作家でごはん!鍛練場
ソップ

ともだち

1
「兄ちゃんは、ぴょんぴょんババァって知ってる?」
「は?」
「んーとね、涼太んちのお父さんと涼太でブラックバスを釣りに行ってさ、車で帰るときにご飯食べたら夜になってさ、入鹿池のくにゃくにゃの道のところにさ、おばあさんが座ってたんだって」
「その、ばぁさんが、ぴょんぴょんババァってのか?」
「うん。ぴょんぴょんって跳ぶんだって」
「……は?」
「だからー、ぴょんぴょんって跳んで追いかけてきたんだって、車をー」
「……」
「でね、車より早く、ぴょんぴょんって跳んだんだって。真っ白な毛で、着物の腰が曲がったおばあさんだって。車、追い越したら振り返って『にぃーっ』って涼太に笑ったんだって、で、すごいスピードで道路、ぴょんぴょんって跳んでいって消えたんだって」
 寛二が湯船の中で飛び跳ねるものだからお湯が顔にかかった。
「いつまでお風呂に入っているの。お父さん帰ってきたから、一緒に晩御飯たべるよ。早くでなさい」
「はぁーい」   
 寛二は、母の言葉に元気よく返事をしたが、僕の頭の中はウサギのように飛び跳ねるばぁさんに占領されていた。寛二は不思議そうに僕を見て首を傾げた。
「どーしたの? ご飯だって。カレーだよ」
「ありえねーだろ」
「なにが?」 
「ぴょんぴょんババァ」 
「えっ、ほんとだよ。涼太、言ってたもん。本当にいるんだって」
「あほくせぇ」

 お父さんは化粧品会社の営業の仕事をしている。出張につぐ出張で今日のように家族が揃って夕食を食べるということなんか月に1回あるかないかだ。だからこそ、今日、お父さんに話しておきたい事がある。今日を逃したら今度はいつになるかわからないんだから、なんとかしなくちゃいけない。自分でも妙に緊張しているのがわかる。戦いの場にでる気分ってこんな感じかもしれない。この緊張の原因は僕。とにかくお父さんと話をすることが苦手なんだ。こんなに自分の親と話すのが苦手なのって異常じゃないかと思うくらいに。理由はわからないけど、ふたりきりになると気まずい空気が漂う。いつからかわからないけど、お父さんも僕を避けているような気がする。お父さんからの僕に関する話は、ほとんどお母さんから耳に入る。今回の話もそう。

 カレーライスを食べながら寛二は、またあの話題をだしてきた。勘弁してくれよ。寛二のせいで、話を切り出すタイミングがないだろ。
「ぴょんぴょんババァ知ってる?」 
お父さんとお母さんは互いに目を合わせて吹き出した。「フン」とわざとみんなに聞こえるように鼻を鳴らしてカレーライスを頬張った。僅かながらの意思表示をしてみるけど空回りしているな、完全に。
「ああ、知ってるぞ。入鹿池にいるんだよな。昔、お母さんと結婚する前に一緒に探しに行ったよ」
「そーそー、行ったわねー。みんなでね」                   
 まじかよ。呆気にとられている僕を、得意満面の寛二が指で腕を突っついてきた。
「なっ、兄ちゃん、いるだろっ」
「いるわけないだろっ……作りばなし」  
 面倒くさそうに答えると寛二は目を輝かせてお父さんに振り向いた。
「お父さん、いるんでしょ?」    
「うーん、どうだろう。残念ながらお父さんもお母さんも発見には至りませんでした」 
「でも、昔から、その話はあるわよね。でも、お母さん達は『ジャンピングばばぁ』って言ってたな」
「ジャンピングばばぁっ?」    
 寛二は大きな瞳をくりくりさせて甲高い声をあげた。あー、耳障りな声だ。僕とは反対にお父さんは楽しそうに笑顔で話を続けた。
「あとな、入鹿池の辺りにゃ、『ローリングじじぃ』と『ダンシングばばぁ』ってのがでるらしいぞ」
「ローリングだんしんぐ?」
「そーそー。まだいるわよ。有名どころでは『トランペット少年』とかね」
「トランペットー?」
 おいおい、なんじゃそれは。頼みの綱のお母さんまでも寛二の戯れ言に加わって僕の入る余地がないじゃん。一ミリも一ミクロンもない。腹が立ってきてこの馬鹿話から逃げたいと思った。話を諦め、カレーライスを口に掻き込み、部屋に戻ろうと席を立った。すぐに諦めるのは僕の悪いくせ。でも、もういい。戦は戦わずして終わった。いいんだ、平和主義なんだ、僕は。
「浩人、もう、食べ終わったのか」
 お父さんが、今日初めて声をかけてきた。目を合わせないように頷いた。
「浩人、お父さんがこんな時間にいる事なんてめったにないんだから、もう少しお話でもしたら」
 お母さんの一言に腹立たしさを感じつつ、お父さんをちらっと見た。寛二とじゃれ合ってる。僕には目もくれない。
「勉強してくる」
 二階の部屋に向かった。階段を昇る途中、僕以外の家族が楽しそうに笑っている声が家中に響いていた。中学になったらグレるかもしんない。

 僕には親友がいる。城戸健介という。健介は性格も明るくスポーツも万能で、クラスの女子の憧れの的だ。残念ながらそちらの方では健介に遠く及ばない。しかし、勉強の方ではほぼ互角といったところ。常に僕と健介はクラスのトップを争っている。
健介が中学受験に備え、本格的な進学塾の栄光ゼミナールに来月から通うことになる。僕も栄光ゼミナールに通いたいとお母さんに伝えた。賛成してくれたけど、お父さんは、今のままでいいと言ったらしい。納得できなかった。息子がもっと勉強したいといったら普通の親なら喜んでくれてもいいはずだ。 それに、健介だけが進学塾に通って、僕との実力に差ができてしまったら、友達でいてもらえないかもしれない。
 栄光ゼミナールの話はできないまま、目覚める前に仕事に行ってしまった。また出張なのだろうな。今度のチャンスまで待つしかない。いつなんだ。その苛立ちをもったまま学校へと登校した。悶々としたまま授業をうけ、掃除の時間になった。健介がモップを持って話しかけてきた。
「そういや、栄光ゼミナールの話どうなった?」
「ん……いや、昨日、父さん家に帰ってきたから言おうと思ってたらさ、弟が訳のわかんない話してさ、言える雰囲気じゃなくなったんだ」
「じゃ、まだ父さんがオッケーしてくれてないんだ」 
「……うん」
「そっか」
 健介はモップで床をこすりながらため息をついた。
「おまえが来てくんなきゃつまんねーもんな。なんとかお前の父さん許してくんねーかな」       
「今度帰ってきたら絶対に言うよ」
「うん。たのむぜ」
「くっそー! 寛二の奴が『ぴょんぴょんババァ』の話なんかしなけりゃ、ちゃんと言えてたのにっ!」
「なんだ? ぴょんぴょんババァって?」
「ああ、バカみたいな話。俗にいう都市伝説みたいなやつ」
「ふーん。でも面白い名前だな。ぴょんぴょんババァって。で、その話怖いの?」
「いや、全然。バカっぽい話。入鹿池で、ばあさんがウサギみたいに飛び跳ねて車を追いかけてくるんだってさ」
「なんじゃ、そりゃ」
「ありえねぇだろ」
「あははは……ありえんっ!」
 健介が大笑いしているのにつられて失笑した。本当にばかげている。こんな話で盛り上がるお父さんもお母さんもどうかしているよ。ウチの家族はダイジョウブか?

「ぴょんぴょんババァは本当にいるよ」
 唐突に背後から耳に入り込んできた言葉に驚き、咄嗟に僕と健介は振り返った。そこにはクラスで一番無口な小山俊哉が立っていた。意外な人物からの意外な言葉に僕も健介も呆気にとられた。
「ぴょんぴょんババァは、入鹿池にいるよ」
俊哉はもう一度言った。確かに聞き間違いではない。小山俊哉が声を掛けてきている。言葉にも驚いたが、声を掛けてきた事の方が驚きだ。俊哉は今年の夏休み明けに隣町から越してきた。以来、一度も僕とは話をしたことがない。その俊哉が真っ直ぐに僕と健介に向かって言葉を発している。しかも、真顔で『ぴょんぴょんババァはいる』なんて言っている。朝から苛立っていた僕は、ひどく腹が立ってしまった。
「なにを言ってるんだお前はっ! 六年にもなってそんなことマジに言うなよっ!」
 睨み付けてやった。ばかばかしい。健介は少し驚いたみたいだったけど、すぐに便乗してきた。
「なにがぴょんぴょんババァだ。あほ」 ニヤニヤしながら俊哉に罵声を浴びせる。俊哉の口がまた動いた。「ぴょんぴょんババァはいるんだ」
 呆れ果て、ため息がでた。健介は半分おもしろがって、証拠はあるのかと言っていた。俊哉は一際大きな声で言った。
「お父さんが見たことあるって言ってた」
 健介の目がいやらしく光ったような気がした。
「お前の父さんってヤクザなんだろ。女つくってお前ら家族を捨てたんだよな。そんなバカおやじの話なんて信じられるわけねーだろっ! ばーか」
 その話は知っていた。俊哉の近所に住む女子が噂を広めたんだ。健介は何も悪びれた様子もなくニヤッと笑い掛けてきた。僕と健介が俊哉に背を向けた瞬間、健介が悲鳴をあげ前のめりに倒れ込んだ。何がどうなったのかわからない。机が床を滑り嫌な悲鳴を上げる。俊哉が背後から体当たりをしたのだ。俊哉は倒れている健介に馬乗りになり、拳を何発も打ち付けた。いわゆるグーパンチ。生まれてはじめてグーパンチで殴る人をみた。それが、よりによって一番おとなしい俊哉だったなんて。普段無口でおとなしい俊哉の変貌に掃除中の全員が驚いたみたい。教室が騒然となる。僕は無意識に俊哉にしがみついてやめろと叫んでいた。
「誰か先生を呼んで来てーっ!」
 ほうきを持った女子が叫んだ。

 この日、僕と健介と俊哉は担任の阿部先生からこっぴどく叱られた。こんな事は生まれて初めて。僕の優等生キャラにはふさわしくない失態。この原因をつくった『ぴょんぴょんババァ』を恨めしく思い、話をもってきた寛二にひどく腹を立てた。いつも一緒に風呂に入るのだけれど、この日はそんな気分になれなかった。風呂から出てパジャマ代わりのジャージを履いたところで電話が鳴った。脱衣所を出ると母が小走りに向かってくる。普段より早口で話し出す。
「学校の緊急連絡網がまわってきたの。浩人と同じクラスの小山君と妹の美由ちゃんが家にいないんだって。なにか心当たりない?」
 僕の頭の中が一瞬空白になった。いなくなった? 僕は生唾をのんだ。まさか。まさか。僕は怖くなり無言で首を横に振っていた。
 午後十時を過ぎたけれどなかなか寝付けなかった。いつもならぐっすりの時間なのに。理由は俊哉。きっとあいつは入鹿池にいる。健介の言った『証拠』を探しているんだ。いなくなったということを聞いてから、ずっと頭の中で否定してきたのだがもう限界。だけど、お母さんは九時頃にあった二回目の緊急連絡で、捜索の手伝いをする事になって寛二と一緒に車で出ていってしまった。僕はお母さんの携帯電話の番号を覚えていない。勉強はできるのに、暗記は得意なのに。こんなことぐらい覚えておけよと自分に腹を立てた。

 僕一人ではどうすればいいのかわからない。時間と共に育つ悪い想像が僕を苦しめる。迷子になってないだろうか。池に落ちたりしていないだろうか。怖くて涙が止まらない。どうすればいいんだ。必死に考えた。そうだ。健介だ。親友と相談しよう。健介は携帯電話を持っている。親に取り次いでもらわなくていい。ある 程度時間が遅くても事が事だ。健介も怒らないだろう。いや、もしかしたら僕以上に心配しているかもしれないし。 僕達が原因なのだから。呼び出し音が八回鳴ったところででた。健介は俊哉がいなくなった事を知っていた。しかし、親友は絶望的な台詞を吐いた。「小山なんて死んじまえばいい」僕は受話器を叩きつけた。拳で床を叩いた。どうしよう、どうしよう。足はガタガタ震え、まともに立っていられない。その時、玄関のドアが開いた。「……お、おかあさん」
 自分でも信じられないくらいに情けない声を出して、這うように玄関に向かった。見つかっている事を祈りながら。

 玄関に立っていたのは母ではなくコート姿のお父さんだった。全身の力が抜け落ち、玄関で大泣きした。お父さんは僕を見て、僕を抱きしめ、背中をさすってくれた。
「大丈夫だ。浩人。大丈夫。お父さんがいるから。大丈夫。落ち着いて話してごらん」
大きな胸の中で頷いて、嗚咽を呑んで言葉を絞り出した。
「……入鹿池。入鹿池に行ってっ! クラスメートがいるかもしれない! お母さんも探しに行ってるっ! けど、入鹿池にいるって事は僕しか知らないんだっ!」
 お父さんの行動は早かった。僕の上着を持ってきて僕を助手席に座らせ車に乗り込んだ。田舎なので交通量も信号も少なく、まさにぶっ飛ぶというスピードで向かった。 入鹿池に行くには山を越えなくてはならない。曲がりくねった山道を父は見事なハンドルさばきですり抜けていく。僕にとってはジェットコースターに乗った時より怖かったけれど。少し落ち着いてきて、今日の出来事をなるべく詳しく話した。お父さんはずっと黙って聞いていた。
 山道を抜け、釣具店の看板がいくつも目に入ってきた。日中なら釣り客で賑わう入鹿池も夜間はしんと静まり返っている。電灯も少なく、今日は曇っていて月明かりもない。場所によってはまさに漆黒の世界だ。ドライブコースに入る頃には、車のフロントガラスに水滴がついては、コロコロと転がるように後方へ飛ばされていった。お父さんは舌打ちをした。
「やばいぞ。これは雨じゃない。みぞれだ。俊哉君がここのどこかにいるのなら、早く見つけなきゃ大変な事になる」
 ドライブコースに入ると速度を落としてアップライトにした。ライトアップされた池は黒い怪物が大きな口を開けているようだった。背筋が凍り付くほど恐い。僕にはこんな所にいる勇気なんてない。もし、俊哉がここにいるとしたらどんなに心細いだろう。いや、『もし』じゃない。俊哉は、『ぴょんぴょんババァ』を探しに来ている。絶対だ。目を皿のようにしてゆっくり流れる漆黒の景色から俊哉を探した。お父さんは左右の窓を全開にした。車の中の暖かさは吹き飛び、冷気が全身を包んだ。お父さんは僕に上着のチャックを閉めるよう指示し、窓から大声をあげた。
「小山くーんっ! 返事してくれーっ!」
 僕も窓から顔を出して叫んだ。「としやーっ!」 何回も何回も叫んだ。漆黒の世界に浮き出てくるような純白の細粒が僕の視界を遮った。とうとう雪が落ちてきた。耳がちぎれるほど痛い。顔の神経がなくなったような感じ。僕は叫び続けた。ドライブコースを走り続け、喉が潰れかけた時、唯一のドライブインに到着した。父はそこに車を止め、池に降る階段にいった。あとに続こうとしたが、どういうわけか足がガタガタと震えて立ち上がることもできなかった。辛うじてドアを開け、震えている足を 両手で叩いている時に階段の下から父の大声。冷たい強風に負けないたくましい声が耳に飛び込んできた。「ひろとーっ! 小山君がいたぞーっ!」
 いた? 震える足でどうやって階段を降りたかわからないけど、気がついた時には、目の前に俊哉が立っていた。僕はその場にへたりこんでしまった。安堵感と同時に怒りがこみ上げてきた。深呼吸をし、立ち上がった。目の前にいる俊哉は現状を把握できていないみたいで呆然としていた。お父さんは俊哉のちいさな妹を抱きかかえていた。腕の中ですやすや眠っているちいさな女の子。俊哉が一歩僕に近づいた。僕は俊哉を睨み付けた。その時、俊哉の姿を見て僕は何も言えなくなった。父のコートを羽織っているその下にはランニングシャツ一枚しか着ていない。正気ではない。上着は? まさか、真冬のこの時期にランニングシャツ一枚って変だろう。ハッとして妹を見た。大きなセーターとジャンパーを着て、真っ赤な頬に幸せそうな寝顔。俊哉は自分の服を全て妹に着せていた。咄嗟に震える俊哉の手を引っ張って車に向かった。
「馬鹿かお前」
自分で恥ずかしくなるくらい嫌な言葉が口からこぼれていた。何回も心の中で謝ったけれど、僕は僕のことが少し嫌いになった。俊哉の氷のように冷え切った掌から優しさが温かく伝わってきた。
 車に乗り込む時、妹が目を覚ました。周りをキョロキョロ見回し、急に泣き出したが、俊哉が手を差し伸べ、俊哉に抱きついてすぐに落ち着きを取り戻した。 僕は、俊哉と後部座席に座った。父はドライブインの自動販売機でホットココアを買ってきた。俊哉は丁寧にお礼を言って、まず、ふーふーと息をかけてココアの熱を覚ましてから妹に渡していた。温かい車の中で序々に平常心を取り戻してきた僕は俊哉に掛ける言葉を探していた。でも、なにも浮かばない。父は俊哉の妹に声を掛けた。
「お名前は、なんていうの?」
俊哉の膝の上でちょこんと座っている妹は一旦、俊哉をのぞき込んでから、小さな声で答えた。
「みゆ」
「そっか、みゆちゃんかぁ。みゆちゃんは優しいお兄ちゃんがいていいなぁ」
「うんっ」
 俊哉の妹の笑顔を初めて見た。ピカピカの笑顔だった。美由ちゃんはそのまま僕の方を見た。
「こっちの、おにいちゃんは、おにいちゃんの、おともだち?」
 どう答えていいかわからず、小さく頷く事しかできなかった。俊哉は優しそうな笑みを浮かべて美由ちゃんの頭を撫でていた。
 お父さんは携帯電話から学校に連絡を入れた。探しに出る時に学校の緊急連絡表を持ってきていたみたい。冷静な対応をしていたんだな。美由ちゃんがココアを飲み終わり、車が発進。降雪量はどんどん増えてきた。道路が白く反射し、来るとき真っ暗 だった景色が少し明るくなってた。僕と俊哉は一言も言葉を交わすことなく、ただ流れていく景色を見ているだけだった。
 時計は午前一時十五分を表示している。俊哉の家は街で一番の高層マンションの最上階だった。マンションの下からお父さんが俊哉の家に電話した。すぐにお母さんが飛んできた。若くて綺麗な女の人だった。父と僕に深々と頭を下げたあと、いきなり俊哉の頬を思いっ切り叩いた。マンションのホールに乾いた音が鳴り響く。俊哉は俯き、涙を流した。美由ちゃんも一 緒に泣き出した。お母さんからも大粒の涙がこぼれ、兄妹を力一杯抱きしめ声をあげて泣き出した。

 マンションからの帰り道、なぜ今日家に帰ってきたか聞いてみた。記憶している限りでは、二日続けて帰ってきた事はなかったはず。お父さんは嬉しそうな笑顔で答えてくれた。
「会社辞めたんだ。これからはお前達との時間を増やそうと思ってな。また一からの出直しだ。がんばんなきゃ」
 もう六年生だ。大人が仕事を変える事が大変な事だということはわかる。でも、お父さんの笑顔からは、なんの不安も感じられなかった。大丈夫。自然と溢れてくる笑顔を隠そうと表情を崩さないようにがんばった。そういえば、なにか僕はお父さんに言わなくてはいけない事があった気がするんだけど、まぁいいか。
 
 朝のホームルームで阿部先生から俊哉が無事であった事の報告があった。俊哉は風邪をひいて今日は休んでいる。昨夜の事に関してクラス全員が知っていたのだが、目立たない俊哉の事など、誰も感心がないかのごとく平常に時間が過ぎていった。僕は登校してすぐに昨夜の出来事を校長先生に根ほり葉ほり聞かれた。健介とは接しないようにしていた。しかし、午後に健介から僕に声を掛けてきた。
「小山、生きてやがったんだな。残念っ!」
 その言葉にカッとなり、気づいた時には健介を殴り飛ばしていた。産まれて初めてのグーパンチで。近くにいた何人かが振り向いた。健介は唖然と僕を見てから、クラス中に響く大声で言った。
「今日から、浩人、ハブなっ! みんなっ、絶対に口効くなよっ!」 
 クラス中が静まり返った。『ハブ=仲間外れ』誰もが恐れるその言葉に、自分でも驚くくらい平気でいられた。昨日までの僕だったら狼狽えて、もしかしたら健介に土下座くらいしていたかもしれない。でも、強くなった気がする。僕は言葉の凶器を軽く鼻で笑ってぶっ飛ばしてやった。
「うっせー、ばーか」

 放課後、俊哉の家を訪ねた。欠席者に届けるプリントをもって。クラスメートは誰も俊哉の家を知らなかった。エレベーターに乗り込み、最上階の二十階のボタンを押す。 静かにエレベーターは上昇し、アッという間に二十階に到達した。二十階の踊り場に立つと、街の公園の展望台より綺麗に僕の住んでいる街を見下ろせた。視線をあげると昨夜の雪でうっすらと白化粧をした入鹿池がのどかな風景に溶け込んでいた。
 家のチャイムを鳴らすと中からお母さんが出てきた。 俊哉のお母さんはマジ綺麗。何度も何度も僕にお礼を言い、何度も何度も謝った。改めて僕の家に来るとも言っていた。お母さんに連れられ俊哉の部屋に入った。凄く広い部屋。テレビもエアコンもゲーム機もゲームソフトなんて店と同じくらいあるんじゃないか? 僕がほしい物はとにかくみんな揃ってる。
 ベッドで寝ていた俊哉は、僕の登場に少し驚いた様子で慌てて上半身を起こす。お母さんが「ジュースを持ってくる」と部屋を出ていくと俊哉は、頭を下げて謝った。
「昨日はごめん」 
「いや、元をただせば、僕の方が悪いよ。ごめんな」
 俊哉は、俯いたまま首を横に振った。
「でも、お前んち、すげーな。広いし綺麗だしなんでもあるし。部屋にテレビやゲームがあるなんて天国じゃん」
「月に一回、お父さんが僕と美由に会う度にプレゼントを買ってくれるから」
「えーっ、毎月、誕生日みたいなもんか」
「あはは、そうだね」俊哉が普通の笑顔をみせた。なんだか嬉しい。
「いいなー、お前」
「ん、でも、もうお父さんには会わないからこれ以上は増えないかな」
「なんで会わないの?」
「新しいお嫁さんに赤ちゃんが生まれるから。いつまでも僕達が会っていたらいけないと思う」
「お父さんが、もう会わないって言った?」
「ううん、今日、僕が決めたんだ。まだ、お父さんには言ってないけど」
「お父さん、悲しまないかな?」
「多分、凄く悲しむと思うけど。僕はお母さんを助けるって決めたんだ。でも、大人になったら絶対にお父さんと一緒にお酒飲むんだ。それまでは会わない。決めたんだ」 
「大人じゃん」
「そんなことないよ。でも、昨日までとは何かが変わった気はするな」
「だな。僕もだよ」

 日曜日、家族揃って遊園地に行った。でも僕は行きの道中、車酔いで気分が悪くなってしまった。原因は睡眠不足。何年か振りの家族全員での行楽にテンション上がりすぎて、ほとんど眠れなかったから。苦しむ僕の背中をさすってくれるお父さんの手は、大きく、温かかった。     



2
転校してきた小山に、最初はみんな興味をもったが、たいして自分たちの刺激にならない奴だと分かったとたんに興味は無くなっちまった。成績は悪いわけじゃないけれど、太っていて動きが鈍い。それだけで、友達リストからは外れる。そんなもんだろ。いつも休み時間に本を読んでいる。小山が嫌いだ。近くにいるだけで、イライラする。運が悪いことにクラス委員である俺の隣の席に担任が座らせてしまったんだ。ついで言うと、家も近い。ウチの近所にでかいマンションがある、セレブ専用マンションの最上階に住んでいるらしい。いや、ペットとして飼われているんだろう。奴にあのマンションはありえねぇ。あと、小山俊哉と同じくらい気に喰わないのが、運動はからっきしのくせに勉強だけは俺より成績のいい窪田浩人。浩人はこのクラスのリーダーでいるのには必要な部下だから話はしてやるけど、本当はこんな奴らいなくなればいいのにと思っていたりしている。今日、話の流れで浩人と中学受験について話をしてしまった。あいつ一緒に塾に行こうなんてぬかしやがった。うぜぇ。栄光ゼミナールが一番だって。俺はお前と違って塾なんて行かなくても十分受験は戦えるんだよ。ガリ勉なんて馬鹿のやることだろ。

「今日、健介んち行っていい?」振り向くと高田がいた。こいつとは幼稚園からの腐れ縁。「いーよ」即答。いつものことだから、いちいち言わなくてもいいのに。
「俺も行っくぜーい!」相変わらず甲高い声。チビの河合が机と机の間をあみだくじみたいに縫って走ってくる。こいつらは俺の手下みたいなもの。宿題もろくにやってこない。当然成績もひどいものだ。俺と一緒にいることがステータスだと思っている。だからいつも俺にくっついてくる。まあ、付き合ってやるのも小学生のうちだからいいけど。中学は私立に行く予定だから。俺といられたことをいい思い出にすればいいさ。
いつも一緒に遊歩道を歩いて下校。毎日、俺の部屋に直行。で、ゲーム三昧。こんな毎日だけれど、楽しかった。こんな日がずっと続けばいいと思っていた。

隣の席の『でぶ』の小山はまた本を読んでいた。担任が入ってきてから慌てて本をしまおうとするのだが焦って床に落とす。こんなことはいつものこと。超鈍クサイ奴。誰にも相手にされず、いつも寂しく一人ぼっち。何か楽しいことでもあるのかな。ちょっとした気まぐれで、小山に声をかけてみた。「どんな本読んでいるの?」呆然とした豚顔に笑いそうになるが、ここは我慢。小山の顔がみるみる変わった。見たことの無い表情だ。その表情は神経の一番深いところを逆撫でする。イラつくっ!
「……えっ? えっと」
小山は慌てて包装紙のカバーを外し、タイトルを読もうとする。いいって、そんなことしてもらうほど興味はないから。内心思ったが、変なタイトルを聞いてとりあえず相槌をうってその場を去った。振り向くと小山が俺を見ていた。なんだか分からないが嫌な気分だった。

工場勤めの親父は六時に帰宅、すぐに風呂に入り七時にごはん。二時間くらいテレビを観て、十時に就寝。そして、五時起床。毎日、同じ時間に同じ行動。機械みたいに正確。たまに、親父の会社で作られたロボットなんじゃないかとさえ思うことがあった。本当の父は開発者で、とかね。でも、その日のロボットは、プログラムに異常があったのか、六時に帰ってこなかった。ごはんの時間の七時になっても、寝る時間になっても。

河合と喋っていると、小山がのそりと教室に入ってきた。猫背のでぶ。おどおどした目で自分の席に向かう。こいつ、何が楽しくて生きているんだろう? 得体の知れない動物を観察していると、そいつは、俺に気づく。そしてまた、心をざわつかせるような表情で言った。
「お、おはよう」
俺たちは呆気にとられた。まさか声をかけてくるとは。これは、大ニュースだ。お調子者の河合が、すぐに小山のモノマネをした。
「お、お、おはよう」

「このゲーム飽きたぁ」また河合だ。こいつは不器用でゲームが下手。でもってわがまま。負けるとすぐ言う台詞。
「じゃ、違うのやる?」高田が俺をちらと見て言う。イラつく。読んでいた雑誌を馬鹿に投げつけた。河合は咄嗟に手で顔をかばう。高田は何もなかったようにゲームを始めた。
 不機嫌の理由は、生まれて初めて顔を殴られたから。しかも、豚の小山に。あいつは明日からハブにする。みんなに告げておいた。卒業するまでいじめ続けてやる。

「ねぇ、いよいよ明日だね」河合が俺にご機嫌をとりながら擦り寄ってきた。しかたがないから、「ああ」と返事はしてやった。俺たちが一番ハマっていたゲームが『ドラゴンレボリューション』。通称ドラレボ。シリーズもので、明日発売のものがパート3。これは予約がないと買えない。でも、ぬかりはないよ。当然予約済み。   
お袋と二人の生活になって、ごはんの時間が早くなっておかずの種類が減った。今日はふりかけだけで食べている。お袋に親父のことは聞かなかった。どこか故障して工場で直しているのだろうって思っていたから。
「明日、ドラレボの発売日だから、お金ちょうだい」
お袋は気だるそうな目で俺をしばらく見つめていた。なんだか人間じゃないような気がした。もしかしたらお袋もロボットなんだろうかって思った。
「オカネガナイノ」
機械的な音が耳に入ってきた。やっぱりお袋も機械でてきていたんだ。

学校に行くと一目散で河合と高田が寄ってきた。二人が声を揃える。
「健介、今日行っていい?」俺は首を横にふった。二人はみるみる表情が暗くなった。「ドラレボは俺がやってからだろ」買えるあてもないのに言ってしまった。二人は大きく頷いて、「そりゃ、そーだよなー」とまた、声を揃えた。声変わりしていない河合の声と、小学生のわりに声の低い高田の奏でるハーモニー。エレクトーンみたいだ。二人とも同じ顔、同じ笑顔。こいつらも、ロボットなんじゃないか? 
今日も殴られた。今度は部下の浩人に。飼い犬に手を噛まれるとはいういうことなんだな。奴もハブだ。豚と同じように毎日いじめてやる。でも、昨日も今日も痛みは感じなかった。もしかしたら俺もロボットだったのだろうか。

昨夜『ドラレボ』を手に入れる方法を考えた。家に帰ってから、自転車で一時間くらい走った。隣のまた隣の学区にある商店街にある、でかいおもちゃ屋に到着。以前、人間のほうの父と母に車で連れてきてもらったことがある。前を通り過ぎてみる。思ったとおりだ。店頭に山積みにされている『ドラレボ』。店員の若い女の人は造った笑顔で俺を見た。お客だと思ったみたい。そこを通り過ぎて、ふたつ先の角に自転車を停めた。後は待っていればいい。待っていれば『ドラレボ』はやってくる。
三十分くらい待っただろうか。そろそろ薄暗くなってきた。突然、空気が騒がしくなる。集団でドラレボを手にする奴らがいた。栄光ゼミナールのガリ勉どもだ。目の前を嬉しそうに過ぎていく奴らに顔がばれないように、キャップを深く被り、ずっと下を見ていた。お前らじゃない。早くいけ。しばらく待っていると、いたいた。グループに入れてもらえず、一人で買いに来るさみしい奴が。でも、こいつはダメだ。身体がでかい。お前じゃない。早くいけ。こいつは逆方向に自転車で走っていった。店頭には、客は無く店員しかいない。俺の気持ちも知らないで、暢気にあくびなんかしている。ばかやろう! もう、こうなったら誰でもいい。祈るような気持ちで待った。店員が『ドラレボ』を片付けだした。ちくしょう! 奥歯を何回も噛んで、唾を何回も吐いた。口の中の水分が無くなったころにようやく現れた獲物。心臓が音を立てて踊りだした。

そいつは片手で『ドラレボ』の入った袋をぶらぶらさせながら駅のほうに歩いていた。自転車で後ろからそっと近づき、袋を引っ張った。そいつの手から俺の手に、簡単にやってくる『ドラレボ』。そいつは振り向き、何かを叫んだが、俺は『ドラレボ』を口に咥え、最初の計画通りに自転車で全力で逃げた。寂れた駅だからよかったのか、人はほとんどいなかった。

「早くやらせてくれよぉー」河合が高田の肩を叩く。
「まてよ。このステージだけやらせてくれっ」
二人は一つのゲームを取り合う。俺はまた雑誌を読んでいた。昨日、ゲームはやったのだけれど、大して面白くなかった。そんなことより、現実の狩りの楽しさといったらなかった。ゲームを盗られてからの追いすがるようなガキの顔ったらなかった。独りで笑っていると、二人は何も言わず俺を見ていた。

ごはんを独りで食べた。今日でふりかけが無くなった。お母さんロボットは夜どこかへ出かけることが多くなった。暇になったので、今日も狩りに出ることにした。遠くまで行くのは面倒なので、自転車で三十分くらいで着くスーパーの近くでまった。田舎のスーパーなので、人通りの少ない道路ばかり。ほとんどのお客は車でくるみたいで駐車場は立派だ。
駐車場の片隅で、獲物を物色する。小学四年生くらいの女の子がレジ袋をぶら下げて歩いてくる。おつかいでも頼まれたのかな。でも、手ごろな獲物だ。いつものように後ろから自転車でそっと近づき、手に持っている袋をひったくる。小さな悲鳴を聞いて笑った。声を出して笑った。笑いながら全力で逃げる。

「リコンシマシタ。」夜、お母さんロボットは俺に告げた。

だから、何? って言ったら、ロボットのくせに泣き出した。

その日の下校もいつもと同じだった。変化したことといえば、ハブにした豚の小山と浩人が仲良く遊ぶようになったこと。だけどおかしい。ハブにしたはずなのに、クラスのみんなと仲良く話したりしている。今度、何人かで小山の家に遊びにいくらしい。
高田が言った。「今日、お前んちいっていい?」
河合が言った。「俺も行っくぜーい!」

いつもの遊歩道を歩いて、いつもの公園を通り過ぎようとしたときに、いつもでないことが起きた。同じ年くらいの男の子と学生服の男が二人、僕たちの目の前に立ちはだかった。学生服の持っているナップサックには『三中』とプリントしてあった。ああ、この人たち中学生なんだ。でも『三中』ってどこだ? 田舎くさい名前だな。中学生はとてもガラの悪い感じがした。『ふりょう』と言われる人たちだ。二人ともにきび面で汚い感じがした。小学生の子がなぜか怒っていた。俺を指差して言った。
「こいつだよっ! 間違いないっ! こいつだっ!」
何のことなのか分からないから首を傾げたら、いきなり小学生に殴られた。口の中がぐにゃりと曲がったような気がした。やっぱり痛みはなかった。俺もロボットだったんだ。中学生の一人は河合と高田の腕を引っ張って、嫌がる二人を公園に引きずっていった。二人とも泣いていた。俺ももう一人の中学生に引きずられて公園に連れていかれた。こいつらは、『ドラレボ』を返せと言った。なんで? あれはもう俺のものだろ? 
「セーブしてあるデーターは俺のものだから俺のものだ」

中学生二人は突然、俺を投げ飛ばした。洋服に泥がついた。クリーニング代を払えと言ったら、蹴飛ばされた。治療費を払えと言ったら、また蹴飛ばされた。河合と高田は財布を取られていた。二人とも財布には一万円札が入っている。そして、二人は解放された。泣きながら走っていく二人の背中を見ていると無償に悔しくなった。小学生の顔を見上げる。ああ、知っている。思い出した。駅前で『ドラレボ』を持ってぶらぶら歩いていた奴だ。自転車をずっと追いかけてきた奴だ。
 散々殴られて、蹴られて、口の中も泥だらけになって、もう終わりかな。と思った時に、二つの叫び声が聞こえた。
「うわーぁー」
「わ、わー、わー」
河合と高田が助けに来てくれたのかとも思ったけれど違うだろうな。エレクトーンみたいな音じゃないし、なんだろう? 
奇妙な唸り声と共に地面を伝わってくる振動。顔を地面から外すと、にきび面が一人俺の横に倒れこんできた。なんだ? 騒然となって、砂埃が舞い上がって、よく見えない。目を凝らす。俺の目はありえない光景を映していた。急に身体が痛くなってくる。悔しくて悲しい気持ちになってくる。
小山と浩人が中学生に抱きついて、俺に向かって叫んでいる。必死な顔で叫んでいる。小学生も倒れていた中学生も小山を蹴った。力いっぱい蹴った。でも、離さない。歯をくいしばって離さない。三人は容赦なく小山の太った身体を叩き続けた。浩人も大声で叫びながら中学生に抱きついて、ランドセルを引っ張られて、投げ飛ばされた。筆箱が地面に散らばる。教科書を踏みつけられる。浩人が地面に転がされ、何発も蹴られていた。

叫び声が聞こえた。大きな声だ。絶叫に近い声。
「ごめんなさいっ!」
俺の言葉だと気づいたとき、涙が止まらなくなった。何回も何回も言った。「ごめんなさい、許してください。ごめんなさい」何回も何回も謝った。頭を地面に擦り付けて謝った。

 開放されたときのことは覚えていない。でも、俺を抱える小山の太くて温かい腕のことと華奢だけど硬い浩人の肩はしっかりと覚えている。
「何やってるんだよ」浩人は怒っていた。
「ごめん」自然に謝ることができた。嬉しかった。
「だ、だ、大丈夫?」心配そうに小山は言った。優しい声だった。
「うん。大丈夫」
小山と浩人は笑っていた。眩しいくらいの笑顔で。
俺も笑った。自分が笑っていることが嬉しくて、また笑ったんだ。



3
小学校生活最後の土曜日、僕たちは今、入鹿池を目指している。ブラックバスを釣りにいくんだ。自転車を漕ぎ出して一時間が過ぎた。山道に入って木陰は気持ちがいいけれど、さっきから登りがきつくなってきた。汗をぬぐいながら、最後尾でついていくのでやっと。前方では、ぴょんぴょんババァについて俊哉と健介が激論を展開させている。僕はとても話をする余裕なんてない。入鹿池に行くためには山を越えなくてはいけない。大きな山じゃないけれど、自転車で行くにはかなりきつい。数ヶ月前、俊哉を探しに来たときにお父さんがかっ飛ばした道だ。僕はどちらかというと知的さを売りにしていて、体力的なことは、健介や俊哉にはかなわない。

「もうすぐ頂上だー、浩人がんばれよぉー」先頭の健介が振り向いた。余裕をみせてやがる。中指を立ててやったが、声がでない。
「登ったら休憩しよう。もう少しだから、がんばろう」俊哉の言葉には素直に頷ける僕。前方を見ると石碑みたいなものがある。あそこだ。もう少し。がんばれ、僕。頂上の展望台にやっと着いた。物凄い達成感。
「ご苦労であった。くるしゅーないぞよ」
健介が扇子を扇ぐまねで足を目いっぱい広げてベンチに座ってる。ははー、ばか殿様。言いたかったけれど、苦しくて声がでない。俊哉がジュースを持ってきてくれた。
「あ、ありがと」ようやく、しゃべることができた。マジきつかった。
展望台からみる僕たちの街は、のんびりと日向ぼっこをしていた。

「あれ? 健介は?」
「また、どこかに行っちゃったね」
まただ。いつも健介は興味があるものを見つけると勝手に行ってしまう。この前もそう。三人で水族館に行ったんだけれど、一人でどこかに行ってしまって迷子になっちゃった。なのに、場内アナウンスで、僕たちを迷子として呼び出した。『十二歳のお子様、黄色のジャンバーを着ている窪田浩人くんと十二歳のお子様、赤い帽子に青のズボンの小山俊哉くん、お連れ様が案内カウンターでお待ちです』って。放送されたときは、顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかった。なのに、あいつ、ケロッとして、僕らに「お前ら、信号みたいだな」ってわけの解らないこと言って大笑いしてた。ほんとに、健介はガキ。ちょっと前の健介とは別人だ。相変わらず勉強も運動もできるけど、とにかくよく笑うようになった。だから健介の周りは友達でいっぱい。特に女子が多い。あー、むかつく。よその学校にも友達がいるし。あの健介を殴った子。まぁ、健介が悪いんだけど。健介はその子を探しに行って、改めて謝ってゲームを返した。お詫びに自分のゲームもあげた。あとは、健介のキャラで自然と友達になったみたい。河合と高田が中学生にとられたお金も、自分のゲームソフトを売ったお金で返したって。でも、もう二人は健介の家には行っていない。だって、健介が俊哉の家に入り浸っているから。その理由は、恋。健介の初恋だって。相手はなんと、俊哉のお母さん。確かに凄く若くて綺麗だけど、まさかねぇ。だから、健介は俊哉に「俺のことをお父さんと言いなさい」って馬鹿なことを言ってる。マジ馬鹿。
「おーい」健介の声が聞こえた。どこだ? 見渡すけれどいない。
「おーい、こっちー」声と同時に健介が展望台の脇の雑木林から這い出てきた。全身葉っぱや土で汚れている。
「な、なに? 健介、どうしたの?」
「お父さんとお呼びなさい」健介の目が嬉々として輝いている。何か楽しそうなものを発見したみたいだ。「何かあったのか?」
にっこり微笑んでこくりと頷く健介。手招きして僕たちを呼んでる。「カモーン」僕と俊哉は見合わせて同時に首を傾げ、健介の後についていった。雑木林をすべるようにして降りていく。枯葉のスキーだ。展望台が樹木で見えなくなったくらいのところで、突然道が現れた。道と言っても人一人が通れるくらいの幅しかないけど。右に行くと登り坂、左に行くと迂曲した下り坂。健介は迷わず下っていった。
「何があるの?」僕はさっき苦労して頂上まで行ったのにまた下るということに抵抗したけど。無駄だろな。
「わかんない」ちょっとまて、わかんないってどういうことだ。俊哉も同じように思ったみたい。
「健介、何か見つけたんじゃないの」
「おとうさ……まあ、いい。いや、さっきと違うんだよな。俺が見つけたのはスズメバチの巣」そんなのに近づきたくねーよ。
「ま、行ってみようぜ」まじかよ。
「浩人、何か面白そうだね」……俊哉まで。まじかよ。
二人の後をとぼとぼと着いていった。砂利の道はうねっていて、方向さえわからなくなってきた。道を引き返せば展望台に行けると思うけれど、だんだん怖くなってくる。そろそろ引き返そうと言おうとしたとき、道が拓け、フェンスが立ててあった。木の看板で『タチイリヲキンズ』とある。なんかカタカナって怖い感じがする。
「立ち入りを禁ずだってさ。帰ろうよ」
言ってみたものの、すでに健介はフェンスをよじ登っていた。
「さすがに、まずいだろ」
「ちょっと行くだけ。早く来いよ」
俊哉も行ったから、しかたがなくフェンスによじ登った。錆びが浮き出ていたけれど、フェンス自体はしっかりしていた。手のひらについた錆びをはたきながら二人について行く。雑木林を切り取ったような道はゆっくりとしたカーブを描いて下っている。フェンスが見えなくなったところで、それは飛び込んできた。街があった。家がずっと奥まで右も左もびっしり立ち並び、その先には、公園らしきもの。錆で黒茶色のすべり台があって、鉄棒があって。公園の隣りには、公民館みたいな大きな建物。しばらく声も出さずに街を眺めていた。どのくらい時間がたったのかわからないけど、生暖かい風が髪を揺らしてようやく正気を取り戻した。
「すっげぇ、なんだここは?」
健介が突然奇声を上げて走り出した。あれが喜びの表現だということは、友人の僕たちにしかわからないだろう。奴は全力疾走で公園に向かっている。一歩足を踏み出すたびに『じゃりじゃり』という音がくっついてくる。普段歩き慣れたアスファルトでなく、舗装されていない道路。小さな灰色の石と黒い土。いや、大粒の砂なのかな。道幅もとても狭い。左右、一軒一軒の家を眺めた。同じような木材でできた塀。塀と同じ黒色の平屋。同じような開き戸。同じような狭い庭。そして、不思議なことにどの家も人の気配はないんだ。道にも公園にも人はいないし車も走っていない。なんとなく淋しくって苦しい気分になってきた。健介の喜びようとは間逆の気分だ。奴は雑草の上に浮かんでいる滑り台の上で手を振っている。
「おーい、早くこいよー」
「おお」僕と俊哉は小走りに健介のいる公園に入った。時折吹く強い風はまだまだ冷たい。けれど柔らかい日差しは確実に春が来ていることを告げてくれている。僕たちは公園を抜け、公民館のような建物に向かった。

「おいっ」
背後から突然声をかけられた。僕たちはそろって飛び跳ねた。だってそれまで誰にも会っていなかったから本当にびっくりした。振り向くとさっき健介が登っていた滑り台の下に僕たちと同じくらいの歳の男の子がいた。青いキャップを被っていて、白シャツに半ズボン。ちょっとフアッションセンスに問題ありかな。彼とは距離にしたら二十メートルくらい。彼の眼はなにかぎらぎらしていて、ちょっと怖かった。少しの間、僕たちを睨むような眼で見てから言った。
「お前ら、本校の奴らだな、ちょっと待っとれや」彼が走り去ろうと背を向けたときに、 健介がぽつりと言った。「なんだ、あいつ」
健介はへらへら笑っていたけど、僕の心臓はエイトビートでリズムを刻んでいた。理由はわからないけれど、彼は凄く怒っているように思えたからだ。俊哉をみると僕と同じようにビビッている。嫌な予感がする。戻ろうと言おうとしたとき、何処からとも無く地鳴りと怒号が聞こえてきた。咄嗟にヤバイと声に出したが、時すでに遅し。すぐに僕たちの周りを獣のように眼をぎらつかせた子供たちが囲んだ。さっき子の手には竹刀。他に男の子が二人と女の子が二人。その子達の手にはそれぞれバットや棒っきれ。フライパンを持っている女の子もいる。加えるならば何故か全員半袖。真夏のスタイルじゃん。でも、そんなのどかなこと考えている状況ではない。みんな今にも殴りかかってきそうな雰囲気で睨みつけながらじりじりと迫ってくるから。僕たち三人は身体を寄せ合いながら後ずさりする。一歩下がると彼らは一歩前に出る。一定の距離を置いて僕たちは向かい合っていた。ちきしょう、なんでこんなことになってしまったんだろう。
「な、何か俺たちがしたのかよ」健介が俊哉にしがみつきながら少しばかりの抵抗を試みる。
「あんたたち、本校の子たちでしょ。美佐ちゃんは嫌だって言ってるでしょ。しつこい男はもてないのよ」フライパンの女の子は言った。こいつら何か勘違いしている。
「何、言っているかわかんない。僕たちは南小の六年。入鹿池にブラックバスを釣りにきただけだ」勇気をだして言ってやった。俊哉は大きく何回も頷いていた。
「釣り? お前ら竿もってねーじゃねえか」バット少年が口を尖がらせた。
「竿は自転車に積んであるよ。展望台に置いてある」上に指を何回も差して説明すると健介と俊哉も指を上に向けてた。三人が天に向けて指差す間抜けな光景。でも、彼らが僕たちに向けるおっかない視線は変わらない。その時、僕たちの背後、公民館のほうから、『ブッブー』っていう音が聞こえた。彼らの視線が一斉にそちらに向く。フライパン少女の表情に明かりが灯った。
「美佐ちゃんだっ!」

どこからともなく。忽然と現われたんだ。振り向くと、背の高い女の子がいた。髪は短く、水色のティシャツにスーパースリムのジーンズ。顔が凄く小さくて大人びていた。右手に楽器(トランペットだと思う)を持っている。今の音はこれを鳴らしたんだろう。彼女は凛と背筋を伸ばし、真っ直ぐ歩いてきた。切れ長で綺麗な瞳。きゅっと結んだ口元。女の子でも僕よりは絶対に強そうで、そして優しそう。風に靡く髪がきらきらしてる。歳は同じくらいなのに僕たちはその存在に圧倒されて何も言えなかった。涼しげな風が彼女の髪を揺らす。僕たちの正面で彼女は言った。
「はじめまして、私、原口美佐子」
この時、生まれて初めての感覚。まるで僕がいることが嘘みたいな、ふわふわしているような、周りの景色は全て無くなっていた。眩くて白い光の中に彼女はいた。

「美佐子、こいつら敵じゃないのか?」竹刀の少年が僕たちを睨んだまま彼女に聞いた。
「違うよ。ここに遊びに来てくれただけだよ」
「ほんとに?」美佐子が微笑みながら頷くと、竹刀の彼は片手をさっと上げた。「戦闘態勢解除」
なんじゃそれは。緊張感がほぐれた僕は思わず噴出してしまった。僕だけじゃない。健介も俊哉も。男の子たちも女の子たちもみんな笑い出した。
「ハッちゃんの早とちりかよ。おっちょこだからなー」
棒っきれを持っていた男の子が言った。健介は持ち前のバイタリティで、すでに女の子たちに自己紹介をしていた。さすが健介。竹刀はハツオ。今までとは別人のような笑顔。バットはショウジ。棒っきれは、ショウジの弟のタカオ。フライパン少女はヨウコ。小さな女の子はセツヨ。タカオとセツヨは四年生。あとは全員六年生。僕たちと同級生だ。美佐子の登場だけで、北極みたいだった空気が温まり、氷山を溶かしてくれた。多分、美佐子がこの子たちのリーダーなんだろうということが理解できた。健介がショウジからバットを借りて素振りをしている。木製バットなんて初めて見た。健介がイチローのフォームを真似てバットを振りながら言った。
「俺も野球、得意だぜ。エースで四番なんだ」
「じゃ、三角ベースで勝負だ」ショウジが片足を上げたバッティングフォームで構える。
「へんなフォームだな、そんなんじゃボールが来る前にコケちゃうだろ」
健介が笑っているとショウジは頬をふくらせた。
「王の一本足打法だよ。お前も知らねぇわけないだろ」
「しらねーし」ショウジの眉間にしわが寄った。ヤバイ。でも健介は全然気づいていない。咄嗟に僕は声を出した。
「王さんって前、監督やってた人でしょ。確かソフトバンクだったよね」
「ああーん?」僕に振り向くショウジは、ますます眉間のしわが深くなってる。なんでだよ、違ったか? しかし、なんでこいつはこんなに怒りっぽいんだよ。ちゃんと牛乳を飲んでいるのか? 
「だ、第一回WBCの日本代表の監督だよね」俊哉が凄く緊張しながら助け舟を出してくれた。だけど、今度はショウジ以外の子達も首を傾げている。なにかおかしい。数秒時計が止まった。
「君たち、三角ベースのルールは知ってる?」
時計を動かしたのは美佐子だった。また張り詰めつつある空気を元に戻した。絶妙のタイミングで。彼女がこの場の空気をコントロールしている気がする。
「美佐ちゃん、アタシ、ポコペンがいい。だって、三角ベースだと玉拾いしかやらせてもらえんもん。つまらんもん」
セツヨが`やらせてもらえんもん´のところだけ大きな声で、顎をショウジに突き出して言った。美佐子に言いつけてやったって感じだ。ショウジはみるみる眉間からしわが消えて、眉毛がたれ下がった。
「セツはやり方知らんで、しかたないやろ」
「しっとるわっ!」
セツコは小さいけど気は強そうだ。完全にショウジを圧倒しているじゃないか。
「ポコペンってどんな遊びなの?」俊哉が誰ってことなく聞いた。僕も知らない。ポコペンってなんだ? いや、その前の三角ベースも知らないけれど。
「ポコペン知らねーのか?」ショウジとハツオとタカオは何故か三人で肩を組んでいて声を揃えた。そして、すぐに互いに相手の首筋に手を持って言ってくすぐりあう。きゃっきゃとはしゃぐ三人。突然、そのまま駆けていき、タカオがヨウコの赤いスカートをめくった。ヨウコは黒いパンツを履いていた。僕の呼吸は一瞬止まった。
「おおーっ、ナイス!」健介はすぐさまガッツポーズ。僕は心の中でガッツポーズ。俊哉も多分、僕と同じだろう。そして、三人は散り散りに猛ダッシュで公園のほうに逃げる。
「ぶん殴ってやるっ!」ヨウコはすぐに反応し、フライパンを持ったまま三人を追いかけた。まさに鬼の形相だ。
「このまま、ドロジュンだよっ! 男子三人が泥棒。私たちは巡査」
ドロジュンなら知っている。地方によっては『ドロケイ』や『ケイドロ』なんて言うらしい。この間、『昔の子供たち』という授業があった。その中で、鬼ごっこやかくれんぼ、ドロジュンを校庭で実際にやった。でも、僕はあまり楽しくなかった。だって、疲れるもの。
美佐子たちのやっているドロジュンは、僕の知っているルールと多少違った。僕たちはただ捕まえたらおしまいだったけれど、ここのルールは、捕まったら檻に入れられる。檻はジャングルジムで、巡査チームは見張りつけるんだ。何故かというと脱獄されるおそれがあるから。捕まったらジャングルジムの中を登ったり降りたりして仲間の助けを待つ。見張りはジャングルジムには触れない。だからここで頭脳戦なんだ。巡査は周りしかいけないから、反対側にいくのに、結構時間がかかる。犯人は中を通れるから早いの。泥棒の仲間が一瞬の隙をつき、見張りの巡査の目を潜り抜け、捕まっている仲間にタッチすると釈放される。そのときが一番緊張するときなんだ。自分も捕まるかもしれないものね。その時巡査は目を瞑って十大きな声で数えなくてはならない。そして、今、僕は三回目の脱獄を許し、十を数え終わったところ。

「うぉらー! まてーっ」
健介が、すばしっこく逃げ回るタカオに翻弄されている。僕と俊哉はへとへとで、声を出すことさえもできずに公園のベンチに腰掛けた。ヨウコとセツヨがハツオを挟み撃ちにした。フライパンを構えながらじりじりとハツオに迫る。ショウジとタカオはすでにフライパンの刑を受けた。そして、最後まで逃げていたハツオがとうとう捕まりそうだ。その時、ショウジがヨウコの背後に猛ダッシュで現れ、またスカートをめくり上げた。
「やーい、ヨウコの提灯ブルマー」
ショウジがほっぺたを引っ張って舌を出しながら言った。その隙にハツオも逃げ出す。ヨウコは翻り、猛ダッシュ。「ショウジは死刑っ!」
僕は袖で汗だくの額をぬぐって、上着を脱いだ。僕の横で、俊哉もゆでだこみたいに赤い顔をして、ぜーぜー言っていた。ここで、違和感を覚えた。ちょっと、おかしいでしょ。ぜったいに変だ。
「ハツオもショウジもヨウコもみんな、汗を全然かいていないし、息も切れていない。なにか変じゃないか? あの健介でさえもうヘロヘロだぜ」
俊哉に振り向いたつもりだったのに。そこにいたのは、美佐子だった。凛とした大人びた表情で僕を真っ直ぐに見ていた。女の子にここまで直視されたことなんてないから、頭の中は真っ白だ。嬌声と笑い声が暖かい風と混ざり合ってとても気持ちいい風が吹いた。

「私たち、もう、死んでいるの」
想像を遥かに超えた告白を美佐子はさらりと言ってのけた。真っ白な頭の中がさらに真っ白になっていく感覚。確実に僕は固まった。呼吸も忘れていたかもしれない。でも、美佐子の告白はとても自然で、死という言葉のもつ悲しみや影を感じることもさせず、僕に届いてくる。
「僕、幽霊の話とか、凄く苦手なんだけど」
美佐子は少し笑って、背伸びをした。銀色のトランペットが太陽を反射させて、きらきらした光が美佐子を包んだ。彼女はとても可愛くて、ずっとこのままいたいと心の底から思った。だけど、きっとそれは無理なんだろうな。僕の初恋は、あっけなく散りそうだ。

 セツヨが美佐子に寄って来て耳元で何か囁いた。美佐子はセツヨに優しく微笑み、首を横に振った。すると、みるみるセツヨの表情が曇り、大粒の涙が頬を伝った。次にハツオが突然大声で泣き出したのだ。理由はわからない。それは、とても苦しそうで、つらい叫びだった。僕の胸も張り裂けそうになるくらいの悲しい涙をたくさん流して、彼はうずくまった。これをきっかけに他の子たちも、ハツオと同じように嘆き悲しみ苦しい涙でその場にうずくまった。ショウジもタカオもヨウコも。僕たちはどうしていいものかわかなかった。公園が悲しみの涙で洪水をおこすんじゃないかと思えたときに、美佐子はトランペットを口につけた。足を広げて、少し腰を落とした。頬が小さく膨らみ、悲しみに満ち溢れた空間を蹴散らす勇気の咆哮をあげる。美佐子がそれは優しい笑みを浮かべてトランペットを吹いた。悲しみを吹き飛ばす音色。
「みんなー、歌うよっ! 宇宙戦艦ヤマトだっ!」
『パラッパップププップブッブブー……』美佐子はトランペットを天に突き上げて叫んだ。
「ヤマト発進っ!」
うずくまっていたみんなは、涙を腕や手でぬぐいながら、ゆっくり立ち上がり、歌いだした。最初は鼻声だったけど、小さかった声もサビのところでは笑顔を見せて腹の底から声をだしていた。僕たちは、正直何が起こっているのかわからなくて呆然としていたんだと思う。

「うちゅーせんかんトーマートー」
最後の『ヤマト』の部分をトマトと言うのがお決まりみたい。歌い終わると美佐子は小さく僕たちに会釈をした。健介は大げさに拍手をしていた。

「みんな、帰ろう」
美佐子が言うと、みんなは各々に口にした。
「帰ろう」
「帰ろう」
「帰ろう」
ショウジとハツオとタカオがまた肩を組んだ。三人四脚よろしく足をわざわざ揃えて僕たちの所にやってきた。さっきの泣き顔とはまったく違って、顔をくしゃくしゃに崩すくらいの笑顔で。
「おもしろかったぜー」三人は声を揃える。
ヨウコとセツヨも手をつないでスキップをしてやってくる。
「たのしかったよっ」
健介がまたなって言うと、みんなはにっこり微笑んで、その場からふっと消えた。あたりまえのように消えた。
「えっ?」健介と俊哉が固まった。さっきの僕もそうだったから気持ちはわかるよ。教えてあげなきゃな。
「みんな、幽霊なんだって」
「えっ?」二人は揃って美佐子を見た。美佐子は幽霊のまねなんだろうか、笑顔で手をぶらぶらさせて舌をだしている。怖くないって。
「ごめんね、私たちもここの景色も家もみんなユーレーなんだ」
「家も?」
「うん。私たちの親は同じ工場で働いていたの。その社宅。でももう無くなっちゃって、今は公園になってる。みんな無くなっちゃったの。私たちも家も学校もお菓子屋さんも……みんな、なくなったの」
景色が、回りだした。家も公民館も滑り台も回りだす。全ての色が無くなって、透明になっていく。空気が泣き出すような声で唸り、ざわざわという木々が擦れあう音の中にみんなの笑い声が聞こえたような気がした。そして、周りは雑木林になり、美佐子だけが僕たちの前に立っていた。少し潤んだ瞳をずっと僕は眺めていた。
「今日はありがとう」
僕たちは小さく頷くしかできなかった。僕たちがいるのは展望台から少し降りたところにあるちょっとしたスペース。ちょっと上を見ると、僕たちの自転車が並んでいた。町の喧騒が少し空気に混ざってきた。美佐子は小さく手を振って振り向いた。何か言いたい。だけど、何も言葉がでない。ここでお別れなんて嫌だよ。
「み、美佐子は何で死んじゃったの?」
僕は自分でも驚くくらいに大きな声で尋ねていた。美佐子はこちらを見ず、展望台にある石碑を指差した。すごく肩が揺れている。きっと泣いているんだ。しっかりもののお姉さんから、僕たちと同じ小学生に今もどっている。僕たちに泣き顔は見せたくないんだろう、背中越しに手を大きく振って雑木林に向かって走っていった。そして、消えた。ぱっと消えた。僕たちは言葉を発することも忘れて、自転車の置いてある展望台に登っていった。展望台にはさっきいたお爺さんがのんびりとした街の景色を眺めていた。時計をみると、さっきと同じ時間、十二時十五分を指していた。僕たちがハツオやタカオとドロジュンをしていた時間も、美佐子のトランペットを聞いた時間はどこにも無くなっている。なくし物にしてはあまりにも大きく、取り返しのつかないかけがいのないもの。僕の初恋もその中のひとつ。
僕たち三人は美佐子の指さした石碑の前に立った。大きさは二メートルくらい、幅は一メートルくらいの平べったい石が立ててある。とても古く、黒ずんでいて、彫ってある文字が読みにくい。石碑にはこうあった。正面に『鎮魂之碑』とある。石でできた三段の階段があって、三段目の台座のところに石版が立ててある。ほこりや土がついていて文字が読めない。光沢がなくなったくすんだ色の石版を僕たちは手のひらで、必死にこすった。脱いだ上着で無我夢中で石版を磨いた。

この鎮魂之碑は 昭和五十年八月五日に 大谷山斜面崩壊事故によって亡くなられた 田沼小学校荒井分校の児童六名の霊を慰めるために 昭和五十一年一月に 田沼小学校父母会によって建てられたものです。児童六名は 荒井公民館で夏祭りの出し物の練習中に台風三号による大雨が引き起こした土砂崩れにより尊い命を失いました。
心よりご冥福をお祈りいたします。 


上田初男  昭和三十八年四月三日生    昭和五十年 八月五日没 
享年十二歳

角谷庄治  昭和三十八年八月七日生    昭和五十年 八月五日没 
享年十一歳

角谷孝雄  昭和四十年八月十日生      昭和五十年 八月五日没
  享年九歳

長井洋子  昭和三十八年九月十三日生   昭和五十年 八月五日没 
享年十一歳

原口美佐子 昭和三十八年十一月七日生   昭和五十年 八月五日没 
享年十一歳

森 摂世   昭和四十一年十月六日生 昭和五十年 八月五日没  
享年九歳

安らかに眠ってください 君たちとはいつまでも友達だよ
昭和五十一年一月十八日


サル顔のハツオ、短気なショウジ、すばしっこいタカオ、笑うとエクボができるヨウコ、一番声がでかいセツヨ、そして、僕が一目ぼれした美佐子。
「お前ら……こんなところでなにしてんだよ?」
自分でも信じられないくらい涙が流れてきた。ちきしょうっ。なにが『君たちとはいつまでも友達だよ』だ。こんなに汚れて、寂しいところに置いてあって、なにが『いつまでも友達』だっ!
「ふざけんじゃねえっ!」健介がぼろぼろと涙をこぼしながら叫んだ。健介は走って自転車に行き、釣りにつかうバケツをもって、展望台を降りたところにある公園に水をくみに全力疾走で走っていった。俊哉は石碑の周りの雑草を「ちきしょう、ちきしょう」と言いながらむしりとっている。僕は石碑に抱きついて、ただ、ただ泣いていた。
石碑と周りの掃除を一通り終えると、太陽は西に傾き、空が紅く燃えているみたいだった。僕たちは合掌した。入鹿池で食べようと思って持ってきたお菓子を全部供えて。最初の目的だった釣りはもう無理だ。僕たちは帰ろうと自転車にまたがった時、俊哉の携帯が鳴った。
「ごめん、ちょっとまってて」
電話に出た俊哉の顔が強張った。あまりいい話じゃない気がする。電話を切った俊哉は落ち着きが無く、呼吸が乱れている。
「何かあったのか?」
ただならぬ様子に僕が聞くと俊哉は震えた声で言った。
「お父さんが刺された」



俊哉のお父さんが搬送された中央病院に向かう。電話の相手は救急隊員の人だった。俊哉のお父さんの携帯には、何故か俊哉の電話番号しか登録されていなかったらしい。中央病院は僕らの住んでいる街にある。家からだと自転車でも十分位で行ける距離なんだけれど、ここからじゃ早くても一時間は必要だ。僕たちは最大のスピードで走る。俊哉はもう何もしゃべらない。ただ必死に自転車を漕いでいる。でも、こんなときこそ冷静になる必要もある。以前、俊哉を入鹿池に探しにきた時のお父さんを思い出した。冷静だったお父さんを。今の俊哉では難しいだろう。僕が冷静にならなきゃいけない。そして気づく。そうだ、まず、俊哉のお母さんに連絡だ。小学生が行ったところで、出来ることなんて限界がある。やっぱり大人の力が必要だ。「俊哉っ! ストップ! とまれー」
山道を全力で下りながら僕は俊哉を呼び止めた。急ブレーキで止まって振り向いた俊哉は顔面蒼白で、いまにも泣きそうになっていた。健介が息を切らせながら俊哉の背中をさすっている。
「俊哉、お母さんに連絡しろ。先に病院に行ってもらうんだ」
俊哉はしばらくして頷いて、携帯を取り出す。動転している上に呼吸が荒くて話がうまく伝わらないみたいだ。何回も同じ言葉を繰り返して、なんとか電話は終わった。携帯をポケットにしまったと同時に一人で走り出す。かなりあせっている。曲がりくねった下り道が続く。ここはスピードを出しすぎると危険だ。健介もそう感じたらしい。僕より先に叫んだ。
「落ち着け! 下りはあぶねぇっ! スピードを落とせっ!」
でも、俊哉のスピードは落ちない。聞こえているはずなのに、凄いスピードで道を曲がっていく。あぶないっ。そう思った瞬間、タイヤが生きているみたいに暴れまわり、ブレーキの甲高い悲鳴が僕と俊哉の間の空気を引き裂いた。言葉より先に身体が反応した。鳥肌が全身に立つような嫌な感覚。冷たい風が吹きぬける。その冷たい風に俊哉が奪われた。身長百七十三センチのでかい身体が宙に舞った。ふわりと自転車もろともガードレールを飛び越え、樹木の生い茂る崖に真っ逆さまに落ちていった。スローモーションのようにゆっくりと。悪夢と現実の境界線が消えた。僕と健介は叫んだ。
「としやーーっ!」
自転車を飛び降り、俊哉が落ちたガードレールから下を覗く。俊哉も自転車も無い。あるのは、これから芽吹こうとしている若い葉っぱをつけた樹木のみ。どうして俊哉がいないのだろう。健介が絶壁に近い崖を降りようとしたみたいで、ガードレールをまたいだとき、崖の下から聞こえた。
「俊哉は大丈夫だよーっ! 怪我もしていないし、自転車も無事。今から行くから」
美佐子の声だ。僕は嬉しくって涙がでそう。そして、あの音色も。勇気と希望を運んでくれる心強いあの歌が。そう、美佐子のトランペット。そして、みんなの宇宙戦艦トマトの大合唱が。歌と演奏がどんどん大きくなってきた。「宇宙せんかん、トーマートー」「ププッププー」そして、現実とは思えない光景が、いや、間違いなく実際に起きていることなんだけれど。僕と健介は同時に笑い始めた。よかった。あー、全身の力が抜ける。
俊哉がタカオとハツオに担がれて、空を飛んで崖からこっちへ向かっている。俊哉の目はきょろきょろして、おっかなそうだったけれど、大丈夫みたい。シヨウジとヨウコが俊哉の自転車で二人乗りをして、空中をくるくる回っている。凄く楽しそうだ。その後ろに、セツヨと手をつないだ美佐子が飛んでいた。 みんなと俊哉がゆっくりと、僕たちの目の前に着地した。続いて自転車も。
「みんな、ありがとう。でも僕、急いでいかなきゃいけないから」
俊哉が慌てて自転車にまたがったときに、美佐子は俊哉の行く手を遮るように自転車の前にいた。いつの間に移動したのだろう。
「俊哉の事情はわかっているから。私に任せて。大丈夫よ、私たちと一緒にいるうちは時間が止まっているの」
そうだ、さっきも時間の経過はなかった。
「どうして、時間は止まるの?」
僕の問いに美佐子は少しだけ黙ったけれど、美佐子は少しだけ笑みをみせて、悲しみを含んだ言葉を落とす。ゆっくりと、よく通る声で言った。
「時間って、生と死があって成り立つの。君たちの世界がそう。でも、私たちは……。ただ、いるだけだから。存在しているだけだから時間は無いの。でね、私たちがこの世界にいるときは、君たちの世界の時間は止まるみたいなのね」私たちのことなんて、みんな忘れてるものと小さな声でつぶやいた。切なくて悲しい気持ちになる。そんなことはないよって言おうとしたけれど、泥だらけの真っ黒な鎮魂之碑が頭に浮かんで何も言えなかった。そして、ハツオたちも何かを言った。でも聞き取ることはできなかった。みんな一生懸命にしゃべっているのに何も聞こえない。僕たちも一生懸命にお礼を言った。でも、やっぱりハツオたちには届かないみたいだ。存在している場所が違うからなのかな。それでも、いいんだ。僕たちはいつでも繋がっている。僕たちは親友だもの。みんなは、手をふった。僕たちも手をふった。またね、の挨拶だよ。みんなは眩い笑顔を見せて、ゆっくりと景色に溶け込むように消えていった。でも、美佐子だけが残った。

「中央病院?」
「うん」僕たちは三人揃って頷いた。美佐子は「やっぱり」と独り言を言って嬉しそうに微笑んだ。『やっぱり』ってどういうことなんだろ。知っていたのかな。尋ねようとしたら美佐子は空をきょろきょろ見渡して少し笑った。何かを見つけたみたい。髪が風で揺れてきらきら輝いた。すごく触れたいという衝動に駆られたけれどなんとか抑えた。こんな気持ちは初めてだ。愛おしさで僕はその気持ちに支配されてしまう。でも、僕と美佐子では違いは大きすぎる。それを思うと苦しい。僕は生きている。美佐子は死んでいる。でもこの壁はそんなに分厚くて強固なものなのだろうかと考えたい。今、現実に目の前にいる女の子を大好きになっている自分がいる。これはごくシンプルで自然なものだ。ただ、彼女は三十年以上前に死んでいるだけだ。
小さく頷くとトランペットを構えて、力いっぱいに吹いた。『ブォーン』という音がこだまになって響いている。すると、真っ赤に染まった空にぽっかりと穴があいて、眩い光が真っ直ぐに僕たちの足元に伸びてきた。光の道ができた。その光はとても綺麗で、美佐子の髪のようにきらきらしていた。
「こ、これ、な、なに?」
「光でできた道。ばあちゃんを呼んだから、病院まではあっという間よ」
「ばあちゃん?」
美佐子が光の道に振り向くと、とても小柄なお婆さんが飛び跳ねるようにして僕らのほうに向かってきていた。
俊哉がとんでもなくでかい声で叫んだ。

「ぴょんぴょんババァだっ!」

 健介を見るとだらしなく口を開けてぼけっとしている。きっと僕もそうだと思うけど。美佐子がお婆さんに手を振ると、にぃーって愛嬌のある笑い顔で手を振り替えしてくれた。近くでお婆さんを見ると、身長は僕たちよりも凄く小さくて、腰が曲がっているからかもしれないけれど、一メートルもないくらい。小さくて顔中しわだらけ。年齢不詳もはなはだしい。間違いなく百歳はいっている。百歳以上の人に知り合いがいなくてわかんないけれど、二百歳くらいか三百歳くらいかな。
「ばあちゃん、この子達を中央病院まで連れていってあげて。私たちの友達なの」お婆さんはにいーって笑ってる。笑って目を瞑ると、しわと一体化して、目がどこにあるかわかんなくなる。
「ええよ」お婆さんは、両足でぴょんぴょん跳ねて、なんと、空を駆け上がっていった。呆気にとられている僕たちは何もできず、お婆さんの後ろ姿を眺めていたら、美佐子のトランペットが力強い咆哮をあげた。『パラパラパパー』我にかえる僕たち。
「みんな、ばあちゃんの後についていって。すぐに連れて行ってくれるから」お婆さんが跳んだあとには、さっきの光の道ができている。
「この道で行くのよ」美佐子の言葉に僕たちは頷き、自転車にまたがる。俊哉が光の道に一番に乗った。「美佐子、ありがとう」
「うん、俊哉、またね」「うん」お婆さんは俊哉をみて、また、にぃーって笑った。優しそう。
「美佐子、今度は三角ベースで勝負だってショウジたちに伝えておいてくれ」「うん、健介も腕磨いておけよっ。庄治たちは意外と強いぞ」
望むところだと言って健介は大きく手を振って光の道に乗った。お婆さんは健介をみて、また、にぃーって笑った。
「美佐子」
「うん」
「髪の毛、さわっていい?」
美佐子は少しだけ瞳を大きくさせた。透き通った綺麗な瞳だ。
「いいよ」
僕の手は震えていた。右の耳の横にある煌く光の束をそっと触れた。感触は無かったけれど、僕の手は確かに美佐子の髪に触れていた。僕は、意を決した。ここで言わなきゃ男じゃない。
「ぼ、ぼくは美佐子が好きだっ!」
顔を見ることができないけれど、こんなに自分を褒めてあげたいと思ったことは生まれて初めて。金メダル、いや、国民栄誉賞並だ。すごいぞ僕。
「私も、浩人のこと大好きだよっ」
おおー、両思い。顔中が熱い。熱すぎる。僕は、逃げるように光の道に乗った。「また来るからっ。また会えるよね」
僕は、全力疾走で俊哉と健介を追いかけた。後ろを振り向くと、美佐子は大きく手を振って、言った。
「きっと、会えるっ! すぐにねっ」
そして、美佐子は眩い笑顔で、眩い光に包まれるようにして消えた。ありがとう、美佐子、また会おう。大好きだ。お婆さんは僕にもにいーって優しく微笑みかけてくれた。「いくぞえ、着いて来なかんでえ」
「はいっ!」おばあさんのイガイガの声にちょっと驚いたけれど、僕たちは腹の底から気持ちのいい返事をしたと思う。今までで一番の返事。お母さんに聞かせたらきっと喜ぶだろうな。お婆さんの後を着いていく。僕たちが走っているのは、真っ白に輝く光の道。幅は僕たちの自転車ら合わせて、広くなったり、狭くなったりする。風を切って走る。真っ赤な空の真ん中を走る。僕たちの街が小さく見える。入鹿池も、学校も、工場も。ずーっと続く青い空を走る。これなら僕は宇宙の果てまで行ける気がした。お婆さんは腰を曲げたまま、長い白髪を上下に揺らしてぴょんぴょん飛び跳ねて進んでいる。景色に見とれていたんだけれど、序々に前方から見える景色がめまぐるしく変わりはじめた。その景色に形は無く、緑や黄色や黒やピンクに色で変化して、たまに光ったりしていた。今までに見たことの無い色もあった気がする。そして、しばらくすると、その様々な色たちは形を作り始め、僕たちの街がまた現れた。前方には、でっかい建物。『犬山中央病院』があった。お婆さんは振り向き、にぃ~って笑うと、あっという間に夜空を輝きながら駆け上がっていった。
「ありがとうございましたっ! 」僕たち三人は声を揃えた。 

 正面玄関はもう閉まっていて、夜間入り口に行くように看板が立てかけてあった。俊哉の焦る気持ちが僕たちにも伝わる。看板に書かれている矢印の方へ全力で向かう。薄暗い病院から僅かに光がこぼれているところがあった。あそこが入り口だ。俊哉が先頭で走る。短い距離だけどすごく長く感じた。入り口に入るとすぐに自動販売機があった。そこに最初に飛び込んだ俊哉が、立ち止まっている。
「なにやってるんだよ。早く受付カウンターに行こうぜ」
健介が俊哉の腕を引っ張った。俊哉は息を切らせながら自販機の横にある待合ソファーに向かう。
「俊哉、そっちじゃないって」僕が言ったけど聞かない。ソファーには二人のおじさんが座っていて、二人とも下を向いて携帯電話を触っていた。
「おとうさん」
俊哉の声に反応したおじさん。丸坊主で太い首には金色のネックレス。手首にも太い金色のブレスレッド。目は鋭くって、一見怖そう。いや、怖い。俊哉父は僕のお父さんとは全く違うタイプだった。
「あ、あれ? 俊哉?」
「なんで、ここにいるの? 刺されてないの? 怪我はしていないの?」
「ん。……それにしても早すぎじゃねぇか? 今、電話したばかりだろ」
となりのおじさんも驚いた顔で頷く。
「ええ。ほんの五、六分前にしたばかりです」
俊哉の表情が変わった。僕がはじめてみる顔。真剣に怒っている顔。
「うそだったの?」声は冷たく、少し震えていた。俊哉父はそんな空気も読まず、嬉しそうに立ち上がり、俊哉に近づこうと一歩踏み出した。その時、俊哉のマグマは爆発。俊哉父に体当たりして、夜間で入り口から外に駆けていった。その後ろをもう一人の角刈りのおじさんが追いかけた。一瞬の出来事に僕は何もすることはできず、俊哉のでかい背中が消えるのを見ていた。俊哉父は吹き飛ばされたときに落ちた携帯電話をゆっくりとした動作で拾ってから、病院中に聞こえるような大きな舌打ちをした。またベンチに足を大きく広げて座って、また舌打ちをして僕たちをちらっと見た。少し見られただけで、おしっこがすこし漏れそうになった。そしてまた「チッ」。

「ちっち、ちっち、うるせーんだよっ!」
でぇーっ、けんすけーっ! 僕は心の中で絶叫した。でも、健介には僕の絶叫は届いていない。
「いいおっさんが、子供にたちの悪い嘘つくんじゃねぇよ。俊哉がどれだけ心配したと思っているんだよ。このハゲ!」
俊哉父の口が歪み目に炎が灯ったときに、角刈りのおじさんが俊哉の腕をもって連れてきてくれた。絶妙のタイミングだ。ナイス角刈り。俊哉は泣いていた。そして僕たちに何度も謝った。謝らなくてもいいと何度言っても、何度も謝った。俊哉父も何度も俊哉に謝った。話を聞いてくれと何度も言ったけれど、俊哉は無視し続けている。誰もいない薄暗い静かな病院の待合室で僕たちは同じ言葉を繰り返し言い続けていた。いったい僕たちは何やってんだろ?
コツコツと足音が近づいてくる。入り口のほうを見ると、俊哉のお母さんが美由ちゃんと手をつないで向かってくる。
「静香っ!」俊哉父の重低音と健介の嬉々とした高音が見事なハーモニーを奏でた。二人は顔を見合わせ、にらみ合った。もしかしたら、この二人似たもの同士なのかも。
「おとうさーん」美由ちゃんが嬉しそうに駆けてきて、俊哉父に飛びついた。俊哉父はそれはそれは嬉しそうに美由ちゃんを抱きあげる。

「どういうこと?」俊哉のお母さんの声に強面の俊哉父がバツの悪そうに下を向いた。「ど、う、い、う、こ、と、な、の」
一字一字区切って言った。こう言ったほうが、明らかに迫力がある。
「このおっさん嘘言ったらしいよ」
健介が言ったとたん、俊哉のお母さんの手のひらが俊哉父の左頬に炸裂。ムチが空気を切り裂くような音が病院に響いた。俊哉父は微動だにせず、また舌打ちをする。チッ! でも、美由ちゃんをみて、ニコッ。美由ちゃんもこんな状況には慣れているみたいで、何事もなかったかのようににっこり微笑んでいた。俊哉を見ると、床に座り込んで、ぼうっとしていて、お母さんがお父さんに思い切り平手を食らわしたのに驚いた様子は全くない。凄く違和感があったけれど、これが小山家の普通なのだろうか。いや、だったのだろうか。
「帰るわよ。美由、いらっしゃい」
美由ちゃんは、いやいやをして、俊哉父の首に抱きついてお母さんに背を向ける。俊哉のお母さんは小さく首を振って、小さくため息をついてから、僕たちに振り向き、頭を下げた。「ごめんなさい」
顔を上げて、髪をかきあげる仕草は僕までどきりとした。健介を横目で見ると鼻の下を伸ばしきった馬鹿面だった。そして、僕の横で角刈りがいきなり土下座をして、頭を床に擦り付けた。土下座をする人を見るのが初めてだったからかなり驚いた。
「静香さん、本当にすみませんでした。でも、社長もどうしても俊哉さんに来て頂きたかったんです。でも、でも、俊哉さんは社長がお電話をしても決して取り合ってくれません。ですから、ですから私が出すぎた真似をしてしちまったんです。決して、決して悪ふざけでやったことではないんです。私が、私が悪いんです。申し訳ありません。申し訳ありません。申し訳ありませんっ」
何回も何回も床に頭をこすりつけて謝る角刈りのおじさんは、何回も「申し訳ありません」を連呼している。なんだか可哀想。俊哉のお母さんは、しゃがんで、角刈りのおじさんの腕を引き上げてゆっくりと立たせた。角刈りのおじさんは今にも泣き出しそうだ。またチッと舌打ちが聞こえた。俊哉のお母さんは、キッと俊哉父を睨んで言った。
「舌打ちはやめなさいっ!」
 
僕たちは角刈りのおじさんに促され、薄暗い院内処方箋待合室のソファーに座った。俊哉も少し落ち着いたみたいで、健介の馬鹿な冗談にも笑顔をみせていた。でも、俊哉のお母さんはまだ怒っているみたい。いつもと様子が違ってるもの。角刈りのおじさんは僕たちに自販機でコーラを買ってきてくれた。ソファーに座って、コーラを飲むと、すーっと身体の力が抜けた。今日は色々な事がありすぎる。きっと一生忘れられない一日になる。確信的に『死ぬまで記憶に残り続ける一日』だ。
僕らの後ろで美由ちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえる。俊哉父と楽しそうに遊んでいた。お父さんが大好きな美由ちゃん。美由ちゃんが大好きなお父さん。でも、一緒には暮らせない。一緒に居たいはずなのにいられない。大人の世界は複雑だ。辛いこともたくさんありそうだし、我慢することもたくさんありそうだ。でも、僕はピーターパンのように大人になりたくないなんて思わない。早く大人になりたいとも思わないけれど。僕は以前、俊哉に聞いたことがある。俊哉がもらった中で何が一番凄いプレゼントだったかって。俊哉は言ったんだ。
『この世界』だって。これは、俊哉父が家を出て行く時に言った言葉でもあるらしいんだけど。あの厳つい親父はこう言ったらしい。

「俺は、お前たちを裏切って出て行く。だからいくら嫌いになってもいい。憎んでもいい。でも、俺はお前たちのことは一生愛し続ける。うざいって言われようが、シカトされようが、死ぬまで愛し続ける。嫌かもしれないが、それに見合うだけのものは与えた。だから我慢しろ。この『世界』全てをお前に与えた。全てのものはお前のものだ。いい奴も、嫌な奴も、喜びも、哀しみも、金持ちも、貧乏も、空気も、木も、犬も、猫も、入鹿池も、富士山も、月も、宇宙も全てがお前に繋がっている。お前は全ての中心で全ての源なんだ。それを与えた。もちろん、俺も父ちゃんと母ちゃんから『世界』をもらっている。お前たちを愛し続ける世界だ」

僕にもお父さんとお母さんからもらった世界がある。この世界を楽しむんだ。自分のペースで。自分の足でしっかり歩くんだ。そして、僕の世界をわくわくしながら探検したり冒険するんだ。

「社長、みなさんにお話ししますね?」
角刈りが、尋ねると俊哉父は美由ちゃんとじゃんけんをしていて、一切僕たちの方を見ずに一言。「お」。ほんとに短く「お」。
「静香さんは薄々気づかれているのではないかと思うのですが」
角刈りは腕組みをしてソファーに座らず立っている俊哉のお母さんに向けて言った。
「出産でしょ」表情一つ変えず、唇だけが動く。僕が知っている俊哉のお母さんとはやっぱり違う。角刈りが頷く。「あの人、見た目と違って凄く小心者だもの。待っているのが心細いから俊哉を呼びたかったんでしょ」
「ええ、まぁ……。やっぱり、私の手前じゃ素にはなれないでしょうし」俊哉父には聞こえないように小さな声。「情けない」とはき捨てる俊哉のお母さん。
「どんな状態なの?」
「先ほど分娩室に入られました」
角刈りが言うや否や俊哉のお母さんは大股で俊哉父に向かって歩く。凄く怖い顔で。そして、再び『バシッ』今回のビンタはさっきよりかなり強烈だった。
「あんた、何やってんの? 奥さんはね、命掛けであんたの子をこの世に送り出そうと必死なんだ。今戦っているんだ。何バックれてんだ。あんたが支えなきゃ誰が支えるってんだ。ここにいないのならともかく、一緒の場所にいて独りにするってのはどういうことなんだい?」
 俊哉父は殴られた左頬を手で押さえ、何を見ていたかは分からないけれど、ぼうっとした顔で何かを見ているような顔をしていた。きっと何も見えていないんだろう。そして、空いている右頬にも『バシッ』
「ボーっとしているんじゃないよっ!」
「は、はいっ」

俊哉父は大きく頷いてから、美由ちゃんの頭をなでてから抱きしめた。俊哉のところに来て、頭をぐしゃぐしゃと撫でて、僕たちに向かって「すまなかった」と大きな声で謝ってから階段を駆け上がって行った。一瞬のことだった。美由ちゃんが「また、お父さん怒られちゃったね」と俊哉に言ったとき、俊哉は僕たちに言った。
「僕もお父さんと待ってる。産まれる赤ちゃん、僕の兄弟でもあるから」ちらっと俊哉のお母さんを見た。ソファーに深く座って腕を組んでいた。そうだよな、複雑だよなー。子供の俊哉と美由ちゃんとは異母兄弟でも俊哉のお母さんにとったら他人ってことだもんな。やっぱり大人の世界は複雑で難しそうだな。俊哉のお母さんはどうするんだろう? このまま帰るのかな? さすがに旦那さんの浮気相手には会いたくないだろうな。そんなことを考えていると、俊哉のお母さんはすっと立って僕たちの前に来た。
「君たち、もう少し付き合ってもらっていい?」
健介は即答で「もちろん」って答えた。俊哉のお母さんはくすっと笑った。「家には少し遅くなるって私から連絡しておくから。もう少し付き合って」僕は「はい」と行儀よく。健介は「一生付き合うよぉー」なんて言っていた。
「何回もこんな経験はないから。この世で最も神聖な儀式が行われているの。きっと君たちにたくさんの事を教えてくれるわ」

分娩室には家族がもう一人しか入れなかったから、俊哉が代表で行った。僕たちは病室で待つことになった。あのうるさい健介でさえ、緊張しているのか黙っていて何も言わない。俊哉のお母さんは美由ちゃんを膝の上に抱いていすに座った。さっきまでの怒った顔じゃなくて、いつもの優しい顔で。僕も何をするわけじゃなく、窓からすっかり日の落ちた街を見ていた。僕の住んでいる街。病院は高台にあって、ここは三階だからわりと遠くまで見える。田舎で高い建物もないから、僕の目の先には美佐子たちがいる大谷山が月明かりで薄っすらと見ることができる。その下には入鹿池。空には満天の星空。綺麗な星空だ。こんなにたくさんの星を見たのは初めてだ。星を見ながらずっと美佐子のことを考えていた。でも、考えれば考えるほど今まで感じたことのない気持ちになる。きっとこれが『切ない』気持ちというやつなんだろう。決して楽しい気持ちじゃない。そして、これにはため息がもれなくついてくる。僕は誰にも気づかれないように小さくため息を繰り返した。
 もうどれくらいの時間が過ぎたのか分からなくなったとき、大谷山の展望台のあたりが光った。声も出せずその光に魅入った。真っ白な光だ。その光はどんどん大きくなり、街全体が白く輝いた。頭の中も真っ白になったときに、光は緩やかな曲線を描きながら僕のいるほうに伸びてきた。僕はこの光を知っている。間違いない。これはぴょんぴょんババァが作ってくれる光の道だ。
「健介っ! あれ見ろよっ!」
健介だけじゃなく、俊哉のお母さんも角刈りも美由ちゃんも僕の言葉に反応して窓から僕の指差す方を見た。
「何が見えるんだ?」角刈りが首を傾げた。俊哉のお母さんも「流れ星でも見えたの?」この二人には見えてないのか。曖昧に返事をすると、二人は元いた場所に戻っていった。でも、健介だけは違った。口に手を当てて目がでっかくなっちゃってる。
「ぴょんぴょんババァの光の道じゃん」
「だよな」
心臓が高鳴り急激に喉が渇いた。健介も同じみたいで、『ゴクッ』と唾を飲み込む音が聞こえた。光の道はどんどんこっちに向かってくる。光の力が強くなっている。そして、眩い光が僕たちを覆うと窓の外をぴょんぴょんババァがにぃ~と笑って光の中をぴょんぴょん飛び跳ねていた。そして、その後ろに「美佐子っ!」僕と健介は同時に叫んだ。トランペットを右手に持って、美佐子は眩い光の中を眩い笑顔で駆けていた。僕たちを見て両手を振りながら光の中を駆けて行った。病院中が真っ白な光に覆われて全てが白に染まったとき、大谷山に聞こえるくらいの大きな泣き声が聞こえた。「おぎゃー」

「うおーっ、うまれたーっ! やったぁーっ」
俊哉父が目から涙をぼろぼろこぼしながら病室に飛び込んできた。その後に俊哉が来て、僕たちに抱きついてきた。「うまれたよーっ! 女の子だって」僕と健介は声を揃えた。
「しってるっ!」
赤ちゃんが身体を拭いてもらっている間に、僕たちは全員で万歳をした。俊哉父は大泣きしながら、大声で万歳をしていた。
「ばんざーい! ばんざーい!」そして、看護師さんに怒られた。ふと気づくと、俊哉の お母さんは部屋からいなくなっていた。
十分くらいしたら、お母さんに寄り添うようにして、小さな小さな赤ちゃんが部屋に入ってきた。助産婦さんが大切に抱き上げ、俊哉父に手渡した。厳つい俊哉父はそっと、やさしく、大切に娘を抱き上げて言った。「会いたかったよ」そして、号泣。次は俊哉が抱いた。緊張で顔が固まっていた。美由ちゃんも凄くうれしそう。
そして、赤ちゃんは、お母さんの元へ。俊哉父の新しい奥さんは、俊哉のお母さんほど綺麗じゃないけれど、凄く優しそうな人だった。俊哉父は愛おしそうに奥さんの頬を撫でていた。赤ちゃんはその横でのんきにあくびをしていた。小さな口、小さな手。みんなみんな小さい。

だけど、全てを凌駕する圧倒的な力。






  
                                    了

ともだち

執筆の狙い

作者 ソップ
115-37-219-156.shizuoka1.commufa.jp

児童文学っぽいやつです。ちょっと長いかもしれないですがよろしくお願いします。

コメント

ぷーでる
pl59059.ag2525.nttpc.ne.jp

すみません、途中まで読んで挫折しました。
児童文学?子供なら読むのがもっと辛いかも(;゜Д゜)
ワケが分からな過ぎなのと、話の内容についていけないというか。

ソップ
115-37-219-156.shizuoka1.commufa.jp

ぷーでる様、読んでいただきありがとうございます。

すみません、分かりづらかったですかー。執筆の狙いの児童文学っぽいていうの、何も考えず書いてしまいました。違うかもって思いはじめてます。すみません。

北に住む亀
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拝読しました。
少し闇を抱えたズッコケ3人組みたいで、キャラはしっかり立っていたと思います。個人的には長さもさほど気にならなく、一気に読めました。以下、気になった点です。

1章
王道の児童文学って感じで良かったです。緊迫した場面の描写もしっかりしていて、読ませる力のある作者さんだなと思いました。ちなみに、妹を連れていった理由って作中で書かれていました? そこが少し気になりました。

2章
私的にはこの章(健介が闇落ちしていくところ)が一番好きですね。ただ、その分少し最後の展開が王道(悪く言えばステレオタイプ)かなぁと。まぁ、ピンチに駆けつけるのは物語として当然なんですが、作者様の力量ならもう一捻りできた気もします。あと、二人をハブにしなかった高田と河合が健介と一緒に帰っているのは少し引っかかりました。

3章・5章(4章はなし?)
浩人→健介ときたら次は俊哉かな? と勝手に想像していたこと。また、幽霊が出てきてテイストがガラリと変わったので、最初は戸惑いました(笑)。もしかしたら、読む人によってはその温度差に違和感を覚えるかもしれません。でも、「ぴょんぴょんババァ」がトトロの猫ばすの如く登場したあたりから、ファンタジー感も気にならなくなり、最後まで一気に読みました。複線回収もお上手だったと思います。

色々と書きましたが、文章もしっかりしている良作だったと思います。次回作楽しみにしています。

ソップ
115-37-219-156.shizuoka1.commufa.jp

北に住む亀様、読んでいただきありがとうございます。

キャラが立てれたというお褒めのことば、マジ嬉しいです。ありがとうございます。

1の章のところで、妹を連れて行った理由は書いてませんでした。俊哉の家のことを結構端折った感じはしました。冒頭に俊哉の家族のこと書いていたのですが(これが1章でした)、カットしてしまい、妹の登場も唐突になってしまいました。また加えます。この章は最初は2章だったのを1に直してます。こんな調子で繰り上げていて、5を4に変えるのをミスしていまして、4章を飛ばしてしまってます。すみません。

2章の健介のところ、暗くなっちゃったなぁと。でも気に入っていただけけたのなら、凄く嬉しいです。ストーリーは手垢のついたものですよねー。もう少し考えてみます。
あー、確かに高田と河合は不自然ですねー。気づいてなかったです。健介に俊哉の悪口を言うみたいな描写を加えたほうがいいですねー。手下感みたいなのが足りなかったです。
的確なご指摘ありがとうございます。

最後は結構力技で強引に幽霊登場させている感はしています。すみません。最後のところで三人とも大きな変化があったのを表したかったのですが、やっぱり突然な感じはしますねー。なにか緩衝材になるようなものを考えたいと思います。
ぴょんぴょんババァの光の道、トトロだなーと僕も感じてました。パクっとるなー。病院までいくところもパクっとるなー。こまったなー。

たくさん褒めていただいて、本当にうれしいです。ありがとうございました。がんばります。

u
opt-211-132-66-15.client.pikara.ne.jp

読みました
作者さん(児童文学)とうたっていますが、一般小説として読んでも鑑賞に耐えることができる良作だと思いました

第一話
あたしはこの話が一番好きかな
小山君が「入鹿池」に「ぴょんぴょんババァ」を探しに行ったのは、彼の父が(見たことある)といったからで、その深い部分(理由)――父の新しい妻に子供が生まれる。だから小山君もう、お父さんには会わないと決心している
この部分がお上手ですね
作者さん登場人物の気持ちになり切ってというか暖かい眼差しで描いてるけど、決してベッタリと寄り添っているわけではなく、暖かいんだけど少し距離を置いて俯瞰的にみている
全作通じていえることですが、多分お話のデテールがしっかりしているのは、描いていない部分まで作者さんの頭の中では「絵=構図」が出来上がっているからなんでしょう
半面、第一話お父さんが突然会社を辞める部分 第二話健介の、ロボット父、ロボット母が離婚する部分は、事実だけが述べられる この部分は敢えて端折ったのか? 若干不満
あと小山君が妹を連れて行った理由は必要です

第二話
ナレーターが健介に変わる
虐めとか学校カーストとかがテーマ
健介はカースト上位にいるし、転校生でデブの小山とか、勉強はできるが運動はからっきしな窪田を馬鹿にしているのだが、ロボット両親の離婚により段々「闇」に向かう
この部分良くかけていると思いますし
最後も王道ではあるけど小山と窪谷に助けられるストリは「ともだち」というタイトルにマッチしている
余計なことですが、重松清が描いていそうな話www ゴメン嫌味じゃないですwww

第三話
浩人健介俊哉の3人が池に釣りに来て異界にまいこむというお話
じょじょに 木バット、一本足打法とか昔の遊びとか――― ん? と思わせる
入り方上手いです
幽霊たちの消え方もなんかナー、せつなくて良いわwww

ただこのお話が第五話への前ぶり(伏線)となっているわけで
要するに作者さんとしては発端の「ぴょんぴょんババァ」を出さないといけないわけで、実際に5話に出る
あたしは「ババア」どのような形で何時、登場するのか期待していたのよね
それを考えると、ここの話は作者さんやりすぎというか、全体を通じるとかなりの違和感
勿論一つの独立したお話とすればお上手だし、いい話ではないかとは思いますけど

第五話
ババア登場するわけでwww
前半部分、怪奇譚というよりファンタジーなんだけど
このお話後半は赤ちゃん誕生のシリアスなドラマなので、こういった形でババア登場してほしくなかったのよね
シリアスで通し、ババア出してほしかったwww
作者さんならその腕あるでしょう―

あと俊哉ママおっとこまえ! さすが元極妻 健介君も惚れるわwww
それに比べヤクザのパパへたれwwwww
対比オモロイ。作者さんこのキャスチング、ニヤニヤで描いていたかも


面白かったです。またあげてね。長いのww
御健筆を

ソップ
115-37-219-156.shizuoka1.commufa.jp

U様、読んでいただきありがとうございます。

初っ端から褒めていただき嬉しいです。ありがとうございます。もう有頂天です。

登場人物の視線に近づけようとはしているので、そう感じていただけたなら、ホント嬉しいです。構図についてはプロットが書けないので、頭のなかで映像で考えているので、書ききれていないところも多々あると思います。バランスがいびつになっちゃうのは多分そのせいかなー。いわれてみれば会社をやめるところや離婚のところは淡泊だと気づかせてもらいました。あと、やっぱり妹と一緒に行った理由も書かなきゃいけないですね。

二話目は負のイメージを出そうみたいな感じで、淡々と冷たくかきたいなーと。最後は上辺だけのともだちと決別して、本当のともだちと出会って自分の闇から抜け出るみたいなイメージでした。でもベタな展開ですよねー。
重松清は大好きですから、凄く影響はうけていると思います。パクっているつもりはないけど、。パクっているかも。あー、「きみの友だち」って名作があったですねー。いい話でした。

三話目は、そうなんです。最初に書いたババァ登場させるため、相当強引にもっていっているんです。それまで現実の話でしたが、ここで幽霊と友達にさせて、死後の世界とつなげるという荒業にでてます。自分でも無茶しとるなって感じはありました。唐突な展開なので、バランスを考えてやんわりしたいです。ババァの登場のところ考えます。トトロですものねー。あかん気がしてます。
俊哉ママよかったですかー。うれしいです。

ありがとうございました。またよろしくお願いします。

外国人留学生
124-18-36-149.dz.commufa.jp

入鹿池って愛知県のところっすか?だとしたらもうちょっと風景描写入れたほうがいいんじゃないかなと思いました。
緑のよくあるところとか書かないと勿体ないっすよ。違ったらごめんなさいね。まだ大学生なもんで。

ソップ
115-37-219-156.shizuoka1.commufa.jp

外国人留学生様、読んでいただきありがとうございました。

そーです。愛知県犬山市にある池です。
たしかに風景の描写ないですよねー。あんだけ綺麗なところだから加えるべきでした。もったいないですよね。

大学生かー、いいなあ。勉強、がんばってね。
ありがとうございました。

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