作家でごはん!鍛練場
みさきち

父と娘と世界征服-序章-

 深夜、人気のない広い公園の片隅。切れかけた外灯が、パチパチと音を立て、点いたり、消えたりを繰り返している。

 そんな外灯に照らされながら、立ち尽くす少女。特筆すべきは、その姿。

 闇色のワンピースに漆黒のマント。そして、暗黒の大きなとんがり帽子。昔見た中世を舞台としたファンタジー映画に出てくる魔女そのもの。その全身黒ずくめの格好は外灯の光が無ければ、暗闇に紛れてしまうだろう。

 聞いたこともない言語でブツブツと呪文を唱えながら、右手に持った短い木製の棒を頭上高く掲げ、ゆっくりと左右に振っている。

 そして全身が光り輝くと、手に持った木の棒を前に勢いよく振り下ろした。その瞬間、耳を劈く雷鳴が轟き、稲妻が聳え立つ巨木へと落ちた。

 あれは十二年程前の或る夜のこと。
 三歳になる愛娘のこんな言葉から始まった――――――。


***


「パパ、あたし、魔法使いになりたい」

 テレビで放送していた魔法使いの出るファンタジー映画を見終わった娘が、瞳をキラキラ輝かせながら、私に言った。目の中に入れても痛くない愛娘の夢を守るのは父親の役目。

「おっ、そうか。頑張るんだぞ。ミカならきっとなれる」
「うん、頑張る」
「パパも手伝うからな。諦めなければ夢は叶うんだ」
「やったぁ、パパ、大好きぃ」

 その日から、娘と私の特訓《魔法使いごっこ》が始まった。平日の夜や休日には出来る限り、共に遊、もとい、特訓をした。シーツを巻いてマントにし、玩具の魔法ステッキを振りまわす。他愛のない特訓。愛娘との楽しい大切な時間だ。

 そんな娘のために、巷で流行っているらしい魔法少女アニメの主人公が着ている可愛らしいピンク色の衣装をお土産に買ってきたが、気に入らないらしく、拗ねてしまった。

 お店の店員さん曰く、子供に大人気ですとのことだったので購入を決めたのだが失敗したようだ。そこで娘に何が嫌だったのかを尋ねると、どうやらピンクよりも黒が良かったらしい。なので、取り急ぎ返品して黒を買い求めようとしたが、黒の用意はないと言われてしまった。

 妻に相談すると、では、娘の持っている服を黒く染めましょうと言うので、天気の良い休日、家族三人で染料を使って小さなワンピースを二枚ほど黒く染め上げた。この手作り感が良かったらしく娘は飛び跳ねて喜び、染め上がった黒のワンピースを着て、くるくると回転し、スカートをたなびかせていた。

 それから時が過ぎ、娘も中学生になった。魔法と言うものがこの世には存在しないことは小学校二年生頃に気付いたらしい。その頃から特訓する回数が減り、いまではなくなってしまった。父親としては寂しい限りだが、娘の成長は喜ばしいものだ。

 しかし、中学生になった今でも魔法関連の事柄は好きらしく、時折魔法使いの出てくる小説や漫画を読んでいた。それに、あの子供の頃に見たファンタジー映画のDVDを購入し、今でも繰り返し見ているようだ。余程好きらしい。憧れのキャラクターでもいるのだろうか。

 中学三年にもなると、海外の魔法の歴史、文献などを図書館などから借り、読み耽っていた。そのせいか最近では愛娘との会話がめっきり減ってしまい、寂しく思っていたが、突然、娘が虫取りに行きたいと頼って来た。娘に頼られた父は、頑張らなければならない。正直嬉しい。

 たしかにこの辺りは街中なので、虫取りをするには適していない。中学生にもなった娘が虫取りとは驚いたが、生物の授業か何かの課題ではと思い、特に深くは考えなかった。生物部にでも入ったのかと尋ねたが、娘は、『うん、まぁ』とだけしか言わなかったので、それ以上追及しなかった。

 それから、数か月に一度、定期的に娘と共に自宅から車で三十分程の森まで昆虫採集に来るようになった。娘はセミやバッタ、昆虫以外にもヤモリやイモリ、果ては蛇までも虫取り網で追い掛け回して捕獲していた。いったいどんな生物の課題なのだろうか。私は虫や蛇などが苦手だったので、全く捕獲できず、娘に戦力外通告をだされ、役立たずだった。娘よ、すまん。

 そしてそんな或る日、なんと我が可愛い愛娘は、私のために手料理まで作るようになり、鍋で何かをグツグツと煮た煮物や、真っ黒な蜥蜴の丸焼きに似たものの料理を振る舞ってくれた。あくまで、蜥蜴のように見える何かの焼き物だ。イモリの黒焼きなどでは断じてない。

 それから、なぜか妻がいないとき限定のお食事会は定期的に開かれるようになった。愛娘の手料理。愛がふんだんに込もっているせいか、少し苦いが、私にとってはとても美味しい。見た目など些細な問題だ。グツグツと煮立った怪しい色の鍋料理に入っている具を箸で摘まみ上げ、これは何かな? と聞いてみたが、『うん、まぁ、でも、美味しいから』とだけ言ったので、娘に理解のある父親としてそれ以上は聞かず、口の中に放り込んだ。酒のつまみには丁度いい感じの苦みだ。娘の手料理を食べるようになって、すこぶる体の調子も良くなったように感じるので問題ない。やはり娘の愛は偉大だ。

 それからも、娘は聞いたこともない言語を勉強していたり、工作の課題なのか、木の棒を杖のような形に削ったり、竹箒を弄ったりとDIYにも精を出していた。うーむ、勉強熱心な良い娘だ。もちろん学校での成績も悪くない。

 そして高校生になった或る夏の深夜、娘に内緒の話があるから公園へ行こうと誘われ、そして――――――。


***


 落雷で、燃え上がった巨木を背にマントを翻して、立ちつくす愛娘。パチパチと火の粉が舞い散り、辺りをオレンジ色に染め上げていた。

「あはははっ、やったぁ、パパ、見てみて!! 成功っ!! 凄いでしょ!! 驚いた? ずっと今日のサプライズのために内緒にしてたんだからぁ!! ほらっ、こんなこともできるよ!!」

 そういうと呆然としている私などお構いなしに、ハイテンションな娘は竹箒の柄を横にしてお尻にあて、座るような姿勢を取るとゆっくりと地面から離れ、浮かび上がった。そしてさも当然かの様に三メートルほどの空中でゆらゆらと浮いている。

 頭の中が真っ白になり、何を言えばいいのか分からず、とりあえず、高い所は危ないから降りなさいと言った。娘は、はーいと言って、ゆっくりと降りて、私の前に立った。

「パパがきっとなれるって言ってくれたから、諦めず頑張れたんだよ!!」

 と、娘は飛び切りの笑顔で言った。

「パパで、実験、もとい、試食して貰ったあたしの料理は、魔力を上げる効能があるの。体にとっても良い食べ物なんだよ、体の調子良くなったでしょ?」

 たしかに体の調子は良くなった。娘の夢も叶って万々歳なのだが。本当にこれで良かったのか? 愛娘が破壊兵器のようになってしまった。ほら、こんなこともと言いながら、今度はDIYで作ったであろう杖から炎を放射し、辺りの林を笑顔で焼き尽くしている。

 それにしても魔力を上げると体にいいのか。知らなかった。と言うか、私にも魔力とかあったのか。教えてもらえば魔法も使えるようになるのだろうか?

 いやいやいや、待て待て待て。そうじゃない。現実逃避している場合じゃない。魔法など存在するはずがない。テレビなどで、魔法使いや超能力者を自称する人物はいるが、誰が信じるだろう。絶対、種があるのだ。しかも、彼らがやることと言ったら、スプーンを曲げたり、幽霊が見えると言ったり、予知ができます程度のことだ。どうみても怪しさ満点の方々で、こんな自然に箒に乗って空を飛び回り、自作の木製杖で雷を落とし、火炎の魔法で辺り一面を焼き払うなど、ド派手な事ができるわけがない。

 図書館や市販で売っているマンガや小説、文献から読み解き、本当に魔法使いになるなんて、誰が想像できるだろう。いや、隠れているだけで、本当はそういう方々は結構いるのだろうか? もしそうならそんな危ない書物など焚書すべきだろう。

 余りに炎が激しくなったので、娘に戻るように言い、その場から逃げ出す。携帯で、公園が燃えていると消防署に連絡し、安全な場所まで非難する。恐らく、山火事のような自然発火現象として処理されるだろう。いや、そうなって貰わないと困る。愛娘を放火犯にするわけにはいかない。人的被害は無いし、多分大丈夫だろう。多分。

 ベンチに座り、頭を整理しながら娘に問いかける。

「あっ、えっと、ミカ、ちゃん?」
「ん? なに? パパ」

 浮いている箒を椅子のようにして座り、揺ら揺ら浮いている娘。その顔は自信に満ち溢れていた。

「ミ、ミカちゃん、魔法、使えるようになったんだね」
「うん、うん、凄いでしょ? もっともっと強くなるからね!!」
「あぁ、うん。凄いね。よく頑張ったね。おめでとう」
「でしょでしょ? 頑張ったよ、あたし、えへへ」

 はにかむ愛娘は魔法ほど成長しなかった胸を精一杯張り答える。遠くの方で消防車とパトカーのサイレンが聞こえる。


***


「でもね、公園を燃やしたりしたらダメだよ。ちゃんと安全に、周りに迷惑にならないようにね」
「うん、わかった。これから気を付ける。まだ、あたしが魔法使いだってことは秘密だもんね」
「うん、そうしてね。で、ミカちゃんは、これからその魔法で、何がしたいのかな?」
「あははっ、パパも知ってるでしょ、世界征服よ!!」
 
 思いもよらぬ、言葉に思わず聞き返してしまう。

「え?」
「世界征服だってば、世界を支配するの!!」
「ん? パパ、そんなの知らないよ?」
「えーっ、だって、一緒に見たじゃない、映画」

 子供の頃に一緒に見た魔法使いの出てくるファンタジー映画を思い出し、気付く。そう、その映画に出てくる黒い衣装の魔法使いは、悪役で、世界征服を目論み、破壊の限りを尽くすキャラクターだった。そしてその目論見は主人公たちの活躍で潰えるのだ。額に冷や汗が流れ落ちる。

「だからぁ、その野望を、あたしが引き継ぐの。世界征服頑張る!!」

 両手を腰に当て、世界征服を宣言する娘。
 魔法使いになるという有り得ない夢すら叶えてしまった。
 世界征服も実現してしまうかもしれない。

 もうこの愛する娘を、どう導けばよいのか。

「あっ、えっと。ミカちゃん?」
「ん? なに?」
「とりあえず、帰って、家族会議。ママのお話も聞こうか」

 突然のことで、凡人の私には、この程度の事しか言うことが出来なかった。そういえば、いつも妻には甘やかし過ぎだと怒られていた。

 でも、仕方がない。

 世界で一番大切な愛娘の願いを叶えたいと思うのが父親だろう。

 次は世界征服ごっこから始めることになるのかな?

父と娘と世界征服-序章-

執筆の狙い

作者 みさきち
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読んで頂き有難う御座います。

感想やアドバイスが頂けたら嬉しいです。

稚拙な小説ですが、宜しくお願いします。

コメント

黒沢ひろひと
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スッキリとした文体だし、テンポも良いから読みやすかったです。
なんだかよくわからないものを食べさせられても「愛は偉大」とか言っちゃったり、浮いている娘に「とりあえず、高い所は危ない」とか見当違いの注意をするお父さん。
かたや、確信犯的にパパに実験、もとい、試食させたり、辺りの林を笑顔で焼き尽くす無邪気な娘さん。天然×天然のやり取りが描けていて、読んでいて楽しかったです。

冒頭部分だけだと、「あれ? また異世界ものかしら?」なんて思いましたが、ちょっと裏切られる形で良い感じでした。
「世界征服編」も書くのでしたら僕は読んでみたいです。変なもの食わされたお父さんの体調は心配ですが(笑)。

夜の雨
ai196146.d.west.v6connect.net

「父と娘と世界征服-序章-」読みました。

小説にもいろいろあります、たとえば純文学、エンタメ、児童文学、童話、ほか諸々といった具合です。
文章などは、小説の種類などにより、固いものから柔らかく読みやすいものまで、これまた多彩です。
しかしいえることは、どの小説でも、読み手にいかに中身を伝えるかです。
題材を伝えるかということになると思います。
それらが伝わるような文章がよい。

そこで御作ですが、ストーリーが伝わる題材が伝わるような書き方になっていると思います。

幼い子供が「魔法使いの出るファンタジー映画」を見て、魔法使いになる事を夢に見て育つ、そこに父親が絡む、という展開になっています。
このあたりが考えなくても読めるような優しい文章で書かれているのではないかと思いました。
御作を読むとすらすらと内容がわかるような書き方だし、親子のきずななども描こうとしているようなので、作者さんは、書ける方ではないかと思います、物語が。

ただ小説はストーリーと題材が伝わるだけでよいのか、ということにもなりますが、このあたりが読者層はどこなのかということだと思います。

読者層により、同じような魔法使いの話でも書き方が違ってきます。
小学生低学年、高学年、中学生、高校生、青年層、大人という具合に読者層の狙いにより、娘と父親が魔法を使う話でも、面白く、または、深くすることは可能です。
人間ドラマと背景次第ということになると思います。
また、ひとつひとつのエピソードを、どの程度書きこむのかということとか。

気になったのは、母親が姿を現さなかったことですが。
狙って書いているのなら良いのですが、そうでないのなら、母親も存在しているのだから、出さないと違和感があります。

耳を劈く雷鳴が轟き ←耳をつんざく雷鳴が轟き 
劈く(つんざく) ← 読みにくい漢字は使わない方がよい。 また、漢字とひらがなの関係は内容により、適切な数にした方がよい。小説を見たら、どの程度、漢字が使われているかがわかる。

まとめ
ストーリーはわかるような書き方になっている。
ただ飛ばすとエピソードが薄くなり、印象が弱くなる。


それでは、頑張ってください。

みさきち
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黒沢ひろひと様

読んで下さり有難う御座います。
楽しんで頂けたのなら、良かったです。

自分が書いているものが読者様にとって楽しんで貰えるものなのかいつも不安に感じていますので。

「世界征服編」もアイディアが出ましたら書こうと思います。
書きあがった際は、またここに上げさせて頂きますので、また感想等頂けたら嬉しいです。

有難う御座いました。

みさきち
p955129-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

夜の雨様

読んで下さり有難う御座います。

メインターゲットは、小学校高学年~中学生、後は疲れた大人がほっこり出来ればと考えて書いております。

なので、なるべく分かりやすく、読みやすい文章をと心がけているつもりですが、なかなか難しいですね。あと、どの程度エピソードを深堀すればよいのかといつも悩んでいます。

あまり書き過ぎると、読んでる途中で読者が飽きてしまわないかとか考えてしまうと、削りすぎてしまう場合も多々あって、なかなか調整が難しいですね。今後の課題です。


母親については、常識的な所謂ツッコミ役として登場させるつもりでしたが、どうにもセリフ回しが上手く思いつかず、断念してしまいました。結局推敲している内に、どんどん削ってしまい、ほぼ空気となってしまいました。もっと生かせるように精進します。

『劈く』、そうですね。指摘されてなるほどと思いました。文章の漢字やひらがなの数のバランスも、今後は念頭に入れて執筆したいと思います。


アドバイス、大変ためになりました。
また次回の作品でも、アドバイス頂けたら嬉しいです。

有難う御座いました。
                                 

茅場義彦
M106072175192.v4.enabler.ne.jp

センスあるとおもうよおおおお

みさきち
p955129-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

茅場義彦様

読んで下さり有難う御座います。


そう言って頂けて、嬉しいです。

いつも自信が無く、不安で仕方がないもので。


また、こちらに投稿した際に読んで頂けたら幸いです。


有難う御座いました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

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