一色の集まり
放課後の美術室。照りつけるような陽光を木の葉が遮り緩和する。
柔らかな光が葉っぱの淡い色を透かして美術室の床と、僕の白いままのキャンパスを彩っていた、その色は浅緑。
瞬間、僕の頭の中で浅緑が溶けた。溶けてのまれた。萌黄、若緑、灰緑、深緑。
いろんな緑が混ざり合って、僕の頭の奥の、また奥の方まで溶かした。
油彩画用筆を執り、パレットにあるだけの種類の緑をゆっくりと丁寧にチューブから押し出す。
今、この緑を描きたい。今、この緑で真白いキャンパスを染め上げたい。今、今、今。
僕は無造作に筆をパレットの緑に押し付けて、そのままキャンパスに線を描いた。
右に、左に、下に、上に。流れるように筆を滑らせる。
もっと、もっとだ。もっと出来る。僕なら出来る。
僕は無我夢中で絵を描き続けた。でも、絵を描いていたと云うよりは塗っていたに近いのだと思った。
だって完成した絵は下から順に、萌黄、浅緑、若緑。そして唐突に海松色などがてんでバラバラに塗られている。
濃いから薄いに、薄いから濃いにとか、そういう順番とかでも無い。
緑色という種類のたくさんの集まり。一色の集まり。
ただ、とても綺麗だった。これを僕が描いたのなんて信じられないくらいにとても美しいみどりいろ。
生乾きのキャンパスに描かれた一つの緑の線を指でなぞってみる。
キャンパスに触れた指は当たり前のように色が付いた。
椅子から立ち上がって僕は軽く伸びをしてみた。背骨がコキリと二、三回音を立てる。
目までかかった前髪を掻きあげてスタスタと窓に歩み寄る。
ガラッと勢いよく窓を開けると校庭を走っていた運動部の元気の良い声が美術室にも響き渡った。
しばらくは空を流れる雲を目で追っていたが、ふと校庭に視点を落とす。
バドミントンのラケットを持って素振りの練習をしている女子数人の和気あいあいとした様子を眺めていると僕に気がついたのか、大きく手を振り笑顔で僕の名前を呼んでくれた。
なんで僕だと分かったのか少し疑問に思ったけど、放課後まで残って絵を描いてる美術部員は僕しかいないからかと納得した。
にこりと微笑んで手を振り返したら、挨拶をしてくれた女子数人から黄色い歓声が上がった。
執筆の狙い
以前から小説を書いてみたく思い、如何せ書くならなにかお題を課そう。と「色」というお題で書いてみました。
今回初めて小説を書きました。