猫と星
ここはとおい、とおいどこかの夜空。
ねこたちが空を見上げています。ねこは、ここではひとつ、星を持ってうまれてくるのです。
ねこたちは地上で、じぶんの星を見上げています。
きれいだなぁ
ねこたちはみーんな、そう思うのです。じぶんの星が一番きれいだと、その星空をうつしたようなキラキラひかる目で、星を見つめています。
一匹のねこが、かなしそうに夜空を見ていました。
ここに来てまもない、みけねこです。みけねこの見つめる星は、弱々しく光っているのです。
星が泣いてる。早く元気になって欲しいなぁ
みけねこは星に向かって、いっしょうけんめい、鳴きました。星はねこよりずーっとずーっと高いところにありますから、ねこの声が聞こえるはずがないのですが、それでもねこは、ずーっと鳴き続けました。
その隣に座っていたくろねこは、やさしく言いました。
そんなに鳴くのはおよしなさい、きっと時間が経てば、星は光るよ
みけねこは答えました。
早く元気になってほしいんだ。だから、僕は元気を出してって、鳴くんだ
くろねこはまた、やさしく言いました。
しあわせなねこが持つ星ほど、光るまでに時間がかかるのさ
みけねこは首をかしげて、座り直しました。ずっと空を見ていたので、体が痛くなってしまったのです。
そういえばここに生まれる前も、体が痛くて、うごかなかった事を思い出すのでした。
そしてそんな時、撫でてくれた温かい手があって、今もまた、優しく撫でてくれているような感じがするのでした。
会いたいなぁ
みけねこの目から、なみだが一粒、ぽろんとこぼれました。くろねこが言いました。
星が光れば、また会えるさ
くろねこさんは、いつからここにいるの?
何年になるだろう。もう覚えていないのさ。だけど、星のことだけは、忘れた事はないんだよ
くろねこはおだやかな目で、星を見ています。
星が落ちる時、私たちはまた、大好きなものに会えるんだ。
一緒に待とう。退屈なら、おしゃべりしていたって、いいんだから。
数日が過ぎました。みけねこの星は、ほんの少し、元気になったようです。
きれいだなぁ
ちょっと悲しい目をして、みけねこは言いました。
すると横から、さばねこが口を挟みました。
俺の星のほうが、ずっときれいだよ
さらに横から、さびねこが口を挟みました。
私の方が、きれいよ!それにずぅっと、大きいもの!
たしかにその二匹の星は大きくて、たくさん光っていましたから、みけねこは悲しくなって一粒、涙をこぼしました。
僕はあの星が好きなんだ。小さくても、弱くてもあの星がいちばん、好きなんだ。
だってほら、あんなにきれいな色をしているんだから。
二匹のねこは、みけねこの星を見ました。
みけねこの星は小さくて、光も弱いのだけれど、とてもきれいな青色をしているのでした。
そしてこうして見てみると、夜空に浮かぶ星たちにはひとつとして、同じものはないのでした。
隣で静かに聞いていたくろねこが、言いました。
どの星もきれいだね。私たちはみんな、とてもきれいな星を持っているよ
よんひきのねこは、みんなで空を見上げました。そしてやっぱり、自分の星が一番だと、思うのでした。
一体どのくらいの時間が過ぎたのでしょう。みけねこの星は、ずいぶんと大きくなりました。
悲しい光は温かい光に変わり、みけねこはもう泣かなくなりました。
横に座っていたくろねこが、立ち上がりました。
その瞬間、くろねこの星はとても大きくひかって、まっさかさまに落ちてきました。まぶしいほどの光に包まれて、くろねこの姿が見えなくなりました。
また会えるよ。その時まで星を忘れないで
くろねこの声に、みけねこは頷きました。星の光の中で、見知った誰かの腕に抱かれるくろねこの姿を見たような気がして、それはとっても幸せなひだまりのような気配で、みけねこは思わず目をつむりました。
そして次に目を開けた時には、もうくろねこの姿はどこにもありませんでした。
みけねこは前足を舐めて、体を横にしました。星の光は、みけねこを優しく照らします。他の星も、ねこたちを優しく照らしています。
また会えるよ。
くろねこの優しい声を、みけねこは思い出して、最後にぽろんと一粒、涙をこぼしました。
だけどいつか、きっと、どこかで。会える気がしてたまらないのでした。
執筆の狙い
童話というか、優しい物語を書きたいと思って作りました。