作家でごはん!鍛練場
五十嵐 史

カクテル

――それにしても、逝くのが早すぎだよ、君は……
 後悔の思いとともに、今夜も妻の遺影の前にマティーニを供える。

 酒好きの妻と下戸の僕。妻は社交的で、僕は内向的。
 何もかもが逆の凸凹カップルだったけれど夫婦仲はよかったと思う。

 僕は、妻のやりたいようにやらせてあげるのが愛情だとばかり思っていたので、妻の深酒も止めなかった。
 しかしそれがよくなかったらしい。妻は内臓の病で三十代のはじめに亡くなってしまった。ひと月半前のことだ。

 僕が作れるカクテルは、簡単なやつ5種類くらいだ。自分でお酒を飲まないせいもあって、どれもまだじょうずとは言えない。
 それでも元気だった頃の妻は「旦那の作るカクテルは格別だよねぇ」とグラスを両手でささげ持って、だいじそうに飲んでくれていた。

 そんな想い出に浸って目を閉じていた数瞬のうちに、グラスに注がれていた液体が一滴残らず消えていた。
――え?なんで……?

「天使の分け前よ」

 顔を上げると目の前に懐かしい面影のひとがふんわりと浮かんでいた。そいつは空のグラスを振ってにやにや笑っている。
――ああ、死んでからも変わらない、このずうずうしさは、間違いなく……

 僕は目からこぼれそうになるものをこらえ、わざとため息をつく。
「少なくとも『天使』ではないよね?」
「失礼ねぇ。『天使みたいにかわいいよ』って言ってくれたの、もう忘れたの?天使じゃなくても『名誉天使』よ」

――こりゃしばらく再婚できそうにもないな。

カクテル

執筆の狙い

作者 五十嵐 史
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何かほろりとできるショートショートを書きたくて試行錯誤してみました。

コメント

四月は君の嘘
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ええと・・

「天使の取り分」は「樽で熟成するお酒につきもの」のやつだし、
マティーニは「カクテルの王様」で、「奥さん向き」な感じがあんまししない。

樽で熟成させるウィスキー(やバーボン?)がベースで、「カクテルの女王」な
マンハッタン はどうだろう??



マンハッタン・・個人的には注文したことない。
モスコミュール、ダイキリ、ギムレット、シンガポールスリング・・
あたり注文するもんで。

アフリカ
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拝読しました

四月さんと同意見

昔バーテンしてたけど女の子はマティーニなんて頼まないのでした…( ̄▽ ̄;)

カクテルグラスで出すカクテルなんて…
凄く珍しいというか……
ドライでとか言われると「はぁ?」と唸りたくなる感じでした。

甘いカクテルの方が雰囲気あるかも?

って、小説の話に触れてないので少しだけ。
単純に尺が短すぎるかも?
「僕」に感情移入出来る程度には説明があっても良かったと思うのでした。

ありがとうございました

青井水脈
om126204241000.3.openmobile.ne.jp

短いとは思いましたが、ほろりとしたしながらもクスッとなりますね。死んでからも変わらないずうずうしさ、『名誉天使よ』という奥さんのセリフで。
ギムレットには"長いお別れ"という意味があるそうですが、それにはまだ早すぎますね。

偏差値45
KD106154139021.au-net.ne.jp

>何かほろりとできるショートショートを書きたくて試行錯誤してみました。

アルコール中毒と想像は出来ますが、
それに関連しての病気という設定・断定した方が良かったと思いましたね。
なぜなら、その方が人間らしさが出るからです。
世の中にはドクターストップも聞かずに、飲み続けてしまう人もいるわけですね。
そういう人だからこそこの世に化けて出てきても酒が飲みたい、
とつながると思うんですね。
とはいえ、現状でも面白い作品だと思いましたけどね。

五十嵐 史
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●四月は君の嘘さん
小物のアドバイス、ありがとうございます。
「マンハッタン→ウイスキー→樽熟成→天使の分け前」
なるほど、これはきれいに繋がりますね。盲点でした。
マティーニは「ステアで簡単に作れる」「酒飲みが飲む」「日本語的な語感がきれい」
というだけで選んでしまいました……。勉強不足でした。

五十嵐 史
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●アフリカさん
小物と設定へのアドバイス、ありがとうございます。
女性は飲兵衛でも甘いのが好きなんですね。
「奥さんは酒飲みなので苦いお酒でも大丈夫」という設定だったのですが
ちょっと現実的ではなかったのかな……。
ショートショートなので、感情移入しやすいように、主人公に
なるべく色がつかない書き方にしたのですが、それでは食い足りない
読者の方も多いのでしょうね。
過去エピソードをもっとはさんだほうがよかったですね。

五十嵐 史
p415176-ipngn200604osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

●青井水脈さん
ご感想ありがとうございます。くすっとくるのも狙ったところなので
笑っていただけたとうかがって、うれしい限りです。
なるほど「カクテル言葉」というのもあるんですね。
今ちょっと調べたら「サイドカー」=「いつもふたりで」なので
この場合によく合いそうですね。蒸留酒のブランデーを使ってますし。

茅場義彦
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こういう手垢のついたプロットを先人の足跡なぞりみたいにコピーしても仕方ないんじゃあーりませんか 落語とかでいっぱいありさう

文章うまいねって 褒められるかもしれんけど

嫁のクローン(自我なし)作って そのクローンに昔嫁が好きだった 酒を飲ませて 酩酊状態にさせて 嫁の本当の霊魂を憑依させて 
嫁を生き返らすことに成功する 

そのあと酩酊状態のままlセックスすたとか サプライズあればいいかと

五十嵐 史
p415176-ipngn200604osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

●偏差値45
設定へのアドバイス、ありがとうございます。
さいしょは「肝臓の」と書いていたのですが、しんみりした雰囲気に
水を差す単語だったので「内臓」に改めた経緯がありまして……。
あとは「化けて出る執着」ですか……(「旦那さんに会いたかった」が動機でした)
奥さん側の過去エピソードで「酒にいやしい」というのをはさんでも
よかったかもですね。

浅野浩二
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五十嵐史様
小説は現実性を無視したデタラメであっていいと僕は思っています。
しかし、30代前半で、アルコールが原因の病気で死ぬ、というのは、ちょっと考えにくく、違和感を感じました。妻は酒の飲み過ぎで、飲酒運転で、事故死したとか、酔って歩いていて車にはねられて死んだ、とか、夫を乗せた夫の運転で、事故に会ったが、夫は奇跡的に助かったが、妻はシートベルトをしていなかったため、不運にして死んだ、とかにした方が、いいように思いました。

青木 航
49.97.8.154

 しんみりした雰囲気を出せばそれで小説って言う発想自体が、ちょっと理解し難くてすいません。

 その前提で組立てるから、前の方々が感じるような印象になってしまうのではないでしょうかね。

青木 航
49.97.8.154

 どうも、言葉足らずで誤解されると困るので補足しますと、

 例えば、亡妻を想う男の心理を書きたいとか言うのが前提にあって、じゃあどんな妻だったのか、何で死んだのか、どんな想い出が心を過るのか。
 
 そう言った発想と組み立てが有って、結果として紡がれた文章が、苦しいのかせつないのか、そんな有りふれたことでは無くて、何処かでほっとしている自分に気付くのか、何でもいい。

 私は、小説ってそんな風に考えています。短い言葉で決め付けてしまうと真意が伝わらず誤解されると思い、老婆心から連投してしまいました。

中野太郎
M014009196000.v4.enabler.ne.jp

?の後の一字開けくらい推敲3回レベルでもちゃんとしましょう
推敲は30回
日本文学世界文学制覇クーンツエンタメリスト読破
が公募一次合格レベルです
公募一次レベル偏差値50
他の評者はみんな偏差値40公募一次不合格です。

五十嵐 史
p415176-ipngn200604osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

●偏差値45さん
敬称を書き漏れており大変申し訳ありませんでした。

●茅場義彦さん
プロットへのアドバイス、ありがとうございます。
確かに「どこかで見たような」お話みたいで、驚きがないですね。
自我のないクローンがお酒+憑依で自我を取り戻す。
ロマンチックですね。その手があったかという感じです。

●浅野浩二さん
展開へのアドバイス、ありがとうございます。
なるほど、30歳ぐらいだと、若いのでなかなか内臓の病気にはならないのですね。
お酒にからむ死であれば確かに病死でなくともよかったかもですね。

●青木航さん
モチーフへのアドバイス、ありがとうございます。
もともと最後のシーンが頭にあって、そこに着地させるための前半部を
書いた感じなので、深みが無いのは自覚してました。
ショートショートなのでいいかな、と思っておりましたが、
短くても心情がしっかり描けた作品もありますものね……。反省です。

●中野太郎さん
文法へのアドバイス、ありがとうございます。
ああ本当ですね。「?」や「!」は、次に一字開けですね。未熟でした。
「クーンツエンタメリスト」ってなんでしょう?不勉強でよくわかりません。
(ディーン・R. クーンツのデモンシードの映画はエロかった記憶がありますが)

中野太郎
M014009196000.v4.enabler.ne.jp

クーンツ「ベストセラー小説の書き方」のブックリストです

青木 航
49.97.8.154

 五十嵐史様、アバウトなコメントにご丁寧な返信有り難う御座います。

 脚本家の倉本聰さんが、実際には画面に登場しない部屋の見取り図までぴっちり書いているとインタビューで語っていたと思います。

 そこまでやっていると、描写に嘘臭さが出て来ることが無く、実際に見て描写しているようなリアリティーが出て来るのだそうです。

 正直、偉そうに言ってみても、私にはそこまで出来ないのですが、最近お見掛けしませんが、南風さんがそう言う事をぴっちりやる方てすね。
 やはり、描く部分だけにフォーカスしてしまうと、どこか底が浅い印象が出て来てしまうのでは無いでしょうかね。

 これは、偉そうに上から目線で言うのでは無く、自分自身もそう心掛けなければいけないと言う観点からのコメントです。
 
 具体的な記述で気になったことを一つだけ上げておきます。

 カクテルとアルコール依存症が全く結び着きませんでした。

 今の時代、カウンターバーでカクテル飲む人ってどわんな人? ホテルのバーでちょっと飲むくらいでしょう。しかも、ウイスキーや焼酎と違って小さなグラスで飲むものですよね。どれだけの時間とお金を掛けてどれくらい飲んだらアル中になるのか想像も着きませんでした。カクテルだけでアル中になったのでないというなら、カクテルが前に出過ぎと感じました。

 費用、時間の点から考えても、主婦ならキッチンドランカーが可能性として考えられるし、もし、ハイソサエティーをイメージしても、ワインは有ってもカクテルは無いかなって感じなんですね。

 意識の中で、カクテルをどうしても書きたかったのかなと思ってしまいました。
 
 すいません。見当外れだったらお許し下さい。

夜の雨
ai208130.d.west.v6connect.net

「カクテル」読みました。

大人の小説でした。
なにしろマティーニですからね。

>酒好きの妻と下戸の僕。妻は社交的で、僕は内向的。
>何もかもが逆の凸凹カップルだったけれど夫婦仲はよかったと思う。

このあたりの設定がよいですね。
真逆のカップル。
しかし夫婦仲はよかった。

>妻は内臓の病で三十代のはじめに亡くなってしまった。ひと月半前のことだ。<
深酒の末ということですが、早いですね、ショートショートなので、この展開はしかたがないですかね。

起承転結の「転」でグラスに注がれていたマティーニがなくなっていたというところが、彼女の仕業で面白いです。

それでラストの「――こりゃしばらく再婚できそうにもないな。」というオチですが、これは主人公が言う展開よりも「彼女」が主人公に対して言っている方が、話は面白く終わると思います。

つまり夫婦仲がよすぎて、妻が亡くなってからも夫は妻の「下僕」になっているという、笑えるほど仲がよい話でオチ。

以上です。

アン・カルネ
219-100-29-70.osa.wi-gate.net

私はギブソン、好きですけどね(笑)。

それとは別に。
ラスト2行に、ちょっと可愛いかな、くすっと笑っちゃうかな、といえば、笑えます(笑)。
が、それ以前に。
うーん、奥様、アル中の果て? とか考えちゃうわけですよ。しかも夫は深酒を止めないどころか下手の横好きで作ったカクテルを飲ませていたとか? そう考えると、なんというか、むしろ前半では自覚無き殺意があったってハナシ? とか勘ぐっちゃうんですよね…。奥さんの死に加担してたよね?? と。アメリカの短編小説にはよく悪妻殺しのネタがあるので、ついそっち系かな、と(笑)。
で、そういうミスリードを意図的に誘っていたのであれば後半のオチは読み手にすとんと落ちて来ないんじゃあないのかなあってちょっと思ったりして…。
ただ、そっち系ではなく、あくまでも「カクテル」と「天使」とをかけあわせてラストのオチにもってゆきたかったのであれば、死因はお酒にはしない方が良かったんじゃないかなあ、と思いました。

五十嵐 史
p415176-ipngn200604osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

●中野太郎さん
あのクーンツがそんな本を書いてたんですね。面白そうです。
電子書籍化されたら読んでみたいです。

●青木航さん
こちらこそありがとうございます。青木さんの意が汲めていれば幸いです。
カクテルとアル中、やっぱりイメージが違いますかね……
たしかに本物のアル中は大五郎やストロングゼロを飲んでる気がします。

●夜の雨さん
展開への考察とアドバイス、ありがとうございます。
そうですね。笑いを取るなら、もっと妻の尻に敷かれる旦那さんでも
よかったかもですね。

●アン・カルネさん
ギブソンというのもあるんですね。ほぼマティーニという……。
旦那さんの後悔を書きたかったんですが、やっぱり死因は違うほうがいいようですね。

中野太郎
M014009196000.v4.enabler.ne.jp

カクテルでアル中は十分なりますよ
アル中の本を読めば書いてます
私もアル中にだけはなるまいと思っています

五十嵐 史
p415176-ipngn200604osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

●中野太郎さん
アルコール、量や強さより、習慣化するのが怖いみたいですね。

皆様にいただいたご意見を取り入れて改稿してみました。

『いつも二人で』
https://note.com/fumi_igarashi/n/n9886be6a3386

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