作家でごはん!鍛練場
ひつまぶし

サラダパプリカ

  おはようはパプリカ、僕はそう思う。

        「私」 
ジリジリジリジリ..........
今日もアラームを一度止めて、布団をまたかぶる。冬本番の朝6時、寒くて二度寝したくなる気持ちを抑えてなんとか布団からでて洗面台に行く。その後昨日の晩御飯の残り物をピンクの小さい弁当箱に詰めて、誰もいない家に小さく「行ってきます」を言う。
 コロナでマスクをしないと周りの目が痛いけれども、さすがに自転車に乗っている時はいいだろう、そう思って少し大きな声で洋楽を口ずさみながら駅へ向かう。改札で地下鉄の到着音を聞き、ダッシュで階段を降りる。いつもと同じような顔ぶれを見て、職場であるF高校の最寄り駅まで10分間、今日も昨日と一緒、明日もどうせ一緒、と色気のない毎朝にうんざりして電車に揺られる。誰かイケメンでもいればいいのに..と思い周りを見るが、やはり中年のおじさんしかいない。朝っぱらからため息をついて電車を降りる。
 しかし、毎朝の大きな仕事がこの後待っている。駅から学校まで約15分、空気が冷えているためか、一段と朝日が綺麗に見える。今日は一つ目信号を超えたあたりで、後ろから「おはようございまーす」と大きな声が聞こえたかと思うと、私の横を真っ赤な自転車に乗った生徒がニヤッと笑って通りすぎていく。最近は慣れてきて「おはよう」と返すのだが、声も出ないし、一瞬テンポが遅れる自分が恥ずかしい。
 教師になって5年経つが、朝から元気よく挨拶してくる生徒はいなかった。私が子供の頃は「誰にでも挨拶しろ」と言われてきて、最近の子供はそんなこともできないのか、と思うのだが、そういう雰囲気に流されて「おはよう」が言えなくなっている自分がいる。相手はただの生徒、恋愛感情なんて少しもない。しかもたった4文字なのに...。明日は必ずちゃんと返事をしようと心に決めて職員室に入る。


        「僕」
 ドドドドドドドド.....
母さんが階段を降りていく音で、毎朝起きる。
あと15分、、そう思ってもう一眠り。
「もう6時15分だぞー」、次は父さんか...さすがにそろそろ起きるかっと思って布団を蹴っ飛ばす。そうすれば寒い冬でも嫌でも起きれる。蹴っ飛ばした布団をちゃんと片付けて、リビングに降りていく。朝ご飯は残さず食べなさいって言われるけど、朝はお腹が受け付けない。まして朝からサラダが置いてある。緑ばっかりのつまらないサラダ。もちろんそれには手をつけずに、急いでパンを口に詰めて洗面台に上がっていく。顔に石鹸をつけたまま、歯ブラシを口に突っ込む。冷たい水で目を覚まして、適当に服を選んでまたリビングに戻る。まだ6:42分、今日はちょっと早めに支度ができた。母さんから弁当を受け取ると、もう6:45分。結局いつもと同じ時間に家をでる。
 いつものように家の近くのコンビニで野球部の男の子とすれ違い、スタバの前ではいつも開店前から並んでいるおじさんを見る。こんな真冬に手袋なしで待ってて寒くないのだろうか、毎日同じ事を思う。音楽を聞きながらの自転車は違法だと知ってから、それをやめているのだが、そうすると学校までの30分が暇で仕方ない。歌は上手くないけれど、最近ハマっている今日を口ずさんで学校へ向かう。
 学校の近くの大きなスーパーで信号待ちをしている。ここから学校までは一本道、信号から先を目を凝らして見るとポツポツと人が歩いている。スーツを着ている人、部活のバックを背負っている人、しかしいつも会う女の先生は見えない。うーん、今日はちょっと遅かったかなぁ、と思っていると信号が青になる。いいスタートダッシュで自転車を漕ぎ、次の信号をギリギリで渡ると、前に黒い服で黒いリュック背負っている小さな女の人が歩いている。少しスピードを上げて、「おはようございまーす」
先生もちょっと顔をあげて「ん、おはよ」
なぜだろう、毎日同じやりとりなのにとてもいい気分になる。逆に先生に会えないと、そわそわする。なんだろう、この感覚は。


       
       「出会い」
 先生は僕のクラスの英語の授業を担当している。もう1人英語の先生がいるのだが、正直そっちの先生の方が人気だ。その先生は男の先生で京大をでているらしい。確かにその先生の方が授業はいい。だけど、僕は彼が人間的に好きはでない。だから質問を持っていく時は、女の先生に持っていく。最初はちゃんと教えてくれるのだろうか、と不安だったが丁寧に面倒を見てくれる。
 「今日は放課後に職員室にきてね」と言われ、その時間を楽しみにしているのだ。今年になって真面目に勉強を始めると、彼女のおかげか英語が面白くなってきた。xとかyとか微分とか、将来なんのために必要かわからない数学なんかよりよっぽど。英語は数学と違ってやればやるだけ伸びていく。これがまたいい。

   
      
      「楽しい時間」
 放課後、職員室に行って待っていると、「ごめん、ごめん、ちょっと遅れた」と言って先生がくる。男子校である我が校で、女の人は珍しく、さらに彼女がいる人もほとんどいないから先生は僕も含めて生徒に絡まれることが多い。だから、毎回遅れてくる。「うん。全然いいよ」と言いながら、横並びで座る。そうすると普段から強い香水の匂いが一段と匂ってくる。多くの生徒は「くさい、くさい」っと言うが、僕はそうは思わない。ちょっと強い気もするが、なんとも言えぬいい香りである気がする。
どうせ、みんなは先生についてプラスのことを言うと「おー 好きなのかー」などと茶化されるからそういうことを言うのだろう。こういう男子校の風潮は嫌いだ。先生と2人きりかと思ったが、隣で数学の課題をやらされている生徒がいる。「こんなのもできんのか」、「すいません、すいません」こんな感じのやりとりしかしていない。その横で僕たちののんびりとした質問タイムが始める。


 自分が書いてきて、添削してもらった作文を見てその添削にケチをつける。いろいろ聞いていくうちに内容はかなりディープなところまでいく。受験では必要ないことまで。どちらかというと、英文学、言語学の入口のようなことをしているのだろうか。それにしても、自分がこんなに深く勉強をしたのは初めてだし、一方的な質問ではなく、一緒に研究しているような感じがとても好きなのだ。

 先生がいかにも、もう終わらせそうな態度をし始める。ふと時計を見るともう6時をすぎている。4時前から始めたから、もう2時間半近く。そりゃ、先生も疲れるわと思い、こんな長い質問をして先生に鬱陶しがられていないかな、また時間とってくれるかなぁと心配しながら片付け始める。
 先生の顔色を伺っていると、「そういえば、私、今度マラソン走るの」と急に言っていた。てっきり早く帰ろうとしているのかと思っていたがそういうわけではないらしい。僕はなかなかにおしゃべりな人だから、そこから他愛もない話を2、30分。その時の先生はとても楽しそうだし、僕のことを嫌っているわけでは無さそうだ。結局、学校を出たのは7時前。帰りの自転車で質問したことを復習する。我ながらいい勉強の仕方だ。
 家のインターホンを押すと、「はいはい、おかえり」母さんの声がする。いつもと同じ声なのに、こんなにスッキリした気分になるのはなぜだろう。


        「私」
 私は他の先生に比べて早く学校をでる。働き方改革を率先しているのだ。家に帰って、シチューを食べ、シャワーを浴びる。一日働いて、シャワーを浴びると身も心も綺麗になる気がして、この時間が大好きだ。家事が一通り終わってゆっくりしようと思った9時ごろ、仕事用のiPad がピロロッと鳴った。まさかと思って見てみるとやはりそうだった。さっきの生徒からメールが届いていた。
「件名:質問です。」このメールを何度見たことか。彼はいつも「僕の質問はいつ返してもらってもいいから」っと言っているから、今日はその言葉に甘えよう。
 彼からの質問を最初のうちは鬱陶しいと思っていたのだが、なかなかいい質問をしてくるので、意外と答えることが面白いと最近気づいた。それにしてもなぜ私に送ってくるのか?他にも優秀な先生はたくさんいのに。まさか私に恋心でも持っているのだろうか。男子校に勤めている女性教師は、たしかに生徒にはモテる。というか、よく絡まれる。中には本気で恋している生徒をいるが、教師はそんなドラマみたいな恋はしない。私は学生時代、女子校に通っていたから生徒が異性の教師にはちょっといいところを見せようとする気持ちもわかる。が、彼の場合はいろんな先生と仲良くしているし、友達もかなり多そうだ。本当にしっかりしていて、クラスの雰囲気に合わせて授業を回してくれることもある。学生時代、私のクラスにもこういう子がいたのだが、その子は先生とはすごく馴れ馴れしくしていたが、それは恋愛とは違う感じだった。彼の場合もそうだろう。
 私ももう30をすぎてしまった。そろそろ本気で結婚を考えなければ。姉はもう子どもが2人いる。あーあ、婚活しないとなぁ、一日の終わりにため息をついてベットに入る。
 まあ彼とはこのまま仲の良い教師と生徒の関係でいるのが良いだろう。


     「明日になる前に」
 晩ご飯を食べ、お風呂に入って、ドラマを見る。もう11:30か、そろそろ寝ようとベットに入る。ベットに入ると今日1日の記憶がフラッシュバックしてくる。サッカーでいいプレーができたとか、いいギャグを言ってみんなが笑ってくれたとか。こんなどうでもいいことばかり。
 そんな中で、一つ気になるのは、自分の先生に対する気持ちである。つい先日彼女と別れたのだが、それも受験勉強に本腰を入れるためであって、決して悪い別れ方ではなかった。その後もいい関係だし、他にも数人仲の良い女友達はいる。みんな可愛いし、いい子だ。浮気っぽいと言われれば、そうかもしれないが、正直言って彼女たちのことは好きである。普通の男子高校生程度に恋ぐらいしてきた。
 しかし今、先生に抱いている感情はそんなもんじゃない。確かに先生は可愛くないとは言えないが、30をすぎていて、さすが恋愛対象には入っていないと思う。
 なのにどうしてだろうか、あんなにも質問をしていた時間が楽しかったのは。
 喋っていると心が落ち着くのは。
 時間を忘れて、先生との世界に入り込んでしまうのは。

 これが学問、ENGLISH のすごさなのか。いやそんなことはない気がする。もし相手がその女の先生ではなくて、もう1人の男の先生だったら.......。学問的にはさらに深い話ができるかもしれない。しかし、こんな楽しく勉強できるのだろうか。それはない気がする。
 
 これはやはり、僕が先生に対して恋心を持っているのか。いやでも、他の女友達のように付き合いたいとかそんなことは思わない。知的な女性に少し惹かれているのか。

 こんな思春期の男子らしいことを考えている自分はあまり好きではない。結局、答えは出ないまま眠る。

 
      「おはようの朝」

ドドドドドドドド、、、
今日はこの音で起きた。なんだか目覚めがいい気がする。しかも朝のサラダが美味しそうに見えた。赤と黄色のパプリカがいつものサラダに彩りを加えてくれてる。しっかりご飯を食べて、歯を磨く。6:45分に家をでて、いつもと同じ顔を見る。ただし今日の僕は昨日までの僕とは違う。

 この勉強ばかりの単調な学校生活に色をつけてくれた先生がいる。好きとかそうじゃないとかそう気持ちは置いといて、ちょっと恩返しがしたいと思うようになった。
 でもプレゼントと買っていくとか、お世辞、媚びを売るとかそういうことはしない。
 先生だって、毎日がルーティーンのようになっていると思う。そんな中にちょっとしたアクセントを加えるのだ。そう、毎日「おはようございます」をいうことにした。
 恋愛感情がかけらもない母から挨拶をされても嬉しいのだから、これで気を悪くすることはないだろう。
 毎日、先生の生活にちょっとずつ僕の色を足してあげよう。ほんのちょっとかもしれないけど、無駄なことではないはずだから。

 張り切って学校に向かって行ったからか、今日はスーパーの前で先生が見えた。スピードを上げて、「おはようございまーす」、「ん、おはよ」いつもと同じ。いや、今日はなんとなく返事が早い気がする。いや、それも気のせいか。 だけれどこれでいいのだ。
 いや、これがいいのだ。
 
 僕の挨拶が今朝のサラダのパプリカのように先生の生活に色どり加えてくれればいいのだ。
 


  



       
 

    
       

サラダパプリカ

執筆の狙い

作者 ひつまぶし
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小説を書いてみたくて、初めての作品です。

コメント

大丘 忍
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 agoさんの感想に、初めて書いた人に対する私の考えを述べておりますので参考にしてください。
 本作では、七つの短いパートに切って述べておりますが、先の方にも言っているように、小説にはストーリーが必要です。また、話の流れとして「起承転結」ですね。
 ここに投稿されている作品の中でも、起承転結をうまくまとめた面白い作品も多々あると思いますのでそれらを参考にして書き続けてください。

ひつまぶし
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コメントありがとうございます。
これから1つずつ練習します。

南風
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ひつまぶし様
>xとかyとか微分とか、将来なんのために必要かわからない数学なんか
私も学生時代、数学はまったく嫌いで苦手だったけれど、もう定年を過ぎたこの時期になって学びなおしてみると、とても面白いものです。よくぞこんなことを考えたなあと、感心することばかりです。例えば掛け算は足し算を簡単にしたもので、例えばべき乗(指数)は掛け算を簡単にしたものですよね。こう考えると、たとえば三角関数が掛け算だったら暗算でできます。たとえば微分積分が掛け算で計算できるんだったら、とても簡単です。例えばまっすぐ行く道が急だったら、遠回りしてもゆるやかな方を選びよね、これが有名なオイラーの法則なんだ。たとえば目的地に行くのに途中に障害物があったら、障害物はないものとして考えて最短距離を選ぶべし、って言った人もいる。英語はあるものを分析するんだけど、数学はないものを作りだすって感じかな。私はこの作品はもっともっと詳しく書いたら、面白いものになると思いますよ。何かを作り出すって意味なら、小説も数学も同じなのかもしれないね。

南風
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オイラーの等式のWikipediaにアニメーションがあるよ。

貔貅がくる
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「画面」眺めて、思ったことは・・

『このコンテスト(↓)に応募しようと思って書いたもの……をここのサイトにも転載してる のかなー??』と。


それ向けに書いてた人、
ここの鍛錬場に、1カ月前ぐらいにもいて、その人は『執筆の狙い』に明記してたんで、
その際にググったんで、覚えてた。





□ 「当たり前だった日常が去り、朝起きて出かけたくない、先が見えない、という方が増えています。それでも、どんなにつらくても、「おはよう。」の一言から一日が始まり、テレビをつけると変わらず『めざましテレビ』がやっていて、“日本の今”を伝えている。そして次第に「今日も一日頑張ろう。」と“心のスイッチ”が入る…。視聴者にとって、そんな番組でありたいと願っています。テーマソングの原案の選考に関わらせて頂くのは、27年の歴史がある『めざましテレビ』にとっても初めての挑戦です。どんな物語が創作され、どんなテーマソングが出来上がるのか、楽しみにしています」

「夜遊びコンテストvol.3 with めざましテレビ」実施概要

募集期間:1月18日(月)午前6時~2月8日(月)14時59分

応募方法:お題「おはよう。」に則した1万字以内の短編小説をmonogatary.com(https://monogatary.com/theme/108411)に投稿

結果発表:3月15日(月)にmonogatary.com上で発表 □

ひつまぶし
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南風さん、コメントありがとうございます。
英語も数学も学問とはなかなか面白いものですよね。
僕はまだ数学の面白さには気づいていないので、早くそれがわかるといいんですが、、?

大丘 忍
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ひまつぶし様
 高校の時にやる英語も数学も大学受験のためだと思っております。私は理系学部に進学しましたが、大学卒業後はビブンのビの字も使いませんでした。役立ったのは子供たちが大学受験するときに微積分を教えてやったことぐらいです。

アン・カルネ
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うーん…。
>毎日、先生の生活にちょっとずつ僕の色を足してあげよう。
なんで上から目線なのかなって思ってしまった。ここに来てこの「僕」のこと、ちょっと嫌いになってしまった…。

ひつまぶし
h124-241-136-017.user.starcat.ne.jp

アン・カルネさん、コメントありがとうございます。

おっしゃる通りですね。最後だけ「上から目線」の文体になっていました。
こういうところは、書いているとなかなか気づかないものですね。
今回は良い勉強になりました。
ありがとうございました。

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