作家でごはん!鍛練場
北条かおる

磨崖仏(36枚)

 広い庭園のあちこちに、紅梅と白梅がふんだんに咲き競っている。今年の梅は、どの枝も気が早い。
 そんな春浅い時期だから、氷が張っているかのように桶の水が冷たかった。手が痺れて、平七は顔をしかめた。凍えた両手に、しばしば白い息を吐きかける。
(なあに、食うに困って京の小路をうろついていたことを思えば)
 せっかくありついた奉公先を失うのが怖い。
 但馬・三根村の貧農の次男に生まれついた平七は、十三で京の石工の徒弟に出た。後から思えば、口減らしで売られたようなものだった。
 性に合った仕事で修行も苦ではなかったが、二十五の年に、些細なことがきっかけで親方と殴り合って出奔した。
 いささか鑿の腕前に自信はあったが、雇ってくれる工房もなく、切羽詰まって六条市場あたりをさ迷い、
(ちくしょう、盗人にでも堕ちるしかないか)
 と腹をくくっていたところを、たまたま幸運に恵まれて、少納言藤原信西の館の舎人に声をかけられた。雑色ならば、その舎人の推挙で十分だった。
 そうして信西家の雑色となって三年。平七も三十になっている。
 浮浪の暮らしに逆戻りは御免だった。
 平七は、せっせと働いた。
 今日は雑色頭の指示で、脇門のうちで、藁束を濡らして車を洗っている。この屋敷の奥方・紀伊ノ局様の糸毛車だ。
 待賢門院に仕え、そのお子である雅仁親王(現・後白河上皇)の乳母だったお人で、昨日から宿下がりで姉小路西洞院のお屋敷に戻って来ている。
 戻った際には、家人の妻女を集めて和歌の会を催すのが慣例になっている。
 今日も朝からそれだった。
「おい、平七。よう見ろ。まだ車輪の泥が落ちきっておらんぞ」
「はい」
 点検に来た雑色頭は何も手伝おうとしない。いつものことだ。
 やがて表門のほうに、女房ものの牛車がひしめき合い始めた。空気も華やかになり、急に賑やかになった。
 歌会がおひらきになったらしい。
「平七。いったん手を止めろ。お客様方の目の邪魔だ。小屋に引っ込んでおれ」
「はい」
 ほとんどの女房方は、それぞれの牛車で帰るが、平七は、歩いて表門を出ようとする二人連れに目を奪われた。
 淡い桜色の着物の若い妻女で、連れの水色の着物の女はさらに若そうだ。二人とも土産に持たされたらしい風呂敷包みを胸に抱えている。
 平七は衝撃を受けた。この世のものならぬ天女が降臨したとすれば、ああいうお人ではないか。桜色のほうの顔が目に焼きついた。これまで見たこともない美しさだった。
 魅入られたかのように、平七は、ふらふらと脇門から出た。雑色頭が何やら叫んでいたようだが、耳に入っていなかった。
 桜色と水色の着物が先を歩いている。一体、誰の女房か。平七は尾行した。
 西へ向かっている。野々木神社の鳥居前を過ぎ、堀川二条にある屋敷に二人とも入って行った。
 塀はない。屋敷は垣根で囲繞されていた。
 しばらく外に立って様子を窺っていたが、二人が再び出て来ることはなかった。
 平七は、雑色頭の目を盗んでは堀川二条に行った。屋敷の周りをうろつき、手間をかけて調べた。桂木成道の妻・皐月と、桂木の年の離れた妹・香也乃だとわかった。
 皐月はまだ二十一歳らしい。
 それから三度ばかり、垣根の外から遠目に皐月を見たことがある。
 同じ信西屋敷に勤めていながら、一度も桂木成道の顔を見たことがない。代々の奥勤めの郎党だそうだ。
  
 皐月の面影は夜ごとの夢に現れて、平七を悩ませた。
 否、夢ではない。夢うつつだった。
 毎朝、眠れぬ目を赧くしていた。
 初めは、
(皐月様の石像を彫ってみたい)
 という石工としての願いだった。それが、いつしか生々しい懸想に変わった。
 中庭の掃き掃除も雑色の仕事だ。
 池泉のほとりに、白い石が配置してある。箒を使っていて、平七は、
(やはりこれだ。この石しかない)
 すべすべした表面を撫でるたびに、連夜の寝不足の疲れが吹き飛んだ。
 二尺四方ほどの大理石だ。院ノ庁の公家の誰やらから贈られたものと聞いた。
 あの奥方の顔を彫ってみたい。
 皐月の顔を彫るには、この石の他には考えられなかった。
 ある時、ふと――。
 誘惑に勝てなくなった。正気を失ってもいたようだ。平七は、その大理石に鑿を立てた。
 彫り始めると無我夢中になった。
 大理石は鑿で削りやすいし、磨きをかければ光沢も出る。冷たいが、肌触りもいい。
 きっと皐月様に生き写しの石像が彫れる。平七は疑わなかった。鼻息を荒くして鑿を使った。
 ところが――。
「うわっ、こやつ。な、何をしておるかっ」
 雑色頭に、いきなり後ろから殴られた。それでハッと我に返った。
 飛んだ烏帽子が池に落ちた。
「たわけめっ。このお屋敷のうちで御あるじの所有でないものはない。あえてお庭に置かれた大理石ぞ。そ、それを傷つけるとは、首刎ねられるを覚悟の上かっ。平七っ」
 散々に腰を蹴られ、顔を地面に押しつけられた。
「お、お許しを」
 平七は、腰を押さえて逃げた。右に左に、雑色頭の乱暴な手をかいくぐる。そうして、血に濡れた顔で庭中門を抜けて、表門まで走った。
 車寄せに網代車が停まっていて、ちょうど内裏から下がった信西入道が下り立ったところだった。
 警固の武士と、牛車を引く白丁姿の車舎人六人が、とっさに立ちはだかった。
 信西は五十を過ぎた老人だ。慌てて地面に平伏した雑色二人に、もの問いたげな目をやった。
 主を出迎えていた老家司が、
「何事ぞ。盗人か」
 と咎めた。
「申し訳ございません。お庭の石に不埒なことを致しましたので、懲らしめておりました」
「ふむ。不埒とは」
「大事な大理石に、鑿で悪さをしておりました」
「削っていたのか。その下郎は石工か。おまえの手の者か」
「はい。先頃より縁あって、雑色として飼うております」
 雑色頭も、ともに地面に額をこすりつけた。
「これよ」
 信西が老家司に声をかけた。
「本日は朝廷で喜ばしきことが議された。かような吉日に、わが館うちで血を見るなかれ」
 信西入道の鶴の一声で、平七の罪は問われずに済んだ。
     
 喜ばしいことというのは改元だった。この保元四年(一一五九年)の四月をもって、年号は平治元年になった。
 庭の桜が葉桜に変わっても、平七の慕情は冷めなかった。中庭の大理石を見るたびに、胸が締めつけられた。
 一度だけ桂木成道の姿を見た。家人が「桂木様」と呼んだので、それと知った。きびきびとした足取りで歩く男だった。平七より五つ六つ上のように見えた。冷たそうな横顔だったが、自信をもって奉公していることが雰囲気にあらわれていた。
 夜半、雑色小屋で横になっても、目が冴えて眠れない。
(桂木成道……。あの男が皐月様の体を抱いて寝ているのか)
 ふくよかで真っ白に違いない乳房をまさぐっているのか。着物の裾を分けて、ぬくもりのある太腿の間にも手を差し入れているのか。口も吸うているのか。
 夫の顔や姿を知ったことで、余計に口惜しさが募った。平七は、灼けるような嫉妬に苛まれた。
(くそっ、雑色の身分ではどうにもならんわい。こ、こうなったら――)
 全身の血が逆流する思いだった。
 暴力で思いを遂げようか。拉致して、どこかの村に逃げようか。熱い想いが刺々しく、過激になってきている。
 皐月様も生身の女だ。強く迫れば、案外、おとなしくついてきてくれるのではあるまいか。無理やりにでも一旦抱いてしまえば、わしに唯々諾々と従ってくれるのではないか。そんな気がしないでもない。
 肘枕の腕によだれが垂れていることにも、平七は気がついていなかった。
     
 保元の乱から三年になる。その時の戦後処理で手腕を発揮して以来、信西入道の門には、ことあるごとに貴顕の牛車が集まって来るようになった。
 身分は決して高くない少納言ながら、院政を開始した後白河上皇を後ろ盾にして、政務に辣腕をふるった。
 また平清盛を厚遇して、平家の武力、軍事力を、これ見よがしに背景にしているのも強味だった。
 しかし、水面下では――。
 旧来の院の近臣や公卿の反感を買い、信西とその一門は憎まれた。
 ただ、表立って信西に歯向かうのは、威を張る平家に盾突くのと同じだ。大臣、公卿であっても、おのれの首を絞めることになる。
 暗い反発は、深い地中で醸されていた。
    
 信西入道がますます権力を強めてきた今年も、庭の萩が枯れ、熟柿が落ちて、十一月の末となった。
 京は日暮れ頃から粉雪がちらついている。
 六人が寝る雑色小屋の中は冷え込んだ。
「たまらねえな。おい、もう少し薪をくべろや。頭にばれねえように、こっそりとだぜ」
「こう寒くちゃ寝られやしねえ」
「手も足も氷みてえだよ」
 横になっていた男どもが、再び起きて囲炉裏に集まった。三、四本の薪がくべられる。火がやや大きくなった。
「静かだなあ」
「雪のせいだろうよ」
「明日から、もう師走だ。この底冷えでは何もあるまいよ。おそらく今年は、このまま何事もなく終わろう。公卿衆も寒さで身がすくんでおろうからの」
「おい、何のことだ」
「なんだ、おまえら町の噂を聞いておらんのか」
 男は、雑色の中では兎の耳で通っていた。
「だから何をよ」
「年内に、六波羅の清盛公が熊野へ参詣に行かれる。その留守を狙って、不平不満の公卿衆が事を起こすんじゃないかと、もっぱら雀の噂だ」
 ふうん。一人背を向けて横になっている平七には、どうでもよい噂話だった。
(この冷え込みの中、皐月様はどうしているか。もし今宵、桂木様が非番だとしたら、さぞかし今頃は――)
 温かい布団の中で、裸になって抱き合っているのではないか。重なり合って、上になり下になり、あられもなく身悶えしているのではないか。
 寒ければ寒いで、あらぬ妄念に悩まされた。平七は歯ぎしりして、悶々と身をよじった。
    
 平清盛の一行は、十二月四日に京を発った。
 それから、わずかに五日後――。
 九日の夜半である。
 うとうとしていた平七は、甲冑の将兵の群れがガシャガシャと走り回る音を耳にして身を起こした。他の雑色どもも跳ね起きた。
「な、何だ。なんの騒ぎだ」
 一人が外に出て様子を窺った。その隙間から平七も見た。
 大勢の荒々しい叫び声が飛び交い、無数の松明が投げ込まれていた。
 たちまち屋敷内は蜂の巣をつついたような混乱ぶりになった。弦鳴と、矢うなりの中を、夜詰めの家人ばかりか、侍女たちも裾を乱して逃げ惑った。おろおろと庭を右往左往する女たちは、ほとんどが裸足だった。
 何が起こったのか、とっさには理解できなかった。ただ、ここにいては危ない、と肌で感じた。
(そ、そうか。清盛公の留守を狙って、と言っていたのはこのことか)
 大混乱の中で、平七は桂木成道を見かけた。さすがに引き攣った顔つきで、怒号を発していた。
 ともかく逃げることだ。安全な場所へ身を隠すことだ。後のことは桂木たち家人が何とかするだろう。
 平七は築土に飛びつき、乗り越えて外に飛び出した。
 どこへ、という当てはない。足は自然と堀川二条に向いていた。野々木神社の前も駆け抜けた。
(千載一遇の好機だ)
 と走りながら思った。
 桂木成道は館にいた。ということは、今ならば――。
 途中で何度か甲冑に武者烏帽子の集団に出くわした。騎馬で急ぐ武士も何人かいた。そのたびに平七は身を隠した。みな信西入道の館に向かっているようだ。
 桂木の屋敷に着いた。郎党や家来に囲まれると厄介だ。郎党たちの声のする表門を避け、垣根を越えて侵入した。
 桂木の屋敷では、外の気配を怪しんではいるものの、まだ異変を知らずにいるようだった。
 平七は当たりをつけて、庭伝いに奥へ忍んで行った。
 いつになく夜分に道が騒がしいので不安にかられていたのか。庭に面した縁側に、折よく皐月と義妹が出ていた。
「もし。ごめん下さいまし」
 なるべく落ち着いた声で呼びかけたつもりだが、女二人は恐怖したようで、お互いをかばい合うように身を寄せ合って平七を凝視した。
「夜分に、このようなところまで入り込んで申し訳ございません。火急ゆえご無礼致します。桂木様のお言いつけで参りました」
 平七は、神妙に片膝をついて言った。
 今まさに信西様のお館が襲撃されている。信西様の郎党であるこの家も狙われています。まもなく軍勢が押し襲せて参りましょう。
 声を低めて、早口で状況を説明した。
「襲撃とはただ事ではありません。いったい何者の狼藉ですか」
「わかりませんが、御あるじを妬む者どもの謀叛であろうと桂木様は言っておられました。ともかく早う野々木神社の森へ」
「野々木神社へ? わが夫がそのように命じたのですか」
「さようで」
「それはおかしい。旦那様には五条に兄上がおられます。常々、非常の際には五条のお屋敷に避難するようにと言われています」
「そ、それは」
「そなた、名は何と申されます」
 妹の香也乃が鋭い声で訊いた。
「へ、平七と申しますが」
 勢いに押されて、迂闊にも、つい本名を言ってしまった。
「平七とやら。そなた、何者です。兄の使いとは真っ赤な偽りであろう。義姉上、この者は怪しゅうございます。早うこちらへ。――誰か、誰かいませぬか」
 大声を張り上げられて、平七は逆上した。草鞋のまま縁側に飛び上がった。皐月の腕をつかむ。
「あっ、何を――」
「義姉上っ」
 つかみかかる香也乃を平七は足蹴にした。二度、三度と腰を蹴ると、義妹は庭に転落した。蹲(つくばい)で頭を強打したらしく、倒れたまま動かなくなった。
「か、香也乃さんっ。きゃあっ」
「さ、皐月様っ。お願いでございます。わしと――わしと一緒に逃げて下されっ」
「おのれ、狼藉者っ」
 隙をついて皐月が懐剣を抜いた。
「慮外なっ。許しませぬっ」
「わしは皐月様を大事にする。おとなしゅうして下され。わしと来て下されっ」
 激しくもつれ合った。平七は懐剣をもぎ取った。だが、皐月の抵抗は止むことがない。いっそう暴れた。
「さ、皐月様っ。――ちいっ、しまった」
 ハッと気づくと、誤って懐剣が深々と皐月の胸に刺さっていた。
 着物の胸にじわじわと鮮血が滲んでくるのを見て、平七は狼狽した。
(どうすればよい? わしは、ど、どうすれば)
 あろうことか、おのれの手で珠玉を砕いてしまった。
(皐月様)
 一度だけ強く皐月の体を抱きすくめて、その甘い匂いを思いきり嗅ぎ、その場に横たえて平七は逃走した。
 西へ走って走って、嵯峨野の荒れた祠に身を隠した。
 こんな筈ではなかった。後悔した。時を戻せるものなら、と頬を熱く濡らした。
 よそ者を見る嵯峨野の里人の白い目が不安を掻き立てる。ここも長居は危険だ。食うものにも困った。
 平七は、また逃げた。
 やがて、保津川のほとりの石切場に、巧みに人足としてもぐり込んだ。肩の痛みに耐えて、毎日もっこを担いだ。仲間に訊かれても、決して前歴は明かさなかった。
 洛外にも少しずつ市中の噂話が聞こえてきた。
 やはり姉小路西洞院の信西の館は焼かれたそうだ。
(桂木成道様はどうなったか)
 おそらく斬り死にしたか、館とともに焼け死んだとしか考えられなかった。
 襲撃の翌日には、藤原俊憲、貞憲、成憲、脩憲といった信西の息子たちが、ことごとく捕縛されたらしい。
 だが、信西入道は、いち早く姿を晦ませていた。数名の下人を従えたのみで、所領のある大和を目指したようだ。
 だが、宇治の木幡峠あたりの山中で討手にかかって落命した、という風聞が伝わってきた。
 このたびの、いわば「信西憎しの乱」の首謀者は、右衛門督・権中納言藤原信頼卿で、実際に弓や刀で戦った武家の棟梁は源義朝だったそうだ。
 不遜な公卿らは、暴挙とも非常識とも思わなかったのか、二条天皇と後白河上皇を、御所内の別々の部屋に否応なしに押し込め参らせた。
 その上で、お手盛りの臨時の除目を開き、信頼などは、かねて念願の近衛大将に勝手に就任し、かつ大臣にもなった。
 源義朝には播磨一国が与えられた。
 ところが――。
 紀州まで行っていた清盛一行が、異変に驚いて十七日に帰京した。
 たちまち二条天皇と後白河上皇をお救いして、平家の本拠である六波羅にお迎えした。
 公卿らの謀叛は日を置かず鎮圧され、義朝ら源氏勢も壊滅状態となって京を落ちて行った――。
 これらの風聞は、おそらく事実だろうと、石を担ぎながら平七は思った。
         
    ※ ※ ※ ※ ※
      
 承安五年(一一七五年)の秋も、但馬・三根村の山中に、岩を刻む鑿の音が聞こえている。
 平治の騒乱から十六年が経った。
「平家に非ずんば人に非ず」
 清盛の義弟、大理卿・時忠がそう豪語したとかいうが、いま天下は、平家全盛の時代になって久しい。平清盛が私財を投じて、大輪田泊(現・神戸港)を築いたことで、宋からの巨船も寄港できるようになり、平家一門はますます潤い、栄えているという評判だ。
 だが、平七は世間の外にいた。
 結局、嫁は迎えず、あちらの石切場、こちらの石材加工場と、鑿一本で渡り歩いて来た。
(このまま生涯を終えるのか。どこかで行き倒れて、野晒しとなるのか。ま、それもよし)
 最期は自然の風葬でも、鳥葬でも構いはしない。そう悟りすましてもいた。
 寒々とした半生だったが、たった一つ、ぬくもりのある彩りがないこともない。
 信西様の館うちで、紀伊ノ局様の糸毛車を凍えた手で洗っていた時のことだ。あの日に見た皐月様は美しかった。それから毎晩のように思い描いた。夢想するたびに皐月様は神々しさを増していったものだ。
 一度だけ抱きすくめた折りには、その甘い匂いを肺いっぱいに吸い込んだこともある。
 しかし、同時に、誤って懐剣で刺した記憶と、その際の血の匂いも甦ってくる。
(放っておいてはいけない。供養しなければならない)
 その思いが募ってきた。責められている気がしてならなかった。
 故郷の村はずれの山中に、剥き出しの崖があるのを幼い頃から知っている。
 平七は五年前に帰郷した。
 すでに親はなかった。痩せた畑で炎天下に、鍬を持ったまま倒れていたと聞いた。
 畑は兄が継いでいるが、平七とは没交渉だ。もともと仲の良くない兄弟だった。
     
 二丈近い(約五メートル)崖は御影石だ。
 平七は、その崖に巨大な観音像を彫っている。崖の下に粗末な小屋を建てて住んだ。この五年間、豪雨の日も、雪の中でも、鑿を休めることはなかった。
 磨崖仏は、ほぼ完成している。残りは下方の裳裾の仕上げだけだ。
 顔は在りし日の皐月に生き写しになっている。
 麓の村には昔馴染みもいないではないが、狂人とみられてか、わざわざ訪ねて来る村人はいなかった。
   
 ある秋口の昼下がり――。
 湧き水を汲んで戻ってみると、行脚の途中らしい僧が立ち尽くして、平七の磨崖仏を仰いでいた。
 足を止めて、重い桶を下ろした。
 五十がらみの僧侶が振り向いて、破れかけた網代笠に手をやった。
「これを彫ったのはそなたですか」
「はい」
「この観音像には、なにやら人間味がある。誰ぞに似せて彫ったものでござるかな」
 じいっと平七を見て言った。
「い、いえ、別に」
「そなたの名は? 何と申される」
「さあ、忘れました。もともと、あったようには思いますが」
「ふうむ」
「お坊様は」
「覚円と名乗っておる。おう、水を汲みに行っておられたか。今日は残暑がきつい。その水を一杯、所望したいが」
「よろしゅうございます。むさい小屋ですが、どうぞ中へ」
「かたじけない」
 覚円坊は網代笠を取り、墨染の衣の埃を払って小屋に入った。
「狭うて、まるで獣の巣窟さながらでございましょう。じゃが、手足を伸ばして寝ることはできますので」
「なあに、贅沢を望めば切りがないでの。――かたじけない。いただく」
 覚円は水の入った木の器を受け取り、喉を鳴らして飲んだ。
「おお、冷たい水じゃ。何よりのご馳走。沢は近いかの」
「はい。涸れることなく清水が湧いております」
「それはよい。この器はなかなか味わい深いが、そなたが木を刳りぬいて?」
「さようでございます。ほんの手すさびで」
「かような山中に一人で暮らして、寂しゅうはないか」
「いえ。あの観音様が、ともにいて下さいますゆえ」
「なるほど。いくつになられる」
「確か四十六。こう世間から離れておりますと、おのれの年齢も日にちも、何もかも曖昧になりまする」
「さもあろう。ここにはいつ頃からじゃな」
「さあ、五年ほどになりましょうか」
「それまではどこに」
「浮き草でございました。まあ、あちこちと流されるままに」
「わしが出家したのは平治から永暦の頃じゃが、もう十六年になるのう。そなた、十六年前といえば三十か。どこにおられた」
「さあて、どこにおりましたか、にわかには」
「鄙に似ず、というとご無礼じゃが、そなた、どことのう都の匂いがせぬこともない。さぞかし都におられたこともあろう」
「…………」
「拙僧もな、平治の頃までは都にいた。武士であったが、落ち着かぬ世でのう。姉小路西洞院のさる公家屋敷の家人であった」
「姉小路――西洞院――」
「平治元年の冬の夜中にお屋敷が襲撃され、お仕えしていた御あるじも後に討たれて、それがしも浪々の身となったわけよ」
「さようでございますか」
「そのお屋敷も焼かれてのう。その混乱のどさくさに、姿を消した不埒な雑色がおった。まあ、一人や二人ではないがの」
「…………」
「聞きたそうじゃの」
「は? 何をで?」
「わしの俗名をよ」
「いえ……。もはや察しておりまする。僧形になられておるゆえ、初めはわかりませなんだが」
「そうか」
「桂木成道様」
「いかにも。墨染の法衣に金剛杖は、そのほうを探し歩くための方便に過ぎぬ。ようやく探し当てたわ。まったく、おまえのおかげで、十六年も辛酸を舐めさせられた。これ以上の昔話は無用であろうな、平七」
「あの夜のことは、お妹御からお聞きになられましたか」
「そうだ。外の磨崖仏の顔も証拠だ。言い逃れはできまい」
「はい。いつかはこの日がくるのではないかと怖れもし、覚悟もしておりました」
「それほど皐月に恋慕しておったか」
「はい。邪恋とは知りながら、人の妻であることが口惜しゅうてなりませんでした。桂木様には申し訳ないことを致しました」
「何ゆえ害した」
「誤ってのことでございました」
「可愛さ余って憎さ百倍とも申すぞ。初めから殺すつもりで、わが屋敷に行ったのではないか」
「いえ、決してそのような」
「あの磨崖仏は罪の償いのつもりか」
「皐月様の供養のための観世音菩薩でございましたが、顔のみはいつの間にか」
「あのように皐月に生き写しとなったか」
「はい」
「いかな供養をしようと、おのれの罪は消えぬぞ。何十年経とうと許すわけにはまいらぬ」
「重々、承知しております。なれど、桂木様」
「うむ」
「今しばらくの命が欲しゅうございます。せめて、あと三月もあれば、すべての裳裾が彫り上がります。それで私の恋慕も一段落がつきます」
「言うな。知ったことか!」
 覚円は、隠し持っていた懐剣を抜いて、いきなり平七の胸を刺した。
     
 平七の遺体は磨崖仏の足元に埋まっている。覚円は手頃な石を拾って来て、その土饅頭の上に置き、墓石とした。それだけで十分おのれの気が済んだ。僧形ではあっても、経文など一句も知らない。
 別れのつもりで、もう一度磨崖仏を仰ぎ見た。これで歪んだ半生のケリがついた。これからがいよいよ自分の人生だ。
 五十を過ぎた今、仕官の口はあるまい。といって出家する気もない。
 まあ、金はなくても、安楽に余生を送る方策も見つかろう。念願の仇を討ったのだから、当分は皐月の実家である梨本の家にたかるのも一案だ。
 ともかく、焦ってこれ以上の貧乏くじを引かぬことだ。それが結論だった。
 山道を下りながら、懐剣を森の中に投げ捨てた。もう用のない代物だった。
       
    ※ ※ ※ ※ ※
      
 年が変わって、春――。
「そういえば、もう長いこと平七を見ておらんが」
 そろそろ三根村でささやかれ始めた。
「去年の秋頃から見んなあ」
「十日ほど前に通りかかったら、見も知らん坊様が彫っておったぞ」
「平七ではなかったんか」
「うん。磨崖仏の裾のほうを彫っておった」
       
 ――彫っていたのは覚円だった。
 磨崖仏の顔は、見れば見るほど皐月だった。
 皐月は梨本清貞の娘だった。梨本は、中務省の図書寮に出仕する下級公家だ。
 今は亡き親が決めたことで、覚円が望んだ婚姻ではなかった。
 十六年もの間、不自由に耐えて仇討ちの旅を続けざるを得なかったのは、皐月の里方に面目が立たないからだ。
「妻女の仇を討たぬのか。それでは娘が浮かばれぬわ」
 と目を吊り上げて責められ、旅の路銀を押しつけられれば、否と言えるものではなかった。
 渋々、仇討ちの旅に出て、灼熱の道も歩いた。凍った道で足を滑らせもした。足裏のひび割れから血も流した。
 一年もすると、顔や腕は陽に焼け、公家屋敷に仕えていた時とは別人の固い足裏になった。
 旅の空で、さんざん平七を恨んだ。皐月を失ったことよりも、おのれの人生を狂わせたことで、平七を憎んだ。
 平七が事を起こしさえしなければ、仕えていた信西入道が滅んだところで、他家へ奉公する道もあったのだ。
 仇討ちを果たした覚円は、一旦は京に向かって、丹波、観音峠、亀山と歩いた。
 本懐を遂げたことを梨本家へ報告すれば、長年の重い足枷がはずされるというものだ。
 梨本家には何度か立ち寄って、その都度、路銀の援助をしてもらっている。懐には、それが多少は残っているが、まあ、これは黙っておいてもよかろう。
 道々、平七のことを考えた。
 皐月を思う気持ちは、夫よりも平七のほうが格段に強かった。たとえ、それが歪んだ形であったとしてもだ。
 下郎ではあったが、その下郎に負けた気がしてならない。
 ついに――。
 もやもやした重い足を停めた。
 眼下に京の町が望まれる老ノ坂の峠あたりで気が変わった。
 覚円は、但馬に引き返した。

 あの磨崖仏は未完だと平七は言っていた。今のままでは皐月に思いを残していよう。それでは平七に負けたままであるような気がした。
 粗末な小屋に残された鑿で、裳裾を彫り始めた。
 覚円の鑿使いでは、半年をかけても裳裾は仕上がっていない。
 小屋に寝泊まりして、毎日彫っているうちに、不思議なことに平七への憎悪が薄らいできた。あの世で皐月とともにいればよいとさえ思うようになった。寛大になったものか、勝ちも負けも消え失せた。
(むしろ、わしは救われた? あんな下郎に?)
 まさか、そんなことがあるものか――と否定してはみるが、こんな山中で気持ちが乱れることなく過ごせているのは事実だ。信西屋敷に奉公していた時や、仇討ちの旅を続けていた時のぎすぎすした緊張から解放されている。
 今日もこつこつと御影石の崖を削った。
 珍しく村人が通りかかった。山で焚き木拾いの帰りらしい。
「お坊様。ここにおった平七はどこへ行きましたか」
「うむ、平七か。平七ならここにおる。それ、この磨崖仏の中に魂が入っているのじゃ」
「へ?」
「すでに開眼しておるということよ」
「美しいお顔じゃが、それは観音様で?」
「そうだ。さつきかん――いや、夫婦観音というての」
「めおと――。へえ、さようで。一体なのに」
 村人はわかったような、わからないような顔をしていた。
    
      
            (終)

磨崖仏(36枚)

執筆の狙い

作者 北条かおる
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平安時代末期の平治の乱が時代背景で、後先考えない下郎と、ある武士の物語です。

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スラスラ読めて、第一に読み物としてすごく面白かったです。正直に言うと、無料で読ませて頂けたのが悪いくらい。

以下、拙い感想ですが。平七が向こう見ずなせいか、思わぬ展開の連続だと思って読み進めました。誤って皐月を刺すなど。
成道が平七を殺める流れは、なんとなく予想できましたが。

最後、成道が裳裾を彫るうちに自分の気持ちが変化するのを冷静に捉える下りが、妙に穏やかな読後感を与えていると思いました。
この辺の心理描写が秀逸です。

青木 航
sp1-75-4-144.msc.spmode.ne.jp

 北条かおる様。御作読ませて頂き、自分の拙さを思い知らされました。

 主たる物語の背景として、さりげなく歴史が流れて行く。身の回りで起きることの描写も過度では無く、的確で『人の息づいを感じる』というんですかね。
『はあ、こう言うことを指摘されていたんだな』
 今まで拙作に対して頂いていた複数のダメ出しの中の幾つかが、納得出来ました。
 作品評と言うよりも、自分の反省になってしまって申し訳ありません。
 勉強させて頂きました。有り難う御座います。

もんじゃ
KD106154132024.au-net.ne.jp

 北条かおるさま

 拝読しました。
 様式美は感じるのだけれど、彼が彼女になぜそこまで惚れたのかモチベが不明。姿をちら見しただけで眠れないほど夢中になるってこの時代のお約束?……とか感じちゃうと、その後の彼の言動が熱ければ熱いほど白けちゃうのでありました。図式的過ぎじゃないかと。
 彼のもとを訪ねてきた坊主が彼女の旦那だったとこの書き方はよかったかと。
 視点のリレーは失敗しているのでは? 『タッチ』でいうならカッちゃんじゃなくてタッちゃんが死んじゃったみたいな。彼に感情移入して読んできた読者は彼が死ぬことにより殺されて、その後は旦那にとりつくわけだけど気持ちよくなかったです。
 頓珍漢な感想だったらすみません。

早森小夏
46.29.183.58.megaegg.ne.jp

みくさん同じく、私もスラスラ読めました。時代物の小説は少し抵抗感があったのですが、こんなに一気に読めたのは初めてです。面白かったです。

貔貅がくる
n219100087061.nct9.ne.jp

ストーリーは「作者いつもの世界」なんで、そこの部分の感想とツッコミは、途中まで書いて、やめた。


ざっと斜め読んで気になって仕方なかったのは、
【あの時代の日本に、「石の彫像」製作の概念やら習慣なんか存在してたのか??】と。
(ない ように思う)


飛鳥時代は、遠くササン朝ペルシャ?あたりからの影響で、「噴水装置の噴出口に石の彫像を置いた」作例が実際あったようなんだけど、
あれはガーゴイルとか、温泉のライオンの口だの神社の手水の竜の蛇口みたいなもんで、「彫像」とは違う。

奈良〜平安は、信仰のために造られる「仏の像」が主で、その材質は、木造、塑像、乾漆像、銅や響銅。
石に刻まれた像は、地蔵菩薩が圧倒的に多いイメージで、
ギリシャのように『大理石で実在の人物像を彫り出す』って作例は、聞かないし、見ない。


本作はさらに、素材に「白い大理石」を用いているんだけども、
大理石はやっぱ、明治以降に西洋建築の「内装」に用いられるようになったものだから・・
京都の「庭石」で大理石って、ある???


そんで、さらに、「御影石で磨崖仏掘っちゃう」んだけども、
磨崖仏っつったら、「大谷石を切り出した後の露頭」なんかで造られてた印象。

「それを彫るに適当な露頭が必要」な代物なんで、、、
平安時代、近畿地方に「御影石が産出してて、それを切り出したところがあった」んですかね??
(聞いたことないから、「ない」ように思う)

「御影石=墓石材料」なイメージなんで、さかんに彫るようになったのは、近代なんじゃないかなー?? って気がした。
(めんどくさいんで、墓石の歴史までググってませんが、江戸期はまだ「五輪塔」だった印象だし、庶民は卒塔婆だった感じだもん)


そんで、その堅牢な御影石を、平安時代の鑿で「大規模彫刻」は、可能なんだろうか??

もし可能なんだとしても、
【あの時代の日本に、「石の彫像」製作の概念やら習慣なんか存在してたのか??】
という、最初のでっかい疑問符に戻る。


結局、「疑問符しかない」状態。


ごめんね。

貔貅がくる
n219100087061.nct9.ne.jp

まあ結局は「人物の石像」じゃなく「懸想した相手そっくりな観世音菩薩」を彫るに至った訳だし、

「露頭のある場所とサイズ」だけ再確認したら、「但馬・三根村で、高さ5メートル」と。
はっきりそう明記されてるってことは、そこは「御影石が産する場所」なんだろうね。

北条かおる
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みく様

最近の北条かおるは、まさに「読みやすさ」と「心理描写」を念頭に置いて小説を書いています。
それが伝わったようで大変に嬉しいです。
お読みいただき、ありがとうございました。

北条かおる
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青木 航様

初めまして。
何をおっしゃいます。青木様にも先にあるような超大作があるじゃないですか。将門に関する長編は海音寺潮五郎と吉川英治のものしか知りません。
相当なエネルギー量を費やしたことだろうとお察しします。北条かおるには真似できないことで羨ましい限りです。
お読みいただき、ありがとうございました。

北条かおる
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もんじゃ様

>姿をちら見しただけで眠れないほど夢中になるってこの時代のお約束?

そうではありませんが、ご指摘を受けて考えてみました。たぶん歌舞伎の影響です。よくあるんですよ。「与話情浮名横櫛(お富&与三郎)」なんか海辺ですれ違っただけで熱烈な恋に落ちるんですから。
なので、歌舞伎ファンである北条かおるにはそれほど抵抗がないようです。
お読みいただき、ありがとうございました。

北条かおる
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もんじゃ様

書き忘れました。

>彼のもとを訪ねてきた坊主が彼女の旦那だったとこの書き方はよかったかと。

このシーン、何度も書き直して作者もお気に入りです。そこを評価されたのは嬉しかったです。
ありがとうございました。

北条かおる
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早森小夏様

初めまして。
望外の好評をいただき、ありがとうございます。
また北条かおるの名前をお見かけになりましたら、ぜひよろしくお願いします。

北条かおる
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貔貅がくる様

いつもありがとうございます。
毎度のことながら、出版社にこの原稿持ち込んで、編集者に疑問を呈されたような感じです。が、決して不快ではありませんよ。時には、なるほどと思わされることもあったから。時にはね。

小説は作品のみで勝負ですから、本文以外でその打ち明け話をするのは言い訳・弁解めいていてナンセンスだし、やるべきではないのだけれども、今回は特別に二つだけ言わせて下さい。

まず大理石の件。これは作中のイメージとして、どうしても美しい顔を彫るために必須でした。もう一度言いますが、イメージとして、です。他の石ではあり得なかった。まあ、おっしゃるように内装、外装で使われるようになったのは明治期以降らしいですが(さっき調べた)、本作の当時すでに大理石はあったらしいし。

それから磨崖仏の件。これは「天平の甍」のイメージが尾を引いています。原作の小説ではどうだったか記憶にありませんが、映画では普照たちは中国のどこかで巨大な磨崖仏群を見物して感動しています。その時からでさえ本作の時代は四百数十年も経っているわけですから、本朝に巨大な磨崖仏文化が広がっていても、まああり得ないことではあるまい。――と、ここは一応、執筆前に考えはしましたよ。

それにしても貔貅さん。あなた知識があり過ぎて、自分が小説書く時がんじがらめになって窮屈じゃないですか? まあそんな心配は余計なお世話でしょうけど。
それとも、あれこれ疑問に感じるのは批評する時だけ?
ともかく、この次もぜひよろしくお願いします。自作の完成度を高めるためにも、これ本心だから。

貔貅がくる
n219100087061.nct9.ne.jp

>それから磨崖仏の件。これは「天平の甍」のイメージが尾を引いています。原作の小説ではどうだったか記憶にありませんが、映画では普照たちは中国のどこかで巨大な磨崖仏群を見物して感動しています。その時からでさえ本作の時代は四百数十年も経っているわけですから、本朝に巨大な磨崖仏文化が広がっていても、まああり得ないことではあるまい。――と、ここは一応、執筆前に考えはしましたよ。

「本朝に巨大な磨崖仏文化が広がって」はいないんですよね。
磨崖仏は、日本の気候と「岩石の質に合わない」ようで、ごくレア。

レアケースとして存在してもいいのかもしれないけど、
私的に引っかかったのは、前述しているように【御影石】だから。



「仏教系の彫刻」というと、幕末には『日本のミケランジェロ』と言われてる名工がいるし、
【仇討ち文化】が一般的かつ強烈だったのもその時代。

って気がしたから、

時代背景を【江戸末期】にしたら、話に「整合性」が出て来る・・ような気もして、
「それ」を軽くシミュレートしました。

貔貅がくる
n219100087061.nct9.ne.jp

「淡く考察してみた」だけで・・

日本史にはおそろしく疎いし、日本の時代小説は読まないんで、

あくまで「そんな気がするなー」って、感覚?の範疇。

貔貅がくる
n219100087061.nct9.ne.jp

追記、追記 して申し訳ないのだが、


『大理石』『御影石』と 作者が固有名詞を明記していて、「そこに限定している」から、引っかかるのだ。

「遠目にも際立って白い庭石」だの、
「村はずれの小高いところにある露頭」といった風な
固有名詞で限定しない書き方を選べば、

読み手が「大理石」と「御影石」で悩むことは一切なくなる。



現状だと「書きようが不親切」なんだと思うよ?

北条かおる
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貔貅がくる様

再訪感謝。

>読み手が「大理石」と「御影石」で悩むことは一切なくなる。

まあ読者の中には神経質な研究者タイプもいるかも知れないけど。

>現状だと「書きようが不親切」なんだと思うよ?

そうかしら?

もんじゃ
KD106154132024.au-net.ne.jp

 北条かおるさま

 再訪です。

 歌舞伎はよく知らないけど、それって省略表現なんじゃ? ミエきるのと一緒で。つまり、その枠の中での様式美。

 でも御作は、特に終盤の旦那の心情なんかがそうだけど、描くとこは丹念に描いてるわけで、そもそもの出だしからして丁寧だし、だから彼の恋の発動だけを省略的に表しちゃうとバランス的にどうかと。

 もしも歌舞伎的なスタイルで表現するなら、しょっぱなからそのスタイルをでんと出して心構えを要求していただけたほうがよろしかったかと、そして全編をその様式で貫くのでよろしかったかと。

 ワンエピソードでいいから印象的なモチベが表されてたら白けなかったような。外見だけじゃなくて、彼女がとったなんらかの所作(←仕草とかじゃなくて行動)が、のっぴきならなく彼の何やら(←これも書く)を動かすに足るものだった的な。でっぱりがへっこみに合致するさまをさりげなく表す、つまり需要と供給が合致するさまをさりげなく表す、みたいなことです。彼の想いの強さが屋台骨の話なのだから、その想いの根拠が、外見に惹かれた、みたいな程度に省略されてしかるべきとは思えないのでありました。が、ドデスカネ?

 歌舞伎じゃなくっても、ある朝百パーセントの女の子とすれ違う、みたいな表現はもちろんあるのだけれど、御作の場合は違いますよね、彼による彼女への愛着が宿命的な何かであったことが強調されているわけでもない。

 違った角度からちょっと書いちゃうと、気持ちが配置されてるけど、気持ちが流れてない、みたいな。描かれてるけど、演奏されてない、みたいな。むろん、わざと配置されてしかるべき気持ちもあるし、淀みを描く表現もある。けれども今作が目指しているのはそこではないような。

 様式とか格式とか形式みたいなのは、完成しちゃってて、つまり固まっちゃってて、流動性にとぼしく、つまり外からのアプローチに対して取り澄ましちゃってたりするもので、崩すことが大変に難しい。構えが通用しているうちはよいのだけれど、通用しないフェイズに達したら、歌舞伎でも筆でもなんでも、柔軟な姿勢にスイッチせざるを得ない、そうしないと移ろいがなく、移ろいがないと淀んでジ・エンドみたいに一感受点としては感得いたします。だなんていう感性を迎撃するのもありですし、したほうがいい、そこから流れも生まれましょう。淀むより美しいです、たぶん。だなんてことはわかっておられて、もう次のフェイズにシフトしておられる、ようにもお見受けいたしますが、一応念のため。
 崩すことは挑むことよりはるかに難しい。だから整えるよりは乾くほうが旅を続けやすいんじゃないか、とか個人的には強く思います。

 視点のリレーについては、何か読み違えておりましたでしょうか? あさってなこと書いてたようなら恥ずかしいですし、すみませんでした。

北条かおる
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もんじゃ様

再訪ありがとうございます。
ですが、理論的なことは苦手なもんで。
そんなに難しく考えて小説書いたことがないもんで。

ラピス
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北条さんの時代もの。来たかー! って感じで、期待して読ませて頂きました。
相変わらず、すんなり引き込まれます。すぐに読者になりました。
読者として残念だったのは、途中で語り手が変わった流れです。平七に寄り添っていたので。平七を全うしたかった。
ラストがこれなら、初めから円覚を主人公にして書かれたほうが良かったのじゃないかと思ったりして。

北条かおる
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ラピス様

いつもありがとうございます。
上のお方にも指摘された点ですね。ここも作者としては深く考えていなかったのですが、やっぱりスルーしてはいけない箇所なのかなあ。
作者には難題ですが、しばらく頭を冷やしてから最良の解決策を考えてみます。
ありがとうございました。

TG
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拝読いたしました。
皮肉にも覚円は、平七が彫った磨崖仏によって有る意味救われ、皐月は、磨崖仏となることで救われ、平七は一瞬だけでも皐月を生身を感じることで救われた。
この作品の主要な3人にそれぞれ役割を与え、憎悪から救うことで、鮮やかに物語を紡いでおられる。平七は悪人ですが、覚円を救うことで、光を少しでも注いでいるところが良いですね。それが作者様の主人公への愛情なのかな。

ところで平七というのはこの時代の雑色によく有る名前なのですか?
平七という名前は江戸時代長屋住まいの平民に出てきそうな名前だったので、もう少し平安時代ぽい名前がよかったのではと思いました。ひっかかったのはそれくらいです。
ではでは。

みく
om126255157176.24.openmobile.ne.jp

再訪させていただき、また差し出がましいかもしれませんがコメント失礼します。

ラピス様が、途中で語り手が変わって残念と書かれていましたが……。

>山道を下りながら、懐剣を森の中に投げ捨てた。もう用のない代物だった。
       
 ※ ※ ※ ※ ※

 年が変わって春ー。

これ以降は本編の後のエンディングのシーン、という風に捉えたら、なんだかしっくりきませんか?

改めて読み返せば、読後感に清涼感を覚えます。覚円が夫婦観音だと話すときの表情や、最後の村人のわかったようなわからないような顔が映像として浮かんできて。

北条かおる
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TG様

初めまして。

>この作品の主要な3人にそれぞれ役割を与え、憎悪から救うことで、鮮やかに物語を紡いでおられる。

言われて初めてびっくりしました。作者は考えもしなかったことです。汗顔の至りとはこういうことでしょうか。
ただ内心では、ひょっとしたら北条かおるというアマ作家は、本人が思っている以上に――などと悦に入っています。(冗談です。が、本心もちょっとだけ)

平七という名前の件。これも言われて初めて、death。確かに平七とか、たとえば銀次とか平蔵とか、いかにも江戸期を連想させる名前ですね。

ずいぶん前ですが、倉本聰がテレビのインタビューで言っていました。彼は登場人物のすべてに人生を与えるのだそうです。脇役の女性でも、いつどこで生まれたか、どこの小学校、どこの大学を卒業したか。誰と恋をして、いつ初体験をし、いつどうして別れたのか。
そんなことまで細かく設定するそうです。「もちろん使わないことのほうがほとんどだが、そう設定しておくことでドラマににじみ出るものがある」のだそうです。

北条かおるはこれに感銘を受け、肝に銘じています。倉本さんほど詳細には考えませんが、少なくとも主人公の出身地や年齢、本作で言えばいつどうして京に出て来たか、ぐらいは設定した上で書きます。

登場人物の名前もそうです。大事なことです。安易につけていました。初心を忘れていました。

昔のミステリー作家で斎藤栄という人が何かの本に書いていました。彼は登場人物の名前をつけるのに画数を調べて姓名判断(?)をした上で決めていたそうです。プロの作家さんは凄いですね。まあ、そこまで真似をしようとは露ほども思いませんが。

さて、そうなると、平安時代末期あたりの百姓の子は、どんな名前が一般的だったのだろう。~丸? ~衛門? ~助? これも難題ですが、調べる必要があります。

貴重なご指摘ありがとうございました。

北条かおる
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みく様

再訪感謝です。

>これ以降は本編の後のエンディングのシーン、という風に捉えたら、なんだかしっくりきませんか?

そうそうそう。まさにそうです。私が言うべきはそれでした。
作中で「※ ※ ※ ※ ※」を使ったのは、正直に言いますと理論的に考えたのでも何でもなく、ただ場面転換、時代転換の際に「雰囲気的にいいかなあ。そのほうが読みやすいかなあ」と思った程度で使ったのでした。

上の方の返信にも書きましたが、私は理論的に考えるのが苦手ですから、すべてを雰囲気、イメージでとらえている向きがあるようです。だから作者のご都合主義と批判されることが多いのかも知れません。

また次回作を投稿した際には、よろしくお願いします。みく様、ありがとうございました。

飼い猫ちゃりりん
123-48-115-162.dz.commufa.jp

北条かおる様
美しい文章ですね。なんか浮世絵っぽい。
猫と歌舞伎役者って似てませんか?
馬鹿なことを言ってすみません。

茅場義彦
M106072175192.v4.enabler.ne.jp

ごはんの中じゃあ 1番うまいでしょお

これに銭を払うかってことですが

魅力的なカバー絵があれば 騙されるかもだけど。。。


なんか プロットがきちんとあって

血肉のないマリオネットが台詞を言わされてる感あるかなあ

もんじゃ先生が言ったように 女房好きになるモチベが相当低いわ

アイドルおたくが アイドルと結婚しようって 普通おもわないでしょ

これは素直に 石工がたまたま見かけた女房を夫がdvする現場から救って 山中で暮らして

事故かなんかで失って 偲ぶほうがいいかなあ

このままじゃ 主人公 ゲスストーカーじゃん

感情移入し辛いわ

(仮)
240.133.31.150.dy.iij4u.or.jp

こんにちは。
何とも言えない読後感でした。
最後にお坊様はどうなったと呼ぶべきなのでしょう?
悟り? 解脱? 空?
いや、この作品全てが答えだったのでしょうか?
面白い作品をありがとうございました!

北条かおる
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飼い猫ちゃりりん様

お読みいただき、ありがとうございます。
美しい文章などと言われたのは初めてです。なんか嬉しい。

北条かおる
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茅場義彦様

お読みいただき、ありがとうございます。

>アイドルおたくが アイドルと結婚しようって 普通おもわないでしょ

そうなんですか? 作者の知らない世界なので考えたこともなかったです。まあマイノリティには違いないでしょうが。

北条かおる
softbank060108036165.bbtec.net

(仮)様

お読みいただき、ありがとうございます。

>悟り? 解脱? 空?

いえいえ、そんな高尚なものでも大層なものでもありませんので。
ただの娯楽小説ですから。読んでいる数十分間だけ楽しんでいただければ作者冥利です。

もんじゃ
KD106154133074.au-net.ne.jp

 北条かおるさま (頭のほういくらか、みくさま)

>平七の遺体は磨崖仏の足元に埋まっている。覚円は手頃な石を拾って来て、その土饅頭の上に置き、墓石とした。それだけで十分おのれの気が済んだ。僧形ではあっても、経文など一句も知らない。
 別れのつもりで、もう一度磨崖仏を仰ぎ見た。これで歪んだ半生のケリがついた。これからがいよいよ自分の人生だ。
 五十を過ぎた今、仕官の口はあるまい。といって出家する気もない。
 まあ、金はなくても、安楽に余生を送る方策も見つかろう。念願の仇を討ったのだから、当分は皐月の実家である梨本の家にたかるのも一案だ。
 ともかく、焦ってこれ以上の貧乏くじを引かぬことだ。それが結論だった。
 山道を下りながら、懐剣を森の中に投げ捨てた。もう用のない代物だった。
       
 って、

※ ※ ※ ※ ※ の前じゃん??

 視点のスイッチは、章立てを明確に区分けすればよし、的な考えもあるし、実際そのとおりだと思うけど(効果を狙ってわざとやるわけですね)、この作品の場合は、※の前にスイッチがあって、その後※で時間が飛ぶからなおのこと違和感があるんですよ、みくさんにはないのかもしれないけど、もんじゃにはあるのでした。

(って、ここまでみくさんへの通信もいくらか含む内容で、以下は専ら北条かおるさんへ)

 そのような読み手の違和感をスルーした(無視、って言葉を使用されてましたね)あげくに、理論的に小説を書いてるわけじゃないんで、と返信する書き手は、理論的な感想に対しては応対できませんあしからず的なスタンスでここを利用してるのかな?
 こんなふうに書いても、そうですか、みたいな反応しかないのかもだけど、頓珍漢な感想だと感じるなら、頓珍漢ですね、と理由を付して返してもいいし、ってかそう返すべきだけど(最初からもんじゃさんってばそう書いてるし)、視点のリレーについて「確認(ないしは質問、少なくとも問い掛け)」されて完全スルーっていうのは、いくらアマでも甘々なんじゃないかと感じるんだけどどうでしょうかね、そうですか、ですか、そうですか。

 平たくいうと、取り澄ましてる、みたいに感じられました、作品も書き手の様子も。そういうの好きじゃないのかもしれません(理屈じゃなくて感性で、って書くとお気に召しますか?)、だから読んでて愉快な気持ちになれなかったし、似たタイプのものをほかでまた読んでみたいとも思えませんでした、一読者の趣味として。
 あ、書き手の姿勢云々は勿論ご随意に(お互いに)なんだけど、それとリンクしてるみたいに読めちゃう作品が……ってその先は書かずにおこうか。

みく
om126255157176.24.openmobile.ne.jp

>※の前にスイッチがあって、その後※で時間が飛ぶからなおのこと違和感があるんですよ

なるほど、もんじゃ様は違和感持たれたのですね。もんじゃ様のご意見、後学のための参考にさせて頂きますね、ありがとうございました。

私は思い返すと、一本の映画を鑑賞する際の観点で、この作品を読んでいました。※の効果も大きいですが、>年が変わって春ー。でエンディングに突入、みたいな。

もんじゃ
KD106154133074.au-net.ne.jp

 みくさま

 いえ、ですから、

>年が変わって、春――。

 の前、同じ時制で、殺めちゃった直後に視点スイッチしてません?
 彼の魂が旦那にのりうったみたいな。
 で、それってありだと思うんですよ、そういう表現、うまく書けば。

 だから、最初に、失敗してません? って書いたのでした。狙ってやってるのかと思って。したら無意識みたいなリターンだったので、意識化していただいたほうがそこ効果的に直せるんじゃないかと。
そこにみくさんご登場で、※とか、
>年が変わって、春――。
 以降を、映画のスタッフロール的に……みたいな話で、それに、そうそうそうそう、みたいに書き手さんが返されてるんで、みくさんにも書き手さんにも伝わってないな、と。その前のリレーについて指摘してるのですから。
 伝わってます?
 伝わったうえで無問題ということであれば、それはそれで。

みく
om126255157176.24.openmobile.ne.jp

>もんじゃ様

私は書き手ではないので、そこまで踏み込めないのですがー。

「言うな。知ったことか!」
 覚円は、隠し持っていた懐剣を抜いて、いきなり平七の胸を刺した。

 ※ ※ ※ ※ ※

平七の遺体は磨崖仏の足元に埋まっている。覚円は手頃な石を拾って来て、その土饅頭の上に置き、墓石とした。

これ以降、終わりまで※は使用しない。

↑こう変えてみたら、納得されるでしょうか?北条様にも差し出がましいのは承知です。

読み手としては、平七の視点で読んでいたら、覚円に刺し殺され。それから覚円に視点が移る。
なるほど、確かに混乱する要因ですね。

もんじゃ
KD106154133074.au-net.ne.jp

 みくさま

 この場所でのやりとりは不適切な気もしてきたので簡単に留めますが、

 ※の位置の問題ではないように思われます、むろん、みくさんが書かれたように修正することでモアベターになるかと個人的には感じますが、

 むしろ、積極的に視点のスイッチを演出すべきかと。

 現状では、さりげなく、なんだかよくわからない感じで、彼から旦那にスイッチしてるように感じられます。

 刺された彼、に入って読んできた読み手が、刺された次の瞬間に旦那に目覚める、そのはっとした感じを上手く演出できれば、そも三人称視点の話でありますので、読み手は目眩にも似た効果を感得しうるのではないか、と思うのです。

 修正案をあげるような無粋なことはしません、書き手がどう感じているのかいまだにわからないし、確かに出過ぎたことでありましょうから。

北条かおる
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そんなに違和感ありますか? 読者様にはそんなに不自然?

もんじゃ
KD106154133074.au-net.ne.jp

 一ラインあけてるから、ぎりセーフ。が、気持ちよくはない。視点の移動に気を付けるのは基礎中の基礎かと。

北条かおる
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アドバイス、ありがとうございます。

飼い猫ちゃりりん
KD106128061236.au-net.ne.jp

北条かおる様
その「読者様」には飼い猫も入っているのですか?

飼い猫ちゃりりん
KD106128061236.au-net.ne.jp

北条かおる様
 芸術における自然、不自然は半分困難ゆえ、猫は己の髭レーダーを信じます。
 芸術にも理論的な整合性は求められますが、理論で説明できる作品に芸術的価値はありません。
 芸術は一輪の花で良い。一本の草木でも良い。猫は「作られた作品」より、「生まれた作品」を愛します。
 北条様の作品は「生まれた作品」であるように思いました。

もんじゃ
KD106154132217.au-net.ne.jp

 一人称の小説でなく、三人称の小説であっても、視点の移動には十分な注意が払われてしかるべきかと。
 視点の移動は禁止、みたいには誰も言っていないのです。リスクと効果を考えるべきではないかという話です。
 タッチ知りませんかね?
 双子の兄弟たっちゃんとかっちゃんが幼なじみの南とどうたら、みたいなあだち充の漫画。死んじゃうんですよ、かっちゃん。死ぬまで長いこと描かれててファンの感情移入がすんだあとの死なので大問題であるわけです。
 かっちゃんなきあと、たっちゃんが引き継ぐんですね、南を甲子園に連れてくって夢を。
 この漫画、というかたいていどの漫画も映像も三人称で、神視点は珍しいかもだけど、多元視点で描かれてるわけでありましょうが、メインどころであるかっちゃんにおなくなりになっていただくのは相当なリスクであるわけです。死んだかっちゃんの思いを背負って、まさに憑依させてたっちゃんは頑張るわけでそこを描きたかったからだからもともとタイトルもタッチなわけで。リスク対効果の大きさからあだち先生とサンデー編集部は大冒険をくわだてたわけです。
 とはいえ、死んじゃったのがたっちゃんのほうだったらもっと大変なことになっちゃいます。たっちゃんは主たる視点人物であったから。
 御作でいうなら死んだ彼こそたっちゃんであります。これって大変なことです。雰囲気でちょろっとやれちゃうことじゃない。
 漫画はコマ割りで、映像はショットの切り替えで視点をそもそも移しやすい。けれど小説はテキストです。漫画みたいに吹き出しで誰のセリフかがビジュアル的にわかるわけでもないから、三人称多元視点の小説での視点の切り替えにはさまざまテクニックが使われるわけですよね。
 章を分けたり、時間を飛ばしたり。視点の移動がはっきりわかるように書く。御作も一ラインあけてます。でもそれじゃ足りない、気持ち悪いと感じたのです。
 主たる視点人物たっちゃんが死んでわずか空行一ラインでかっちゃんが読み手の視点を引き受けちゃってる。しかもさりげなく。演出らしき演出もなく。いえ、かっちゃんじゃない。彼を殺した本人ですからね、旦那は。だから難易度はウルトラです。
 そこに違和感を覚えたのでありまして、その感覚は普通の感覚であるかと思われます。
 視点人物を殺した人間に新たに視点を重ねるわけですよ? かなり苦しくないですか?
 ということを指摘させていただきました。
 芸術がどうこういう以前の問題かと思われます。芸術が客観不要で主観のみで成り立つなら鑑賞者は不要なわけです。地球が回ってんじゃない、太陽が回ってんだ、って強弁するのが芸術家なんでしょうかねえ。

茅場義彦
133.106.184.15

これ芥川の 絵師のオマージュだね

あっちのほうが迫力はあるかな

ドリーマー
pdcd36a98.tubecm00.ap.so-net.ne.jp

拝読しました。

結末に納得できませんでした。他の方の感想を読むと、これはこれで良しとされているようなので、私の心が狭いだけかもしれません。
だから以下は狭量な一読者の感想としてお読みくださいね。

まず平七について。
平七が一度見掛けただけの皐月に、なぜあれだけの恋情を抱いたのか、ここは他の方も触れられているので割愛しますが、とにかくそういう男として設定したなら、なぜ皐月の遺体を残して逃げたのでしょう。あれほど一途に恋焦がれた相手です。その相手を失ったら(しかも自分が殺してしまった)、絶望し、もう生きていく甲斐はないと、その場で自害して無理心中でも図りそうです。自害しないまでも、呆然としてその場から動けずにいる間に、家人に取り押さえられて検非違使に引き渡されるとか。
もちろんそうなると話が続かないので逃がしたのだと思いますが、それなら殺してから逃げるまでの平七の心情の変化を、もっと丁寧に描いてほしいと思いました。

>ハッと気づくと、誤って懐剣が深々と皐月の胸に刺さっていた。
 着物の胸にじわじわと鮮血が滲んでくるのを見て、平七は狼狽した。
(どうすればよい? わしは、ど、どうすれば)
 あろうことか、おのれの手で珠玉を砕いてしまった。
(皐月様)
 一度だけ強く皐月の体を抱きすくめて、その甘い匂いを思いきり嗅ぎ、その場に横たえて平七は逃走した。
 西へ走って走って、嵯峨野の荒れた祠に身を隠した。
 こんな筈ではなかった。後悔した。時を戻せるものなら、と頬を熱く濡らした。

これらは平七の心情説明で、描写ではありません。『頭からさっと血が引き、全身に冷たい汗が流れた』とか『心臓の動悸が治まらず、呼吸しようにも上手く息が吸えない』とか(下手な例ですみません💦)、もし自分が愛する人を殺してしまったらどんな状態になるか、想像してみてください。

>よそ者を見る嵯峨野の里人の白い目が不安を掻き立てる。ここも長居は危険だ。食うものにも困った。

私が平七なら、落胆のあまり、食べ物も喉に通らないんじゃないかなぁ。空腹さえも忘れ、動くのも億劫で、そのまま野垂れ死にそうな気がします。

次に成道ですが。
>平七の遺体は磨崖仏の足元に埋まっている。覚円は手頃な石を拾って来て、その土饅頭の上に置き、墓石とした。

平七のせいで自分の人生は狂ったと、成道は思っているんですよね。それなのになぜ憎い平七を墓に葬ったのでしょう。私が成道なら遺体も見たくないと谷底にでも捨てるか、野犬に食われてしまえと放置しますね。

>皐月を思う気持ちは、夫よりも平七のほうが格段に強かった。たとえ、それが歪んだ形であったとしてもだ。
 下郎ではあったが、その下郎に負けた気がしてならない。
>小屋に寝泊まりして、毎日彫っているうちに、不思議なことに平七への憎悪が薄らいできた。あの世で皐月とともにいればよいとさえ思うようになった。寛大になったものか、勝ちも負けも消え失せた。

ここが一番納得できませんでした。
私が皐月なら絶対に許せませんね。皐月は見知らぬ男に拉致されかけた挙句殺されたんですよ。あの世で皐月とともに、なんて冗談じゃありません。
成道が皐月に対してわずかでも情があるのなら、こんなことを思うはずがないのです。というか、思って欲しくないです。
なんだか皐月を蔑ろにされているようで、自分だけ勝手に救われてるんじゃねえよ、と腹が立ちました(ここは主観丸出しで書いていますのであしからず^^;)。
ここも読者が(というか私がw)納得できるように、成道の心情を丁寧に描いてほしかったです。

これは他の方も書いていらっしゃいますが、前半を平七、後半を成道視点で書くよりも、成道を主人公にして書いた方がいいんじゃないでしょうか。
例えば成道が修行行脚(の振り)をしているシーンから始め、平七を見つけて皐月殺害に至ったエピソードを語らせます。そして自分の正体を明かして平七を討ち、皐月の供養のために仏像を完成させるとか。
現状だと皐月への情があまり感じられないので、行脚をしている間に妻との生活を振り返り、相思相愛ではなかったものの、妻としては申し分なかったとか、不幸な最期を遂げたことを憐れむとか、そういうことを思わせて欲しいです(これはただの願望です。このままでは皐月が気の毒過ぎるので。だってこの当時の下級貴族の妻は結構忙しいんですよ。桂木家の身分はさほど高くなさそうなので、皐月も主婦として采配を振るっていたと思うんです。それなのに旦那は薄情だし、挙句に恋に狂ったストーカー男に殺されるんですから、たまったもんじゃありません)。

>「うむ、平七か。平七ならここにおる。それ、この磨崖仏の中に魂が入っているのじゃ」
>「そうだ。さつきかん――いや、夫婦観音というての」

それでも、このラストだけは絶対にいただけません。成道の馬鹿野郎、ろうー、ろうー、ろうー(エコー)。

感情に突っ走った感想で申し訳ありませんでした。
前述したように狭量な一読者の感想なので、参考になりそうな所だけ(もしあれば)チョイスして、あとはご笑納いただけたら幸いです^^;

それでは長々とすみません。失礼しました。

北条かおる
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飼い猫ちゃりりん様

読んでいただいた方というほどの意味でしかありませんが、猫さんはどうでしたか? 髭レーダーに引っかかってアラームが鳴るようなところがありましたでしょうか。

北条かおる
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もんじゃ様

ご指摘の趣旨はよくわかりました。
タッチは知りませんが、主題歌だけは知っています。

北条かおる
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茅場義彦様

すみませんが芥川の絵師というのがわかりません。
地獄変? 違っていたら恥ずかしい。

北条かおる
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ドリーマー様

>狭量な一読者の感想として

いえいえ、とんでもない。いつものことですが、いくつかのご指摘の中で今回も考えさせられたところがありました。つまり「だって登場人物がそう思ったのだから。だって登場人物がそうしたのだから」と、それだけでは弁解のきかない点です。

>ここが一番納得できませんでした。
私が皐月なら絶対に許せませんね。皐月は見知らぬ男に拉致されかけた挙句殺されたんですよ。あの世で皐月とともに、なんて冗談じゃありません。
成道が皐月に対してわずかでも情があるのなら、こんなことを思うはずがないのです。というか、思って欲しくないです。

なるほど女性ならではの読後感だと思いました。作者には思いも寄らなかった。全面的に書き直そうかと構想してみました。

皐月は美しいが内面はとんでもない悪女で鬼女で、ありそうにない設定になりますが、平助(アドバイスもあって平七ではもっと後期の時代の雰囲気があるので平助に変えました。まだ違うような気もするのですが)とは不義不倫の関係で、殺された時に桂木は、内心では平助よくやってくれたと手を叩いている。
しかし実家の梨本家にせっつかれて嫌々でも仇討ちの旅に出なければならないことにして――もう考えるのをやめました。内容がぐちゃぐちゃで、ますます皐月が哀れになってくる。この案は却下です。きっと書くのも楽しくないでしょうし、絶対まともな小説になりません。

本作のラストは桂木の手によって磨崖仏を完成させることによって、またその過程で桂木の心も和むことによって作者の思うドラマの締めくくりになるのですから、ここは動かせません。全読者が違和感を覚えない動機付けを考えなければなりません。
桂木の心理を掘り下げて加筆する必要があるのは重々認識しました。作者だけが納得していても読者に伝わらなければ何にもなりません。
もの凄く困難な課題ですが、解決策を探して加筆します。
ありがとうございました。

飼い猫ちゃりりん
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北条かおる様
アラームは鳴りませんでした。
ただ、アラームを鳴らす方を非難するつもりはありません。感性は人それぞれ。読者は作者に対し、どんな感想を述べても良いと思っています。

北条かおる
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飼い猫ちゃりりん様

>感性は人それぞれ。読者は作者に対し、どんな感想を述べても良いと思っています。

異議なし。読者の権利です。

もんじゃ
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 北条かおるさま

>異議なし。読者の権利です。

 それに正対するのが作者の義務では??

北条かおる
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ーーとてもむずかしい。

もんじゃ
KD106154133116.au-net.ne.jp

 んじゃ債務不履行、信用リスク、マックス。

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