雪うさぎの案内
一
「カンパーイ!!」二人の声を客の騒ぎがかき消した。生ビールの泡がなくなる前に一気飲みをした。大ジョッキの半分くらいまで飲むとジョッキを机に強く叩きつける。
「プハー!!」
「いい飲みっぷりだな、トム」
「なんか懐かしいな。トムって。」茶髪な若い男はそう言った。
トムというのは学生時代のあだ名で、本名の努(つとむ)から取ったものである。十年前のことなのにすっと思い浮かべられる。ネギまを食べながら、昔のことについて話し出した。
「中川って昔は結構はっちゃけてたよな。今は落ち着いてるけど。」
「まあ、十五、十六歳っていうのは目立ちたがる奴が多いからな。トムだってギャグを披露していつも滑りまくりだっただろ。」俺の黒歴史についてはあまり話されたくはないが、笑いながら話す。
「そういえば、トム知ってるか?」中川は不思議そうな顔して話しかけてきた。
「知ってるかって何を?」
「間曽山(かんそざん)だよ。ここら辺にある。」
「間曽山?」聞いたことのない山だ。
「最近話題になっててよ。なんか噂によると早朝に山頂に登るとスゴイ綺麗らしいぜ。トムって確か写真屋だったよな?行ってみたらどうだ?」
「へー。最近ネタに困ってるし、行ってみようかな。」軽いノリでつぶやいた。
会話は別に盛り上がったというわけではないが久し振りに話せて楽しかった。
「ん?」気づくと写真屋にいた。おそらく中川が酔い潰れたトムをここまで運んでくれたのだろう。中川に対しては感謝しかない。二日酔いで頭が重い。なんとか立つと間曽山のことを思い出した。今の時間は午前三時ぴったり。
「暇だし、調べて今日行くか。」やると決めるとクーグルで調べ始めた。写真屋から車で二十分もかからないし、山の高さも三百五十メートルほどで登りやすさそうだ。間曽山の写真を見ると確かに綺麗だ。でも自分にはもっと綺麗に撮れる。という謎の自信があった。登山用の服と簡易的なリュック、持っている中で一番高い、十万円ほどのカメラはがっしりとした体によく似合う。写真屋というよりは登山家のようだ。安っぽ〜い車と共に間曽山に向かった。
二
ガソリンが切れそうなギリギリでついた。努は写真以外のことには興味がまるでない。無用心である。有名というわりには、車はほとんどなかった。だが、早く写真を撮りたかったのでそんなことは気にせずに山に登り始める。暗いので懐中電灯は必須である。まるで幽霊出そうな雰囲気をかもし出していたが、努は幽霊を信じていないタイプの人間だ。怖がる様子がまるで見えない。
登りやすそうと思っていた山も沼のようなところがあり、面倒くさがりなのでやる気は少し薄れてしまった。
そのまま特に何もないまま登山は終焉を迎えようとしいる。
「よし!!ついたぞー!!」声を張り上げた。山の頂上からの景色は調べたときの写真と比にならないほど綺麗だった。水色のベースに朝日が昇る。太陽は夜の終わりを告げるように一気に眩しく感じた。肩にかけているカメラをしっかりと構えてシャッターを押した。場所を変えたりして、何度も目を輝かせた。心の中で「これは売れるぞ!!」と確信した。それほど綺麗で尊いものだった。何十枚か撮ると満足して下山し始める。下山は楽で良いなあ。そう思いながら。
「あれ?おかしいな。」独り言を言う。なぜ努はこう思ったのだろうか。それはこんな理由だ。
登りは小一時間ほどの時間がかかった。だが、下山の際は二時間経っても下につかない。さらに、十分、二十分、三十分。と時間をかけても、降りれない。下山は楽といっても流石に疲れてきた。
ため息をついて困っているところに、意外なものが見つかった。それは雪と葉っぱなどでできた、『雪うさぎ』である。これには、努も驚くしかない。どこにも雪は降っていないのに雪で作られたうさぎがいるのだ。不思議に思い見つめていると…ピョンピョン動き始めるではないか。目玉が飛び出すのではないかというほど驚いた。まるで生き物みたいだ。自然と雪うさぎの行く方向についていった。雪うさぎは努を案内しているかのようだったからだ。
何も考えず、ボーっとついていくと、努は気絶しそうになってしまった。努の見ている景色はまるで違う世界のようだからだ。雪が二十センチほど積もってる。これだけでも十分驚いたが、極め付け、仲間の雪うさぎたちがどこからともなくやってきたのだ。
「これはスゴイぞ!」と叫ぶとカメラにこの光景を収めた。さっきの景色でフィルム使い過ぎてしまったので、7枚ほどしか撮れなかったのにもかかわらず良い写真を撮ることができた。あまりに感動し、久々に涙を流した。
この楽しい時間もとうとう終わりである。そう直感で思った。雪うさぎ達が集まってまるでソリになったかのようである。何故か努は雪うさぎ達に『乗って』と声をかけられているようだ。気づくと「ありがとうございます。」自然に感謝してそうつぶやいている。雪うさぎ達に乗ると、シャンシャンと音を奏で、スゴイスピードで進んでいく。おそらく時速八十キロはあるだろう。瞬きしている間に車についた。雪うさぎのソリから立つと、雪うさぎは溶けるように消えていった。
「さよなら」
三
努は撮ったものを写真に現像した。朝日の写真は売りに出すと、思った以上に反響を呼んで、大量の収益が入った。
だが、雪うさぎの写真は売りには出さなかった。このことは自分の中に潜めておきたい。自分が撮った、最高傑作ということで。自分が経験した一番の思い出ということで。
執筆の狙い
初投稿です。もしかしたら誤字脱字があるかもしれません。
主人公、努がどれだけ写真に思いがあるか、を中心に書きました。