〇〇〇会
派遣社員として働いている僕は、ひょんなことから楠木と仲良くなった。
その一年後、彼から〇〇〇会の会合に誘われた。
〇〇〇会といえば、熊貝泰作氏を先生と呼んで慕っている、あの有名な新興宗教だ。
正直、僕は戸惑った。しかし、そんなに悪い評判も聞かないし、それに僕自身も多少の興味があったから、まあ大丈夫だろうと行ってみることにした。
会合が開かれるという会館は、川沿いにある、かなり大きな建物だった。
沢山の人が集まって来ているようだ。広大な駐車場は満杯に近い状態だった。
正面の大きな玄関から入ると、受付けの人達から「こんにちは!」と声を掛けられた。
靴箱の前で、楠木の友人らしい十人くらいが駆け寄って来た。
一人の男が、「この方が大鞍さんですね」楠木にそう言うと、今度は僕に向かって、「大鞍さん、初めまして。今日は来てくれて本当に有難う。自分は富士澤です。さ、どうぞこちらへ」
案内されたのは、二階の何百畳もあるような畳敷きの大広間だった。
僕達は、その入り口付近で輪になって座った。
大広間には大勢の人がいた。ひょっとして千人以上いるかもしれない。だが、それでもまだスペースは余っていた。
「大広間は一階にもう一つあるけど、こっちの方が大きいんだ」
楠木から教えられた。
会合は十五分後に始まるらしい。まだ間があるから暇潰しにゲームでもしないかと一人が言い出した。
「じゃあ、すぐ用意出来るゲームをしないか?」
富士澤が言った。
「すぐ用意出来るゲームって何だ?」
楠木が聞いた。
「うん。ルールを説明すると、ひとりひとりが順番に用意してもらいたい物を言っていくんだ。例えば“愛を用意して下さい!”と言われたら、携帯を開いて彼女の画像なんかを出して見せる。そのとき、“はい! 用意出来ました!”と言って、一番に用意出来た者が勝ち。じゃあ右回りにやっていこう。先ずは僕から。変態を用意して下さい!」
すると、
「はい! 用意出来ました! 俺!」
「なるほど。確かに君は変態だ。河西に得点1。じゃ、こんな感じで続けて」
まだ笑いの収まり切らない中、富士澤の隣の奴が、
「サンドイッチを用意して下さい!」
「はい! 用意出来ました!」
そう言って鞄からサンドイッチを出したのは富士澤だった。
「富士澤に得点1ね。じゃ、そのサンドイッチもらうよ」
彼は富士澤からサンドイッチを取り上げた。
「お前、さっき食堂でサンドイッチ買ったの見てたな! くそっ! そんなルールなどないが、今日は目出度い日だから、くれてやる!」
十五分後、この面白くも馬鹿馬鹿しいゲームは次のように終わった。
自らを変態だと宣言していた河西が、
「では本日、熊貝先生に捧げる、生身の人間の生贄(いけにえ)を用意して下さい!」
すると僕以外の全員が、
「はい! 用意出来ました!」
そう言って僕の方を見た。
了
執筆の狙い
現在の政権も酷いですね。