作家でごはん!鍛練場
北に住む亀

七月のクラゲとシンデレラのガラスの靴

 私とみーちゃんには、放課後の日課が二つある。一つは、アイスを食べながら帰ること。十七歳という貴重な青春時代を彩るアイスは、何でもいいわけではない。二人で半分こできることが条件で、例えばホワイトサワー味のパピコ(コーヒー味は嫌だとみーちゃんが駄々をこねる)とか、六粒入りのピノとか。冬の時期には雪見だいふくなんかも相応しい。でも、小学五年生から高校三年生の八年間で一番食べたのは、アイス棒が二本刺さっていて、半分に割るといつもどちらか一方が大きくなってしまうソーダ味のアイスだ。
「二つで一つって、私たちみたいだね」
 いつだったか、真っ青に染まった舌を見せながら、みーちゃんが嬉しそうに言った。それを聞いてなんて返したのかはハッキリと覚えていない。おそらく、「人間とアイスが一緒って」みたいな感じで、適当に茶化したのだと思う。でも、数年前に生産終了の報せを聞いた時に、近所のコンビニとスーパーを二人で回って買い占める位には。そして、「これは特別な時に食べようか」と言って、最後の一本を冷凍庫の奥底に閉まっている位には、私たちの放課後に欠かせない存在だった。

「香澄、今日も行くでしょ」
 アイスの実を口の中で転がしながら、みーちゃんが尋ねてきた。梅雨明け宣言が発表されたばかりの空には、昨日までよりも濃い青が広がっている。太陽は半そでの制服から伸びた手足を焦がし、浜風は背中まで伸びた彼女の黒髪をたおやかになびかせていた。
「もちろん。この後バイトだから、十五分ぐらいだけど」
「場所はどうする」
「そろそろ、交わらない場所の左側に行こっか」
「まだ私たちには早くない? もう少し右側で頑張ろうよ」
 防波堤に腰をかけていた私たちは、いつものように手早く紺色の靴下を脱いで、カバンの中からビーチサンダルを取り出した。ピンク色の鼻緒が、親指と人差し指のつけ根にすっと馴染む。長い年月をかけて完成した防波堤の道路側の斜面には、地元の小学生が植えたクロマツの苗が等間隔で並んでいた。腰ぐらいまでひょろりと伸びた苗は、まだこの地に何十年、何百年と根を張って生きていくことを躊躇っているかのようで、頼りなくその身を揺らしている。でも、来春には東京に行ってしまう私が、その先を見届けることはないのだろう。そう考えると、胸の奥に微かな痛みが走った。
 階段を下りて浜辺に足を踏み入れた私たちは、真っすぐ「交わらない場所」に向かう。交わらない場所なんて意味ありげな名前をつけているけれど、別になんてことはない。簡単に言えば、川と海の合流地点のこと。道路の向こう側には市街地を流れる川の終着点となる小さな沼があって、その沼から伸びる一本の水路が海へと続いている。ずっと昔、この境界線の水がしょっぱいかどうかで、私とみーちゃんが口論した思い出の場所だ。
「昔から水が合わないっていうぐらいだし、交わらないんじゃない」
「そんなことないわよ。きっと海水とだって仲良くやっていけるわよ」
「でも、それって海側の理屈じゃん。川の水はしょっぱくなりたいとは思ってないんじゃないかな」
 住む世界の違う者同士が交わることは、とても難しい。九年前にこの町に越してきた私は、そのことをよく知っている。教科書に落書きされるようなイジメを受けたわけではないし、ご近所さんとの関係だって悪くはない。でも、「この町があなたの故郷か」と聞かれたら、首を横に振ってしまうだろう。
「香澄は本当に頑固だなぁ」
「お互いさま、だけどね」
 結局、お互いの意見は平行線を辿って。海でも川でもないそのエリアを、私たちは「交わらない場所」と名づけた。本当は水を掬って一口飲んでみれば解決する話なのだろう。でも、それをするのはなんだか野暮だと思う。
 波に濡れないようスカートの裾をギリギリまでたくし上げ、砂浜に流れ着いた漂流物を一つひとつ確認する。これが、私たちのもう一つの日課だ。
 拾ったばかりの細長い枝を手に、白い砂浜を無作為にほじくり返す。時折、波打ち際まで行って消えゆく波の中を覗いたりもする。毎朝決まった時間に犬の散歩をする人のように、適度な義務感と使命感を背負いながら黙って手と足と目を動かし続けた。
 波に砕けた細巻貝の欠片とか、クシャクシャになったビニールとか、名前も知らない赤緑色の海藻とか。どれだけ探しても、目当ての物はなかなか見つからない。いや、本当は見つからない方がいいのかもしれない。何故なら、私たちが探しているのは、人間の骨なのだから。

 私たちが人間の骨を探すようになったのは、この町に来てすぐの頃。たしか小学五年生の一学期の頃だったと思う。きっかけは、みーちゃんのついた嘘からだった。
「かすみちゃん知ってた? クラゲには昔は骨があったって」
 学校から帰る道すがら、一緒に歩いていたみーちゃんが話かけてきた。
「なんで今、クラゲの話」
 あまりにも唐突な話についていけない私に構わず、みーちゃんは続ける。
「昔っていっても、そんじょそこらの昔じゃないの。私たちが生まれるずっと前」
「お侍さんがいた頃?」
「ううん、それよりもずっと前」
 一年生の時に遠足で行った水族館のクラゲを思い出す。のんびりと漂うその姿に、骨があったとはどうしても思えなかった。
「なんで無くなったの」
「無くなったんじゃなくて、奪われたらしいの」
 そう言うと、みーちゃんは小さな物語を語り始めた。昔、海には竜の王様と乙姫と呼ばれる一人娘がいたこと。乙姫は病気をしており、それを治すには猿の生き肝が必要だったこと。わざわざ竜宮城まで連れてきたけれど、結局猿に逃げられたこと。その時に門番だったカレイとクラゲは、責任をとって罰を受けたこと。竜王の手によって、カレイは二つに断たれ、クラゲは骨を抜かれたこと。
「そんなんで骨を奪われるとか、なんか納得しない」
「クラゲも納得しなかったんじゃないかな。それから、クラゲはこっそり骨を探すようになったのよ」
「骨を探す? なんで?」
「こうやって傘の部分をぶわっと広げて、海にぷかりと漂っている骨を取り込むのよ」
 その様子を示すかのように、みーちゃんは両腕で大きな輪を作り、頭から私を飲み込んだ。二人の体格はほぼ一緒だから、自然と抱き合うような形になる。背中に回った彼女の腕が、ぎゅっと締めつけてきた。彼女の吐く息が首筋をなぞる。
「骨なら何でもいいわけじゃないのよ。人間のじゃないとダメなの」
「人間の……骨ってこと?」
 その言葉の持つ非日常性が、身体をますますと硬直させる。
「もちろん猿が一番なんだけれどね。でも、海に猿の骨はないじゃん。だから、人間の骨がその代わりってわけ」
「でも、人間の骨だって、そうそう手に入らないんじゃないの」
「そうね。だからとっても珍しくて、骨があるクラゲを見た人は願いが叶うんだって」
「本当?」
「嘘じゃないって。昔からある言い伝えなんだから」
 両腕を私の身体から解いたみーちゃんは、「だから、今度一緒に探しにいこうよ」と言った。ふわふわ不思議なお話と彼女の屈託ない笑顔に、思わず「うん」と頷いてしまった。
 今思えば、あの頃の私は父への想いをなんとか消化したかったのだと思う。「せっかくの休みだし、釣りにでも行くかな」と言って、二度と戻ってこなかった父。足を滑らせ海に落ちてしまったのか。それとも防波堤で足を滑らせて頭を打って、記憶喪失になっているだけではないか。だとしたら、ふとしたきっかけで家族のことを思い出して、ある日ひょっこり戻ってくるのではないか。本当は母に尋ねてみたかったけれど、それは出来なかった。父の名を出すことは現実と向き合わなければいけないわけで、おそらく母も同様の想いだったのだろう。二人の会話に父の話題が上ることは一切なかった。その癖、母は私に何の相談もなく、父があの日向かった海のあるこの町に引越しを決めてしまった。そんな彼女に、正しい答えを導き出せるとは到底思えなかった。
 ミーちゃんの最初の嘘から八年。私たちは、波が不機嫌に鳴る大雨の日も、鈍色の空が落ちてきそうな冬の日も、欠かすことなく骨を探し続けている。最初の頃は、「お父さんが生きて戻ってきますように」と、祈るように砂浜に向かっていた。しばらく経つと、「クラゲが取り込んだのは、お父さんの骨なんじゃないか」と思うようになっていた。現在は、骨を見つけることが目的なのか、探す行為自体が目的なのか、よく分からない。当時のような熱量もすっかり失われた。それでも私たちの行為が日常に溶け込んだ分、ある種の儀式のような神聖さを増していた。
 後から調べたところ、竜王様に骨を抜かれた物語は、どこかの地方に伝わる昔話だった。骨のあるクラゲを見ると願いが叶うという話も、昔の和歌か俳句かで詠まれているものらしい。人間の骨という部分だけがみーちゃんの嘘であり、彼女が何故こんな話をしたのかは正直よく分からなかった。それでも、みーちゃんの嘘から始まったこの行為が、私を救ってくれたのもまた事実だった。

 火曜日と木曜日の週二回。私たちは近所の食品工場でアルバイトをしている。みーちゃんは、「自動車の免許を取るため」と言っているけれど、私は特別使うあてはない。免許を取る気はあまりないし、買い物と言えば学校帰りに買うアイスぐらいだし。しいて言えば、上京するための費用として考えている程度だ。
 工場はそれほど大きくなくて、年老いた社長夫妻の他には、パートさんが六名だけ。一個十円とか二十円の駄菓子を、お盆と正月の数日を除き、毎日休まず作り続けていた。ゴワゴワとした白い作業着に袖を通し、髪と耳がすっぽり入るフードを被り、最後に白いマスクをつける。ホワイトボードに貼ってある担当表を見ると、今日は二番ラインだった。マニュアル通りに手洗いや消毒を済ませ、ラインの一番後ろにスタンバイをする。仕事はいたって簡単で、出来上がった駄菓子に不良品がないか調べるだけ。赤とか黄色とか青とか緑とかピンクとか。子どもたちを喜ばせるためだけに生まれてきた派手な色彩のお菓子が、コンベアをゆっくり流れてくる。私も小さいころによく食べていたそれは、飲み込むタイミングが掴めなくて。正式な商品名はあったけれど、「アメだかガムだかグミだかよくわからないお菓子」と呼んでいた。
「あ、これは象の鼻が欠けてる」
「今度は、ウサギの耳がない」
 みーちゃんは、間違い探しを見つける子どものように、コンベアを流れる動物型の駄菓子を楽しそうにはじいていく。工場の機械はかなりお歳を召しているせいか、不良品がでる割合もそこそこ多い。
「ねぇ、みーちゃん。今日は何の話しようか」
「そうね……この子たちの行方についてはどう?」
 そう言うと、みーちゃんは機械の不具合で二つに繋がってしまったお菓子を手に取る。偶然にもそれはクラゲの形をしていた。
「行方って、廃棄するだけでしょ。私もたまにもらって帰るけれど」
「違う違う。捨てられるんじゃなくて、この子たちは工場が静まり返った後に自分たちの意志で逃げ出すの」
 マスクの中から、彼女の少しくぐもった声が漏れる。
「逃げるって……お菓子なのに?」
「そこに居場所がないのなら、お菓子だって逃げるわよ。ただ黙って捨てられるなんてまっぴらだと思うな」
 みーちゃんは、私と二人だけの時にしか嘘をつかない。その内容も、自分を都合よく着飾ったり、誰かを傷つけたりするものでは決してない。例えば、ナナホシテントウの背中の丸模様は、アリスに出てくるウサギ穴のように、不思議な世界に繋がっていることとか。人々のちょっとした争いごとを無くす、魔法のような日本語についてとか。毒にも薬にもならないような空想話がほとんどだ。でも、現実に起きる数々の歪さと向き合っていくには、私にはみーちゃんの嘘がどうしても必要だった。
「でもさ、どこか逃げるあてはあるの」
「それを探すのが、この子たちの目的なんじゃないかな。自分が本当に生きていける場所を見つけるための旅をするんだよ。たとえ、道半ばでネズミやカラスに食べられたとしてもね」
 そう話しながらも、手は休むことなく動き続けけている。合成ゴムの手袋越しでも充分に細さが伝わるみーちゃんの指。その隙間から零れ落ちた動物たちは、軽やかにコンベアの上を駆け抜け、「不良品」と書かれたコンテナの中に落ちていった。油が不足しているせいか、機械はきぃきぃと軋む。その音色は、新しい世界への旅立ちを歓ぶ祝いの歌声のようでもあり、美味しく食べられる使命をまっとうできなかった彼らの悲鳴のようでもあった。
 バイトが終わって帰り支度をしていると、「かーすーみーちゃん」と工場長の奥さんが声をかけてきた。振り返ると、コンビニ袋を私に向かって差し出してきた。
「なんですか、これ」
「いつも頑張ってくれているお礼よ」
 袋を受け取り中を覗くと、さっきまで仕分けていた不完全な動物たちが、みっちり詰まっていた。
「どうするの?」
 見送る奥さんの姿が完全に消えたところで、みーちゃんに袋を突き出した。
「どうするって?」
「夜中に旅に出るんでしょ、この子たち」
「だね」
「どうするの?」
「どうするって言われてもねぇ」
 空想話の心配をするというあまりにも不毛な会話に、どちらともなく噴き出してしまった。二つの笑い声は、一つになって夕闇に溶けていく。
「とりあえず、甘い物でも食べてから考えよっか」
 そう言うと、私たちはコンビニ袋に手を入れた。久しぶりに食べるそれは、やっぱりアメだかガムだかグミだかよくわからなくて。みーちゃんと私は、いつまでも口の中でもちゃもちゃと噛み続けていた。

 熱帯夜のせいだろうか。その夜はなかなか寝つくことができなかった。布団に潜って無理やり目を閉じてはみたけれど、意識すればするほどかえって目は冴えてしまう。壁かけ時計の秒針がやけに五月蠅い。見ると、二つの針はちょうどてっぺんを指していた。とはいえ日付が変わったぐらいで、昨日が簡単にリセットされるわけはもちろんなくて。私は数時間前の愚かな私に嫌悪してしまい、ますます眠れなくなってしまう。
 仕方がないのでお茶でも飲んで気持ちを落ち着かせようと、足首にくるまったタオルケットを剥いでベッドを降りる。窓から差し込む満月の光は嘘のように煌々と輝いていて、部屋の輪郭をくっきり映し出している。どうやら、廊下の電気を点けなくても台所には辿り着けそうだった。海に沈んだような青い夜を、ゆらりと泳ぐ。素足にはりつく床がとても心地良くて、何度も何度もぺちりと鳴らした。
 台所に入ると、黒い影が弾かれたように動いた。目を凝らして見ると、母がテーブルに肘をつきながらお酒を舐めている。
「あら香澄。こんな時間にどうしたの」
「お母さんこそどうしたのさ。電気も点けないで」
 その問いかけに、母は切子のグラスを少しだけ持ち上げて、顔の横でカチリと氷を鳴らした。大きな窓から差し込む夜の灯が、グラスを流れる琥珀色の液体を艶めかしく照らしている。
「ん。月がキレイだなって思ってさ」
「なにそれ。似合わない」
 冷蔵庫から取りだした麦茶をコップに注ぎ、母がつまみ代わりに食べていた大福を手にとる。ていうか、お酒に大福って。のんべの味覚はよくわからない。大福は握りこぶしぐらいあって、見た目通りずっしりと重い。でっぷり太った身を指でちぎると、餡の中から真っ赤な苺が飛び出してきた。
「はい半分」
 大きくちぎれた大福を差し出したけれど、母は「最近太ったから」と小さい方を選んだ。時間が経っても大福はしっとりと柔らかく、油断すると指が白肌に沈んでしまうかのようだった。慌てて口を大福に運ぶと、白い粉がテーブルの上にはらはらと落ちた。
「相変わらずあんたは、食べ方が下手だねえ」と母は愉快そうに笑う。
「口を大福に持ってくんじゃなくて、大福を口に持っていくのよ」
「でもそれじゃあ、粉が落ちちゃう」
「何言ってんのよ。どっちにしても汚すくせに」
 そう言うと母は、「はやく拭きなさい」と、手元にあったふきんを投げよこす。午前零時に食べるいちご大福は、罪悪感も手伝ってかとても美味しかった。そう言えばあの人もさっき、こうして松月堂のいちご大福を食べたっけ。三つも食べたせいで、夕食前にお腹がパンパンになっていたっけ。なんて、つまらないことを思い出してしまったのは、妙に明るい月夜と口に広がる鮮やかな甘さのせいかしらん。
「ねぇ、お母さん」
「なに?」
 母はグラスを口につけながら、目線だけをこちらに寄こした。
「夕べはその……ごめんね」
「なによ急にしおらしくなって。気持ち悪いわね」
「なにそれ、せっかく謝ってるのに」
「らしくないわよ」
 そう、昨夜の私はらしくなかった。母が初めて家に連れてきたあの人に、とても失礼な態度をとってしまった。
「お付き合いしている人がいるの」と母から聞かされたのは、一週間前のことだった。そして、「一度、夕ご飯に招待したい」と遠慮がちに言ってきた。あまりにも突然の告白に、曖昧な返事しか出来なかったせいだろうか。夕食会の準備はあっという間に進められ、気づくと三人で同じテーブルを囲んでいた。
 どこかの会社の総務部長だというその男性は、父とは正反対の人だった。例えば、大福でお腹いっぱいのくせに、母の夕食を残さず食べるような。当てつけのように父との思い出を語る私の話に、熱心に耳を傾けるような。難しい問題と直面した際にも、時間をかけて解決まで導くような。その几帳面な誠実さが、なぜだか無性に腹立たしかった。
「これ、父に昔買ってもらったシンデレラの人形なんですよ。いつの間にかガラスの靴が片方無くなっちゃって」
「どこで無くしたの? 一緒に探そうか」
 そんな微妙に噛み合わない会話をしている最中、母がどのような表情で眺めていたのかは分からない。なぜなら、隣に座っている母を一切見なかったから。父を諦めてしまった彼女にも腹が立っていた。そして、父が居なくなって十年近く経ったのにも関わらず、母の幸せを願うことができない。そんな鬱屈した自分が何よりも腹立たしかった。
「あの人、良い人じゃない。お母さんにピッタリだと思う」
 数時間前とは真逆な言葉の真意を図りかねているのか、母は困惑した表情を浮かべる。
「今度はさ、日曜日に呼ぼうよ。生姜がたっぷり入った唐揚げとか甘じょっぱい切り昆布の煮物とかキノコの炊き込みご飯とかコーン入りポテトサラダとか。お母さんの得意料理をテーブルいっぱい並べてさ。なんなら私はクッキーとか焼いちゃうよ作ったことないけどね」
 一気にそうまくしたて、「もう寝るね」と席を立った。残った麦茶をシンクに捨てると、飛び散った二つ三つの水滴がTシャツを胸の部分を黒く濡らした。
「ねえ香澄」
 部屋に戻ろうとする私を、母が呼び止める。
「まだ何か?」
「用ってほどじゃないんだけれどさ」
「ほどじゃないなら寝るね。明日も学校だし」
 じゃらじゃらと鳴る珠のれんの向こう側から、再び母の声が追いかけてきた。
「ありがとうね」
「お母さんもさ。せっかく良い人ができたんだから、お酒はほどほどにしなよ」
 母からの返事は無く、代わりにグラスの氷がカランと溶け落ちる音がした。部屋に続く階段を昇る途中、不意に世界が滲んだ。月夜は鬱陶しいほどにどこまでも追いかけてくる。ただどうしようもなく、みーちゃんの声が聞きたかった。

 翌日、私とみーちゃんは日が昇ると同時に海へと向かった。セミの鳴き声や新聞配達のバイク音が一日の始まりを告げている。水平線の底から見え始めた太陽が、澄んだ空気を少しずつ焦がしている。東の空には朝雲が多少見え隠れしているが、いずれ流されていくのだろう。どうやら今日も暑くなりそうだ。
 誰もいない砂浜に立ち、いつもよりだいぶ早い日課に取り組む。くたびれたビーチサンダルと素足の隙間に、白い粒が遠慮なく潜りこんだ。みーちゃんもいつもと変わらない無邪気な様子で、軽やかに浜辺を歩いている。
 いつもより時間をかけて砂浜を巡ったけれど、探し物は見当たらなかった。もしかしたら、すでに流れ着いていて、地中に埋もれているかもしれない。そう思い地面を掘ってみたりもした。しかし、スナガニの住処を不必要に奪ってしまっただけだった。
 探している最中に、薄れてしまった父の面影を必死に思いだそうとした。東京で暮らしている七ヶ月後の私の姿も想像してみた。しかし、頭の中の霧が晴れることはなかった。ずっと下を向いていたせいだろうか。無数の足跡で乱れた砂浜がぐるぐると回る。張りつめていた想いが、渦に飲み込まれていった。
「みーちゃんさ、今日学校さぼっちゃおうか」
 足を止めて彼女の方を見る。首筋に滲む汗が、陽光を受けてキラキラと輝いている。金色に光る産毛は生まれたての赤ちゃんみたいだった。
「サボってどうするの」
「このまま電車に乗ってさ、東京に行こうよ。長い人生なんだから、一度ぐらい冒険したっていいじゃない。東京が嫌なら私が生まれた町でもいいわ。少し遠いけれど、二本の足でてくてく歩いていくの。途中でたくさんアイスを食べてさ。忘れられない夏の思い出になるわよ、きっと」
 みーちゃんは悲しそうな笑顔を浮かべ、首を横に振った。うん、私にも分かっている。彼女を連れていくことは出来ないことを。いつまでも二人の世界には閉じこもっていられないことを。みーちゃんはいつか私の前からいなくなり、その後は一人で生きていかなければいけないことを。大人になるって、多分そういうこと。会話に夢中になっていたせいだろうか。いつの間にか私たちは、交らわない場所の左側に足を踏み入れていた。
 境界線の向こう側には、海水に耐性のある何種類かの植物が自生していた。その中の一つだけ、名前を知っている植物があった。ハマボウフウだ。今より少し幼い頃、「これは山菜だから食べられるんだよ」と、近所の長瀬さんが教えてくれた。その時に「海なのに山菜って」と不思議な気持ちになったから、記憶の底に残っていた。ポンポンみたいな小さな白い花が、円を描くように幾つも密集している。その集合体は一つの大きな花に見えた。
 その時、波の奥で何かがキラリと光った。
「見た? みーちゃん」
「うん。なんか光ったよね」
 私たちは、目標を目指し全力で走り出した。ビーチサンダルが片方脱げたけれど、構わず海中に分け入った。波は二重三重に生まれてこちらに向かい、光は気持ちよさそうにその揺らぎに身を委ねていた。ずっと昔に教科書で読んだ、「クラムボンはかぷかぷわらったよ」という一節が、頭の中でリフレインした。
 光の正体は、長年追い求めていたそれだった。手の平サイズのクラゲは半透明に艶めきながら、波の強弱にあわせて自在に姿を変えている。ある時は細長く捻じれ、一片の骨のように見えた。またある時は波に潰され、かつて無くしたシンデレラのガラスの靴のように見えた。
 少しだけ躊躇った後に、光に向けて手を伸ばしていく。光は観念したかのように、ゆらりと手に収まった、そして海面から取り出した瞬間、鮮烈な痛みが身体を走り抜けた。

 クラゲに刺された右手首は、気泡で膨れ醜い形をしていた。肌を焼く痛みも変わらず残っている。恥ずかしいことに、私は声をあげて泣いてしまった。その声を聞いて、犬を散歩していた男性がすぐに応急処置をしてくれた。ずっと海辺の町で育ったというその男性は、「たいしたことないけれど、後で病院に行っときなよ」と優しく言ってくれた。せっかくの散歩を邪魔された犬は、終始ワンワンと吠え続けていた。治療の間、みーちゃんは何も言わず、汗で濡れた頭を撫で続けてくれた。その手の感触は思った以上に儚くて、骨のあるクラゲもシンデレラのガラスの靴もこの世界には無いということを、はっきりと理解してしまった。
「本当に一人で病院に行けるか」
 そう心配してくれた男性を、目を腫らしながら見送る。私の瞳には、彼と犬が映っている。彼の瞳には、みーちゃんが映ることはないのだろう。
 気持ちを少し沈めた後、私たちは浜辺を後にした。携帯電話を見ると、七時をわずかに過ぎていて、会社に向かう自動車が次々と道路に湧き出している。クラゲは、いつのまにか海に還り二度と戻ってはこなかった。全身についた砂粒が歩くたびに零れ落ちる。みーちゃんは時折こちらを振り返り、「大丈夫」と心配そうに声をかける。その度に彼女の美しい黒髪が軽やかに舞った。その光景に目を奪われながら、私は十年後のみーちゃんを想像していた。
 彼女が嘘をつかなくなる日も、いつか来るのだろうか。公務員の優しい旦那さんと結婚して、小さなマイホームを購入して。休日には、家族みんなでミニバンに乗ってピクニックになんか出かけたりして。自分が嘘をついていたことすら、すっかり忘れてしまうのだろうか。それとも今と変わらず、愛する息子や娘に、テントウムシの穴やクラゲの骨の話を聞かせているのだろうか。今より少し皺が増えた顔を綻ばせながら。そんなありえない未来が、無性に可笑しかった。そして、その時私は何処にいて、何をして生きているのだろうか。分からないけれど、そう悲観することもないのだと思う。私はまだ始まったばかり。時に正しく、時に不格好に。大切な物を得たり失ったりしながら、きちんと大人になっていくのだから。
 入道雲に沈んでいた太陽が顔を出した。少し前を歩く彼女の影が、こちらに向かってゆっくり伸びてくる。やがて二つの影が溶けあった時、みーちゃんのついた数々の嘘はその役目を終えた。私は、もう一人の私に別れを告げる。
 憎たらしいほどに能天気な夏空に包まれながら、家路を辿った。学校とか病院とか新しい父との歩み寄りとか。やるべきことは沢山あるけれど、とりあえず冷凍庫の奥に眠るソーダアイスをたった一人で食べるために。

七月のクラゲとシンデレラのガラスの靴

執筆の狙い

作者 北に住む亀
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久しぶりの投稿になります。
子どもから大人へと移り変わる瞬間を表現したく書きました。また、個人的に細かい部分まで書きすぎるきらいがあるので、今作では物語としての余白も意識しました。
30枚程度ですがサクッと読めるかと思いますので、感想やご指摘・ご批判を頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

コメント

shion
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なかなかよくまとまっていて、いいなと思う部分もありました。ただ若干読みにくいというか、より論理的な文章にできるような気もします。

北に住む亀
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shion様

早速お読みいただき、ありがとうございました。

>若干読みにくいというか、より論理的な文章にできるような気もします。
読みにくいのはいけませんね、反省です。また、「論理的な文章」がどのあたりを指すのかがちょっと分からないのですが(自分の実力不足で申し訳ないです)、全体を少し見直してみたいと思います。

また、「いいなと思う部分もありました」と仰っていただき、嬉しく思います。また作品を投稿した際は、よろしくお願いします。

u
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読みました
良かったです
文章はお上手で、比喩暗喩の使い方にイヤミがなく(妙に気張ってないというか、一生懸命にテンパッテないというかwww)ごく自然に読めるし、上手だなーと思いました
暗喩というかメタファ(同じですけどwww)。前半部分に出てくる「交わらない場所」なんか良いですし

特に後半部分、母の恋人とのエピあたりからが良くかけていて、主人公JKの前半部分のメルヘン(みーちゃんも含む)www だけじゃないんだミタイナww 一気に人間臭さが出てきてミタイナww

チョット不満に思った部分
今どきのJKにしては2人とも幼い感じがしました(よく言えば純真)
冒頭小学生の時のエピから始まっているのでそう感じたんかな?
あたしは、みーちゃん好きなんですが、流石におらんやろー今時 高校3年生やろー

もう一つ
最後の落ち部分? 主人公クラゲに刺される
このエピいるのかどうか? メタファとしては成立しているとは思うのですが

ともかく良かったです
ありがとうございました
御健筆を

北に住む亀
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u様

お読みいただきありがとうございます。
今作では道具・場所・シチュエーションに極力意味を持たせるようにしたので、暗喩の部分を評価していただきとても嬉しく思います。

>今どきのJKにしては2人とも幼い感じがしました(よく言えば純真)

あー確かに、言われてみるとそうですね(笑)。「自分の世界にいる子ども」→「大人になる」というテーマでしたが、幼すぎるようではいけませんよね。

>最後の落ち部分? 主人公クラゲに刺される このエピいるのかどうか?

実はこれ、小学校三、四年生の頃の実体験です。当時の私は良くも悪くも空想(妄想?)が好きで、ガラスの靴と見間違えてクラゲに刺され、「あぁ空想の世界なんて無いんだなぁ」と落胆した思い出から書きました。ただ、物語にうまく組み込めていないということは、私情が入り客観視ができていないんでしょうね。再考してみます。

自分では気づかないご指摘、本当にありがとうございました。u様の作品も後日読まさせていただきますね(チラッと見た感じ長そうなので、少し時間がかかるかもしれませんが)。

ソップ
115-37-219-156.shizuoka1.commufa.jp

読ませていただきました。
面白かったです。文章もわかり易くて、でも中身はぎっしりみたいな。

キーワードというか言葉の使い方がうまくて、雰囲気が伝わってきて話にはいりやすいです。短い文章の中に、「アイス、梅雨明け、空、濃い青、太陽、浜風」本格的な夏がくるなーって感じがこれだけで十分しました。
「交わらない場所」ってのも香澄の心境を表すのにうまく使っていていいです。

引っ越してきた理由からすると、お母さんの選択は物凄い決断で、これがよりリアルさをだしているというか。香澄にとっては自分の中の悲しい決断をするきっかけになったのでしょうね。

最後で骨を探している理由や、みーちゃんが誰だかわかったところで、香澄に凄く感情移入できて、切ない余韻がきてます。相当きてます。よくがんばったといってやりたい。

凄いストーリーです。すげーってビビってる。ラストしびれました。

みく
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楽しく読ませていただきました、特にクラゲに刺された辺りから、こういう終わり方をするのかと感心しながら。ガラスの靴と見間違えてクラゲに刺されたって、面白い体験されたんですね(笑)

JKにしては幼いという意見もありましたが、むしろ子供と大人の間という微妙な感じが出せていると思いました。
唐突ですが、H2Oというデュオの「想い出がいっぱい」という曲が浮かびました。
♪大人の階段登る 君はまだシンデレラさ♪

タイトルのシンデレラのガラスの靴にもなんだかマッチして、JKだったらそこまで大人らしさを求められませんし、ありじゃないでしょうか。

北に住む亀
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ソップ様

お読みいただきありがとうございました。

>引っ越してきた理由からすると、お母さんの選択は物凄い決断で~
8年という時間を考えると、母も決して間違っていないんですよね。だから香澄も最後は納得するしかないわけで…。母と大福を食べるシーンは自分でも結構お気に入りです。

>みーちゃんが誰だかわかったところで~
ここに言及していただき、とても嬉しいです! というのも、今作ではみーちゃんの正体を、「二人の女子高生の話」と「それ以外」といった感じで、二通りの読み方(解釈?)ができるようにしたからです。ソップさんは恐らく「それ以外」の方を読みとってくださったと思うのですが、もし違っていたら野暮な説明をダラダラしてすみません(笑)。

多分にお褒めいただき光栄というか、身の引き締まる思いです。また作品を投稿した際は、よろしくお願いします。

北に住む亀
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みく様

お読みいただきありがとうございました。

>むしろ子供と大人の間という微妙な感じが出せていると思いました。
>タイトルのシンデレラのガラスの靴にもなんだかマッチして、JKだったらそこまで大人らしさを求められませんし、ありじゃないでしょうか。

そうおっしゃっていただき、ありがとうございます。完成した作品を手直ししたり、アレコレ考えたりするのは好きなので、みなさんの意見を元にちょと考えてみますね。

>唐突ですが、H2Oというデュオの「想い出がいっぱい」という曲が浮かびました。
>♪大人の階段登る 君はまだシンデレラさ♪

あーたしかに(笑)。有名な曲ですがこの一節しか覚えていなかったので(鼻歌を歌う時は、ふんふんふーん♪ってこの後の歌詞をごまかしていました)、全部の歌詞も調べたところ結構似てますね。ラストの「少女だったといつ日か 想う時がくるのさ」は、この話をうまく言い表してると思いました。

感想ありがとうございました。みくさんの作品も後ほど読まさせていただければと思います。

5150
5.102.5.24

拝読しました。

文章は平易で読みやすいですが、内容はあれですね、いろんなメタファーの多用があり、一筋縄ではいかない作品だと見受けました。僕の読解力のなさもあり、いろんな意味が込められているようで、一回だけではよくわかりませんでした。深い内容ですね。

作中に出てくるいろんなメタファーとしての物たちと、けっこう複雑に組み合わさったようなエピソードの数々。これだけのものを入れて短い尺の中でストーリーを動かす、作者さまのその手腕には驚かされましたし、読んでいて勉強にもなりました。

アイスを食べるのが日課で、仲良し二人組というのは、このストーリーを一人称で動かす年齢として、違和感はさほどないですよね。一般的にも揺れ動くのが当然の年齢でもあり、いやがおうにも大人の事情も見えてくる時期でもあります。二人の関係性をよく示している冒頭だし、最後の文とリンクして終わるのもうまいです。

海と川側、交じり合わない場所、こっち側とあっち側という区別は、SFでよく出る設定のような気がします。それを後半でうまく効果的に使われてますね。

特に後半の展開が圧巻で好きです。これは心理的に成長したからこそ、見えてくる景色の数々のように思えました。

>>みーちゃんはいつか私の前からいなくなり、その後は一人で生きていかなければいけないことを。大人になるって、多分そういうこと。会話に夢中になっていたせいだろうか。いつの間にか私たちは、交らわない場所の左側に足を踏み入れていた。

この文はある意味で、みーちゃんが誰かは薄々知っていたけど、見ないふりをして、依存していよう、その方が楽だし。こういう心理状態だったのが、母の相手や東京へ出ることなどが重なり、自ら左側に足を踏み入れた、と解釈しました。

この物語はつまり、ある場所に心理的にいつまでも寄り添っていたいという気持ちと、それじゃダメなんだという気持ちとの、場所についての移動、つまりは居処についての話のようにも思えました。ただ葛藤は表面的にはほとんど出ていませんが。

そうやって主人公が自発的に動いたあとで、

>>ある時は細長く捻じれ、一片の骨のように見えた。またある時は波に潰され、かつて無くしたシンデレラのガラスの靴のように見えた。

こういう流れが自然で説得力があり、好きな箇所でした。心理的に成長しているからこそ、見えてきたのですね。

>>せっかくの散歩を邪魔された犬は、終始ワンワンと吠え続けていた。治療の間、みーちゃんは何も言わず、汗で濡れた頭を撫で続けてくれた。その手の感触は思った以上に儚くて、骨のあるクラゲもシンデレラのガラスの靴もこの世界には無いということを、はっきりと理解してしまった。

このあたりから、んっとなってきます。

>>みーちゃんは時折こちらを振り返り、「大丈夫」と心配そうに声をかける。その度に彼女の美しい黒髪が軽やかに舞った。その光景に目を奪われながら、私は十年後のみーちゃんを想像していた。

ここまでくるともう悟っていますね。

>>入道雲に沈んでいた太陽が顔を出した。少し前を歩く彼女の影が、こちらに向かってゆっくり伸びてくる。やがて二つの影が溶けあった時、みーちゃんのついた数々の嘘はその役目を終えた。私は、もう一人の私に別れを告げる。

真相場面です。何気なくさらっと書いてますが、素晴らしい流れだと思います。一人称ですからね。二つの影が溶け合ったとき、なんて、良すぎます。肩の力を入れずに、自然に書ける筆力には脱帽しました。

かなり技巧派の書き手さんだな、と感服しました。

個人的には、内容をぎゅうぎゅう詰めにせず、もう少し長めの枚数でじっくり読む方が好みではありましたが。

一つわからなかったのが、みーちゃんがどうして嘘つきなのか、という点でした。嘘で真実を埋めようとする、ということなのかな。事実に直面したくないから。

北に住む亀
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5150様

返信が遅くなり申し訳ありません。また、細かい箇所まで丁寧・的確に読み取っていただき、ありがとうございます。(今作は少し違いますが)普段は感覚で書くタイプなので、言語化していただき、こちらこそ勉強になりました。

>海と川側、交じり合わない場所、こっち側とあっち側という区別は、SFでよく出る設定のような気がします。

あーそうなんですね。SFは何から読んでいいかわからず食わず嫌いだったので、これを機にちょっと読んでみようかなと思います。

>この文はある意味で、みーちゃんが誰かは薄々知っていたけど、見ないふりをして、依存していよう、その方が楽だし。こういう心理状態だったのが、母の相手や東京へ出ることなどが重なり、自ら左側に足を踏み入れた、と解釈しました。

>この物語はつまり、ある場所に心理的にいつまでも寄り添っていたいという気持ちと、それじゃダメなんだという気持ちとの、場所についての移動、つまりは居処についての話のようにも思えました。

はい、5150さんの仰る通りで、私が改めてアレコレ説明することもないです(笑)。ただ、それだけだと少し悲しい気もしたので、ハマボウフウ)の話も最後に少し入れました。「山菜なのに海に生える」の話を挿入することで、子どもの香澄が気づいていないだけで、案外この町にも居処はあるんじゃないかという可能性を、自分なりに示しました。

>個人的には、内容をぎゅうぎゅう詰めにせず、もう少し長めの枚数でじっくり読む方が好みではありましたが。

ばれちゃいましたか、流石ですね。実は震災を題材にした某地方文学賞に応募(そして落選)した作品で、50~60枚を無理やり30枚にまとめました。「津波に父が飲まれた」「福島第一原発事故のせいで避難した」などの設定をごはん用に変更しましたが、尺はそのままでした。今思えば怠慢せずに長さも変えるべきでした。反省です。

>一つわからなかったのが、みーちゃんがどうして嘘つきなのか、という点でした

そうですね。これも現実の歪さと向き合うためのある種の逃避で、クラゲの骨を探すことと同義だと思います。一人称のお話とはいえ、ここは大切ですよね。

改めて、感想ありがとうございました。頂いたご指摘をもとに、より良い作品が作れるよう精進したいと思います。

u
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北に住む亀さん
再訪お許しをww

あたし先のコメント舌ったらずなところあって
「最後の落ち部分? 主人公クラゲに刺される このエピいるのかどうか?」って書いてるのですが、クラゲに刺される部分はいるんです
これ、主人公のイニシエーションですから
そのあとの記述が気になって
>恥ずかしいことに、私は声をあげて泣いてしまった
多分、大きさからいうといわゆる(電気クラゲ)でしょうし、「たいしたことないけれど、後で病院に行っときなよ」とのおっちゃんの台詞
そこであたしが気になったのは>声をあげて泣いてしまった なんですよね
それ以前からチョット高校3年生にしては幼い書き方ミタイに感じていたので 
他の方の感想見ると違和感ないミタイナ

>彼の瞳には、みーちゃんが映ることはないのだろう
>やがて二つの影が溶けあった時、みーちゃんのついた数々の嘘はその役目を終えた。私は、もう一人の私に別れを告げる
ここも何となく認識していたのですけど、作者さんが「紫のスカートの女」と同じ効果を習っていらっしゃるの、あたし最後までわかっていなかった
ゴメンナサイ
ではでは 再訪失礼しました

北に住む亀
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U様

わざわざ再訪していただきありがとうございます。とても嬉しいです!

>声をあげて泣いてしまった
>それ以前からチョット高校3年生にしては幼い書き方ミタイに感じていたので

この違和感をご指摘くださり、ありがとうございます。実は「赤ん坊のように泣くか」「無意識に涙が零れるか」「涙を流すのはみーちゃんとの別の場面にとっておくか」の3つで悩んでいて、今回の形になりました。やっぱり迷った箇所ってばれるんですね(笑)。時間を置いてから、どういう形がいいか模索したいと思います。

>作者さんが「紫のスカートの女」と同じ効果~
読んだことが無くて調べたら、今村夏子さんの作品なんですね(しかも芥川賞作)。この人の作品は「こちらあみ子」しか読んいませんでした。というのも、一気に読ませる凄い作品だったのですが、心が抉られるというか読むのに凄くカロリーを使うというか。分かりますかね? でも興味が出たので、先ほどアマゾンでポチってきました。

で、「紫のスカートの女」の構造が分からないので何とも言えないのですが、投降後から一週間たったので、みーちゃんの正体を書いておきたいと思います(興味がなかったらスルーしちゃってください)。

先日、「女子高生2人の物語」と「それ以外」と他の方の返信に書きましたが、みーちゃんは「香澄の作ったもう一人の自分」という読み方もできるようにしました。「父の失踪」「知らない町で暮らす」という現実と向き合うために、香澄が作り出した空想の女の子です。香澄→かすみ→みーちゃんって感じで、嘘つきみーちゃん自体が香澄の嘘って構造です。一応、「二人で一つのアイス」「かーすーみーちゃーん」など、それとなく情報は入れましたが、今回投稿してこの塩梅は足りなかったと少し感じました。

「鏡に映った私」みたいな想像しやすいエピソードを入れるか、ラストで「みーちゃんは結局誰だったの?」と強い違和感を持たせるかにしないと、この描き方ではスルーされるんだなって。あと、二通りの解釈ができるようにしたせいで、どちら側から読んでもフェアじゃない書き方になった箇所(ツッコミどころ)もありましたし。

以上、長々と大変失礼しました。

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