作家でごはん!鍛練場
すももりんご

小さな家族が残した大きな忘れ物

 部屋の照明を消して壁に広がるカーテンを引っ張ると夜の景色が窓に浮かぶ。窓を開けると風が流れて顔にあたり夜の空気はまだ冷たく感じる。直ぐに窓を閉めて蒲団に入る。しばらくすると体が暖かくなった。寝ていても窓の外の景色は見えるが暗い空だけだ。部屋の中に視線を向けるとデジタル時計の文字と電気を通すスイッチしか見えない。あとは薄い影のように見える家具だけだ。その家具が突然はっきり見えた。
 視線を窓に向けると満月が見える。強い風で上空の雲が流れているからだ。あくびをした。眠い。でも部屋が明るくなったり、暗くなったりして気になり眠れない。
 天井をだけを見ていると学校でクラスの人の会話を盗み聴きしたことを思い出す。
 クラスの誰かがおばあちゃんから手紙が来て封筒の中に図書券が入っていたので早速、金券ショップに行ってお金に換えて臨時収入ができたと喜んでいた。その人は生まれる時、お母さんが実家で過ごして出産した。名前を付けてくれたのはおばあちゃん。孫が可愛くていつも手紙をくれるらしい。
 私が生まれた時は祖父も祖母もこの世にいなかった。私は孫として甘えられるおじいちゃん、おばあちゃん、と呼べる家族の雰囲気を知らない。
 家族からの手紙なんか貰った事もない。時々母からメールが来るが返事はうん、あ、そう、わかった。そのくらいで会話にならない。
 家族でしょと言われると自分の名前を付けてくれたので家族と答えるしかない。しかし、親子でも手紙を書く気になれない。家族そのものがわからなかった。あれ、これ考えていたら限界まで眠くなっていた。自分にお休みと言って瞼を閉じる。
 耳元で勢いよく目覚まし時計が鳴って朝が来た。瞼を開けたが朦朧としているので体を自由にできない。体の睡魔が抵抗しているのだろう。起きねばならない。眠くて起きたくない。どちらを選ぶか迷っていると睡魔が囁く。
「起きて何をするの?早く起きても意味がないよ。瞼を閉じて夢を見ている方が楽しいぞ。楽しみを捨てると勿体ないね。無理して起きても時計のような機械に時間を支配されて自分を失うよ」
 この言葉を信じて睡魔と供に夢の世界に戻ろうと思った。その時、部屋の外から声が容赦なく連呼されて現実の世界に戻される。睡魔が居場所を失った。
「もも、もも、起きなさい。学校に遅れるよ」母が私の名前を呼んでいる。
 私の名前は父が桃を食べている時に生まれたのでそのようにつけた。本当は古代中国時代から慶事に桃というくらい縁起が良いので前から決めていたらしい。母は反対して父に
「女の子はもも。男の子なら桃太郎にするなんて冗談言わないで、携帯宣伝に影響されたのでしょう。あなた。時代錯誤よ。もっと良い名前をつけて」
 母は幼い頃、名前が顔の印象と全く違うので男の子に笑われて馬鹿にされ苦労した。今でも自分の名前を呼ばれる時には恥ずかしかった頃の記憶が蘇る。名前を呼ばれた時は小さく細い声で返事をするが心の中では過去の不快な傷を打ち消すように奇声を上げている。名前は単純、明快で相応しいのが最善である。
娘につける名前は一生、その体から離れないので女の子らしく。それが母の願いだ。それでも父は頑として譲らないので仕方なく、ももに決まった。
 名前をつけ決定できるのは両親だけである。決まった名前は家族の一員としての証であり、家族の絆から逃れられなくする呪文のように感じる。
 両親は決して呪文と思っていない。私は呪文だとしても、もも、という名前が気に入っている。他の名前ともも、どちらがいいか?と聞かれたら、絶対ももを選ぶだろう。でも名前をつけた父は好きになれない。嫌いであった。母は嫌いじゃないけど好きでもない。
 家族との縁は大人になるまでの間だけが濃密に関わる。その後、呪文が解かれ自然に消えていくと思っていた。自分の意思だけで行動しようとすると家族が足かせになる。結局、何一つ自分の意思で物事の決定ができない。この長い呪われた時間が早く過ぎ去って欲しい。大切なのは自分である。家族ではない。大人になると家族から離れ自由になれる。
 家族は百害あって一利無し、もめている兄弟や子を苛めて捨てる親もいる。それでも世間では家族が何よりも大切であるという。そのことが理解できず不思議な矛盾を感じていた。しかし、あることがきっかけで考え方を変えた。
 家族は父、母、姉のりんご、と四人で暮らしている。一緒に暮らしているだけで父と母の事は何も知らない。父と母の出会いなど聴いたこともなく、私から積極的に聴くこともなかった。
  私はもう直ぐ高校三年生になる。事業をしている両親は忙しいが口癖だ。その声だけが耳に入る毎日であった。子供は大人の事情がわからない。家族はそれぞれの立場で主張が違い過ぎて意見の一致に至らず纏らない。何かをしようとしても一触即発、言い争いになるような気まずい雰囲気になる時期があった。家族とは何ですか?と考えても両親の仕事などが複雑に絡んできて答えを出せなかった。
 私は中学卒業まで親に精一杯、反抗した。何を言っても意見が通らないからだ。高校生になり表面上はよい子に見えるように振る舞っている。しかし、心の中では常に家族が好きになれないと叫んでいる。特に父が嫌いで話もしたくない気持ちだ。
 ある日、仕事が休みの両親は日頃からの疲れが溜まっていたらしく昼近くまで寝ていた。私も休みで自分自身の気分転換をしたく、母の代わりに料理を作ろうと思い、冷蔵庫の食材を見た。この材料で何が作れるかスマホで調べてメニューが決まり、プロの調理人がこつを伝授しているので、さっそく調理に挑戦する。注意することは読んでから作りましょう。読みながら作っていると焦がしますよと書いていた。
「 あ、」と叫び慌てながら火を止めたら、やっぱり少し焦げて失敗したなと思う。
「ま、いいか」どうせ自分が食べたいわけでなく、気分転換に作りたいから作っただけなので妥協する。軽い気持ちで作ったが見栄えが良い。
 メインの三元豚トマトソース酢味噌焼きを大皿に入れて、暖簾が下がり手元しか見えない対面キッチンのカウンターに置く。そして大皿を居間のテーブルに運び、別皿に盛り付けしたサラダを並べてみる。何か足りないと思ったら皮付きレモンの細切を忘れていた。キッチンからレモンの細切りを持ってきてパラパラと上から皿に散らしていると二階から階段を下る音が壁に響いてくる。その音で父が起きて来たのがわかった。父と二人だけでいるのは嫌なので見られないように直ぐキッチンに戻った。少し遅れて母も来る。
 二人は寝ぼけた顔をして席に座り、皿に盛り付けしている料理を見た。
「お母さん。いつ作った?」
「作ってないよ。ももが作ったのかな?」
 私はキッチンから出て、もう一品を運んだ。父と母の前に置きスプーンとホークを渡す。「おう、おう」「なに、どれ、どれ」 両親はうるさいほど気分が盛り上がりながら食べ始めた。「この一品、なんていうの?母さん、わかるか?」
「ポトフスープよ。野菜がいっぱいで牛肉が柔らかいでしょ。圧力鍋で煮込んでコンソメで味付けし、お父さんの好きなニンニクと生姜を入れたのね。もも、そうでしょ」
私は軽く頷いて、はにかんだ。娘の私が初めて作った料理なので喜んで食事を楽しんだ。
「ももは食べないのか?」
「作る時に味見を何回もしたからいらない」
「そうか、この一品も焼き加減が強くカリッとして、おいしいぞ」
 父と私は会話することが少ない。父が話しかけ会話が成立したのは久しぶりだった。
 焦げ臭く失敗したと思っていたが褒められて気分がよくなり「お父さん、コーヒー、飲む?」
「母さんも飲みたいな」
「いいよ。待っていて」
 コーヒーの入れ方は湯を沸かし、カルキ抜きのためにガスの火を直ぐ消さないで少し沸騰させる。その間に豆を挽く。挽いた豆の粉を熱くした鉄のフライパンに入れる。フライパンを二、三回、動かし粉をサーバーのペーパーにうつす。香ばしさが辺りに広がった。注口が細長いコーヒーポットで湯を注ぐ。最初に注いだ湯を止めて三十秒蒸らす。あとは周りから真ん中に向かって湯を注ぐ、その繰り返しで出来上がり。
 「いい香り。もも早くカップに注いで」父も頷いていた。二人はコーヒーを飲みながら仕事の話をしている。いつもなら口角泡を飛ばし、言い合いになることもある。今日は何故か楽しそうに話をしている。暫くして話の途中で父は静かにコーヒーを飲みながら窓の方をぼんやり見ていた。
私は影になった父の横顔に恐る恐る言った。
「犬を飼いたい、、、、」
 話の途中で父が顔を向き直した。
「何だ、そんな魂胆があったのか?だめだ。事業をしているのに誰が面倒をみるのだ。動物は毎日、休みなく世話しなければならないぞ」激しい口調で言った。
「魂胆なんて酷い」
 涙を浮かべて階段を上り、自分の部屋に入って鍵をかけた。父が追いかけて来てドアを叩いて何か言っている。蒲団の中で耳を塞いで泣いているので聞こえない。やっぱり、私の気持ちを理解しないで頭越しに怒る。家族とは何だろう。と思いながら寝てしまった。
 それから一週間、父と一言も話さなかった。また土曜日が来たが風邪をひいていると言って朝の食事をしないで寝ていた。
 母は私を心配しているように見えないが「いい考えがあるの」突然、言ったので「なに」とドア越しに返事をしたが全く何の事かわからなかった。
「ペットのことよ。お父さんを攻略するのによい方法があるの。朝、食事の時テレビを見るでしょ。今日のわんこや犬のでる番組を見せるの。お父さんはこの犬、可愛くない。足が短くて格好悪いと言ったらチャンス。その後に取って置きの秘策があるのよ」
 どうせ、いつもの思い付き、言うだけ言って実行しないくせに。そう思ったが一応、部屋から出て聞いてみた。
「な~に、な~に、お母さん、教えて」仮病がばれそうでバツが悪いからごまかす為に母に甘えるように尋ねた。
「平日に、さっき言った、お父さんの攻略法をある程度、仕込んでおくのよ。それはお母さんに任せて。お父さんは外食が嫌いで手作りにこだわるでしょう。今日の朝、ももが仮病で食事をしないので、お父さんにはカップ麺を出しておいたの」
「仮病とわかるの?」やはり、ばれていた。
「わかるよ。仮病はどうでもいいよ。お父さんがこれ、なにと聞いたからラーメンよ、と答えて、嫌なら、うどんもそばもあるよ。どれがいい?そばと言ったのでそばを出して、特別に湯を入れてあげたら喜んでいたよ」
 しかし、カップラーメンやカップそばで喜ぶ筈がないと思った。
「今度の土曜の朝は食事を作るの。メニューを決めて手作りパンとサラダ、茸と茄子のチーズ焼き、その上に、誰でも簡単に作れるローストビーフをのせる。バジルを添えたら出来上がり、お父さんに食べさせるのよ。母さんは料理が苦手なので手伝ってね」
「また、魂胆があるのか。と言われて喧嘩になるのは嫌」
「喧嘩はよくないよ。ももが喧嘩する度に、お父さんの性格に知らず、知らず似てくるよ。お父さんの弱点、知っているから娘よ、安心せよ~ん」
「安心できない。私がお父さんの性格に似てくるなんてもっと嫌。お母さん、本当に大丈夫?」
「迷える汝よ、信じたまえ~ん」
 母は自分の言った事を直ぐに忘れるのがいつもの癖なので信じろと言っても半信半疑だ。しかし、母は相手が言った事を書く習慣があった。自分の言った事は忘れるが相手の言った事を詳細に書いて見解まで付けている。普段は意味のない事を長くて軽い口調で話しているけど、言い争いになると要所を突き、さらに何月何日何時何分こう言いましたよね。と迫ってくる。
 相手が驚いて次の言葉が出なくなる。そんな母だから父の性格を知っているので任せても良いと思った。不安は母が犬を好きかどうかであった。どちらかというと奇妙な動物が好きそうである。
 父の仕事は祖父が起業して継いだもので、大手会社のひ孫くらいの下請けで従業員二、三人の小さな会社の社長であった。最高難度の技術を持っているが給料は従業員以下。利益のあがらない難しい仕事ばかりをしている。
 最新式機械を導入して設計図を描き、金型部品の範囲を超えて積層造形試作機で模擬品を作り完成品の予測までしてしまう。発注者の仕事だ。度々欠陥を見つけても元請業者に言ってしまう。手柄は元請になる。だから利益が上がらない。従業員は祖父の代からいる年配の一人を除いて技術を習得すると直ぐに独立してしまう。
 詳細は知らないが父と母の会話を盗み聞きした。その時は両親の仕事であって関係ないと思い内容が理解しないままに聞いていた。知っていることはやはり忙しいだけの言葉である。後になって母が父の仕事と性格を分析して教えてくれた。
 母は会社の経理をしている。さぞかし不平不満を言っていると思ったが全く言ってない。父の手取り収入が月二十万しかないのに母は別会社を持っていて父の五倍以上の収入があった。
 母はアイデアを生かして独自の製品をデザインし父から独立した会社に生産依頼して通信販売をして収益を伸ばしている。売る店舗を持っているが物を売るより価値を高めるため独特のデザインされた建物になっている。その店舗内に並べた商品をネットで紹介して評判になっていた。母はやり手である。だから今回は信じよう。
 休日の朝がきた。この日も皆で食事をする予定だ。食べ終わるまで席を立たない決まりがあった。母と私は朝早くから予定のメニューを作っていた。
 苦虫を潰したような顔した父が起きてきた。平日の朝に犬や猫などのペットの番組だけをテレビで見せられ、ストレスが溜まっているようだ。料理が並べられた。旨そうである。父の顔が普通になった。そして父はテレビをつけた。ニュース番組がながれている。
 母が「ちょっと待った。見たい番組があるのでリモコンください」
「おいおい、休日だけは選んでいいだろう」
「決を採ります。この番組でいい人は手をあげてください。お父さん一人ですか。却下」
 この展開が何なのかわからず、頑固な父だが口を開けて目をぱちくりさせていた。
「次にかわいいペットの爬虫類。この番組を見たい人、手をあげてください」
 母と私が手をあげた。
「はい決まりました。爬虫類にします」
 母は爬虫類を強調するように声高く言った。父の顔は子供のように拗ねている。私が見る初めての顔だ。
「わかった。もういい」
 椅子から立ち上がって席を去ろうとした。
「駄目です。休日に家族で朝食を食べようと決めたのはあなたでしょ。座ってください」
「俺、爬虫類、気持ち、悪く、大嫌い、」父はもごもごと途切れ途切れに言葉を並べているので動揺しているのがわかった。さらに「子供の頃に山道を歩いていたら毒蛇がとぐろを巻いて首を上げ、口をあけ襲いかかって来たことがあった。一目散に走って逃げて振り向いたら、蛇が諦めないで追ってきていた。本当に怖かった。まだある。親戚の農家で馬を飼っていて仔馬が生まれた。早速、見に行く。仔馬が可愛いので長い時間そこにいたら親馬が急に反対の向きになって尻を見せる。馬の尻はでかいなあ。と驚いた時、その尻から何かが大量にでてきた。また仔馬でも生まれるのかと思ったら糞だ。同時に馬は足を蹴りあげて稾(わら)の腐ったような糞が俺の体に飛んできた。臭いし、体についた糞から湯気まで立っている。泣きながら家まで走って帰ろうとしたら途中で遊び友達と会ってしまった。くせい、あっち行け。追い払われた自分がみじめになり、もっと悲しくなった。わかってくれ」
 今度は同情してもらうため母の感情に縋った。
 母は冷酷に突き放した。
「臭くても駄目です。先々週の土曜の午前十一時四十五分三十秒、もも、が二階の部屋に入った時、あなたは追いかけてドアを叩き、家族の決まりを守れ、まだ誰も席を外していない。と言いましたね」
 父は我に返り、開いた口をきりりと閉めて絶対に屈しないぞ。と決意したようだ。その態度を貫かれたら母の秘策は失敗する。 我慢比べなら母が負ける筈だ。チャンネルを変えて録画していた爬虫類をペットにしようという番組が映しだされた。母だけがはしゃいでいる。父は食べながら時々頬を左右にぷるぷると犬のように揺らす。最後に蛇をペットにしている人の嬉しい顔が映った。金髪の美人の外人さんで小ぶりの錦蛇を首に巻いて「可愛いよ。あなたもペットにしたらいかが?」
 さすがに青い顔をしていたが、これで終わり、ほっとして気が緩んだ。母は父の気の緩みを見逃さない。
「いいな、蛇は可愛い。ペットにしたい。私も蛇を首に巻きたい。似合うかしら」
「え、何、蛇、ペット、駄目だ、駄目だ。びっくりした」
 さらに母は犬だけを小さい声で「じゃ、犬と蛇、どっちをペットにするのじゃ、」と駄洒落てみる。父は蛇の事しか頭になく「蛇は駄目じゃ」つい、言ってしまった。
「ペットにするのは蛇ね」
「え、言っていない。駄目じゃ、と言っている」
「蛇は駄目じゃ、と言っているよ。その意味は駄目を抜いたらどうなる?蛇はじゃ。じゃ、は蛇ですよ。正解だ。ほらね、また蛇と言っているでしょ」
「そんな」
「求めた言葉は駄目か、いいかを聞いていない。蛇か犬どちらと聞いている。どちらにする?」
 父は訳が分からなくなり苦し紛れに「蛇より犬の方が、まだまし」とまた言ってしまった。
「これでペットの蛇は却下。ペットは犬にします。決定します」母は宣言した。
 私は賺さず「異議なし。ありがとう」
 父は蛇でなく犬で安心したようで喜んでいる。
 嬉しい筈の私だけど目的があればどんなことでもしてもよいと思わない。母の軽い言動が好きになれない。それに長い台詞の一人芝居に疲れた。頑固者で融通が利かない職人の父に通用するかどうか疑問に思っていたが誤りだった。父は誘導尋問に引っ掛かったのに気づかず、何故か喜んでいる。その姿が滑稽であり悲しく感じて嫌いであった父に同情して気の毒に思った。
子供が感じる父は厳格で厳しく絶対で強さだけが目立っていた。しかし、やはり父も弱い所があった。母にうまく操られて四苦八苦している姿は普通の父親だった。
 父は食事を済ませ友人のところに出かけた。私は一日中部屋で待っている。午後六時過ぎになった。ホームセンターも閉店の時間が迫っている。もう間に合わない。あれだけ嫌いな動物をペットにすることは心の中で抵抗があるはずだ。駄目でも恨む気になれなかった。
 父が帰ってきた。
「母さん、ホームセンターに犬を貰いに行くぞ。金、用意して」
「はい、わかったよ。もも出ておいで」
 私は嬉しさのあまり部屋の中でドン、ドンと跳ねた。
 父は私が転んだと思い「大丈夫か?」「はーい。大丈夫です」と明るく返事をした。
 三人は急いでホームセンタ―に行った。閉店前の動物コーナーは客がいない。静かだろうと思ったら意外とうるさい。客がいなくてほっとした動物たちがケージ越しにおしゃべりでもしているのかなあ。と勝手に想像した。
 私と母は全部のケージを見て三匹に絞った。一匹、一匹、抱っこする。最後に小さいミニチュアダックスフンドの雌を抱っこしたら尻尾が千切れそうになるくらい振っている。嬉しくて、くちゃくちゃ、の顔に尻尾が勢いよくあたった。
「いやだわ~、きゃ~」
 声を出しながら抱えている手を顔から離した。それでも、あたったが顔を反らしながら笑っている。
「こんなに笑っている、ももを見たのは初めてよ。さあ、この犬に決めなさい」
「は~い」返事をしながら父を捜した。動物が嫌いな父は遠くの入り口付近にいた。声をださないで、この犬でいいかいと指をさした。父は小さい犬で安心し両手をあげて丸をかいた。早速、手続きに入る。
「三ヶ月間は指定の動物病院で無料検診が受けられます。ここに住所と名前を書いてください。それと犬ちゃんの名前を書いてください」
「あの、名前はまだ決まっていないのですが、、」
「マロンにしましょう。いい名前でしょ」
「そうですか。マロンちゃんにしますか?」
「でも父がもう車に戻ってしまいました」
「どうせ主人は変な名前をつけるので考えなくていいでしょう。娘の名前はもも、変でしょう」
「私は気に入っているし、友達も可愛いと言ってくれる。お母さんこそ変な事、言わないで」
「確認します。届出人はももさんで、よろしいですね。犬ちゃんの名前は明日電話をするまでに決めといてください」
 受け渡しは明日だが、私の願いで、どうしても今日、連れていく事になり車の中で家に着くまで犬を抱っこしていた。家に着いた。三人と一匹の生活が始まる。
「どうする。大きい物置もあるし、外で飼うか」
「お父さん、やめて、死んじゃう」
「昔は皆、外で飼っていたのだが、、」
「今の犬は違うの。どうしても外が良ければあなたが外で暮らせば。とにかく家に入り家族会議を開こう。あなた、物置から段ボール箱もってきて」
 母は父からカギを預かり、私は犬を抱っこして家に入った。母も入りドアの鍵をかけた。
「お母さん、まだお父さん、家に入ってないよ」
「いいの。あんなこと言うから仕返しよ。それより、マロンどこで飼う」
「二階で飼うのが理想だね。お母さん。まだ名前がマロンと決まったわけでないよ。勝手に決めたらお父さんに悪いよ。でもいい名前だね」
「そう、そう。この家は二世帯住宅だから、二階でマロンを飼いながら食事ができると便利だよね。ついでにお父さん、一階で寝てくれないかな?」
「お父さんを嫌いになったの?」
「嫌いでないけど、ベッドで寝ないのが嫌なの」
「どういうこと」
「畳や床に蒲団を敷いて寝るのが一番良いというの。そして蒲団をあげたり、敷いたりして埃が舞いあがるのが嫌なのよ」
 そこへ父がきてドアノブをカチャカチャしている。それでも開かないのでチャイムを五回ぐらい鳴らした。
 母が、とぼけながら、「こんな夜分、遅くにどなたさまですか?」
「俺、俺、開けて」
「おれ、おれ、サギのおれですか?」
「違う、夫の俺だよ。開けて」
「よ~く、顔をみせてください。はは~ん。昔はハンサムだったけど、今はやつれているね」
「そんなことより、虫に刺されて痒い。開けて」
「ごめん、ごめん、鍵をかけちゃった」
 父は穴を開けた大きな段ボールを抱え怒りながら入ってきた。母は笑いながら、「ご苦労さんね」私は父と母の事で疑問があった。母が父に対して何かをしても本気で怒られたりする深刻な状態は一度もなかった。不思議だなと思いながら三人と一匹の家族会議が始まった。途中のコンビニで買ってきた、おにぎりを食べながら父が最初に話し出した。
「外で飼うのが駄目なら家で飼うしかないのだが一階は御客が来るので犬がいたら困る。二階はどうだ」
 母は思惑通りと言う顔をして、私の方を見たので従う目をして合図をしたら喜んだ。
「二階は食事の時に皆が一階にいったら誰もいなくなるし、困ると感じる」
 母は曖昧な言葉を使い一応反対する。本当の目的は新しい最新式の冷蔵庫を買わせる事であった。母は収入がある。しかし、父の顔を潰すわけにもいかない。
「元々、二世帯住宅だから冷蔵庫を置くと、それだけでキッチンになる。起きてすぐ飯を食えて便利だ。犬にもすぐ餌をやれる」
 私はこれも不思議に思った。性格が全く違う父と母、そして私だが考えていることは同じである。
「一階はお客さんが来た時に冷たい飲み物や果物を出したりするのに冷蔵庫が要るし、二階にも冷蔵庫が必要よ」
 父は少し考えて「新しい冷蔵庫を買ったらどうか?」
 母はまた目で合図、あとは父が下に行ってくれと言う顔だった。無理と目で言った。母は内心ご機嫌で父のことをパパッチと呼んだ。
「ん~ん、そこまで言うならパパッチのお願い聞いても良い。その代わり一つだけ条件があるの」
「なに?できる事なら何でも聞くよ」
「パパッチが犬の散歩を毎日させる」
「え、動物が嫌いな俺がするの?この犬コロ言うこと聞くかなあ、、」
 その時タイミングよく犬が「ワン」と言った。母と私は堪え切れず笑いの息を吹き出した。
「パパッチ、ワンちゃんもお願しているのよ。いい?」
「仕方がないなあ。犬コロ、言うことを聞けよ」
 父は犬を見た。私に抱っこされている犬は父を見て小さな声でウーと唸った。
「休みの日に散歩させるから、ももからも、お願い」父がつけた名前で甘えてみた。
「次に名前をつけますよ」
「犬だから犬コロがいい」
「賛成の人、パパッチだけ、却下」
「庭に栗の木があるのでマロンです。お父さん、ゴメンね」
「母も賛成だからマロンに決定。新し家族はマロンです」
 私がマロンのお尻を少し痛くない程度につねった。マロンはワンと吠える。これでマロンという一番小さい家族が増えた。早速、マロンを二階に抱いて連れて行く。「パパッチ、段ボール箱をあげてくれない?それと階段から落ちないように柵を作って欲しい。ママッチはエサと水の用意いして」
 不思議だった。父と母に、これして、あれして、と頼んでいる。名前さえパパッチとママッチと呼んでいる。それを両親が何の違和感もなく受け入れている。今までは家族であって家族でなかったような気がしていた。今は家族である。そのことが驚きであった。
 父の置いた段ボール箱にマロンをそーっと入れた。
「マロン、段ボール箱で我慢してね。明日、新しいケージを買ってくるからね」
 マロンはおしめパットを敷いている段ボール箱が気に入っているらしく、ごろんと横になっていた。三人はそれぞれ部屋に入って寝る準備をしている。マロンはむくっと起き上がり父の作ったダンボール箱の入り口から覗く。
 犬だからわからない筈だが鼻をぴくぴく動かして嗅いで、ここが台所か?台所の向かいに廊下の入り口があって洗面所、おいてないけど洗濯機置場。その奥にはクン、クンこの匂いトイレか、そう感じていそうである。
 そして少し広い居間を通りドアが開いていたので覗いた。
 母が見つけ「マロンおいで」尻尾を振り母のもとに行こうとした時、「犬コロ来た」父が大声で言ったので、びっくりして走って逃げた。
私は以前なら部屋に入ったら必ず鍵を閉めていた。今はマロンが気になりドアを少し開けている。マロンが部屋を覗いた。気がつき「マロン、こっちへおいで」マロンは尻尾を振り近づいてくる。手がとどきマロンの頭と背中を撫でた。尻尾が益々早くなる。
 父は敷蒲団を敷いた。
「母さん。シーツ、どこにある?」
「一階の物干し整理棚に入っているよ」
 この家は自分のことを自分でする決まりがある。父は取りに行った。
 マロンは部屋から出てきて、うろうろしている。もう一つドアが閉まりかけの部屋があった。マロンが、この部屋は誰の部屋だろうと考えるわけがない。しかし、ドア越しに匂いを嗅いでいた。
 部屋の中にいる母が「マロン、マロン」と呼んでいる。マロンは部屋を覗いた。父がいないので尻尾を振りながら母のところに行った。二、三回、撫でられた時、私も「マロン、マロン」と呼んだ。
 マロンは一目散に走ってきた。また母が呼んでいる。何回も出たり入ったりしている。マロンの舌がびよ~ん、と伸びて、はあ、はあ、息を吐き出し、ついに疲れて敷いていた蒲団に腰を落とし顎まで付けて休んだ。そこに父がシーツを持って戻ってきた。
「こら、犬コロ、どこで寝ている」
 マロンは慌てながら走って段ボールハウスに隠れた。
 敷蒲団にシーツを広げ、枕を置いた時に濡れているのがわかった。
「ママッチ、シーツ、まだ乾いてないよ」
「そんな筈ないけどね」
 ママッチはシーツを剥いでみた。
「蒲団が濡れているよ」
「どうして?あ、あの犬コロ、やってくれたな」
 父はマロンのハウスに来た。
「犬コロ出ておいで粗相をしたのかい?」
 マロンはじっと隠れている。父が作った段ボールハウスは便利だ。上から見られないので安心して隠れることができる。心配して部屋から出たら母も来た。
マロンの代わりに「お父さん。ごめん。つい我慢できなくてしちゃったの。マロン、反省しなさいよ。だから今日は怒らないで」
「わかった。犬コロ、蒲団は駄目だぞ」
「お母さん。マロンのしつける場所どうする?」
「必要だね。洗面所前の洗濯機置き場にしよう。排水口もあるのでおしめパットを敷いとけば洗えるいい場所よ」
「明日からしつけるね。マロン覚悟しなさいよ」
「くう~ん」
「ところで、パパッチはどこで寝るのよ。狭いけどママッチのベッドでくっ付いて寝ましょう」
 咳払いをしながら緊張して「プ、プライベートのことは自分たちの部屋で語ってく、くれ、、」
 マロンも出て来て「ワン、ワン」
「犬コロのせいだぞ。蒲団におしっこするから」
「パパッチのお母さんが言っていたよ。小学五年まで、おねしょ、していたって、、」
 今度は父が咳払いして離れで寝ると言い出した。
「パパッチ、いいの?」
「いいさ、犬コロうるさいし。暫くは父と寝るさ。ここの土地は工場を含めて二百五十坪あるけど無事に残ったのは父(祖父)のおかげでもあるよ」
「祖父の離れ、伯父さんたちが幽霊出ると言っていたけど本当?」
「本当さ。この家を壊す時に離れを残した理由がそれさ。兄たちが相続で土地を処分すると決めた時、困ったなあ。親会社の生産拠点が海外に移り、経営はかなり苦戦していたので兄たちは誰一人継がなかった。父(祖父)は離れだけが生きがいでどんなことあっても残せと言っていた。父(祖父)が死んだ時、工場は納期があるので直ぐに壊せない。元家を壊し土地を売って遺産分けする事になった。母屋は直ぐ壊したが、離れは壊そうとするたびに事故になる。業者を代えたが事故が起きて壊せなかった。兄たちはお前が継いだので責任を取れと言って銀行に行って八千万円を借りさせられた。土地と工場と離れは残ったが返済は月六十万、苦しかったな」
「その金どこに使ったの?」
「四人の兄達が持って行ったよ」
「家族ってそういう事するの?」
「そういう家族もいるよ」
「お母さんはどう思った?」
「私はまだ結婚もしてないし。お父さんを知らなかったし。大手の銀行に勤めていた時に手形で相談しに来たので実情を聞いて驚いた。母と同じ年の二十代でこの借金は多すぎると思ったね。行く先は決まっていたね。金に困って若い経営者、何とか~ってことよ」
「そうなっていたら、結婚もできず、私は生まれてなかったの?」
「そうだよ」
「それがどうなって、何故、結婚したか知りたい」
「取引をしている信用ある不動産で調査すると価値があるみたい。お金をかけないで収益をあげる方法を考えたら商店街に近いので駐車場にするのが一番良いと結論がでた。地盤整備は道路整備で出る再製材料を使うとほぼ金がかからない。あとは支店長と相談して他銀行の融資を借り換えて低金利にする」
「お母さん。すごい。どうしてそこまでできたの?」
「先祖が網元の鰊場を経営して母方の実家が近江商人で商いが好きなの。一応、大学を出て本店採用だけど生意気な女ということで地方の支店に勤務したのよ。不良債権を優良債権に換えるのが仕事よ。ここの支店長は話の分かる方で自由にやって良い。その代わり責任は厳しく取ってもらう。と言ってくれた。早速調査した。お父さんの土地は地方銀行と評判の悪い不動産屋がタックを組んで競売(けいばい)にかけてマンションを建てる予定の情報が入っていた。そうでしょう。お父さん」
「あの時は本当に感謝したよ。ありがとう」
「お母さん。すごい。見直した。高校は意味がないと思って辞めようかなと決めた事もあったが勉強して大学へ行きたくなったけどいい?」
「いいけど、その代わり朝ごはん、毎日、ももが作ってくれない」
「それはちょっと。でもお母さんの見かたが変わり、ちょっと尊敬するね」
「もも、肝心な事、忘れていない」
「何だっけ」
「お父さんと何故、結婚したかってことよ」
「そうだ。それよ」
「もも、恥ずかしいので聞いたら駄目だ。ママッチ、話さないで」
 家族の事を何にも知らなかったがマロンが来て初めて知った。マロンを許してくれた父に感謝して聞かなかった。
「明日、早いからもう寝るよ」マロンが覗いたので一緒に寝た。
 母は父の寝床を作るので手伝ったが戻ってくる気配がなかった。
 家族か~と一言いいながら寝た。朝早く起きてマロンを散歩させ、手作りパンでサンドイッチを作りハムと目玉焼きにトマトサラダを付け朝食を用意した。
 父と母は離れでまだ寝ているのでメモをおいた。
 マロンは散歩しました。餌と水を取り替えました。図書館へ行ってきます。と記した。
 重いバックを背負いバスに乗り図書館に行った。本を広げ参考問題を解いた。苦戦していた数学も解ける。暗記物も簡単。自分自身が今まで何をやっていたのか?と思うほど不思議だった。勉強しても疲れない。
 区切りがついて、窓の外を見ていたら昨日の場面がドラマのように再現させることができた。自分が笑っている。それは何も考えず心から自然に振る舞っている姿だ。父と母がいる。笑ったり、怒ったり、しているがびくびくすることがない。家族の信頼があるからだろう。
 図書館も閉まる時間が来た。
 バスに乗る。いつも降りるバス停の一つ手前に降りると広い公園が見えた。父が約束を守っていたらマロンを散歩させている筈だ。犬がたくさん散歩している。みんな飼い主と一緒にすいすいと歩いている。その中でぎこちなく止まったり、歩いたりしている犬がいた。マロンと父であった。直ぐに声を掛けないで遠くから見ていることにした。
 父がリードを引っ張って歩くと腰を落とし前足を突っ張り抵抗している。父が止まると歩き出す。マロンと父はライバルで主導権争いをしているように感じた。その時、大きな黒い犬が近づいてきた。マロンは怯えながら吠えたが、黒い犬は動じない。お尻をクンクン嗅いでいた。マロンは怖くて尻尾をまるめてお尻を隠したが、それでも臭いを嗅いでいる。耐えきれず前足を父の足に乗せクンクンと鳴いた。
 気づいた父は抱っこをした。黒い犬は諦めて離れて行った。マロンは安心して下ろしてくれるよう吠えたて、またライバル心がでてきた。止まったり歩いたりしていたが急に走り出し父も引きずられ走っている。
 マロンは私に気づいて走り、近くまで来て尻尾を立て大きく振っている。
「お父さん、代わろうか?」
「あ、あ、良かった。先に帰っていいか?」
「このバック持って帰って」
「いいよ。重いな。なに入っているの?」
「漫画とか」
「遅くならないうちに帰ってこいよ」
「はーい」マロンとキャッキャッ、ワン、ワンといいながら楽しく遊んだ。
父が家に帰ってきた。
「あれ、マロンはどこ?」
「公園でももに会ったので犬コロ、任せた。これはもものバック」
「とても重いけど何が入っていているのだろう?」
「漫画らしいよ」
 ママッチはバックをこっそり開けた。教科書や問題集が入っていた。ももが自分の将来を考えて本気になっていると感じた。つい最近まで高校さえ辞めると言っていたが大学を目指しているのだろうか。その事が母親として嬉しく感じた。
 高校の最後の夏休みに入り遊び友達の誘いを全て断り毎日、図書館に通った。帰りはいつものように公園に行く。やはりマロンと父は意地の張り合いを未だにしている。絶対的な力を持っていたと思った父親だが純粋な少年のように見えた。マロンと同じ目線で接しているからだ。言うことは言う。しかし今、考えると反発してもそれ以上追求しない。犬を飼いたいと言った時に駄目だと反対され部屋に引きこもって鍵をかけた。父の言葉は決められたことを守れと言いに来ただけであった。それと同じようにマロンを散歩させると決めたから仕事が忙しくても天気が良い限り公園に来ていると思った。
「やあ、お父さん。交代の時間ですよ。バックお願いね」
「もうそんな時間か?犬コロをだいぶ調教させたのに。では頼んだぞ」
 マロンは調教なんかされていないというように「わん、わん」と吠えた。
 お盆の前に久しく会ってない姉のりんごが大学一年生の正月以来二回目の帰省をしてきた。来年でもう四年が過ぎるので卒業だ。
 図書館が今日からお盆休みに入ったので自宅で勉強をしていた。
 誰かがドアの鍵をカチャッと開けたのでマロンが激しく吠えた。誰かは玄関を通り抜け一階の居間から階段を上り二階の居間に入ろうとした時に柵の裏側で初対面のマロンが吠えていた。
「この犬がマロンか?マロン、マロン、よし、よし、お利巧、頭を撫でてあげよう」
誰かが手を出したら警戒して「ううう~」と少し唸った。さらに唸ろうとしたが匂いを嗅いだら気になっている部屋と同じ匂い気づいた。きっと家族に違いないと思い安心して尻尾を振った。
りんごは一度引っ込めた両手を伸ばし、顔を撫でながらマロンと呼んだら喜び過ぎて嬉ションをしてしまった。
妹が部屋から出て来て「お姉、お姉ちゃん帰ってきたの。久しぶりだね。マロンのおしっこ拭いとくね。疲れていそうだから休んで。あとで紅茶とケーキ用意するから食べてね」「うん」といいながら妹の変わりように戸惑い驚いた。
 姉が部屋で休んでいるとドアがカチャカチャと音がしている。
 ドアを開けたら「ワン、ワン」ケーキの用意ができた。と教えに来たような気がした。早速テーブルに行って見るとケーキがおいしそうだ。
「お姉ちゃん。紅茶にミルク入れる?」
「うん、砂糖も入れて」
「大学、楽しい?」
「すごく、楽しいよ。気が付いたら四年生になってしまった。卒業したくないよ」
「就職大変じゃないの?」
「それが全然、大変じゃないのよ」
「決まったの?どこ」
「親に絶対内緒よ。実は一年生の時から決まっていたの」
「ほんと」
「就職先の奨学金を貰っていたの」
「貰う?奨学金は返すものでしょう。それにお父さん借金で苦労したらしく凄く嫌がるでしょう」
「それが、奨学金は返さなくていいの。月六万かける十二かける四。いくらになる」「すぐに計算できない。だから、えーと、、、二百八十八万になるよ。凄くて訳が分からない。就職しても給料を減らされんじゃないの?」
「それはない。ない。ボーナスも出るし問題なしね。仕送りを含めて月十六万の生活だし、アルバイトも入れると二十万以上よ。海外旅行に三回もいったので帰省する暇がなかった」
「いいな、いいな、私もお姉ちゃんの大学に行くよ」
 姉の話をじっくりと聞いていた。姉は家族の仲立ちをするような自分の意思を見せない中間的な存在。父はがちがちのどうにもならない存在。母は賢いのか、単に飛んでいる軽薄か、わからない存在。その全てが根底から崩された。それぞれ、長所と短所を持ち互いに補っていた。何も知らないで幼く無駄に反発した自分だけが恥ずかしいと思った。
 足元でじっとしていたマロンのおかげで家族の事を知った。時々二人の足を舐めている。
 突然、マロンが吠えだした。携帯に電話がかかってきた。
「お盆前の明日午前中までに納品しなければならない。機械を止められず手が離せないから父と母を待たないで夕ご飯食べてね。お父さんがカレーライスを食べたいので用意しておいて。下のキッチンのところにインスタントカレーがあるのでお願いね。お湯を沸かすだけでいいから」
 母が一方的に電話を切った。
 姉に相談したところ「インスタントカレーなら可哀そう。本格カレーにしよう。マロンを散歩させて肉とカレールーを買ってくるとつくれるよ。ポトフと同じよ」
 マロンを公園で暗くなる前の六時半まで遊ばせた。そして近くのスーパーで買い物をした。家に着いたのは七時を過ぎていた。
 急いで肉と野菜を切ってニンニクと生姜を入れて少し焦げ目をつけて圧力鍋に入れた。鍋の蓋を取るまで一時間。サラダを作り、ルーを入れたら八時四十分になった。
 またマロンが激しく吠えた。
「犬コロか」
「マロン、マロン」と呼ぶ声がした。
 二階から下に向かって「お風呂入れたけど、先に食べる?」
 インスタントカレーと思い「先に食べる」と言って上がってきた。
「席について」
 二人を座らせた。テーブルの上には何もない。のれんの下から手が出て盛り付けしているサラダの皿がカウンターに並んだ。それを最初に運び、次にカレーも運んだ。
「キッチンに誰かいるの?」と母が聞いた。
「マロンに手伝ってもらったの」
「あれ、マロンは足元にいるよ」
 マロンが「ワン、ワン」と吠えた。そこに姉が出てきた。
 父は私と姉を見て何も言わないでカレーをスプーン三杯連続で食べた。
「お父さん、おいしいね」母が言ったがまだ何も言わない。
 父は瞳の奥の心の中にうれしい涙を閉じ込めていたが、ついに気持ちがあふれて目から涙を流してしまった。皿に残っているカレーを全て食べ空にして「ありがとう」の言葉を残して階段を下りて行った。
「お母さん。お父さんどうしたんだろう?泣いていたね」
「皆で食事をしたのが三年ぶりなのに、あの性格だから口で素直に言えなかったのよ。りんご、よく帰って来たな。二人でカレーライス作ったのか?うまくて嬉しいよ。と言えばいいのにね」
「違うよ。お母さんがいつも手抜きするから思い出して泣いたかも?」
「そうかな?りんご」
「お母さん。お姉ちゃん。取り敢えず感謝のありがとう。と言ったのでどっちでもいいよ」
 マロンも「ワン、ワン」と吠えた。
 朝が来た。両親は食パンをかじりながら仕事に行った。従業員は休みでもう来てない。納入先の企業に製品を納めて十時過ぎに工場へ帰ってきた。工場の片付けをして「お母さん先に家に帰っているよ」
 母は伝票を処理しながら「スーパーに寄って焼き肉の材料を買って帰るから」
 姉は遅い朝食を食べていた。私は朝から勉強をしていた。姉はマロンを散歩させる予定だったが寝坊して何もしていなかった。
 マロンが激しく吠えた。父が帰ってきた。姉を見て「昨日はありがとう。元気そうで安心したよ」
「お父さんも元気だった?仕事を頑張り過ぎて休まないで働くと病気なるからほどほどにね」
「わかった」
私は部屋から出て「お母さんはどこ?」
「明日から盆休みだから外で焼き肉をするための材料を買いに行ったよ。もうすぐ帰ってくると思う。それで提案があるのだが波の音が聞こえる海辺はどう?一泊するけどね。昔、買って一回も使っていない四人用のテントがあるから家族みんなで行こう」
「お父さん、一回使ったよ。庭にテント張ったよ。私(りんご)はいいけど。ももは受験だから行けないかも?」
「私なら平気。この頃、成績が伸びている。お姉ちゃんの大学に入ろうとしているので楽勝よ。それよりマロンを砂浜で思い切り走らせたいの」
「マロンを走らせるのは賛成だが失礼だね。落ちれ。落ちろ」
「嫌だ。嫌だ。入りますよ」
 母が帰ってきた。マロンが直ぐ気づき吠えた。昨日の残ったカレーを食べたら十二時半過ぎには行ける。四人は早速準備した。「お姉ちゃん、水着持っていく」「持っていかないよ。海水浴場じゃないもん」母だけが水着を持った。荷物をワンボックスカーに乗せ出発した。途中で昔ふうの店に寄った。店のドアを開けるとカランコロンと活気のない音がして居間の方から覗いていたおばちゃんが出てきて「いらしゃいませ」と低い声で言った。しばらく棚の商品を見ていると、「ここにはトイレはないからね」「いや、花と線香とローソク、お菓子をください」と言ったら「店にトイレはないけれど家の方にはあるので使ってもいいよ」と言ったのでお父さん以外は借りた。私はお菓子の賞味期限を見たがぎりぎりセーフだった。車は走る。家族で出かけるのは私が小学四年以来である。泊は初めてだ。最初に行くのは祖父の墓にする。祖父の墓は当別町の獅子内にあり、祖父の実家の大きな墓の隣の小さな墓である。実家は大きな農家であった。兄弟がたくさんいる中の末っ子なので土地は分けて貰えなかった。
 馬具と蹄鉄を作っている個人経営の工場で働いた。皮を鞣し寿都町浜中で採れた刀などを作る最高級の砂鉄を使い石炭で赤く溶かし鉄の塊を作った。それを金槌で打って伸ばし蹄鉄を作る。鉄なのに錆びづらく馬が喜ぶ程の出来で評判が高かった。しかし馬と人の繋がりが切れて時代が変わり工場が廃業してしまった。職場も辞めなければならず仕方なく札幌へ出てきた。
 遠縁の玉葱畑の一角で石ころだらけの土地をなけなしの銭で買い、自分で小屋を建て鍛冶屋をやり家族で住んだ。その後、道路ができ周辺の街並みができて発展した。道路の補償金が入り、これを元手に工場を建て金型と部品も作った。経営は順調だったが海外生産という時代の波を被った。祖父は苦労したらしい。父が職人仲間に話している事があった。私は幼かったので意味もわからず、興味もなかった。しかし、マロンが家族になり、家族の事が知りたくなる。
車は太美駅から直線に走り、最後の信号を渡ると獅子内の墓地についた。細い側溝が有って雨が降ると丘の方から水が流れる。普段は乾いていることが多い。そこを渡ると尾根に挟まれたくぼ地があった。浅い谷のようになっている。周りは岩肌でなく森林になっている。入口付近の道路沿いは風が走っていた。墓があるくぼ地の中の方に行くと風がなく生暖かい。くぼ地を囲っている木々は緑が濃く純白の積雲が覆いかぶさっているように見える。空は青く広がって緑と白と青が太陽の強い光で反射して水をかけた黒御影石の石塔に映し出されている。マロンも神妙に座っている。
キジバトのゆっくりした低い声でセレモニ―が始まった。ローソクに火がともる。橙色の炎が真っすぐ立っている。線香がつけられ、煙がゆっくり流れて広がる。蝉の声が力強く鳴き始めた。大勢の人が第九を歌うように感じた。
おじいちゃん、おばちゃんお参りに来たよ。顔は知らないと思うけど姉のりんご、私はもも、そして犬のマロン、父と母と家族一緒です。見守ってくださいね、と心に念じた。大丈夫、守っているよと言う声が聴こえたような気がした。家族で手を合わせてローソクの火が消された。
 墓地の上に石狩平野を見渡せる丘があるので車をここに置いて歩くことにした。車道は続いているが、車は緊急以外通れなくしている。たまに健康のために走っている人がいるだけでほとんど人がいない静かなところだ。
 父はマロンのリードを引っ張っていたが思い通りに行かない。逆に引っ張られたりしている。仕方がないので安全を確認してリードを外した。マロンは喜び道路を上ったり、下ったり、嬉しそうにしている。調子に乗り沢へ落ちそうになった。「犬コロ、危ない」父がリードを持って追いかけた。マロンは姉のところに行って助けを求めた。姉はマロンを撫でた。父がきてリードを付けようとした。マロンは慌てながら母のところに逃げた。「あなた大丈夫よ。好きにさせて」「そうか、そうするよ」マロンは安心して口角が緩み姉や母や私のところに尻尾を振り行ったり来たりしている。時々父と顔を合わせたらそっぽを向き前の方へ走り出した。アスファルトの上に虫がいたので興味深く覗いて匂いを嗅いだ。虫は四、五匹いたが犬が来たので一斉に飛び跳ねる。バッタだ。マロンは驚き一緒に跳ねて父のところまで来て足に絡みついた。怖い時だけ父に抱っこを要求する。抱っこして少し歩くと丘の上にあるレクサンド記念公園に着いた。
 この公園はスウェーデン王国レクサンド市と当別町が姉妹都市になって提携20周年を記念して造られた。ここからは石狩の田園風景の緑が輝いて広がっているのを展望できる。公園内にはレクサンド市から寄贈された大きなダーラナホースが親善の象徴として設置されている。ダーラナホースは幸せを呼ぶ馬として愛されて、親しみを持ってレックと呼ばれている。大きなレックを中心にして右横に小さなマロン、私、姉、左横に母、父、家族が並んで記念写真を撮った。私たちは車に戻り手稲から高速に乗り小樽の港の大きな船を車中から眺めてニッカウヰスキーで有名な余市まで来た。余市からはまだ高速ができていないので一般国道を走った。稲穂峠のトンネルを抜けて岩内の手前にある共和村に着いた。広大なスイカ畑が見える。露店で西瓜を買うことにした。ここのスイカはらいでん西瓜といって北海道でトップブランドとして有名である。露店の農家のおばちゃん達が忙しそうにして店を閉める準備をしていた「もう閉めるのですか?西瓜を買いたいのです。おいしい西瓜ありますか?」「うちで作っている西瓜は全部うまい。有機肥料で土作りをしているので甘くておいしいよ。ただ形のいいのは売り切れた。いびつだけれど味は変わりなく美味しいよ。もう三個しかないけどね。選びな」「三個全部ください」「お母さん。三個は多すぎる」「大丈夫だよ。もも。余ったら家で食べるから。心配しないでいいよ」「うちの西瓜は毎朝、直接、畑から収穫するので都会のスーパーで売っているのと鮮度が違う。お嬢さんと同じでぴちぴちしている。三、四日経っても問題なしね」露店のおじさんが横から入り込み口出ししてきた。「私(母)はぴちぴちしてないの?」「そうだなあ。奥さんは三日間、雨が降って四日目に収穫。まだ大丈夫って感じかな」父はニヤニヤして聞いていた。姉はお母さん余計なこと言って時間を無駄にしている。早くいかないと海におちる夕日が見られなくなると心配だった。マロンは窓から覗いて鼻をくしゃくしゃさせながら畑の臭いを嗅いでいる。「なにそれ、どういう意味?西瓜要らない」「そんなにぷんぷん怒らないで。お嬢さんの名前はももさんですね」「それがどうしたの?」母はむかっとして言った。「桃、二山サービスするから機嫌を直しておくれ」「うあ、うれしい。お母さん買おう」「桃より蜜柑が好きだけど」「地球温暖化でも北海道に蜜柑の木は育たない。桃の木は育つので、はい、桃サービス」母は車に乗ってもまだ怒っている。岩内に来た。岩内は人口の割に寿司屋が多い町だ。「寿司でも食べていくか?」「海に落ちる夕日が見たいのでこのまま走って」姉が言い、マロンもワンワンという。岩内を抜けた。ここからは海岸線の国道を走ることになる。左側は古い漁師の家が並んでいる。空き家も多い。冬になると海の方からの風が強く屋根のトタンが錆びて雨水が入り朽ち果てようとしている。百年以上経っていると思われる古い家屋も見えた。明治時代からから始まった本格的鰊建網漁法により昭和の初期まで飛ぶ鳥を落とす勢いだったが百年以上の歳月は人々の生活を変えてしまった。ところどころに残るレンガの倉庫が面影を忍ぶことになる。目的地に向かって海岸を走ると雷電岬に着く。岬には伝説の弁慶の刀掛けという大きな岩が壮観で日本海に突き出ている。右には積丹半島、左にはまだ見えないけど寿都町の弁慶岬がある。雷電岬はその中間地点である。国道の上には何件かのホテルがある。圧倒する岬の岩に比べると小さく見えた。母も父も始めて通る道に感動し興奮している。長いトンネルに入り、やっと抜けたと思ったらまたトンネル。トンネルの間は雄大な岩と海が見えるが余裕がないので観賞できない。狭いトンネル中で時々大型トラックが走ってくる。札幌から函館に向かう大型トラックだ。このルートは二線ある。一つは俱知安町を通る山道だ。もう一つは岩内を通る海岸道だ。山道の方が若干近道だが、起伏がある分大型トラックは燃料の消費が多い。海岸道は平たんなので燃料が少なくて済む。しかし、道路は狭く特にトンネル内は危険であった。大型トラックが通る度に振動で揺れてはじき飛ぶ可能性がありそうで心配だ。大型トラックはセンターラインからはみ出すこともある。トンネル区間は十キロ以上あって、間の開口部は一キロちょっとしかない。難所の連続でトンネルを掘るのに苦労したと思われる。やっとトンネルを抜けた。ここは磯谷郡蘭越町字港で大きな川が流れている。ニセコの山々や羊蹄山方面が源流の尻別川だ。山の方を見るとほとんど森林だ。平地は農地が広がっている。他の産業がないので川の水が汚れない。きれいな水を好むヤツメウナギが生息している。川を超えるとまた長いトンネルがあった。トンネルのすぐ手前に信号があって商店がある。店先には魚が干して並んでいる。「パパッチ、車止めて」信号が青なのにいきなり止めたから後続の車にクラクションを鳴らされた。「お母さんどうしたの?トイレ?」「それもあるけど、ヤツメを買おうと思って」とにかく車を降りた。「ヤツメってお菓子なの?」「お姉ちゃん、違うよ」「確かに似たような名前があるよ。川に橋があり、渡ろうとしていた男の名前がヤツであった。橋を渡ったら菓子屋がある。その菓子屋でお菓子を買うように頼まれた。でも男のヤツは何のお菓子を買うのか忘れる。頼んだ人はもし、何を飼うか忘れたら橋の途中で川を覗けと言われた。覗いたら男と橋が写真のように写っていた。男は思い出した。何だと思う。ヤツハシよ。。本当はウナギやヘビのようなもの」「嫌だ。そんなもの食べないよ。ねえお姉ちゃん」父も顔色が変わっていた。母は父を無視して「店員さん、ヤツメウナギありますか?」「昔はあったけど今はないね。その代わり寿都の浜中に流れている川の河口付近で獲れたモクズカニがあるよ。生きているよ」父は指でバツをした。「はい、ください。モクズガニを三匹、ホタテ四枚、イカ四杯、ね」これらをアイスボックスに入れて車はトンネルを抜けた。ここからは寿都郡寿都町磯谷である。今は寿都町であるが元々磯谷町であり磯谷郡であった。海がさらに広がる。「うあ~、海が眩しいくらい綺麗だね。遠く見える小さな町が寿都町。その先が弁慶岬。お母さんここで生まれたの?」「違うよ。東京で生まれたよ」「え、知らなかった。お姉ちゃん、知っていた?」「知らない。初めて聞いた」「寿都には先祖の墓があるだけだよ」車は海岸通りを走っている。船はお盆休みで一隻もいない。時々波が岩にあたり白い粒が散らばって輝いているだけだ。風があるようだ。岩場を過ぎると目的地の浜中で砂浜が広がっている筈だ。コンビニの向かえにある小道を車で行くと視界が広がり砂浜があった。海岸の砂地には所々にハマナスの花が咲いている。あと砂混じりの草地が広がってコンクリートの道で区切られている。海水浴場でないので奥の方はほとんど人がいない。テントを張る場所を決めるのに降りた。車の横にテントを設置することにした。
私と姉は離れてしゃがんでマロンを呼び合う。マロンは耳や尻尾を矢のように真っすぐ伸ばし砂を蹴って走っている。近くに来ると尻尾を大きく振り撫でてもらい、また走り出す。私と姉のところを駆けずり回っている。
「リンゴ、もも、四時を過ぎたので墓参りに行くよ。車に乗って」
車を走らせたら十五分くらいで町営墓地に着いた。寿都町は国道を挟んでなだらかな傾斜になっている。三千人を切っている小さな町である。主な産業は漁業であり、水産加工である。町は衰退し活気がない。町長は人口が減ることによって財政が破綻し町そのものが消滅してしまう事を恐れていた。打開策を考え安易な事と思われるが交付金目当てで国の政策に協力しようと全国各地の原発から出る人体に危険な高レベル核のごみを保有できる施設を誘致しようとしていた。これは一町村の問題でなく北海道全体の問題だ。仮に一町村の問題だとしても小さな町なので人と人が絡み合い。友人や親戚や近所の人、全て顔見知りである。その町民が町長の発言で二つに割れ賛成や反対で元の平和な状態に戻れなくなってしまった。お祭りや他の催しなど人が少ないので協力しなければ何もできない。経済の破綻の前に人と人の繋がりが切れて地域崩壊の危機に直面している。町民が町長宅に火炎瓶を投げた。田舎の町としてはあり得ない事だ。この先どうなるのだろうか?壊れた人間関係は修復できないだろう。
過っては鰊が大量に獲れて経済が繁栄している時代もあった。 大正七年の北海道漁業家番付を見ると大関、岡田金作、関脇、佐藤栄五郎など二十番以内に七家入っているほど鰊が獲れた町であった。小樽にある有名な青山別邸の青山留吉でさえ大正七年の番付は三十八番目だった。
岡田家のレンガ倉庫や佐藤家の鰊屋敷だけでは寿都町がいかに繁栄していたかわからない。しかし、墓地の下にある大きな寺の多さでわかる。
「お母さん、先祖の墓どこ」
「昔の火葬場へ向かう道に入った直ぐにあるらしい。あ、あった。ここよ」
「こんなに大きいの?」
「そうだよ。もも、花とろうそく、線香だして。りんごは水をかけて。あなたは火をつけて。マロンはおとなしく座って」
無事に墓参りが終わりテントを張る場所に戻ってきた。車からテントを降ろし砂地に張り、持ってきたレンガで大きめのかまどを作り鍋に塩水と蟹を入れ、蓋をした。横にホタテを焼く網を置き焼き肉専用の台も用意した。ご飯は予めといであり電気ジャーを車のコンセントに繋ぐだけであった。気分は最高に盛り上がり窯に火を入れる前に皆で乾杯することになった。それぞれの顔に笑みを浮かべ飲み物を持った。父は酒をほとんど飲めなかったが特別に缶ビールを母と半分にして飲むことになった。家族の宴が始まる。父が竈に火をつけようとして気持ちを話した。
「家族でキャンプして海に沈む夕日を見るのが夢だった。本当に嬉しいよ」
時間も六時を過ぎようとしている。あと四十分くらいで夕日が見られる。姉が父の言葉で何気なく海と太陽を見た。父と母が乾杯の声を出した時、姉が突然振り向き「ちょっと待った」マロンもびっくりして吠えた。
「どうしたの?お姉ちゃん」
「ここだと、夕日は海に沈まないよ。あの山に沈むよ」
「お父さん、どうする?」
「もも、テントの中のランプをつけて。ラジオも鳴らして。パパッチ、あの岬に行こう。防犯対策をして車に皆乗って」
車は寿都の街を通る。辺りは太陽が山で隠れて薄暗くなっていた。
「大丈夫かな?」と私は言ったが誰も声を出さない。皆、諦めていたかもしれない。マロンだけが大丈夫、ワン、ワンと吠えていた。そこのカーブを曲がると右に弁慶岬の大きな駐車場に入る。車は曲がった。海と空が真っ赤に染まっていた。間に合った。お盆なのでこの時間、誰もいなかった。夕日はどこでも見られるからわざわざ来なくて良い。そう地元の人が思っている。見たことがない大きな夕日で全てを真っ赤にして今、海に沈もうとしている。沈む瞬間は海水を盛り上げて穴を掘り潜り込むように見えた。
マロンはリードを外され大きな夕日に向かって吠えている。マロンの小さな体が大きな影を作り、私たち家族に大きな幸せをくれた。美しさの余韻が残り誰も話をしなかった。「もう帰ろう」車は走りだしテントに戻ってきた。
かまどに火をつけて蟹は四十分くらい煮込む。ホタテ、イカと焼き肉も焼いた。そして改めて乾杯をして飲んだ。あっち行ったり、こっちに来たりして喉が渇いたのでおいしい。
「お母さん、西瓜食べる?」
「食べない。絶対食べない」
「お父さんは食べる?」
「ん。食べる。甘くておいしいなあ」
砂浜に波の音が、ざぶん、ざぶん、と繰り返しているので心地よい。街の灯りも少なく月が出てないので星がはっきり見える。
イカ釣り漁船が見えた。地元の船は出ていないが、遠くから来ている船はお盆でもイカを釣る。その灯りが煌々と海に浮かんでいる。
私は家族で何かをするのが、こんなに楽しい事であったのを想像できなかった。でも今は違う。小さな家族のマロンが増えたので大切さが実感でき一人一人の尊さがわかった。
「もう蟹が茹であがったころかな。もも、蓋取って」
「あれ。いないよ。お母さん。鍋に入れるのを忘れたじゃないの?アイスボックス見てよ」
「嫌、確かに入れた。間違いない」
「あ、蟹の歩いた足跡があるよ。海の方に向かっている。もも、マロンを連れて一緒に探そう。お母さん懐中電灯取って」
父が珍しくしゃれた事を言った。
「モクズ蟹が漁師に、ここで獲られ市場でセリにかけられトンネル前の店に生きたまま並べられた。そして客に買われた。戻ってきたところが故郷の河口付近の海だった。もう食べるのは勘弁してね。蟹もお盆だから墓参りもしないといけないし家族に会いたいので見逃して欲しい」
マロンが吠えて海に入る手前で見つけた。私と姉は蟹がかわいそうになり海に早く行きなさいと急かした。そこへ母がやって来て、それでも食べると言い出したが私と姉は海に返した。
「蟹さん、家族に会いなよ」母は残念がったがマロンのク~ンに慰められた。海岸の波はその時だけ明るく光っているような気がした。家族はわいわい、がやがやと食事を楽しんだ。父は一日中、車を運転していたから疲れ気味で寝ることになった。父が端に寝てマロンが足元に隣が母、姉、私だ。子供の頃にテントを張り中へ入ったら広い空間だったと記憶していた。四人用のテントだが今は四人だとぎゅうぎゅう詰めで狭苦しい。
父は鼾をかいてもう寝ている。母も寝ていた。マロンが突然吠えだして鼻をこすっている。
「もも、テントの入り口を開けて」父が起きた。
「お~父さん、この狭い所でしたら駄目だよ」
「臭いよな。寝ていたので気付かなかったけどゴメン。また出たら困るので車で寝るよ」
父が抜けた分、少し余裕があるのでマロンが伸びて寝た。ちょうど母のお尻に鼻があたった。くしゅんと鼻を鳴らしお母さんから離れた。おならの犯人はマロンだけが知っている。
暗い空は流れ星が見えていた。深夜十一時過ぎに三日月が出てきてきた。辺りは顔が見える程度に明るくなっていた。同時に星の輝きが弱まった。姉と私は臭いのせいで起きていた。深夜だけどコーヒーを入れることになった。かまどに薪を入れ燃やした。お湯が薪の火で煮えたぎっている。風のない月夜の浜辺で入れるコーヒーの薫りが広がって都会の家では味わえない雰囲気で一口飲むだけで最高の気分になれる。母が起きてきた。
「お父さんは?」
「迷惑かけるから車で寝るって」
「鼾ね」
「そうじゃなく。テントの中、臭くなかった」
「全然、臭くなかった。それよりお母さんも飲みたいので注いで」
「私もまだ飲みたい」
「じゃ、入れなおすよ」
姉はコーヒー用のポットに水をたして竈(かまど)に薪を焼(く)べた。生木がぱちぱちと弾ける音がするたびに水が湯になっていく。大きめのペーパーに粉を多く入れて素早く湯を注ぐ。姉流の入れ方だ。塩の匂いがする浜辺に甘い香りが広がる。
「お母さん、お父さんと結婚するまでの話の続きをして」
「いいよ。どこまで話をした。ブラック企業の不動産屋さんが絡んでいたところまでかな?」
「お母さんの勤めている銀行と地元の銀行が話し合いで解決したところくらい」「それでも不動屋さんは諦めなかった。親会社の高利金融業と結託して父の不動産に停止条件付短期賃貸借の仮登記を付けていた。その後に仮登記を消して本登記にした。本登記は賃貸借登記の事だよ」
「どういう事。お父さん、高利のお金借りていたの?」
「兄弟の誰かが高利貸しから金を借りたらしい。賃貸借の登記は兄弟の共有財産から父の財産になっても使用権があり月三千円で借りるという契約で銀行に契約書を持ち込み凄んだみたい。」
「お父さん借金だけ残り絶体絶命だね」
その日は支店長が出張で本店に行っていなかったし私も有給休暇をとって眼科に行っていた。気の弱い男の上司が右往左往して何回も電話をしたらしい。銀行では大きい金額の不良債権を出したら支店長も上司もアウトだから必死だ。母は平だからどうってことがない。上司の携帯番号は登録していなかった。銀行の番号は登録していたが他の行員に聞かれるとまずいからこっそり携帯で電話したようだ。治療も終わり調剤薬局で待っているとまた電話がかかってきた。何回も面倒くさいなと思いながらでると大学の先輩で講師をしている女研究員だった。
「先輩、どうしましたか?」
「明日の午後、海外に行くのでどうしても頼みたいことがあるのでいい?」
「いいけど明日仕事ですよ」
「ある物を仕事の前まで持っていくから預かってほしい」で電話が切れた。
「物を預かることがお父さんとどういう関係があるの?」
「それがあるのよ」
それを説明する前にブラック不動屋さんは登記簿謄本を持ってきて銀行に対してお父さん名義の口座から三千円引いた額を振り込んでくれと再度、具体的に要求した。土地所有者と話はしてある。その土地であげた収益金は我々に権利があると主張した。上司は担当者がいなく分からないとして私のアパートの住所を教えてしまった。眼科の診察が終わり、午後の余った時間で小樽水族館に行ってイルカやトドを見たくなった。電車で小樽駅まで来た。バスに乗ろうと待っていたら観光客が水族館のある祝津までは観光船に乗り港の風景を見ながら行こうぜ。と言う話を聞いたのでそのままついて行ったら、ちょうど観光船が出航する時間だった。ラッキーと思いながら早速乗船した。小さな観光船は港に停泊中の大型船の横を通り外港に出ようとした。振り向いて船から見た陸地の景色は最高だった。坂の街小樽は港が中心でエキゾチックな建物が広がって歴史を感じる事ができる。
船が港の外に出ると潮風が私の髪をなびかせた。船には観光客のラブラブの男女が多かったが一人でも十分楽しめて本当に来て良かった。と思ったが水族館を見てから最悪の一日になった。
「お母さん、なぜ最悪になったの?お姉ちゃんわかる」
「財布を落としたとか」
「ノー、ノー」
「早く教えて」
話す前にブラック社員の連中はいつ帰ってくるかとアパートを見張っていたらしい。そのことはまだわかっていなかった。
「怖いね。お母さん。それでどうなったの?」
「水族館を見て帰る前に海も見ようと海岸に行ったら岸に大勢人が集まっている。パトーカ―も来ていた。浅い海だけど服を着たまま海に入り「女に騙された。詐欺に借金させられた。死んでやる」と騒いでいる。
「やめろ。上がってこい」と説得されていた。
「他人事だけど世間を騒がす恥知らずの男がいたと思ったら融資の相談を受けた男だった。つまり、その男は結婚する前のお父さんだった」男も気が付き「そこにいる女が詐欺師だ」と言った。
顔の前に手を持ってきて左右に何度も振り、「違う、違う、私(母)じゃない。通り縋っただけで関係ない」と言ったが誰も信じなかった。帰ろうとして歩きだしたら腕をつかまれ大きく上げて「確保」と誰かが叫んだ。手をつかんだのは警察官だった。一斉に拍手が起こった。男と一緒にパト-カーに乗せられ警察署に連れてこられた。最初に罪ありきで何故詐欺をしたのか追及された。
「あの人の思い込みであって融資担当の銀行員として職務を遂行しただけです」と説明した。腕をつかんだ警察官は「それなら、なぜ逃げようとしたのだ」
「逃げようとしたわけではありません。帰ろうとしただけです」
「口の達者な女だな」と吐き捨てた。あまりにも酷い態度で「今から録音します」と宣言した。その警官は他の警官に呼ばれて、「銀行員に間違いないし犯罪歴もない。帰した方がよい」ひそひそ話が聴こえた。
やっと帰され部屋に着いたのが夜の十時だった。直ぐにチャイムが鳴り誰だと思ったら隣の独身のおばちゃんだった。
「どうしたのですか?」
「こっちが聴きたいよ。やばい人たちがさっきまでいて捜していたよ」お父さんのせいで散々な目にあった。
「それでも結婚したのはどうして?」
「どうしてだろう。次の日、朝早く副支店長から連絡が入り今日まで支店長が休みなので自宅待機しろの業務命令が届いた。それと同時に大学の先輩が来て預ける物をもってきた。何とサソリと噛む亀だ。亀は歯学科の練習用で歯を削っているから大丈夫だそうだ。亀は噛むだけで毒がなく、心配しなくて良い。サソリも二重に檻に入れているので安全だ。と。説明して帰って行った。「すごいもの預かったね」ちょうど朝ごはん食べ終わって亀を段ボール箱からケージに入れようとしていた時にドアがどんどんと強く叩かれた。ドアが壊れそうなので仕方がなく開けた。人相の悪い髭面でサングラスをかけどう見てもブラック企業の連中だった。小指のないものまでいる。
「お母さん怖くなかった」
「多少はね。若いのが土足で上がろうとしたので「靴を脱いで」と言ったら偉そうな奴が目で合図し五人全員部屋に入ってきた。失敗したと後悔する。
「あんたが担当者か?あの不動産の収益は我々に権利がある。賃貸収入は我が社の口座に振り込め。印稚気弁護事務の金銀銅先生も権利があると認めている。停止条件付短期賃貸借登記から賃貸借本登記をしたので権利は正当である」
「私は払えないね」あっさり突き放した。
若い者が「ふざけるな」と言って段ボール箱を蹴った。亀が出てきたけど興奮しているので気が付かない。
「主たる目的が債権の回収なら賃貸借契約は所有者名義が代わったので無効である。金を借りた本人から回収すべきである」と言ってやった。ブラック不動産の社長は余裕を持った。
「お嬢さん賃貸借本登記は名義が代わっても謄本に存続するぞ。浅い知識で言うな。不服なら裁判で何でもかけろ、や」
「裁判なんて掛けませんよ」
「強情な女やなぁ。そろそろ堪忍袋の緒が切れたぞ」
「お母さん怖いよ」銀行間の融資移転で金額を抵当権と根抵当権にわけていて、こういう事態を予測して差し押さえの登記をしていた。
「こちらも堪忍袋の緒が切れたのよ。金銀銅先生に確認しな。差し押さえ後の賃貸借登記は本登記であっても無効であることをね」
社長は慌てながら確認したらやはりそうであった。若いのが親会社の会長に「指詰められる」と不安がっていたのでお母さんは「大丈夫、どうせ足が無くなるのだから指なんてどうってことない」
「どういうことだ」
「毒亀に足を齧られただろう。一時間以内に特殊な解毒薬で消毒しないと足をなくすからね」病院に行っていたので点眼薬の入れ物を出した。
「この薬は普通の病院にはない毒亀の解毒薬だ。大学病院の毒を研究しているところしかない。もう普通の病院に行っても間に合わないよ。どうする?」
「嘘だろう」
「嘘じゃない。この亀の大好物の餌は生きているサソリだ。あんたそこの幕を取ってごらん」サソリが出できた。みんな青い顔してビビっている。
「部屋にどかどかと入ってきて厳重に梱包している亀の入っているダンボール箱を壊したのはあんた達でしょ。腹が立ったよ」さらに不安にさせるため「この解毒薬を捨てるよ。どうする?もう時間がない。土下座したなら塗ってやろう。足なくすのと土下座どっちがいい」
社長はなかなか土下座しなかったけど手下の社員全員が必死に「兄貴お願いします」と頼んだ。社長が「頭を下げたのは会長と会長の奥様の姉さんだけだ。土下座なんてしたことがない」
「いいんだね」と念を押した。
社長は拒んだが顔に脂汗を浮かせていた。社員たちが必死にお願いしますと言うので仕方がなく土下座した。傷によく沁みる消毒液を最初にたっぷりかけた。人相の悪い男たちが子供ように痛がっている。さらに点眼液をたらして塗って最後に「毒が飛んで目に入っていたら失明するけどどうする?」
「目もお願いします姉さん」社長までお願いしている。
「全員しゃがんで天井を見てください」点眼液を垂らしたら目がすっきりすると言って喜んで帰って行った。
「お母さん眼科医院の目の薬でしょ」
「そうだよ」
翌日銀行に行ったら支店長がいた。支店長と副支店長は派閥の違いで仲が悪かった。支店長に報告した。「お客様の多少の勘違いがありました。でも収益が順調ですのでローンの回収に問題はありません」
「そうかよろしい。ところで元頭取の本店の副総裁からお嬢さん元気にしていますか?そのように尋ねられたがどういう関係」
「銀行を立ち上げる時、本家の祖父が出費した一人だそうです」
「そうなのですか?」支店長の態度が急に変わった。
態度が変わったと言えばブラック会社の社員だ。どこかに行くたびについてくる。人相の悪い男が傍にいるだけで誰も近づかない。
「どうして見張っているの?」理由を聞いたら「最近、我々グループ企業の会長の奥さまが亡くなったので代わりに姉さんが副社長として会社を切り盛りしてほしいと会長に言われたので警護しているのです」
「え、誰が副社長になるって?」
「姉さんがなるのです。会長さんは七十三歳で金融業、不動産業、産業廃棄物処理業などの会社のオーナーです」
「無理、無理、絶対無理」それでお父さんが仮装の婚約者になり七十三歳のおじいちゃんに諦めて貰うためだった。
「お母さん、仮装の婚約者が本当になったのね。」
「そうすんなりとはいかない。一年くらい経って銀行の本店に戻ることになったの。司書課の所属で役員の司書をすることになったよ」
「栄転だね」
「また、婚約者を転勤で捨てるなんて悲しい。詐欺だ」と騒いでいた。形だけの契約で仮装の婚約者だといっても一年の歳月は仮の事をすっかり忘れて本当の婚約者と思い込んでいた。
「行くのはやめろ。行ってほしくない。行かないでお願いだ。婚約者を捨てないでくれ。捨てられたらもう生きていけない。あの海で死ぬ」と言いって泣きながら出て行った。
「お父さん可哀そう」
その日は夏の土曜、気温が高く暑い。海に入るのは絶好の日で混んでいるだろうと思った。極端に海を怖がって泳げないのだからで死ねないでしょと考えたが気になって小樽の海岸に行ってみた。案の定いた。一年前は騙されたと思い怒りで衝動的に海に入った。今度は恋に破れて死ぬ覚悟で来て靴を脱いだがやはり海は怖い。
子供たちが泳げるような浅い海で死ぬのは難しい。でも本人は覚悟しているつもりだ。盛んに名前を呼びながら海に入っている。海は人で混み合って子供たちの声で何を言っても聞こえない。服を着たままで入水をしてもテーシャツとジーンズなら誰も変だと思わなかった。海水浴場でなく岩場の磯遊びでは普通の服装である。
去年最初に見つけた人で八十三歳の元漁師が小学生の孫を連れて遊びに来ていた。
「お前か。今度はどうした。また、女に騙されたのか?婚約者から捨てられた?結婚詐欺か?金を取られたのか?少しだが貰った。それは詐欺と言わないぞ。それでも死ぬ?わしは高齢だからいつ死でもいいくらいその日が近い。お前はまだ寿命が長いし子供の遊ぶような浅い海では死なんぞ。泳いでもっと深い所に行け。泳げないから無理だって。うちの孫の浮き輪があるからかしてやる。孫がないと困るでしょ。困らない。親がうるさいから持ってきたが漁師の孫、浮き輪がないからって泳げない筈はないぞ」
それで貸して貰ったが小さすぎて肩から抜けていかない。足からも尻に突っかかりだめで体につけられない。
「じゃ、沖まで歩いて行け」
「痛い。ウニのトゲが足に刺さった。もう歩けない」老人は苦笑いをした。
「話を聞いてやるから海から上がれ」男は海から出て岩に座った。
「騙した女は去年の詐欺女か?」
「騙した女はお母さんだね。男がお父さん。話をしている時どこにいたの」
「騙していないよ。サングラスをかけて深い帽子を被りマスクで顔を隠し変装して近くで聞いていたのよ」
「あの女の名前は何て言うのだ?」
「茄子です」
「なに、なすび?嘘だろう」
「本当です。茄子が好きでたまらないのです」
「なすび、はお前だろう。女は蛤か鮑だ」
「僕の名前は茄子でありません。瓢箪です」
「ひょうたん?なすび?瓢箪茄子か?あはは。新人芸人か?ネタの練習もほどほどに、なあ~。人の迷惑になるなよ」
「真剣です」と言ったが孫を連れて帰ってしまった。夜になり月が出てきた。まだ座っている。時々月に向かって「茄子、好きだよ」と叫んでいた。何故か、いつ死ぬだろうと気になり帰れなかった。上の方の駐車場に車を止めて寝た。朝起きると瓢箪はまだ海岸にいた。暗い空が明るくなってきた。瓢箪は決心したようだ。朝の冷たい海に足を入れてゆっくり歩いた。その時、太陽が顔をだし昇ってきた。周りが赤くなったが瓢箪の影だけが黒い。
茄子は「日の出なのに逝ったらだめ、これから新しい人生が始まるよ」と叫んだ。瓢箪が振り向いた。茄子が手を指しのべた。瓢箪は涙を浮かべて「僕でいいのだね」と何回も言った。二人は手を握り並んで座った。風が吹いて白波が上がっている。その波に陽射しが少し強くなってあたり反射してダイヤモンドのように輝き眩しい。漁師の船が争うように波飛沫上げて走っている。
「人前で茄子と呼ばないでね。二人だけなら茄子と呼んでもいいよ。約束を守ってくれるならお嫁さんになってあげる」ありがとうと何回も言った。
「それで結婚したのよ。二人だけならナビたんとヒーたんと呼び合うのよ。それでりんごとももが生まれたのよ」
姉が呆れて「寝るよ」テントの中に入ってしまった。
「お母さん。もし、ももが死んだら、どこの墓?あの大きな墓?獅子内の墓?」「どちらの墓にも入らないよ。嫁に行ったところに入るよ」
「嫁に行かなかったら?」
「お父さんが作る墓に入るよ。でも順番があるから遠い話だね」
「そうなの。ところで私の名前はお母さんの案でなんて言うの?」
「すごくかわいい名前を考えたの。なんてつけたと思う?」
「玲奈とか?」
「違うよ。ヒントはみがつく」
「美香?大した可愛くないよね」
「聞いたらももで残念と後悔するよ」
「ねえ、何、早く言って」
「姉がりんごでしょ。妹がみかんよ。可愛いでしょ」
「聞いて損した。お母さん。ヒーたん。ナビたん。といいながら車で寝てよ。テントは三姉妹で寝るよ」母は車の父のとこに行った。ぐっすり寝たが父のお腹に足をのせたりして寝相が悪かったらしい。父は寝苦しいので早く起きた。まだ誰も起きていない。母は寝言で笑って何か叫んでいる。父はテントの入り口を少し開けて「犬ころ出ておいで散歩するよ」何故かリードまで素直につけさせた。おしっことうんちを我慢していたからだ。し終わってリ-ドの綱を長く伸ばし好きなところへ行った。犬ころと砂浜を歩いていると向かいの方からやはり犬を散歩させている地元の年配の人がいた。
「おはようございます。良い天気ですね」
「そうだね。おはよう。どこからきた?」
「札幌です」
「うちの犬は犬コロと言います。そちらの犬は?」
「チョコだよ」
「かわいい名前ですね」
チョコはこっちの方を見て犬コロ?都会から来たのに田舎くさい名前だな。見下している。マロンは瓢箪、いい加減な名前を言うな。正確に言えと思っているに違いない。
「この砂浜は離岸流があり危ない。海水浴場になってないので都会の人は泳げないよ。地元の子供たちはそれでも泳いでいるけどね」
「潮の流れは泳げないほど危ないのですか?」
「ま、慣れればどうってこともないけれどね。二百メートルくらい沖に流されるだけだね。その時は横に泳げば大丈夫。沖に流れる潮があるなら陸に流れる潮もあるからね」
「そうですか。ところでこの辺でアサリ貝を売っているお店がありませんか?」「アサリでなにをするの?」
「海辺に来たので海鮮パスタを作りたいのですが」
「それじゃそこに蛤があるからそれがいいと思うよ。海流さえ気を付けると獲れるから」
「いいのですか?密漁じゃないのですか?」
「確かにそうだけれど道具や袋を持って大量に獲ると密漁だが、ポケットに持っていただけで、ここの漁師は怒らない。アワビやウニは一個でも駄目だ。うちの息子を含めて蛤を取っている漁師はいないからね」
「そうですか。ありがとうございます」
姉と私は起きて朝ごはん何にする?と相談していたら父とマロンが帰ってきた。
「りんご、もも、朝のごはんパスタでいいかい?父と母で作るから三十分待って」
「いいよ、その間に姉とマロンであの蟹の故郷を見て来ていい?」
「川や海は危ないから絶対入ったらだめだよ」
「はい、わかった」
母が眠そうな顔をして起きてきた。
「りんごとももとマロンはどこ?」
「川の方に行くと言っていたよ」
「そうなの」
「なびたんと僕でパスタを作ることになったよ。でもこの辺でアサリを売っている店ないらしいよ。海に蛤はあるけど潮の流れがあるらしく危ないので泳がない方がよいとさ。地元の子供たちは泳いでいるけどね」
「獲ったら密漁じゃない?」
「海水パンツのポケットに入れるくらいなら漁師さんたち怒らないって」
「私、水着持ってきたから泳ぐかな?でも水着にポケットついてないけど何とかなるかな?」
「駄目、駄目、危ないから駄目」
「ひ―たんは子供の泳ぐ浅い所でも溺れるから駄目だけれど大丈夫。潮に流されたら横に泳ぐといいのね」瓢箪は茄子が心配で海を見ていた。茄子は手をあげたら海に沈んでいく。どうしたのだろうとよく見たらまた手をあげたら沈んでいく。溺れたに違いない。どうしよう。海は怖かったが飛び込んだ。
「お姉ちゃん。誰か溺れたという声がしなかった」
「しなかったよ。マロンもおとなしいから何でもないよう」
「でもなんか不安だから帰ろうよ」
「もうちょっとだけいよう。蟹でてこないかな」瓢箪は母を助けようとして海に飛び込んだが溺れていた。手と足をバタバタさせたが泳げるはずがなくて沈んでいく。沈みながら顔を上げようとするが沈む。茄子このまま死ぬのは嫌だ。せめて一緒に手をつないで死にたいと願った。意識がなくなった。目の前も暗くなった。人が死ぬってこんなものか?暗闇から手を掴むものがいた。茄子だ、目の前も明るくなった。茄子は笑っている。テントもある。死人は四十九日間この世を彷徨っているからここにいるのだろうと思った。
「ひ―たん。蛤たくさん獲ったよ。ポケットないから直接水着に入れたよ。取って。くすぐったくしないでね、あ、くすぐったい。最後に残った大きな蛤はなびたんのだから取らないで」
「どこにある」
「教えない。秘密よ」瓢箪は天国って楽しい。きっと昨日、蟹を逃がしたので神は粋な計らいをしてくれたのか。そこにりんごとももとマロンが帰ってきた。
「お父さん。腹が空いた、朝食まだ」
「お前達。お父さんが。見えるのか?」
「お母さん、お父さんどうしたの?なんか変だよ」
「海で泳ごうとして飛び込んだら背が立つ浅い所で溺れそうになってから変になったのよ。ご飯を食べて昼寝したら治るよ」
砂浜は風が吹き暑さを忘れて心地よかった。ぐっすり寝た。父は目を覚ました。あれ生きているといった。そして、なびたん、どこにある?ここか。いやもっとしたか。くすぐったいか?と意味不明の言葉をいってうれしそうであった。
マロンは海に向かって瓢箪よ、今まで働き過ぎて気が緩んだのか?それでいいのだ。遊ぶことも大切だよ。というように吠えた。
「この海にまたきたいね。マロン」テントをかたづけ竈も元の状態に戻してごみを分別して持って帰る。当たり前のマナーだが投げていく人もいる。みんなで周辺に投棄してあるペットボトルと空き缶を車に乗せられるだけ拾った。海よ、ありがとうと言った。蟹もはさみで手を振っているかもね。
帰りは黒松内町を抜けて静狩峠を通り豊浦町から中山峠まで行き札幌へ入る。途中、牧場が経営しているソフトクリーム屋さんがあるから寄った。ソフトクリームをみんなでぺろぺろ犬のように舐めっている。リードを付けているマロンが羨ましいそうに見ていた。父がコーンの手に持っている部分を食べさせた。マロンの口に白くクリームが付いている。長い舌を出して舐めている。みんなが揃って父に「駄目よ。マロンに食べさせたら」怒られたがその時だけマロンが味方をしてワンワンと吠えてくれた。
車を走らす父は留寿都村を過ぎて、これから中山峠へ入ろうとしたとき何回もあくびをしだした。母がヒータン、運転代わろうかと言い出した。寝ていた姉がびっくりして起きた。うとうとしながら寝ていた私も目が覚めた。母の運転する車は下手を超えてスリル満点で恐怖を感じる事ができるジェットコースターだ。それよりは眠気覚ましに皆で歌おうということになった。決して上手いと言えないが母が歌う古くさい歌を、なびたん、声がいいと褒める。子供が歌っても褒めない。家族として少し不満かな。その程度の感情であった。でも楽しかったのは間違いない。
やれやれ、車は無事に家に着いた。マロンも安心したような顔をした。歳月が流れて家族との楽しい思い出が遠い昔のようになった気がした。姉が結婚し私は就職をして生活のリズムが合わなく実家を離れた。
母は忙しそうに口が動いている。父は重大な結論を迫られている。元請会社が資金を出すから海外で工場を作ってくれと要求された。悩んでいると母の一言で決まったらしい。資金を出すと言っても借金は返す責任がある。成功しても資金を出した方が有利だから自分の一存で何もできなく、作った製品の価格も支配される。他社との取引ができなく利益を出しづらい。「無意味よ」父は早速元請会社に断った。「チャンスなのだが理由は何だ」担当者は怒ったように言った。「家族が反対しているし、ペットの犬がかわいそうなので」「ペット?もういい。帰れ」と若い担当者にうえからの目線で言った。それから仕事が来なくなった。母は父に「工場(こうば)をやめれば。買い手を調べてあげる」買い手が見つかり、三人いる従業員も再雇用してくれる保証を取り付けた。自宅から少し離れている工場がある五十坪の土地と会社そのものを売った。会社には重要な特許が有ったので高く売れて従業員に母を含めて一人一千五百万を分けた。
元請の担当者が慌てながら来て、怒鳴った。
「ライバル会社から特許侵害だとクレーム付けられた。どうことだ」
「特許は全部売った。その会社に聞け」と追い返した。父は仕事から解放されて離れで好きな事をやると決めた。母は母屋でマロンと一緒に寝ている。冬の朝に母が起きてストーブの前で新聞を読んでいるとマロンが来て新聞の上にのり前足と後ろ足でホリホリしてぐちゃぐちゃにする。新聞読むくらいなら遊べと言っているようだ。マロンは母と遊んで疲れたから仰向けになり四本足をぶらぶらさせて腹を撫でさせ恍惚の顔をしている。撫でるのをやめると前足を手に乗せてもっとやってとねだる。冬が終わり、春が来て季節がめぐる。父が来て散歩しようと言うと面倒くさいそうに「う~」と唸った。
「犬コロ、外に行こう」
「外か。外は空気がおいしいから行く。でも階段がしんどくて腰痛なので歩くのは嫌だから抱いて行け」と言っているようだ。
「犬コロ、足が短いからな。買い物バックに入れてやる」足が短くて悪かったなと、いいそうな顔をしてバックに入った。バックの端から顔を出して匂いを嗅いでいる。マロンの目は白内障でほとんど見えないはずだ。父が庭までバックに入れて運び、そこで自由にさせると花の匂いを嗅いだりして、おしっことうんちをする。し終わったらバックに戻り二階へ帰るから早く運べと思っているのだ。
菊の花が枯れ、木々が色づいて木枯らしが吹いても、その繰り返しだ。季節は足早に寒くなって冬を呼びそうになり庭に雪が降って来るのも近くなったようだ。マロンは散歩を嫌がる。でも外の空気を吸いたいと思っている。みぞれの雨が降っただけで、前足、後ろ足を冷たそうにして、そろり、そろりと歩いている。そして雪が降って冬になった。それでもマロンは震えながら空気を吸いに外へ出る。
年が明けるとマロンは十五歳になった。
世の中は変わりつつある。政策金融の無秩序な増大で好景気が続き、海外だ、株だ、オリンピックだと浮かれていたが誰も予想しない敵が現われた。戦略的世界経済はその特性である広域化を遮断されて崩壊寸前である。人間社会が妄信している経済の仕組みが崩れ落ちようとしている。父がもしマロンがいなくて海外で事業していたら最悪の結果になっていただろう。
父は事業より家族が大事だと言って選んだ道が正しかった。資金を借りてまで海外で事業をすることはリスクがありすぎて意味がない。母のその言葉も今になって初めて正しかったのがわかった。社会が重大な局面で方向を決めるのは得体の知れない経済で左右されるべきでなく、人間の目線でもっと細かく言うと家族の目線で決めるべきである。経済だけで人生を決めるのは得る物も有るけど失う物もある。道を間違えたら家族の幸せも失うことがある。
姉が結婚して子供が生まれて名前を、こりんご、とつけた。実家に来た時、おばちゃんはもも、犬はマロンと教えた。しかし、四歳の、こりんご、は私を何故かミカンおばちゃんと呼ぶ。きっとミカンをお土産にしたからだろう。マロンはマーヤと呼んだ。こりんごがつけた愛称だ。母が父をパパッチやひーたんと呼んでも家族だから許される。家族だけしかわからない愛情表現だ。父がマロンを犬ころと呼ぶのは否定することでない。それも愛情表現だ。名前は家族だけがつける。他の人はつけられない。だから家族は大切なのだなと改めて思った。キャンプの時にわからない事があって母に聞いたのを思い出した。ももが死んだら誰の墓に入るの?家族の墓に入るよ。でも遠いことで順番があるからね。家族の死はどんな悲しみがあるだろか。今はまだ哀しみの体験がないので実感がない。職業柄他人の死は見ていた。長く寒い冬が終わりやっと春が近づいた。世界は今も謎のウイルスに苦しんでいる。世界中で感染が広がり死の恐怖に怯えている。こういう時こそ人間の原点に返り家族の大切さを見つめ直す必要があるのだろう。マロンの十五歳の誕生日祝いに犬用の介護カーをプレゼントした。マロンがいつも父と散歩をした公園までマロンを乗せて家族で歩いて行った。公園に着いたのでリードを付けて歩かせた。マロンはよたよたしながら嬉しそうな顔をして歩いた。でも疲れてしまったのでしゃがみこんだ。また介護カーに乗せると安心したような顔に戻った。みんなでゆっくり歩いて家に帰ることにした。マロンは目をつぶっていた。でも寝てはいない。鼻はヒクヒク動いている。歩き慣れた道の空気を感じるように匂いを嗅いでいる。家に着いた。そーっと抱きあげ足を拭いていつもの丸いふかふかのクッションに寝せた。マロンは眠り思い出の夢を見ているに違いない。次の日の朝離れで寝ている父に母が二階に来るようと内線の電話で伝えた。父は起きてきた。
「どうしたんだい」
「マロン、吐いたの」マロンは呼吸が乱れてハーハー言っている。父から私に電話が来て症状を聞いた。私は今日、夜勤で行けないけど、朝一番で動物病院に連れて行った方がよいとアドバイスした。病院で検査をした結果、非常に危険であると告げられた。直ぐに点滴と酸素吸入を開始した。三時間ぐらい経って戻ってきた。マロンは少し元気になっているような気がした。しかし母のベッドにいく犬用の階段は上れない。マロンは寂しそうに「く~ん」と、か細い声で泣(な)いた。母は敷蒲団を床に敷いてマロンが寝ているふかふかのクッションにぴったり横につけて優しく撫でながら眠る。
朝が来た。マロンは起きてしつけ場所に行くつもりが力尽きてクッションの横の床におしっこをしてしまった。母はいいのだよ。えらかったね。と言いながら床に震えながら寝ているマロンを抱いてクッションに寝せた。午後、病院に行く予定だったがもういける状態ではなかった。
父がこのまま寝せよう。マロンは呼吸が乱れ黒い血を吐いた。
私は仕事が終わり実家に着いた。 
母は私を見るなりマロンが、マロンがと言いながら泣きだす。
マロンは耳を立てながら聴いていた。
父も涙を浮かべて犬コロマロンと呼んでいた。
呼吸が止まった。心臓も止まった。耳だけはまだ立っている。
母は休まず体を撫で続けてマロン苦しかったね。頑張ったね。もう楽になるよ。ありがとう。ありがとう。涙がとまらなかった。
姉と子の、こりんご、が来た。
「マーヤどうしたの?病気になって苦しいから星になるの?星になったらどうなるの?」
「星なって、こりんご、が大人になるまで見守るのよP」
「星なるためにお空に行くの?」
「そうだよ」
こりんごが突然泣きだした。
「マーヤお空にいかないで」
「大丈夫マーヤは家族みんなに幸せをくれたのでいつまでも心に残るよ」
もしもマロンの命に巡り合う運命ならまた家族になろうね。
与えてくれた大きな幸せ、ありがとう、、、ありがとう。
家族を失った悲しみは幸せを残された分だけ涙が出る。
涙はなかなかとまらない。
文字は書いていないが家族の大切さを教えてくれた記憶に残る手紙。
マロンが生きてる時の手紙が思い出として何通も届いた。
ありがとう。
マロンいつまでも愛しているよ。

終わり

小さな家族が残した大きな忘れ物

執筆の狙い

作者 すももりんご
116-65-240-38.rev.home.ne.jp

家族をテーマにした小説です。前回は八月に投稿した作品です。出だしと後半を少し変えました。物語の後半にキャンプをするところがあります。自然豊かな美しい場所ですが今、全国で話題になっいる寿都町浜中です。偶然ですが核処理施設のの候補地になっているところです。施設ができるともうキャンプはできないでしょう。それは個人的に残念ですが私の薄い知識では善悪などの評価できません。ここにいる人達は豊富な知識がある思われますので教えてくれるとありがたいです。

コメント

すももりんご
116-65-240-38.rev.home.ne.jp

訂正。核処理施設のの⇐のを消す。

ぷーでる
91.193.7.138

寿都ですかぁ……核処理施設ね。学生の時、その核処理地の予定地図を見ましたがバッチリそこに入っていたので
あ~ついに始まったか~ってな感じです。

それが決まったのも何と20年も前の話です。政府はチョロッと言っていましたが
当時、誰も気にしていなかったのです。

原発事故があってから急に騒ぐ人が出て来てようやく皆さん気にする人も出て来たそんな状況。
でも、予定地はそこだけじゃない、財政難で苦しんでいる地域は手をあげれば
日本全国どこでも候補地になりえるのです。


施設ができるともうキャンプはできないでしょう

> 恐らく、国は安全ですと言うので、キャンプ事態は中止になりません。
  何故なら、原発処理地の説明には、建物の地下でも深ければ可能と記してあったからです。

すももりんご
116-65-240-38.rev.home.ne.jp

 ぷーでる様。え、二十年前から決まっていたんですか?
驚きです。北海道の新聞や地元テレビのニュースで知ったのですが町民も予測してなかったようです。
保守の知事さえ深刻に驚いていました。
小さな町の町長さんが唐突に核処理施設を誘致する事の根拠はあったのですね。
納得しました。
憶測ですが国の官僚が町長に手をあげたら交付金がこんなに出るとか言って誘惑したんですね。
私も大金を見せられたら知らない男でもついて行くかも?でも母の言葉を思い出します。
外見より中身を見ろと。見た目はよくとも毒を持っているかもね。母は男で苦労したような気がします。
寿都町と北海道は甘い言葉に誤魔化され核に怯える日を過ごすのかな?
ありがとうございました。

ぷーでる
37.120.154.82

再訪失礼いたします。
寿都の町長さんを責めないでほしいです。
何故なら、国の言う事には逆らえないので仕方なしの判断かと。

希望する都道府県に核処理の予定地を決定するとありますが
核処理を円滑に進める為の方便に過ぎないと思います。

すももりんご
116-65-240-38.rev.home.ne.jp

ぷーでる様。再訪ありがとうございます。私は町長さんを責める資格がありません。学生の時まだ二十歳なっていないのに夜のバイトをして嘘だけの世界をちょっとだけ見てしまいました。官官接待の現実も見たこともあります。若い官僚が年寄りの人に横柄な態度やわざとペコペコさせ自分は偉いだと私たちに見せつけたり、もうめちゃくちゃな野郎どもでした。民、官、接待はもっと酷い。先生達が店外で食事をしたいので同伴してほしい。店長には話を付けてある。何の話をしたか分からないけどアルバイトの三人が選ばれて仕方がなくついて行った。食事が終わり業者らしき人に金を払わせ、さあ行くぞ。どこへ行くのですか?聞いているだろう。店長も承知している。店長に連絡したらお得意さんなので話を聞いてやってくれ。もう自慢話は充分聞きました。これ以上聞けません。辞めます。官僚の男が怒って、どこへ行っても働けなくするぞ。あんたに抱かれるくらいなら便所掃除の仕事してた方がましだ。啖呵をきった。本当はまだ経験したことがなく胸がどきどきしてました。まあ、とにかく逃げてきた。私は逃れたけど寿都町と北海道は逃げられない。官僚の罠にはまった。日本中と日本の企業が作ったアジアの核ごみが集まり、北海道は夢の国に変身するでしょう。勿論、町長さんだけが悪いわけでないけどね。

marin
119-230-218-237f1.hyg2.eonet.ne.jp

さらりと読めました。良いストーリーです。感動しました。
先日、スーパーで寿都町の水が売られていました。北海道には自然豊かなイメージがありましたので、買ってみました。おいしい水でした。

すももりんご
116-65-240-38.rev.home.ne.jp

marin様。ありがとうございました。
寿都町の水がスーパーで売ってるのですか?
私も買って、その水でコーヒーでを入れたらうまいだろうな。
かく別な味がするかもね。

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