毬香と麻雀!
『毬香とポン!』(改稿編)
『この麻雀勝負で、負けた方は勝った方の言う事を一つだけ絶対に聞く。……どう?』
突然、毬香(まりか)が言い出した二人打ち麻雀東南戦!!
読んでいた『ハムレット』の文庫本をコタツの上に静かに置いた。
コタツの対面で仁王立ちになっている毬香のミニワンピースから出ている生脚をのんびりと眺めた。
「いきなり言われてもねぇ。まあ、僕の家には、父さんの麻雀卓があって、勝手に拝借してもいいんだけれど。君、出来るの?」
「当たり前よ! じゃなきゃ、こんな勝負を申し込む訳ないでしょ」
「ふぅん。眉唾モノだね。試しに聞くけど、もし、勝ったら、君は僕に何をさせようって言うんだい?」
「そうねぇ、それは考えてるけれど、勝つまで秘密ね」
「そうですか、じゃあ、僕は『三べん回ってワン!』をしてもらおうかな」
「ぐ、それはぁ」
「じゃあ、交渉決裂ね」
「わかったわ! 私が勝てばいいことね。それなら……やるの?」
「父さんの部屋に行こう。夕方までは帰ってこないからね」
◉◎◉
僕と毬香は麻雀の準備をした。
緑色の絨毯の麻雀卓と、水色の背裏の麻雀牌。
久々に見るそれらは、父さんと闘った記憶を呼び起こした。
父さんは「絶対に、賭け麻雀をしてはダメだ!」と言っていた。けれど、こういう会なら許してくれるんじゃないかな?
……と、勝手な言い訳をして、毬香と対面に座った。
「じゃあ、行くよ。東南一本勝負!! 勝者には、相手に言うことを聞かす権……オーケー?」
「オーケー。最初の親は宅人(たくと)に譲るわ!」
「了解致しました。連荘は無しで良い?」
「良いワ!!」
僕は十四枚の牌を並べ、それを吟味した。
◉◎◉
東一局(親)
(ドラ表示牌)一萬 (ドラ)二萬
二萬、三萬、五萬、八萬、八萬、二筒、三筒、一索(鳥)、三索、東、東、南、北、白
思わず、うなった。
ドラが一枚ある。これを活かすとすると……鳴き三色かな?
東も自風、場風で行けるな……。
もちろん、鳴かずにアガれれば言うことを無しだけれど、初戦は……。
「そうだなぁ」
僕は、南を河に捨てた。
次、毬香のツモ。
毬香は、危うい手つきで牌を山から取り、ツモ牌をにらんだ後、中に移動させ、西を捨てた。
僕のツモ。
白……かぁ。うむ。北を捨てる。
次、また毬香のツモ。
少し緊張がほぐれた様子で、牌を取る……。
今度はそのまま捨てた。西。
さぁ、僕のツモだ。
発……。悩んで、捨てた。
毬香のツモ。
真剣にツモ牌をにらむ。
「もぉ! やんなっちゃう!!」
「ハハ、どうしたの?」
毬香が河に捨てたのは、また西だった……。
「フフ。そういうこともあるって……」
これは、相当、運が悪いね。笑っちゃ可哀想だけど、こういう所が面白い所なんだよなぁ。
さて、お次の牌は……?
一萬。ラッキー!!
一順子、完成。お後は、鳴いてでも出来ればいいんだけれど……。
捨て牌は、五萬。
毬香のツモ。
一筒(銅鑼)を捨てる。
すかさず、「チー!」。
ポーカーフェイスで、一筒(銅鑼)、二筒、三筒を右横に並べる。
「悪いね、勝負がかかってるから……手加減は無しだよ」
「くぅ……」
代わりに、八萬を河に捨てた。
また、毬香がツモ。二索を捨てた。
「チー!!」
今度は、右に一索(鳥)、二索、三索、と並べた。
三色同順、完成。これで、もうほぼ勝ちだろう。
残りの八萬を捨てる。
白と東のシャンポン待ち!
僕は息を殺して、毬香の捨て牌を待った。
七索。
そして……。
「ツモ!」
「ぐわぁ……本当に!!」
毬香が、むちゃくちゃ悔しそうな声を出す。
一萬、二萬、三萬、一筒(銅鑼)[チー]、二筒、三筒、一索(鳥)、二索[チー]、三索、東、東、東、白、白
「初戦、頂きました。鳴きサンショク、鳴きチャンタ、自風、場風、ドラ一で五翻。満貫です!」
「悔しぃ!!」
◉◎◉
東二局(子)
(ドラ表示牌)二筒 (ドラ)三筒
毬香は、並んだ十四枚の牌をまたまた真剣にらみ付ける。
僕は、自分の配牌を見て、また、うなりかけた。
二萬、九萬、一筒(銅鑼)、一筒(銅鑼)、二筒、三筒、四筒、五筒、七筒、八筒、九筒、九索、中
毬香の捨て牌は、九筒。
あ、鳴きたい。でも……中途半端だしなぁ……。
見送るかぁ。
さあ、僕のツモは……?
四索。うぅん、竹かぁ。一応、置いとくか。そんな予感がする……。
九萬を捨てる。
毬香は東を捨てた。スルー。
僕は、五索を引いた。
またまた……うぅん。
二萬を河に捨てた。
毬香、また、東。
僕、一筒(銅鑼)。
中を捨てる。
「どう、降参する気になってきた? これで、東場は終わりだよ」
「まさかでしょう……」
毬香の闘志はまだ消えていない。僕は惚れ直しそうになった。
毬香の順。
西を捨てた。また、スルー。
僕はついに、三索を引いた!! よっしゃぁ!
九索を河に横向きに捨てて、
「リーチ!」
「ギャ!! またぁ! 手加減してよぉ」
「ふふん。真剣勝負です」
そして、毬香の捨て牌は、発。
僕のツモ牌は西……。
そして。
毬香の捨て牌が、六筒。
「ロン!!」
「げええ……」
一筒(銅鑼)、一筒(銅鑼)、一筒(銅鑼)、二筒、三筒、四筒、五筒、六筒、七筒、八筒、九筒、三索、四索、五索
「リーチ、一気通貫、平和、ドラ一で五翻。満貫でぇす」
「もう、やだぁ」
「まだやる?」
「もちのろんよ!」
◉◎◉
南一局(親)
(ドラ表示牌)一萬 (ドラ)二萬
一萬、九萬、一筒(銅鑼)、二筒、七筒、五索、六索、七索、発、発、発、白、白、中
「こ、これは……」
「なに?」
「うぅん、何でもない!」
さぁ、どうする?
九萬を河に捨てた。
毬香は読めない表情で、五索を捨てた。
スルーか……。
ツモ牌は……五筒。
一萬を捨てた。
毬香は西を捨てた。
僕の順……中。
祈るような気持ちで、五筒を河に捨てた。
毬香がかなり悩んだ顔で白を切った。
「ポン!」
白の刻子を右に置く。
二人とも無言。黙って、七筒を……捨てる。
毬香の捨て牌は発。カンしたいけれど……隠しておくか?
僕の牌は、一筒。緊張で指が震えそうだ。
二筒を捨てた。
一筒(銅鑼)、一筒(銅鑼)、五索、六索、七索、発、発、発、白、白、白[ポン]、中、中
そして……。
毬香が静かに言った。
「ツモ」
倒された牌は、
一萬、一萬、二萬、二萬、三萬、三萬、五萬、五萬、五萬、七萬、八萬、九萬、南、南
「混一色、一盃口、門前清自摸和、ドラ二。跳満貫ですっ」
「ウッソーーッ!!」
「あはは、あたしの勝ちぃ。やったね、初勝利!」
◉◎◉
そう言って、毬香は、ピョコピョコと跳ねた。
「参りました……ぐうの音も出ません」
毬香は「あはは」と笑った。
「で、どうするの? まだやるつもり?」
毬香が神妙な顔で言った。
「もういいよ。おっしゃる事を聞きます……」
僕は両手を合わせて毬香を拝んだ。
「では……」
毬香は、僕のすぐそばに来て、僕の耳元でささやいた。
「これからも仲良くしてください」
返事は……「ホントに参りました」……だった。
[了]
『毬香とツモ!』(続編)
「と言う訳で、宅人とまた戦ってあげる!」
二人で買った麻雀マットを、コタツの上に広げていると、毬香が僕を指差して言った。
「もう準備してますけれど……」
「まぁ、そうですけれど。今回、私がお勧めしますのは、勝者に『ポッキーいちご味』を提供する。いかがかしら?」
そう宣言した毬香が、麻雀マットの上の僕の下家に『ポッキーいちご味』を神妙な顔つきで静かに置いた。
『ポッキーいちご味』は、二袋入りで、ピンク色のいちごのイラストが目にまぶしい。
僕はそのパッケージをそっと見つめた。
『ポッキーいちご味』は毬香の一番好きなお菓子だ。
僕も好きだけれど……本当は『極細』の方が好きなのは黙っておこう。
毬香は、彼女の上家の『ポッキーいちご味』に愛おしそうにウィンクをした後、牌山から自分の手牌を取り終え……、
「それじゃあ! 一局戦開始っ!!」
と言った。
◉◎◉
東一局(子)
(ドラ表示牌)一萬 (ドラ)二萬
一萬、一萬、二萬、三萬、四萬、五萬、六萬、七萬、八萬、九萬、九萬、九萬、東
ひっくり返りそうになった!
「どうかしたの?」
「や、や、何でも無いよ!」
僕は、固唾を飲んで、毬香の捨て牌を見守った。
毬香がつまらなそうに切った牌は……一萬……そんなアホな!!
そして、僕のツモ牌は……東。
「はぁ〜」
全身の力が抜けた。
息を殺して、一萬を河に捨てる。
「ダブルリーチ」
「えぇ! もぉ!?」
「はは……まぁね……」
「なんか、嬉しくなさそう?」
「そんなこと無いよぉ」
「別にいいけど……」
危うく、僕の髪が真っ白になるところだったけれど、仕方が無いのか……?
とにかく、ダブルリーチまでこぎつけた!
僕は頭の中で、待ち牌のシミュレーションを始めた。
九萬なら……一気通貫、混一色、ダブルリーチ、(門前ツモ)、ドラ一。
三萬、六萬なら……混一色、ダブルリーチ、(門前ツモ)、ドラ一。
東なら……一気通貫、混一色、ダブルリーチ、場風、(門前ツモ)、ドラ一。
なかなか、じゃないか?
そう、自分に言い聞かせて、毬香の捨て牌と自分のツモ牌を見続けた。
毬香の二巡目の捨て牌は、西だった。
見送り。
僕のツモ牌は……二索。
そのまま、捨てる。
毬香の捨て牌は、二萬だ。
あー、ドラだなぁ。欲しいけれど……和了れないし……。
見送り。
お次のツモ牌は白。
捨てる。
毬香の捨て牌、二索。
……そうして、長い時間が流れた。
毬香は苦戦している様だ。
僕に放銃しないよう、聴牌を狙っている様子。
僕は黙々と、ハズレのツモ牌を河に捨て続けた。
そして、最後のツモ牌をゆっくりと、牌山から取った。
息を殺してから、
「ツモ!!」
と叫んだ。
僕の取った牌は、東だった!
一萬、二萬、三萬、四萬、五萬、六萬、七萬、八萬、九萬、九萬、九萬、東、東、東
「海底、一気通貫、混一色、ダブルリーチ、場風、門前ツモ、ドラ一。十一翻で三倍満!」
「はあ!?」
◉◎◉
「と言う訳で、『ポッキーいちご味』を頂きます」
僕は、うやうやしく、ポッキーの箱を両手で顔の前に持ち上げた。
「あー、美味しそう」
「ぐうぅ、良いなぁ」
ポッキーのビニール袋を取り出す。
僕は二袋のうち、一袋を毬香に差し出した。
「え、ウソ、くれんの?」
「どうする、食べる〜?」
ビニール袋を振り振り、ニヤリと笑いかけた。
毬香は、悔しそうに唇を噛み締めた後、絞り出す様に、
「それは……止めておくワ」
と言った。
と言う訳で……毬香の『ポッキーいちご味』絶ちは、僕に一局戦で勝つまで続いた……。
[了]
執筆の狙い
以前に投稿させて頂きました『毬香とポン!』の改稿編と続編『毬香とツモ!』となります。
今回こそ……!!
まだまだ、ドラマ部分を掘り下げられんかった……。難しいです!
よろしくお願い致しますm(_ _)m