作家でごはん!鍛練場
黒木

憧れの場所、鬱りゆく

社会人って、大人って、もっと格好良くて憧れで、キラキラしているものだと思っていた。
私、秋咲柚子(あきさきゆず)は、高校を卒業して、憧れの旅館業に就職した。
友達には、

「柚子なら絶対ステキな女将さんになれるよ!」

「ありがとう!」

私の特技は、笑顔だ。
座右の銘は、笑う門には福来る。
笑っていれば自然と周りに人が寄ってくるし、友達もできれば、辛い事も乗り越えられる。女の武器は涙と言うけれど、私は断然笑顔だと思っている。
私は岐阜県の田舎の方で育ってきたので、ずっと都会に憧れていた。
テレビって理不尽だと思う。
キラキラしたアクセサリーや服、美味しそうな料理番組は、大体東京とか大阪とか都会の特集ばっかりで、私のいる岐阜県って何かいいところあるの?って思う。
就職先は、断然都会が良かった。こんな田舎から出て、私は笑顔が素敵って言われる立派な女将さんになるんだ。
両親は猛反対した。両親どころじゃない。おばあちゃんもおじいちゃんも、反対した。

「旅館なら岐阜県もあるやら!高山とか!下呂とか!有名やん温泉とか!わざわざ東京に行くことないやん」

岐阜県生まれ岐阜育ち。ずっと田畑に囲まれて過ごしてきた両親祖父祖母は、都会に対して悪いイメージしかないみたいだった。
悪い人に騙されるよ。
田舎と違って都会は何もかも高い。
都会人は冷たい。
一人娘の私が外に出て行くのが嫌なのはわかるけれど、自分の人生は自分で決めたい。

私の事を唯一応援してくれたのは、108歳のひいおばあちゃんだけだった。

「とうきょぉに、行くんか?そりゃあ、えらい大変やろうけど、がんばりんさい。たまにはぁ、顔見せておくれよ」

ひいおばあちゃんだけは、すんなりと受け入れて応援してくれた。

「うん!絶対立派な女将さんになって帰ってくるからね!」

寝たきりのひいおばあちゃんの手を両手で包んで、私はにっこりと微笑んで頷いた。

「私の人生は、私が決めるから!」

頑なに私は両親の反対を無視して、祖父母には「大丈夫」と言い続け、ついに東京の旅館に面接に行き、見事就職が決まった。

お気に入りの緑色と黒のチェックのスーツケースをゴロゴロ転がし新幹線で東京駅へ。
まず、東京駅、広すぎて何が何だかよくわからない。西口?東口?どっちが西でどっちが東なんや?全然わからんのやけど!
私のいた地域では、そもそも駅がないので隣町の駅まで1時間車で駅まで送ってもらわないといけない。
それ故になかなか電車にも乗る機会がないし、新幹線なんて、高校二年生の時に、初めて修学旅行で沖縄に行った時以来乗ってない。

先方に着きましたとメールを送ると、少しして迎えに来てくれた。

「これから寮に案内しますね」
「はい!」

どうやら、私の他に大学生のお姉さんが一人、もう寮についているらしい。
今年入った新入社員は、私とその大学生のお姉さんの二人だと聞いた。

「おぉ〜!」

寮は、想像していたより大きくて驚いた。東京らしいお洒落な白い女性社員寮。
一人暮らしが初めての私の心は更に踊った。
流石東京!こんなに綺麗なところに住めるなんて!
早速部屋の鍵をもらって部屋に。六畳一間のこの部屋が、今日から私のお城なんだ!
布団とテレビ、タンスなどは揃っていてあらかじめ送っていた段ボールの山が部屋に積まれていた。

動機となる大学生のお姉さんは、達川春香(たちかわはるか)さん。
ダーク系の茶髪のショートヘアに、白いシャツ、パンツスタイルの似合う笑顔が素敵で優しい雰囲気が全身から醸し出された人だった。

「よろしくね〜」

東京で大学生を卒業した春香さんは、田舎の高校を卒業してきたばかりの私からしたら、大人っぽくて綺麗でまるで別世界の人だった。

「は、はい!よろしくお願いします!」

まるで先輩に接するように深々と頭を下げた。これから私はこの人と働くんだ。

次にこれからお世話になる先輩方に挨拶に行った。先輩方も、ピシッと着物を着て髪の毛を後ろでキュッと結って立ち居振る舞いも全てが洗練されて美しかった。
女将さんに挨拶に行くことになり、春香さんと二人で挨拶に行った。
女将さんは、年は70歳くらいで薄紫色の無地の着物を着ていた。
先輩方を見て、こんな素敵な先輩になれるかなぁとか思ってきた私は、頭が真っ白になった。
凛とそこに立つ女将さんは、そこにいるだけで華があるようだった。

「先に言っておきますが、旅館業は、華やかでキラキラしてきて素敵だなぁ...なーんて思っているかもしれませんが、実際は全くそんな事はありません」

女将の言葉は、重く、私の心の真ん中をピンと張った矢で撃ち抜いた。

「旅館業は、泥臭い仕事です。お客様の為に走り回る事もありますし、裏でお客様の為に自分の出来る事全てを尽くして最高のおもてなしをする。甘い考えは捨てて下さいね。私は厳しいですよ。覚悟はいいですか?」

「はい!」

「はい!」

ごくりと喉がなった。
覚悟はいいですか?相当キツイのだろう。私は女将の言葉通り覚悟を決めた。

「柚子、最近どう?ちゃんとご飯食べとる?」

「うん、食べとるよ!」

「仕事は?楽しい?」

「うん!楽しいよ!」

私は、ダンボールがまだ積まれている部屋で無表情に携帯に話しかけていた。

「そっか、よかった。でも、あんまり無理しちゃあかんよ?」

「うん!全然大丈夫やって!あ、そろそろ休憩時間終わるから切るわ!」

「柚子、やっぱりなんか無理してな」

「じゃあね!」

ブツと電話を切って、私は重い体を引きずって仕事に向かう。
キラキラした仕事、ニコニコした先輩、華やかな職場...その現状を維持する為にどれだけ努力しないといけないか、何をしても何をされても笑顔でいる事の大変さ。
毎日接客業は何が起きるかわからない、お客様に何を言われても対応できる臨機応変さ。

私は自分の部屋を目線だけで振り返る。

ろくに掃除されていないダンボールだらけの部屋。
疲れ切って部屋に帰り、朝は早いからすぐ就寝。
休みの日は一日寝て過ごす毎日。

私のお城ではなくて、仕事場と寝床を行ったり来たりするだけの部屋だった。

旅館に着いて、先輩方に貼り付けた笑顔で挨拶。もう笑顔は女将さんに仕込まれてすぐに作れるようになった。
そういえば心から笑ったのはいつだっただろうか。

玄関でお客様がスーツケースを持って立っていた。

「ようこそいらっしゃいました!お客様、お荷物お持ち致します。あちらにかけてお待ちください」

大学生のお姉さんは、過酷な仕事環境にとっくに辞めていた。

憧れの場所、鬱りゆく

執筆の狙い

作者 黒木
softbank060150145045.bbtec.net

理想より現実を書きたくて書きました。少しだけ体験談の入っている作品です。でもやっぱりラストは希望を持たせて終わった方がいいのかなと思い、他の方のご意見を聞きたくて投稿させていただきました。

コメント

貔貅がくる
n219100087061.nct9.ne.jp

ええと、まず「日本旅館の女将 =旦那さん(社長)の奥さん」だから。。


そんで、「岐阜から東京へ出て、旅館に住み込み設定」なんだけども、
東京都内在住者&在勤者が「旅館に泊まる」ってなると、箱根や日光に行く感じで、そこだったら大規模旅館が普通にありますね。
東京都内だと『料亭』の方がイメージしやすいかなー。(二宮和也と八千草薫でドラマにもなってた)



>玄関でお客様がスーツケースを持って立っていた。
>「ようこそいらっしゃいました!お客様、お荷物お持ち致します。あちらにかけてお待ちください」

↑ 日本旅館だと、玄関は下足番?の仕事場。
ホテルにポーターがいるのと同じで、「職分」がしっかりしてる世界。


主人公の「実際の仕事場面」が、全然まったく「何もない」状態なんだけど、
旅館でバイトしたことあるなら、「そこ」はサボらず描写しましょう??



拙宅の子供が、春休みに 城崎温泉だー有馬温泉だー の有名旅館でガッツリ住み込みバイトしてたんだけども、
カニカニカニ・・高級カニ懐石と、牛牛牛・・但馬牛をひたすらお部屋に運びまくるお仕事で、
お料理を出しては下げ、出しては下げ。
大学生だのに童顔で若見えしまくるもんだから、16歳ぐらいに思われてて、「若いのに偉いわねー。これでアイスクリームでも食べてね」と、ポチ袋もらいまくったそうな。

TG
softbank126062161032.bbtec.net

東京の旅館というのは珍しいですね。
高級旅館という設定なら行けそうな気がします。
だとしたら、中国語や英語が堪能な中居がいてもおかしくない。
今はコロナであれですが、東京の旅館であれば海外の富裕層が顧客のターゲットになると思います。
そうした旅館が和の心、おもてなしの心をどのように展開しているのか。
現実を書きたいのであれば、徹底的に取材調査して、旅館業の裏側まで見せてほしいと思います。
後、改行を入れすぎていて、読みやすいのですがメールを読んでいるみたいで気になります。
小説を書きたいのであれば直していったほうがよいかも。
ひねりや落ちなども入れていくと小説らしくなります。こうした小編では特に「転」の描き方が大切かと。
わたしも全体的に描写が不足していると思いました。
いろいろ注文をつけましたが、ここは鍛錬場なのでご無礼お許しください。
では、頑張ってください。

黒木
M014011009161.v4.enabler.ne.jp

貔貅がくる様

コメントありがとうございます。

丁寧にありがとうございます。とても嬉しかったです。
勉強になります、仕事場面描写、ですね。心情の動きみたいなのを書きたかったので、でも確かにどれだけ辛い思いをしたかお仕事内容書いた方がよかったですね。ありがとうございます。勉強になります。

そうなんですねw私も若いのでよく言われました。ポチ袋はすごいです!
お子様は、接客も、凄くよかったからもらえてたんだと思います!

全然です。むしろお時間を割いていただきありがとうございます。
厳しいとは思いません。がんばります。頑張ります!

黒木
M014011009161.v4.enabler.ne.jp

TG様

コメントありがとうございます。

成る程、旅館の裏側や、別の中居などのキャラクター、やはり仕事している描写、現実をもっと掘り下げて書くべきということですね、ありがとうございます。
確かに、中身を肉付けしていき、そこにリアルを詰め込むという感じがよさそうですね

全く無礼ではありません!むしろお時間を割いていただきありがとうございます!
頑張ります!

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