。街では浮浪化した野良アンドロイドを見かける事もあるらしい。なんともおかしな世の中だ。

 その夜は珍しく夢を見た。夢の中で、俺は森の中に居た。名前は知らないが様々な植物が辺り一面に生い茂り、俺は驚きと共に深い安堵の中に居た。

「まだこんな森が残っていたのか」

と呟いたところで目が覚めた。



●出会い

 明くる日の客入りはまあまあだった。夕方になって常連客の安達君枝《あだちきみえ》がやって来た。

「もう、参っちゃうわよ」

そう言いながらドアを開けて入って来た。君枝は美容師である。旦那と二人で小さな美容室をやっていた。いつも夕方の休憩時間になるとコーヒーを飲みに来る。小柄だが目鼻立ちの派手な中々の美人だ。歳は五十歳位か。若い頃はもっと綺麗だっただろう。娘が一人いる。

「どうしたんですか」

「うちの娘の子供の髪の毛が伸びていたから、切ってあげようかって言ったら、『お母さんは下手くそだから嫌。もっとちゃんとした美容院で切ってもらうわ』って言うのよ。失礼しちゃうわ。せっかく綺麗にしてあげようと思ったのに。あ、ブレンドコーヒーお願いね」

「かしこまりました」

 君枝はカウンター席に腰を降ろし、ふうっと一息ついた。俺は何と答えて良いか少し考えて、当たり障りの無いことを言った。

「まあ、お嬢さんにはお嬢さんの考えがあるんじゃないですか?」

「そうかしらね。でも母親が美容師なのにそれを利用しないなんてねえ」

「そうですね。はい、ブレンドコーヒー」

娘がいるというのは一体どんな気持ちなのか。俺には想像も付かないことだった。

 夜、店を閉めてから憂さ晴らしに新宿まで歩いてみることにした。商店街の自販機でビールを買い、チビチビ飲みながら歩く。夏の蒸し暑い空気で、辺りが歪んで見えた。

 甲州街道に出れば新宿まで一本道だ。途中で仕事帰りのサラリーマンやOLとすれ違ったが、皆疲れ果てて覇気の無い顔をしていた。多分俺もそんな顔をしているのだろう。店に居るときは客に疲れた顔を見せる訳にはいかないため、仕事が終わると一日の疲労が一気に吹き出す様な気がする。たまには歩くのも良いだろう。空を見上げてみたが、どんよりと重たい空に星は見えなかった。

 新宿に到着し、さてどうしたものか、と街を彷徨《うろつ》いた。目的も無くネオンの輝く街をそぞろ歩くのが妙に心地よい。新宿御苑まで来るとネオンの明かりも途絶え、辺りは薄暗かった。唯一向かいのコンビニだけが青白い光を放っている。

 その光の陰に踞《うずくま》る人影があった。若い女の様だ。膝を抱えて座り込み、長い黒髪の頭を垂れていた。顔は見えない。レモンイエローのキャミソールにジーンズを履いている。俺はしばらく女を眺めていたが、一応コンビニの店員に告げておこうかと店内に入った。

「外で若い女が座り込んでいるんですけど」

「ああ、アイツね。うちで使ってたアンドロイドなんだけど、働かなくなっちゃってね。一度メーカーに出したんだけど、しばらくするとまた駄目になってさ。故障品だよ。もう保証期間も過ぎてるし廃棄する予定さ」

廃棄……。故障品を捨てる、至極真っ当である。あるのだが――

「店長は居るかな? 差し支えなければ、表のアンドロイド、俺が貰いたいんだけど」

咄嗟にそう答えていた。店員は表情を変えずに

「少々お待ち下さい」

と、電話をかけた。

「どうぞ」

と俺に端末を渡す。

「はい。私が店長ですが、何の御用でしょう?」

「表に置いてあるアンドロイドなんですけど、捨てるなら俺が貰っても良いかな?」

「ああ、構いませんよ。廃棄費用を払わなくて良いし、むしろ助かるよ」

「有り難う」


 俺は店を出てアンドロイドの横にしゃがみこんだ。

「おい、大丈夫か?俺の言ってる事が分かるか?」

彼女は顔を上げて薄茶色の大きな目でまじまじと俺の顔を見つめた。女と言うより少女と言った方が良かった。白い肌が窓から漏れる電灯の青白い光を反射して、なお一層白く輝いて見えた。例の最新型アンドロイドに違いなかった。

「貴方は?」

「うん、今店の人と話したんだけどな、お前が廃棄処分になるっていうんで、俺が引き取る事にした」

「そう」

そう言ったきり、彼女ははまたうつむいた。

「名前くらいあるんだろう?」

「……ハナ」

「ハナちゃんか。俺は幸助《こうすけ》。よろしくな。じゃあ行こうか」

ハナはゆるゆると立ち上がり、俺の後に続いた。

 リビングは気まずい空気で満ちていた。俺達は無言でソファーに座っていた。ハナを拾ったは良いものの、さりとてどうして良いやら分からなかった。ハナはアンドロイドだが、最新型だけあって驚くほど人間に似ていた。

「何か飲むか?コーヒーなら腐るほど有るぞ」

「水で良いです」

「水ね」

 俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いだ。ついでに自分用にコーヒーを入れる。コーヒーメーカーにグァテマラ産の粉を入れると、キッチンに芳ばしい香りが充満した。グラスを持ってリビングに行き、テーブルの上に置く。

「どうぞ」

「ありがとう。頂きます」

「お前は光合成するんだろ? 水を飲むだけで良いのか?」

「飲むか、お風呂に浸かるかして水分補給します。後は昼間陽に当たっていれば大丈夫です」

「ふーん。じゃあ取り敢えず風呂にでも入れ」


 ハナが風呂に入っている間に俺はコーヒーを飲みながら、どうしたものかと目を宙に泳がせた。ふと、部屋に飾ってある観葉植物に目が止まった。これだ。

「幸助さん」

ハナが素っ裸で立っていた。全身びしょ濡れで。

「おいっ!何やってるんだ」

「バスタオルが無かったので」

「あ、ああ、悪かった。忘れていたよ。待ってろ」

 細身の若々しいしなやかな身体を見て、俺の心臓は高鳴った。年甲斐もなくどぎまぎする心を気取られないようにして、バスタオルを渡した。何故焦る必要があるのか?相手はアンドロイド、機械ではないか。だがそれでも

「タオルを出し忘れたのは悪かったが、若い娘が裸を晒すのは良くない」

と諭すように言った。ハナはキョトンとビー玉のような目を丸くした。

「何故です?」

「何故でもだ。人間の社会のお約束だ」

「私人間じゃありませんよ」

何と答えれば良いのか。誰か知っていたら教えて欲しい。

「とにかく、俺の前で裸になるな」

「分かりました」


●準備

 朝。ベランダで日光浴をしているハナを尻目に、俺は奈々に電話をかけた。

「もしもし? 大川です」

「ああ、相沢《あいざわ》です。店を改装するんで、しばらく休業するから」

「ええー! 何ですか、突然。お給料どうなるんです?」

「心配するな。ちゃんと払うよ」

「なら良いですけど」

「まあ、細かいことは後で説明するよ」



 俺は横川建築事務所に居た。今の店をオープンするときに世話になった所だ。革張りのレトロなソファーに座り、出されたお茶を一口飲んだ。

「改装ですか?」

担当の松居《まつい》は笑顔でそう聞いた。

「そうなんだ。内装のイメチェンを図りたい」

「で、どういうイメージなんです?」

「自然の中で客が森林浴してるような感じで」

「分かりました。御予算はどのくらいでしょうか?」

「二百万位で頼むよ」

松居は液晶カタログを差して、

「内壁にスクリーンパネルを使えば、簡単に雰囲気を変えられますよ。例えばこんなものがございます」

と幾つかの参考映像を見せた。

「ああ、これなら良いかな。近日中に頼む」

「かしこまりました」


 一週間後。俺は新しくなった店内を見回した。壁一面に張り巡らされた電子スクリーン。そこには森林の映像が映っていた。俺には木々の名前など知る由も無かったが、あたかも自分が広大な森の中に佇んでいるかの様で、圧倒された。

「素敵ですね」

奈々が感心したように呟いた。

「アロマディフューザーで森の香りが漂うようにしたらどうですか?」

「いや、コーヒーの香りが分からなくなるからそれは駄目だ」

「で、その娘は何なんです?」

しげしげとハナを見つめる。なにしろハナは最新型なのだ。一見生身の人間と区別が付かない。

「うん。新しくうちで雇うことになったハナだ」

「ハナです。宜しくお願いします」

ハナは行儀良くお辞儀をした。いっそ機械的と言って良い。

「最新型のアンドロイドだよ」

「ついにうちでもアンドロイド導入ですか。それじゃあ、私も少し楽になるんですね」

奈々は嬉しそうに笑った。

「ハナは仕事はしないよ」

「どうしてです?何のためのアンドロイドなんですか」

「うん、ハナは植物の様に二酸化炭素を吸って酸素を出す。今日からうちは『酸素カフェ』になるのさ。表に看板出てただろ?」

「ウーン。なんかしっくりきませんけど。働かないアンドロイドに何か意味ってあるんですか?じゃあ、私の仕事は?」

「今まで通り頼むよ」

「……はい」

がっくりうなだれて、奈々はテーブルと椅子を並べ始めた。

「いらっしゃいませ」

昼過ぎ、一人の老人が入店してきた。痩せ細り、足元も頼りなかった。骸骨の様な顔で、しかし表情は明るかった。

「酸素カフェちゅうのはここかね? ネットの広告見たんだわ」

「そうですよ。お客様に癒しとコーヒーを提供するカフェです」

「うん、そりゃ良い。わたしゃ癌でね。肺癌さね。都会の大気汚染と酸素不足のせいじゃ思うとる。こちらで一服させてもらえりゃ、癌にも効くのと違うかね」

そう言って老人はカッカッカッと笑った。

「わしゃウィンナーコーヒーな」

「かしこまりました」

老人は窓際の席に腰を降ろし、時々チラチラとハナの方へ目をやった。ハナは店内をぼーっと彷徨いていたが、老人の視線に気が付き、

「なんでしょう?」

と答えた。

「うん、その、あんたは人間かね?」

「新型アンドロイドのハナです」

「何もせんのかね」

「お客様に酸素を提供します」

にっこり微笑むハナ。だがその笑いは機械的だった。もっとも、俺だって営業スマイルをしたりするのだから、大した違いは無いのかも知れないが。

「ウィンナーコーヒーお待たせしました」

奈々が割って入った。

「有り難う。まあ、可愛いしええかのう」

「可愛いって何ですか?」

「ふむ………。おおい、何と説明したらええのかの!」

老人は俺に向かって叫んだ。俺にもどう説明して良いのやら分からなかった。俺は大袈裟に肩を竦めてみせた。

夕方になり、君枝がやって来た。

「こんにちはー。あら?」

とハナを見て驚く。

「新型アンドロイドのハナだよ。酸素を提供してくれるんだ」

「新型アンドロイドって本当なの? まるで人間じゃないの」

そう言って君枝はハナに近付き、文字通り頭のてっぺんから足の爪先まで食い入るように眺めた。

「この子が酸素を提供してくれるわけね? 良いと思うけど、何か物足りないわね」

「そうですか?」

「そうよ。大体若い女の子なんだからもっと顔に見合った可愛らしい服装にすべきよ。もっとこう――森の妖精の様なイメージで。髪もこの子はショートカットの方が似合うわ」

成る程、言われてみればそうかもしれない。女性の意見というのは貴重である。

「君枝さん、良かったらこの子の髪を切ってやってくれないかな?」

君枝は待ってましたとばかり顔を明るくして、

「もちろん良いわよ!可愛くしてあげる」

と張り切った。

「良いご身分よねー、ハナは。私なんか毎日一生懸命働いているのに、そんな事言われたことも無いですよ」

奈々が不服そうに鼻をならした。

「あら、なんならついでに奈々ちゃんの髪もセットしてあげるわよ?」

「……いいです。私は別に」

いつものブレンドコーヒーを飲み終わると、君枝はハナを連れて出ていった。


「どうかしら?」

髪を切ってすっかり別人の様になったハナを連れて、君枝は戻って来た。髪を短くしたことで愛らしい顔立ちがすっきりして、大きな目がより強調される。確かにショートカットの方が似合う。

「じゃあ、明日は衣装を買いに行くか。奈々、明日の午前中は留守にするから頼むよ」

「はいはい。分かりましたよ」


●酸素カフェ

 午前中から原宿は暑かった。駅前はカラフルなファッションに身を包んだ若者達でごった返している。人混みを掻き分けるようにして、俺はハナを連れてコスプレ衣装を取り扱っている店へと歩き出した。

若い女性――アンドロイドだが――と連れだって歩くなど何十年振りだろうか。俺は高揚した気分と恥ずかしさが入り交じった複雑な気持ちで横断歩道を渡った。ハナはどんな気持ちでいるのだろうか、とチラと横目で見ると、子犬のようにキョロキョロと辺りを見回しながらあるいていた。

「面白いか?」

と尋ねると

「はい。私原宿に来るの初めてです」

と、目をキラキラさせていた。

 ショップに入ると、パステルカラーの色の洪水が俺を襲った。若い女性向きの、しかもコスプレ衣装を選ぶなど初めての体験だった。軽く目眩を覚えたが、

「森の妖精だったな」

と、イメージに近い服を物色する。

「よし、ハナ。これを試着してみろ」

店員に頼んでハナを試着室へ送り込んだ。

「どうですか?」

試着室から出てきたハナを見て、俺は溜め息を付いた。ライトグリーンのティンカーベル風ワンピース。可憐で、かつ爽やかである。背中に羽が付いていた。

「うん。ぴったりだな。よし、合わせて靴も買うか。普段着も幾つか買っていこう」


俺はハナにはどんな服が似合うだろうか、とあれこれ想像した。そして自分でも意外だったが、それは楽しいものだった。娘が居るというのは、こんな気持ちなのかもしれない。


 翌朝、スタッフルームで着替えたハナを見て、奈々は

「わあ、可愛い。まさしく森の妖精って感じ」

と、息を弾ませた。

「これで店のイメージは固まったな。よし、店を開けるか」


 開店してすぐに、あの肺癌の老人がやって来た。柴犬を連れている。

「お客様、当店では犬はちょっと……」

「うん、分かっておるよ。散歩の途中で寄ったんじゃ。五郎は外に繋いでおくよ」

老人は窓際の席に座り、

「わしゃウィンナーコーヒーな」

とオーダーした。ハナをにこにこと目で追う。

「ティンカーベルじゃな」

ウィンナーコーヒーを運んできた奈々に呟いた。暫くすると、外で

「フィーン、フィーン」

と犬の鳴き声がする。どうやら待たされているのに飽きたようだ。ハナは

「犬」

と言いながら外へ飛び出した。俺は慌てて後を追った。

「犬」

と言いながらハナは哀れな五郎の耳を横に目一杯引っ張った。五郎はイヤイヤをするように首を振る。

「駄目だろ、そんな風に扱っちゃ」

俺はハナを五郎から引き離した。

「犬が好きなのかね?」

振り向くと老人が背後に立っていた。ハナは答えない。

「いや、多分大人しくさせようとしたんですよ」

「可愛い、分かりました。五郎は可愛い」

「そうかね。お嬢さん、わしゃ小林泰造《こばやしたいぞう》ちゅうんじゃ。五郎と遊びたかったらいつでも言いなさい。連れてくるよ」

そう言って泰造は笑った。


 夕方になり、大学生とおぼしき数人の青年達が入店してきた。見るからに軽薄そうな若者達だった。青年達はしばらく雑談しながらコーヒーを飲んでいたが、やおら一人が席を立ってハナに近付いた。

「やあ、君、可愛いね? 名前は何て言うの?」

「ハナです」

「ふーん。ハナちゃんか。君さあ、仕事が終わったら、俺達と遊びに行かないか?」

「遊び?」

「おい、お前何やってるんだよ。そいつはアンドロイドだぞ?」

もう一人が大声て囃し立てる。

「別にアンドロイドだって良いじゃないか。可愛いし」

「だって、アンドロイドとじゃ……出来ないぞ?」


 俺はカウンターの中からやり取りを黙って見ていたが、腹の底からムクムクと怒りが沸き上がって来るのを感じた。家の大事なハナに何してくれるつもりだ? 俺はカウンターを出て若者へ近付くと、相手を睨み付けて出来るだけ怖そうな声色で言った。

「おい、小僧共。家の大事な従業員に妙な真似してもらっちゃ困るぜ。なんなら、営業妨害って事で警察呼んでも良いんだがな?」

こう言っちゃ難だが、俺は顔の怖さには自信があるのだ。

俺の顔を見た青年はすっかり萎縮して、

「い、いえ……それは……」

と口ごもった。

「大人しくコーヒー飲んだら、さっさとお家に帰りな、坊や」

「……はい」

俺は満足してカウンターへ戻った。全く、今時の若者と来たらちょっと可愛い娘を見るとナンパする事しか思い付かないのか? 見たところ大学生だろうに、最高学府に所属する奴等でさえこうなのか? 嘆かわしい事である。俺はチラリとハナを見た。ハナには、何が起きたのか良く分からない様である。キョトンとビー玉の様な目を丸くして、ボーッと突っ立っていた。俺はハナに向かって叫んだ。

「ハナ! ああいう客の要求は毅然と突っぱねるんだぞ!」

「ああいう要求って?」

「ナンパだ」

「ナンパって何ですか?」

「女を誘惑してアレコレいけないことをしようとする事だよ」

「いけない事? って?」

俺は頭を抱えた。アンドロイド相手に何と説明すれば良いのか?

「まあ、最終目的はセックスさ」

「私、生殖機能付いてませんよ」

ウッ。それは分かっている。分かっているのだが――

「とにかく、ああいうのは断るんだ!」

「分かりました」

俺は大きく息を吸って吐き出した。まあ、断ってくれさえすれば良いのだ。ハナはアンドロイドだが、見た目は可愛らしい若い娘である。これからもきっとこういう事はあるのだろう。そう思うと、俺は気が気では無かった。


●休日

 休日、朝から俺は女性用の服を床に並べてあれこれ悩んでいた。今日はハナを水族館へ連れて行くのだ。いわば、ちょっとしたデートである。どうせ行くならお洒落させてやりたい。君枝の言った通り、ハナはアンドロイドとは言え若い娘なのだから。俺はハナを姿見の前に立たせて、洋服を次々にハナの身体の前に合わせた。白いドルマンスリーブのブラウスにベージュのタイトスカート。よし、これが良い。中々淑やかでちょっとしたレディーに見える。


 ハナを着替えさせると、俺達は部屋を出た。電車に揺られながら、タブレットで水族館の位置を確認する。

「水族館って、どんな所ですか?」

ハナがタブレットを覗き込みながら訊いた。

「沢山の海洋生物を収容して、客に展示する施設さ」

「何の為にそんな事するんです?」

「何の為って、そりゃあ……まあ、楽しむためだな。普通に街で生活していたら、そういった生物にお目にかかる事は無いだろう? 田舎でも、昔は川や海に結構な数の生き物が居たが、今では少なくなったしな」

「何故少なくなったんです?」

「文明が発達して、自然破壊が進んだからさ。このタブレットだって、作るためには大きな工場が必要になる。街にはもう土地は余っていないから、田舎の自然を破壊して工場を作らなきゃならないだろう? そんなふうにして、地球のあちこちで自然破壊が進んだのさ。だが人間は、やはり動物の一種だからな。本能的に美しい自然や生物に囲まれたい、と欲するものさ。水族館だの動物園ていうのは、その欲求を満たすために作られたのさ。他にも、生物の保存や、博物学的な理由もあるがな」

「ふーん。幸助さんが動物の一種なのは分かるとして、私はアンドロイドなんですけど、その私を水族館へ連れていく訳は?」

アンドロイドを水族館へ連れていく訳だって? 俺はそんな事は考えて居なかった。

「別に……ただの気晴らしさ。お前にだって、何か楽しみが必要だと思っただけさ」

「そうですか……」

ハナはそう言って俯いた。

「嫌なのか?」

「いいえ、ちょっと楽しみです」

「なら良かった」


 電車を乗り継いで、俺達は都内の巨大な水族館に到着した。白亜の迫力ある建物の入り口には、既に大勢の客が押し寄せていた。俺は列に並び、チケットを二枚買うと、ハナを連れて中へと進んだ。最初のコーナーは、近海の海の様子を再現した展示だった。いそぎんちゃくやら、ヒトデやら、今となっては貴重な磯の生物達がユーモラスな姿を晒している。このコーナーでは、水槽に手を入れて、生物を触る事が出来た。ハナは目を輝かせて、ヒトデを見つめると、おもむろに手を伸ばして触ってみる。ヒトデのざらざらした表面の感触ががハナの手に伝わって、ハナは驚いた声を上げた。

「これが海の生き物なんですね! 私、初めて見ました!」

興奮したハナは、何時もより沢山の酸素を頭から吹き出した。

「どうだ? 中々面白いだろう?」

「はい! 生き物って面白いです」

無邪気に微笑む姿を見て、俺はハナを連れてきて良かったと思った。二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す――それだけの生活では、ただの植物である。もちろんそれが悪いとは言わないが、アンドロイドだって何かを楽しんだり、感動したりしたって良い筈だ。はしゃぐハナを見ているうちに、俺は段々とハナを普通の人間の娘であるかの様に思い始めていた。最も、感情面に於いては、ハナは見かけの歳より随分と幼かったが、工場から出荷されて数年分の経験しかないのだから仕方がない。しかも、その数年間はコンビニ店員として、ただ労働するだけの物である。そう思うと俺はハナが不憫になり、出来る限り、年頃の娘と同じ様な経験をさせてやりたいと思うのだった。


 二階のフロアには巨大な円柱状の大水槽が設定されており、周囲をぐるりと回って見れる様になっていた。水槽には巨体のジンベイザメを初め、様々な熱帯の魚達が泳いでいる。ハナは水槽に手を当ててベッタリ張り付き、上を見上げてジンベイザメを目で追っていた。

「地球には、こんなに凄い生き物が居たのね!」

ハナの興奮は絶頂だった。

「気に入ったか?」

「ええ。水族館て最高! 生き物って凄いわ!」

俺は満足だった。こうしてハナの嬉しそうな様子を見ていると、俺まで幸せな気持ちに包まれていく様だった。俺には子供は居ないが、まるで本当の娘を持った父親の気分を味わっていた。そしてそれは、とても充足感のある物だった。世の中には、子供の居ない夫婦が、代理としてアンドロイドを求める事があるが、今まで俺は、そんな事はただのまやかしだと思っていたのだった。考えを改めなくてはならない様である。アンドロイドだって十分子供の代わりになる――俺は新たな発見に興奮していた。


●異変

 それからの酸素カフェは、物珍しさもあってか中々繁盛した。特に、森の妖精、ハナを目当てに訪れる客が増えた。ハナは特別何をする訳でも無かったが、その愛らしい姿と、殺伐とした都会にあって、新鮮な酸素を供給してくれるという希少さが人気を呼んだのだった。店内に張られた電子スクリーンが再現する森は訪れた客の心を癒し、酸素カフェは文字通り都会のオアシスとして、その名を馳せていった。


 ある日の休日、ハナは五郎に会いたがった。俺は泰造からもらった番号に電話した。

「もしもし? 泰造さんですか? 実はハナが五郎に会いたがっていて――ええ、どうやら散歩に連れて行きたい様なんです」

「ホホホ。そういう事ですか。ええですよ。家は酸素カフェの結構近くじゃし、来てもらえれば五郎を預けますがな。住所は――」

泰造から住所を聞いた俺は、紙にメモした。

「ありがとうございます。じゃ、早速ハナを行かせますんで、よろしく」

俺は電話を切ると、ハナに住所を渡し、

「ハナ、これが泰造さん家の住所だ。行けば五郎を貸してくれるとさ。一人で行けるか?」

ハナは住所の書かれた紙を見ると、

「ええ。分かるわ」

と笑顔で答えた。

「よし、じゃあ行ってこい。気を付けてな」

俺はその時、特に心配もせずにハナを送り出したのだった。


 昼過ぎになっても、ハナは帰って来なかった。心配になった俺は泰造に電話した。

「もしもし? ハナは戻って来ましたか?」

「ああ、随分前に戻って来て、五郎を返したあと出て行ったよ。帰って無いのかね?」

「ええ、まだ家には帰って無いんです」

「おかしいのう……迷子にでもなったかね?」

「多分……。分かりました。俺、ちょっと探しに行ってきますよ」

「そうかね。まあ、大丈夫だとは思うが、何かあったら連絡しなさい。協力するでな」

「ありがとうございます」

俺はマンションの外へ出た。だが、何処をどう探して良いのやら、皆目見当が付かなかった。取り敢えず、泰造の家と我が家を中心に半径五百メートル位の範囲をくまなく探してみる事にした。


 散々近所を歩き回り、日も傾きかけた頃、俺はとある墓地の中にハナを見付けた。

「ハナ! こんな所で何やってるんだ? 心配したんだぞ!」

ハナはそれまでボーッと突っ立っていたが、俺の声を聞くとハッと我に返り、

「幸助さん」

と言って俺の顔をマジマジと見た。

「私……どうしたのかしら?」

「まあ無事ならそれで良いさ。帰るぞ」

「うん」

俺はハナを連れて家路へ着いた。夏の夕陽が赤々と西の空を照らして、ビルの輪郭を浮き立たせていた。


 夜、ハナはキッチンへやって来ると、おもむろに冷蔵庫の扉を開けた。中を物色する。

「おい、何やってるんだ?」

「今日は私が御飯を作るわ」

「飯って、お前、料理なんか出来たのか?」

「大丈夫よ。任せておいて」

ハナはそう言って笑うと、てきぱきと食材をカウンターに並べて料理を始める。食材を洗う手つきといい、包丁でニラを刻む手際といい、中々手慣れた物だった。俺は正直驚くと共に、少々いぶかしんだ。ハナは単純労働用のアンドロイドだった筈である。コンビニ店員として必要な労働プログラム以外はインストールされていなかった筈だ。それが、急にこんなに上手に料理を始めるとは、何だか少しおかしくないか? だが、俺の疑問を他所に、ハナは手際よく豚バラ入り焼き飯と味噌汁を作り上げた。


「出来たわ! 頂きましょうか」

「お、おう……」

結局俺は小さな疑問を胸にしまったまま、晩飯を食べ始めた。

「どう? 美味しい?」

明らかに期待の篭った目でハナが訊く。

「うん。中々旨いぞ。特にこの豚バラの脂が焼き飯に絡んで、より旨味を引き出しているな」
正直な感想だった。これ程の出来映えなら、金を取ったって良い位である。旨い飯を食べているうちに、俺は先程感じたささやかな疑問はどうでも良くなっていた。理由が何であれ、こうしてハナが飯を作ってくれて、二人で仲良く晩飯を頂くというのは素敵な事に思えたからだ。まるで人間の娘か、嫁さんをもらった様で、俺は悪い気はしなかった。


 夕食が済み、風呂も済ませて寝室のベッドの上で寛いでいると、ハナが部屋へ入って来た。光合成アンドロイドであるハナは、普段はソファーに座って、システムをスリープモードにして休む。まあ、まだ何時もの休む時間よりは早いし、何か用でもあるのか? と思っていると、ハナはベッドへ上がり込んで、俺の肩に両手を掛けると、うるんだ瞳で俺を見つめて言った。

「ねえ……幸助さん、良い事しない?」

あたかも人間の若い娘が男を誘うかの様な媚を含んだ甘い眼差しと声色で、ハナは熱っぽく俺を誘うのだった。本物の若い娘なら、俺だって期待に応えるのにやぶさかでは無いのだが、見た目の可愛らしさに惑わされてはいけない。ハナはアンドロイドなのだ。

「良い事って……お前、生殖機能付いて無いだろう? どうやるんだ?」

俺の返事を聞くや否や、ハナはプイとそっぽを向き、俺の隣でこちらに背を向けて横になると、

「ふん! そうよね。どうせ私には性器は付いていないわよ! 製作者を呪ってやる!」

と吐き捨てた。


●墓地

 その日以来、ハナは俺への好意――というか、欲情を持ち続けた。夜になると必ず俺を誘い、そして不貞腐れる。化粧もするようになり、お洒落に気を配り始め、本当に年頃の娘の様になっていった。最初のうちは俺は単純に嬉しかった。とうとうこいつも、一人の女性として、開花し始めたのか、と思ったからである。その日の夜も、ハナは俺を誘い、夢叶わずふて寝していた。


「なあ、ハナ。お前が俺の事好きになってくれたのは嬉しいが、別にセックス出来なくても良いんじゃないか? そんなふうにふて寝されると、俺だってちょっと悲しいぜ」

俺は横でこちらに背を向けて寝ているハナにそう語りかけた。

「だって……」

ハナは小さく呟くと膝を抱える様にして身体を丸める。

「だって、夫婦っていうのはセックスして愛を確め合うものでしょう?」

「夫婦? お前、俺と結婚したいのか?でもお前は…… 」

俺はハナから飛び出た言葉に驚きを隠せなかった。アンドロイドだぞ、とは言えなかった。言えば更にハナを傷付ける。俺は何と声をかけるべきか、悩んでいた。ハナはゴロン、とこちらへ向き直ると、

「そうよ。私だって年頃だもの、好きな人と一緒になりたいのよ。それがそんなにいけない事かしら?」

ビー玉の様な目を円く見開いて、ハナは俺の顔をみつめた。涙を流せないアンドロイドの切ない目を見て、俺の心は激しく動揺した。これ程の悲しみがあるだろうか? 心は惹かれているのに、肉体がそれを不可能にする、こんな不幸が。


 だが、やはりおかしい。最初に会った頃のハナと余りに性格が違いすぎる。恋のなせる技と言われればそれまでだが、元々のハナはどこか人間離れした、透明な植物のような性格だった。感情面でも、もっと無邪気で純粋な子供の様だった筈だ。何時からだ? ハナがおかしくなったのは? 俺は記憶を辿った。そうだ、五郎を散歩に連れて行き、迷子になった、あの日からだ。あの日、ハナはどういう訳か墓地へ迷い込み、ボーッと墓石を眺めて突っ立っていたのだ。


 次の休日、俺は例の墓地へ行ってみた。家から歩いて十五分程の、こじんまりとした寺の墓地である。真夏の暑い日差しが墓石をジリジリと焼き、辺りは熱と湿度を含んだ重い空気で淀んでいた。俺は墓地を歩き回り、ハナが見つめていた墓石を探した。あった。黒い御影石の前面に、「石田家の墓」と彫ってある。側面へ回ると、石田敦《いしだあつし》、石田真知子《いしだまちこ》、石田京子《いしだきょうこ》の名前が目に付いた。一番若いのは石田京子である。彫ってある年代から計算するに、生きていれば今ニ十六歳である。十八の時に亡くなった様だ。今のハナの見かけの年齢と同じくらいである。俺はこの京子が、何か関係があるのではないかと見当を付けた。俺は寺へ上がり込み、住職に話を聞いてみる事にした。


「石田京子さんね……。ええ、存じておりますよ」

客間で俺に茶を勧めた住職は、そう話し始めた。張り替えたばかりと思われる畳の香りが部屋に立ち上って、俺の鼻孔をくすぐる。爽やかで安らかな香りだ。この香りを嗅いでいると、どんなに時代が進んでも、死者の魂というのはこういった安らぎを求めるのではないか? と思えてくる。

「どんな方だったんです? 何故若くして亡くなったんでしょうか?」

「石田家は代々家の檀家でしてね。あの墓は京子さんのお祖父さんが建てた物です」

「では、あそこに彫ってある名前は……」

「ええ、京子さんと、その御両親ですよ」

親子揃って若くして亡くなったという事か。何があったのだろうか?

「一体、何で亡くなったんですか?」

「事故ですよ。ある日、御両親と京子さんは車でドライブに出かけたのです。山の曲がりくねった道を走っている時に、対向車が猛スピードでカーブへ突っ込んで来ましてね、石田さんの車と衝突したのです。車は大破し、運転していたお父さんは即死、お母さんと京子さんは重症で、病院へ運ばれましたが亡くなりました……」

住職はそう言うとゆっくりとお茶を飲んだ。

「そうだったんですか……。京子さんの祖父母に会って話を伺ってみたいんですけど」

「何故話を聞きたいんです?」

「実は……」

俺は何と説明すべきか悩んだ。まさかアンドロイドの事で、とは言えなかった。

「私の娘の事で、ちょっと問題がありまして。調べた結果、どうも石田さんと関係がありそうなんです」

「そうですか……。よろしい、今住所を書きますよ」

住職はそう言って立ち上がると、紙とペンを持って戻り、石田家の住所を書いて俺に渡した。


●瓜二つ

 住職にもらった住所を頼りに、俺は石田家を探し出した。今時都内では珍しい伝統的な日本家屋の一軒家で、小さな庭には松の木やらツツジやらが綺麗に刈り揃えられて植えられている。日本情緒溢れる屋敷の玄関前で、俺は少し戸惑っていた。いきなり押しかけて、話を聞けるだろうか? だが結局俺は玄関の呼び鈴を鳴らした。


「はい?」

ガラガラと玄関の引き戸が開いて、上品そうな老婆が顔を出した。俺は何と言うべきか考えていた。

「あの……どちら様でしょう?」

老婆が戸惑い勝ちに声をかける。

「突然お訪ねして申し訳ありません。実は、京子さんの事を聞きたいんです」

「京子……。あの、あの子はもう……」

「ええ、寺の住職から亡くなっている事は聞いています」

「はあ、でも、何故京子の事が聞きたいんですか? 貴方は一体……」

怪しむのも無理は無い。俺は正直にこれまでの経緯を話した。

「そうですか……取り敢えず立ち話も難ですから、上がって下さい」

俺は居間へ通された。


「今お茶をお持ちしますから、楽になさって下さい」

老婆はそう言ってキッチンへ向かう。俺は座布団の上に正座したまま、部屋を見渡した。明るい板張りの壁から古い木の香りがした。畳には塵一つ落ちていない。きっとあの老婆が毎朝丁寧に掃除しているのであろう。

「お待たせしました」

老婆は盆に玉露を入れた茶碗を乗せてやって来た。優雅な手付きで俺の前に茶を置くと、向かいに正座した。

「京子の何について聞きたいんですか?」

老婆は静かな声で訊いた。

「何でも構いません。どんなお嬢さんでしたか?」

「そうねえ……明るくて、活発な娘でしたわ。水泳が得意で、良く近所の市民プールへ通っていました。料理が趣味でしてね、中々上手に作ったものです」

「料理……」

「ええ、中華でも、洋食でも、何でも作りましたよ」

俺はハナが張り切って料理を作り始めた日の事を思い出していた。やはり、京子と何か関係があるのだ……。それから老婆は京子についてのあれこれを語った。中々美人であった事、そのせいで男子からは結構モテていたが、彼氏は居なかった事、お洒落が好きで、綺麗な服には目が無かった事など。


 料理が好きだという事と、お洒落が好きだったという事以外に、俺は変化したハナとの共通点を見出だせなかった。やはり、思い過ごしだったのだろうか? 俺は少々落胆して、そろそろ引き上げるか、と思い始めた。そうだ、その前に――せっかく訪ねて来たのだ、せめて京子に焼香でも上げて帰ろう。

「ありがとうございました。あの、ご迷惑でなければ仏前にお参りさせて頂きたいのですが。
それでお暇《いとま》します」

「ええ、構いませんよ。こちらです」

俺は老婆に案内されるままに、仏間へと足を踏み入れた。何となく部屋を見回して、黒縁の遺影を見付け、そして絶句した。

「ハナ ――」

「はい?」

「い、いえ、何でもありません」

鐘を鳴らし、焼香しながら、俺は気が気では無かった。遺影の顔写真はハナそっくり、いや、ハナそのものだったからだ。焼香が終わり、立ち上がった俺は、念のために老婆に訊いてみた。

「あの写真の方が京子さんですか?」

老婆は遺影を見上げると、

「ええ」

とだけ言った。

「ありがとうございました」

俺は老婆に礼を言うと、足早に駅へと向かった。


 気もそぞろなまま、俺は電車に乗ると、最初にハナを見付けたコンビニへ急いだ。店内へ入り、店員に店長へ電話してくれるように頼む。店員は怪訝な表情のまま、電話をかけた。

「お客様、店長が出ました」

店員に差し出された端末を引ったくるように掴むと、俺は挨拶をすっとばして一方的に話し始めた。

「この前お宅から、廃棄される予定のアンドロイドを貰った者だけど、ちょっと問題があってね。あいつの製造元の場所って分かるかな? それとあいつの製品番号も知りたいんだ」

「分かりますよ。ちょっと待って下さい――まず、製品番号はJVA2034-Bです。製造元は、東日本精機株式会社、鹿島工場です」

「ありがとう」


 俺は電話を切ると、タブレットで鹿島工場を検索した。工場は、茨城県鹿島市の臨海工業地帯にある事が分かった。これはここまで出向いて、直接製造者に話を聞くしかない。一応、訪ねる旨連絡は入れておくか。俺は鹿島工場へ電話をかけた。

「はい。東日本精機、鹿島工場です」

「ああ、どうも。実はお宅で製造されたアンドロイドの事でちょっと問題がありましてね――」

「どういった問題でしょうか?」

「それが、直接製造者なり、設計者に訊かなけりゃ、分からないことなんだ。今からそちらへ出向くから、設計者に話を付けておいてくれませんか?」

「誠に失礼ですがお客様、その様なご要望にはすぐにはお答え出来かねます」

まあ、そう来ると思ったぜ。俺は凄みのある声に切り替えて、受付嬢に迫った。

「事はお宅らの会社の信用に関わる事なんだぜ? 下手すりゃ訴訟問題にも発展しかねない懸案だぜ。良いのかい?」

「……少々お待ちくださいませ」

待ち受け音楽が軽快な調べを奏で始める。恐らく受付嬢は上司の指示を仰いでいるのだろう。数分の後、再び受付嬢の声に切り替わった。

「承知いたしました。お客様のお名前を伺っても|宜《よろ》しいですか?」

「相沢幸助だ」

「相沢様。ではお待ちしております。本日は誠にありがとうございました」

そう言って電話は切れた。


●鹿島工場

 鹿島工場は灰色の巨大な施設だった。コンクリートの外壁に様々なパイプやらダクトが併設して、さながら工業世界のゴブリンの様である。その脇に少し小さなビルが隣接しており、どうやらそこが管理施設と思われた。タクシーを降りた俺は、門番に用件を伝える。門番はすぐに本部へ電話を入れた。

「相沢様ですね。このまま進んで、あのビルの正面玄関口からお入り下さい」

言われるままに俺は管理施設の正面玄関口からホールへ入った。フロントの受付嬢に挨拶する。

「すみません。相沢と申します。こちらへうかがうことは連絡済みなんですが」

「相沢様ですね。承っております。あちらのエレベーターからニ階の第二応接室へいらして下さい。担当がお待ちしております」

俺はエレベーターで二階まで行き、案内板を見た。真っ白な廊下を進んで、第二応接室のドアをノックする。


「どうぞ! お入り下さい」

中から大きな声がして、俺はドアを開けた。部屋には設計者とおぼしき若い男と、その上司と思われる中年の男が並んで立っていた。壁際には大きな棚が設《しつら》えてあり、各種トロフィーやら、賞状やらが飾られていた。

「どうも。先程電話した相沢です」

俺はドアを閉めてそう告げると、テーブルの脇に立って二人を交互に眺めた。

「遠路遥々、よくいらっしゃいました。こちらの若いのが例のアンドロイドの設計者、島田《しまだ》です。私は開発部長の磯部《いそべ》です。ま、取り敢えずお座りになって下さい」

磯部は慇懃に挨拶した。俺は黒い革張りの高級そうなソファーに腰を下ろした。体が深く沈んで、どうも居心地が悪いが、今はそんな事はどうでも良い。


「我が社で製造したアンドロイドに問題があるとか。そうでしたね? 相沢さん」

磯部がそう切り出した時、ドアをノックする音が聞こえた。

「失礼します」

若い女性アンドロイドが入って来て、茶を入れて部屋を出ていった。

「あれもお宅の所で作ったのか?」

「ええ、我が社では、社会に貢献する事を目的とした、高性能アンドロイドの開発に力を入れております。ああいった単純作業などには、アンドロイドはもってこいですからな。それより、問題とは何でしょう?」

俺は一口茶を飲むと経緯を話し始めた。


「アンドロイドが、実在した女性の顔とそっくりっていうのはどういう事なんだ?」

島田はそれまで黙って俯いていたが、やおら顔を上げると話し始めた。

「実は……JVA2034-Bは若い女性型の接客用アンドロイドとして開発を急かされていました。でも、身体はともかく、顔だけがどうしても決まらなかったんです。人に危険なイメージを与えず、出来れば好感を持ってもらえる様な顔立ちが求められていました。ある時、山で起きた自動車事故のニュース映像を見たんです。そこに映された若い女性の顔を見て、これだ! と思ったんです」

島田は弱々しい声でそう説明した。

「――で、その娘の顔を盗んだのか」

「は……それは……」

「本人の許可なくそっくりな顔を作る事は肖像権に関わるぞ」

「はい……。私もそう思いましたが、何しろ期日が迫っておりましたので」

そう言うと島田は額の汗を拭った。

「それで……事故にあった娘から盗んだのは顔だけなのか?」

「どういう意味です?」

「つまりだ。人格とか、性格とか……そういったものはどうなんだ?」

「顔だけです。そもそもうちの技術では、生身の人間の人格やら性格やらをアンドロイドに移植する事は不可能です」

「本当か?」

俺はわざと意地悪く探るような眼差しを向けた。

「本当です!」

島田は真剣な声で断言した。どうやら嘘はついていないようだ。

「そうか……」

「相沢さん、この事はどうか内密に……何分、若手の設計者がやむにやまれず致した事でして、当社と致しましては悪意は微塵もございませんでした。ここに、僅かですが心付けを用意しております。どうかこれで……」

磯部は分厚い封筒を両手で差し出し、テーブルに着く程頭を下げた。

「いや、俺は別に金が欲しい訳じゃ無いんだ。謎を解きたかっただけなんだよ。まあ、取り敢えず何故あのアンドロイドが生身の娘にそっくりなのか、理由は分かった事だし、これで失礼するよ」

俺はそう言って立ち上がり、

「突然なのに会ってくれてありがとう」

そう言って一礼すると部屋を後にした。


 俺はホールでタクシーを待ちながら考え込んでいた。ハナが京子の顔をモデルに作られた事はハッキリしたが、何故性格や行動の変化が起きたのか分からなかった。当初は、京子の人格をハナに移植してあったからだ、と憶測したのだがそれも違う事が分かった訳だ。これでまた振り出しに戻ってしまった……。俺はホールの入り口のガラス戸から空を見上げた。夏の抜けるような青い空に白い入道雲が沸いている。何も無かった事にしてこれからを過ごしても良いのかも知れないが、心の何処かで、この謎は解き明かすべき、と声がするのだった。


●依り代

 俺の探索は行き止まりになってしまった。朝から店で働きながら、俺の頭はスッキリしなかった。ハナは客の少ない時間を見計らっては俺に秋波を送って来る。それが嬉しくない訳では無かったが、どうにも納得がいかないのだ。言わば、これは本能の声である。そんなふうに悶々とした気持ちで過ごしていると、昼過ぎに泰造がやって来た。


「わしゃ、ウインナーコーヒーな」

何時もの様にウインナーコーヒーを頼んだ泰造は、しばらくハナを観察しているようだった。コーヒーが運ばれて、一口飲むと、泰造は俺に目配せして来た。どうやらこっちに来い、と言っているらしい。俺は泰造の席まで移動した。

「あの子じゃがな」

そう言って泰造はハナに目をやる。

「どうもこの間から変じゃて。そう思わんかね?」

泰造はヒソヒソ声でそう告げた。やはり、泰造の目にも変化が分かるのだ。

「ええ、その事なんですがね。実は――」

俺は今までの事を泰造に打ち明けた。

「ほう。そうだったんかね。そりゃ、あれじゃの、憑依現象じゃな」

「憑依?」

「うむ。ハナの身体が依《よ》り代となって、その京子とやらの霊魂が乗り移っとるのじゃよ」

「依り代?」

「フフ。あんたら若いもんはよう知らんじゃろうが、昔からたまにある事じゃて。ま、京子とやらは若くして亡くなっている訳じゃし、同じ見た目のハナに取り付いて、色々やりたい事があったんじゃろ」

俺は呆然と泰造を見つめた。そんな、今時霊だの何だの、余りに時代錯誤過ぎないか? だがしかし――

「ホホ。信じんかね? じゃがそれしか考えられんよ。どんなに時代が進んでも、人間や動物が霊魂である事に代わりは無いよ。だからこそ、現代でも人が死ぬと冥福を祈って葬儀を行うんじゃろ?」

泰造はそう言って穏やかに笑った。


 確かに、そう言われてみればそうかも知れない。だが、それが分かった所でどうすれば良いのか?

「泰造さん、その京子の霊はどうすれば離れるんです?」

「うん。祓いをする必要があるの。ワシの知り合いに一人、有能な護摩焚きの僧侶がおる。普段から人に憑いた悪霊なんかを祓っている男じゃ。奴なら出来るじゃろ」

「何処に行けば良いんです?」

「深川不動じゃよ。門前仲町のな。あんたが行く事はワシから話しておくよ」

「じゃあ、明日は店を閉めて、行ってみるかな?」

「うん。それと、祓いの事はハナには内緒にな。祓われると知ったら、京子は何をするか分からんからの」

「そうですね……」


 その日の夜、マンションへ戻った俺とハナは無言で遅い夕食を食べていた。

「幸助さん、どうしたの? 今日は何か変よ?」

「うん……いや、何でもない。店の経営の事を考えていたのさ」

「大丈夫よ! 私が居るんですもの。私目当てにお客さんも結構来てるでしょ」

ハナ――いや、京子と言うべきか――はにこやかに笑って、味噌汁をすすった。今までのまるで新婚夫婦かの様な出来事も今日で終わりだ。そう思うと、俺は少し寂しくなった。ハナが変化してからというもの、束の間ではあったが、まるで本物の若い娘と愛を育んでいるかの様な思いを味わって来たのだから。だが、やはりこのままでは良くない。目の前で食事をしているこの娘は、本来のハナでは無いのだ。


 食事の後、風呂に浸かりながら天井を眺めていると、不意に頬に涙が伝った。その時俺は知ったのだ。どれ程京子とのささやかながら幸せな日々を愛していたのかを。一度涙が出ると止まらなかった。俺は声を殺して泣いた。俺が愛したのはハナなのか京子なのか? 今となっては良く分からなかった。ひとしきり泣いて涙が止まると、俺は風呂を上がった。


 バスタオルで髪を拭きながらリビングのソファーに腰掛ける。そうだった。初めてハナを家へ連れて来た時、こんなふうに無言でソファーに座っていたのだっけ。俺の目に、部屋のコーナーに置いてある観葉植物が映り込んだ。俺は初めてハナと出会った時の事を思い出していた。植物の様に純粋で透明な少女……。やはり、ハナにはそれが相応しい。ハナが俺を好きになってくれるのでなければ意味がないのだ。京子では無く――


 俺の決心は固まった。明日、深川不動へハナを連れて行こう。理由は観光とでも言っておけば良い。祓いとはどんな物なのか知らないが、行けば分かるだろう。


●調伏護摩

 翌日は店を閉めた。ハナには、都内の有名な寺へ観光に行く、と告げてある。何も知らないハナは、ワクワクしながら余所行きの服に着替え、メイクをして、鼻唄を歌っていた。

「お寺へ観光なんて、修学旅行みたいね」

ハナはそう言って笑うと、髪を整えた。


 俺達は電車に乗り、門前仲町を目指した。深川不動は深川のお不動様として昔から人々に親しまれて来た、成田山新勝寺の東京別院である。門前仲町に着くと、俺達は商店街を歩き、参道から本殿へ向かって進んだ。この辺りは時代を経てもなお、昔ながらの江戸情緒を残している。ハナと二人で参道を歩いていると、本当に観光に来ているような気がして、俺は少し心が軽くなった。


 いよいよ本殿へ到着である。受け付けへ行き、名前を名乗ると、係の者は

「承っております。そのまま本堂へお入り下さい。中で阿部和上《あべわじょう》がお待ちしております」

とだけ告げた。靴を脱いで本堂へ上がると、黒い僧衣を着た阿部和上が待っていた。

「相沢さんですね? 小林さんから話は聞いております。もう準備は整っておりますよ。人払いしておきましたからね」

和上はそう言って微笑むと、ハナを見つめた。

「そちらがハナさんですな。人間以外に施すのは初めてですが、まあやってみましょう」

「幸助さん、やってみるって、何をするの?」

ハナが少し不安げな表情で訊く。

「うん、まあ……すぐに分かるさ」


 俺達は和上に案内されるままに護摩堂へと向かった。黒い木で出来た屋内は薄暗く、香の香りが漂って、いささか不気味である。護摩堂には既に焚き上げる護摩木が組み上げられていた。壇上には大太鼓が置かれており、他の和上が待機している。

「何が始まるの?」

ハナが怯えたような声を出す。

「大丈夫ですよ。さあ、ここに座って」

和上はそう言って床にハナを座らせた。俺もハナの隣に腰を下ろした。供物の五穀と香を不動明王に捧げると、調伏護摩が始まった。


 護摩木に火が点けられ、炎が立ち上る。和太鼓の力強いリズムに乗って、阿部和上は真言を唱え始めた。俺には何と言っているのか理解不能だったが、エキゾチックな真言と、腹に響く太鼓の音が、空間の密度を上げてゆく。圧迫感とも呼べるその力にハナは早くも反応し始めた。

「嫌……あの音! 止めて、止めて頂戴!」

ハナはそう叫ぶと床にパッタリ倒れ込んだ。軽く痙攣を起こして身悶える。顔は段々と必死の形相になり、俺は正直恐ろしさを感じた。真言と太鼓は止むこと無く続く。ハナはバタバタと手足をばたつかせると、懇願するような目で俺を見た。

「幸助さん、お願いよ、止めさせて!」

「……可哀想だが駄目だ。お前はハナじゃない。京子だ。このままじゃハナはお前に乗っ取られたまま、京子として人生を送る事になる――逆の立場だったら? と考えてみてくれ。お前だって、他人の人生を生きさせられるなんて嫌だろう?」

俺は強い意思の篭った声で言った。ハナは今にも泣き出しそうな顔をして、俺にすがった。

「でも、私は幸助さんと結婚したいのよ! 結婚して幸せな家庭を築きたかった! 子供だって欲しかったし、沢山やりたい事があったわ! それが――あんな、あの事故で私の人生は終わってしまった……私の夢は終わってしまった――あんまりよ!」

「うん、それは気の毒だと思っているよ――だが、だからと言って、誰かを不幸にして良い訳じゃ無いだろう? 早く成仏して、また生まれ変わるんだ。それで、俺達の事を覚えていたら、会いに来てくれ――俺達は良い友達になれるさ。束の間だったとは言え、一緒に暮らして同じ体験を共有したんだからな」

ハナは黙り込んだ。黙って壇上の不動像を見つめる。やがて、渇いた声を振り絞って告げた。

「幸助さん……私の事忘れないで……」

「ああ。忘れないよ。約束だ」

「ありがとう……」

そう言うとムクリと起き上がり、俺にキスをして再びバッタリ倒れた。その後はピクリとも動かなかった。


 護摩木も全て燃え尽くされ、和上の真言と太鼓が止んだ。俺は放心状態でただ座っていた。阿部和上は静かに立ち上がると、俺達の所まで来た。

「終わりましたよ――さ、もう大丈夫な筈ですよ、ハナさん?」

そうハナに声をかける。突然ハナはパッチリと目を見開き、起き上がって辺りをキョロキョロ見回した。

「私は一体……ここは?」

俺はそのすっとぼけた様なハナの顔を見て、安堵の溜め息をついた。ハナだ。以前のハナが戻って来た。

「うん、まあ、お前が気絶している間に色々あってな。そのうち話してやるよ。今日はもう帰るんだ」

「はい」

「和上、ありがとうございました」

「ホホホ、良かったですな。正直私もアンドロイドに効果があるか疑問でしたが、上手くいって良かった。この辺りは昔からの寺町で、商店が軒を連ねてましてな、せっかくですから、買い物でもなさって帰られてはいかがです?」

「ええ、そうですね。じゃあ、失礼します」


 俺達はその後、商店街を彷徨いて、今度こそ本当の観光をしたのだった。ハナは初めて見る江戸風情の残る商店街を見て、ことさらはしゃいだ。



●終章

 翌日、何時もの様に俺は店を開けた。開店するとすぐに、泰造がやって来た。

「上手くいったようじゃの?」

泰造はハナを見付けると、俺にそう囁いた。

「ええ、お陰様で。これで前のハナに戻りましたよ」

「やはり、ハナちゃんはボーッとした森の妖精で無いとな、その方がええ」

「そうですね……」

俺はそう言って笑うと、店内を見渡した。三面の壁一面に張られた電子スクリーン。深い緑の森が静かに部屋を囲んでいる。ハナは以前の様にティンカーベルの衣装を着て、酸素を吹き出しながらフラフラと人工の森の中を彷徨いていた。その姿を見て、俺は天使という者が居るなら、きっとこんなふうじゃないか? と思った。働くでも無く、にこやかに辺りに笑顔と酸素を振り撒いて、およそこの薄汚れた人間界とは相容れそうに無いハナは、少なくとも俺にとっては天使である。


 人間離れしたアンドロイドにもいつの日か京子の様な女性らしい想いが芽生える事はあるのか? それは分からない。だが俺は、ハナはこのままで良いのでは無いかと思う。このままで、十分俺の心を癒してくれる。店の売り上げに貢献してくれただけでなく、俺の孤独な心に明るい光を射し込んでくれたのだ。人工の天使。ありがとう、ハナ。いつまでも、お前は天使で居てくれ――

酸素カフェ

執筆の狙い

作者 夢咲香織
170249109188.joetsu.ne.jp

人は何だって愛せるようになる、と思いたくて書きました。

コメント

hir
f97-pc107.cty-net.ne.jp

>俺には縁の無い話だ。
 アンドロイドを嫌っているのだろうか。

 そのあとアンドロイドのウンチクが続く。
 元アンドロイドの開発者で、トラウマがあるとか。

>表のアンドロイド、俺が貰いたいんだけど
 何事もなく引き取っている。苦手というわけではなさそう。

 アンドロイドより主人公の正体を探るほうが面白そうです。

夢咲香織
170249109188.joetsu.ne.jp

hir様

型落ちのアンドロイドでも非常に高価なので、主人公には縁がないのです。この説明を省いてしまいました。今後書き足しますね。

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