作家でごはん!鍛練場
玄野颯

死刑囚洗濯機

 長い一週間は終わった。
 金曜の最後の一コマを終えると、同じ授業を取っている友人の家に上がるのが日課だ。まただ。彼の家の洗濯機には、いつも顔写真が貼られている。そして、洗うものがあろうがなかろうが、ずっと稼働している。気になって仕方がないのだが、今週の疲れを取るのが先だ。スーパーで買った酒とつまみを袋から出し、ちいさな宴会が始まった。

 彼は、とてもやさしい。周囲からも慕われてして、友人も沢山いる。
 しかし、ナメられているのも事実だ。何かをやる際、損な役回りになることが多い。今日の授業でも、教授から叩き台にされていた。ワークシートを書く時間があったのだが、資料を見ているだけで「手が止まっている」と言われ叱られていた。何もせず、ただ手が止まっていた学生も多いというのに。
 また、頭のおかしい人が彼にはよく寄ってくる。コンビニに行けば酔っぱらいに絡まれて説教をされ、薬局に行けば怪しい女から「ごめんなさい、私バカなんです」といって手を急に握られたそうだ。更に、現在ストーカーにも遭っている。最初は食事に執拗に誘われるだけだったようなのだが、サークルでも常に寄ってくるようになったらしい。そのため、彼は最近顔を出していない。
 温厚なオーラが彼から出ているため、普通の人に相手にされないような人が、「この人なら相手をしてくれるかも」と思って寄ってくるのだろう。しかし、彼の精神は耐えられるのだろうか。何故彼は、それでもやさしくいられるのだろうか。

 酒が進んでいった。僕は煙草を吸うためにベランダに出た。煙を吸う度、彼に対する疑問が強くなっていった。どうせ酒の席だ。聞いたとして、僕が何の罪に問われようか。部屋に戻って、僕は洗濯機のことについて尋ねた。十秒ほど沈黙して、彼は口を開いた。
「死刑囚がさ、掘った穴をもう一度埋めるだろ?」
「ああ」
「あれ、何でか知ってる?」
「知らない」
「あれはな、生きる希望を奪うためなんだよ」
「生きる希望?」
「意味のない労働っていうのは、続けると参ってくるんだ。生きることなんてどうでもよくなる」
「洗濯機と何の関係が……?」
「あの洗濯機の中に、洗濯物は入っていない」
「……ッ⁉」
「意味のない行為さ」
「代わりに、償わせているのか?」
「そうさ」
 彼は立ち上がって、遠くを見つめ始めた。
「皆正直、俺のことナメてンだろ? 俺だったら何を言ってもいい、何をしてもいい。どいつもこいつもそう思ってやがる。だから俺は意味のない苦役を与えている」
 楽しそうに、彼は笑った。それも正常なものではない。狂気を含んだ笑みであった。なるほど、こうやって解消して温厚を保っていたのか。
 僕は洗濯機がこの上なく哀れに思えた。洗濯機としてこの世に生を受け、このような方法で使用されると誰が予測できたであろうか。今も動き続けている。どこか悲しそうな声だった。

 数週間後、学内で大量殺人が起きた。この日、僕は一日寝込んでいたため、学校に足を運ぶまで知らなかった。立入禁止のテープが貼られている。近くにいた人間から、犯人の名前を聞いてしまった。
 あの洗濯機は、もう止まってしまったのだろうか?

死刑囚洗濯機

執筆の狙い

作者 玄野颯
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問題は根本的な解決をしないと、結局は我慢していることになる、ということを表現したいと思いました。クライマックスの書き方を練習しています。

コメント

貔貅がくる
n219100087087.nct9.ne.jp

うーーん・・

細かい人間であるワタシは、『洗濯機の中身カラで、えんえん回し続けるって、どうやったら可能?』と、
それが気になった。

全自動じゃないにしても、注水なしでただ回しとくにしても、「タイマーがある」ために、
動作止まらないよう「何らかの細工」を施してないといけない。

機械音痴なワタシには、その「えんえん稼働させる方法」が浮かばなかった。


そんで、個人的には、
本作の「えんえん回り続ける洗濯機の、中はカラ」より、

【特定のものが入れられていて、えんえん回されている設定の方が怖い】んで、、、


もうちょっと考察を深めて、具体的描写を増やして、
丁寧に書いたなら、
より味が深まる・・だろう・・と思った。

夜の雨
ai199112.d.west.v6connect.net

「死刑囚洗濯機」読みました。

この短さで面白い話を書きますね。
御作の基本的な「ネタ」は、読み手の私も知っていました。
「掘った穴を埋め直す行為(無駄なことをさせる)を繰り返し行わせて、ストレスを与える」という話です。

御作は、この元ネタに創作をプラスして、掌編というかショートショートを書いています。
主人公の友人である「彼」はお人好しで周囲からも慕われていて、というか「舐められている」ので、「損な役回り」をしている。
当然、ストレスが溜まる。
「彼」は、そのストレスを「洗濯機に無駄な仕事をさせて、解消していた」が。
洗濯機に八つ当たりしていた、ということです。

学内で「大量殺人が起き、容疑者が彼だった」という展開になる。
こうなれば、「彼」はストレスを発散できなくなったのだろう「か」という、考えが起きるわけで「無駄な仕事をさせていた洗濯機は故障していたのか」ということになる。
つまり、八つ当たりする相手がいなくなり、ストレスが解消できなくなり、大量殺人に転化した。

御作は、この「彼」と主人公を含めた周囲の者との関係をうまく小説化していると思います。

そのほか。

もう少し長くして、登場人物の個々人の雰囲気が伝わるように書く。
あと、「彼」が追い詰められていく様子が、描かれていれば盛り上がるのでは。

お疲れさまです。

貔貅がくる
n219100087087.nct9.ne.jp

>彼の家の洗濯機には、いつも顔写真が貼られている。そして、洗うものがあろうがなかろうが、ずっと稼働している。

と、冒頭っからネタバレしちゃってるんで、
後段で

>「あの洗濯機の中に、洗濯物は入っていない」

と重々しく(シチュエーション的に重々しいんだろうと思う…)告げられても、
『いまさら?』って思ってしまった。

そこはカットして、
洗濯機の初出時に「どのような外観の洗濯機なのか」「過酷な連続稼働を強いられた果てのモーター音とはいかなるものか」等を書いた方がいい・・でしょう。


そんで、最初のコメに「洗濯機の中身カラ」と連呼してしまってるんだけど、それは
冒頭では「水だけ入れて回している」パターンを思ったんだけど、
後段の台詞んところでは、なんか「水もなしに完全にカラで回してる状態」をシミュレートしてしまったから。

玄野颯
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夜の雨さん、こんにちは。おっしゃる通り、もう少し話を長くすることで、内容を濃くして、人物について掘り下げようと思います.
僕は今、クライマックスの練習をしています。一つ質問をしたいのですが、この作品はどうでしたか?

玄野颯
p76ec1ff7.kagwnt01.ap.so-net.ne.jp

貔貅がくるさん、こんにちは。感想及びご指摘ありがとうございます。
細かい部分にたいしての考察が不十分であったため、今後作品を書く際は、細かい部分までこだわろうと思います。
また、「彼」が洗濯機の中身に触れた部分も、くどいなと自分でも感じたので、どの部分でどういった説明を出すか、ということも意識しようと思います。
僕は今、クライマックスの練習をしています。一つ質問をしたいのですが、この作品はどうでしたか?

夜の雨
ai196105.d.west.v6connect.net

>クライマックスの書き方を練習しています。<

「クライマックス」とは。
物事の緊張や精神の高揚が最高に盛り上がった状態。劇・文学作品などで、最も盛り上がったところ。

>起、承、転、結 ← (構成の基本形)こちらは、エピソードが4つある。
>起、起、承、承、承、承、承、承、承、承、承、承、承、承、承、転、転、結、結 ← (クライマックスで盛り上がるような構成はこちらです、中編から長編)。エピソードが19ある。


御作の構成は、下記のようになっています。


 長い一週間は終わった。
 金曜の最後の一コマを終えると、同じ授業を取っている友人の家に上がるのが日課だ。まただ。彼の家の洗濯機には、いつも顔写真が貼られている。そして、洗うものがあろうがなかろうが、ずっと稼働している。気になって仕方がないのだが、今週の疲れを取るのが先だ。スーパーで買った酒とつまみを袋から出し、ちいさな宴会が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
●導入部で「起」になる。


 彼は、とてもやさしい。周囲からも慕われてして、友人も沢山いる。
 しかし、ナメられているのも事実だ。何かをやる際、損な役回りになることが多い。今日の授業でも、教授から叩き台にされていた。ワークシートを書く時間があったのだが、資料を見ているだけで「手が止まっている」と言われ叱られていた。何もせず、ただ手が止まっていた学生も多いというのに。
 また、頭のおかしい人が彼にはよく寄ってくる。コンビニに行けば酔っぱらいに絡まれて説教をされ、薬局に行けば怪しい女から「ごめんなさい、私バカなんです」といって手を急に握られたそうだ。更に、現在ストーカーにも遭っている。最初は食事に執拗に誘われるだけだったようなのだが、サークルでも常に寄ってくるようになったらしい。そのため、彼は最近顔を出していない。
 温厚なオーラが彼から出ているため、普通の人に相手にされないような人が、「この人なら相手をしてくれるかも」と思って寄ってくるのだろう。しかし、彼の精神は耐えられるのだろうか。何故彼は、それでもやさしくいられるのだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――
●「承」です。


 酒が進んでいった。僕は煙草を吸うためにベランダに出た。煙を吸う度、彼に対する疑問が強くなっていった。どうせ酒の席だ。聞いたとして、僕が何の罪に問われようか。部屋に戻って、僕は洗濯機のことについて尋ねた。十秒ほど沈黙して、彼は口を開いた。
「死刑囚がさ、掘った穴をもう一度埋めるだろ?」
「ああ」
「あれ、何でか知ってる?」
「知らない」
「あれはな、生きる希望を奪うためなんだよ」
「生きる希望?」
「意味のない労働っていうのは、続けると参ってくるんだ。生きることなんてどうでもよくなる」
「洗濯機と何の関係が……?」
「あの洗濯機の中に、洗濯物は入っていない」
「……ッ⁉」
「意味のない行為さ」
「代わりに、償わせているのか?」
「そうさ」
 彼は立ち上がって、遠くを見つめ始めた。
「皆正直、俺のことナメてンだろ? 俺だったら何を言ってもいい、何をしてもいい。どいつもこいつもそう思ってやがる。だから俺は意味のない苦役を与えている」
 楽しそうに、彼は笑った。それも正常なものではない。狂気を含んだ笑みであった。なるほど、こうやって解消して温厚を保っていたのか。
 僕は洗濯機がこの上なく哀れに思えた。洗濯機としてこの世に生を受け、このような方法で使用されると誰が予測できたであろうか。今も動き続けている。どこか悲しそうな声だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
●「転」ここが、御作でのクライマックスにあたります。
「クライマックスの書き方を練習しています。」ということで、御作の構成を調べてみると、このクライマックスにあたる「転」の部分が「一番しっかりと書かれています」ので、『御作の展開の中では、クライマックスは、よく描かれています』ということだと思いますが。
●つまり、掌編サイズの御作では構成上、クライマックスの部分に作者さんが、力を入れたことは伝わります。
本格的な作品にする場合は全体的にエピソードを肉厚にして、登場人物は掘り下げて、「彼」はだんだんと追い詰められていく展開にする。
「洗濯機」には、人格を持たすと面白くなる。
つまり「彼」は、洗濯機を改造して、永遠に動くようにする。もちろん、声も出るようにした。
洗濯機がブチ切れ出して、奇声を発したりするエピソードを挿入すると、読み手は喜ぶ。


 数週間後、学内で大量殺人が起きた。この日、僕は一日寝込んでいたため、学校に足を運ぶまで知らなかった。立入禁止のテープが貼られている。近くにいた人間から、犯人の名前を聞いてしまった。
 あの洗濯機は、もう止まってしまったのだろうか?
―――――――――――――――――――――――――――――――――
●「結」ラストで物語の締めになり、「オチ」です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

上のように御作の構成をわかりやすくすると、どこに問題があるのかがわかります。
「転」のクライマックス以外の「起、承、結(構成)」の、手を抜き過ぎですね。

まあ、クライマックスの勉強ということなので、問題はないかもしれませんが。

以上です。

塩ゲッティ
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拝読しました。


「彼」が舐められる原因について、「とてもやさしい」「温厚なオーラが彼から出ている」と簡単に説明されていますが、このあたりはきっちり描写したほうがよかったかもしれません。具体的なエピソードを入れるとか、行動から読み取れるようにするとか、やり方は色々あると思います。

「彼」がどんなひとかを読者が粗々でも掴めるようになっていれば、洗濯機のエピソードもラストも今より「立って」見えるんじゃないかと感じました。

あと、語り手がラスト、傍観者みたいになってるのがもったいないなと思いました。
たとえば殺人事件を聞いたときに、毎週金曜日に当然のように開いていた宴会も彼にとっては苦痛だったかもしれない、と気づくとか。自分が殺される側になる可能性だって十分あったと気づくとか。
そうでないにしても、毎週金曜の夜をともに過ごした仲間なんですから、もうちょっとなんかあっていいんじゃないかなと思いました。

では。

玄野颯
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夜の雨さん、丁寧にどうもありがとうございます。参考にさせて頂きます。またよろしくお願い致します。

玄野颯
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塩ゲッティさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
「彼」と「僕」について、もう少し深めてみようと思います。
またよろしくお願い致します。

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