作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

教授の愛したお尻

教授の愛したお尻

 その日、妻の益代は朝から落ち着かなかった。
 日本では最多の発行部数を誇る週刊日本という雑誌社からインタビューに来ることになっているのだ。
 文学博士、四宮欣造。十年ほど前の春、六十四才で京都の国立大学教授を定年退官し、名誉教授となっているので厳密にはもと教授であるが、いまでも教授と呼ばれて親しまれている。
 専門はフランス文学で、エッセイストとしても名を知られており、これまで何度かテレビに出たことがある。歯に衣を着せぬ発言が好評で人気があるが、妻の益代にしてみればどんな暴言が飛び出すか気が気ではない。
 その日の取材は『定年後の生き甲斐探し』というテーマであった。定年後は好きなゴルフに熱中している。おそらくは、ゴルフ談義が弾むことだろう。
 四宮欣造の自宅は閑静な住宅街にある。応接室の窓から見渡せる手入れの行き届いた庭には、初夏の風がつつじの花を散らせていた。
「わしの生き甲斐は女房を抱くことや」
 冷たい麦茶を運んできた益代の耳に、この言葉が飛びこんできた。思わず足をとめて部屋を覗き込む。
 インタビューをしている女性記者は一瞬ぽかんとし、欣造の顔を見つめていた。
「すると教授は今でも奥さんを……」
「当り前やろ」
 欣造は、助けを出すように質問を発した男性記者に、じろりと流し目をくれた。
「人間、性欲を失うたらあかん。性欲は生きている証拠や」
 男性記者は女性記者と顔を見合わせた。
 先生の生き甲斐は何ですか、という質問に対する答えがこんなことになろうとは予想もしなかったのだろう。
 血色の良い欣造の顔が輝きを増す。
「時には奥さんではなく、若い女性を抱きたいと思うことはありませんか?」
「ないな。わしは女房が一番ええ」
 記者の疑わしそうな顔を見て欣造がにやりとした。
「若い女を抱きたいと思うのはな。古女房ではその気にならへんからやろ。女房を悦ばせることをしないで、惰性で抱いてきたからあかんようになるんや。だから男は浮気をする。わしは女房が一番ええ。女房はな。若い頃わしが一番好きになって抱きたいと思った女や。その女を今も抱いてるんや。第一、女房やったら抱きたいときいつでも抱けるやろ。金もいらんし、よけいな気兼ねせんでもええ。病気が染る心配もないやろ」
 そして欣造はにやりとして付け加えた。
「わしの女房は今でも濡れるし、あそこの締りもええしな」
 この時、益代は咳払いをして部屋に足を踏み入れた。冷たい麦茶をテーブルに置く。益代は記者に笑顔を見せて麦茶をすすめた。二人の記者の目は益代の胸や腰に注がれる。
「奥さんはお若いですなあ」
 男性記者が感嘆したように言った。頭に白髪が少し交じってはいるが、背筋はまっすぐに伸びており自慢の肌は滑らかで、体の張りは七十才を越えているようには見えない筈だ。
 麦茶を一口すすって、欣造の口が滑らかになる。
「高齢者に性欲が無いと思うのは大間違いや。歳をとっても性欲はちゃんとあるんやで。これは女も同じことや。そうやろ、益代」
 最後の言葉は益代に向けられる。
 若い二人の記者はうなずきながらちらりと視線を益代に走らせた。
「まあ、それはそうやけど」
なにも他人にそこまで言わなくてもいいのにと思ったが、益代はそう答えて一礼し姿を消した。
「だいたい、今の若い者は性欲が乏しすぎる。日本人の性交回数は世界で最低や。これが少子化の原因やろう。情けないことや」
「なぜだとおもわれますか」
「それはわしより、若い君らに聞きたいことや。なんでなんや?」
「それは、まあ、ストレスなど色々ありますから。仕事で疲れることもあるでしょうし」
「疲れたときは、セックスするのが一番の回復になると思うで」
 若い記者は顔を見合わせて黙り込んだ。
 欣造がうなずいて、
「今度新しい年号が令和になったがね。これがちょっと問題やと言う人がいる」
 記者が意外な顔をした。
「令和がどうして問題なのですか」
 欣造はにやりと笑って言った。
「君らは教育勅語を知っているか」
「話に聞いたことはあります。戦後は廃止されたそうですが」
「そうじゃ。戦時中までは学校で毎年何度も聞かされたらしい。ここには『夫婦あい和し』とはっきり書かれている。相和すとは、夫婦はもっと抱き合えという意味じゃ。産めよ増やせよの時代じゃからのう」
「それと今度の年号の令和とどんな関係があるんですか」
「平成の前の年号は昭和だと知っておるじゃろう。それが令和になったんじゃ。これをどう思う?」
「昭和が令和になると何か不都合でもあるんですか」
 欣造はまたにやりと笑った。
「少が零になる。教育勅語でも夫婦相和しと、つまり夫婦はもっと性交をしろと言ってるじゃろう。ところが、昭和では、ショウワ、つまり少ない和じゃ。この場合の和とは教育勅語で言う和だから夫婦は抱き合えということじゃが、昭和では、少和、つまり夫婦はあまり抱き合うなということになる。だから日本人の性交回数が減ってしまったんじゃ。これが今度から令和になった。これはもっとひどいね。ショウ和ではなくて、令和つまり零和、少がゼロになるんじゃから、夫婦はセックスをするなという事になる。これでは少子化は改善できんのう」
 記者たちは唖然として欣造の顔を見た。欣造は自分の屁理屈に満足したようにニヤニヤしていた。
「だからじゃ。わしはこう考えるのじゃ。令和のレイはゼロではなくて、励和、つまり抱き合うことを奨励する、毎日抱き合えと解釈すればよいことじゃ」
「はあ?」
 記者たちは一瞬キョトンとして聞いていたが、気を取り直したように質問した。
「では先生は七十六歳の今でも奥さんと」
「もちろん、ほとんど毎日抱き合っているよ。たまに抜けることはあるが」
「そんな、毎日できますか」
「歳を取ってからは、若い時のように毎日射精するわけにはいかん。結合しただけで十分なんじゃ。昔、江戸時代の学者が接して洩らさずを勧めていたそうじゃがのう。これがセックスの極意なんじゃ」
 記者は頷いた。
「先生は今でも性欲はあるんですね」
「当たり前じゃ。性欲が無くなったら女房を抱くわけにはいかんやろ」
「では奥さんも満足されているのでしょうね」
「もちろんや。歳を取ると女は干からびると思うやろ。そんなことあらへん。幾つになっても女は女や。ちゃんとしてやればなんぼでも感じるもんや。ただな、この歳でのセックスは若い頃のように射精すれば終わりと言うのと違うけどな。肌を接して愛撫しあうだけでもセックスになるんや」
 欣造は若い時と年を取った時の違いを何度も強調している。少し耳が遠くなったせいか欣造の声は大きい。台所まで声は筒抜けである。益代は顔がほてるのを感じた。閨房の秘事を臆面もなく話すところがいかにも欣造らしい。
「高齢になっても性欲はあるし、快感もあるということですか」
「もちろんじゃ。快感はあるから高齢者ほど性欲を大事にしてやらなあかんのや。ええ歳して、いうて我慢してるやろ。これがボケるもとや」
「すると性欲はボケ防止に役立つんですか」
「その通りや。ボケ老人の男と女を同じ部屋に入れて見い。ボケは軽くなるで」
 定年退職後の趣味と生き甲斐というテーマのインタビューがとんでもない方向に逸れてしまった。二人の記者は欣造の性欲談義を拝聴して早々に引き上げていった。
「あんた、あんなこと言っていいの?」
「なんや、聞いてたんか」
「あんな大きな声で喋ってたら何ぼでも聞こえますがな」
「かまへんやないか。本当のことを言うたんやから」
「まるで私が性欲に貪欲な女のように聞こえるやないの」
「お前、性欲旺盛やろ。抱いてくれ言うのはいつもお前の方からやないか」
「そらそうやけど、なにも他人に言わなくてもええやんか」
「性欲があって、なにが恥ずかしいんや。人間として当然のことやないか」
 益代は黙り込んだ。欣造が言うことは正しい。欣造に抱かれて快感があることも確かである。だから毎日求めて抱いてもらっている。でも人前で私は性交渉が好きですなんて言えることではない。
 益代は、自分が性欲の強い女かどうか知らない。若いときから欣造の求めにはいつでも応じており、性交渉は快感の絶頂に達するのが当然だと思っていた。
 四十歳台になっても欣造とは毎日のように交わっていた。欣造は、若いときのように毎回射精するとは限らない。益代が満足すると終わりにすることもある。
「射精しなくても良いの?」
「接して洩らさず。これがセックスの極意や。これなら毎日できるからな」
 と欣造が嘯いているが、さすがに毎回射精する元気は衰えたのだろう。でも挿入だけでも益代は満足している。欣造がそれで満足するなら射精してもらわなくてもいい。
 世の夫婦もそんなものかと思っていた。女同士の気安さからか、友達との話し合いの中に夫婦生活が話題になることがある。
 益代は何気なく毎日性交していると言って友人に驚かれた。
「えー、毎日? すごいねえ。私の所はよくあっても月に一回位やけどね。痛いだけで苦痛やわ」
 ほとんどの夫婦は交渉がないか、せいぜい月に一度か、二、三ヶ月に一度であることを聞いて驚いた。しかも性交渉が煩わしく、快感を感じないというのが半数はいる。回数が少ないのは妻が拒否するか、夫が勃起しないためである。欣造のように毎日勃起するのは極端としても、せめて週に一度、二度は普通だと思っていた。
 欣造が好色なのか精力絶倫なのか知らないが、それにしては他の女に手を出して騒動を起こしたことは一度もない。もっぱら益代だけの一穴主義を守っているようである。欣造は、性欲が壮んなのは性交渉を絶やさないからだと言う。
 歳を取ってからは皮膚や性器を中心とする愛撫に重点を移している。挿入して射精するセックスは若いものがすることだという。益代もそれは実感している。欣造に愛撫してもらうだけで満足することも多い。

 益代が欣造と結婚したのは、というより初めて抱き合ったのはどちらも学生の頃だった。
 益代が大学に入った年、文学部四回生の欣造と知り合った。何度か欣造の下宿を訪れたとき、欣造が言った。
「今度来るときはセックスするつもりで来てくれ。そうでなかったら来んでもええ」
「なんでセックスするの」
「わしは男、君は女。男と女はセックスするのは当然やろ」
「そりゃあ、夫婦になったらセックスするやろうけど」
「夫婦でないとあかんのなら、夫婦になったらええやんか」
「それ、プロポーズのつもり?」
「プロポーズではないけど、わしは君とセックスしたいだけや」
「どうして私とセックスしたいの?」
 益代が聞いたとき、
「一目見て抱き心地が良さそうや思うたからな」
 それが答えだった。
「どうしてそんなことがわかるの?」
「君は性欲が強い女や。手の指を見てたらわかる。それと君のお尻がいい。わしは大きいお尻がすきなんや」
 益代は自分の指を見た。これで性欲の強さがわかるのだろうか。お尻の大きいのは気にしていたがこればかりはどうしようもない。しかし、欣造がお尻の大きい女が好きだと言ってくれたのでほっとしている。
 益代は覚悟を決めて欣造を訪ね、そして抱かれた。それ以来、今日までほとんど毎日のように抱かれている。
 欣造は大学院を卒業すると文学部の助手になり、フランスに三年、イギリスに二年留学した。フランス各地の見聞記やロンドン便りが話題を呼び、エッセイストとしても知られるようになった。帰国後は講師となり、助教授を経て四十代の中ごろには文学部教授となった。
 欣造が四十代に入った助教授時代のことだ。次期教授を狙って激しい競争が展開され、欣造も神経をすり減らしていたらしく、しばらく益代を抱く回数が減ったことがある。
「伊藤先生の奥さんが駆け落ちしたらしい」
 欣造が帰るなり言ったのはその頃の夏の終わりだった。伊藤先生は英文学の助教授で欣造の親友である。夫婦で遊びに来たことがあり、益代とも面識がある。快活な美人の奥さんだった。
 伊藤助教授夫人の駆け落ちは欣造に衝撃を与えたらしい。無口になって考え込むことが多かった。駆け落ちの原因は奥さんの性的欲求不満だと噂された。伊藤助教授との性交渉はほとんど途絶えていたらしい。
「お前は性欲の強い女やからな」
 欣造の呟きが耳に残った。益代も欲求不満で駆け落ちするかもしれないと心配したのだろう。
 秋の始まる頃、片づけをして寝室に戻ると、欣造が益代に手を伸ばしていつものように愛撫を始めた。欣造の方から愛撫するのはしばらく減っていたので益代はほっとした。
「お前は欲求不満はないのか」
「不満というわけやないけど」
「そらそうやが……」
 若い頃に比べても体を重ねる回数は少し減っている。
「私は大丈夫。駆け落ちなんかしないから」
 益代は笑った。
 伊藤夫人が不倫をしたのは、単なる性的欲求不満だけではないと思っている。女は性交渉が遠のいても、しばらくは肌寂しい思いをするかも知れないが、段々と体が慣れてくるものだ。きっと、精神的にも満たされない何かがあったに違いない。
 欣造はせっせと益代を抱くようになった。よほど伊藤夫人の駆け落ちがショックだったらしい。欣造は抱く回数が減ると女は性的欲求不満に陥り、不倫願望を抱くと単純に信じているのだろう。益代は滑稽に感じたが口には出さなかった。やはり、欣造が抱いてくれると嬉しいことには違いないからだ。やはり自分は性欲が強い女だろうかと思った。
 秋の中頃、伊藤助教授が訊ねて来た。欣造の部屋でひそひそ話し合って間もなく帰っていった。
「奥さんが見つかったそうや」
「よかったやないの。けど、二人は離婚するんやろか」
「伊藤先生は許す言うてはるで」
 もともと伊藤助教授が夫人に構わなかったのが原因である。女盛りの夫人が若い男によろめいたとしてもその気持ちはわかるような気がした。
「でも、また家出するんと違うやろか」
「いや、今度は大丈夫や」
 欣造は含み笑いをした。
「これや。大岡先生に頼んで手に入れてきたんや」
「その錠剤がどうかしたの」
「これが今アメリカで研究中の勃起薬や」
 益代には勃起薬と言われてもその意味がからない。不思議そうに錠剤を眺めていると、
「これを飲むとピンピンに立つんや」
 欣造は股間を押さえた。
「わしはまだ使うてえへんで」
「そらそうやろ。あんたは特別精力絶倫なんやから」
「そら、お前がセックス上手やし、締りがあってええ体してるからや」
 益代は錠剤を手にとって言った。
「ではこれを伊藤先生にあげたのね」
「そうや。伊藤先生にはこれが効くようやからな。今は仲良くやってるらしいで」
「もしあんたが歳とって立たん様になったらこれが効くんやね」
「ものすごうよう効くらしいで」
「それで安心したわ」
「お前何歳までセックスしたいんや」
「さあ、あと十年は今までの様にしたいなあ。本当のことを言うと死ぬまでしたいわ」
「好きな女やなあ」
「こんな女にしたのは一体誰の責任なんや」
 確かにそういわれると、益代をセックス大好き女に仕立てたのは欣造に違いない。
 
 再び週刊誌からインタビューにやってきた。
「今日は高齢者の性生活についてお話を伺いたいと思います」
「ほう、方針が変わったのかね」
「先日のお話を編集長に話したところ、えらく興味を持たれまして、もっと詳しく伺って来いということになりました」 「それで、何を喋ればいいんや」
「まず、教授ご自身の性生活の様子から」
「そんなこと喋ったら益代に叱られますがな」
 記者は後ろを振り返った。益代はすばやく身を隠した。
「奥さんはおられないようですから」
「まあええか。本当のことを言うんやからな」
 欣造はもう一度戸口に目をやって話し始めた。
「若い頃は精力が壮んやからええけど、中年からは中だるみになることが多い」
「そんなものですか」
 若い記者にはピンとこないらしい。
「三日に一回が週に一回になり、段々遠のいてくるんや」
「やはり、体力の衰えということですね」
「それもあるし、仕事で神経を使いすぎることもある。要するにストレスやな。それにマンネリもあるやろな」
 欣造はコップの麦茶を飲み干した。調子に乗ってしゃべるときの癖である。
「先生もやはりそうでしたか」
「わしは別や」
 欣造がにやりとした。
 記者は驚いたように声をあげた。
「なにか特別な秘策でもあるんですか」
「半分は相手の女によると思うな」
「というと?」
「うちの益代はセックス好きの女でね。毎日求めてくる」
「ほう、それで先生は可能なわけですか」
「わしも歳やからな。時には立ちにくいこともある。それを益代は手や口を使って上手く立たせてくれるんや」
「フェラチオとか」
「まあ、益代ほどフェラチオのうまい女はあまりいないやろうね」
「先生は高齢者のセックスをどう思われますか」
「だから、高齢者でもどんどんセックスした方がいいと思っているし、それでわしもやってるんや」
「もし先生がしなかったら奥さんは不満を言われますか」
「益代はそんなことを言う女やない。じっと我慢する女や。わしはそこで気がついたんや。夫婦にとってセックスは何やろうかとね」
不仲の夫婦ではあまり性交渉はないであろう。頻繁に性交渉がある夫婦で離婚や別居をすることがあるだろうか。
「セックスは子供を作るだけのものやない。そうは思わんか」
「思います」
 欣造は大きく頷いた。
「ここが大事なところや」
 欣造の口調は学生に講義しているようであった。若い記者は神妙に聞いている。
「自然界では、子孫を残すためにのみ性交渉が行われる。だから、生殖能力を失った生物は速やかに死滅して、子孫の生存のために食料を残さねばならない。人間の性交渉は子孫を残すためだけではないんや。動物には発情期があり、限られた期間だけに性交渉を行うやろ。人間だけに発情期がないのは、単に子孫を残すためだけではないことの証拠や。人間の性交渉は、精神的な繋がりを、肉体的な繋がりで裏打ちすることであるとわしは思うね」
「愛情に裏打ちされたセックスですね。いや、セックスに裏打ちされた愛情ですか」
「男は相手が誰であろうと、挿入して射精すれば快感が得られる。しかし、夫婦のセックスは、妻に喜びを与えるものでなければならない。男の一方的な射精では女の方は煩わしいと感じるだけや」
 若い男性記者は神妙に聞いている。
 益代は物陰からそっと覗いてみた。若い女性記者がテープレコーダを操作しながらメモをとっている。その頬は紅潮しているように見えた。
 結婚した当初から、夜は裸で寝ることを欣造は要求した。当初は恥ずかしさを感じたが、欣造の愛撫をうけるとつい興奮して恥ずかしさを忘れてしまう。年を取った今でも裸の肌と肌を接して眠る。後に、健康雑誌に下着無し健康法というのが載っているのを発見して、欣造が「それ見ろ」と得意がったことがある。これは下着が健康を害するという理論で、その真偽のほどは分からないが、金もかからないし、実害はなく、衰えがちな夫婦生活を活性化するのに役立つのは確かである。
 欣造の話は続く。
「性器を結合させるだけがセックスではない。皮膚の表面、つまり肌を接して体の温もりを感じることも広い意味でセックスになる。肌を接することは人間の愛情の表現やろ。握手する。抱擁する。肌を接することの究極的な表現が粘膜の接触であり、それがキス、性器結合や」
「でも歳を取ると性器結合は不可能になるのでは?」
「そうなったら、裸で抱き合うだけでいいやんか」
「それで満足できますか?」
「若い時は不満やろうな。でも歳をとったらそれでも充分やということがわかるようになる。でもわしはまだまだ大丈夫やで」
「なにかコツでもあるのですか」
「立即入。これが高齢者のセックスのコツや」
「リッソクニュウ? 何のことですか」
「立てば即ち入れる。要するに立ったときすぐに入れることや。入れるだけで良い。歳をとってくると性器を結合して、相手の存在を粘膜で確認することに喜びを感じるようになる。女の快感が自分の快感になる。だから必ずしもその度に射精する必要はない。射精したいときだけ射精すれば良い。それが高齢者のセックスや」
「そんなものですかねえ」
 若い記者は不思議そうな顔をした。
「これはわしが信頼している大岡医師が言っていたことだがね。大岡先生は八十歳になるけど、まだ時々奥さんとやってるらしいで」
「へー、八十歳で」
 記者が悲鳴のような声を出した。
「先生も時には開発中の勃起薬を使うこともあるらしいけど、年寄りの性交渉は射精に拘る必要はないんや。結合することに意義があるといっているが、わしもそうやと思うね。大岡先生はわしに高齢者のセックスについていろいろアドバイスしてくれているがね。これは皆も知っておく必要があるね」
「どんなことでしょう」
「更年期を過ぎたころ多くの女性は、濡れなくなり挿入されると痛みを感じる。だから性行為を嫌がるようになるんだがね。若い頃から頻回に性交をしていると粘膜の萎縮はあまり起こらないがね。うちの益代は若い人並みの粘膜やいうて婦人科検診で医者が驚いたそうや」
「粘膜の萎縮が起きたらどうするんですか」
「普段から前戯を十分にして常に潤うようにしておけばこの問題はなんとかなるが、ダメな場合には潤滑ゼリーを使えばよい」
「潤滑ゼリーとは?」
「薬局で売っているただのゼリーや。これを立った時の先っぽに塗るんや。そうすると痛みがなくてつるりと入るそうや」
「先生もゼリーをお使いですか」
「わしはゼリーを使う必要はない。益代の濡れ方は若い時のままやからな」
「奥さんはどうしてその歳で濡れるんですか」
「そりゃあ毎日セックスをしているからや。だから粘膜の萎縮がないからね」
 記者は頷いた。
「それで教授は現在の性生活で満足ですか?」
 欣造は天井に目をやって、ふーと息を吐いた。
「満足やなあ。妻を抱いている時は本当に生きていると感じるなあ」
「これからもそのような性生活を続けるおつもりですか」
 欣造は目を光らせた。
「もちろんや。わしと益代が生きている限り続けるに決まってるやろ。イザというときには勃起薬もあるしね」
「いいですねえ」
 若い記者はため息をついた。
「このことを、君達の週刊誌で大いに啓蒙して欲しいんや。日本の高齢者の幸せのためにな」
 益代はこの話を物陰で聞いて思った。高齢になってからのセックスの醍醐味は、若い記者にはとても理解出来ないだろう。そしてそれ以上に多くの高齢者も、その事を知らずに一生を終わっているのではなかろうか。
 自分と同年輩の友人の話と比べて、欣造が異常に性欲が強い人だと思ったのは間違いのようだ。欣造は益代を愛し、益代を愛することに生き甲斐を感じているのだと思う。
 欣造は若いときから夫婦の性生活を大切にしてきた。外国に留学した時も益代を離さなかったし、子供が生まれてからも、夫婦の寝室には子供は入ってはならないと躾けてきた。これは子供に煩わされることなくセックスに没頭できるようにとの欣造の配慮であった。夫婦の性生活こそ夫婦愛の中心でなければならない。この欣造の信念は今でも変わってはいないだろう。
 若い頃のような激しい絶頂感を求めたいとは思わないが、この歳になっても、欣造に抱かれて安らぎを感じるのは性愛が夫婦の絆をより強固にする証拠である。
 記者が取材に来た夜、益代は欣造に手を伸ばさなかった。自分がとてもセックス好きの淫乱女のように思えたからだ。確かに欣造が言うように、セックスは大好きであるし、若い頃から二人とも真裸で抱き合って寝ていたから性器の結合は当然だと思っていた。歳を取った現在でも裸で抱き合い、たいていは挿入して貰っている。それが普通の夫婦だと思っていたが、どうやら常識はずれのことらしい。
「どうした。今夜はせんのか」
 手を伸ばして来ない益代に、欣造が不思議そうに尋ねた。
「今夜は止めてみようと思ってるんや」
「どうした。どこか調子が悪いんか」
 欣造は益代の股間を手で探った。
「いつものように濡れてるやんか。むりに我慢せんでもええで」
「今夜は我慢してみる。我慢できるかどうか試してみたいんや」
「しとうなったらいつでもしてええからな。無理に我慢せんでもええんやで」
「あんた、私が淫乱女やと思うてる?」
「まあ、好き者やとは思うが淫乱というほどではないやろ。わしも好きなほうやけど、一時、調子が悪い時があったなあ」
 外国留学から帰国して暫くした頃に長男が生まれ、次々に子供が生まれた。益代は育児に忙殺され、欣造は教授を目指して研究に熱中する。夫婦生活が少し疎遠になったのはその頃であった。
 その時、益代は若い頃のめくるめくような性生活を懐かしく思った。このまま、年老いて朽ち果てるのか。何ともやるせない気持ちであった。欣造の同僚の夫人が駆け落ち事件を起こしたのもその頃である。世間は夫人を淫らな女と噂したが、益代には夫人の気持ちが分かるような気がした。このとき以来、欣造はセックス評論家として知られるようになった。


 欣造の最愛の妻である益代が急死したのは、取材を受けてから間もなくだった。セックスパートナーを失った欣造の悲嘆は大きかった。
 妻の益代が交通事故で亡くなって一年近くになる。近所付き合い、買い物は勿論、家事一切の何も出来ない欣造は困り果てた。そこでお手伝いさんを雇うことにしたのだが、いまどき適当なお手伝いさんはなかなか見つからない。何度か入れ替わり、やっと見つけて三ヶ月前に雇ったお手伝いさんは欣造の気に入ったようである。彼女は五年前に夫と死に別れ、一人の娘は結婚しているので一人暮らしだった。
 欣造の生活は忙しい。講演を頼まれて出かけることが多いし、家も広く来客もある。庭の手入れも大変である。また、欣造が出かけるときにはお手伝いさんは運転手役も勤めなければならない。夜遅く帰宅することも多い。夜遅く帰っても誰もいないという生活は欣造にとって苦痛であった。お手伝いさんがいてくれれば、直ぐ風呂に入り食事をすることができる。
「ひとみさん、住み込みで働いてくれないかな」
 ある日欣造がお手伝いさんに頼んでみた。
「私は一人身ですからお望みなら住み込みでも結構ですよ」
 ひとみは快く承諾した。
 こうして住み込み家政婦となったのだが、ある日台所で炊事しているひとみの後姿を眺めていた欣造が言った。
「君はいいお尻をしているね」
 ひとみは振り返った。
「何がいいんですか」
「君のお尻や」
「私のお尻?」
 ひとみはズボンの上からお尻を押さえてみた。
「大きいだけのお尻の何処が良いんですか」
 欣造はニヤニヤして言った。
「君のお尻はウエストの割りに大きいやろ。そんなお尻は抱き心地がいいんや」
「抱き心地?」
 暫くしてひとみが噴出した。
「先生、からかうのは止めてくださいよ。私はもう五十歳になって生理も上がったおばあさんですよ」
「五十歳なら女ざかり。女の一番おいしい時や」
「先生、冗談がひどいですよ」
「いや、冗談やない。本当の話や」
 欣造が真面目に言う。
「そんなら」
「そんなら?」
「私がおいしいかどうか試してみてください」
「ほう、試してもいいんか」
「私は独り者やから、先生が試しても文句を言う人は居ないでしょう」
「じゃあ、今夜試してみるがいいかね」
「私は良いですが、先生の方は大丈夫ですか?」
「女房が亡くなって一年ほど試してないが、わしは大丈夫やと思うで。これでもセックス評論家やからな」
「試しておいしくなかったらどうします?」
「わしがおいしい女に鍛え上げるけど、その尻なら大丈夫やと思うよ」
「そんな事、どうしてわかるんですか」
「亡くなった女房もいい尻をしていてね。抱き心地は最高に良かったんや。こんなお尻はあの時の締まりが強いんや。きっと君も良いに違いない。ところで、君はセックスは嫌いかね」
「さあ、どうでしょう。あまり考えたことがありませんから」
「でも、セックスはしていたんやろ」
「ときどき、主人の求めに応じて」
「じゃあ快感なんてなかったのかね」
「快感って、気持ち良いことですか」
 ひとみは怪訝な顔をした。
「そうや。セックスの快感や」
「私はいつも股を開いて入れさせるだけですから、時には痛いだけで快感なんてありませんでした」
「じゃあ、前戯なども無かったんやね」
「そんなものは知りません。早く終わってくれないかなと思っていただけですよ」
 欣造は気の毒そうにひとみをみた。今時、セックスの喜びを知らない女がいることが信じられないようだった。
「今日からセックスの喜びを教えてあげよう」
「セックスってそんなにいいもんですか。じゃあ、今夜楽しみにしています」
 とひとみは笑った。
 夜になった。
「先生、お風呂がわいておりますが」
 ひとみが声をかけた。
「君も一緒に入るかね」
「あれっ、先生。私を試すと言うのは本気なんですか。私は冗談やと思っていたんですが」
「もちろん本気や。君は絶対にいい味だと思っている。君を試したらあかんのか」
「試すことは構いませんよ。でも……、先生、私の裸を見たら大きいお尻のおばあさんやからがっかりするでしょうね」
「そりゃあ実際に見んと何とも言えんね」
「そんならお風呂には入りますが。がっかりさせたらごめんなさいね」
 ひとみはタオルで前を隠しながら浴室に入ってきた。彼女を見て欣造が言った。
「えらい若い体やなあ。どう見てもまだ三十代に見えるで。ウエストが締まっているのが良い」
「まあ、お上手だこと」
 お互いに体を流し合う。
 向き合って欣造はひとみの乳房をゆっくりと揉み、背中を流した。
「これが前戯になるんや」
「あれ、味を見ると言うのも本気ですか」
「もちろん本気や。これからセックスをするんや」
「セックスなんて、本当に久しぶりやわ」
「そうか。セックスはええもんやで」
 欣造の愛撫が続く。乳房から下の方に交互に手が伸びる。
「ほんとにええ尻やなあ」
 欣造はひとみの尻を撫でながら言った。
「なんかいい気持ち。身体がぞくぞくするような」
「そうやろうな。わしのも揉んでくれんか」
 ひとみが欣造の股間に手を伸ばした。
「先生の、立ってきたようですね」
「おお、立ってきた。こりゃあいけそうやな。やっぱりあんたの尻がええからや」 
「結構硬いですね。ほんとに立派なこと。先生、今何歳ですの?」
「満七十六歳やけど」
「へえ、七十六歳でもこんなに硬く立つ人はいるんですね」
「そりゃあ立つよ。何しろセックス評論家やからな」
 ひとみは勃起を指ではじいた。
「この硬さなら十分使えるのと違いますか」
「若いころは腹につくぐらいカチカチやったんやけどね」
「どうします? 味を見るのはここでしますか。それとも風呂から出てゆっくりとしますか」
 ひとみは勃起をしごきながら言った。
「そりゃあ、風呂から出てゆっくりと楽しませてもらうよ」
 二人は体を拭いて、ベッドに向かった。
「さてと。そんならぼつぼつ始めようか」
「あら、先生のこれ、下を向きかけていますね」
 ひとみが指で勃起を支えてしごき始めた。
「まず舌でそれを立たせてくれ。僕は君のあそこを潤すようにするからね」
 欣造はひとみの乳房と性器の周りに手を伸ばした。
「なんや。もう潤ってるやんか。では先ず前戯の続きからや」
 欣造はひとみの股間に舌を這わせた。欣造の一物にひとみも舌を這わせる。二十分くらいそれを続けて、
「ここらで入れてみるか」
 欣造は正常位でゆっくりと挿入した。ぐっと締め付けが強くなる。
「ああ、やっぱり気持ちいい」
 ひとみが喘ぐように言う。
「そうやろ。前戯をちゃんとすれば気持ちがよくなるんや」
 欣造はゆっくりと体を動かす。膣の締め付けが更に強くなり、ひとみの喘ぎ声が大きくなった。
「思うた通りや。締め付けが強いね。イキそうやったらいつイッてもいいで」
「イキそう」
 ひとみが体を反らせた。
「そんならわしもイクでえ」
 それにあわせて欣造も射精した。しばらく結合したまま余韻を楽しむ。ひとみの膣の締め付けが次第に収まってくる。
「どうや、よかったか」
「よかった。セックスってこんなものとは知らなかったわ」
 ひとみは欣造の胸に顔を押し付けた。
 暫くして欣造は体を離した。
「先生、私の味はどうでした?」
「すごく良かったね。これからは毎晩セックスを楽しませてもらうよ。誰に遠慮することもない」
「毎晩、こんなに気持ちよくしてもらえるんですか。信じられない」
「セックスは本来気持ち良いものや。ただ、その様にしていない人が多いけどね」
「こんなに気持ち良いのに、どうしてみんなそうしないんでしょう」
「やり方を知らんからや。だからわしはセックス評論家として皆に教えているんや。君もこれからしっかり勉強せなあかんで」
 それから毎晩欣造のセックス教育が始まることになる。
 翌日、
「昨日射精したから、今夜は射精しないやり方でいこう」
「射精しなくて出来るんですか?」
「出来るとも。立即入。つまり立てばすぐに入れる。江戸時代の学者が、接して洩らさずがセックスの極意と言ったそうや」
「射精しなくても気持ちいいんですか」
「射精しなくても、入れて君の膣の締め付けがあれば、それだけで結構いい気持ちなんや。君の締め付けは強かったからな」
「それなら毎日でもできますね」
「そりゃあ、射精しなければ毎日でも出来る。歳をとると数日に一回しか射精できなくなるからね。接して洩らさずを上手くやることが必要なんや。セックスは運動にもなるから毎日すれば運動不足の解消に最適や」
 その夜、ひとみが布団に入ると欣造が乳房に手を伸ばした。
「まず立たせてもらおうか」
 欣造が言うとひとみは舌や手を使って勃起を促す。立ってきた。
「立ちました。さあ、入れてみて下さい」
 欣造はすでに潤っているひとみに挿入した。
 ひとみがああと声を上げた。膣がぐいと締め付ける。
「やっぱりええなあ。今日は洩らさずやからな」
「そんな、洩らさずで大丈夫?」
「大丈夫や。こうして入れただけであんたの締め付けで十分いい気持ちなんや。これであんたはいつイッてもええんやで。歳をとるとな、女が気持ちよくなることが男の快感にもなるんやで。射精にこだわるのは若いときの話や」
 欣造は体位を変えた。
「セックスには色々な繋がり方がある。それぞれ膣への刺激の仕方がちがうんや」
 欣造はゆっくりと腰を使う。
「そんなら私だけイカして貰います」
 ひとみの締め付けがきつくなり、うめき声を上げて身体をのけぞらした。
 抱き合ったままで暫くして欣造は体を離した。
「これやったら毎日でも出来るやろ」
「毎日こんなことしてもらえるなんて最高の幸せや」
 ひとみは欣造を抱きしめた。
 数日後、夕食の後片付けが終わったころ欣造が言った。
「そろそろ寝ようか」
「えっ、もう寝るんですか。まだ七時ですよ」
「そうや、今日から毎晩今頃寝ることにするからな。早くベッドに行けばそれだけ長くできるやろ。後片付けが終わったらすぐに寝室に来なさい」
「今夜もセックスするんですか」
「勿論や、毎日する言うてたやろ」
「じゃあ、片づけたらすぐ行きます」
 ひとみは大急ぎで台所を片付け寝室に向かった。
「今日はどこから攻めようかな」
 欣造は横になったひとみの胸に手を伸ばした。時間をかけてゆっくりと揉む。ひとみも欣造の股間に手を伸ばした。
「あら、もう立ってきましたよ」
「はよ君のあそこに入れてくれ言うてるやろ。今度は君が上になってしてみよう」
 ひとみは欣造の上に乗り、股間に勃起を収めた。その感触を味わうようにゆっくりと尻を上下させる。
「尻を上下だけではなく、前後にも振る感じが大事なんや」
「こうですか」
 ひとみは抜き差しながら体を前後に揺らす。
「うまい、うまい。その調子や。やっぱりいい気持ちやなあ。締め付けがいい」
「私、イキそう。きょうもイッてもいいでしょ」
「君は毎日イッてもいいよ。今日はわしもイクからな」
 悲鳴をあげながら、ひとみの締め付けが強くなり体をそらせた。それに合わせて欣造も射精する。
「これからは、射精するのは週に二回、接して洩らさずが四回、入れないのが一回ということにしよう」
「先生は入れなくても大丈夫なんですか」
「立てば入れても良いんやけどね。歳をとると立たなくなることがあるやろ。その時のための訓練や」
 こうして毎夜のセックスはひとみを夢中にさせた。
「私の身体が壊れたようよ。セックス無しでは我慢できなくなったもの」
「だから、毎日セックスしたらええやんか。そやから年とっても毎日できるセックスを教えているんや」
 数日後、
「では、今夜は入れないセックスの仕方をやってみよう」
「入れないでセックスとは、どんなことをするんですか?」
「接して漏らさずよりさらに上のセックスの極意や」
 欣造は勃起を見せて、
「この先の亀頭部を手でそっと触ってくれ」
「こうですか」
 ひとみが柔らかく手で包んだ。
「その手をそっと動かして亀頭部をさするんや」
「ははあ、前戯なんですね」
「前戯やない。これが本番や」
「えつ、本当に入れなくて良いんですか」
「そうや、その部分には快感神経があってそれだけでも十分に快感がある。それを楽しむんや。あんまり強くするとそれだけで射精してしまうからな。加減を覚えることや。これも練習やで」
 しばらくひとみが手を動かす。
「ああ、ええ気持ちや。その調子。やっぱりセックスはええなあ」
「先生ずるい。自分だけいい気持ちになって」
「すまん、すまん。では交代しようか」
 ひとみが上を向いて股を開く。
「このクリトリスは男の亀頭部とおんなじで快感の中心や」
 欣造はクリトリスに舌を這わせた。
「ああ、気持ちいい」
 ひとみが体をよじった。
「いきなりここを刺激するのは下手なやり方や」
 欣造は小陰唇付近をそっと撫でる。時々クリトリスに触る。
「クリトリスを周りから攻めて、はやくクリトリスを刺激して欲しいと期待させるのがコツや」
 ひとみが身体を揺らせた。
「ほんと、早くクリトリスに触ってください」
 こうして、二人はお互いに性感帯を刺激しあう。
「どうや。気持ちええやろ。この気持ちよさをもう少し楽しんで終わりにするんや」
「もう少しこのまま続けてください。いい気持ちやねえ」
 二人はお互いに刺激しあい二時間以上が経過した。
「今日はこのくらいで終わりにするか」
「じゃあ、今日は入れないんですね」
「そうや。入れないセックスもあるということや。きみは入れなくては満足出来ないかね」
「いや、満足できると思いますよ。このままでも十分いい気持ちですよ」
「それで良いんや。入れないで満足することを覚える必要がある。入れない日があれば、入れたときの楽しみが倍増するからな」
 夜中にひとみがため息をついて寝返りした。
「どうしたんや。眠れないのか」
「いや、そんなわけではないんですけどね。何となく……」
「そうやろ。今日は入れてないからね」
「やっぱり入れないと駄目なんでしょうか」
「これまで毎日入れていたから、馴れの問題やね」
「ほんとを言うと入れてもらった方がいいですね」
「明日からまた入れてあげるから、安定剤でも飲んで今日は寝たらどうや。それともどうしても入れて欲しいかね」
 ひとみがそっと抱きついてきて、欣造の股間に手を伸ばした。
「本当言うとこれを入れて欲しい」
 欣造がひとみの股を探った。
「ほんまに。べとべとやな。このままほっとくのは可哀想や。わしのを立たせてくれ」
 ひとみはいそいそと仰向きの欣造に覆いかぶさり、舌で勃起を促す。
「舌の使い方が上手になったね。もう入れてもよさそうやな。今日は入れるだけやで」
 欣造が体を重ねた。
「やっぱり入れるのがいい」
 ひとみは体をくねらせた。
 強烈な膣の締め付けが起こりひとみが体をそらせた。
「わたしだけイッてごめんなさいね。やっぱり入れてもらってイカされるのが一番いい」
「それはそうやけど、入れないセックスも覚える必要があるからね。わしが教えるけど。まあ、気長にやることやな」
「わたし、こんな変な体になってしまった。先生の責任よ」
「開発されたということや、あんたの体の感度がね。いつまでもセックスしたいなら入れないセックスを覚えることやな」
 欣造が笑った。

 数週間後、ひとみは欣造の書斎に呼ばれた。
「君とのセックスの件やけどな」
 ひとみはぎくりとした。
「すみません。もうセックスのおねだりは致しませんから」
 欣造が笑った。
「これからも今までと同じようにして貰うで」
「では、なにか……」
 ひとみが不安そうに尋ねた。
「じつは君のお給料を五万円ほどアップしようと思ってね」
「はあ?」
 ひとみが不思議そうな顔をした。
「つまり、セックス代だよ」
「セックス代ですか。私は売春婦とは違うんですけど」
「そう堅苦しいことを言わんでもいい。わしは君のおかげで生き甲斐を感じてるんや。君とのセックスはわしの生き甲斐なんやから、いくら御礼をしても足らんくらいや」
「でも、わたしが良い気持ちにさせてもらってお金を頂くのは……」
「君はそれだけ価値のあるセックスをしているんや。君のお尻がそうさせてるんやけどな。だから君のお尻に対する御礼だと考えたらいい」
「それなら……、これからも私のお尻でセックスさせてもらいます」
「それがいい。わしも楽しみなんじゃ」

 静かな欣造邸の夜に秋風が吹き、邸内に響くひとみの嬌声はこれからも毎晩続くことだろう。

               了

教授の愛したお尻

執筆の狙い

作者 大丘 忍
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四宮教授にセックス学の講義をしてもらいました。前半が総論、後半は各論と考えてください。なお、主として後半はR18になりますので念のため。

コメント

夕凪
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大丘 忍様
 拝読しました。性交というアダルトな内容ながら、いやらしさをほとんど感じさせることのない(後半は構成上それなりのところもありましたが)文章で読みやすかったです。性交について語りながら、愛の形についても語る事というのは若い人が語るとどうしてもどこか薄っぺらくなってしまいます。そこについても設定が考えられていると思いました。また、堂々と記者の前で性交に関して論じる欣造教授がとてもかっこよく、しかもテンポがいいのですんなりと講義に耳を傾けることができました。今日本では性生活に対し閉鎖的な風潮がありますが、これから社会に出て大人になり結婚してゆく高校3年生の教科書に載っててほしい作品です。

大丘 忍
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夕凪様
読んでいただき、感想を有難うございます。
私は現在米寿の年寄りですが、妻が70台半ばごろ亡くなるまでセックスは続けておりました。もちろん、歳をとってからは週に一,二回と回数は減りましたが、高齢になってもセックスを十分に楽しめることを実感しております。現在の日本では、多くの高齢者はこのことを知らないでいると思います。セックスの楽しさを知らないで終わるのは不幸だと思い、このことを訴えるために四宮教授に登場していただきました。ここでは、私のことを助べえ爺と揶揄する方もあるでしょうが、高齢までセックスを楽しんだ方なら私が言っていることを理解していただけると思います。
最近、官能小説を投稿しておりますが、官能小説を書くことは、若い頃はセックスをせっせとやったなあ、と思い出すためで、これは大いに気分の若返りに役立ちます。私の官能小説は、セックスを楽しむということで一貫しており、決してグロなことはありませんので、官能小説が好きな方はお楽しみください。

三枝松平
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大丘 様

 拝読いたしました。
 さほどいやらしさを感じなかったのは、このてのエロ情報が巷にあふれているせいなのか!?
 それにしても、大丘様は精力絶倫なのですね。
 喜寿の私も頑張らなくちゃ!

大丘 忍
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三枝松平様
セックスといえば、若い人のセックスを想像するかもしれませんが、高齢者なりのセックスの仕方があります。要は、女房とセックスをしようと思い、女房の体に触れてやることですね。それで挿入し射精すればそれもよし、挿入できなければそれなりに女房を楽しませてやるということで、何も精力絶倫でなくてもいいと思いますよ。年老いても二人でセックスを楽しもうという気持ちの問題だと思います。

三枝松平
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大丘 様

 痛いところ突かれましたが、こればっかりは夫婦の協力体制が必要ですね。
 うちはお恥ずかしながら自分が未熟者でして女房はとっくに錆びついた耕運機となりはててしまいました。
 私は何とかCRCのお世話にでもなりながらレンターカーくらいなら乗りこなせるとは思いますが・・・

大丘 忍
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三枝松平様

私のように年を取り、僅かな余生となれば、若い頃を振り返ることになります。子供たちが女房の写真や動画をパソコンに入れてくれました。毎日それを眺めて、女房の幸せそうな姿を見ると、仲良くしてよかったなあと思います。女房というものは、失って初めてそのありがたみを実感します。奥さんを可愛がってあげてください。

5150
5.102.1.246

大丘忍さま、拙作への感想ありがとうございました。読ませていただきました(というか、だいたいいつも読んではいますが)。

今作は大丘さんのコアな部分は残しつつ、作風としては違った趣向で書いてあるので、とても楽しませてもらいました。大丘節炸裂といった感じで、執筆中はさぞかし気持ちよく楽しんで書かれたのではないでしょうか。なんか伝わってくるものがあります。

超高齢化と昨今の社会情勢では、これは大丘さんにアダム徳永のように、救世主になって貰えれば、社会のギスギスしたところがいくぶんか弱まるような気がしてなりません。男たちの不機嫌と女たちのイライラがセックスによって、少しでも軽減されるかもしれません。いいセックスって、下手すると薬をガブガブと服用するより、よほど精神と身体にいい作用をもたらすように思わなくもないです。こうなったら、「老後セックスのすすめ」とか、そんな内容の本を執筆されてみては?

大丘 忍
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5150様
読んでいただきありがとうございます。超高齢社会だからこそ良いセックスが必要だと思います。私は、リハビリに通院している高齢者と話をすることがありますが、セックスの話は現段階ではできませんね。おそらく、全部の高齢者はもうセックスをしていないと思います。しかし、外国では70歳でも80歳でもセックスをしている人は多くではなくても居るということを聞いており、うらやましいと感じております。私自身は妻が亡くなるまで高齢者なりのセックスを持続しており、その幸せを痛感しておりましたので、日本人はもっとセックスを楽しめといいたいですね。セックスは認知症の防止に役立つことは確かだと思います。あんなに楽しい、良いことをなぜしないのかと不思議に思います。
といっても、あからさまに口では言えないのがつらいところで、この小説サイトでそれを強調して憂さ晴らしをしております。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

しっかりと小説になっている作品だと思います。ただ読んでいてちょっとセックスの描写が冗長に感じました。セックスがテーマということだと思いますが、相手がどんな人か描写がもっとあるといいかなと思いました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

すみません。冗長ではなく退屈でした。

大丘 忍
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shion様
感想を有難うございます。
奇をてらったセックスではなくきわめてありふれたセックスですから退屈に思えたのでしょう。奇をてらったセックスは私はしておりませんでした。

大丘 忍
ntoska314132.oska.nt.ngn.ppp.infoweb.ne.jp

日本人の若い世代の性交率が世界最低。それも下から二番目に比べてもその半分以下というダントツで最低の理由を教えてください。私は自分の体験を通じて、これが不思議でならないのです。自分で体験してみた、こんなにイイモノをなぜ多くの人はせっせとしないのかと。

夕凪
124-18-26-79.dz.commufa.jp

 大丘様
 日本の若い世代の性交率について大丘様の言いたいことはデータに関して何かを述べよと仰っているわけでは無いと思うのですが、統計学を学ぶものとして意見させてもらいます。
そのデータはどのように収集したのかを考えたところアンケートや大学の研究、のようなところで統計したのではないかと思います。これだけでもうカウント漏れがあるのは分かります。
それから日本人の文化から「昨日性交したか」と聞かれて「した」と答えられる人は少ないのだと考えました。
もししていても日本の性に対して閉鎖的な教育などのせいで人に対して自分の性交を大ぴらにすることに抵抗があるのではないでしょうか。それもそれで少し問題かもしれないですね。
それでもやはりほかの国と比べて少ないとは思います。
やっぱり教育方針の違いは大きいと思います。何度も言いましたが、性に対し日本は閉鎖的すぎかもしれないですね。

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