作家でごはん!鍛練場
miya

熟れた白桃

 夏が盛りを迎える頃、毎年欠かさずに夫の実家から白桃が送られてくる。家で作っているもので、「食べきれないほどたくさんあるから」と義母は言うが、一つひとつ丁寧にネットキャップと新聞紙で包まれたそれは、本当は売り物として出せるほど上等なものだ。くし切りにしてそのまま食べても美味しいけれど、夫は吟醸の冷酒に入れて呑むのをよく好んだ。それは彼の母親が編み出したやり方を踏襲したもので、日本酒はそのまま呑むものだと思っていた私は、夫が初めてその呑み方をした時にはひどく驚いたけれど、白桃のさわやかな果汁は香り高く澄んだ日本酒に驚くほどよく馴染んだ。グラスの底に残った白桃は、表面にわずかにアルコールの辛さを纏っているけれど、密度の高い果肉を齧った後に舌先に残るのは、どうしようもないほど濃い甘さだった。懐かしい味だと、毎度のことながら思う。

 その夏、私は十七歳だった。日差しと虫が嫌いな私には、その季節はほとんど脅威だった。その頃の私の周りには怖いものがたくさんあって、特に蝉が恐ろしかった。木に停まり、あの小さな体からけたたましい声で鳴くことが信じられなかったし、かさかさした体は、ふとした拍子に触れたら二つに割れてしまうと思っていた。
 夏休みでも、ほとんど家に籠っている私に、四つ年の離れた姉はなにか奇異なものでも見るみたいな目を向けた。東北の国立大学に進学した彼女は、民俗学を専攻しており、フィールドワークというものに勤しんでいたらしい。一様な小麦色に焼けた彼女のふっくらした二の腕をみると、自分の青白く痩せた腕は病人のそれのように思えた。
 家電メーカーに勤める父は昼のあいだ家におらず、専業主婦の母はぶつくさと文句を言いながら庭に生えた雑草を刈り取ったり、慎ましやかな家庭菜園で取れた野菜を近所の人に配ったり、調理したりしていた。帰省中の姉は「高校時代の友人とテニスをする」と早朝に出かけたかと思えば、身体中にアルコールの匂いを纏って夜遅くに帰ってきたり、とにかく忙しそうにしていた。私はというと、網戸を開けた蒸し暑い部屋でひたすら本を読んだり、興味のない甲子園中継を眺めながら、母がやりかけにしていたレースの編み物をしたりしていた。
 どうして私の夏休みはこれほど退屈なのかと、一度だけ姉に訊いてみたことがあった。
「単純に、あんたが退屈な女の子だからでしょう」
 呆れたような彼女の言葉を私はすぐに真理だと思ったし、それと同時に、頭脳も快活さも愛嬌も、全部を持って先に生まれた姉に、お門違いな恨みの感情を抱いたりもした。

 水元純太は小学校の頃の同級生で、近くの八百屋でアルバイトをしていた。坊主頭で、体つきは細いけれど近くでみるとわりとがっしりしている。接客をしているときでも不愛想な表情は崩れなかったけれど、黙々と熱心に働く男の子だった。
 母親の言いつけで買い物に出かけたときは、純太が小ぶりなピーマンを袋詰めしたり、大きなキャベツを切り分けたりしているところをじっと眺めていた。お店の中では窮屈そうに顔をしかめているから、純太が原付に乗って配達に出かけた帰りには、店先で会話をした。
「ねえ、いつが休みなの?」
 日焼けした純太の顔に、私はそう問いかける。姉のような均一な小麦色ではなく、ひりひりと痛そうな赤色と、まばらに剥けた皮膚の痕。
「どこかへ行こうよ」
「どこかって、どこへ?」
「海はどう? 峠を越えればすぐだよ」
「すぐって、車がないと無理だよ」
 純太はヘルメットを脱ぐ。汗だくの形の良い頭が露わになる。
「原付で行けばいいじゃん」
「俺の原付じゃ二人乗りできないよ」
「どうして?」
「二人乗りしちゃダメなやつなんだ」
「大丈夫よ。バレやしないわ。意外と臆病なのね」
 挑発するような言い方をすると、純太はわずかにムッとし「わかったよ」と不貞腐れたように言った。するすると自分の口から出てくる我儘な物言いに、私はわずかにひやりとしたり、素直に驚いたりしていた。
私は姉が言うところの「退屈な女の子」なのだけれど、水元純太にだけは、そのことを知られたくなかった。

「愛美ちゃん」
 薄紫の花柄の割烹着を着たその人は、年季の入ったやわらかい声で私の名前を呼ぶ。
 家の前の坂道を下ったところに、坂下さんは住んでいる。坂下電気という小さなお店を一人で営むお婆さんで、私がまだ幼い頃から、よく声をかけてくれていた。
「かき氷たべてきな」
 手招かれるままに、私は坂下電気の店内に入っていく。刺すような容赦のない陽の光も、間口の狭い店内までは行き渡らず、陳列された商品は薄暗い中で表面に埃を被っている。近くの小学校の体操着や上履きに、スポーツ新聞やタバコ、文房具に習字用具。電気屋を名乗っているくせに、それにかかわるものは乾電池や蛍光灯だけで、夏には子供向けに水鉄砲や虫取り網も売っている。でたらめなお店だった。
 かき氷機は電動の上等なものではなく、ペンギンの形をした、手動の家庭向けのものしかなかった。ペンギンの白かったはずの毛並みはすっかりクリーム色に日焼けしてしまっているし、キャラクターらしく首元につけた赤色の蝶ネクタイは、油の浮いたチョコレートみたいに表面が白く靄がかっている。ペンギンの頭頂部から生えたハンドルを回すと、ゴリゴリと音を立てながら中に入れた氷を削っていく。「食べていきな」というけれど、氷を削るのはいつも私の役目だった。ハンドルは錆びついた自転車みたいに回転が悪く、一人分のかき氷が削りあがる頃には腕が千切れそうなほど痛くなる。
「坂下さんも食べる?」
「私はいいよ。冷たいものは入れ歯に染みる」
 細かくなった氷はすでに容器の下の方が水っぽくなっていて、たっぷりとかけたメロンのシロップと合わさってほとんど液体となっていた。坂下さんは湯気が立つほど熱いほうじ茶を急須から湯呑みに注いで、汗もかかずにそれをすする。
「愛美ちゃんは夏休みになにをしているの?」
「なにも。本読んだり、散歩したり」
「本を読むなんて、賢いねえ」
 最初からそう言うと決めていたみたいな滑らかさで、坂下さんは微笑む。私を「賢い」と言ってくれるのは、彼女だけだった。
 今度海を見に行く話をすると、坂下さんは愉快そうに目じりを下げる。白いしわしわの手の甲が、使い古したポットと急須に伸びる。坂下さんは二番煎じの、香りや風味が強すぎないお茶が好きならしい。熱湯を注ぐときの緩やかに立ち上る湯気を眺めながら、私は優秀で快活で人当たりの良い姉のことを思い出していた。

 純太の古い原付は、果てしなく続く坂道を上るには力不足だった。平地を走っているときは好調だったけれど、景色が濃い緑に囲まれ、勾配が急になるにつれて減速し、いつ倒れてもおかしくないようなふらふらした調子になった。見通しの悪いカーブを超えたところで、純太はとうとう原付を路肩に停めた。
「壊れちゃったの?」
「いや、エンジンが熱を持っただけ。休ませれば回復する」
 口ではそう言いながらも、純太は心配そうに車体を確認している。私はその姿を見下ろしながら、今朝のことを思い出していた。小学校の頃に使っていた自転車のヘルメットを抱えて家を出たところ、坂下さんと顔を合わせた。挨拶を交わしただけで立ち話もしなかったけれど、坂下さんの手にぶら下がっていたのが、純太の勤めている八百屋のビニール袋で、そのことが妙に嬉しかった。
待ち合わせの児童館の前に立っていた純太は、当たり前だけど八百屋の臙脂色のエプロンをつけておらず、白いTシャツとジーパンという服装が新鮮で幼く見えた。相も変らぬ仏頂面で、純太は原付のシートの後部を見やる。黒いカバーがわずかに破れて、中の黄色いスポンジがすこし露わになっている。それは想像していたよりもずっと小さく、二人で乗るには不十分に見える。眩暈がするほどの照れも、心臓がきりきり痛むほどの緊張も、すこしも悟られないように落ち着いた調子で、私はノースリーブの腕を純太の胴体に回した。
 照りつける日差し、回転するエンジンの熱気と、純太の背中の体温。そのすべてに包まれて、身体の境界線があいまいになってしまいそうだったのに、走る車体の速度で顔に風を浴び、脳みその表面の感覚だけが妙に鮮明だった。
 夏はもう私にとって脅威ではなく、どこへだって行かれるのだと錯覚したけれど、小さく丸まった純太の背中を見ていると、そんな風に感じたことが、ずいぶん昔のことのように思えた。
 坂道を並んで上っている間、純太はずっと不機嫌そうだった。汗の掻いた額を湿ったTシャツの裾で何度も拭っては、黙々と歩き続ける。景色は鮮明な青空と、それを下から覆うように木々で囲まれた山道で、いくら歩いても代わり映えがない。
「ねえ、なにか話して」
「なにかって?」
 純太はうつろな目を前に向けたまま答える。
「なんでもいい。楽しいこと」
「ないよ。楽しいことなんてなにもない」
 会話はそれっきり途絶えてしまう。四方八方から聞こえてくる蝉の鳴き声に責め立てられ、どうにも言葉が浮かんで来ない。私の心はすっかり折れていた。二人きりでデートをしていて、男の子にそんな風に言われてしまうなんて。それ以上悲惨なことなど存在しないとさえ思った。
 学校にいるときの私を、違う高校へ通う純太は知らない。私は、友人たちと並んで安物の化粧品を使用するときでさえ、鏡に映る自分ではない誰かの表情ばかりに気を取られてしまう。成績は優秀とは言えず、かといって素行不良なわけでもなく、周りから可愛いと言われている同級生のすることをいつだって真似ていた。
 友人の多くはクラスの男の子たちと遊ぶことが上手だった。甘えたような声でお願いごとをしてみたり、遠慮のない言葉で気持ちを探ってみたり。そういった態度を私はうまく真似ることが出来なかったけれど、時々、彼らが集まる場所、カラオケやファミレスなどに友人たちと一緒に呼ばれることがあった。男の子たちはあまり喋らない私にも気遣って声をかけてくれたり、趣味はなんだとか、どんな音楽を聴くのとか尋ねてくれたりするけれど、私はいつだって当たり障りのない回答しか出来なかった。声をかけてくれた男の子たちの興味が、すんと音を立てて冷めていくのがはっきり感じられた。
純太以外の男の子が相手では、私は「退屈でない女の子」のフリすらできなかったけれど、都合がいいことに、私は彼らにさえ好かれたいと思っていたし、もしも仮にそうなったら、フリではなくて、自分が本当に退屈でない女の子になれると信じていた。
 坂道の途中で見えた浄水場の脇で、私たちはお昼を食べた。高さ三十メートルほどの銀色のトーチみたいな形をした給水塔が、敷地を囲う金網の上から私たちを見下ろしていた。朝から早起きをして作った卵のサンドイッチは、炎天下で生温かくなっていて、大量につかったマヨネーズが口の中でべたべたした。純太は美味しいとは言わなかったけれど、はりきって作り過ぎたそれを一つ残らず食べきってくれた。
 純太はデザートに白桃を持ってきていた。彼は果物ナイフを取り出すと、不器用な手つきで皮を剥き始めた。アルバイト先で傷みかけのものを貰ってきたらしく、果肉の表面はじゅくじゅくに柔らかい薄黄色になっていた。くし切りになったそれに歯を通した瞬間に、糖度の高い果汁が弾け、炎天下で乾き切っていたなにもかもが潤った気がした。
純太が私のために用意してくれたことが、たまらなく嬉しかった。
 お昼を食べた後も私たちは坂道を上った。原付のエンジンの熱はまだ引かないらしく、相変わらずとぼとぼと歩き続けた。それでも食事をとったせいか、私は自分の身体がいくぶんか軽くなったように思えていた。
「バイトして、そのお金はなにに使うの?」
「バイクを買う。こんなぼろい原付じゃなくて、普通二輪のやつ。免許も取らないと」
 私には普通二輪がなにを指すのかも、免許が新しく必要になる理由も分からなかったけれど、純太がすこしだけ饒舌になっていて、そのことに安心した。
「ちゃんとしたバイクなら、こんな坂道、楽に上れる」
 純太は悔しそうに何度もそう言った。
 峠の頂上に差し掛かっても、山間の景色が開けることは無かった。
 どうしてか私は、坂道を登りきれば海が見えると信じていた。

 海を見ることを諦めた私たちは、純太の原付に乗って帰路についた。苦労して上った坂道は、あっけないほどすぐに下ることが出来た。
 二人で出かけたのは、結局その一度きりだった。純太が普通二輪のバイクを買えるようになったのか、私ではない別の女の子を後ろに乗せて海を見に行くことがあったのか、今でもう知る由も無い。
 私は大学生になり、それまで自分が暮らしていた環境の狭さを知った。友人とお酒を飲み、恋人とデートをした。恋人でない男の子とも気ままに食事をし、時々キスをした。陽気な音楽のなるお店に出かけ、度数の高いお酒に酔った。私は自分が退屈かどうかを考えることを止めた。
 二十歳になった年の秋に、坂下さんは死んでしまった。大学の近くに下宿をしていた私はお葬式に出なかった。年末に帰省をしたときには、坂下電気のシャッターは固く閉じられていた。母から聞いたところによると、寂しいお葬式だったらしい。子供はおらず、夫に先立たれ、近所の親戚や知り合いだけが参列していたそうだ。
 私が就職をしてすぐに姉は結婚し、その翌年に女の子を授かった。私は姉が嫌いだったことをすっかり忘れ、仲の良い姉妹みたいな顔でそれらの出来事を祝った。姪っ子は姉に似て賢く、愛嬌があり、自分が退屈かどうかなど悩む気配もない。
働き始めて三年目で私は夫と出会い、情熱的とも、理性的とも言える交際期間を経て、夫婦となった。私はすっかり大人と見做されるようになり、理由もなく何かを信じることをしなくなった。

 白桃を食べるたびに、あの夏の日を思い出す。まるで美しい出来事みたいな様相で、記憶の隙間から、するりと顔を覗かせる。うんざりするほど暑い日で、私も純太も不機嫌で、目当ての海は見られなかった。愉快なことなんてなに一つなかったのに、それでも、差し出された白桃の甘味と水分を、今でも鮮明に思い出せる。過ぎ去った時間は、どうやら例外なく愛おしいものに思えるらしい。
 十七歳の夏、私は退屈な女の子で、姉の二番煎じで、たしかに暇を持て余していたけれど、眩しいほどの鮮やかさで、それらの出来事は、時折いまの私を勇気づけてくれる。

熟れた白桃

執筆の狙い

作者 miya
p773096-ipngn8901hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

青春小説というテーマで書いた作品です。
原稿用紙17枚という微妙な長さなので、他に書き足すエピソードについてや、この後の展開でなにかアドバイスが貰えたら嬉しいです。
よろしくお願いします。

コメント

椎名
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

全体的によくまとまっていて、女子高生の夏休みを回想する小説としてはよかったと思います。主人公の心理描写もよかったです。ただ文章が今のままでもいいのですが、もう少し読みやすい文章にできるような気もしました。

そうげん
119-231-167-60f1.shg1.eonet.ne.jp

よく書かれてあると感じました。青春小説として書かれたとのことですが、ほんの一時きらめきを見せた青春の時間を、そのときに相手が用意してくれた白桃をかじった思い出として封じ込め、青春が過ぎた後の人生の励ましとして大切にしている、小説のベースの時系列が、すでに大人になりきってしまった、夫との生活を重ねている時間に置いているからこそ、そこから振り替えられる青春の場面は、理想の姿としてとても貴重なものにわたしには写りました。

全体で17枚なのですね。エピソードを付け加えようと思えば、もっと膨らませられるでしょう。省こうとするなら坂下さんのくだりをカットしても通用するかもしれない。ただここに示されたエピソードは、姉との関係についてもそうだし、坂下さんとの思い出もそうだし、幼馴染との初めてのデートもそうだけど、子供のとき、青春時代に感じていたことと、大人になり切ったいま振り返って思うことの対比がうまく描かれていて、その描き方に一貫性があると感じました。その一貫性を補ったり強化したりする、あるいはそこを崩して変化をつけることで、作中に示すエピソードの数を増加させることは可能だと思いました。

しかしいまの枚数でわたしはいいと思いました。倍くらいの枚数にすることを試みるなら、おそらく書き方全般を見直す必要があるのではないかと思うのです。この書き方、この調子でまとまった形にするなら、いまくらいのボリュームでいいように思います。でも長く書かれていても、うまく書かれてあれば、それもまた適正な長さだと感じるかもしれないのですけど。

面白かったです。読ませてくださり、ありがとうございました。

miya
p773096-ipngn8901hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

椎名様

コメントありがとうございます。
心理描写が良かったと言っていただけて、とても嬉しいです!

文章は、一文あたりが長すぎるのが読みづらい原因なのかなと思います。
リズムも悪くなるし、うまくまとめられるように推敲してみます。

miya
p773096-ipngn8901hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

そうげん様

読んでくだざりありがとうございました。
このあとどう仕上げていくか悩んでいましたが、大まかな改編はしないでおこうと思います。

坂下さんは現状ではあってもなくても良いような存在感になっているので、エピソードがもう少し際立つように工夫してみます。

面白いと言っていただけて、嬉しいです。
ありがとうございました。

hir
f98-pc124.cty-net.ne.jp

 青春には笑って泣いて叫ぶようなイメージがあります。本作の青春は穏やかで安らかな感じです。それもまた。
 書き足しではないですが、
 姉とケンカして家を飛び出し、純太に町を出たいと泣きつく。
 無計画な逃避行の道中で原付が故障して困っているところを将来の伴侶に助けてもらう展開を考えます。

miya
sp1-75-0-221.msc.spmode.ne.jp

hir様

コメントありがとうございます。
夫を地元で登場させることも、主人公に街を出るほどの行動力を発揮させることも、まったく発想としてなかったので、勉強になります。
ありがとうございました。

夜の雨
ai194004.d.west.v6connect.net

「熟れた白桃」読みました。

芥川賞作家が気まぐれにこちらのサイトを覗いたのではないでしょうね。
それぐらい私にはうまい作品だと思いました。
どこが上手いのかというと、ストーリーが日常的に近いものにも関わらず、あの夏の日の青春が主人公を中心に語られている。
主人公だけと違い周囲の者たちのあの夏の日が描かれている。
そして驚くべきことに御作ではエピソードが細部まで書きこまれていて、文章が息づいている気配すらしました。
ひとつひとつの文章に無駄がないといってもよいぐらいです。

ラストまで気持ちよく読むことが出来ました。

一応気が付いたところがあるので、下記に書いておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――――
A>働き始めて三年目で私は夫と出会い、情熱的とも、理性的とも言える交際期間を経て、夫婦となった。私はすっかり大人と見做されるようになり、理由もなく何かを信じることをしなくなった。

B>白桃を食べるたびに、あの夏の日を思い出す。まるで美しい出来事みたいな様相で、記憶の隙間から、するりと顔を覗かせる。

C>うんざりするほど暑い日で、私も純太も不機嫌で、目当ての海は見られなかった。愉快なことなんてなに一つなかったのに、それでも、差し出された白桃の甘味と水分を、今でも鮮明に思い出せる。


上のラストですけれど、Aで主人公は結婚しているということになっているので、Cは、現在の夫と一緒に桃を瑞々しく食べていることにすれば、「主人公の青春は過ぎ去ったものである」ということが、鮮明に読んでいる者に、伝わるのではないでしょうか。
Bが、AとCのつなぐよい文章になっていると思います。

それからこの主人公は、驚くほど冷静に周囲を見ていますね、このあたりが「とんでもねえなぁ」と思いました。隙が無いキャラクターです。
ちなみに御作は主人公と一緒で作者さんも冷静に作品を書かれています。
この作品は文学系ですが、これほど、冷静に文章や題材を突っ込んで書かれてる方なので、ミステリーとか探偵などの理詰めの物語も書ける方ではないかと思いました。

以上です。

ラピス
sp49-96-38-153.mse.spmode.ne.jp

感想欄から入ってしまったせいで、ハードルが上がりました。感想も厳し目になります。

冒頭の桃がとても瑞々しく描かれてあり、今すぐ食べたくなりました。期待大で読み進めました。小道具として上手い。
が、
話は一行空けで違うエピソードに飛ぶように感じられ、その度に気持ちが寸断されます。繋ぎがスムーズでありません。

十七枚の短さで、姉、近所のお婆さん、男友達との関わりがあり、それらがバラバラで、太い一本の糸になっていません。
特に姉の造形や、心理的な圧が中途半端。

結果として「十七の夏」って程の印象にならなかったです。
主人公の劣等感が、後半のざっくりとした説明で、あっさり解決されてましたしね。

柔らかい月
n219100086113.nct9.ne.jp

冒頭の「吟醸に白桃」が印象的で、導入は◎だと思うんです。

内容は『どうもエッセイっぽい』感じが強すぎる気もするんですが、
お上手なので、するするーっと読ませる。


しかし、所々に「書きすぎ」「饒舌のあまり筆が滑って、安直になってる箇所」が散見されて、
そこがとてももったいない。

要所要所にきちきち入っている「ありがちなまとめ」は、『読者がそう感じること』だから、作者がわざわざ書く必要はない・・気がする。



そういう意味も含めて、引っかかったのが、

>二人で出かけたのは、結局その一度きりだった。純太が普通二輪のバイクを買えるようになったのか、私ではない別の女の子を後ろに乗せて海を見に行くことがあったのか、今でもう知る由も無い。

↑ 小説では《実によくある、思わせぶりな書きよう》なんだけど、
こう書かれちゃうと、読んでる側は
「純太、19歳、バイク事故で急逝?!」とか、「八百屋さん倒産で夜逃げ?!」とか、不幸方面を(も)想定してしまって。。



そこも、だけど、『蛇足だなー』と(も)思っちゃったのが、

>白桃を食べるたびに、あの夏の日を思い出す。まるで美しい出来事みたいな様相で、記憶の隙間から、するりと顔を覗かせる。うんざりするほど暑い日で、私も純太も不機嫌で、目当ての海は見られなかった。愉快なことなんてなに一つなかったのに、それでも、差し出された白桃の甘味と水分を、今でも鮮明に思い出せる。過ぎ去った時間は、どうやら例外なく愛おしいものに思えるらしい。
 十七歳の夏、私は退屈な女の子で、姉の二番煎じで、たしかに暇を持て余していたけれど、眩しいほどの鮮やかさで、それらの出来事は、時折いまの私を勇気づけてくれる。


↑ ここ、「浮いてる」し、すごくくどい。

一気に「高校生の作文的な、まとめ」全開になって、「エッセイ感が強烈になる」んで、

全カットしてみたらどうだろう??

アン・カルネ
219-100-28-29.osa.wi-gate.net

良かったです。

ただ、「青春小説」と言われるとちょっと違うかなあって思わなくもないかな。青春小説とは基本、“人生の一番良い時”をこれでもか、と描くものですから。(一応、人生の一番良い時、というのはその時はそう思っていないし、その時はむしろ赤面モノのこっぱずかしいことばかりって事ですよ。とんがっていて、あがいている何者でも無い自分、でも何者でも無いという事は何にでもなれるという事。その一点を支えに手さぐりに人生を模索する、挑戦する、破壊する、その状態こそ人生の一番良い時って類を描くのが青春小説の王道なので…。涙で歩道を濡らした事の無い人生はつまらないってね。“ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい”もうこの冒頭は当時の若者のハート鷲掴みにしたでしょうね)
話が脱線しましたね。ごめんなさい。
御作に戻って。大人になった主人公が17歳の時の退屈な女の子でしかなかった自分を振り返った時、そこには今の自分には無いキラキラしたものがあったんだなあ、と思うあたりは、ああ、分かる分かる、そうだよねと共感できます。

惜しむらくは、変化が描かれていないということなんでしょうね。
ラストに「眩しいほどの鮮やかさで」「時折いまの私を勇気づけてくれる」と結んでいるのだから、「退屈な女の子で、姉の二番煎じ」と思っていた彼女が純太とのなんちゃってデートを通して、ひとつ大人の階段を上る、そういう経験をした、その一瞬を描く、というのがあるともっと良かったのかもな、と思わされました。今のままだと「私は大学生になり、それまで自分が暮らしていた環境の狭さを知った。友人とお酒を飲み、恋人とデートをした。恋人でない男の子とも気ままに食事をし、時々キスをした。陽気な音楽のなるお店に出かけ、度数の高いお酒に酔った。私は自分が退屈かどうかを考えることを止めた」こちらの経験の方が彼女を今の彼女のありように繋げていった感が強いので…。
後は白桃の出どころでしょうかね。夫の実家からよりは彼女の故郷からの方が良いのかな、と思いました。
あざとくやるなら、大人になって果樹園経営者になった純太から、とかね。
というのは折角、「純太の背中の体温。そのすべてに包まれて、身体の境界線があいまいになってしまいそうだった」とさり気なくここに疑似恋愛めいた予感を混ぜ込ませているわけですから、ここを後にもう少し膨らませておかないテはないよなあ、と思ったりもしたんです。気の置けない相手でもあるけれど「退屈な女の子」とは思われたくない男の子でもあるわけですから。しかも「二人きりでデートをしていて、男の子にそんな風に言われてしまうなんて。それ以上悲惨なことなど存在しないとさえ思った」とも書いているのだしね。勿論、性のめざめ問題においては純太とは何も起こらないままでいいし、彼が彼女の事をどう思ってるかを描く必要はありません。だけど、サンドイッチを全部食べた、白桃をもってきてくれた、だけではちょっと弱いのかなあって思わされなくもないんですよ。海は見えなかったけど、代わりに純太の中に彼も大人になりかかっている、模索している自分がいる、そういう発見を彼女にして欲しかったような、ね。彼の立ち位置を通して彼女もまた自分探しの途中にいるという事を自覚する、そういうカタチがあるといいのかなあ、と。せっかく、彼、二輪バイクの話をしているのだし。だからあざとくやるなら、ここで彼に彼自身のなりたい自分、将来のヴィジョン的な事をぽつんと言わせておくといいのかな、と。でそれは桃づくりなんかであってくれると良いわけですよ。そうすると、冒頭には何たら果樹園から送られてきた桃の話を振っておいただけに留めておいても、ラストではその桃こそ、17歳の退屈な女の子に過ぎなかった自分と似たようなところにいた純太が、その後、彼女は都会の大学に行き、世界の広さを確かめ、一方、彼は彼でその間、ちゃんと自分の歴史をつくっていったんだなあ、と。そしてその挑戦は今も続いているんだなあ、と。そういうところへ結び付けられるじゃないですか。桃は彼女へのエールでもある、と。そんはふうに使えるわけですよ。それにそうしておけば全ての女は妻となっても夫の知らない世界をもっている、なあんてことも深読みされちゃったりなんかして(笑)。人間とは実に多面的である(笑)。なあんて思えて味わい深いし。ええ、あざといですが(笑)。

でも読んでいてとても好感をもって読みました。良いもの読ませてもらったなあっていうのが素直な読後感でした。
何かアドバイスを、と狙いにあったので、それなら、という事でごちゃごちゃ書いてみたまでなので。

miya
p1473136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

夜の雨 様

褒められすぎて恐縮しています。笑

ラストのシーンについて、アドバイスありがとうございます。最後は状況描写がほぼ無いような状態なので、どんな画にするのかもう一度考えてみようと思います。

ありがとうございました。

miya
p1473136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

ラピス様

冒頭は力を入れていただけに、桃を食べたい、と思ってもらえるのはうれしいです。過去の話を始めるまでにのフリが無さ過ぎたせいで、話が飛ぶようになっていたかもしれません。ご指摘ありがとうございます。

miya
p1473136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

柔らかい月 様

「安直になっている箇所」で例としてあげられているのが、すべて、書いているときに「まあこんなもんでいいか」と流したところだったので、正直おどろいています。笑

読める人にはばれてしまうものなんですね。
話を作りこんでいないところをいつも流してしまうので、もう少し書き込んでみようと思います。

ありがとうございました。

miya
p1473136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

アン・カルネ 様

先の展開をご提案いただきありがとうございます。
お話を広げるのが上手ですね!
桃の出どころは、正直どこでもいいと思っていましたが、もっとうまく扱えたように思えてきました。

ありがとうございました。

陽炎のようね
p0135770-vcngn.hkid.nt.adsl.ppp.ocn.ne.jp

俺も青春小説というよりは、青春を懐古、或いはふっと思い出した中年小説になってしまっていると思いますね。
分量的にさほどではないが、重さという意味で現在の存在感がアリアリと伝わってくるし、回想シーンの語尾の
ニュアンスなんかもやはり「結果を知っている人の語り」になっている。
やはり青春となると「未知の未来にぶっ飛んでゆく」的なものが重要になってくる気がします。

それを踏まえた場合、この作品はどこをターゲットにするのかという問題もでてくる。
ターゲットの年齢層をあげるならどうも尻切れトンボ的(エピソードの後の一人になった大学行ったとまとめちまってる
ところが重要な気がします)だし、若い人間にはやっぱり受けないでしょう。

どうも帯に短し感がありますね。
長さ的にも需要が見込めないしし。
無駄がなくて上手いだけに更に残念な感じ。
あと、先の展開なんて人に聞いたってろくなことになりませんよ?w

つんつん
flh2-133-200-2-161.tky.mesh.ad.jp

こんばんは。ささっと読ませていただきました。ささっとだなんて失礼な感じをお許しください。純太が登場したときに現在の夫かなと先走ってしまいましたがどうやらそうではないらしい。結婚生活については描かれておらず、なので桃つながりの回想でしかないのがとても惜しいと思いました。青春と結婚の対比のようなものが描かれているとより面白くなるのでは思いました。

miya
sp1-75-0-221.msc.spmode.ne.jp

陽炎のようね 様

コメントありがとうございます。
私は自分が学生のときには、いまが青春だなんて微塵も考えることがありませんでした。
なので自らの出来事を青春という名目で噛みしめるなら、懐古する形になるのが自然かな、と思った次第です。

miya
sp1-75-0-221.msc.spmode.ne.jp

つんつん様

コメントありがとうございます。
たしかに最後に現在に戻ってきているのにも関わらず、シーンがなにもないのは書き急いでしまったかもしれません。
ありがとうございました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内