作家でごはん!鍛練場
早森小夏

一途よ届け

 廊下を進んでいると、お目当ての研究室が見えてきた。わたしは肩に下げていた鞄の革紐を握る。研究室の手前にあるお手洗いに入った。
 鏡の前に立つ。水汚れ一つない鏡には、完璧な女の子が映っていた。大きな目に小さな鼻。桜色のリップを塗った唇。ドット柄のワンピース。今年の三月に茶色に染めた前髪を指先でチョイチョイと流す。軽く右に左に頭を振ると、肩先で巻いた髪が小さく揺れた。女子力良し。スタイル良し。気合良し。最終確認オッケー。いざいかん。
「せんせー! 好きですっ」
「帰れ。とっとと帰れ。すぐ帰れ」
 勢いよく扉を開けるや否や、開口一番に告白する。だが、いつもの如く冷めた一蹴が飛んできた。乱雑に物が散らかった部屋。酒津先生は窓際のデスクの前に座り、わたしを待ち構えていた。
「田戸。いい加減、挨拶代わりにそれ言うのやめろ。何度言っても俺はなびかん」
「それなら何度だって言いましょう。わたしのこの想い、君に届け!」
「鳥肌立つからほんとやめて」
 先生は慣れた様子で軽くあしらう。それからこちらに手を伸ばした。「そら、再提出の課題を出せ」
 酒津雅彦先生。わたしが在籍する学科の教員だ。そのルックスは一回生の中でも有名である。スラリとした背丈に、おっ? と思わず二度見してしまうような顔立ち。教え方はマイペースながらも分かりやすい。らしい。
 独身の彼はキャンパス内でも女子に人気だ。だが、わたしは彼女たちと一味違う。
「違い過ぎ」再提出だった課題のレポートをめくりつつ、先生は唐突に言った。「お前のは、当たって砕けるっていう精神が見え見えだ。他と違い過ぎる」
「玉砕覚悟で書いてますからね。いつも」
「そんなんじゃ、当分俺は首を縦に振らんぞ」
 盛大にため息を吐いて、レポートをデスクに置く。椅子の背にもたれ掛かった。
それでもわたしは上目遣いに彼を見る。
「でも、いつかは縦に振ってくれますよね」
 頭の後ろで両手を組んだ先生はこちらを見返す。端正な顔立ちに悪戯気な笑みが生まれた。
「さぁな」

一途よ届け

執筆の狙い

作者 早森小夏
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設定は大学の研究室での一コマです。一途に先生にアタックする主人公と、それをあしらいながらもまんざらでもなさそうな先生を書きました。後半部の会話は、表向きレポート課題のことについて話されていますが、二人の関係性とも絡めてみました。

コメント

多恵
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さらりと読めました。先生の気持ちはどうだったのか。余韻は我々読者に任されているわけですね。

大丘 忍
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面白そうですが、も少し進んだ段階まで描いて欲しい感じでしたね。

偏差値45
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ストーリーとしてはこれからですね。
どう展開するか。これが問題ですね。

三枝松平
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 日記の一部みたいですが、書きたいことはよくわかります。
 これからどんな展開になるのか見守りたいですね。

早森小夏
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大丘さま
コメントありがとうございます。800そこらの短い文でしたが、面白そうと感じてくださり嬉しいです。ありがとうございます。

早森小夏
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偏差値45さま
読んでくださりありがとうごさいます。設定としては大学での一コマということにしています。それより先の展開に目を向けてくださりありがたいです。ありがとうございます。

早森小夏
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三枝松平さま
読んでくださりありがとうごさいます。書きたいことはよく分かる、というコメント、とても嬉しいです。また今後の展開にも注目してくださりありがたいです。ありがとうございます。

早森小夏
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多恵さま
コメントありがとうございます。さらりと読んでいただけてホッとしています。余韻の点は、一つの狙いとしてありました。ありがたいです。

読み人
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>水汚れ一つない鏡
水汚れとは何なのか? カルキやカルシウムの汚れ? じゃあ埃や手垢汚れはあるの? どんな種類の鏡? 大きさは?

語り手を映すから鏡も綺麗なんですって比喩なのだろうけど、これは雑だ。
初歩的な力量不足で、このレベルのことをとりあえず一つ一つ意識的に処理するように心がけないと、小説家としての力はついていかない。小説を書くというのは本当に面倒くさい作業で、読者の側はいちいち気にしていない距離や方向を——全部とまでは言わないが—— 一通りは気にかけて書いていかなければならない。

早森小夏
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読み人さま
読んでくださりありがとうございます。ストーリーではなく、文体に注目していただけてありがたいです。第三者の指摘があるからこそ気づけるものでした。ありがとうございます。

(仮)
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サラッと読めて、ニヤッとしちゃいました( 〃▽〃)

みく
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全国津々浦々、どこかの大学で実際にありそうですね。先生が椅子の背もたれにもたれて頭の後ろで両手を組む仕草に、なんだかリアリティがあって。

いかにも青春といった一コマで、私も思わずニヤッとしてしまいました(笑)。

早森小夏
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(仮)さま
読んでくださりありがとうごさいます。サラッと読んでニヤッとしていただけて嬉しいです。短い文章ですが目を留めてくださりありがたいです。ありがとうごさいます。

早森小夏
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みくさま
読んでくださりありがとうございます。どこにでもあるような大学の話、という世界観を分かっていただけて嬉しいです。また、描写のほうにも注目してくださりありがとうございます。青春らしい一コマを伝えられて良かったです。

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