作家でごはん!鍛練場
飼い猫ちゃりりん

ミケとみた夢

『ミケとみた夢』

 その日は爽やかな秋晴れとなり、鮮やかな青空が沈みがちな心を明るくしてくれた。しかし、風は少し冷たく、季節の移ろいを感じさせた。
 公園へ散歩に出掛けるとミケも後をついてきた。ミケを保護してから十七年が過ぎる。用水で溺れていたミケを私が救い、ミケが鬱に沈む私を救ってくれた。ミケが人ならもう八十寿を越える。耳も目も弱り、よぼよぼと歩く姿は哀れなものだった。
 途中で買ったコーヒーをベンチで飲みながら紅葉を楽しんでいたら、「ドン!」と音が響いた。隣で寝ていたはずのミケがいなかった。目を離したことを悔やんでも悔やみきれない。

 青空が広がれば公園に出掛けた。しかし、ミケに会えるはずもなく、肩を落として帰るだけのことだった。
「ミケを抱きしめたいな」
「本当にもうミケに逢えないのかな?」
「天国に逝けばミケに逢えるのかな?」
 そんな想いに耽りながら歩いていたら、死が私にも来てくれた。高いマンションの前を歩いていたら、脳天でポカリと音がしたのだ。それで終わりだ。痛くもかゆくもない。どうでも良いことだが、爺様が盆栽を落としたのだ。
 ただ問題はここからだった。天国と地獄が本当にあったのだ。駅の待合室で切符が配られるのを待っていると、キューピットがこちらに飛んで来て、天国行きの乗車券を差し出して微笑んだのだ。グリーン車ではなかったがそれは問題ではない。

 天国号の中は既に楽園で、女神のような客室乗務員が配る飲み物は信じられないほど美味しかった。驚いた私は飲み物の名を彼女に尋ねた。
「これはソーマといいます」
「どこの製品なんですか?」
「ソーマは神々の飲み物です。天国製ですよ。ではそろそろ昼食になりますので」
 窓の外を見ると、銀河は既に星屑になっており、それを凌駕する壮大な星雲が渦を巻いていた。アンドロメダの道の駅で昼食を済ませて出発すると、車内にアナウンスが流れた。
「皆様お待たせしました。間もなく天国に到着します。列車が揺れますのでベルトを締めて下さい」
車内は歓喜に包まれ、皆がひしと抱き合い喜びを分かち合った。しかし、天国に到着して列車から降りると、どんよりとした暗い空に雷が響き渡っていた。

「天国でも空が荒れるのかな?」

 シャトルバスで居住区に到着すると不安が絶望に変わった。与えられた家屋はトタン板で造られた廃墟同然のボロ屋で、それを雨が激しく打ちつけていたのだ。さらに私を絶望させたのが部屋の同居人だ。それは顔に傷のあるヤクザ風の男だった。
「ようこそ天国へ! まあ仲良くやろうぜ。わからないことは何でも聞いてくれや」
「ここが天国とは信じられません。地獄の間違いでは?」
「ここは楽園だぜ! なんでもヤリ放題で食い放題! 永遠に健康で不老不死だ!」
「天国とは善人が来る所では? 失礼ですが、あなたは…」
「おいおい俺は人は殺してないぜ。せいぜいタタキ(強盗)ぐらいだ」

神様は狂っていると思った。

「これから私はここで何をして暮らせば良いのですか?」
「なにって…しばらく俺と麻雀や花札でもして暮らしゃいいよ。楽しいぜ!」
私は声が震えた。
「いっ…いつまでですか?」
「いつまでって…五億年ぐらいやって飽きたら他のことすりゃいいよ」

 五億年麻雀したら死にたくなった。
 私はソーマを一気に飲み干すと、ジョッキを雀卓にガツンと置いた。
「もうソーマは要りません。滋養強壮はもう結構です。それより毒薬は無いのですか?死にたいのです」
「無いことはないけど…飲んでも二三回トイレに行くだけだぜ」
遂に死の欲動が爆発した。
「もう天国なんて真っ平だ! 地獄で焼かれて死んだ方がいい!」
「そっか…じゃあ地獄体験十億年の旅ってのを試してみるか?そこの冷蔵庫の横の小さな扉を開けて降りて行けば、すぐに地獄だから」
 扉を開けて階段を降りて行くと、そこはただ真っ白で、なにも無く、誰もいない冷たい死の世界だった。無限に広がる無間地獄で私は泣いた。すると、小さな生き物が足元に身をすり寄せ、あの懐かしい声で鳴いたのだ。
「ニャォ…」
ミケを抱き上げると涙が溢れた。
「さびしかったね」
「悪かったね」
「ごめんね…」
ミケはごろごろと喉を鳴らした。何億年という時を経ても、ミケは私のことを憶えていたのだ。

「ああ、神様。なぜミケが地獄にいるのですか? ミケに何の罪があるのですか? 私が地獄に残ります。どうかミケを天国に…」

 やがて十億年が過ぎ、目の前に四角い空間が開くと、あの先輩が顔を出して笑った。
「どうだった? 天国の方がいいだろ」
私は彼に懇願した。
「私が地獄に残ります。どうかこの哀れな老猫の面倒をみてやって下さい」
「神様の許しがなきゃだめだ。その猫は地獄に置いていくしかない」
「なら私も地獄に残ります!」
「それもだめだ。もう直ぐ天国会議があって、全員参加だからな」
「天国会議? なんですかそれ」
「天国の模様替えについて議論するんだ。もう意見は出尽くしているけどな」
私はミケに誓った。
「必ず君を救うから」
ミケが私の目を見つめて、「ニャォ…」と鳴くと、扉は静かに固く閉ざされた。

 天国会議は無限回も繰り返された意見ばかりで、寝てる者までいた。楽園バージョン、月面バージョン、地獄バージョンまで出る有様だった。
 私は挙手をして思いの丈を述べた。
「儚い無常の世界を愛しています。生と死のある世界を再現しましょう。全てはあるがままに」
拍手喝采の嵐が起こった。
「それは凄い!」
「初めての試みだ!」
「よし! それでいこう!」
「神様よろしいですか? 神様! 起きて下さい!」
なんと神様はただの酔っ払いだった。
「うるさい奴らめ。そんなことはどうでもいい。お前らの好きにせい!」

 ふと気づくと、私はあの公園のベンチに座っていた。右手に持つコーヒーは白い湯気を立てていた。私の隣ではミケが寝ていた。そっと頭を撫でると、顔を上げて、「ニャォ…」と小さな声で鳴いた。

おわり

ミケとみた夢

執筆の狙い

作者 飼い猫ちゃりりん
123-48-53-38.dz.commufa.jp

ああああああああああああああああっっっs

コメント

飼い猫ちゃりりん
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すみません。誤って掲載ボタンに猫パンチしてしまいました!

三枝松平
ntngno151245.ngno.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp

飼い猫ちゃりりん 様

 ミケは夢見ないでしょう(笑)
 脳天にポカリと来た時から「夢」ってばれちゃった(苦笑)
 寝る前に変な奴読んじゃったなあ!
 おかしな夢見なきゃよいけど!

飼い猫ちゃりりん
123-48-53-38.dz.commufa.jp

三枝松平様
相当癖のある作品にしてみました。
一応猫も夢を見ることが実験的には証明されているようです。

猫パンチ100回記念
124-18-26-79.dz.commufa.jp

こんばんはぁ。猫パンチいいですねぇ。わたくしめ、猫を飼って5年目になります。私の友人であり家族である猫のイブちゃんは誤って私の顔に猫パンチを毎朝叩き込んできます。猫を飼ってる友達にこの話をすると全員が口をそろえて「そんなことうちの子はしない」といいます。厄介な猫を飼ったものです。せめてパンチするなら掲載ボタンに…
さて、この作品は間違えて掲載してしまったものなんですね。(違ったらほんとごめんなさい)
小説に対して批評できるほどの能力を持ち合わせていないため何とも言えなくて申し訳ありませんが、唯一言えることは猫愛が伝わってきました。ということと(唯一言うたやん)すごく不思議な世界観だなと思いました。
ちゃりりんさん、掲載ボタンに誤って猫パンチを繰り出すのはいいですが、うちのイブみたいに人の顔にするのはやめましょうね。  できればいぶもひとのかおにぱんちするのやめて…   わ!だからやめ…あああああああっっs

飼い猫ちゃりりん
123-48-53-38.dz.commufa.jp

猫パンチ100回記念様
私は臆病な猫なので、スマホかキーボードくらいしか猫パンチできません。

もんじゃ
KD106154132014.au-net.ne.jp

 飼い猫ちゃりりんさま

 文章にはやはり粗がないけど、そして今回のはいつものより砕けていてやわらかかったけど、散漫というか、なげやりというか、手抜き感みたいなのにやられて、途中で飽きて、それでも読み通して、終わりかたに声もなく笑ってしまいました、口が三日月です。
 !や?のあとの一角空き、やっぱり読みやすいです。ついでにもひとつケイシキバッタ慣例をお伝えしちゃうと、三点リーダーは偶数回重ねて使うのがお約束だったような……。…じゃなくて、……が一般的、みたいなことじゃなかったかな?
 めちゃくちゃ書き慣れてるかただから意外でした、わざとかと思ってた……

飼い猫ちゃりりん
KD106128157009.au-net.ne.jp

もんじゃ様
いつも読んで頂き感謝しております。
三点リーダーは聞いてはいたのですが、あまり意識していませんでした。今後はセオリーに従うつもりです。でもなぜ偶数なんですか?何か意味があるのですかー

taki
133-106-65-120.mvno.rakuten.jp

面白かったです。
読みやすい文章ですしユーモアの感覚が魅力になっていると思います。
『愛猫家へ贈る掌編集100選 ユーモア編』みたいなものがあれば収められていてもおかしくないと感じました。
この荒唐無稽な空想小説に仮託して作者様が語りたいメッセージは、現世の肯定ととにかく猫はいいものだってことだと理解しましたが、普遍性がありますし猫好きの心をくすぐる良いメッセージではないかと思いました。
あと、前作でも感じましたが、対人間の関係性の中では楽しいこともありますが嫌な思いをすることもたくさんある中で、猫は裏切らないという確信から滲み出る哀感、達観のようなものがユーモラスでとっつきやすい作風の裏側で静かに流れているように感じました。
そこに作者様の価値観や人生観の深さみたいなものを感じました。

飼い猫ちゃりりん
KD106128157009.au-net.ne.jp

taki様
優しい感想を頂き感謝しております。
本当はまだ掲載するつもりじゃなかったのですが、うっかり掲載ボタンに猫パンチをしてしまいました。
題名は『猫好きに贈る詩』が良かったかもしれません。笑

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

猫への愛情に共感しました。自分以上に大切な存在ですよね。物語としてはよくできていると思います。文章が少しだけわかりづらいかなと読んでいて思いました。

飼い猫ちゃりりん
123-48-53-38.dz.commufa.jp

shion様
読んで頂き感謝しております。今回は少しユーモラスにしてみました。

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