作家でごはん!鍛練場
椎名

精神の変容

 街灯が等間隔に並んでいて、アスファルトの地面を照らしていた。僕らが歩く先には住宅が連なっている。家々の窓は電気の明かりがついていた。季節は冬で、僕はコートを着ていたが、風が吹くと身が縮こまった。通りを歩いている人はほとんどいない。僕の隣には恋人の京子が歩いている。彼女の表情は暗くてよく見えないけれど、どこか疲弊している印象だった。彼女はここ最近、仕事を休職し、明日入院することになっていた。原因不明の疲れと不安があるらしく、しばらく入院して休息を取り、様子を見るらしい。僕は彼女の隣を歩きながら、いったいこの先どうなるんだろうと思った。僕はいつの間にか大人になっていて、毎日を淡々と過ごしていた。だから彼女が病気になったことには少し戸惑った。
「最近、小さい頃のことを思い出すの」
 ちょうど道を曲がろうとしていた時に彼女はそう言った。
「小さい頃のこと?」
 僕は特に気にもとめずにそう聞いた。
「なんだか、自分の意識というものがずいぶん変わったなと思って。それは成長というのかもしれないけれど。体の背が伸びるように、自分自身も変わっていくんだなって思ったの」
 僕はそう言われて、小さい頃のことを思い出した。まず初めに思い浮かんだのは、両親と夕食を食べている情景だった。些細な日常だったが、今もその時の記憶を覚えている。確かにあの頃とは、自分の意識が変わっているような気がした。そして彼女が言うように自分自身すらも変わってしまったのだ。
「確かに、言われてみればそうだよね」
 僕はそう言って、先へ先へと歩いた。僕は手をポケットに突っ込んだまま、空を見上げた。空には星が輝いていて、丸い月が浮かんでいる。冬の空は綺麗だなと改めて思った。
「私は今回、病気になってさ、自分の精神ってここまで変化するんだって少し驚いたの。なんだかがらっと見ている世界が変わってしまった気がしてね。圭介君はそういう経験ある?」
 僕は記憶を思い返してみたが、失恋をしたり怒られた時などは、自分の精神が変わったなと思った。考えてみればどこまでが自分の精神なのだろう。見ている景色も自分の精神と言えるのではないか。
「なんかこういうことって考えていけばいくほど、わからなくなるよね」
 僕らは暗い夜道を歩きながら、漠然とした話をした。京子も大分疲れているようだったので、当たり障りのないことを話したかったのかもしれない。明日、彼女は入院する。僕はいったい彼女はどんな気持ちなのだろうなと思った。

 翌日の朝に、彼女と病院に行き、入院の手続きを済ませた。彼女は安心したのか、どこかほっとしているようだった。僕は休めば時期によくなるだろうと楽観的に考えていた。病院の近くのレストランでパスタを食べて、家に帰った。マンションの部屋に戻ると、室内はどこか閑散としている気がした。
 ベランダに出て、僕はポケットから煙草を取り出して、ライターで火をつけた。煙草の煙がゆらゆらと浮かんで消えていく。会社員になってから煙草を吸うようになった。毎日、会社に出勤し、僕の仕事である実験を行う日々だった。昨日、彼女は自分の精神が変わったと話をしていた。僕はそれが当たり障りのない重要ではない話だと思っていたが、日をまたいでもそのことを考えていた。いったい僕はなんのために生きているんだと、その時考えた。
 頭の中に一人の友人が思い浮かぶ。中田という友人は今でもミュージシャンを志し、活動を行っていたが、ふと彼と話がしたいと思った。僕は煙草をもみ消し、部屋に戻って、スマートフォンで彼に電話をした。
「もしもし」
 数回の着信音の後に彼が出た。
「久しぶり」と僕は言った。
「元気だったか?」
 そういう中田は相変わらず元気そうだった。
「こっちは元気にやってるよ。たまには一緒に酒でも飲まないか?」
「今、練習をやってるんだ。夜なら空いてるけど」
「夜にいつものバーで飲もうよ」
「わかった」
 電話が切れると、僕は部屋のベッドに寝転がった。頭の中に様々な思念が浮かんできては消えていく。京子は今頃何をしているのだろう。僕は彼女がいないので、少しだけ寂しさを感じた。ベッドの横にはデジタル時計が置いてある。僕は特にすることもなく、横になりながら、その数字が変化していくのを眺めていた。
 六時になると、僕はスーパーに買い物に行った。スーパーで野菜や肉を買って、部屋に戻った。窓の外は暗くなっていた。キッチンで一人分の野菜炒めを作り、冷凍庫の中の米を解凍した。リビングで夕食を食べているとき、ふと中田のことを思い出した。僕らは大学の軽音部に所属していて、僕がベースで彼はボーカルだった。あの頃から、彼は周りの学生とは違い、音楽に本気で打ち込んでいる気がした。彼以外の学生は就職活動の時期にバンドを辞めてしまったが、彼は演奏を続けた。大学を卒業してからも、彼はアルバイトをしながら、音楽をやっていたらしい。
 食事を終えると、僕はテレビで待ち合わせの時間になるまでニュースを見た。時間になると、僕は部屋の外に出て、鍵を閉めた。

 夜の住宅街の道を歩いていく。アスファルトの道路に白線がある。空を見上げると、雲が浮かんでいて、風に乗って移動していた。ポケットの中からスマートフォンを取り出し、時間を確認する。駅に着くと、そこにはたくさんの人がいた。僕は彼らを一瞥して、駅の裏手にあるバーへと入った。
 店内にはジャズの落ち着いた曲がかかっていて、カウンターに中田が座っていた。髪は黒のままだったが、両耳にピアスが空いている。彼はお酒を飲みながら、本を読んでいた。
「よう」と僕は言った。
「久しぶりだな」
 彼はそう言って微笑んだ。僕はバーテンダーにウイスキーのロックを注文した。彼は本を閉じてポケットの中に入れた。僕はウイスキーを一口飲んだ。
「ところで急に連絡があったけど、何か話でもあるのか?」
 中田はそう言って、カクテルを飲み干した。
「今日付き合っていた彼女が入院したんだ」と僕は言った。
「入院? 何かの病気?」
「精神的なものらしい。詳しい原因はわからないんだ」
「最近は、精神を病む人が多いみたいだな」
 中田はそう言って、バーテンダーにジンライムを注文した。僕はゆっくりとウイスキーを飲んでいた。大学時代から時々こうして会っていたが、中田はいつの間にか大人になっていたのだなと思った。
「昨日、夜道を歩いていた時に、彼女が自分の精神が少しずつ変化しているっていう話をしてね」
 僕がそう言うと中田は何かを考え込んでいるようだった。その目は暗く、どこを見ているのかわからない。彼は時々こうして物思いにふけることがある。
「確かに精神は変化していくと俺も思うよ。きっと彼女にとっては病気がその感覚を強くさせたのかもしれない。ちなみに、なんで俺が今でも音楽を続けているかわかるか?」
 僕はそう聞かれて、少し考えたが、明確な答えは思いつかなかった。
「音楽が好きだから?」と僕は聞いた。
「確かに音楽は好きだよ。だけど俺には音楽をやりたいっていう願望があるんだ。もし、その願望が顕在化したら、それは自己実現というのかもしれない。俺は何度も音楽をやることをあきらめたけど、そのたびに願望がもう一度音楽に向き合わせるんだ。お前の彼女の話にしてもさ、きっと常識では考えられない何かがあるんだよ」
 彼はそう言って、ジンライムを飲み干した。相変わらず、酒を飲むのが早い。僕はまだ一杯目のウイスキーを飲んでいた。僕は自分の願望について考えてみた。その時、高校生の頃の情景がよみがえってきた。僕はあの頃、確かに願望を抱き、そして今の僕自身は少しずつそれに近づこうとしている。

精神の変容

執筆の狙い

作者 椎名
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最近思っていることを小説にしてみました。

コメント

夜の雨
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「精神の変容」読みました。

何が書きたいのか、方向性や題材がわかりませんが。

最近思っていることを小説にしてみました。 ←「彼女が精神を患って入院したこと」とか「大学時代からの友人である中田は音楽を職業としてやりたい『願望』があるが、それは『顕在化』してはいない」また主人公は「『願望』に近づこうと、している」というような、ことが書かれています。

要するに、抽象的な内容なのですよね、だから御作で「何が書きたいのか、方向性や題材がわかりませんが。」ということになります。


ここでわかっていることは友人の中田だけです、「彼が音楽をやりたい願望がある」。

主人公の願望が何であるのかが書かれていないので、御作が進展しません。これが、一番の問題ですから。

次の問題は主人公の彼女が「原因不明の疲れと不安があるらしく」明日入院することになっていた。ということですが、この「原因不明の疲れと不安が」どこから来ているのか、が、書かれていません。

全体的に、抽象的で、作者さんが「何を書きたいのか、方向性や題材がわかりません」ということです。


御作の流れというか、エピソードの展開を見ていると、「本質に入る前」の「状況は書かれている」のですよね、しかし「本質が書かれていない」だから、題材やら方向性というか、何が目的で御作を書いたのかが読み手に伝わらないということだと思います。


以上です。

椎名
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本質が書かれていないということと抽象的ということで、テーマが伝わらなかったことがわかりました。もう少しテーマを統一してわかりやすく表現しようと思います。

夜の雨
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再訪です。

前作の「田園風景」(2021-04-18 17:38)と、今回の御作とが関連しているということですか。
ヒロインの名前が「京子」で同じだし、前作では主人公の彼女にはなっていませんが。
まあ、前作と関連付けたとしても、まだ、意味不明ですが。

どちらにしても、踏み込んだことが書かれていないのですよね、だから本質的なところがわからない。

椎名
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夜の雨さん

前作とは関係はないです。

偏差値45
KD106154138023.au-net.ne.jp

「精神の変容」を読んでみました。

個人的には、精神という言葉よりも「心」という言葉の方がしっくり来ますね。
心の病気。心の変遷。そういう感じかな。
人の心は変わりやすいものですから、
そう解釈してしまうと難解なことはない気がしましたね。

・京子の場合 病気になる。
・中田の場合 健康である。
おそらくこの比較ということでしょうか。

その違いに作中では「願望」という言葉がキーワードになっているので、
それを言い換えれば、夢、希望、生きがい。そのようなものを
持っているか否かなのではないだろうか、推測できますね。
つまり、「何か志を持ちましょう」という感じかな。

とはいえ、そこまで作中では明確になっていないので、
ストーリーとしての核心部分は弱いのかな、と思いましたね。

で、面白か?と言えば、「いいえ」ですね。
正直に言えば、「つまらない」
山なし、オチなし、意味なし。面白いエッセンスが欲しいところですね。

椎名
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

偏差値45さん

もう少し明確に書いてもよかったかなと思います。何か物語に起伏があってもよかったかもしれません。登場人物の感情の揺れを描くことが必要かなと思いました。

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