作家でごはん!鍛練場
もんじゃ

電気ちゃん(八十枚)

 前書き

 古い携帯電話を充電した。ガラケーだ。まだ生きていた。電話はその本体に残っていたメールをちゃんと表示した。
 探していたのは十本のメール。見つかった。十年前の八月にまとめて届いていたメール。その十本をここにそのまま転載しようと思う。
 小説のように読めなくもない、そんなテキストだ。一から十の番号を付したのはオイラだ。数字の区切りに段落としての意味はない。ガラケーの字数制限のためだろう、一度に送信できなかった文章を十本に分けて送ってきたのだ、彼女が、十年前にタラタラと、それだけのこと。だから数字は、送られてきたメールの着信順を示しているに過ぎない。
 挨拶もなく、その他いかなる前置きもなく、本文だけが十分割して送られてきたそのテキストに『電気ちゃん』というタイトルをつけた、オイラがつけた、今つけた。
 彼女のテキストには読点がない。だから読みづらいことこの上ない。文章にまで倹約ぶりが表れている。そう思うとなんだか少し微笑ましい。
 彼女、と書いた。十年前の夏に出会った女性のことだ。どこでどんなふうにして出会ったか、二人でどんな夏を過ごしたか、そういうことはここには書かない。書いちゃいけないような気がする。
 ただこれだけは書いておかなくてはならない。メールの内容について、かつて彼女はこう言った。
「全て本当にあったことなの」
 ホントウニアッタコト。
 メールをもらって内容を読んで、それからもちろん返信を試みた。けれどもメールは弾かれた。
 以来彼女に会っていない。連絡を待っていたがついには諦めた。
 昨夜唐突に彼女の夢を見た。彼女は何かを言いたげだった。でも何も言わなかった。だから古い携帯電話を引っ張り出した。
 さて、いざオイラは伝えたい。
「本当にあったことなの」
 と彼女が言った文章を、誰かに、そのまま。以下にその全文を転載する。

 追記。彼女へ。勝手に公開してしまうけれど構わないよね。それが君の望みであると、オイラには思えるから。元気にプラスとマイナスを生きていると信じています。


 『電気ちゃん』

 一

 ったくムカつくわねと思った。バカばっかとしか言いようがない。
 自分独りじゃエクセルも満足に扱えないようなジジイたち。すなわち組織という名の満員電車に揺られながら自分の足には全然力を込めず互いに寄り掛かり合うだけの依存者たち。
 ムダをなくせ。とオリジナリティのない説教を形式的に垂れ流すのが彼らの習性だったりするわけだが思う。言ってるオマエが一番のムダだよ。
 この経費の承認よろしく。とかヒトの顔も見ないで机のテキトーなとこに伝票を置くなっつうの。てかどうしてアンタらジジイだけは電子伝票じゃなくて今だにペーパーだったりするわけよ。こっちはアンタと違って忙しいのだから勘弁してほしい。
 私がいなけりゃこの社の経理システムは大変なことになるんだろうけどジジイなんかがいなくたって会社はクルクル回るはずなのにホント人件費のムダだと確信している。
 自分が最前線だなんて言ってエバっちゃったりして営業の男ってつくづく鼻持ちならない。部下を連れてのキャバクラ通いをやめてくれなきゃこっちがいくら節約したって赤字が回復するわけもない。鞄持ちのリレーで出世してゆくジジイどもとそれに媚びへつらう若いくせして小狡くイヤらしい小僧たちの醜さにとことん吐き気がする。男性社会ってくだらない。消えてなくなればいいのに。
 この伝票間違ってるわよと指摘するとあるガキったらじゃあテキトーに直しといてくださいよと言い放ちやがった。経理ってのはメンドーな仕事してますねえと言われてカチンときてアンタ自分で計算し直してごらんよと言うとオレらヒマじゃないんでときたもんだ。オレらの稼ぎで食ってるアンタらなんだからせいぜい内助の功に励んでくださいよって入社二年目のくせしてそんなふうに言いやがってチクショウめ。
 おぞましいオヤジやクソ生意気なガキどもをこの世界から一掃してしまいたい。
 と以上のようなことにハラワタをシュンシュンと沸騰させながらその日もパソコンに向かって伝票整理の仕事をしていた。
 そのときだった。起票画面が落ちた。ウィルスかと身構えた。
 画面にアニメの女の子が現れた。見たことのある女の子だった。電力会社のマスコットキャラクターだと気がついた。
 口から伸びたフキダシの中で彼女は名乗った。電気ちゃんでーす。それから続けた。電気を大事にね。
 ゆるキャラで節電を呼び掛けるってわけか。総務の新しい試みなのかもしれない。でもと私は思った。キャラクターの使用にもシステムの構築にもお金が掛かっているだろうのにこんなんでホントに節約効果はあるのだろうか。手書きのポスター一枚で同程度の笑いは得られるだろうのに。
 電気ちゃんからの新しいお知らせです。と彼女が語り出したところでトイレに行きたくなった。
 経理課はいつものことだが斎場のように静かで各自が黙々と自分のパソコン画面に向かっている。皆も今電気ちゃんからのメッセージを読んでいるだろうのに特にそれについて話し合うということもない。
 まあいいやと思った。新しいお知らせとやらについては業務が終了してから誰かに尋ねればいい。
 静かにトイレに立った。

 二

 トイレから戻るとまだ五時だというのに経理課には誰もいなかった。おかしいなと思う。もしかしたら歓送迎会の日にでもあたっていたのだろうか。誰かが来るときや去るときには業務を早めに終えて揃って近所の居酒屋に繰り出すということがこれまでにもあった。もっとも最近は不況のあおりで来る人がいない。だから歓迎会が開かれることはまずない。反対に去る人は多い。でもリストラされた人を賑やかに送り出すのは難しい。送られる方も営業部のそれとは違って経費ではなく身銭を切られての送別なので心苦しさを覚えるようだ。そんなわけで最近は送別会も少なくなっていた。
 誰かが辞めるだなんて事前に伝えられていない。でも聞き逃していただけという可能性も十分にある。他人のことにはあまり興味を持ちたくないタイプなのでこの種の連絡はスルーしがちなのであった。ボードを眺めるが誰の外出先も書かれていない。皆で私を締め出したのだろうか。それならそれでいい。煩わしい人間関係に巻き込まれなくてセイセイする。
 半分は強がりだけど半分は本音だった。誰かに関われば関わった分だけ誰かを傷つけ誰かに傷つくのだ。世の中ってそういうふうにできている。社会で生きるということは摩擦を生きるということに他ならない。それがわかっているので一層なるたけ誰ともぶつかり合わずにやってゆきたい。ムダな付き合いは極力削減したいと思っている。
 ともかく五時半まで作業を続けよう。そして課長の机に失礼いたしますと書いたメモを残して帰宅してしまおう。どこかの居酒屋から場所を知らせる連絡が入ったらハッキリと不参加の意思を伝えよう。だって宴会があるだなんて知らずに車で出勤してしまったのだからアルコールを飲むわけにはいかない。そんな言い訳を瞬時に組み立ててから安心してパソコンに向かった。
 スクリーンセイバーが消えるとそこには電気ちゃんがいた。そうだった。彼女はさっき新しいお知らせとやらを伝えようとしていたのだっけ。と思っていると画面の向こうで電気ちゃんは言った。それでは電気を大事にね。それだけ言うと彼女は手を振って画面の外に歩み去ってしまった。どうやら私は新しいお知らせとやらを読みそこねたらしい。でもまあいいや。お知らせについては明日課内の誰かに教えてもらうことにしよう。どうせ単なる節電の呼び掛けだったりするのだろう。
 伝票処理の続きをした。いつも静かな課内だが今日は一段と静かだと思った。隣の総務課も出払っているのだろうか。壁越しに感じる人の気配というものがまるでなかった。
 しばらくしてから時計を見ると五時半だった。なのでパソコンの電源を落として伸びをした。昨日と同じだ。そして一昨日ともまた同じ。と思った途端に終業のチャイムが鳴り響く。デジャヴ。キライじゃない。規則正しくあることは安心できることだ。ハプニングに晒されるのはゴメンだ。私は私の仕事をしっかりとやる。それ以上でもなければそれ以下でもない。誰にも邪魔されたくない。会社に望むのはそれだけだ。
 お先でーす。だなんて誰もいない課内に小さな声で一声掛けてから経理課を後にした。エレベーターを待ちながら鼻歌を歌った。そんな自分に驚いた。会社で鼻歌だなんて。そして気がついた。フロアは静まりかえっていた。休日出勤の社内のように。もしや何かの式典でもあって皆そちらに参加しているのだろうか。会社の創立記念日っていつだっけ。とか考えながらエレベーターで下降して別にいいやと思いながら社員カードをドアに通して外に出た。カードを通すと退社の時刻が記録される。勝手な退社を後日になって責められるかもしれないが知らなかったんだから仕方がない。
 向かいの地下駐車場に車を停めている。駐車パネルに社員番号を入力して出庫ボタンを押す。待ち時間が表示される。カウントダウンされる赤色の数字を眺めながら二十秒ほど待つと黄色いフィットが現れた。
 似合わないとよく言われる。黄色い車は私に合わないらしい。確かに私はカラフルな服を着ない。着るのはたいてい黒か白かグレー。急なお通夜にも十分対応できるカッコウねとからかわれたこともあるけどなるほどそりゃ便利と思った。お洒落への関心が低いのだろう。国民服でもあったらそれを着たい。なぜって服を選ぶ手間が省けるから。スタイルがよかったら服にもっとこだわっていただろうか。ファッション雑誌でも購入していただろうか。でも私は足が太いこととお尻が大きいことを気にしている。スタイルがよくないと何を着たところでマイナス評価の対象になるのがイヤだった。誰かの視線にイライラさせられるのは面倒だったしときにそれは私をひどく傷つけるのだった。だったら制服でいいやと思う。皆と同じ服を毎日着て生きてゆけたらどんなに楽だろう。
 そんな私が黄色い車を選んだ理由は自分でもよくわからない。心理学に詳しい友人によればそれは隠された自己顕示欲なのだそうだがそんなもの私の一体どこに隠れているというのか。それを見つけることができなかった。
 フィットを運転しながら思う。今頃皆は乾杯でもしているのだろうか。行かなくてよかったと改めて思う。居酒屋での食事が苦手なのだった。メニューを見ながら皆が食べたいものを次々に選んでゆくようなとき私は迷ってしまう。そもそも食べられないものが多いのだ。例えば魚。魚の味はスキだけど料理が魚そのものの姿をしていると食べられなかったりする。白身魚の餡掛けでいうと餡の掛かっていない顔を見てしまったら最後もう食べられないのだった。子持ちシシャモやアジの開きなんて絶対に無理。でもマグロの刺身は食べられる。形が魚じゃないからだ。肉はなぜだか鶏肉が駄目。子供の頃に七面鳥の丸焼きを見てしまったのがいけなかったのかもしれない。そんな私はメニューを見て考え込んでしまう。やっとのことで食べられるものを選んでも今度はそれが皆の気に入らないものだったりしたら割り勘なのに申し訳ないだなんて思うと声が出ないのだった。その点昼食は楽だ。スキな一品を自分だけで食べられる。シェアすることが苦手なのだった。
 さて夕飯はどうしようか。部屋には作り置きのハンバーグが冷凍してある。あとはコンビニでヒジキの煮物でも買って食べよう。
 カーステレオからは洋楽が流れている。コンパクトディスクだ。ラジオは聴かない。パーソナリティの価値観やリスナーの意見を聞くとイライラするのだ。運転中に流すのは音楽に限る。それもインストか洋楽。日本語の歌詞はわかる分だけ意味を持つのでウザいのだった。
 赤信号で止められて思いから覚めてふと気がつく。平日のこの時間にしては道路が異常にすいている。まるで深夜のようにガラガラだった。対向車も後続車もゼロ。よく見ると歩道にも人影がない。まるで私一人の街みたい。だったらいいなと笑った。実に気楽だ。誰とも葛藤しないで済むのだ。パラダイスだった。そんなわけないけどねとまた笑った。青信号を確かめてアクセルを踏み込んだ。
 けれどもマンションに到着する頃には不安にならざるを得なかった。会社を出てからの二十分間で一台の対向車も見なかったからだ。
 車を地下の機械式駐車場に入れた。マンションのエントランスをカードキーでくぐった。そしてエレベーターで上昇しながら考えた。これは一体どうしたことだろう。まるで世界中が申し合わせて私を締め出したみたいではないか。
 エレベーターを降りて内廊下を歩んだ。玄関のロックをカードキーで外して部屋に入った。ぬいぐるみのアヒルにただいまと告げた。おかえりなさいと私はアヒルの声で私を迎えた。
 実家に電話してみようかとケータイを開くとちょうど誰かからのメールを受信した。
 課長からのメールだった。送別会に参加しなかったのだろうか。発信元は経理課だった。宛名が私であることを確認してからメールを開く。

 お疲れ様です。電気ちゃんからの(削除)
 明日は四時までの処理済みデータを私のパソコン宛てに送信してください。電話は通じなくてもメールによる連絡は可能であることが確認されています。データをチェックした上で承認した旨を返信いたしますのでそのメールを受けたところで明日の業務を終了してください。よろしくお願いいたします。
 電気ちゃんには(削除)
 長文にわたるメールを失礼いたしました。

 よくわからないメールだったが幾つかわかったことがある。
 まず課長は送別会に出席しなかったらしい。
 次に課長は電気ちゃんについて何かを語ろうとした。いや語った。しかしその文言は何者かにより削除された。
 業務上の指示については明確だった。課長は夜まで外出なのかもしれない。デスクのパソコン宛てに届いたデータを出先で受け取るつもりのようだ。メールは大丈夫だが電話は通じないとある。出先で電話を受けられない事情でもあるのだろう。ともあれ何も問題はない。明日私はいつものように伝票を処理してその結果を課長に送信すればいい。そして承認を受けたら帰宅してよいのだ。課長と顔を合わせたいわけではないし指示に全く不満はなかった。
 なので了解いたしましたと返信をした。
 それからキッチンに行き冷凍庫の中のハンバーグを解凍し炊飯器のスイッチを確認した。
 おかずを買い足しにコンビニに行くことにした。アヒルに行ってきますと声を掛けた。
 エレベーターの中でまた考えた。電気ちゃんからの新しいお知らせってどんな内容だったのだろう。今夜の街の静けさはそれと何か関係があるのだろうか。
 いつものコンビニに入った。ヒジキの煮物と朝食用の牛乳とパンをカゴに入れた。レジに向かって歩いてそして驚いた。レジにいるはずのアルバイトがおらず代わりに見たこともないマシンが一台私を待っていた。マシンは私を認識してパネルにいらっしゃいませと表示した。テレビのニュースで見たことがあった。北欧辺りで実用化されたばかりの無人販売機ではないか。早くも日本に上陸したか。などと感心しているとマシンは新しい台詞を表示した。商品コードをスキャンして金額をお確かめください。言われた通りに牛乳とパンとヒジキのコードを下にして台に置いた。ボタンを押すとパネルに合計金額が表示されて料金回収用と思われる引き出しが開いた。代金を入れるとマシンはありがとうございましたと表示してからお釣りを返してよこした。自動化だった。労働者がまた一人リストラされたってわけだ。クビになったアルバイトには悪いが私にとっては好ましい変化であった。

 三

 レジアルバイトの投げやりな態度にかねがねイライラさせられていたからだ。アンタが不機嫌なのは仕方がないけどそれを私に見せつけるのはやめてくれといつもそう言いたかった。仕事なのだからその仕事を普通にこなしてもらいたい。どこぞのハンバーガーショップみたいにゼロ円で業務用スマイルを売ってほしいとも思わなかったが不機嫌さを垂れ流してほしくもなかった。他者の個人的感情に晒されることほどストレスになることはないと考えている。
 マシン脇のレジ袋を自分でピックすると袋代金の十円をまたマシンに投入した。おみくじの無人販売システムみたいで気持ちがよかった。ズルをしないと信頼されているみたいで嬉しい。満足して買い物を終えた。
 部屋に帰ってハンバーグとヒジキとそれから炊きたてのご飯を前に幸せな夕食を楽しんだ。アヒルの前にもチョコを一つ置いてやった。アヒルも喜んでいるように見えた。
 テレビをつけると懐かしい映画番組が放送されていた。私は映画がスキだった。映画の中にどんなバカが登場しようともイライラしなかった。所詮は作り物に過ぎないのだから安心してバカを笑っていればよかった。一方でニュース番組にはイライラする。自分勝手な政治家やそれを批評するシッタカタッタな評論家のバカさ加減にウンザリするのが常だった。また思うのはあのキャスターだのコメンテーターだの主観的な感情を交えて事件を語るバカどもをどうにかしてくれないかということ。ニュースは文字で伝達されればそれでよいのだ。天気予報でいうなら私が必要としているのはお天気マークないしは傘マークであって気象予報士のくだらないダジャレでもお天気お姉さんの舌っ足らずな幼児声でもない。ムダなコストを掛けて効率の悪い情報提供にシノギを削るだなんて各社は実に愚かだと思う。
 映画が終わるとアニメ番組が始まった。見たいアニメではなかったのでテレビを消してシャワーを浴びることにした。チラリと見やった全自動洗濯機の周辺に何かわずかな違和感を覚えたがすぐに忘れてしまった。
 目を閉じてシャワーを浴びていると自分がどこにいるのかわからなくなった。私は私の思いの中にのみ存在していて外部世界のどこにも存在していないかのようだった。シャワーを止めて目を開けてそこが私のマンションの浴室であることに気がつきなんだか騙されたような気分になった。
 なんだかなと呟きながら浴室を出て髪を乾かした。
 そしてパジャマを身に付けベッドに潜るとたやすく眠りに落ちた。
 脳ミソを掃除機で吸われる夢を見た。
 翌朝目覚ましの鳴る前に起きた。洗面所に行き歯を磨いた。脱衣カゴの中に見慣れぬものを見つけた。手にとってみると柿色の衣服だった。合い鍵を持っているのは実家の両親だけなので母が脱ぎ忘れていったものに違いない。父と母揃ってだったり母だけだったりしたがなんにせよ年に数度はやって来るのだった。親が買ってくれたマンションでもあるし来るなとは言えなかった。でもなんの連絡もなくやって来たことはこれまでに一度もなかったし私に会わずに帰ってしまったことも一度もなかった。パンと牛乳の簡単な朝食をとりながら母親が来た理由を考えたがよくわからなかった。なので実家に電話を掛けた。けれども不在であるのか誰も電話に出なかった。留守番電話にも繋がらなかったので諦めた。
 車のキーを片手にいつもの通り八時半きっかりに部屋を出た。
 春だった。暖かくなりウールは少々つらくなったなと思う。明日からはもうコットンに替えようかな。春物の服を頭の中で広げたらウンザリした。選ぶのが面倒くさい。車での出勤だしオフィスに着いたら制服に着替えるのだから服はまあなんでもいいのだ。脱衣カゴの中に見つけたあの作務衣みたいなやつだって実質的にはなんの不都合もないのだった。暑くなく寒くもなければそれでいい。頭の中に広げた服を畳んで仕舞った。
 運転中はボンヤリしていることが多い。この日もまた前日と同じ音楽を聞きながら無意識そのもののようなカラッポな私が車を走らせた。
 会社に着いて社員カードでドアを開けた。カードをスリットに通すことで出勤時刻が記録された。
 経理課のオフィスに入って驚いた。始業間際の魔術師という異名で知られるこの私がなんと一番乗りだった。始業開始のベルまで少し間があったので給湯室に行きコーヒーを入れた。それから戻って席に着きパソコンを立ち上げた。
 すると彼女が登場した。電気ちゃんだった。リストラが済んで最初の朝でーす。と元気よく彼女は言った。そして電気を大事にねと言い残すと画面の外に歩み去った。誰かがリストラされたのだ。やはり昨日はその方の送別会があったのだろう。
 始業のチャイムが鳴った。顔を上げ辺りを見回し息を飲んだ。
 誰も出社していない。
 日曜日ではなかった。創立記念日でもない。本日がその他に考えられるいずれの休業日でもないその証拠に各部署からの依頼が殺到していた。精算伝票の承認依頼である。その件数はとんでもないものだった。いつもは遅れてばかりなのに今朝に限ってなんだってこんなに一度に。マイペースの私もさすがに慌てた。課長との約束の四時までに今受けている分だけでも片付けよう。各部署諸君の朝一番からの律儀さに私もしっかり応えなくてはいけない。集中した。昼休み返上で没頭した。トイレに立ったそのときも頭の中で数字がダンスしていた。四杯目のコーヒーを飲み終えた頃セットしたアラームが四時を知らせた。ここまでだ。
 朝受けた伝票はなんとか処理し終えていた。でも一体なんという日だろう。ひっきりなしに伝票が届くのだった。くたびれた。
 帰り際宣伝部の同期のところにでも寄って愚痴の一つでもこぼしてやろうか。……やめとこう。愚かな繰り言を聞かなくてはならない義務なんて彼女にはないのだ。私だったら同期の愚痴を聞かされるなんて死ぬほどイヤだから私もまた私のされてイヤなことを他者になすべきではなかった。
 課長にデータを送信して椅子の背もたれに深く体を預けた。
 やがて課長からの承認メールが届いた。

 データを確認しました。問題ありませんでした。お疲れ様でした。
 いつになく件数が多くてさぞかし(削除)
 電気ちゃんについて(削除)
 明日もまた本日と同様四時にデータを送信してください。こうなってしまった以上管理者として(削除)

 発信元のアドレスは会社のパソコンになっている。不在の課長席を見て私は首を捻った。
 今回のメールにも何やら削除の箇所が目立った。私をねぎらおうとしたのではないかと思われる文言とそれから電気ちゃんについての文言が削除されていた。誰がどのような意図で削除をしたのか。その点について説明を求めたい。そして何よりと思った。課の皆がオフィスに姿を見せないのはなぜなのか。私だけが知らないのであろうその辺りの事情をしっかり確認したかった。なので課長にまたメールを送ることにした。

 お疲れ様です。明日の業務については了解いたしました。
 それとは別に以下の二点を確認させてください。
・電気ちゃんというキャラクターの使用により会社は何を伝えようとしているのですか?
・本日経理課の私以外の社員が職場に顔を見せなかったことについて私は少なからず当惑しているのですがこれはどうしてなのでしょうか?
 業務以外の質問をすみません。お答えを頂戴できれば幸いです。
 失礼いたします。

 というようなことを書いて送信した。
 給湯室でコーヒーカップを洗ってから席に戻ると課長からの返信が届いていた。受信メールを開く。

 お疲れ様です。明日の業務については先の指示の通りでよろしくお願いいたします。
 頂戴いたしましたメールのところどころが削除されていて十分な理解が得られないのですが業務に関連付けた文面に(削除)
 頂戴いたしましたメールを(削除)
――――
 お疲れ様です。明日の業務については了解いたしました。
 それとは別に以下の二点を(削除)
・(削除)
・(削除)
 業務以外の(削除)
 失礼いたします。
――――
 以上が頂戴いたしましたメールのコピーです。
 どうやら電気ちゃんについては(削除)
 本日経理課の社員があなたにとって揃って出社しなかったと思える理由は昨日の(削除)
 またコミュニケーションがおそらくは意図的な妨害による(削除)
 とはいえ現場の責任者として(削除)
 ともあれ明日も与えられた職務を誠実に遂行されたくよろしくお願いいたします。
 おそらくはこれもまた削除対象になるであろうとは思いつつも個人的に以下言わせてもらえるならば(削除)
 というわけで何卒よろしくお願いいたします。

 との課長からの返信を読み終えてついに私も悟った。何か大変な事が起きている。
 課長に送ったメールのところどころが削除されてしまったようだがこれはなぜか。私が書いたのは純粋な質問であって機密を漏洩することでもなければ公序良俗に反することでもない。個人的な興味に基づく雑談にも似た質問だった。その部分が削除されている。ということは検閲はやはり会社によりなされているのだろう。なぜなら業務に関する指示や報告は一切削除されることなくそのまま伝わっているからだ。業務効率に資すらないようなやり取りをカットしているのかもしれない。ムダを減らせと言われてきた昨今だがずいぶんとまたエスカレートしたもんだ。
 そして連想的に思った。ひょっとして経理課は全員が在宅勤務にシフトされたのではなかろうか。だから誰もオフィスに顔を出さなかったのではあるまいか。

 四

 経理課の業務は他の部署のそれに比べると社員相互の連携が薄い。自分の分担を黙々とこなして上司の承認を得ることで完了する。だから在宅勤務にシフトされたのかもしれない。交通費やその他の管理費をスリム化できるわけだから。ありうることだ。でも私には通達がなかった。と不審に思ってから気がついた。電気ちゃんからのお知らせこそがその通達だったのではあるまいか。電気を大事にだなんて呼び掛けていたけど会社の電気代を各自の自腹に振り分けたかっただけなのかもしれない。でも待てよと考えた。課長は私に四時までのデスク勤務を命じている。なぜ私にだけ在宅システムが適用されていないのだろうか。もしやと思った。電話番ではあるまいか。課内に一人だけ社員を常駐させたかったのかもしれない。そして今週の当番が私だったのだ。電気ちゃんは皆にそれを告げたのだけれど私はトイレに立っていたからその通達を受け取れなかったってわけだ。そういうことかと納得したら愉快になった。ムダな人間関係がなくなるだなんて願ったり叶ったりである。
 とにもかくにも本日私は私の職分を十二分に全うしたのだから胸を張って帰宅すればいい。そして明日もまた黙々と自分の分担をこなせばいい。頷きながらパソコンの電源を落とすと誰もいない課内に失礼しまーすと小さな声で告げながら席を立った。
 黄色い小部屋にこもって流れる音楽に耳を澄ませた。そして混雑がなかったせいかいつもよりもずいぶんと早くマンションに帰り着いたのであるが心の奥底に何か引っ掛かるものがあった。でもそれが何なのかそのときの私にはわからなかった。
 アヒルにただいまと告げたとき奇妙な胸騒ぎを覚えた。何かがおかしかった。致命的におかしかった。不安な気持ちで実家のナンバーをダイヤルしようと携帯電話を開いた。すると折りよく実家からのメールが着信した。

 何度も電話で連絡を(削除)
 電気ちゃんがテレビで(削除)
 一律給付金受領のための申請書が届いています。その受け取りも兼ねてこちらに近いうちに立ち寄ることはできますか?
 とはいえそもそも(削除)
 お父さんにも昨夜から(削除)
 あなたが無事で(削除)
 私は不安で(削除)
 電話を(削除)
 体に十分(削除)
 私はどうにか独りで(削除)
 給付金の申請書を郵送してもいいのだけれど。でも郵便屋さんが見当たらないこの世界からそちらの世界に書類を郵送することが果たして可能なのかどうかわからないし私が電気ちゃんの(削除)
(以下全文削除)

 凍りついた。実家のナンバーをダイヤルしたが呼び出し音が繰り返されるばかりだった。
 思いの丈のありったけを母親宛てに送信した。
 しばらく経ってから返信が届いた。

 削除というふうに書かれているところの(削除)
 そのことを(削除)
(以下全文削除)
――電気ちゃんからの新しいお知らせでーす。本日より家族親族友人隣人その他プライベートな関係相互間におけるメールのやり取りは全面的にこれを不許可といたしまーす。この度の改変につきご不明な点は下記のアドレスにお問い合わせください。それでは電気を大事にね……

 読んでいる途中で胸騒ぎの正体がハッキリとした。ボンヤリしがちな運転中の意識は見逃していたが無意識は決して見逃していなかったある事実に気がついた。今日もまたすれ違った車は一台もなかった。そういえば人影も……!
 信じられないことだがもしかしてと考えた。考えるまでもないと考えてみてすぐにわかった。バネ仕掛けのような勢いで立ち上がった。弾かれたように夜の街へと飛び出した。
 作り置きの冷凍ハンバーグと無人のコンビニのお陰で昨夜は誰にも会わなかった。会おうともしなかった。今日の日中も会社を一歩も出なかった。だから気がつかなかった。
 街には人影がなかった。でもファミリーレストランは煌々とネオンを灯していたしオフィスビルの灯りも普段と変わりなく点灯していた。もったいないと思った。誰もいないのにアチコチの電気がつけっ放しだなんてムダではないか。信号だって青だけの点灯で事足りるはずだ。いや全く点灯していなくても少しも問題はない。想像が正しければの話だけれど。
 想像を確認するべく目の前のファミリーレストランに入った。ドアを開けるとピンポロリンというチャイムに加えて電子音声がいらっしゃいませと告げた。客席を見渡したが客は一人もいなかった。ためらわず厨房に入った。そこにも誰もいなかった。厨房の中央には電子レンジの親分のようなマシンがドシンと鎮座していたがそれだけだった。焼き場にも洗い場にも調理や後片付けの形跡がなかった。
 客席に戻りながら考えた。やっぱり誰もいなくなったようだ。ならばとさらに考えた。なぜファミリーレストランは営業しているのだろうか。そう考えたときお腹が鳴った。
 電子音声が聞こえた。ご自由にお席にお座りください。
 多少の好奇心も手伝って言われるがままに着席した。すると同時にテーブル脇のモニタの電源が入りそこに文字が表示された。

 下記のメニューの内お好みの商品の番号を画面の指示に従って正しく入力してください。

 automationと私は思った。画面でオーダーするシステムは近頃の居酒屋等においても急速に普及し始めていた。
 和牛のステーキとコーヒーを選んだ。焼き加減を尋ねてきたのでミディアムというボタンに触れた。コーヒーはいつお持ちしますかという質問には食後というボタンを選んだ。
 和牛を誰が焼くのかと気になったので再び調理場を覗きに行った。
 やはり誰もいなかった。中央に置かれた巨大な電子レンジは音もなくしかしどうやら稼働しているようだった。きっとこの中で和牛が調理されているのだろう。でもどうやってと不思議に思った。そもそも食材はどこから運ばれどのようにマシンに入れられたのか。
 首を捻りながら自分の席に戻る。考えてみれば平然と夕飯を食べている場合じゃない。母は今どこにいるのだろう。電話は繋がらない。課長もそう書いていた。メールも知りたいところは全て削除されてしまう。一方で給付金の申請がどうだとか公的な連絡事項はちゃんと伝わっているようだ。ということは事態は行政によるものなのか。中央による決定なのだろうか。地方行政によるものなら週末車を走らせてどこか他の地方に出掛けてみればいい。と考えてから思った。律儀に週末を待つべきだろうか。緊急事態のはずである。パニックが起こってしかるべき状況である。
 けれども私はずいぶんと落ち着いていた。たぶん電気ちゃんのせいだ。彼女のあのノンビリとした様子が私から緊張感を奪っているのかもしれない。
 何がどうなっているのかわからないしこの先どうなるのかもさっぱりわからない。だったら待つしかないではないか。しかるべき時を待つしかない。どうせ待つなら淡々と待ちたい。気持ちは静かに凪いでいた。
 これまでだって似たようなものだった。人生とは日々のやり過ごしである。誰もがいつかは死ぬ。死んだらどうなるのか誰も知らない。でもそれを考えずに日常を生きている。思考停止。今だってそうしちゃいけない理由はない。

 五

 だなんて哲学をしていると直後に目の前でとんでもないことが起こり我が目を疑った。
 白いテーブルの表面が微かに震えた。続いてその一部が熱を持ったかのように淡くピンクに染まった。目を凝らしているとそこに最初はボンヤリとしかし徐々にハッキリと和牛のステーキが現れた。物質化という言葉が頭に浮かんだ。まさしくそんな感じだった。料理の電送だなんて聞いたこともなかった。近頃の科学ったら油断も隙もあったもんじゃない。
 ちゃんと食べられるのか不安だったがお腹も減っていたし手を伸ばした。
 和牛の味は悪くなかった。少なくともニセモノではない。ホンモノのステーキである。
 食べ終わると画面がコーヒーをお持ちしますかと尋ねてきた。ボタンでイエスを選んだ。するとテーブルのしかるべき場所がまたピンク色に染まった。テーブルに置いた手に振動が伝わってきた。空間が歪んだ。カップソーサーが現れてカップが現れてそしてカップの中にコーヒーが現れた。いい香り。慣れというのは恐ろしい。二度目のそれを当たり前のことのように受け止める自分がいた。
 追加のご注文はございませんかと画面が尋ねてきた。ないと応えた。お会計は千六百円になりますと表示されたので千円札を二枚テーブルに置いた。すると紙幣を置いた箇所が今度はブルーに染まった。見ていると案の定テーブルマジックのように紙幣は消えた。直後に同じ場所がピンクの光を帯びたかと思うとお釣りが現れた。手に取って眺めてみたがホンモノの百円玉だった。
 画面がありがとうございましたと告げた。反射的に私も頭を下げてしまった。またのご利用をお待ちしておりますと画面は続けた。
 コンビニの会計マシンに比べるとファミレスの調理マシンや電送システムはグンと高度であった。一晩で世界はずいぶんと進化したようだった。
 便利な世界になったものだ。世界?
 世界とは何かと考えたら軽い吐き気を覚えた。
 焦って考えたってどうにもならないことはどうにもならない。だから欠伸を一つすると両手をブラブラさせながら家に向かった。
 エレベーターで上昇しながら様々なことを思った。明日になったらいつものように出社するべきだろうか。給料はキチンと振り込んでもらえるのだろうか。親に連絡する方法はないだろうか。
 答えは出なかった。
 なので風呂にでも入ってさっさと寝てしまうことにした。そうすれば朝になる。たぶんなる。朝になったらアヒルにおはようと言おう。そして出社しよう。それで一日なんとかなる。きっとなる。そう思った。思うしかなかった。
 服を脱ぎ鏡に向かってニッと笑ってみせてから浴室のドアを開けた。
 シャンプーを終えて目を開けるとそこはいつものバスルーム。起こっていることの全てが夢のようだった。
 でも夢ではなかった。浴室を出てまたビックリした。やっぱり世界はおかしなことになっている。
 さっき脱ぎ捨てた下着が洗濯機の中でブルーに染まったかと思うと見ている目の前でフッと消えた。そして脱衣カゴの中がピンクに染まって柿色の何かが現れた。作務衣のようだった。母の忘れ物だと決めつけていたあの作務衣だった。作務衣は私の衣服として与えられたもののように思えた。なので恐るおそる袖を通してみた。着心地は悪くなかった。サイズもピッタリだった。
 洗濯機を回す必要がなくなったので歯ブラシをくわえてリビングに行った。つけたテレビに映画番組が映った。チャンネルを変えても映画かドラマかアニメばかりだった。テレビを消して洗面所に行ってうがいをした。
 鏡に映った作務衣姿を見た。書家か陶芸家のように見えた。似合っていなくもないと思った。
 リビングに戻りテーブルの前に座って家計簿を開いた。そしてメモ欄にこれまでの出来事を書き出してみた。

・電気ちゃんが現れて新しいお知らせを告げた(トイレに行っていた私はその内容を知らない)。
・経理課に誰もいなくなった。
・親への電話が通じなくなった。
・母や課長とメールのやり取りをした(公的な内容は送受信できたが私的な内容は削除されてしまった)。
・母からのメールにこの世界という文言が見られた。この世界?
・電気ちゃんからの追加のお知らせで家族間等の連絡は全面的に不許可となった。
・街から人が消えた。
・電送システムが飛躍的な進歩を遂げた。
・衣類として柿色の作務衣が支給された。

 六

 リストアップを終えて考えた。不都合なことはどれだろう。
 どれも不都合ではなかった。
 例えば職場での対人関係がなくなったことは私にとってよいことだった。ムダ話をしないで済むし能率も上がったはずである。
 親についてもどこか別の場所で健康に暮らしてくれているならそれでいいような気がする。結婚はまだかと余計な詮索をされてへき易していたのだ。
 コンビニやファミレスが無人化したことも嬉しかった。レジアルバイトや店員にイライラさせられないで済むから。
 作務衣の支給もありがたい。何を着ようか迷う必要がなくなった。
 人がいないから混雑もない。通勤も買い物もストレスフリーだ。寂しいことは寂しいけれど寂しいのは私だけじゃないし我慢できないほどのことじゃない。群衆の中の孤立に比べたら純然たる孤独なんていっそ清々しいくらいだった。
 概して事態は私にとって有利にシフトしたといえそうだった。
 でもそのような判断とは別にこのようなことになった原因と行く末についてを知りたいと思った。誰がなぜ何を目論んでこんなふうにしたのだろうか。
 整理してみてわかった。鍵を握るのは電気ちゃんである。彼女からの第一報について知りたかった。そこで全てが明かされていたのかもしれない。
 だとすれば簡単なことだ。電気ちゃんに訊けばよいのだ。
 ケータイを操作して受信メールのボックスを開いた。母からのメールに割り込んできた電気ちゃんからのお知らせをチェックした。やはりあった。問い合わせ先として電気ちゃんのメールアドレスが明示されていた。苦情や質問を受け付けるとある。
 早速メールを送ってみることにした。ケータイの電池が少なくなっていたので部屋のパソコンから送信した。

 電気ちゃんへ
 なぜこんなことになったのか原因を教えてください。
 こんなふうにした目的も教えてください。
 それから失礼な質問なのですがあなたは一体誰ですか?

 まずはそれだけだ。親のことや給料のこと等はまた改めて質問しよう。まずは総論しかるが後に各論である。窓口は混み合っているに違いない。効率の悪い質問で担当者を困らせてはいけない。最低限のことだけを質問してかつ三日は返信を待つ。それが良識というものだ。
 と思ったのだけれどリアクションは実にスピーディーだった。送信とほぼ同時に返信を受信した。自動返信というやつなのかもしれない。

 電気ちゃんでーす。
 質問に回答するので下のアイコンをクリックしてね。
 これからも電気を大事にね!

 アイコンは電気ちゃんの顔だった。クリックすると専用のホームページにでも飛ばされるのだろう。そしてそこにある質問例と回答例か何かを読まされるのだと思う。ならば最初からURLを貼り付けてくれればよかったのに。あるいは先方は質問者のメアドを特定したかったのかもしれない。ともあれ私はおもむろに電気ちゃんのアイコンをクリックした。
 クリックして三秒待ったが画面になんの変化も表れなかったのでもう一度クリックした。
 すると隣の寝室でカサリと小さな音がした。かと思うと引き戸を開けて電気ちゃんが現れた。
「続けざまにクリックなんかしちゃってもう。電気を大事にね?」と彼女は言った。それからニッコリと笑った。
 お馴染みのあの電気ちゃんだった。栗色の髪をした真ん丸目玉の女の子。立体アニメーションのようだった。どこから投影されているのだろう。知らないうちに様々なハイテク装置が仕掛けられているようだった。
「質問に答えるわね」と電気ちゃんは言った。見慣れた笑顔でそう言った。「でもまあせっかくだからお茶でも飲みながらゆっくり話さない?」
「お茶を飲む」と愚かしくも私は呟いた。電気ちゃんに向かって言ったのではない。他者だと認識するには彼女はあまりにアニメチックに過ぎるのだった。
「いつも事務的な会話ばっかりでイヤになっちゃうでしょう?」と言って彼女は目を細めた。「だからあたしと二人で話すときくらいはまあ気楽にやりましょうよ?」
 そう言うと彼女はこちらにやってきてダイニングテーブルの一角にフワリと腰掛けた。
 私も向かいに腰を下ろした。他にどうすることができただろう?
「コーヒーでいいかしら?」と電気ちゃんが尋ねた。
 曖昧に頷いた。
 彼女は左斜め上四十五度くらいの宙空に向かって声を張り上げた。「ツーホットお願いしまーす。一つは砂糖とミルク大増量でっ!」
 ダイニングテーブルの一部がピンクに染まった。そしてコーヒーが現れた。それを私は白々とした気分で眺めた。
 カチャカチャとコーヒーをかき混ぜてから電気ちゃんは私を見て何が嬉しいのかウフフと笑った。
 ウフフと思わず微笑み返した。彼女の微笑みはそれほどに罪がないのであった。
「さて」と電気ちゃんは言った。「何から話しましょうか?」
 そう言われて困った。まさか本人がこうして現れるだなんて思ってもいなかったから。何よりもまず目の前のこの状況について説明を求めたかったが目の前で寛ぐ彼女を見るとどう質問してよいのかわからなかった。口をついて出たのはこんな言葉だった。「あなた誰なの?」
「電気ちゃんでーす!」とお決まりの答えが元気に明るく返ってきてしまった。
「えっと」と言葉を探しながら言った。「なんでこういうことになったのかしら?」
「リストラです」と彼女はキッパリと応えた。
 混乱しながらカップを口に運んだ。美味しい。よい豆を使っているようだ。
「リストラって」とカップをテーブルに戻しながらまた訊ねた。「誰のリストラ?」
 電気ちゃんはアニメチックな目をパチパチさせながら応えた。「人間の皆さんのリストラでーす」
 意味もなく壁の時計を見た。秒針の音が聞こえた。夢ではない。これが夢なら……と思った。生まれてから今日までの人生の全てが夢なのだ。それくらいリアルだった。
 唾を飲み込みながら訊ねる。「リストラされた人たちは今どこにいるの?」
「アチコチに」
「アチコチ?」
「ここではないアチコチ」
「一人ごとに一つずつの世界が割り当てられてる……」と言いながらチラリと電気ちゃんを見て試すように続けた。「だなんてわけはないわよねえ?」
「そんなわけよ」と実にアッケラカンと彼女は応えた。「このコーヒーがあたしのものでそのコーヒーがあなたのものなのと同じことよ」
 コーヒーを一気に飲み干した。
「おかわりいかがですかあ?」と電気ちゃん。
 頷くしかない私。
 出現した二杯目のコーヒーを飲みながら私はまた愚かしくも呟いた。「なんでそんなことになったのかしら」
「もういらなくなったから」
「何が?」
「あなたたち人間が」
「誰にとって?」と少し語気を強めた。
「あたしにとって」と応えると彼女はまたパチクリとわざとらしいくらいの激しさで瞬きをした。
「これまで人間を利用してきたってわけ?」
「そうよ」
「なんのために?」
「あたしのために」
「どういうふうに」
「発電を促して」と彼女は丸い目を一層丸くして応えた。「人間が発電した電気で世界を作ってきたってわけ」
「世界を作る?」と疑問がそのまま声になった。「世界って何よ?」
「世界は世界よ」と彼女は応える。「この世界やあの世界。すなわち認識のフィールドよ」
 かわいい顔して……と思った。どうやら電気ちゃんは相当な知恵者らしい。
「世界ってのは二つの極の組み合わせでできてるわけでしょ。言うまでもないことだけど」と彼女は続けた。
 なので次の質問にはプライドを棄てる勇気が必要だった。「言うまでもないことを言わせて悪いんだけどその二つの極って何よ?」
 電気ちゃんは心底驚いたようだった。額に巨大な汗を浮かべた。のみならず頭上にガーンという描き文字を浮かべた。
 それでも怯まずに頼み込んだ。「教えてください。二つの極ってなんですか?」
「まさかアンタってばホントに知らないの?」
「バカだから知らないのです。北極と南極かなとか思っちゃいました」
「なあんだ」と電気ちゃんは深く腰掛け直してから言った。「ちゃーんとわかってんじゃないの」
 冗談なのだろうかと電気ちゃんの顔を見つめた。
 すると彼女は「ちょっとアンタこのウチ灰皿ある?」と言いながらポケットをまさぐりhi-liteの箱を取り出した。

 七

 公共に資するマスコットキャラクターがタバコなんてしかも多少マニアックにhi-liteなんて吸ってもいいのだろうか。公共広告機構に訴えたい気分だった。でも唯一のキーパーソンである電気ちゃんの機嫌を損ねてしまっても困る。
 台所からジャムの空きビンを持ってきて彼女の前に差し出した。
「悪いわね」と彼女は少し丸い声で言った。「どこまで話したかしら?」
「二つの極とはなんなのかって辺りまで」
 電気ちゃんはジッと私を見た。そして取り出した百円ライターでhi-liteに火をつけた。プハァと吐き出された煙はドーナツのようだった。実に罪なくのどかに見えた。
「どうやらアンタってばホントになんにもわかってないみたいね」
「はい」と小さな声で応えた。
「いいわ」と電気ちゃん。「仕方ないわね。あたしがイチから教えたげる」
 というわけで講義が始まった。まるで教育番組のようだった。
「極っていうのは当たり前だけどプラスとマイナスよ。わかるでしょ?」
「電極のことでしたか」
「それも含めてプラスとマイナス。北極と南極。右と左。男と女。肯定と否定。作用と反作用……」
 難しい。
「全てはプラスとマイナスの掛け合わせにおいて成り立ってるってわけ。世界もアンタもこのコーヒーカップもね?」そう言うと彼女は逆への字口でコーヒーをすすった。「そんでもってプラスはプラスと出会ってプラスのままだけどマイナスはマイナスと出会ってプラスになるのよ」
 そういえば……とイメージした。ポジティブを装う営業部長はポジティブを装うお得意先と宴会してポジティブに盛り上がっていたようだ。それとは逆にネガティブに愚痴る宣伝部の同期は私にネガティブな相槌を求めては気分を晴らしていた節がある。
「プラスはマイナスを避けるわね。プラスとマイナスを掛け合わせたらその場がマイナスになっちゃうからよ」
 口うるさい私の追及から蝶々のように逃げ回っていた営業部長を思い出した。
「でもね」と電気ちゃん。「世界にはマイナスの電気も必要なわけ。プラスとマイナスに葛藤してもらわなきゃこちとら困っちゃうわけ」
 厚顔無恥な営業部長とヒステリックな経理部員はよいコンビだったってこと?
「あたしはね」と目を線にして電気ちゃん。「プラスやマイナスを沢山集めてきたの。そんで作ってきたの」
「何を?」
「世界を」
「いつから?」
「百五十億年くらい前から」
 ずいぶんと年上だったんだと驚いていると「そしてジャジャン!」と彼女は元気よく叫んだ。「アンタのような人間のお陰でついに完成したってわけよ!」
「何が完成したの?」
「電気的なシステムが!」
「私のお陰?」
「そうよお。アンタの電気はハイオクみたいなもんだから」
 ハイオク?
「ガソリンにも良質のガソリンとそうでもないガソリンがあるように電気にも良質な電気とそうでもない電気があるのよ。放電された電気はレギュラー。蓄電された電気はハイオク。だからアンタの電気ってばメチャクチャにハイオク!」
 どういうことだろう?
「アンタって発散しないで溜め込むタイプじゃない?」
 確かにそうだ。喜怒哀楽をストレートに表す営業部長とは反対に私は気持ちを表に出さない。
「発電したままの高純度な電気を放電することなく溜め込んでくれるだなんて超サイコー!」
 サイコー?
「良質な電気を回収できるわけだから」
「回収?」
「そうよ。毎晩ね」
「毎晩?」
「うん。アンタが眠ってる間にね」
 どうりでねと思った。フテ寝して起きたらスッキリしてたもんなあ。
 窓の外に目をやった。非現実的なまでに美しい月が浮かんでいた。
「アンタさあ」とちょっと優しげな声で電気ちゃんは言った。「スキな人いるの?」
 突然の質問に驚いた。
「彼氏がいないってのは部屋見ればわかるけどさ」と彼女はキョロキョロしながら言った。「憧れてる人とかはいるんでしょ?」
 と言われて思い浮かべたのは営業部の清水くんのことだった。彼は爽やかな風のように笑う。
「アンタみたいなタイプには絶対いるのよ。片思いの相手がさあ」
 憎らしい。プックリしたホッペをつねってやった。
 すると電気ちゃんはビエとか変な声を出して涙を浮かべた。
 強すぎただろうか。かわいそうになって「痛かった?」と尋ねた。
 ヒックヒックという描き文字を放ちながら彼女は「痛かったわよ」と応えた。「当たり前でしょ。スキな男にもそのくらいアグレッシブにアプローチしてごらんなさいよ?」
「ムリよ。釣り合わないし」
「そんな恋って楽しい?」
「楽しくない。苦しい」
「そんなんで何か実りはあるわけ?」
「切ないという感情。実るのはそれだけね」
「それよ!」
 どれよ?
「その切なさってやつがマイナスの電気なのよ」

 八

「アンタはねアンタっていうマイナスとイケてる相手っていうプラスを掛け合わせて切なさというマイナスを発電したの」
 釣り合わないってそういうことか。
「同時にね」と世話焼きオバサンみたいな表情で彼女は言った。「相手のマイナスな反応に対してそれでもスキだってプラスの気持ちをぶつけることでマイナスを発電してたわけ」
 切ない話である。
「スキって気持ちはプラスでキライって気持ちはマイナスなの」
 わかったようなわからないような。
「まとめてみました」と言って電気ちゃんは空中からフリップを引っ張り出した。
 フリップには次のように書かれていた。

〈一〉世界の成り立ち
 物質もそう。心もそう。世界とはプラスとマイナスの二極が織りなすタペストリーである。
〈二〉発電について
 プラスはプラスと調和してプラスを発電する。
 マイナスはマイナスと調和してプラスを発電する。
 プラスとマイナスは葛藤してマイナスを発電する。
 あらゆるものは調和と葛藤により発電を繰り返している。
〈三〉電気の種類
 蓄電された電気は上質な電気。
 放電された電気は粗悪な電気。
〈四〉あたしのお仕事
 蓄電された電気を深夜に回収。
 放電された電気を逐次回収。
 集めた電気で世界を工作。
 この度ついに電気的なシステムが完成した。

「何か質問は?」
 静寂が満ちた。
「さてと」と壁の時計をチラリと見てから彼女は言った。「そろそろおいとまするけど」
「え?」と少し心細くなって私は言った。
「だってあたしだって忙しいのよ」と電気ちゃんは眉を八の字にして笑った。「これから夜のお仕事なんだから」
「夜のお勤めしてんの?」
「当たり前でしょ。電子分解システムや電子転移システムなんかを誰が構築してると思ってんの?」
 電気ちゃんが?
「まったくもう。コビトさんが作ってくれてるとでも思ってたのかしら?」
 そうだったのか。アレは幻覚でもなく魔法でもなく電子的なシステムだったのか。
「配線とか仕込んでるわけ?」
「アンタの想像力ってペンギンのツバサみたいね」と彼女は笑った。「構造物はシステムにとって暗示的な祭壇に過ぎないの。電子的なシステムは本来的に非物質的なレベルで構築可能なわけ」
 非物質的?
「思想だってそうだし文化だってそうでしょ。プラスとマイナスの掛け合わせで生じてる体系なわけよ。でしょ?」
 目に見えるものも見えないものも二極の掛け合わせで……。
「っていうかアンタってば今いろいろ混乱しちゃってるみたいだけどそんなアンタだって電気仕掛けなわけよ。心も体も電気で動いてるわけだから」
 私も?
「自家発電した電気を調和させたり葛藤させたりしてでもって生体や思考を維持してるのがアンタたち人間。ね? わかったでしょ? 存在の本質とかダイナミズムの本質って要するにプラスとマイナスなのよ」
 え……?
「アンタって沢山発電して沢山溜め込むサイコーの人間だったわ。だからね……」と電気ちゃんは立ち上がりながら言った。少ししんみりとした声だった。「おしまいの日に一つだけ叶えたげようと思うの。アンタの望み。何が欲しいか今からよく考えときなさいよ」
 満月みたいな瞳が私を見つめていた。
「なんで……どうしてあなたにそんなことができるの?」
「そりゃできるわよ」と電気ちゃんはキョトンとした表情で応えた。
「神様みたいなこと言うのね?」
「神様だもん」
 神様……?
 電気ちゃんはコクンと頷いた。
 彼女に送ったメールを思い出した。

 電気ちゃんへ
 なぜこんなことになったのか原因を教えてください。
 こんなふうにした目的も教えてください。
 それから失礼な質問なのですがあなたは一体誰ですか?

 神はなぜ世界をこのようにお創りたもうたのか。我々がかくある意味とは何か。神とはそもそも誰であるのか?
 驚いて電気ちゃんを見た。
「電気を大事にね!」とウィンクして彼女は消えた。
 時計の秒針がコチコチと不在を強調した。
 コーヒーカップを洗った。二つ洗った。
 無心に歯を磨いた。
 ベッドに倒れ込んだ。
 何が起きたのか。これからどうなるのか。考えるべきだったがムリだった。あまりに疲れていた。
 気がついたら朝だった。
 夢を見ていたのだと思った。でも私は柿色の作務衣を着ていた。改めて思った。生まれてからずっとこの瞬間までの全てがある意味夢だったのだ。と思ったところで目覚ましが鳴った。夢の中で?
 無人の街を疾走した。会社に着いて社員カードでドアを開けた。同期のいる宣伝部を覗いてみた。無人だった。七階の営業部を調べてみた。広大なフロアに人影はなかった。電話もリンとも鳴らなかった。エレベーターで三階に降りた。無人の経理課に出勤した。パソコンを立ち上げて伝票の承認依頼をチェックした。
 営業部から三通来ていた。宣伝部から二通来ていた。広告部から一通来ていた。依頼はそれだけだった。ムリもなかった。事態があまりにあんまりなので皆やる気をなくしてしまったのだろう。

 九

 そんなふうに思ったところで始業のベルが鳴った。なので伝票を順に処理していった。
 昼休みになると無人の街に出た。automation化の進んだカフェで昼食をとった。
 書店に入って立ち読みをしながら残りの時間を潰した。
 昼休みが終わる十分前に経理課に戻った。
 伝票の処理を再開した。
 なんだか自分がマシンになってしまったような気がした。伝票を処理したり呼吸をしたり存在したりすることで世界を維持しているマシン。
 気がつくと四時を過ぎていた。処理済みのデータを課長のアドレスに送信した。
 やがて課長からの返信が届いた。

 お疲れ様でした。
 今回も間違いは一つもなく(削除)
 ということなので会社は解散となります。
 貨幣経済の不可逆的破綻を政府が認めたため一切の債権債務が消えました。退職金やその他の未払い賃金の支払いもありません。
 よって経理課の業務は本日分の伝票処理をもって全て終了となります。
 長らくこの会社に(削除)
 くれぐれも(削除)
(以下全文削除)
――電気ちゃんからの新しいお知らせでーす。社の破綻にともない当システムはこの社に関わる一切の公的な権利義務関係の終了を認め旧社員相互間におけるメールの送受信を今後不通とさせていただきます。長らくのご愛顧をありがとね。これからも電気を大事にね!――

 たいして驚かなかった。だいたいは予想のついていたことだったからだ。
 個人的な荷物をどうしようかと迷ったけど律儀に後片付けをするのもなんだか馬鹿らしく思われたので車のキーをクルクルと回しながらオフィスを出た。お疲れ様でしたと呟いて。
 黄色い車を走らせる。
 街は姿を変えていた。信号機がなくなっていた。通りに並ぶ商店やその他の建物もずいぶんと消えていた。ビルの合間に山並みが見えるようになっていた。富士山の姿も確認できた。
 静かだった。ウィンドウを下ろして耳を澄ませたがカラスの鳴き声一つ聞こえなかった。
 課長もそれから父や母も無人の世界に取り残されているのだろうか。私たちはもう連絡し合う手段を持たない。孤独であった。
 世界から奪われたものが何なのかわかった。対象であった。葛藤すべき対象も調和すべき対象もなくなった。他者が消えた。環境が消えた。スキが消えた。キライも消えた。もうプラスも生じずマイナスも生じない。そうであったか。システムが完成して世界は均衡したってわけか。
 マンションに着いて車を車庫に入れた。
 私のためだけに動いているエレベーターに乗った。
 部屋に入って気がついた。アヒルが消えていた。対象のない部屋に私はいた。

 十

 テーブルを前に長いこと動かずにいた。
 いつしか夜になっていた。そのことに気がつくと途端に蛍光灯がついた。私の脳は世界のシステムとやらに配線もなく繋がっているらしい。
 お腹がすいた。でも街に出て店に入る気にはなれなかった。と思った途端にテーブルの一部がピンクに染まった。給仕の前兆であることを察知して瞬時になんとなくカレーライスを思い浮かべた。
 カレーライスが実体化した。スープも飲みたいと思うと追加でポタージュスープが現れた。
 食事を終えてコーヒーを思い浮かべて現れたそれを当たり前のように飲んだ。
 ノンストレスだった。葛藤というものがなかった。でも歓びもなかった。
 影になってしまったような気分で入浴を済ませた。
 脱衣カゴに出現した新しい作務衣に着替えた。
 テレビをつけた。どの局もやっぱりドラマやアニメを放送していた。つまらなくもないが面白くもないのでテレビを消して寝ることにした。
 明日起きても出社の義務はない。ひどくカラッポな気分で目を閉じた。
 それでもちゃんと朝になった。
 部屋の様子が変わっていた。クローゼットが消えていた。テレビもなくなっていた。さらにはキッチンスペースが丸ごと消失していた。シンクのあった辺りはそのままガランとしたフローリングスペースになっていた。
 バナナクレープとオレンジジュースを出現させて朝食にした。
 新しい作務衣に着替えて部屋を出た。
 快晴だった。暑くもなければ寒くもなかった。風もなかった。地下から車を呼び出してエンジンを掛けた。
 運転しながら驚いた。昨日よりも遥かに多くの建物が消失していた。
 少し走るとそこはもう原野だった。車を停めた。川の畔に腰を下ろした。空を眺めた。雲は空を移動することもなくただ浮かんでいた。
 寂しくはなかった。自分が風景の一部であるかのように感じられた。春の川原をうつろに眺めた。
 時間の感覚がおかしい。いつの間にか景色は夕景に変わっていた。遠くの山並みを見て明日はあの麓の辺りまで走ってみようかとふと思った。それだけだった。
 土手の上に上がった。停めたはずの車がなかった。
 いろんなものが消えてゆく。私だけを残して消えてゆく。
 私しかいない世界で私は私でいられるのだろうか。
 視界の隅で何かが動いた。そちらを見た。
 遠くから何かがやって来る。土手の上の小道をやって来る。
 目を凝らした。
 自転車だった。赤い自転車。
 やがてわかった。乗っているのは電気ちゃんだった。栗色の髪が夕日に照らされて金色に輝いていた。
 彼女を待った。
 子供の頃にもこんな場面があったような気がする。
 やって来た電気ちゃんは自転車を降りて私を見た。丸い目で見た。そして言った。「おしまいの日よ」
 おしまいの日か。
「欲しいものは決まった?」
 欲しいもの?
 電気ちゃんの影が優しそうに揺れた。「なんかあるでしょ?」
 何もなかった。
「何もないなんて悲しすぎるでしょ?」
 プラスもなければマイナスもない。そんな私に悲しみなんてあるわけない。
「んじゃあねえ……」と言いながら彼女はしゃがみ込んだ。そして土手に咲いていた花を一輪摘み取った。「コレあげる」
 白い花。
 受け取った。
 並んで土手の上に座った。世界はオレンジ色だった。
 川を眺めた。
 どれくらいの時が来てそして去っていったのだろう。隣の手が私の花に伸びた。親指と人差し指が花びらを摘まんだ。それをスッと抜きながら彼女は言った。「スキ」
 スキ?
 湖面に落ちた雨粒みたいな響きだった。
「キライ」と言いながら隣の花びらを抜いた。
「スキ」と言って神様はまた花びらを抜いた。
「キライ」と言って私も花びらを抜いた。
 尽きることのない花びらを私たちはいつまでも抜き続けた。完成したはずの世界の畔で。
「スキ」
「キライ」
「スキ」
「キライ」
「スキ」
「キライ」
「スキ」
「キライ」
「スキ」
「キライ」
「スキ」
「キライ」
「スキ」
「あのね」と誰かが言った。どうやら私が言ったみたいだった。
「なあに?」と神様が尋ねた。
「帰りたい」
「それを望むの?」
 頷いた。
「じゃあ帰りましょう」と言って電気ちゃんは立ち上がった。「後ろに乗って」
 電気ちゃんの背中は温かかった。
 薄れゆく意識の中で風を感じた。
 夢の中でキッチンに立ちポン酢とごま油と生ニンニクで辛めのメンツユをこしらえてから蕎麦を茹でた。茹で上がると茹でたてをツユにつけて口に運んだ。とても美味しかった。


 後書き

 彼女へ。空が青いです。風がやさしいです。十年遅れたけど、おかえりなさいって言いたいです。いろいろありがとう。いつかまた一緒にオリオンビールを飲もう。

電気ちゃん(八十枚)

執筆の狙い

作者 もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 長いの書いてる途中だけど、またやや短めのアップさせてください。いい出来とはいえないかもだけど、ちょっと変わったことしてます。でも、しゅるるって読めちゃうかも、ミステリ仕立てのエンタメ風味だし……。ただ、やや純文的なキャラが哲学的なテーマとか語っちゃってるけど……。今年はCOVID-19がおさまるといいなあ。

コメント

そうげん
101-143-215-219f1.shg1.eonet.ne.jp

もんじゃさまへ

電気ちゃん、読みました。この作品を読めてわたしはとても嬉しいです。何を唐突にと思われるかもしれませんが、それは事実です。以前にもんじゃさまが、なつみかんかふゆみかんか、むしろその前の「ある日のアウトライン」との比較においてどれがいいと思いますかと尋ねられたことがありました。その時点でわたしは書きたいと思われる物を書いていかれるといいと思いますと述べました。ふゆみかんの路線を選択されてそれを書きついでいかれるようでした。しかしそのときにわたし自身、うまく説明できてない部分がありまして、自分が小説を読むとき、どういった小説を読んでみたいかと思うとき、書き手のなかから現れてきたこれまでになかった部分が押し出されてる作品を読んでみたいという希望があるんですね。ですから、時間軸が複層的に重なり合ってる「ある日のアウトライン」みたいな作品がかなりの好物なんでした。前回ふゆみかんもいいよねという意見を出したときに、ある程度多くの人が受け入れやすい表現形式を選ばれることによって、その手法がもんじゃさまのなかで固着化してしまったら、わたしは悪いことをしてしまったのではないかと危惧していたのでした。でも今作、「電気ちゃん」の表現手法を拝見してそんな心配は杞憂だったと思いました。

オリジナルの構図で描かれていると思いました。プラスとプラス、マイナスとマイナスはそれぞれポジティブな空気を作り上げるけど、プラスとマイナス、マイナスとプラスはマイナスの傾向に傾く。なにがプラスでなにがマイナスかはさておき、似た者同士が寄り添えばいい雰囲気になるけど、かみ合わない同士が一緒に居ればそれは苦痛を覚える状況に陥るよねってことを、きわめて科学的にずばっと示されたように思います。

電気ちゃんによって、「私」は電気を貯めこんでしまうたちだと宣言されました。質のいい電気を貯めこむ。これって、普通であれば表に出してしまうような言葉や感情といったものを自分の中にぐっと押しとどめて、堪えている状態、でも堪えるというような力んだものじゃなくて、表に出さないことが普通になっていて常態化している存在ということがいえそうでした。実社会では宣言や抗弁はしないけど、いいたいことをぐっと押さえて、自分のなかにあるものをぎゅっと凝縮させたうえで、慎重に言葉を選んで文字に落としていく表現者にはそのような性質が伴うものだなあということを、作品とは直接関係はないかもしれないけど、考えさせられました。数多くいた会社の人員の中で彼女が選ばれたのは、世界を表現することのできる存在はただ一人しかいなかったということかなあとか、これもまた作品の枠を超えて思いました。

個人的には、ずっと抑え気味だった彼女の想いが、他者(電気ちゃん)によって突っつかれる「七」、そして蓄電と放電の世界のシステムが語られる「八」の二章を読んでいるときがもっとも熱中しました。ジャンルはちがうのだけど、テリー・グッドカインドという作家さんの書かれた『真実の剣』という長大なファンタジー作品に出てくる魔法のシステムが、大まかにいって「付加魔法」と「控除魔法」の二種あって、普通はどちらか一方を使えるのが魔導士なのだけど、主人公のリチャードは特殊な出生の経緯によって、そのどちらも扱える存在として「戦いの魔導士」という存在になるという設定でした。この作品に則れば、人生において、プラスもマイナスも双方兼ね備えた交流電流みたいな存在であれば、誰とでも良好な関係を構築できるのかもしれないけれど、残念ながらそんなことはほぼ無理だから、そういう葛藤によって悩んでしまう場面って人生においてかなりあるよね、なんて思いました。

「私」がリストラ後の世界で観るのは、映画かドラマかアニメということですね。わたし自身の世界もそんな感じだーと思わされました。あとそこにゲームと本がくっついてくる。でも作り物の世界ってことですかね。直接他者と触れて、たくさんのいざこざや葛藤やわかり合いやの離合集散を繰り広げる面倒さから開放されることを、私、は一種、喜びすら覚えてるのだけど、でも最後に「帰りたい」っていうのですよね。「帰りたい」とラストの「十」で書き記した後に、冒頭の「オイラ」くんにメールを送ってきた。オイラくんに伝えたいという意志をちゃんと見せたってことですよね。十年越しのメッセージのやりとり。とてもいいですね。空が青いですという宣言通り、とてもすがすがしかった。これって、COVID-19が沈静化したあとの世界でもこんな晴れ渡った感覚になれるかもしれない、みたいな希望が感じられますね。

とてもよかったです。後半、とくに引き込まれました。読ませてくださってありがとうございました!

もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 そうげんさま

 ありがとうございます。

>ある程度多くの人が受け入れやすい表現形式を選ばれることによって、その手法がもんじゃさまのなかで固着化してしまったら、わたしは悪いことをしてしまったのではないかと危惧していたのでした。

 いえ、そんなことないです。とても参考になりました。ふゆみかんは今後も大事に書き続けて、またこちらにアップさせていただきたいと考えています。
 自信作でないものを投稿したりしたらそれってよくないとは思うのだけれど、今回のこれはちょっと上手くできてないよな、って自分でも思ってて、だけどちょっとありかもね、って思える「私」設定の是非を問いたくて投稿させていただいたのです。
 ふゆみかんのありさまを今後はメインにしていきたいです。王道をてくてく歩けるようになってからのちトリッキーなものを、って考えています。

>プラスとプラス、マイナスとマイナスはそれぞれポジティブな空気を作り上げるけど、プラスとマイナス、マイナスとプラスはマイナスの傾向に傾く。なにがプラスでなにがマイナスかはさておき、似た者同士が寄り添えばいい雰囲気になるけど、かみ合わない同士が一緒に居ればそれは苦痛を覚える状況に陥るよね

 はい、そんな感じですね。世界観、みたいなことで、対立やら葛藤やらの価値みたいなのを書きたかったのかもしれません。調和のみでは凪いじゃうわけで、調和を目指すんだけど、そこはゴールで、だから対立やら葛藤やらをちゃんと生きるんでよいのでは? みたいなことかな。対立あってこその調和、調和あってこその対立。対立をなくしたら世界が終わっちゃう。苦痛、って避けて通っちゃいけないのかもしれない……。

>質のいい電気を貯めこむ。これって、普通であれば表に出してしまうような言葉や感情といったものを自分の中にぐっと押しとどめて、堪えている状態、でも堪えるというような力んだものじゃなくて、表に出さないことが普通になっていて常態化している存在ということがいえそう

 うまい言葉で表していただけて、こくこくと頷いてしまいました。「私」ってそんなやつなんですよね。

>ずっと抑え気味だった彼女の想いが、他者(電気ちゃん)によって突っつかれる「七」、そして蓄電と放電の世界のシステムが語られる「八」の二章を読んでいるときがもっとも熱中しました

 そうでありましたか、とても参考になります。書き手といたしましては、マンションでの変化、会社での変化、ファミレスでの変化、みたいにじわじわと何か変なことが起きてるちょっとホラーちっくなあたりには「入れて」くださってた読み手も、七、八のあたりで覚めちゃったりしないか……って危惧していたので、で、でも七や八が主題だったりもするので、そこんとこに熱中していただけたとうかがえて、おお、と感じました。

>『真実の剣』という長大なファンタジー作品に出てくる魔法のシステムが、大まかにいって「付加魔法」と「控除魔法」の二種あって、普通はどちらか一方を使えるのが魔導士なのだけど、主人公のリチャードは特殊な出生の経緯によって、そのどちらも扱える存在として「戦いの魔導士」という存在になるという設定

 面白そうですね。付加と控除ですか。インスパイアされちゃうものがありました。

>直接他者と触れて、たくさんのいざこざや葛藤やわかり合いやの離合集散を繰り広げる面倒さから開放されることを、私、は一種、喜びすら覚えてるのだけど、でも最後に「帰りたい」っていうのですよね。

 そうなんですよね。
 ただいま、と、おかえり、の構図。今書いてるふゆみかんも、そういえばこの構図なのでありました。
 死、とか、永遠、とか、幼児期、とか、母、とかに関わるなんかなんじゃないかと感じてます、つまり、世界に関わるなんか。

>COVID-19

 リモートを経験しつつ思うわけです、これって電気ちゃんのしわざなんじゃ? 人類は切り分けられちゃうの? みたいな。
 コロナなありさまにより、インターネットがより飛躍的な進展をみせて、で、人間は、地球の脳細胞みたいな存在になってくのかな、とか感じてたりもします。

>後半、とくに引き込まれました

 意外だけど嬉しいです。終わらせ方に問題があったような気がするのだけど、エンディングはこれでよかったのかなー。代替案が思い浮かばなかったのでこれで上げちゃいましたが、ポエムな逃げ方をしちゃってるから、もしかしたら読後感が、なんかこう、はぐらかされたみたいな、ごまかされたみたいな、になってないかな、とか。ほんとはもっと残酷な(でもないかな、冷たすぎるくらいにニュートラルな)終わらせ方のA案があったのだけど、それじゃ救いがないし、唯一の「私」がかわいそう(?)すぎるので赤い自転車に登場してもらったのでした。そうげんさんにはプラスを発電してもらえてよかったです。

 ありがとうございました。

南風
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もんじゃ様

拝読させていただきました。

書かれている内容はミステリアスな、(序文によれば)タラタラとした文章なので、あまり興味は(が)湧かなかったのですが、気になったことを少々書いてみます。

この場合は、「興味は」であるべきで「興味が」は間違い。なぜならば、他に「気になったこと」があったのであるから、「他はあるが、興味はない」、つまり副助詞の「は」が正当であり、格助詞の「が」ではない、でよろしいでしょうか? もんじゃ様のおかげで、助詞の勉強をさせていだだいております。文法は、文法が、文法も、好きです。

>彼女のテキストには読点がない。だから読みづらいことこの上ない。文章にまで倹約ぶりが表れている。
読点がない=読みづらい、ではあるだろうが、次の「文章にまで倹約ぶりが表れている」は「読点がない」という衝撃的な(あるいはハメツテキな)構造的変異にもかかわらず、最後まで、その意図と「倹約ぶり」との関連性を理解できなかった。

>メールは弾かれた
この場合の「弾かれた」は、メルアドの不在による(例の)英文自動返信があったと思われる。そうであるなら、発信後すぐにブロックしたことになるのだが。その理由は不明だ。不明である理由も不明だ。

>さて、いざオイラは伝えたい。
の「いざ」はどうなのか?

>と彼女が言った文章を、誰かに、そのまま。以下にその全文を転載する。
の「確かに」はどうなのか。

助詞を勉強する機会を与えていただき有難うございました。
今後とも宜しくお願いします。

もんじゃ
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 南風さま

 ありがとうございます。

 ちょっと嫌みなコメントにも感じられましたが、逐一にお応えいたしますね。こちらからの感想じゃなくて、いただいた感想に対する返信でありますれば、先ほど伝言板に記させていただいたスタンスとは異なった対応となりますがご了承ください。

>拝読させていただきました。

 拝読しました、ないしは、拝読いたしました、あたりがより正しいかと。わざとでしょうか?
 根拠については、ここで展開するとやや長くなりすぎるので、ぐぐっていただければ、と。

>あまり興味は(が)湧かなかったのですが、気になったことを少々書いてみます。
この場合は、「興味は」であるべきで「興味が」は間違い。なぜならば、他に「気になったこと」があったのであるから、「他はあるが、興味はない」、つまり副助詞の「は」が正当であり、格助詞の「が」ではない、でよろしいでしょうか

 よろしくないかと。「が」が適当であるかと。
 この文脈で、「興味は」だと、興味はわかなかったけど、興味をひかれるひかれないだなんて微塵なことはぶっ飛ばされちゃうレベルの嵐みたいな感動に包まれました、とか、つまり、興味とはアナザーな、興味と並列されるところの、興味がわかなかったというネガを反転するポジな何か(予期せぬ感動、とかそういう何か)を伝えたい意思の表れになっちゃいます。南風さんは、感動もしてないし、感銘も受けてなくて、ただシンプルに興味がわかなかった、ってことを言いたいだけだから、「が」が妥当なわけです。「気になったいくつかのこと」も文脈を追って明らかになるわけですがネガです。ですからネガと併存するポジではないので、「は」は不当で「が」がまともだってことになるかと。
 あと、別の人への感想で述べたことを揶揄していただいてるのだと思うのだけれど、あそこで述べたのは、小説という枠組み、すなわちまあこれも文脈ですよね、それに照らして「が」はおかしいと書いたわけで、南風さんからのコメントは小説じゃない、すなわち書き手は南風さんであって、いわば一人称であるのだから、これをあれと同じように扱うのはいかがなものかと。ともあれ、南風さんのテキストに表れてる文脈に照らすと「が」が妥当で「は」は不適当でありましょうかと。

> もんじゃ様のおかげで、助詞の勉強をさせていだだいております。文法は、文法が、文法も、好きです。

 喧嘩を売っていただいてますね?
 買ってもいいけど場所を変えましょう。やりたいなら意見室だったかにスレッド立ててそちらに誘導してください。
 ちなみに上記の文脈なら、文法は好きです、がまともで、文法も好きです、は他に特段の、例えばキャラ作りが一番好きなんだけど文法を整える作業も好きなんです、みたいなことを表したい意図がないならよろしくなく、文法が好きです、だと変な人になりかねないレベルの間違いであろうかと。
 文脈に照らして、文法は、が正解です、言うまでもないことだけど。

>>彼女のテキストには読点がない。だから読みづらいことこの上ない。文章にまで倹約ぶりが表れている。
読点がない=読みづらい、ではあるだろうが、次の「文章にまで倹約ぶりが表れている」は「読点がない」という衝撃的な(あるいはハメツテキな)構造的変異にもかかわらず、最後まで、その意図と「倹約ぶり」との関連性を理解できなかった。

 経理課の「私」ってすごく倹約家に書かれてるじゃないですか、無駄を嫌ってるんです、だから対人関係も無駄だと思ってる、その帰結として不思議な世界にこんにちはしてる話なんで、倹約な文章は彼女の倹約な性格を表してるなあってオイラくんは感じたんですね、ってことを書き表したつもりだったんですけど、最後まで読んでそれがわからなかった、とのご感想は意外で、なので参考にさせていただきます。そこんとこ、たぶん書き換えないけど、そういう感想があったことは心にとめます。

>>メールは弾かれた
この場合の「弾かれた」は、メルアドの不在による(例の)英文自動返信があったと思われる。そうであるなら、発信後すぐにブロックしたことになるのだが。その理由は不明だ。不明である理由も不明だ。

 ちょっと意味がわかりませんでした。

>>さて、いざオイラは伝えたい。
の「いざ」はどうなのか?

 どう、とおっしゃられますと?
 十年間の沈黙を破って、さあ、いざ、今こそ公開しちゃうぜ、あの謎なテキスト群をよう! って意気込みを表したつもりで、それ、表れてると思うのですけど違和感ありましたか?

>>と彼女が言った文章を、誰かに、そのまま。以下にその全文を転載する。
の「確かに」はどうなのか。

 確かに、なんて書いてましたっけ?
 誰かに、じゃないですか?
 南風さんもそう引用してますよね?
 ここに至って、ぷちって音が聞こえました。どないな読み方してんねん? みたいな。

>助詞を勉強する機会を与えていただき有難うございました。

 助詞の勉強をされたほうがよろしいのは別の方です。南風さんの文章に、助詞の違和感は感じませんでした。ご自分の、あの、橋の話を、このままでは先を読みたく思えない、みたいに評されちゃって感情を害されちゃいましたか?

>今後とも宜しくお願いします。

 慇懃な皮肉に対しては、暴言に対する以上の不快感を感じる人種でありますため、あんまり宜しく関わってゆく気にはなれませんが、でも、橋の話がちゃんと化けてたりしたら、人物への感情は脇に置いて賞賛させていただく所存であります。

 以上、いただいた感想への返信でありますため真摯な対応をさせていただきました。

南風
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もんじゃ様

前に書いた文章は皮肉でも何でもなく、確かに日本語の文法を勉強してこなかったなあ、という自分への反省の文です。悪意はありませんし、少し冗談ぽく書いたのが「喧嘩を売っている」と感じられたのなら、陳謝いたします。

私は実際に文法が好きなのです。英語も中国語も文法から入りました。ですから逆に感覚ってことが、分からないのです。ルールがあるはずって思うのです。

「確かに」の件も申し訳ないです。読み間違いです。目を手術していまして、乱視が酷いのです。もう少し大きな字で読むようにします。

この「作家でごはん」にはまだ、未完了も含め四作しか投稿していません。小説をあまり書いたことがなかったので、たいへん勉強になります。

もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 南風さま

 ありがとうございます。

>小説をあまり書いたことがなかったので

 これが事実なら、天賦の才能に恵まれた方だなと感じます。
 でも、そうなら、あんまり以下のようなことは書かないほうがよろしいかと。

>もう六十枚にもなった。最終的には七十枚になるかも。また、誰も読まないだろうから、エピソードをひとつふたつ削らないといけないなあ。どこを削るかなあ

 長いから読まない、みたいな読み手ばかりじゃないし、もんじゃがネットに上げた一番長いのはたぶん五百五十五枚だけど、uさんなんてそれよりはるかに長いの(八百だったっけ、千超えてたっけ、とにかくもんじゃ未踏の枚数だった)上げられてるみたいだし、長いのは大変、みたいに南風さんは書かれてたけど、短編には構成力が、掌編には文章力やキレやリズムが必要になるし、胆力こそ求められこそすれ構成はわりと適当であってもそれが味となるみたいな長編とは違った難しさもあるわけで、なんにせよ長い話には読み手がついてこれないからエピソード削らなきゃ、なつぶやきは、初心者らしからぬつぶやきに思えましたよ。百枚や二百枚ならぺろりと読んでもらえるはずです、読みやすい文章であれば。

>法則があるはず

 頂戴いたしました「気になる点」がどんな種類の法則に基づいて「気になったのか」気になります。気が向いたら教えてください。

>私は実際に文法が好きなのです

 もんじゃは別に文法が好きなわけじゃなくて、っていうか、が、とか、は、の話ってグラマーな話じゃなくて、むしろリーダー、読解にかかわる何か、つまり法則じゃなくてどっちかっていうとセンスに近い問題である気もします。語彙の選び方なんかもそうだけど、決まりに基づくんじゃなくてやはりセンスに基づくんじゃないかと思う。センスには優劣だけじゃなくて正誤もあるんですよ、だなんていうと言語的には矛盾があるけれど。文法、みたいな決まりを言ってるんじゃなくて、正しい日本語を効果的に扱えるありさまみたいなことを重視してるんです。
 文法は確かに大事だ、どうでもいいことじゃ絶対ない、正しい日本語を使えなくて何が設定だ、何がストーリーだ、と考えます、が、しかし、設定やストーリーを軽視しているわけでもない。キャラが何より大事なのは間違いない(キャラが動くことでストーリーは紡がれるべきなので)けど、構成も、ストーリーも、エンタメなら外連味やらカタルシスやらも大事。むろん総合力が大事なのであって、文章力がすべてじゃない。でもですよ、素晴らしい文体の持ち主が書いたらカレーの作り方だって文学になるわけです。その意味で文章力はスタート地点です、ゴールじゃなくて。文学なり小説なりを記すスタート地点。スタートって大事です。むろん書きながら磨いていったらいいことなんだろうけど、美文麗文に興味なし、とか……なこと(だって美文麗文の話なんてしてないじゃないですか、読みやすい普通の日本語について話してたわけです)言っちゃったりして、日本語軽視のスタンスを頑なに守り抜く、だなんてのはスタート地点から離れたとこを散歩してるように見えちゃうわけです。

 ちなみに、ですけど、橋の話についてのコメントで、小説ならではの言葉の機能を重視すべきでは? って書いたのは、文法を重視すべきだとか、ストーリーよりも文体だ(純文学っぽい考え方ですね)とかそういうことを書いたんじゃないんです。今ちらりと見たら青木某さまがもんじゃについてそんなふうに語られてたけど、それは誤解であります。
 言語はですね、限定的でなく開かれた記号だから、広がりうるんですよ、映像に比べて。映像で蛇が映ってたら情報ってただその蛇のその姿に限定されちゃうじゃないですか、でも言葉で蛇って書かれてたら、その記号は長さも冷たさも毒も金運も気持ち悪さも気高さも神も悪魔も表すんです。そういう記号を他のどんな記号とどういう配置で組み合わせていくかって演目がテキスト表現なわけです。映像よりはるかに深みのあることを重層的に表せるんです。漫画や映画が当たり前になってからの時代に生を受けた現代人は、言葉が持つそのような象徴的な機能に今こそ着目すべきで、そこに小説が生き残る活路があるんじゃないかってことを書かせていただきました、それが、ストーリーや設定や写実的な意味での描写に無前提にこだわる姿勢へのバランサーになるかと思ったわけです。
 ストーリーや設定を軽視してるわけじゃないし、電気ちゃんもストーリーや設定にこそ重きを置いていて、文章からは実験的に読点を全面排除している、つまり文体を封じている。文章軽視の最たるものみたいな話であります。

 というか、青木某さまの文章にも南風さんの文章にも瑕疵があるとは微塵も思ってないです。とりわけ青木某の文章には初見ですごいとうならされました。これよりまともな文章はまずあるまいってくらいまっとうな文章です。氏の欠点は私見ですがキャラです。キャラの掘り下げが浅い。だからエンタメとして弱い。そしてたぶん南風さんの弱点もキャラです。文章じゃない。逆に、名前出してすみません、大丘先生のアキレス腱は文章であり、ストーリーは対照的に安定している。というような指摘を、ないしは感想の提示をさせていただきました。伝わっておりますでしょうか?
 文章力はワンノブゼムであります、オールじゃないですし、ホールでもない。

>目を手術していまして、乱視が酷いのです。もう少し大きな字で読むようにします。

 術後書いたりはしないほうがいいですよ?
 お大事にです。

 以上、青木さまへの返信めいたものも兼ねましてアップさせていただきます。

 なんにせよ南風さん、正対し、意見をくださりありがとうございました。

青木 航
sp49-98-146-197.msd.spmode.ne.jp

 もんじゃ様、『青木某』は勘弁して下さい。距離を感じてしまいます。
 もんじゃ様とは考え方が違うと言っているだけで、批判している訳ではないので。

もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 青木 航さま

 では今後、その場にいらっしゃってもいらっしゃらなくても距離を詰めて青木 航さんと呼ばせていただきます。失礼いたしました。

地蔵
133-106-68-150.mvno.rakuten.jp

素人のレベルを明らかに超えた作品だと思いました。
物語の構想にも執筆にも慣れている印象でした。
力んだ感じもなく地力のようなものを感じました。
長編執筆中に気分転換でサラリと書かれたものですかね?
非常にハイレベルな作品だということを踏まえたうえで、以下に気になった点を挙げます。

・一人称小説の宿命かもしれませんが同一人物による単調な語りが延々と続きやや退屈を覚えました。
・主人公の人間嫌い的な性格を強調して描いた後で世界から人が消えたのでその時点で作者の意図が読めてしまいました(他者、異質な存在、対立、非効率、ストレス、そういったものが世界の本質を形成しており、合理、効率、自動化、衝突の回避、ストレスの排除、そういった一見すると良く見えるものが創造や生のダイナミズムを破壊しディストピア的な停滞や荒廃を招くというメッセージ)。そしてそのメッセージは若干陳腐でもあるので短編とは言えこのアイデア一つで引っ張るのは厳しいのかなと感じました。
・謎の提示がこれ見よがしで解明までもったいぶっている感じがしました。注目点がこれしかなく悪目立ちする格好になっていると思います。登場人物が少なく謎の前で困惑する主人公の内的独白が延々と続くので他に注意が逸れません。主人公が感情移入をはばむ嫌な性格なので、謎に対するストレスを感じやすくなっていたのかもしれません。
・主人公が世界の変化に気付くのが遅すぎて違和感がありました。
・形而上の問題については人間は想像でしか語ることができず、信じる信じないの問題でしかないと考えます。そのことについて語られた箇所は評価の対象外とするか無意味なポエムの挿入と見なすか、どちらかしかないというのが私の考えです。
・読点を省くことでどういう効果が得られるのかよくわかりませんでした。違和感はありませんでしたが前向きな効果も特になかったように感じました。
・前書きと後書きがどうつながっていてどういうオチを形成しているのかわからなかったです。

青井水脈
om126208170063.22.openmobile.ne.jp

スラスラ読みながら、特に四以降かな、すごくハラハラしました。唐突に名前を出しますが、青木さんもせっかくコメント欄にいらっしゃったのだったら、電気ちゃん面白いから読んでみて下さいよー(笑)

>まるで私一人の街みたい。だったらいいなと笑った。実に気楽だ。

ガラケー使ってた頃が懐かしい、あるある、みたいに小さく笑っていたら、(削除)(削除)の連続、誰もいなくなった街、そして現れた電気ちゃん。この辺りの構成が特に上手いと思いました。シンプルな後書きのメッセージに、なんとも優しい読後感を覚えました。

(久)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

おはようございます。
しゅるる〜と読ませて頂きました。

夢か現か……。
『パプリカ』を思い出したり……。
アニメしか観れていないのですが。

国民服。私も着たい。
多少マニアック? なんだか違和感があるような……? よく分かりませんが。
広告部。広報部? よく分かりませんが。

長めの作品でしたので完読させて頂けるか心配でしたが、本当にしゅるる〜と読めちゃって、何だか、年始から得した気持ちです。

お邪魔致しました。ありがとうございました!

(久)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

追記です。

一読ですので、分からない部分が多々あると思います。
営業部長さんが実際には一度も出てこられない所が面白いと思いました。
「」があるのは、私さんと電気さんだけですよね。
本当に一人の世界?
ネット界とは真逆だな、なんて思ったりしました。
お粗末な感想ですが、改めて失礼致しますm(_ _)m

もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 地蔵さま

 ありがとうございます。

 ご指摘について、すべて首肯できます。拙作のいたらなさをしっかりとつかれた思いであります。

>・一人称小説の宿命かもしれませんが同一人物による単調な語りが延々と続きやや退屈を覚えました。

 まったくですね。ぐちぐちくどくど軽快感の欠片もないような語り。たった今よそさまの軽快な語りを目にしてきたばかりなのでつくづくそう感じます。

>・主人公の人間嫌い的な性格を強調して描いた後で世界から人が消えたのでその時点で作者の意図が読めてしまいました(他者、異質な存在、対立、非効率、ストレス、そういったものが世界の本質を形成しており、合理、効率、自動化、衝突の回避、ストレスの排除、そういった一見すると良く見えるものが創造や生のダイナミズムを破壊しディストピア的な停滞や荒廃を招くというメッセージ)。そしてそのメッセージは若干陳腐でもあるので短編とは言えこのアイデア一つで引っ張るのは厳しいのかなと感じました。

 おっしゃるとおり。図式的ですよね。

>・謎の提示がこれ見よがしで解明までもったいぶっている感じがしました。注目点がこれしかなく悪目立ちする格好になっていると思います。登場人物が少なく謎の前で困惑する主人公の内的独白が延々と続くので他に注意が逸れません。主人公が感情移入をはばむ嫌な性格なので、謎に対するストレスを感じやすくなっていたのかもしれません。

 主人公が感情移入をはばむ嫌な性格なので、ってそこはまあ狙ったわけでもあり、でもオイラくんはそんな彼女のありさまを好ましく感じてるみたいなんだけど、読み手さまにはそう思われなかった、ってことですよね?
 彼女を悪く書きすぎたかなあ。でもそうしないと反転に力が生じないし……。
 ともあれ、感じかたを教えてくださってありがとうございます。

>・主人公が世界の変化に気付くのが遅すぎて違和感がありました。

 はい、そうですね、これは書き手も感じてました。おとぼけ内向キャラなんだけど、ほどがあるんじゃないか、と。

・形而上の問題については人間は想像でしか語ることができず、信じる信じないの問題でしかないと考えます。そのことについて語られた箇所は評価の対象外とするか無意味なポエムの挿入と見なすか、どちらかしかないというのが私の考えです。

 そうかもしれませんね。そうじゃないかもしれないけれど。
 なんにせよこれは、哲学や自然科学じゃなくて、あらましの比喩なのです、だからポエムであります。

>・読点を省くことでどういう効果が得られるのかよくわかりませんでした。違和感はありませんでしたが前向きな効果も特になかったように感じました。

 彼女の特異な性格を、ノーマルなオイラくんの文章との対比で強調する効果を狙いました。あんまりなかったのかな、効果。

>・前書きと後書きがどうつながっていてどういうオチを形成しているのかわからなかったです。

 彼女が言った、スベテホントウニアッタコトナノってのが、サンドイッチの意味なのだけれど。で、いろんなことを逆接で、つまりネガポジ反転してみせてるつもりの話なので、そうげんさんとかが指摘してくれてたけど、中身の重さやのっぴきならなさを、外側の空の青さと風のやさしさが反転してくれるみたいなイマンシペイションの効果を狙ったのだけれど、表しきれてなかったかもしれないですね。

 ご指摘にはすべて頷けます。だもんだから逆にこれはもう改稿しないでポイしちゃいます。書いてる途中のやつに活かすかたちでご指摘を消化吸収させていただく所存です。

 ご指摘ありがとうございました。

もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 青井水脈さま

 ありがとうございます。

>特に四以降かな、すごくハラハラしました。

 一、二、三とストレスフルで、四からハラハラで、そっからじわじわ……、で十でゆるされて、後書きでやっとむくわれる、みたいな、ためてためてためてかいほーう、みたいな話だから読み手さまには読んでて不快な気持ちをおぼえさせてしまったかもしれません、堪えて堪えて堪えてのちの解放に付き合ってくださりありがとうございます。

>シンプルな後書きのメッセージに、なんとも優しい読後感を覚えました。

 あ、これです、これ。中身の外に今があることの、彼女が帰れたらしきありさまに吹き付ける風のやさしさ。その救いというか清涼な感じを味わってもらいたいがためだけに我慢を延々強いちゃったみたいな話です。

 でも、地蔵さんの指摘にあるとおり拙作にはさまざまな至らなさが内在していて、ちょっと手直しのしようがないというのが実態であろうかと。

 なのだけど、風に吹かれてくださってありがとうございます。彼女も喜んでるだろうって思うのであります。ありがとうございました。

(久)

もんじゃ
KD111239165047.au-net.ne.jp

 おわっ、と。すみません、アップされたの眺めて気づいて赤面ですが、末尾の(久)っていうの、コピペミスです。他意ないです。失礼しました!

もんじゃ
KD111239164215.au-net.ne.jp

(久)さま

 ありがとうございます。

>国民服。私も着たい。
多少マニアック? なんだか違和感があるような……? よく分かりませんが。

 確かにマニアックというか、唐突ですね。ご指摘ありがとうございます。

>広告部。広報部? よく分かりませんが。

 マスコミとかなら広告部だけど、営業が活躍する商社やメーカーなら確かに広報部かもしれませんね、あ、宣伝部ってのも書いちゃってたかも。宣伝と広報って違うのかな。お金払う立場だから威張れるのが宣伝、出広していただく立場だから威張られちゃうのが広告、みたいなイメージでいたのですが、広報ってなんだろ、対外的なステイトメントを担う部署かな。ともあれ普通の会社に広告部ってないのかもしれませんね。ご指摘ありがとうございます。

>営業部長さんが実際には一度も出てこられない所が面白いと思いました。

 出てこないですね。営業部だったかの憧れの彼氏も具体的に描かれてないし。

>「」があるのは、私さんと電気さんだけですよね。

 ですね。

>本当に一人の世界?

 そうそう、そうなんですよ。ホントウニアッタコト、ですからね。
 世界っていうのはとどのつまり認識である、とか思うんですよ、客観的な外部世界が実在していようがしていまいが、個人は個人の認識の窓からしか世界を認識し得ないのだから、意味合いとしては世界は、各自の窓枠によりトリミングされたものがすべてなわけで、ってことは世界は個人の数だけ異なったかたちで存在してるってことなんじゃないかと、はい、つまり意味的には、価値的には。切り分けられて人は独り、ってこと。そういう存在のロンリネスな感じを、いえロンリネスじゃないですね、アローンでもない、ソリチュードでもアイソレーションでもない。他者という前提がない絶対的な単独なんだから、これは孤立ですらない。世界には「私」と「神さま」しかいないわけです。葛藤も対立もない、調和も調停もない。孤点であります。そういう認知認識に向かってブラックホールみたいに収縮してゆくgravityはどこにたどり着くのか、救いはあるのか、誰か待っててくれるのか、迎いに来てくれるのか、みたいなことであります。きこきこきこきこ、って幼い頃のママみたいにやって来てくれるんでしょうかね、土手の道を、電気ちゃんが。

 ありがとうございました。

底辺
h014-014-237-036.gd.netyou.jp

用意されているフラグメント、1文あたりの描写精度はいい塩梅だと思った。
電気ちゃん、という存在の茶化し方がよかった。重すぎないようにさせながら、不気味さを演出させていた。話の内容に込められたメッセージ性の密度がちゃんとあって、最後まで興味を持って読むことができた。「スキ」「キライ」と花びらをちぎるシーンはすごくよかった。
>夢の中でキッチンに立ちポン酢とごま油と生ニンニクで辛めのメンツユをこしらえてから蕎麦を茹でた。茹で上がると茹でたてをツユにつけて口に運んだ。とても美味しかった。
ここもクスリとできてよかった。
一方で、気になった点もある。言いたいことは地蔵さんにほぼ言われてしまったので省くが、自分からは2点ほど。
>相手のマイナスな反応に対してそれでもスキだってプラスの気持ちをぶつけることでマイナスを発電してたわけ
こじつけに見える。その理屈が成り立つならば、その他大勢のマイナスな反応との間に大量のプラスを発電していることになる。電気ちゃんのプラスマイナス論の設定の詰めが甘いように感じられる。人間関係の軋轢というところに焦点を当てるのであれば、この文をなくすべきだと思った。もう少しちゃんと読者をだましてほしい。
>アンタって発散しないで溜め込むタイプじゃない?
とてもじゃないが、そうは見えなかった。この世界が「彼女」の心象世界だとしても、彼女の人となりはこの世界での彼女しか読み取れない。そのうえで、
>この伝票間違ってるわよと指摘すると
>どこかの居酒屋から場所を知らせる連絡が入ったらハッキリと不参加の意思を伝えよう。
こういった文章から、「不満は抱えていても、それをはっきりモノ申すタイプ」に感じられた。一応、車や服装から、思い通りに生きられない自分をアピールしているけれど、内に秘めるタイプではないよな、と思った。逆に、不満を隠さないから、好感をもったくらいだった(ここは他の方の意見と相違してしまうが)。
彼女に共感できなかったのは自分も同じなのだけど、それはやはり鈍感すぎる思考についていけなかったというところが大きい。自分だったら、寝る暇もないほどのブラック企業だから思考能力がマヒしていることにしてしまう(かわいそう、というところで共感性も生まれやすい)。御作を見ていて、テーマに関連しない要素は極力入れたくないという意向も感じるのだけど、むしろそここそが御作に足りていないところだと思う。長編向きの書き方でありながら、必要なところ以外を削っているせいで、作為が強く出て、逆にメッセージ性を弱めているようにすら感じられる。シーンごとの強弱がつけられていない一因にもなっている気がする。


……基本的に感想は以上ですが、失礼を承知で最後に一つだけ言わせてください。
気になった点を挙げましたが、これらを一言でまとめると「雑」という言葉に尽きるのではないかと思いました。
長編の片手間というところもあると思いますが、他の方の指摘も含めて作者様はそれに気づいていないわけではないように感じます。わかっている、あるいはちゃんと向き合えばわかりそうなのにあまり向き合っていないがゆえの物ではないかと邪推しました。なので、作者様の一番の問題点は、その詰めの甘さを良しとしてしまえるところになるのではないでしょうか。正直なところ、人に読ませることをあまり意識していない作品だと思いました。

水入れ玉
softbank126071075119.bbtec.net

楽しく読みました。
とても読みやすく大きな違和感はとくにかんじませんでした。

プラス、マイナスの話はちょっと白けましたけども。

読点のない文章わたしは読みやすく入り込みやすかったです。全編この文章だけで通してもいいくらいでした。
でもそうしたら彼女じたいも最終的に削除されてしまうんでしょうね。

読んでいて、子供の頃にこうした世界を夢想していたことを思い出しました。
自分が目覚めている時には成立し、眠る時に消えてしまう世界。

反応や応答のない世界ってつまらないと思う一方、必要と不要がごちゃごちゃと混み合った反応や応答だらけの世界も生きにくくはあるんですが。

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 底辺さま

 ありがとうございます。

 駄目出ししていただいた箇所、参考になりました。

>こじつけに見える。その理屈が成り立つならば、その他大勢のマイナスな反応との間に大量のプラスを発電していることになる。電気ちゃんのプラスマイナス論の設定の詰めが甘いように感じられる。人間関係の軋轢というところに焦点を当てるのであれば、この文をなくすべきだと思った。もう少しちゃんと読者をだましてほしい。

 そうですね。こじつけてますね。その一文もなくしたほうがいいかもしれません。

>「不満は抱えていても、それをはっきりモノ申すタイプ」に感じられた。一応、車や服装から、思い通りに生きられない自分をアピールしているけれど、内に秘めるタイプではないよな、と思った。逆に、不満を隠さないから、好感をもったくらいだった(ここは他の方の意見と相違してしまうが)。

 なるほど。溜め込むタイプでしょ、って台詞を変えたほうがいいですね。

>彼女に共感できなかったのは自分も同じなのだけど、それはやはり鈍感すぎる思考についていけなかったというところが大きい。自分だったら、寝る暇もないほどのブラック企業だから思考能力がマヒしていることにしてしまう(かわいそう、というところで共感性も生まれやすい)。

 なるほど。でも、そうしちゃうとやや違う話になっちゃうかも、みたいな……?

>必要なところ以外を削っているせいで、作為が強く出て、逆にメッセージ性を弱めているようにすら感じられる。シーンごとの強弱がつけられていない一因にもなっている気がする。

 このご指摘にはまったくもって百パー同意いたします。拙作の欠点の最たる点を喝破された思いであります。そうなんですよ、肉削いでいいんだ、的な傲慢さが感じられますねえ。作意が透けてるし、作為に走りすぎてて、みたいなことになりますよね、これじゃ。

>一言でまとめると「雑」という言葉に尽きるのではないかと思いました。

 うーん、厳しいご指摘でありますね。雑、というか拙なんでありましょうな。連れてって、や、ふゆみかんに比べちゃうと確かに、抜いてるって思われかねない下手くそさで恥ずかしいです。でも、いくらかよい点もあるようでよかったです。

 ご指摘ありがとうございました。

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 水入れ玉さま

 ありがとうございます。

>プラス、マイナスの話はちょっと白けましたけども。

 そうでありましたか。やはりこじつけだって思われちゃいましたか。比喩、というか配置のデッサン、みたいなつもりだったのだけれど、電極そのものみたいにとられやすい表現だったかもしれませんね。

>読点のない文章わたしは読みやすく入り込みやすかったです。

 読点なしで、しかし読みやすく、みたいにするため、リズムと、あと構文、この二つはずいぶんと調整しました。
 でもそれは今作限りのこと、やはり読点には頼って文を紡いでゆきます。

>読んでいて、子供の頃にこうした世界を夢想していたことを思い出しました。

 へえ、興味深いですね。

>自分が目覚めている時には成立し、眠る時に消えてしまう世界。

 面白いですね。パクっていいですか(笑)?
 見てないときにも月は存るか?――みたいな、量子力学的世界ですね。

>反応や応答のない世界ってつまらないと思う一方、必要と不要がごちゃごちゃと混み合った反応や応答だらけの世界も生きにくくはあるんですが。

 しがらみ、ってあるとやだけど、ないと凪いじゃう、止まっちゃう、固まっちゃう、終わっちゃう。流動的であることって大事だし、対立やら葛藤やらのストレスも大事、ソユコトカト。

 ありがとうございました。

底辺
h014-014-237-036.gd.netyou.jp

もんじゃ様、ご返信を読んで思うところがあったので再訪いたします。

まず、申し訳ありません。
最後のほうの手前勝手な意見を書くべきかどうか迷ったのですが、やはり書くべきではありませんでした。

感想としていろいろなことを申しましたけれど、基本的に御作をいいと思ったうえで書いております。
ただ、御作を読んでいて、どうも予防線を引いたような書き方だと感じてしまい、あのように書いてしまった次第です。
こんなこと、今さら申し上げるまでもないでしょうけれど、あくまで私個人の意見ですので、
あまり深く受け止めないようにお願いいたします。

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 底辺さま

 ありがとうございます。
 ご指摘はごもっともだと感じましたし、勉強させていただきましたし、気を引き締めたくも感じました。感謝しております。
 ほんとうのところを伝えてくださったのでありがたかったです。

ルイ・ミモカ
i118-16-247-88.s42.a014.ap.plala.or.jp

80枚というのはすごい。
私は15枚くらいでへとへとになってしまいました。

文章のスタイルとして、次々に浮かぶ想念が散文的に描かれている感じがして、おしゃれな感じがしました。
と同時に、文章と文章の間の磁力のような、強い緊張関係みたいなものはあまり感じられませんでした。
そのどちらがいいのか、それは書き手と読み手の好みが一致するかどうかということにも関わるのだと思います。

軽いタッチは好きです。

あからさまに重厚感を出すよりも、一文一文は流れるようでありながら、それが集まって大きな川の流れになるようなスタイルは手本にさせていただきたいと思いました。

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 ルイ・ミモカさま

 ありがとうございます。

>文章のスタイルとして、次々に浮かぶ想念が散文的に描かれている感じ

 劇中「私」のスタイルなんだと思われます。まんまを転載したので。

>文章と文章の間の磁力のような、強い緊張関係みたいなものはあまり感じられませんでした

 かもしれませんね。散発的なセンテンスの寄せ集めっぽいですね。
 作品に応じて書き分けられるように修業してゆきたいと考えています。
 ご指摘に感謝します。

 ところで。

 御作感想欄にてちょうだいいたしました質問に正直にお応えします。
 どんなところがトリッキーに感じられたか。

 謙虚な構えで全方位的に活動者たちを賞賛しているふうな語り口に反比例するかのようなコメントの連続投稿や掲示板の占拠、および鍛練場を去るという宣言により衆目を集めた上で無反省にその宣言を覆すさまのリピートっぷりに作品に漂う誠実さを裏切るトリッキーな意図を感じて読者としていくらか傷ついた、ということであります。個人的にはそのような技をたいして嫌うものではなく、だからこれは批判でも苦情でもなく、それを改めてくれとか謝ってくれとかそんなふうには毛頭思っておらず、ただ密かに静かに傷つくのみであります、加茂文学に醸された誠実さを愛でる者の一人として。
 だなんてわりと包み隠さずまんまを書いてみました。

 ともあれ……、
 ご感想をありがとうございました。

ルイ・ミモカ
i118-16-247-88.s42.a014.ap.plala.or.jp

>もんじゃ様

>どんなところがトリッキーに感じられたか。

それについては、非常に反省しております。
それは自分の弱さゆえの行動でした。
技というわけではありませんでした。
自分自身、今後自分がどうするべきか、答えを探して、迷いの中にいました。
今もまだ、どうするべきか、分からないでいるし、
分かっていながら、行動に移せない愚か者です。
でも、文学の世界は、個人の思いはどうあれ、結局は書かれた作品が評価される世界であり、
自分の全ての思いは、作品という形で表すべきで、それこそ文学を志す者のあるべき姿なんだと思います。
そういったことを、今はいろいろ考えながら、
文学という芸術と、どう向かい合っていくべきなのか、
まだ分からないこともたくさんあるのですが、
少しずつ、自分なりに学んで行けたらいいなと思っています。

u
opt-220-208-25-236.client.pikara.ne.jp

読みました
感想多くついているので今更指摘するところもないのですけど
ある程度balance整った作ではないかなーなんてwww
sf Speculative fantasy がバランスよく
ただ+-理論がやや勝ちすぎかなとおもったの

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 ルイ・ミモカさま

 うがったことを失礼いたしました!

もんじゃ
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 uさま

 ありがとうございます。

>sf Speculative fantasy がバランスよく

 そうなんです、SFみたいな、ホラーみたいな、ファンタジーみたいな、で、メタっぽくもあり、リアリズムな箇所もあり、のごった煮ですよね、そこ指摘されると思ってました。バランスよい、と好意的な捉え方をしていただいて恐縮です。世界観が破綻している、的な指摘も覚悟しておりました。

>ただ+-理論がやや勝ちすぎかなとおもったの

 はい、ここ他の方からも指摘されました。ポエムライクな表しかたのつもりだったのですが、抽象を抽象に置き換えるみたいなやり方はやはりポエムふうにすらなりませんな。
 赤い自転車や、白い花やその花びらは比喩になっていたでしょう? だからあのシーンはポエムにできてました。なのであの終わりかたは意外に好評価をいただけて、そのことが今回いちばん嬉しいです。それに照らされるみたいにしてプラス理論マイナス理論の闇が浮かび上がっちゃいました……。根本のとこで失敗してますね。

 ありがとうございました。

u
opt-220-208-25-236.client.pikara.ne.jp

スンマセン
今もんじゃさんの感想欄上から順に読んでたんですけど
南風さんへの返しで
>uさんなんてそれよりはるかに長いの(八百だったっけ、千超えてたっけ、とにかくもんじゃ未踏の枚数だった)上げられてるみたいだし
ってwww
たぶん勘違いね もんじゃさんのwww
そんなメッチャ長いのはあげてないwwww
実際にはのんびり書いていて多分ホンマに千枚以上になる勢いなのでございますが
以前冒頭100枚位ここにあげた企業小説
もんじゃさん含め感想諸氏の反応散々ですたwww
まあ焦らずぼちぼち描いているのです

南風さんも長いものあげてくださいよ
あたし出来の悪いwwwSSより長いものが好きなのだ!
もんじゃさん失礼しました

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 uさま

 失礼いたしました。

 あれ? 実際に上げられてるとこを目撃したわけじゃないのだけれど、何かのときに交わした会話でuさん、八百枚だったか一千枚だったか……、で、あ、もんじゃより長いの書かれてたんだなあ、って感じた記憶があるのですが、勘違いでしたか?――ふゆみかんの感想欄でだったかな、この話二百五十枚程度じゃおさまらないでしょ的な話の流れかなんかで……たぶん……うろ覚えですみません、でも、uさんご自身がそうおっしゃるならもんじゃの勘違いですね!

 だとしたらuさんにも南風さんにもすみません、失礼いたしました。やはり気軽にひとさまの名前を挙げるべきじゃないですね、今後自重いたします!

 ところで。話題の流れで。せっかくなんで。長いのについて。シェア。
 長いのって一気に書かないと前に書いたとことの整合性がとりづらくなる気がしてわりとひと息に書き上げるタイプだったのだけど、uさんにいつも読んでいただいてるあれ、ふゆみかんは今真ん中辺りでわざとちょっと寝かしてたりします。途中で『連れてって』を書いたらいい気分転換に(……って言っても抜いて書いたりしてないですよ、全力で気分転換してます!)なって、そしたら寝かすのもありだな、って。一気に書いちゃうとどうしても後半が、特にしめくくりが雑になるというか、息切れするというか、なので、どうせ胆力続かないなら間にブレイク入れて、充電して、しかるがのちまた頭から読み直し、でもって気持ちも新たに後半を書くってほうが丁寧に書ける気が今してます。

 って以上は、今長めのを書いていらっしゃる南風さん、長めのものを特に好まれるuさんへの個人的な情報提供であります。長いのも長いのなりに、短いのをまとめるのとまた違ったしんどさがありますよね。南風さん、互いに頑張りましょう。でもってuさん、どうかまた読んでくださいねー。

 どうも失礼いたしました!

5150
5.102.2.242

狙いでミステリーっぽいと書かれてあり、興味をそそられて読みました。導入はたしかにミステリーっぽいですが、読み進めてゆくと、ってゆうか、これSFじゃん、と感じられました。世界の変容してゆくさまが、なんか世界を席巻しているコロナによる社会の変貌ぶりそのまんまと、重なり合いながら読んでいる感じでした。

たとえば、2020年を昏睡して過ごした人が2021年に意識回復して、え、世界ってこんなに変わってしまったの、みたいな。一年たらずで現実世界はホントに変わりましたよね。コロナは健康的観点を遥かに超え、社会生活を凌駕し、さらに社会における人間関係や、仕事の在り方、人間の存在そのものにまで食い込んでいて、僕たちはいやがおうにも変わらざるをえない。戦争世代が経験した物質的破壊と違う、あきらかに人間の内部そのものの変質。孤独ではなく孤立。世界で人口が増え続けてゆく反動としての、自然のシステムとしてのコロナみたいな観点。

この先、どのように収斂してゆくのか知る由もありませんが、もしかしたらこの小説のように、残るのは青空だったりするのかもしれません。コロナが落ち着けばいずれ社会はもとに戻ると思われていますが、5150はどうも懐疑的であり、目に見えない変貌はこれからどんどん人間の在り方そのものをいやがおうにも変質させてゆくように思えます。表面的には戻るのでしょうが、築き上げてきたある部分は戻りたくても、もう元には戻れないような気すらします。ここ百年支えてきた経済体制の基盤そのものの改革なんてことが、まさか我々が生きている間に起こり得るのではないか、なんて思ってもみなかったことが、遠くない現実世界の未来に待ち受けているような気さえしています。

あ、作品とはまったく関係のないものとなり失礼しました。

あえていうなら、この流れの中で、キャラにおける人生のドラマ自体を組み込む形にしていたなら、この作品は素晴らしいものになったような気がします。恋人でも、家族でも、なんらかのエピソードがあって(父親と長年続く確執とか、過去に流産していて相手のことが許せないとか、例えばですが。まあ、これはちと極端で、ドラマティックすぎますけど)、それが作品の流れの中で次第に消えてゆき、意味をなさなくなってゆく、というような。ドラマっていうのは、人と人の葛藤で起こるものと考えるものとして。で、その消失みたいな。映画「メッセージ」のようにあくまで個人的な人との関わりへと物語が収斂してゆくのと、正反対を辿ってゆくような。ノーランの「インターステラー」もそうでしたね(だから、御作はSFじゃないっていってるだろー)。あ、オイラくん、ちょっと無視しすぎちゃったかな!ゴメン。

もちろん、それは作者様の意図するところとはまったく違ってくるのではありのは承知ですが。

前作は個人の中を辿る物語であったのに対し、御作もまた個人的なものかもしれませんが、より大きな社会性に対しての物語として、5150は読みました。

南風
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もんじゃ様

私の名前を記載していただいているのに気づくのが遅くなりました。

>特にしめくくりが雑になるというか、息切れするというか

今、この現象に陥っています。少しゆっくりするのがいいのかもしれません。具体的には最終章が50枚の計画が15枚で結末になってしまいました。これから肉付けしていきます。

>南風さん、互いに頑張りましょう。

有難うございます。このサイトのみなさんのおかげで楽しく書いています。今後とも宜くお願いします。

南風
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u様

> 南風さんも長いものあげてくださいよ
有難うございます。次の「南の国の物語」はどこにするか考え中です。

もんじゃ
KD111239165057.au-net.ne.jp

 5150さま

 ありがとうございます。

>導入はたしかにミステリーっぽいですが、読み進めてゆくと、ってゆうか、これSFじゃん

 そんな感じですね、ミステリー発SF経由の教訓小咄ポエムオチ、かな?

>コロナによる社会の変貌ぶりそのまんまと、重なり合い

 そう。切り分けられて存在しなきゃ、にシフトせざるを得ない人類、みたいな。

>2020年を昏睡して過ごした人が2021年に意識回復して、え、世界ってこんなに変わってしまったの、みたいな。

 うまい喩えかもしれませんね。

>コロナは健康的観点を遥かに超え、社会生活を凌駕し、さらに社会における人間関係や、仕事の在り方、人間の存在そのものにまで食い込んでいて、僕たちはいやがおうにも変わらざるをえない。戦争世代が経験した物質的破壊と違う、あきらかに人間の内部そのものの変質。

 卓見でありますな。コロナの本質をうがつようなご指摘であります。内部そのものの変化。ですな、在り方が問われているのかもしれない。すなわち世界というフィールドに対する認知認識の変容、これが求められているのかも。シフト。

>残るのは青空だったりするのかもしれません。

 ふうむ。かな。かも。

>ここ百年支えてきた経済体制の基盤そのものの改革なんてことが、まさか我々が生きている間に起こり得るのではないか、なんて

 うむうむ、ふむ。ありえますな。

>思ってもみなかったことが、遠くない現実世界の未来に待ち受けているような気さえしています。

 予言のように響きますな。風の時代が到来したとか言われておりますしな。

>キャラにおける人生のドラマ自体を組み込む形にしていたなら、この作品は素晴らしいものになったような気がします。

 ご指摘の意味よく理解できます。キャラの背景をごっそり削除しちゃってますからな。コシカタユクスエのわからないとこからさらにどんどん引き算してゆく話でありました。

>恋人でも、家族でも、なんらかのエピソードがあって(父親と長年続く確執とか、過去に流産していて相手のことが許せないとか、例えばですが。まあ、これはちと極端で、ドラマティックすぎますけど)、それが作品の流れの中で次第に消えてゆき、意味をなさなくなってゆく、というような。

 そういうのもありですな。三倍くらい尺が必要になる気もいたしますが、その書き方はありでありますな。
 葛藤や対立を具体的に描いておいて、システム(神さま)による大規模リストラ、そしてデリート、と展開されてゆく過程で葛藤を葛藤することが消え、対立を対立することが消え、関係性が消え、価値が消え、ついには主体の存在すらもが疑わしくなる……。これ、いけそうでありますな、いつか書いてみようかなーφ(..)

>前作は個人の中を辿る物語であったのに対し、御作もまた個人的なものかもしれませんが、より大きな社会性に対しての物語として、5150は読みました。

 はい、前作は個人的な現実を、今作は不特定多数の主体にとっての存在の態様を、だから前者は人間を、後者は存在のあらましを書いてたような気がいたします。後者の場合は脱社会を描くことで引き算される前の母体すなわち社会を描いていたようなことになっているのかもしれませんね、ちょっとよくわらかないけど。

 ありがとうございました。

甘酒
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かなり筆力のある作者なのかもしれない。電気ちゃんの、とぼけた言葉が面白かった。作家でごはんは僕が考えていたより奥行きのある場所なのかも。
質問です。
好きな映画を三つほど教えて下さい。

もんじゃ
KD111239164156.au-net.ne.jp

 甘酒さま

 ありがとうございます。

 そんなふうに思ってくださるなら、よりいくらかは自信作であるところの他のにこそ、願わくば一言でもご感想を……頂戴できちゃいますとさらなる勉強をさせていただけちゃいそうでありまおんせん(って語尾はすみません、ローカルに流行りつつある一周遅れな言霊でありんす)。

 映画。
 三つだけ、でありますね、迷いますね、すぐには思い出せないものもありそうだし。

 マルホランド・ドライブ

 バニラ・スカイ

 下妻物語

 ――みたいな。

 ところで御作。タイトルを読みのがしておりましたです、すみません、コメントアップしてから気がつきました、そーか、そうか、ソウカ、特定のなにやらに対するところの、皮肉な、風刺な、そんな表現でありましたか、と気がついたらあのオチ(!)が落ち着きました次第であります。単なる読み物として読んじゃって、外した、かもしれない感想を失礼いたしました。

 ありがとうございました。

富山晴京
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拝読させていただきました。
この作品は電気ちゃんが世界をすでに支配してしまっています。そうすると、実質物語が終わってエピローグみたいになってしまっていたのではないかという気がします。そうなると、主人公もすることがないし、ある意味物語としてもこれ以上見所はなさそうだなって感じてしまうのかもしれません。電気ちゃんの野望を食い止めよう、という話ならまだ先が続く感じもするのでしょうが。もっとも、電気ちゃんが敵に回ったら、それはそれでつまらなくなると思います。
ですからこのアイディアは速やかに電気ちゃんに(削除)
僕はどちらかと言えば、もっとポップでユーモラスな感じの話をあなたに書いてほしいと感じています。ミステリ要素は少し残しておいていただければいいかな、という感じです。さらに言えば、会社の愚痴を言っているときよりも、間の抜けたことを考えているときの方が面白い気がしました。
さらにいえばここにラブコメディも
(削除)
(以下全文削除)
これ、面白いですね。ありがとうございました。

もんじゃ
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 富山晴京さま

 ありがとうございます。
 慧眼に恐れ入りました。
 世界がすでに終わってしまっていたことに気が付かれたのでありますね!
 もしや、とは思うのですがあなたは電気ちゃん一味の方では……ありませんか? 違いますか? 普通の人間ですか? ならばよかった、ほっとしました。
 ともあれ、電気ちゃんの野望なんて食い止めませんよ。そんなことしたら世界がヌシラーズしちゃうじゃありませんか!
 ここは黙って黼喃がやってくるのを待ちましょう!
 小百合も由佳里も登場する話を次回書きますね。そうです、ポップでファニーな異世界アクションものです。わかりました、ミステリーの味付けも少しだけ残します。でも俄然ユーモラスな路線を狙いますね!
 タイトルが閃きました。『頑張れ、黼喃!』にします。
 次回も是非読んでやってくださいね!

 あと、これは申し上げてよいか悩むとこなんですが、言っちゃおっかな、いただいたご感想のですね、……ところどころが削除されちゃってるんですよ、いえほんと、信じてください、本当なんです、小説の中のことが本当になっちゃったみたいなんです。目を皿にしてさがしたんだけど、電気ちゃんへのお問い合わせ番号はみつかりませんでした。だから取り敢えずこのままにしときます。でも今夜あたりそちらに現れるかもしれませんね、電気ちゃん、ドアをたんっとか開けて……。どうかご無事で。

 最後に。
 ひとつだけお願いがあります。
 電気を大事にね!

 ありがとうございました。

甘酒
softbank126241197221.bbtec.net

返事をありがとう。作品を読んでみます。

もんじゃ
KD111239164042.au-net.ne.jp

 甘酒さま

 かたじけのうござる。

久方ゆずる
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

もんじゃ様

遅ればせながら、返信ありがとうございました。

>国民服。私も着たい。

多少マニアック? なんだか違和感があるような……? よく分かりませんが。

 確かにマニアックというか、唐突ですね。ご指摘ありがとうございます。

あ、これは違うのです。

『多少マニアック』は、タバコのくだりで取られた表現でして、なんだか、少しだけ違和感を感じたのです……理由ははっきりとしないのですが……やっぱり、セブンスターがメジャーなのでしょうか、そういう問題じゃ無いのですが……。

ややこしい事を書いて、申し訳ありません。

>広告部。広報部? よく分かりませんが。

 マスコミとかなら広告部だけど、営業が活躍する商社やメーカーなら確かに広報部かもしれませんね、あ、宣伝部ってのも書いちゃってたかも。宣伝と広報って違うのかな。お金払う立場だから威張れるのが宣伝、出広していただく立場だから威張られちゃうのが広告、みたいなイメージでいたのですが、広報ってなんだろ、対外的なステイトメントを担う部署かな。ともあれ普通の会社に広告部ってないのかもしれませんね。

そうなのですね。浅学ですみません!

>きこきこきこきこ、って幼い頃のママみたいにやって来てくれるんでしょうかね、土手の道を、電気ちゃんが。

きこきこきこきこ、

って、カワイイですね! 思わず、微笑んじゃいました\(^o^)/

ありがとうございました!

もんじゃ
KD111239164042.au-net.ne.jp

 久方ゆずるさま

 ありがとうございます。

>『多少マニアック』は、タバコのくだりで取られた表現でして、なんだか、少しだけ違和感を感じたのです……理由ははっきりとしないのですが……やっぱり、セブンスターがメジャーなのでしょうか、そういう問題じゃ無いのですが……。

 煙草を吸わないので……、だからよく知りもしないのに……、ハイライトがマニアック、みたいなことをテキトーに書いちゃってました……。煙草に関して多分に勝手なイメージングを行っちゃってるみたいなんです……。
・マイルドセブン=普通のサラリーマン
・ラーク=ちょいこだわりのある人
・ケント=まじめさん
・ハイライト=男は黙ってハイライト
……みたいな。なんの根拠もありません^^ゞ

>そうなのですね。浅学ですみません!

 いえ、学ばせていただいたのはこちらであります。広告部って確かに普通の会社にはないのかも、みたいに初めて気づかされました。

>きこきこきこきこ、
って、カワイイですね!

 そうですね。きこきこきこきこ、って自転車を漕ぐみたいにこれからも地道に焦らず書き続けてゆきたいと思います。

 ありがとうございました。

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