作家でごはん!鍛練場
椎名

ツチノコを探して

 マンションのエントランスでポストの中を見ると、一通の封筒が入っていた。差出人は恋人の京子だった。階段をのぼりながら、封筒の中を揺らしてみる。何枚か写真が入っているようだ。部屋の鍵を開けて、中に入る。ここ一週間、京子は休暇を取って奈良に旅行に行っていた。なんでまた奈良に行ったのか、まだ教えてもらっていない。
 僕らは大学生の時、オカルト研究会で出会った。僕は高校生の時、心霊体験をしたことがあった。部屋にあった姉のぬいぐるみがしゃべったのだ。あの時のことを未だに鮮明に覚えている。僕はその時、恐怖を感じると同時に感動していた。それはこの世とは不思議に満ちたものだということに気づいたからだった。
 オカルト研究会に入ったものの、幽霊の存在を信じてくれる人はいなかった。しかし一年後、新入生の京子が入部してきた。彼女は入部して早々ツチノコを探すと言っていた。僕らはすぐに意気投合した。
 ツチノコ。もしかしたら彼女は未だにツチノコを探しているのだろうか。部屋にあったハサミで封を切って、中を見ると、一枚の手紙と山の風景の写真が数枚と新幹線の往復切符が入っていた。京子の手紙にはやはりツチノコを探していると書いてあった。新幹線の切符は東京駅から京都駅までのものだ。写真には山の中の木々が映っている。よく見ると、中心には蛇がいた。
 僕はテーブルの上に置いてあったスマートフォンで京子に電話をかけた。数回の着信音の後、京子は電話に出た。
「もしもし」と彼女は言った。
「ツチノコはいた?」と僕は言った。
「手紙届いたんだ。今探しているの。なぜかわからないけれど、今日は見つかる気がするんだよね」
「新幹線のチケットが入っていたけど」
「圭介君も来てよ。なんか一人では駄目だったけど、二人なら見つかる気がする」
 京子は真面目な口調でそう言った。到底僕には見つかるとは思えなかったが、その時、高校生の頃の心霊体験を思い出した。理由はわからないけれど、僕は少し奈良に行きたくなった。
 電話が切れると僕は寝室で一日分の着替えをボストンバッグに詰めた。財布とスマートフォンをポケットに入れ、部屋を出る。午前中の日差しは強かった。もうじき夏がやってくる。こんな時期に奈良に行くのもどうかと思ったが、僕は鍵を閉めて階段を下りた。
 エントランスを抜けると、主婦が犬の散歩をしているのが視界に入った。僕は犬の様子をじっと観察した。犬は当たり前に存在しているが、そもそもなんで犬が存在しているのかはわからない。もしかしたら、ツチノコもいるのではないか。

 東京駅に着くと、人が多かった。スーツを着た人もいれば、普通の服を着てスーツケースを押している人もいた。人混みの中を歩いていく。ホームに行く前に弁当とお茶を売店で買った。電光掲示板を見ると後十分で新幹線が来る。僕はエスカレーターに乗り、ホームを歩いて列に並んだ。新幹線の中は半分くらいの席が空いていたので、窓際の席に座った。
 窓の外はビルが並んでいた。あらためてこうして東京の風景を眺めると僕の地元とはだいぶ違うなと思う。田んぼや山や川の風景は東京にはない。でも長い間東京に住んでいたせいか、ビルや住宅やアスファルトの道路がずっと続いていく景色にも慣れていた。
 なんで京子は奈良を選んだのだろう。彼女はいろいろ本を読むタイプだったが、ツチノコが奈良にいるという情報を見つけたのだろうか。スマートフォンでツチノコと奈良を検索してみたが、特にそれらが関係している情報は見当たらなかった。
 新幹線は動き出し、徐々にスピードが増していった。僕は買った弁当を開けて、お茶を一口飲んだ。僕の隣には人がいなかった。
 弁当を食べ終えると、ぼおっと窓の外の風景を眺めた。少しだけ東京駅とは光景が違った。見えるのは主に住宅だ。
 京子は今もツチノコを探しているのだろうか。スマートフォンで彼女にメッセージを送ってみた。返事はすぐに返ってきた。今はホテルにいるということだった。レンタカーを借りているらしい。僕が着いたら一緒に山に行こうとメッセージが来た。
 新幹線は静岡を通り過ぎた。僕は車内販売でコーヒーを買った。コーヒーは苦かったが今はなんだか悪くない味に感じた。
 京都駅に到着すると、僕はホームに降りた。昔、京子と京都に来たことがある。あの頃は京都の町を歩き、寺や神社を訪れた。記憶は薄れていたが、当時の風景をいくらかは思い出すことができる。
 京都駅から在来線に乗って、京子のいる駅まで向かった。車内の雰囲気はどこか東京と違う気がする。まるで時間がゆっくりと流れているような落ち着いた雰囲気だった。
 電車を乗り継いで、席に座っていると、制服を着た高校生の姿があった。彼らは席に座って、スマートフォンで何かをして、時々話をしていた。
 京子の待っている駅に着くと、僕は階段を下りて改札へ向かった。京子は白いポロシャツを着ていて、すぐに見つかった。
「待った?」と僕は聞いた。
「そんなに待ってないよ。大体来る時間は把握していたから」
「これから山に行くの?」
「うん。日が暮れるまでだからあまり時間はないわ」
 僕らは駅から京子が借りた車のところまで歩いて行った。

 京子は赤いレンタカーを運転していた。僕は助手席に座り、街の風景を眺めた。前方に木々が生い茂った山が見える。ところどころに住宅が点在していて、田んぼや畑が見えた。
「なんで奈良に?」
 運転している京子に聞いた。
「私が初めてツチノコを見た場所だから。小学生の時、奈良の山に来た時、ツチノコに出くわしたの。それ以来私の脳裏をツチノコが離れないの」
 しばらくの間、京子は車を運転し、山のふもとに僕らは着いた。京子はリュックサックを背負った。僕らは山へと向かっていった。砂利道の上を歩いていくと辺りは木々に覆われていた。
「どこにツチノコはいるんだろう?」と僕は聞いた。
「私が見た時は山道だったから、上りましょうよ」
 僕らは先へ先へと進み山道に入った。土の狭い道だった。僕は注意深く辺りを観察した。もしかしたら突然ツチノコが出てくるかもしれない。
 山道を歩いていると少しずつ風が冷たくなっているのがわかった。空を見ると少しだけオレンジ色になっていた。もうじき夕方になろうとしていた。
 僕らは山道にいたが、引き返すことにした。京子はじっと下を見つめたまま、何かを考えているようだった。
「今日は残念だったね」と僕は言った。
「別に悲しくはないわ。こうやってツチノコを探すのは楽しいからね。送った写真みたいに私は蛇を見つけたの」
 京子はそう言って、先へ歩いて行った。僕は彼女の後を着いて行った。山を下りると、ちょうど向こうに沈んでいく太陽が見えた。オレンジ色の光が辺りを包み込んでいる。
 京子は車に乗り、僕はまた助手席に乗った。
「明日も探す?」と僕は聞いた。
 車は徐々に山から離れていく。
「ううん。もうこれで満足したから。私は何を探したかったんだろう。でも最後は圭介君と一緒に見つけたかったんだよね」
「そっか」
 車は町を通り過ぎて、ホテルの前に着いた。車を降りて、僕はボストンバックを手に持った。もう辺りは日が暮れて真っ暗になっていた。ふと空を見上げると銀色の星が輝いている。丸い月も浮かんでいた。風は涼しかった。少しだけ草の匂いがする。
 辺りの風景を今一度眺めると、どこか既視感があった。この辺りは初めてきたはずなのに。不思議に思いながら、僕は京子に着いて行った。彼女はいつもよりも元気に見えた。ツチノコを見つけられなかったのは残念だと思うが、彼女なりに前向きにとらえているのかもしれない。

ツチノコを探して

執筆の狙い

作者 椎名
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自由に小説を書いてみようという感じで執筆しました。

コメント

秋田寒男
133-106-91-154.mvno.rakuten.jp

私は妖怪に会ったことがあります。その時を思い出しました。

天狗倒しという奇怪な現象を出す妖怪で、すぐ妖怪の仕業だと分かりました。本で知っていたのです。
山の中でその妖怪と会ったのですが、凄まじい音でした。この事はまだ誰にも言ったことがないのですが、この小説がその事を思い出させてくれました。初めて人に言います。

私はこの世に神秘的な事はあると思っています。


小説としては、素敵な話に思えました。

椎名
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秋田寒男さん

コメントありがとうございます。何かしら生きていれば神秘的なことに巡り合うことは僕もあると思います。天狗倒しという妖怪は初めて聞きました。調べてみようと思います。

夜の雨
ai208243.d.west.v6connect.net

「ツチノコを探して」読みました。

私なりに「ツチノコを探して」の意味が理解できました。
「ツチノコを探す」という京子は奈良でツチノコを見ている。
また「ツチノコを探す」ということは、第三者からだと、存在するかしないかの生き物を探すということだから、ある意味ツチノコ探しに夢がある。
京子は自分の夢を追い求めて奈良にやってきている。

主人公の圭介は、高校生の時に、姉のぬいぐるみがしゃべるという心霊体験をしている。
この心霊体験で、圭介は京子と同じ世界(価値観の共有)の人間ということになる。
>京子はツチノコを見ている。
>圭介はぬいぐるみがしゃべる心霊体験をしている。

その恋人の京子が奈良から連絡してきた。
それで圭介も奈良に行くことにした。
ツチノコは見つからなかったが、共通の話題で盛り上がったので京子は満足した。
ツチノコで二人のきずなは一層深くなった。

ということで、「ツチノコを探して」という作品の意味が理解できたのではないかと感じました。

結局のところ恋愛感情も目に見えぬものだし、存在しているのかしていないのか、確かめにくいものである。
ツチノコも、また心霊体験も、どこか遠いところでつながっているのではないだろうか、
もちろんこれは誰でもが体験できるものではない、京子と圭介という霊能力の強い存在だから引き寄せるものがあったのではないのか。

以上です。

椎名
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夜の雨さん

コメントありがとうございます。確かに恋愛感情も目には見えないし、当たり前のように生きていても不確かな想像に頼らないといけないことは多いように感じます。今回はツチノコをテーマに書いてみたのですが、現実の不確かさをテーマにしてもよかったかもと思いました。

古代ローマ市民
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ロマンがあって、ほのぼのとしていて、いい作品だと思いました。

わくわくする気持ちっていつまでも持ち続けたいですよね。

椎名
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古代ローマ市民さん

コメントありがとうございます。ツチノコを探すということで、ある意味ロマンを追い求める作品にしました。全体的には確かにほのぼのとした作品かもしれません。もう少し何かテーマがあってもよかったかなと思いました。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

拝読いたしました。

恋人同士で同じ趣味があるのは良いですね。

彼女はある意味、彼がどこまで付き合ってくれるのか確かめたかったのでしょうか。

つちのこを探す、などと言うと、馬鹿馬鹿しいと一笑に付すような相手なら、長くは続かないですし。
主人公も過去に霊体験をしたことで、そういうことに抵抗がなかったのですね。

理由はどうであれ、好きな相手と二人きりで旅が出来るのはなによりだと思います。。

読ませていただきまして、ありがとうございました。

椎名
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日乃万里永さん

コメントありがとうございます。作品の内容については意図していない部分もありましたが、そのように解釈していただきよかったと思います。ツチノコを探すというのはかなり突飛なことなので、もう少し何か現実的なことでもよかったかなと思いました。

ぷーでる
91.207.173.150

確か、ツチノコを探す会という団体さんが実在していたそうで……
今もあるか、どうかは知りませんが。

昔、ツチノコに関する本を読み漁った事があります。
漫画のドラえもんでは、ツチノコが未来ではペットになっていて
ツチノコに犬の様にリードでつないで、皆があちこちで散歩していた。

雑誌の資料ですが、キモ笑ってしまったのは、ツチノコまんじゅうが存在していた事。(食欲失せるカタチ)さらに、ツチノコ盆踊りまでありました。(変な踊りだなぁ)
何処かは忘れましたが、ツチノコで地域活性化運動しているところがあるみたい。

そして、ツチノコは、元々日本神話に出てくる妖怪みたいな存在だったみたいです。
古事記とか日本書紀に書いてあるらしいですよ。

椎名
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ぷーでるさん

コメントありがとうございます。ドラえもんでは確かにツチノコが出てくる話はありますよね。日本神話が由来だったんですか。その辺は詳しく調べてみるとおもしろいかもしれません。

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