作家でごはん!鍛練場
富山晴京

神殺し

 遙か昔のこと、神がまだ地上にいた頃の話。人間は神々から世界の覇権を奪い取るべく、神々を暗殺し続けていた。そしてその神を殺す人間は、世間から“神殺し”と呼ばれていた。
 一人の神殺しが、庭園で庭いじりをしているところに近付いた。足音一つさせることなく、気配も完全に殺していた。
「人の子よ」
 それにもかかわらず女神は後ろを一切見ることなく、神殺しに向かって呼びかけた。
「気づいていたか。さすがは女神だな」
「助けてください。蛙がいるのです」
「は?ああいや、おまえには二つの選択肢がある。一つは我ら人間の捕虜となるか、もう一つは」
「私は蛙が苦手なのです」
「知らねえよ。いいか、おまえには二つの選択肢がある。一つは我ら人間の捕虜となるか、もう一つは、死ぬかだ」
「助けてください。蛙がいるのです」
「だから知らねえよ!大体、神のくせに蛙が苦手なのかよ」
「はやく助けてください。今、あじさいの葉の上にひっついているのです」
「まったく、しょうがねえな」
 この女神、蛙のことばかり考えているから、てんで話にならない。神殺しは。あじさいの葉の上にいる蛙をつまみ上げると、どっかそのへんに逃がしてあげた。
「ほら、これでいいだろ。俺の話を」
「人の子よ、あなたは私を助けたので、何か一つ願いを叶えて差し上げましょう」
「俺の話を聞けよ!俺はお前を殺しに来たんだよ!」
「願いはなんですか?」
「なんだこいつ!」
 会話が全然成立しない。こいつ、ちゃんと音が聞こえているのか?それとも人のことなんてどうでもいいのか、神だから?
「願いは二つに一つ、おまえが捕虜になるか、死ぬかだ」
「随分欲張りですね。あなたの伴侶となるか、死ぬまでそばにいてほしいというのですか?」
「おまえ、どう聞いたらそう聞こえるんだよ!俺、神殺し!おまえを殺しに来たの。大体このご時世に神と人が結婚なんかして見ろ、大バッシングをくらうぞ」
「よろしい、願いを叶えましょう。では神殿のほうへ行きましょう」
 女神は神殺しの手を取った。
「行かねえよ!」
 神殺しは女神の手を振り払った。
「え?」
「俺はあんたを殺しに来たの!わかる?結婚なんかするわけないでしょ」
「女神の私が死ぬわけないじゃないですか」
「ところが死ぬんだよ。この神殺しの槍を使えばな」
 神殺しの槍。槍の穂先を限界まで研ぎ澄ましたことで、貫けないものはないと言われている逸物。その一月は大神ゼウスの命さえも奪ったという。
「なんで、そこまでして私を殺したいのですか?」
「神々に虐げられ、平伏する日々に我々人間はもううんざりしたのだ。俺たちだって、自分の思い通りに暮らしていきたいのだ。だからおまえたちにはいなくなってもらうしかない」
「ああ、そういうことだったのですね。それなら、どうぞ地上と海と空を差し上げましょう。そこを人間界として使うといいです」
「…………は?」
「なにかまずいですか?」
「え、いいの?あんた、住む場所とか困らない?」
「私たちは天界に住んでいますから」
「え、そんな感じだったの?別に地上にいなくてもよかったの?」
「はい。そうですかなるほど。最近通りで、神と人間が喧嘩することが多いと思いましたよ。多くの神が、槍でチクチク刺されてうっとうしいからって、天界に帰ってきましたよ。つい最近も、ゼウスが帰ってきましたからね」
「ゼウスが…………」
 ゼウスの心臓を槍で貫いたというあれは、殺せていたのではないのか?殺した後、光のもやとなって消えたと言うが、あれはただ単に、天界に移動しただけのことだったのか?
「え、じゃあ神は死んでないのか?」
「そうですよ」
 まじかよ。順調に人間の世界を取り戻しつつあると思っていたのに。なんか、思っていたのと全然違う。
「さあ、神殿へ行き、婚儀を済ませましょう」 
 女神が神殺しの手を取った。
 神殺しは一瞬、手を振り払おうかと思った。しかし馬鹿馬鹿しくてやめた。もとより、やりたくてやった仕事でもないのだ。神を殺すという危険な仕事など誰が好き好んでやるというのだろう?元の場所に戻ったところでこれまでと同じ危険な仕事が待っているだけなのだ。神と結婚できるのに、わざわざ戻るなど馬鹿らしすぎる。
「はい」

神殺し

執筆の狙い

作者 富山晴京
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 作家でごはんらしくない、コメディタッチの作品でどこまでできるのか挑戦してみたくて投稿しました。
 作風を維持するために、叙述の中で意図的に口語調に文体を変えてみました。

コメント

茅場義彦
133.106.182.29

こういうコントっぽいの嫌いじゃないっす

富山晴京
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そう言っていただけてなによりです。これからも精進します

大丘 忍
p258223-ipngn200404osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

神と結婚した後のことも少し描いて欲しかったですね。

富山晴京
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大丘忍さん、コメントありがとうございます。
結婚後のストーリーのほう、検討させていただきます。

アン・カルネ
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会話がかみ合っていないところが俄然、面白かったです。
ラストはやっぱり一言、だって女神ってば別嬪だしーぐらいのことは言って欲しかったです(笑)。

富山晴京
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アン・カルネさん、コメントありがとうございます。
神殺しに、「だって女神ってば別嬪だしー」と言わせておけば、人間味がぐっと増した気がしますね。次の作品に生かしてみようと思います。

sin
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 コメディというのはいくつかの定石があるジャンルだと思います。しかしこの作者はその定石をあまり知らないのではと思いました。
 例えばスラップスティック。主人公が悪事を働きお仕置きされるという「クレヨンしんちゃん」のみさえのゲンコツなどは、定番ですがオチに使えるだけのインパクト、まとめる力があります。ゲンコツより過激なのだと信頼と実績の爆発オチとかですね。その点「邪神ちゃんドロップキック」の設定はよくできています。主要人物二人のうち一人を半不死身のクズキャラ、もう片方を拷問狂にすることで、インパクトのあるスラップスティックを連発してきます。これは私見ですが、キャラにギャアギャア叫ばせるのがギャグの一番の近道だと思います。
 他には、緊張と弛緩なども定番です。不穏な雰囲気を漂わせておいて、蓋を開けてみたら仔猫がニャーニャー鳴いているとかそんな笑いです。この作品もまあ、緊張と弛緩のパターンと見なさそうな部分もありましたが、あまり効果的とは思えませんでした。やるならもっと派手に落差を強調すべきです。以前見たドリフのコントで、姥捨山をテーマとしたものがありました。最初は本当に物悲しい雰囲気なのに、途中から一転するのです。志村けん扮する、捨てられることを受け入れたはずの老婆が突然生への執着心を発揮し、しまいにはターザンロープを使ってまで息子に追いつき生還しようとします。姥捨山というシリアス極まりないテーマを巧みに笑いへと転換した名作です。
 あとギャップなんかももっと有効に使えばいいのにと思いました。女神のくせに人間に求婚する、だけじゃギャップとしては弱いです。「式を挙げる時に西野カナの「トリセツ」流していい?」「神様なんだから賛美歌とか流せよ……」とか、よくあるネタですけどこういうの使えた方が技法に幅が出るとは思います。
 他にも定石はいろいろありますが、キリがないのでここら辺にしておきます。こんなの知ってるよと思われるかもしれませんが、知っているのとできるのでは大違いですし、この作品はできていません。あともう一つだけ、キャラはもっと大事にした方が絶対いいです。この作品の一番の欠点はキャラの無味乾燥っぷりです。もっとキャラを個性的で、人間味ある存在にすべきでしょう。ネタ自体は平凡でも、キャラが立ってれば笑えるなんてよくある話です。「ハンチョウ」とか、ギャンブル漫画のキャラが大人の遊び満喫してるから面白いわけですし。次回作をお書きになるならば、まず第一にキャラへと注力してほしいですね。

南風
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>富山晴京様
読ませていただきました。
指摘されている方もおられますが、もう少しはじけてもいいのでは、と思いました。
これからも読んでみますね。

もんじゃ
KD111239164156.au-net.ne.jp

 富山晴京さま

 拝読しました。

 つまらなくはなかったです。やや面白い、くらいで面白かったです。

 よいなと感じたのは読みやすいところ、対話で進むし。すっとぼけがこれほどまでに繰り返されちゃうと笑えました。微笑ましくもありました。

 文中の! や? のあとは一角空きにするのがよろしいそうです。あと三点リーダーだけど、…(三個)ってのはよく見るけど、………(九個)ってのは珍しくて、お、とか思っちゃいました。……(六個)みたいに、あるいは…………(十二個)みたいに偶数回重ねるのがいいみたいですよ?

 読ませてくださりありがとうございました。

富山晴京
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sinさん、コメントありがとうございました。参考にさせていただきます。

富山晴京
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南風さん、コメントありがとうございました。もう少しはじけてみようと思います。

富山晴京
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もんじゃさん、コメントありがとうございます。
?や!の後ろは空けることや三点リーダーは六個か十二個がいいということは初めて知りました。参考にさせていただきます。

ルイ・ミモカ
i118-16-247-88.s42.a014.ap.plala.or.jp

神様はやっぱり偉いし、人間は神様に逆らうような気持ちを抱いてはいけないと思いました。

神様の偉大さを改めて実感出来る内容だったと思います。

富山晴京
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どうか、こんな小説で神の偉大さなんて感じないでください。かえって神様やあなたに申し訳なく思えてきます。

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