作家でごはん!鍛練場
わか

俺と草履

俺はふらふらとおぼつかない足取りで夜道を歩いていた。
頭の内側からじんじんとした痛みを感じる。酒が弱いくせに調子に乗って飲みすぎた。
何とかバス停につき、ベンチに腰を下ろす。

手持ち無沙汰を埋めるかのようにスマホをいじっていると、スッスッとかかとをする足音が聞こえてきた。足音のほうをちらっと見ると、そこには一足の下駄があった。

なんだ下駄か。俺の目は再びスマホに落ちる。

「え!?」思わず声を出し、二度見してしまった。バス停には俺以外の人はいない。
仕事の疲れとお酒のせいで幻でも見ているのだろうか。状況を理解できずにいた。

「お手本のようなリアクションやな」そうはっきりと聞こえた。俺はあたりを見回したが誰もいない。
「こっちやこっち」声の主はその下駄だった。下駄が喋った。考えられない光景を前に俺は固まってしまった。
「それにしてもあんた、さっきのリアクションめちゃめちゃよかったで。お笑い芸人なったらええやん。あんな教科書のような二度見できる人なかなかおらんで。けど、リアクションだけじゃお笑い芸人は無理か。兄ちゃんスーツ着てるけど会社員かなんかなん?」

なんで下駄が歩いて喋ってるんだ。夢?幻覚?最新のロボット?どこから突っ込んでいいかわからないでいると、「なあ、聞いてる?」と不満そうに下駄が言った。
「あ、すいません。状況が整理できなくて―」
「わしが喋ってるんがそんなおかしいか?」
「はい。下駄が喋るなんてありえないですよ」
「下駄ちゃうわ!わしは草履や!」
「どっちでもいいですよそんなこと」
「ええわけあるかい!下駄は底に二つの歯があって歩きにくいやろ。ほんで歩くときにカラカラうるさいねん。それに比べてわしは底が平らや。せやから歩きやすいし変な音もなれへん。どっちがいいかは一目瞭然やろ?」
「そんな違いがあったなんて知らなかったです」
「そんなんも知らんのかいな。ほんで兄ちゃんは草履と下駄どっちがええねん」
「草履のほうがいいですね」俺は圧力に押されて、そう答えるしかなかった。
「せやろ!やっぱ兄ちゃん見る目あるわ」
「あ、どうも」
「よし!決めた!しばらく兄ちゃんのとこで世話になるわ」
「はい?」
「そのまんまの意味や。しばらくわしの面倒見てくれや」
「面倒を見るってなにすればいいんですか」
「たまに手入れしてくれるだけでええねん。心配すんなて。迷惑はかけやんから」
俺は困惑していた。どうしていいかわからずにいると、遠くのほうからバスが来るのが見えた。
「お、バス来たで。兄ちゃんこれ乗るんやろ?」
「まぁ、はい」
「よし。ほんじゃこれ乗って帰ろか」
「あなたも乗るんですか?」
「当たり前やろ。歩いて帰れって言うんかいな。そんな殺生なこと言うなよ。わしここまで結構な距離歩いてきてもうしんどいねん」
「ではせめて、二人でいるとき以外はじっとしててください」
「安心せえ。わしかて大人や」
結局俺たちは二人でバスに乗って家まで帰った。

朝、アラームの音で目が覚めると寝室に昨日の草履があった。間違えてスリッパとして履きそうになるがこいつは普通の草履ではない。自分の意思があり、人間のようにふるまう。草履はまだ眠っているのだろうか、昨日のようにちょこまかと動かないし、こてこての関西弁は聞こえてこない。これが普通なんだけどなぁ。
俺は草履を起こさないように支度を済ませた。家を出る前にちらっと寝室を覗いたが、草履は依然としてただそこに置いてあるだけに見えた。

その光景を見ていると、もしかしたら昨日のは何かの間違いかもしれないと思えてきた。冷静になって考えると、草履が自分で歩いたり日本語を喋ったりするなんてありえない。もしそんなことがあったらビッグニュースになっているだろう。
昨日はバス停で草履と話す夢を見た。あの草履は昨日俺が酔っ払ってどこかで拾ってきた。そういう結論にたどり着き、すっきりした俺は仕事に向かった。

仕事中はあの草履のことは完全に忘れていた。むしろいつもより集中できていた。
集中力を出し切って、くたくたな状態でアパートについた。早く飯を食ってとにかく寝たい。そんなことを思いながら、俺はドアを開けた。

「おかえりー。こんな遅くまでどこ行ってたん。あ、仕事か。遅くまでお疲れさんやなぁ。てか、あんたいつ起きたん?アラームしとった?全然気づかんかったわ。昨日も遅かったのによう起きれんな。起きたんやったら起こしてーや。今朝から散歩始めようかな思ってたのに、起きたら何時やったと思う?昼の十二時やで。いいとも始まるやん思ってテレビつけたらいいともやってないねん。何チャンにしてもやってへんからおかしいな思ったら、いいともってめっちゃ前に終わったらしいな。知らんかったわ。ほんであんた、なんで玄関でずっと立ってんの?はよ入りーや」
「はぁ」俺は今までで一番じゃないかというくらいの大きな息を漏らした。ようやく仕事が終わってゆっくりできるはずだったのに、これでは会社より家のほうが疲れかねない。
俺が靴を脱いで部屋に上がると、草履もスタスタと後をついてきた。
リビングに腰を下ろし買ってきたコンビニのから揚げ弁当を開けると
「あんた毎日そんなん食べてんの?あかんやん。体にいいもん食べな」と口をはさんできた。
「仕方ないだろ。時間ないし、俺料理できないから」
「作ってくれる子とかおらんの?恋人とか」
「いないよ、そんなの」
「へぇ~、意外やな。あんたまぁまぁイケメンやのに」
「別に草履に言われてもうれしくないよ」俺は唐揚げを頬張りながら言った。
「え、ひっど。あんたそれ差別に近いで。あんな、どんな相手に対しても差別は絶対やったらあかんねん。外国から日本に来た人とか、何らかのハンディキャップを持った人とかおるやろ?人が生まれ持ったものとか、自分ではどうすることもできひんこととかを理由にその人を傷つけることは最低な行為やと思うねん。誰に対しても平等に接しなあかんねん。わしさっき、恋人って言うたやろ?彼女って言わんと。まだあんたのこと知らんから、もしかしたらあんたが同性愛者の可能性もあったわけやん。だから彼女おらんの?じゃなくて恋人おらんのっていう形で聞いてん。確かに一般的に見たら同性愛者の方が少ないで?けど少ないからってそれを否定したらあかんねん。みんなと違うを理由にしたらあかんねん」
俺は気づいたら自然と箸をおいて、草履の話を聞いていた。
「あんたやっぱええ奴やな。手止めてわしの話聞いてくれるなんて。わし草履やのに。普通、草履が何言うとんねんって思うはずや。それやのにあんたはちゃんと話聞いてくれた。人と同じように草履と接するのってそんな簡単じゃないで。やっぱあんたはきれいな心の持ち主や。昨日あんたを選んでよかったわ。わしの目は節穴じゃなかったちゅうこっちゃな」
草履は満足そうに言い、寝室に向かってスタスタと歩いて行った。
「なんか熱く語ってもうて、恥ずかしいからもう寝るわ。ほなおやすみー。明日も仕事がんばりやー。あ、明日土曜日か。けど休日でも働く会社もようけあるもんな。あんたのとこは休みなん?てか明日からゴールデンウィークちゃうん?わしは毎日休みみたいなもんやから気づかんかったわ。ゴールデンウィークどっか連れてってや。けどあれか、コロナウイルスでどこもいかれへんか。今年はステイホームやな。あれって草履もかかるんかな?さすがにかからんか。てか兄ちゃん名前聞いてなかったな。何て名前なん?」
寝るんじゃなかったのかよ。おしゃべりな草履が面白くて自然と頬が緩む。俺は
「優斗、中村優斗です」そう言って最後のから揚げを口に入れた。


ぞーり(草履)が家に来てから毎日が少しだけ楽しくなった。初めてバス停で話しかけられたときは気味悪く感じていたけれど、このぞーりと出会ったおかげで俺の平凡な人生は不思議で面白いものになっていった。

ぞーりと暮らし始めてから半年ほどが経ったころ、こんな俺にも彼女ができた。そのことをぞーりに報告すると
「ほんまか!ゆーと!良かったやん!」と喜んでくれた。
「ありがと」はにかみながら言うと
「名前なんていうん?」草履はさっそく質問攻撃を始めた。
「何で言わなきゃいけないんだよ」
「ええやんか。わしのおかげで付き合えたみたいなもんやろ」
「ぞーりは何もやってないだろ」
「まぁそう言わずに。ほんでなんていう子なん?」
「田辺結衣」
「結衣ちゃんか~。可愛い名前やんか」
「まあ、ぞーりのおかげかはわかんないけど、ありがとな」
「おお、急に照れるやんか」
もっと質問攻めされて冷やかされたりいじられたりして盛り上がると思っていたが、会話はそこで終わった。

結衣はうちの会社に中途採用で入ってきた子で、俺は結衣に一目ぼれした。二十五年間で初めての感覚だった。ショートカットで目がくりくりで笑顔が素敵な女性だった。結衣と俺は同じ部署で、俺は結衣の教育も任された。
仕事中はとても真面目だけど、おっとりしてて、どこか少し抜けているところが可愛くて仕方なかった。知り合って二か月がたった頃、二度目の食事で俺の方から告白した。今まで告白したことがなかった俺は、脳が溶けそうなほど緊張した。たくさん練習したセリフは噛み噛みだったが、そんな俺でも結衣は笑って付き合ってくれた。結衣は俺の運命の人で、俺はこの人を幸せにするために生まれてきたのかもしれない。ぞーりが聞いたら「くさすぎるやろ」と笑われるだろうか。そんなことを思いながら俺は眠りについた。

結衣と付き合い始めて二か月ほどが経ったある日。
その日は偶然、結衣と昼休憩の時間が合ったので一緒に食べることにした。
「優斗って毎日コンビニ弁当だよね?」結衣が手作りのお弁当を開けながら言った。
「うん。自炊しなきゃとは思うんだけど、どうしてもできないんだよな~」
「夜はどうしてるの?」
「前までは外で食べることが多かったけど、今は仕事終わるころには店が閉まっちゃうから、コンビニかテイクアウトばっかりかな」
「ええ、毎日?そんなの体に悪いよ」
「それはそうなんだけどさ」俺が参ったなぁと頭をかくと
「そうだ!たまには私が晩ご飯作ってあげよっか」結衣は名案と言わんばかりに目を輝かせて言った。
「え、いいの?」
「うん」
「ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ今日優斗ん家言ってもいい?」
「今日?いきなりだな」
「だめ?なんか予定あった?」
「いやだめじゃないけど―」結衣にがっかりした顔を見せられると、断ることができなかった。
「よし!それじゃあ決まり。今日一緒に帰ろうね。帰りにスーパー寄ってから帰ろ」さっきまでしょんぼりしてたのが一変。結衣は尻尾を振る犬のように喜んだ。
「お、おっけー。そろそろ時間だし戻ろっか」
「うん。それじゃまたあとでね」

おっけーじゃないだろ。どうしよう。急に結衣が家に来ることになったけど、家にはぞーりがいる。しゃべるぞーりを見てびっくりするかもしれないし引かれるかもしれない。午後からの仕事は手につかず、時間はあっという間に過ぎていった。結衣と一緒に会社からスーパーまで行き、買い物を済ませて、ついに家に向かうバスに乗ってしまった。家まではおよそ十分ほどで着く。ぞーりのことばかり考えていた俺は完全に上の空だった。

以前友達が遊びに来た時は靴箱の奥でじっとするという約束だったが、ぞーりは狭くて暗いところが苦手だったらしく、途中で飛び出してきてしまった。それをトイレに行こうとしていた友達に見られてしまい、不気味に思われて途中で帰られてしまうという事件があった。それ以降友達は口に出さないものの、明らかに俺を避けるようになった。定期的に開かれていた飲み会にも誘われなくなった。もしかしたら今日もぞーりは何かしでかすかもしれない。俺はそんなことで結衣を失いたくはなかった。

考え事をしていたら十分なんてすぐに経った。アナウンスが最寄りの駅名を告げる。はっと気づいた俺は降車ボタンを押した。バスを降りると少し雨が降っていた。折り畳み傘に二人で入り、歩いているとあっという間に家に着いた。軽く片付けるからという理由で結衣を外で待たせて、俺だけ家に入った。
「おーおかえり。何やその袋。かいもん行ってきたん?あんたもとうとう自炊す―」
「そんな事いいからボリューム落とせ。今日俺ん家に結衣が来るんだ。だから―」俺は長くなるであろうぞーりの話を遮り、用件だけを話そうとしたが
「えー!ほんまかいな!」と今度はぞーりに話を遮られた。
「おい、声がでかいよ」
「すまんすまん。ほんでいつ来るん?」
「今外で待たせてる」
「やばいやん!」
「しーっ」
「あ、すまん、つい。けどどうしよう。もう靴箱の中は勘弁やで」
「今日だけベランダにいてくれ」
「今雨降ってるんちゃうん?それはあかんて。わし湿気無理なん知ってるやろ。だからあんたが除湿機買ってくれたんやないか」
「そうだけど、今日だけ我慢してくれ。ごめん」
俺はぞーりの鼻緒の部分を人差し指と中指で掬うように掴みベランダに置いた。勝手に入らないようにベランダに鍵もかけた。
ふぅっと一息つき落ち着く。
「ごめんごめん。お待たせ」俺が平然を装いドアを開ける。
「もう、おそいよぉ」結衣はほっぺたをぷぅっと膨らませた。

今晩はオムライスにしようと、二人で話し合って決めていた。俺はご飯を炊き結衣は野菜や鶏肉などの下準備をしてくれた。炊飯器にご飯をセットし終え、結衣の料理する様子を見ていると、「優斗もやる?」と言われたので、俺も少し野菜を切った。
俺が野菜を切っている間、隣で結衣は「こわい」とか「あぶない」とか言って目を離さなかった。その様子はまるで母が子を見守るようだった。
「左手は猫の手だって」そう言って結衣の右手が俺の左手を包み込んだ。俺が結衣のほうを見る。結衣もまた俺を見ている。時が止まったように感じた。俺は包丁を置き、結衣に顔を近づけた。そして目をつぶりそっとキスをする。暖かくて柔らくて優しかった。くちびるが離れて、俺たちはまた見つめ合った。
「だめだよ、料理中は」結衣が照れ笑いを浮かべながら言う。
俺はわざといじけた子供のように「はーい」と返した。

ご飯が炊けたので俺はチキンライスを作り、卵の部分は結衣に任せた。
「やる?」と聞かれたが失敗する自信しかないし、それより結衣が作ったものを食べたいという気持ちが勝ってしまった。

完成したオムライスと麦茶をテーブルに運び二人並んで食べる。いただきますをする結衣の姿は美しかった。ただ食べる前の作業で手を合わせるのではなく、きちんと感謝しているのが伝わってきた感じがした。俺も結衣にならって、きちんといただきますをしてからオムライスを食べる。
「うまぁ」先に声に出したのは結衣だった。「おいしい」ではなく「うまい」というところが何ともかわいい。
「ん、うまい!」俺がそう言うと
「よかったぁ」と安心した様子で結衣が言った。
「けどなんか、でかい野菜が混じってるなあ」結衣がいたずらっぽく笑って言った。
「ほんとだ。どうしてだろう」俺がおどけて返すと、二人の笑い声がリビングを包み込んだ。その光景は誰が見ても幸せと呼べるものだった。
ご飯を食べた後は映画を見て、狭いベッドで二人身を寄せ合いながら寝た。

朝起きると隣に結衣はいなかった。重たい瞼を持ち上げトイレへと向かうと、キッチンに結衣がいた。
「あ、おはよ」結衣が俺に気づく
「おはよう。お弁当作ってくれてるの?」
「うん。昨日のオムライスとちょっとしたおかずだけだけどね」
「ほんとに!?朝早くからありがとう」
「どういたしまして」
俺たちはまるで幸せな夫婦だった。こんな素敵な人をお嫁さんにできたらどれほど幸せだろうか。そんなことを考えながら朝の支度を済ませた。

俺たちが付き合っているのは会社のみんな知っていることだけど、さすがに一緒に出社するのは憚られるため、結衣が家を出て十分後に俺が家を出ることにした。
「いってらっしゃい」
「いってきます。また会社で会うけどね」
「たしかに。じゃ、またあとでね」
「うん」

結衣を見送り、シーンとした部屋に寂しさのようなものを感じた。
「あ、ぞーり!」幸せにおぼれていた俺はすっかりぞーりのことを忘れていた。
急いでベランダに向かう。
「ごめんごめん。すっかりおまえのことわすれてたよ」ベランダに出て声をかけるがそこにぞーりの姿はなかった。拗ねて隠れでもしたのだろうか。
「おーい。ぞーりー。昨日はごめんって。許してくれよ」そう呼びかけるがぞーりは出てこない。室外機の裏や下など隅々まで探してもぞーりの姿はなかった。

そこで俺はようやく事の重大さを理解した。まずい。まずい。まずすぎる。家中探してもぞーりはいない。
やってしまった。俺は最低だ。ペットを見殺しにしたような罪悪感に苛まれた。俺は会社に電話を入れて、一日中かけてぞーりを探し回ったが、結局ぞーりは見つからなかった。俺は一生十字架を背負って生きていくことになった。


あれから三年が経った。
俺と結衣は結婚し、二歳の娘もいる。家族三人で幸せな日々を送っていた。かつてぞーりが日課として行っていた散歩は俺の休日の日課になっていた。ぞーりのことを忘れないように、ぞーりのことを思いながら歩く時間。いつもコースは決まっている。俺とぞーりが初めて会ったあのバス停まで歩き、帰りはそのバスに乗る。今日は散歩日和だ。水色の折り紙を貼り付けたような雲一つない青空から、夏の知らせを予告する太陽が照りつける。四十分近くかけてバス停に着き、ベンチに腰を下ろす。途中で買った水を飲むと、喉の渇きを潤し、それはやがて身体全体まで沁みわたっていった。バスが来るまでの間はぞーりのことを思い目を閉じる。こうしていると、あのかかとをするスッスッという足音や、胡散臭いほどこてこてな関西弁が聞こえてくるような気がした。
「なにしてるん?」パッと目を開くと俺の足元にぞーりがいた。
「…ぞーり?」
「おーー!ゆーとやんけ!」
「本当にぞーりなのか?」
「あほ抜かすな。どっからどう見てもわしや」
「おー!ぞーりー!」三年ぶりの再会に俺は涙を流した。
「なんや、気持ち悪いな」
「ぞーり。あの時はごめん」俺は三年前に犯した罪のことを心の底から謝った。
「え、なんのこと?」ぞーりと俺の温度差は計れないほど離れていた。
「結衣が初めて家に来た日、雨の中ベランダに放っておい―」
「せや!思い出した。あん時本間大変やってんで。わしこのままやったら死ぬ、思てベランダから飛び降りたんよ。ほんでどーしよってなって近くのショッピングモール行ってん。そん中の電気屋さん行って除湿機の前ずーっとおったら、何とか回復したわ。すごない?この発想。自分のこと天才か思ったわ。ただ単に頭いいだけの天才とちゃうで。まず二階のベランダから飛び降りるという”勇気”と”度胸”。ほんでから瀕死の状態でショッピングモールまでたどり着いた”根性”と”脚力”。きわめつけは電気屋さんの除湿機が最適やという答えにたどり着いたこの”頭脳”。心技体全部そろってもうてるやん。どや、すごいやろ?」
「すごい!本当にすごいよぞーり!ありがとう!」
「何がありがとうやねん。気持ち悪いなぁ。そや、ところで結衣ちゃんとはどうなったん?」
「あれから結婚したよ。今は二歳の娘もいる」
「えー!なに幸せなっとんねん。わしのこと半殺しにしといて」
「すいません」
「うそうそ。冗談やん。そうかー。結婚か。おめでとうやな!わしも見せたいもんあんねん。あっちで待たせてるから、さっきみたいに目つぶって待っといて」
俺はぞーりに言われた通り目をつむり待っていた。ぞーりが俺に見せたいものって何だろう?あっちで待たせてるとか言ってたな。新しい飼い主とかかな?
「目開けてええでー」そう言われた俺はふぅっと息を吐き、心の準備をしてから目を開いた。視界にはぞーりとその隣にサンダル、さらにビーチサンダルもいる。
「わし、結婚してん。ほんでこの子がうちの娘」ぞーりはそう言い、俺に妻であるサンダルと娘であるビーチサンダルを紹介した。

俺と草履

執筆の狙い

作者 わか
zaqb4dd268f.zaq.ne.jp

まずこの作品を読んでいただいたことを心から感謝いたします。

自分自身に課していた締め切りの一日前にアイデアも何もない中、草履に着目して考えていると草履とサンダルの特徴を合わせたものがビーチサンダルの特徴と似ていると思い、珍しくオチのみが決まっているという状態で書き始めました。

ご覧になった感想や批判など率直に書いてくださるとうれしいです。

コメント

大丘 忍
p2608243-ipngn200902osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

読んでいて楽しい小説でした。
 若いということは良いなあと思いました。時代の違いでしょうか。私が若い頃は、「告白」なんて行為はありませんでしたから彼女と知り合い、彼女を愛し、毎日の様に彼女と会いながら彼女と初めてセックスするまで一年半かかりました。
 サンダルにも彼女や娘が出来ているない居て愉快ですね。
 読みやすくて楽しい文章でした。

黒沢ひろひと
M014008035162.v4.enabler.ne.jp

コメント失礼します。


難しい表現も無く、何も考えずにスラスラと読めました。
でも「面白かった」、というよりは「ほのぼのさせられた」というほうが近いかな。なんかうまく言えなくてすいません。

>ぞーりと出会ったおかげで俺の平凡な人生は不思議で面白いものに
この「不思議で面白いもの」のエピソードを、ひとつふたつ紹介してほしかった気がします。

偏差値45
KD106154139149.au-net.ne.jp

>「どういたしまして。それじゃあ今日優斗ん家言ってもいい?」
誤字かな。

読みやすい分かりやすい。
起承転結もしっかりしているし、不満はないです。
ストーリーも面白く、ぞーりというキャラクターにも魅力があります。
良作だと思います。

>ビーチサンダル、、、確かにサンダルという名称は入っているけど、
実はカタチとしては草履に近いんですね。ああ、なるほどね、と感心しましたね。

わか
zaqb4dd268f.zaq.ne.jp

大丘 忍様
コメントありがとうございます。

私は昔の恋愛はどういったものなのかあまり詳しく把握しておりませんが、現在の恋愛よりも素敵なのではないかなとふと思いました。
うまく表現できませんが、現在の若者は恋愛をしたいというより彼女,彼氏が欲しいという思考なのかなと思います。
あくまで私の考えですが、昔の方が「純愛」が多いような気がします。(昔昔と多用してしまい申し訳ありません。)

改めて私の小説を読んでくださり、またコメントまで書いてくださり、本当にありがとうございました。

わか
zaqb4dd268f.zaq.ne.jp

黒沢ひろひと様
コメントありがとうございます。

確かに「うわーこの小説面白かったー」というような衝撃よりも、「なんかほのぼの、ほっこりした」という優しい気持ちになるかなと黒沢様のコメントを見て思いました。(自分で言うのもあれなのですが、)

確かにオチに向かって突っ走りすぎて、中間部分が薄くなってしまったかなと思いました。

貴重なご意見、ご感想本当にありがとうございました。

わか
zaqb4dd268f.zaq.ne.jp

偏差値45様
コメントありがとうございます。

おっしゃっていただいた箇所は誤字です。ご指摘ありがとうございます。

この作品のお褒めの言葉、心から感謝いたします。
「ストーリーも面白く、キャラクターにも魅力がある」と言っていただけて本当にうれしかったです。
励みになるし、一生懸命書いてよかったなと思います。

ビーチサンダルの形は鼻緒もあるし草履より、素材はサンダルと同じ、二人の血が入っていますがどちらかと言えばパパ似なのかなという感じですかね(笑)

とてもありがたく素敵なご感想ありがとうございます。

u
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草履が一人でぼけて一人で突っ込むww
ここ良いわ

主人公も草履も互いに彼女ができてよかったね
まあ、もともと履物は最初から左右で(ペア)なんですがwww

面白かった

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