作家でごはん!鍛練場
ぽっちゅす

社会復讐型犯罪者の男、発達障害の女

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※携帯小説の文体が苦手な方は、回れ右して、他の作品へ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(起:無関心なおめかし)
小野川有那がクローゼットの中で一番気に入っている服は、トリー・バーチのブラウスと白スカートで、2020年に買ったものだったが、まだ流行遅れという事もなかった。とはいえ、本日集まるメンツが、慶應大学時代の悪女仲間だったしーー有那はその中でもクールな女として、お一目置かれていたーーなんといっても、グループのリーダーだった宮田紗夜が御曹司どもを調達して開催するパーティなのだった。そこで、有那はジバンシイのデイドレスを着て、普段はつけないゲランの香りまで纏わせて、タクシーに乗り込んだ。
「お姉ちゃん。イケメンの金持ちいたら、私にも紹介してくれない?」玄関を出るときに、妹の茉莉が泣き付くように言ってきた言葉を思い出しながら、高級ブランドショップの建ち並ぶ窓外の表参道の街並みを眺める。
「ふうん。嫌かな、面倒臭い。そもそも、美味しいワインが飲めれば、それで十分だし」有那はつきはなすようにそれに答えた。実際、妹にもイケメンにもたいした興味などない。

(承:高級レストランの前で)
「やばい、5年ぶり!」中村加那子が両手を広げて黄色い声をあげてきた。いや、いまはたしか東京電力の副部長だかと結婚して、長谷川加那子に苗字が変わっていた。彼女は驚くべきことに赤ん坊を抱いていた。「悪女会の復活ね」
「5年はやばい、ほんとにマジで。生きてたか加那子」有那もはしゃいで見せながらも、冷めた感情で、この女は正気なのかと思いつつ、5年ごしの再開を果たした旧友のハグを受け入れた。そして、当時の掛け声をあげる。「ゴーゴー、ビッチーズ!」
2人はめちゃくちゃに笑った。そして、有那はふぅ!と大きく一息吐いた。
「それで? その赤ちゃんは? あんたの子?」有那は、2人のハグの間に挟まれて、きゃっ、きゃっ、と喜んでいた温かな肉の塊を撫でてやってから、好奇心に目を輝かせているふりをしつつ、旧友の顔を覗き込んだ。
「ーーえっと、私の子。この子はどうしても連れてくるしかなかったのよ」加那子はみんなには申し訳ないと思っている風に、弱々しく笑った。「実は、私もう旦那とは別れちゃってて。ベビーシッターにバイト代を払えるような余裕もないの。だからなんかもう、今日はちょっと、お金持ちの男が来るっていうし……」
「あら、大変じゃん。だけど、せめて、ご両親に赤ちゃんをあずけられなかったの?」有那は、自分の中に加那子への軽蔑の感情も、その赤ちゃんへの憐れみもまるで湧き上がってこないのを自覚しつつ、聞いてみた。
「ほら、うちの実家静岡じゃん。それに、両親とは、いま仲悪くなっちゃってて、ーー」
「ゴーゴー、ビッチーズ!!」
話の途中で、2人の空気感を一気に変えるような、活力に満ちた紗夜のハスキーボイスが耳に届いてきた。有那は、手を振り返した。ちょうどいいところに来てくれたものだと思った。最後まで加那子の話を聞いたところで、別段、何かしてやろうという気持ちは起こらなかっただろうから。

(転:分類【社会復讐型犯罪者】)
フランス料理のリストランテ(グルヌイユ)に隣接するパーキングに黒塗りのアルファードが停めてあった。紗夜の夫の車で、彼は芸能プロダクションを経営していた。ガラの悪い連中が好みそうな、威圧感のある大きな車だったが、紗夜夫婦と子ども達、同居している両親が過ごすアットホームな車内の様子が、有那の頭に浮かんできた。チャイルドシートには熊のシェリーメイが腰掛けている。
「エクレアちゃん、お元気でしゅかぁ?」
まるで素性を隠したい芸能人のように巨大なサングラスをかけた紗夜が、加那子の抱いている赤ちゃんの背中をぽんぽんと叩いた。
加那子が我が子の手首を摘んで、ぷっくりしたその手を振ってご挨拶を返してやる。
「元気でしゅよー。ねー?」
2人のやりとりを聞いていて、有那は苦笑いした。エクレア。聞けば、永久恋愛と書いて、そう読ませるのだそうだ。

空腹を覚えてきた有那は、店頭に置かれたブラックボードのインフォメーションを眺めた。
「本日、最高級山形牛
ランチコース
¥20000〜」
有那は舌に香り高いボルドーワインの真っ赤な絨毯が広がるのを想像していた。
そろそろ店内へ入ろうと呼びかけようとした。
そのとき、背後から悲鳴が聞こえた。
「逃げて!」と紗夜の甲高い声が響き、有那をボルドーワインの空想から現実に呼び戻した。
とっさに振り返ると、友人たちの前にタンクトップに短パンをはいた大男が立っているのが見えた。
有那たち上流階級の世界とは、まったく接点などないタイプの薄汚いデブで、紗夜に体当たりをしているようにみえた。
紗夜は、加那子と赤ちゃんを守るように、2人の前に立ちはだかり、血走った目を見開き、歯を剥き出しにして唸っている。
紗夜の真っ白なドレスの腹がみるみるうちに赤く染まっていった。
到底現実とは思えないシュールな光景だった。
男が紗夜の腹から何かを引き抜き、今度はそれを、泣き喚く加那子に振り下ろそうとした。だが、次の一撃も紗夜が受け止めた。鎖骨のあたりにそれは突き刺さった。サバイバルナイフだった。
「私の友達に触るな!」
紗夜が叫んだ。

(結:生きる側、死ぬ側)
有那は、友人たちの阿鼻叫喚をいつも通りの冷静さを保ったまま、眺めていた。
恐怖に支配されてパニックを起こすこともなかった。
この狂気の沙汰に格別の興味があったわけではなかったが、逃げ出すというのも、貴重な機会を棒にふる気がした。そんな気持ちから、友人が殺される様子を観察してみるのもいいか、と思った。
さしあたっては、建物の陰に身を潜めることにした。

ーー人の命の終わりなどあっけなかった。
薄汚いデブが、雄叫びをあげながら、紗夜の心臓めがけて、サバイバルナイフを突き立てた。
おそらく、この惨劇が始まって30秒も経っていないはずだ。もしかすると、まだ15秒程度かも知れなかった。
ドレスの裾を持ち上げてお辞儀でもするようにふわりと頭を下げてから、紗夜はその場に崩れ落ちた。
無惨な紗夜のすぐ側で、抱っこ紐からすっぽ抜けた赤ん坊が泣き喚いている。
デブ男も心の中では、赤ん坊のように泣き喚き、何もかもに決着をつけてしまいたい様子だった。この醜い『かまってちゃん』は、血塗られた手で次に加那子の髪をひっ掴む。
子どもを生んでもなお崩れることのなかった、セクシーにくびれた加那子のお腹が、ナイフの抜き刺しによって、ズタズタにされていった。

街は騒然としている。
突如起きた狂行に遭遇した人々は逃げまどうか、あるいは、安全圏から野次馬をしていた。
車道の傍に白いセダンを寄せて、殺人の光景を楽しんでいる若い男たちもいた。運転手は興奮し、奇声を発している。
とはいえ、皆、赤ん坊がどうなるのか。誰か助けてやらないのか。そう考えているには違いなかった。何か、隙さえあれば、誰かが赤ん坊を救い出すかも知れないが……

ーーそのとき、加那子が逆襲にでた。最後の力を振り絞り、我が子を救おうというのか、金切り声で愛娘の名前を叫びながら、両手の親指をデブの両目に突き入れた。パーティのために念入りに施した可愛らしいピンクのネイル。加那子は、目玉を抉り出そうとするように、親指を押し込んでいく。
デブが仔象のような悲鳴を発して、ナイフを手から落とした。

可愛らしいジェルネイルで、醜いデブを殺そうとしている加那子を見ていた有那は、ふとあの赤ん坊を助けてもいい、という気まぐれな気持ちを起こした。
自分でも理由などはわからない。
命が尊いなどという考えは、さらさら持ち合わせていないし、友人や赤ん坊が可哀想だという気持ちもまるでない。
だが、有那は建物の陰から姿を晒し、赤ん坊の元へ走っていた。両手を首の後ろと小さなお尻に添えて抱え上げると、今度は車道へ向かって駆け出した。
「開けて! 早く、早く!」
有那は、路上駐車していた白いセダンに駆け寄ると、車内の若者たちに向かって叫んだ。
後部座席に乗り込んだ有那は、「エクレアよ!」と言って、男たちの目に子どもを掲げた。
彼らは、この女は頭がおかしくなってるのか?という顔で、警戒気味に有那を見返した。
リストランテ『グルヌイユ』の方へ視線を戻すと、薄汚いデブが喚き散らしながら、こちらへ走ってこようとしていた。
「早く、車を出して!」有那に怒鳴りつけられて、運転手が車を急発車させる。
歩道に倒れている加那子が血塗れの顔を上げ、こちらを見ていた。有那は泣き叫ぶエクレアのぷっくりとした腕を摘み上げると「元気でちゅよー、ねー?」と呟いて、母親に向かって手を振らせてやった。

社会復讐型犯罪者の男、発達障害の女

執筆の狙い

作者 ぽっちゅす
KD106154124136.au-net.ne.jp

発達障害を表すために淡々とした文体にしました。
物語をコンパクトにまとめようとした結果、箇条書き的になり、かなりぶつ切りな文章になってしまいました。うまい具合に凝縮させられません。

コメント

偏差値45
KD106154139192.au-net.ne.jp

詳細に書いてあったり、刺激的であったり、エクレアという赤ちゃんを
道具のように扱っている点で面白く読めましたね。
簡単に言えば、異常者×異常者ということなのでしょうね。

ぽっちゅす
KD106154120227.au-net.ne.jp

偏差値45さんへ

読んでいただき、ありがとうございます。

・詳細に書いてあるというのは、ブランド名や、家族構成などでしょうか。
これは、短い小説で効果的に感情移入してもらうためにそうしました。

・刺激的なのは、読み進んでもらうためですね。直接的に 自分の思う社会問題や 人間の心理を綴ると、独りよがりのくだらない愚痴みたいになっちゃいますよね。

・赤ちゃんを道具にしてます、確かに。赤ちゃんが殺される話とか、誰得?ってなっちゃうので、運命に翻弄されて強く生きていく将来を読者に想像してもらうよう工夫しました。

・異常者×異常者
犯罪心理学の本を読んだのが、これを書いたきっかけです。
警察関係者が学ぶ心理学です。プロファイリングなどもあり、かなり難しい内容ですが、興味深いです。
殺人者の方は、社会に恨みをもってます。誰にも認めてもらえないために爆発しちゃうタイプで、作家でごはんの中にもそういう方いますよね。
発達障害の知り合いがいるのですが、有那はその人がモデルです。
とんでもなくIQが高く、高学歴でクールです。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内