作家でごはん!鍛練場
(仮)

妄想

 妻に初めて会ったのは、見合いの席だった。
 私の勤める会社の部長の娘さんだった。見合いを勧められ、何となく承諾した。
「君なら、任せられそうなんだ」
 部長はそうおっしゃった。春の日だった。部長デスクの後ろのガラス窓から、柔らかい陽の光が部長の背中を照らしていた。まるで、後光のようだと思った……。
 見合いの席は、部長に連れて行ってもらったことがある、料亭の個室だった。
 妻は奥二重で眉の濃い女性だった。地味な色だが若々しい花柄の振り袖を着ていた。結い髪は黒く艶があった。
「ご趣味は?」
 私の問い掛けに、妻はただ、
「お料理です」
 と答えた。
 私は、
「それは素敵ですね」
 と言った。
 妻の膝の右隣に置かれていた桜色のハンドバッグ。その色が妙に目に染みた。その事だけを今でもよく覚えている。

 食卓に出された長い皿と醤油の小さい皿。その長い皿の上に乗っているものを見て、私は顔をしかめた。
「なんだ、これは……」
 私の声に、白い割烹着を着た妻は、
「はい。お口に合うとよろしいですわね……」
 と笑顔で答えた。
「玉子焼きは出すなと言っただろう!」
「でも、お義母様のものと違って、砂糖が入っていませんのよ」
「ふざけるな!」
 私は妻に向かって醤油の皿を投げた。
 皿は、妻の胸に当たった。中の醤油がこぼれて、妻の割烹着の胸元と床のフローリングに焦げ茶の跡を付けた。

 父がこの家を出て行ったのは、私が五歳の時だった。
 それからふさぎ込みがちだった母は女手一つで私を育て、私が十五歳の夜に自殺した。
 父が出て行く時に渡そうとしたメッセージカード。それが、母の遺体の左隣に置かれていた。何故か、それにだけは母の血が一滴も付いていなかった……。

 日曜日の公園。
 久しぶりに妻と来たそこは親子連れやカップルでにぎわっていた。
 私達は象の滑り台の横を抜け、桜色のベンチの前まで来た。
 私は、じっと、ベンチのペンキの桜色を見つめていた。
「思い出すね……」
「え、何をです……?」
 私の質問に妻は間抜けな返事をした。
「いや、だから……」
「はい」
「ああ、もういいよ」
「座りましょう」
 妻はいつもこうだ。分かっているのかいないのか? それとも、本当に忘れてしまっているのかもしれない。
 私にとって、あの桜色が大切だった様に、妻にとって、大切な物は何かあるのだろうか?
「いいわね」
 妻は目の前で子供の世話を焼いているカップルを見つめて、言った。
「何がだい?」
「子供」
 子供は父親らしき男性に叱られている。母親を困らせた様だ。
「そうか、僕はあまり欲しいとは思えないな」
「聞こえるわよ」
「君は僕が不能なのを知って言っているのか?」
「そう」
「そうか……」
「じゃあ、部長の子供をもらえば良い」
 その瞬間、平手打ちを喰らった。

 その夜。丑三つ時に妻は私の右隣の布団に入った。私はその妻の体を引き寄せ様とした。
 妻は固く、脇を閉めている。少し粘ってみたが、はやり、心を開いてくれそうにはなかった。
 私は諦めて、自分の掛け布団を元の位置に戻した。
 家の外ではカラスが鳴いていた。冬至の夜は長く、夜明けまでまだ四時間以上あった……。

妄想

執筆の狙い

作者 (仮)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

残念以外、何者でもない掌編です。千三百字足らずです。
よろしくお願い致します……。

(仮)拝

コメント

(仮)
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誤)少し粘ってみたが、はやり、心を開いてくれそうにはなかった。
正)少し粘ってみたが、やはり、心を開いてくれそうにはなかった。

そうげん
58-191-198-57f1.shg1.eonet.ne.jp

読みました。妻は部長の娘なのに、子供が居ないことの解決法として部長の子供を貰えばいいというのは、それは弟を貰うということ――子としてなのか、種馬としてなのかというよくわからない愚考に陥ってしまって、それがタイトルに挙げられている「妄想」の意味なのかなと考えられてました。考えすぎて間違った方向に志向が進んでしまったのでしょうか?

主人公の私が不能なのは、幼いころに別れてしまった両親の不仲を実感しているから、家庭に対して愛着を持てなくなっている、自分の子供を持つことに気持ちが踏み切れない、だからそれに伴う行為もまた出来なくなっているという意味でしょうか。精神的に去勢を受けてしまってるというような。

メッセージカードには何が書かれてあったんだろう。仲直りをするための言葉だったのか、言葉ではいがみあいになってしまうから、文字によって自分の気持ちを冷静に伝えようと試みたものなのか。あのとき伝えられなかった言葉、意志が十年も母親のなかにくすぶって、自殺という方法でこの世から去ってしまった。

主人公は救われない気持ちでその後の人生を過ごしていたんだろうかと感じました。だから部長の言葉を耳にした時には、救われるような気持ちになって、後光がさしているように感じられたのかなと思いました。すでに死んだような気持になっていたところに、春の日の明るさに蘇りの気持ちを感じていたというような。ふたたび生まれ直したようなそんな感覚を、主人公はいまのいままで大切に持ち続けていたのだろうか。

しかし妻は人並みの幸せとして、子の居る家庭を願っていた。夫婦の間に気持ちのすれ違いがあるのですね。

こうして流れを辿ってみるのですが、題名の「妄想」がどこにかかっているのかついにわかりませんでした。(仮)さまが自身の妄想を膨らませることによって、この小説が仕上がったという意味なのか、それとも、文中のどこかに妄想と題すべき根幹が表明されてあったのかどうか。

ひさしぶりにごはんに感想を書いたので、文字を打つ感覚がどことなくふわふわしてしまいました。では失礼いたします。

大丘 忍
p1793091-ipngn200202osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

不能の男が見合いして結婚するだろうかと思いました。私はそれは詐欺だと思いますがね。
また簡単に妻に暴力をふるう。私から見れば、こんな男は最も唾棄すべき男です。
以後のの展開で、これから脱却して正常な夫婦関係に戻っていくというストーリーなら別ですが。出来ればそこまで描いて欲しいですね。

貔貅がくる
n219100087087.nct9.ne.jp

タイトルから地の文から情景からセリフ、何一つ「ちゃんと書けているものがない」という。。

記載順序もねじれてて不親切だし、
作者が表現したいものもあんまりもやっとしてるし、
セリフはいちいちトンチキだし。

>「そうか、僕はあまり欲しいとは思えないな」 主人公
「聞こえるわよ」 妻
「君は僕が不能なのを知って言っているのか?」 主人公
「そう」 妻? それとも主人公?
「そうか……」 主人公だよなー……
「じゃあ、部長の子供をもらえば良い」 内容からすると主人公だけど……

↑ この最後のセリフ、「順番からすると妻の番」なんで違和感あるのと、言ってる内容が、、、
『何? 部長んとこはファザーファッカーで、ゆゆしい関係を断ち切るために、娘を部下に嫁がせた設定??』
って線も考えもしたんだけども、

『土台から気色悪いハナシだし…… その設定だとしても、こんな寸足らずのトンチキ文章じゃ、伝らねぇわー!』とムカついた。


こうまで不親切で無駄に思わせぶりでトンチキでペラい、スカな文章書いてアゲちゃうのは、書き手の「驕りと劣化」でしかないと思う。

若い子や、書きはじめの人があげてくる短いものは、そうじゃなくて、『読み手に伝えたい』って一所懸命さはあるものだから。

その「初心」忘れ果てると、もうダメですね。

貔貅がくる
n219100087087.nct9.ne.jp

>若い子や、書きはじめの人があげてくる短いものは、そうじゃなくて、『読み手に伝えたい』って一所懸命さはあるものだから。
>その「初心」忘れ果てると、もうダメですね。

↑ ってのは、「昨夜遅くにこの原稿をあけて見ちゃった時に思ったこと」だったんで、そのまま書いた。
いま見たら、上に2つ『ここのサイトあるある』なのが上がってるけど、、、
そういう類のじゃなくて、
「短編公募:中学生の部 優秀賞」的なやつを念頭においていた。

貔貅がくる
n219100087087.nct9.ne.jp

追記追記になって悪いけれども……


部長と部長娘(妻)は、普通に考えたら(普通に書かれてる短編なら)
「娘の側が超エレクトラコンプレックス。プラトニックな段階でなんとかしようと、部長が部下との見合いセッティング」
が妥当解釈……なんだとは思う……んだけども、、、

>「君なら、任せられそうなんだ」
> 部長はそうおっしゃった。

初手から逐一会話文が、唐突かつ日本語的に違和感ありすぎるヘンテコぶり! なせいで、


〔部長が 唐突に・怪しく・胡散臭く「含み」持ってて、
部下(主人公)と出来てんじゃないか? とさえ シミュレートさせる 奇異さ〕

なんです。


>「君なら、任せられそうなんだ」
> 部長はそうおっしゃった。

は、日本語 変。

貔貅がくる
n219100087087.nct9.ne.jp

1秒で思ったことを、書き手に「分かってもらえるように説明すること」が はなはだ面倒くさいし、
ここのサイトだと毎度「徒労に終わる」んで不快なんだけど・・


>「君なら、任せられそうなんだ」
> 部長はそうおっしゃった。

普通の感覚で書いている人なら、ここは、

< 部長は言った。
<「君になら、あの子を任せてもいいんじゃないかと……」

とかになるんじゃないか??

=【当然娘の側が主体でなり、娘に重きが置かれている言い方】。



>「君なら、任せられそうなんだ」
> 部長はそうおっしゃった。

だと、「君(主人公)の側が主になり・重きが置かれた言いよう」で、なおかつ台詞を受ける文が、含みある風で、はなはだ気色悪い。



って指摘、伝わりますかね??

(仮)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

まず、皆様。ご感想をありがとうございました。
貔貅がくる様の「初心」を忘れているとのお言葉にひやりとしました。
自分なりに裏事情や心情を考えていたのですが全て言葉足らずでした。
読み取っていただけた部分も多々ありますが、私の伝えたかった事は上手く伝わらなかった様です。
妻が父親を想い、私は妻を想う。私は亡くなった母と居なくなった父を想う。亡き女を想う。それが『妄想』の題名に繋がっておりました。
うーん、こう書いてみて、本当に言いたい事の一割も描けておりませんでした。
部長は娘の本心を知りつつ、女性に積極的になれない「私」を見合い相手に選んだ。しかし、娘は普通の家庭を夢見た……のだろうか?
こうやって自分で内容を説明出来ないといけないのは末期ですね……とほほ。
落ち着いたら、個別に御返事させて頂きたいと思います。とりあえず、御返事まで。

追伸:材料は良いのに、料理法が下手過ぎって言われた! 本当かな?

(仮)
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御返事の順番前後します。

大丘 忍様

ありがとうございます。
そうですね。「私」は完全に不能という訳ではなく、両親に関するトラウマと、妻が自分を想っていないコンプレックスから不能状態に陥っております。他の女性に気はありません。
しかし、暴力をふるう等、許せない言動も多々あります……。
大丘様のおっしゃる通り、解決まで描けたら良かったのですね。
まだまだ力不足ですが今後ともよろしくお願い申し上げます。

(仮)
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そうげん様

沢山考えてくださり、ありがとうございます!
私の描きたかった内容は上記の返信にほぼ書かせて頂きました。よろしくお願い致します。
部長の後光の件は、未来の妻の好きな男だという暗示でした。
お読みくださり、ありがとうございます。大変勉強になりました。またスレッドの方にも行かせて下さいね。

(仮)
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貔貅がくる様

>こうまで不親切で無駄に思わせぶりでトンチキでペラい、スカな文章書いてアゲちゃうのは、書き手の「驕りと劣化」でしかないと思う。

このお言葉にぐうの音も出ません。

そもそも、私が妻を好きであり、妻が私をほぼ何とも想っていない……と、少なくとも私はそう感じている。
そこがぼけてしまって、書き手の中で妻の本心まで迫り切れなかったというのが実情です。
ぼけぼけの原稿を読んでくださり、ありがとうございます。
熱いお言葉の数々に感謝しております。今回はありがとうございます。

(仮)
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悲しい人達ばかり書いてしまいました。
残念と言うか最低と言うか……難しいです。人心って。とほほ。

(仮)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

メッセージカードに関しての説明を忘れていました。
メッセージカードは私からの物で、『いつまでもぼくのお父さんでいてね。』と書かれていました。
こう書くだけでも、練り込みが甘い事を痛感せざるを得ません。

偏差値45
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一言で感想を言えば、「ちぐはぐ」ということですね。

>「ふざけるな!」
私は妻に向かって醤油の皿を投げた。

>「じゃあ、部長の子供をもらえば良い」
その瞬間、平手打ちを喰らった。

>心を開いてくれそうにはなかった。
>私は諦めて、自分の掛け布団を元の位置に戻した。

妻が出した料理の拒絶。夫の提案を拒絶。最後は断絶ですね。
つまり、「ちぐはぐ」ですね。

で、個人的には、どこが面白いのか分かりませんでしたね。
それから文章上・場面の変更・時間の経過という点では滑らかさがないので、
工夫が必要のように思えます。

(仮)
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偏差値45様

ありがとうございます。お久し振りです。

「ちぐはぐ」……ですか……。
結婚って、難しいですね。もちろん。小説も(苦笑)

(仮)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

誤)「そうか……」
  「じゃあ、部長の子供をもらえば良い」

正)「そうか……じゃあ、部長の子供をもらえば良い」

↑やっと気が付きました!
やはり、らしくない視点で書くべきじゃないですね……あはは(涙)

かじリン坊
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上司に『君なら、任せられそう』だと言わせる人望があり、それに対して『そうおっしゃった』と主人公の人柄がわかる見合いの場面があり、料理が趣味だというコメントに続いて食卓の回想シーン。どんな料理が登場するのかと思えば玉子焼きで「玉子焼きは出すなと言っただろう!」「でも、お義母様のものと違って、砂糖が入っていませんのよ」「ふざけるな!」と続き、何で?と疑問がわいて、続いて『母は女手一つで私を育て、私が十五歳の夜に自殺した』という過去を知る。母親が十五歳で亡くなっているのならなぜこの妻が「でも、お義母様のものと違って、砂糖が入っていませんのよ」って言えるのかな?って思ったし、妻の胸に当たった。中の醤油がこぼれて、妻の割烹着の胸元と床のフローリングに焦げ茶の跡を付けたの場面は、母の遺体の左隣に置かれていた。何故か、それにだけは母の血が一滴も付いていなかった……。の飛び血の場面と重なる感じもして面白いなぁとは思うのですが、ちょっと説明不足の感があり勿体ないし、桜色も何を意味しているのか?意味ありげなのに上手く使われていない感じでした。次の作品を読んでみたいと思いました。

(仮)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

かじリン坊様

お久し振りです。
不出来な掌編をお読み下さりありがとうございます。

>次の作品を読んでみたいと思いました。
ありがとうございます、頑張ります!

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