作家でごはん!鍛練場
餓鬼

太陽の幻影

 俺の名はユウキ。17歳ニートだ。だが弁解させてもらうと、好きでニートでいる訳じゃない。

 俺の父さんは多額の借金を負っていて、俺たちふたりは借金取りから逃げ回る生活をしていた。お陰で勉強も手につかず、ノートや鉛筆を買う余裕も無いくらいギリギリの生活をしていた。
 その日食うのも精一杯で、とてもじゃないが高校進学なんて無理だった。かといって教養の無い俺に就職なんて出来っこない。

 そうして父親は死に、俺が産まれてすぐ死んだ母親方の祖父母の厄介になることになった。

 父さんのせいで怖い人達に怒鳴られもした。機嫌の悪い父さんに殴られもした。それでも、俺は父さんが好きだった。父さんは不器用ながらも俺を愛してくれた。

「強く生きろ、ユウキ。色々苦労かけてごめんな。お前は、父さんの宝物だよ」

 そう言って父さんは、俺の頭を優しい手付きで撫で回した。父さんの手はでかくて、皮が固くて、だけど温かかった。

 その言葉を最後に、父さんは逝ってしまった。過労死だった。

 後から知った事だが、母さんと父さんは駆け落ち婚だったらしい。いい家の産まれの母さんは、貧しい父さんとの結婚を許してもらえなかったそうだ。だから1ヶ月くらい過ごしてきた祖父母宅での生活はすごく楽だった。たまに悪態を付かれることはあれど、さして気にしていなかった。
 だけど、祖父母は父さんを悪く言う。それだけがどうしても許せない。

「あんたダラダラしてないで高校に行ったらどうなの?あの卑しい男みたいな大人にならないようにしなきゃ」
「そうだとも。娘を奪っておいて、挙げ句死なせたあんな男なんかにゃね。お前にあの男の血が流れていると思うだけでゾッとするよ」

 ……お前らに何が分かるんだよ。父さんは誰よりも母さんを愛していたのに。父さんは毎日母さんの形見だった結婚指輪を握りしめて、母さんに話しかけていた。

「今日、ユウキが俺の弁当にピーマンを入れやがってさ。俺がピーマン嫌いなの、知っててだぜ?」
「なあ、ユウキはきっと立派な男になる。アイツにゃ信念があるんだよ。俺と違ってさ」
「ユウキの目は、本当にお前そっくりでさ。可愛いったらありゃしない。……アァ、お前がいてくれればな」

 そんな風にまくし立てて、最後には必ず泣くのだ。

 ……父さん。何で俺を置いてくんだよ。俺、まだ父さんに何も返せてないのに。
 父さんがいないこの世界で、俺にどうしろってんだよ。父さんのせいで真っ当な人生が送れないんだから、最後まで責任持てよ。

 だから、もう、おしまいにしたい。

 俺はホームセンターでロープを買ってきた。そう、俺はこれから死ぬのだ。
 父さん。母さん。もうすぐそっちへ行くから待っててくれよ……。

「うっうっ、ずび、切ない話ですねぇ……!」

 ……ん?

 突如として聞こえたすすり泣く声。いつの間にやら俺のベッドの上に女が座っていた。俺は驚いて後ろにすっ転んでしまった。心臓の音がバクバク言ってうるさい。
 さっきまで俺の部屋には誰もいなかったはずなのに。どうやって入ってきたんだ。よりによって自殺を図る場面を人に見られるなんて。

「だっ、誰だよお前!!」
「へっ? 誰って、この家の娘ですけど」

 知らなかった。母さんには妹がいたのか?

「それよりも、ダメですよ自殺なんて! 自分の命を大事にしてください!」
「……んなの俺の勝手だろ」
「勝手じゃありませんよ! アナタのお母さんは自分の命と引き換えにアナタを産んだんですからね!」

 キンキン声が部屋に響く。鬱陶しい喋り方をする女だ。せっかく綺麗な顔立ちをしているのに、これでは台無しだ。

「……って、自分の命と引き換えに俺を産んだって、どういうことだ?」
「そのままの意味です。アナタのお母さんはもともと身体が弱くて。アナタを産むには自分が死ぬしか無かった」

 女はスウッと目を細めて俺を見た。

「それでアナタのお父さんは、お母さんと約束したんです。アナタをちゃんと育てるって」

 それも知らなかった。母さんをあんなに愛していた父さんが、自分を犠牲に俺を産むという選択に同意したのも信じがたい。
 と、ふわりと花のような香りが鼻孔をくすぐった。女に抱きしめられたのだと、一拍置いて理解した。

「大きくなりましたね、ユウキくん」

 女の匂いが、体温が、何だか酷く懐かしい。包み込まれるような優しさに、力が抜けていく。この女になら弱音を吐いてもいいような、そんな気がした

「それじゃ、母さんが死んだのって俺のせいじゃん。俺なんて産まれなければよかったんだ。だってそんなの、俺、完全に疫病神じゃん……!」
「そんなこと言わないでください。お母さんが選んだ事ですから。アナタは、お母さんの大事な大事な宝物なんです」

 女は微笑んだ。聖母のように慈悲に満ちた、けれど悲しい目をしていた。

「無責任かもしれませんが、お願いです。死なないでください」

 やっちまった、と思った。この女を、悲しませてしまった。この女の前で死のうとしてしまった。この女に、死なないでなんて言わせてしまった。
 正体不明の罪悪感が、俺の胸の内を駆け巡って、心がグチャグチャになる。自分の感情を制御出来なくなって、涙が出てきた。もう訳が分からない。

「ううっ……! ごめんなさい! ごめんなさいい……っ!」
「わわっ、どうしたんですか」

 女はオロオロして、それからそっと俺の頭に触れる。そして優しく優しく撫でた。こそばゆかったけど、嬉しかった。
 ある程度俺が落ち着いてきた頃、女はポンポンと俺の頭を叩いて、ニカッと笑った。まるで太陽のようだった。たくましくて、綺麗で、暖かい。

「大丈夫です。ユウキくんはいい子だから、これから先、楽しいことがたくさん訪れますよ」
「……俺、いい子なの?」
「当たり前です。あの優しいお父さんとお母さんの子供なんですから。だから、忘れないでください」

 そっと、俺の手を女の両手が包み込む。

「お父さんもお母さんも、どこにも行きません。ずっとアナタの幸せを願ってますから。例え今は会えなくとも、ずっとずっと、側にいますから……。強く、生きて」

 そして俺を背に歩き出した。また、俺を置いていってしまう。

「待ってくれ……!」

 その後に続けようとした言葉が、喉から出かかって消えた。俺は何を言おうとしたのだろう。女は笑って、俺が瞬きした瞬間に消えた。
 あの女が誰かなんて知らないはずなのに、大きな喪失感を感じた。やっと、やっとまた出会えたのに。

 その夜、祖父母にあの女について問うたが、ふたりは眉を潜めた。

「アンタの母さんは一人っ子だから、妹なんていやしないよ」
「だが……そうか。太陽みたいな笑い方をする女か」

 ふたりは微笑んだ。俺はふたりが笑った顔を初めて見たから、少し面食らってしまう。

「その女、知らないこともないかもねぇ」
「本当か? いったい誰なんだ?」
「馬鹿で、親不孝で、向こう見ずな……俺たちの宝物だよ」

 懐かしむように笑うふたりの表情は、俺に向けられたあの女の表情とよく似ていた。アァ、と声が漏れる。そうか。そういうことか。どうして気づかなかったんだ。

 もしそうだと言うのなら、あの女を信じよう。いつかきっと幸せが訪れて、愛しい人と出会う。そうしてきっと宝物が出来る。俺が満ち足りた時、父さんや母さんの悲劇が、決断が、報われるんだ。

 ならば、それまで頑張って生きてみよう。そう思えたのだった。

太陽の幻影

執筆の狙い

作者 餓鬼
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「親の愛情」を表現してみようと執筆しました。多分、自分じゃ気が付かないおかしなところがたくさんあると思います。ご指摘お願い致します。

コメント

霊銀
sp1-75-255-199.msb.spmode.ne.jp

今まで見た小説の中で一番好き!

四月は君の嘘
n219100087087.nct9.ne.jp

「読める」し「分かる」、単純な話なんだけど、
文章全体に「違和感、読んでてて引っかかり覚える箇所だらけ」なので、

要・全面推敲。


・父さん → 「父」で統一。

・じいちゃん・ばあちゃんの台詞が、すんげぇ芝居がかってて、「現実味がない」から、
 内容的には現状ママでも(言ってる内容に変わりなくとも)、
 作者は書きながら口に出して、「すんなり自然体な口調」にあらためよう。

・幻影の母ちゃんの口調が、漫画っぽすぎて、チープ。
 「母らしさ」が出てないので、台詞は全部吟味しよう。

・女 → 「彼女」にしよう!
 ここが「女」表記だと、感じ悪すぎて、世の中の半分である女子読者からムッとされる。

・じいちゃん・ばあちゃんまで「その女」呼びは、、、感じがよろしくない。
 老親は「宝物」である存在を、「復唱」にしても「女」とは言わない・・かな。


・『太陽の幻影』って表題、「太陽みたいな笑い方をする女」って表現が、
 字面も語感も硬いかな。

 表題はとくに「短編らしからぬ大仰さ」に見えちゃって、、、
 明らかに「タイトル負け」でしょう。
 全部「太陽」にしないで、一部「よりやわらかい表現」にすると、大仰な感じがやわらぐ。


ストーリーは、まあ、「よくあるベタ話」の定型をなぞって、定型に終始してるんで、分かりはいいんだけど、
「よくある話」だけに、書き手がはげしく手ぇ抜きまくっていて、

エピソードとエピソードの間、
台詞と台詞の間、
父との日々からじじばばとの日々への移行(場面転換)
過去回想と現在との間、

そういう「つなぎ」「段落の処理」を全部完全にサボってて、
【ただ漫然と、行あけで処理】とゆー、ルーズさ。


場面のつなぎ、段落の処理は「小・中学生の作文でも出来ている基本」なんで、
サボったらダメだ。

四月は君の嘘
n219100087087.nct9.ne.jp

訂正:

>・父さん → 「父」で統一。

「父親」って箇所が見えたんで、そう打ち込んでしまったんですが、

文中「父さん」でほぼ統一されてるし、
「母さん」と対なんで、
「父さん/母さん」ですね。。

四月は君の嘘
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漫画等で先行類似作がたくさんある「よくある話」なんですが、

《しばしば書かれ、過去に先行作も各種ありながら、形を変えて書かれ続けている話》で、

ひとつの定型(王道パターン?)で、
読者ニーズのある話なんですよ。


そういう類の話は
「細部(ディテール)のきめ細やかさ、台詞の刺さり度、全体の完成度」が問われ、
そこが評価と印象の分かれ目なので、


とにかく、現状の「地の文と台詞、ぶつ切り・行アケで並べただけで、つなぎゼロ」は
やめて。

夜の雨
ai212132.d.west.v6connect.net

「太陽の幻影」読みました。


「親の愛情」を表現してみようと執筆しました。 ← 作品が短いこともあるかとは思いますが、「親の愛情」が伝わってきませんが。

母親の愛情。
主人公のユウキを産んだときに亡くなっているので子供に愛情を伝えることが出来ない。
幽霊とか亡霊のたぐいで、子供が危うげなときに現れては異界の能力により子供を助けるという方法で母親の愛情を表現することはできますが、御作ではそういったエピソードはありません。
後半で異界の母が主人公の前に現れているのですから、こういうことが出来るのなら、多額の借金を負った夫を過労死で亡くならせることもなかっただろうと思いますが。
夫が亡くなるということは、残された一人息子のユウキに両親がいなくなるということです。
あと、頼りのなるのは自分か、夫の祖父母とかになりますが。

父親の愛情
多額の借金を背負い逃げ回る生活で疲労困憊ということになりますが、災難は子供のユウキですよね。彼には何の責任もない。
不器用な愛情表現しかできない父親ということですが、具体的にどんな愛情表現をしているのかというと、武骨な手で「頭を撫でたり」「A」だったり。

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 ……お前らに何が分かるんだよ。父さんは誰よりも母さんを愛していたのに。父さんは毎日母さんの形見だった結婚指輪を握りしめて、母さんに話しかけていた。

「今日、ユウキが俺の弁当にピーマンを入れやがってさ。俺がピーマン嫌いなの、知っててだぜ?」
「なあ、ユウキはきっと立派な男になる。アイツにゃ信念があるんだよ。俺と違ってさ」
「ユウキの目は、本当にお前そっくりでさ。可愛いったらありゃしない。……アァ、お前がいてくれればな」

 そんな風にまくし立てて、最後には必ず泣くのだ。
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つまり主人公の「ユウキ」の生活が豊かになるような「愛情表現」はしていない。


祖父母の愛情。
高校進学をあきらめニートになり母方の祖父母に預けられても、ユウキは祖父母に愛情を受けていると感じていない。
そりゃあ、そうでしょう。

>「あんたダラダラしてないで高校に行ったらどうなの?あの卑しい男みたいな大人にならないようにしなきゃ」
>「そうだとも。娘を奪っておいて、挙げ句死なせたあんな男なんかにゃね。お前にあの男の血が流れていると思うだけでゾッとするよ」

祖父母はユウキに対して高校(教育を受ける)に行けるように段取りする提案をしていない。
ユウキとその父親の悪口を言っているだけ。
この祖父母、「いい家の産まれの母さんは、貧しい父さんとの結婚を許してもらえなかったそうだ。」ということなので「資産」があるということだと思うが、それだったら「ユウキに対して高校に行けるように段取りできるはず」。
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問題はここからです。
上のような「設定」で、「母」「父」「祖父母」の愛情が受けられていない主人公のユウキのところに、御作の後半でユウキが自殺をはかろうとするとそこに女が現れた。
その女が亡くなった「母」という展開です。
もしこの母が異界から現れて御作の続きで息子のユウキに対してこれから生きていく上で、お助けするのなら、母親の愛情をユウキに与えることはできます。


その場合。
異界の力により、ユウキを助けることが出来るのなら、その前に夫をどうして助けなかったのかということになるので、「そこのところの設定が必要になる。」
「異界で母が現世に現れるための修業中」だったとか。そのほか、諸々。
こういうことをやる場合は、主人公の亡くなった母が修業をしたら現世に現れることが出来るのなら、他に亡くなった過去から現在までの多くの人々が現世に現れることが可能となるので、そうならないために「ある条件(設定)をつけておく」。
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「親の愛情」を表現してみようと執筆しました。  ← 御作で書かれている部分までなら「親の愛情」は、薄っぺらなところまでしか見えません。
続きを書くことで、異界より、親が現れて愛する息子のユウキに愛情表現をすることは可能だとは思います。

ちなみに主人公が自殺しようとする動機が弱いと思いますが。
このあたりはしっかりと描く必要があると思います。
何しろ主人公は17歳で人生これからです。
両親は亡くなりましたが、祖父母宅で生活に困りません。
現状、自殺する動機はないと思いますので、いろいろと設定が必要だと思います。


それでは、頑張ってください。

偏差値45
KD106154138023.au-net.ne.jp

要約すると、無能な父親と病弱な母親が駆け落ちをして主人公が生まれる。母は主人公の産後に死に、その17年後に父は過労で亡くなる。そして父の死をきっかけに主人公も自死を試みるが、謎の女に諭されて生きる道を選ぶ。おそらく謎の女とは死んだ母親が化けて出てきたのであろう。そんな感じでしょうか。

さて感想です。
主人公が自死を試みる動機が弱いですね。
もう少し推敲しても良かった気がしますね。

茅場義彦
M106072175192.v4.enabler.ne.jp

違和感に同意っすなあ 感動の押しつけっぽいなあ

でも まあ グッドトライ

餓鬼
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霊銀様
こんな拙い文章を好きだと言ってくださり、ありがとうございます。嬉しい限りです。

餓鬼
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四月は君の嘘様
全くおっしゃる通りで、思わずうなってしまいました。自覚は無かったのですが手を抜いている所が多々ありますね。反省しています。
確かに「女」呼びはよろしくありませんね。今まで何かを書くとき「その男は」だとか「女は」だとか言う表現を酷使して来たので、気をつけます。
やたら芝居がかった台詞になってしまっているのものもお陰様で自覚しました。多分、癖なんだと思います。おっしゃる通りに、声に出して読んでみて、何とかこの癖を矯正します。
つなぎが苦手で、つい行開けで済ましてしまう事も何とか努力して克服したいと思います。言われてみれば行開けによって、更に雑さが目立ちますね。こんなのは基本中の基本なのかもしれませんが、場面のつなぎ、段落の処理をスムーズになさっている方々はすごいと感じます。自分もそういう方々の文章を研究して、妖怪行開け魔神を卒業したいと思います。
ありがとうございました。

餓鬼
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夜の雨様
的確なご指摘ありがとうございます。確かに、頭の中で、なぜ母親は夫の元に出てこなかったのかなどの設定が全く成り立っていませんでした。これから何かを書くときには、きちんと設定を練り込み文の中に取り入れるということをしたいと思います。
おっしゃる通り、テーマとしていたはずの親の愛情を表現しきれていませんね。猛反省しています。雑になっていたところも改良した上で、練習用に続きを書いてみます。自殺する動機について
も決定的な出来事を付け足そうと思います。
それと、父親や祖父母の主人公に対する愛情表現をもっと分かりやすいものにしてみようと思います。
読んでくださりありがとうございました。

餓鬼
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偏差値45様
自殺する動機は自分でも弱いかな?と薄々感じていましたが、やはり弱いですよね。今回のように「これはどうなのかな?」と思うことをスルーしてしまう事が多々あるので、推敲を重ねに重ねたいと思います。読んでくださりありがとうございました。

餓鬼
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茅場義彦様
自分には長い道のりだと思いますが、感情を押し付けずに自然に人を感動させられるような文章を書けるように努力していきます。ご指摘ありがとうございました。

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