作家でごはん!鍛練場
may

あの電車でまた会おう。

―コウモリ―

哺乳類で翼手目の小獣。コウモリの翼は飛膜と呼ばれ伸縮性があり破れるほどの大けがをしても

自然治癒で回復する。10万ヘルツの高周波数超音波で獲物を狩り口から血液の凝固を阻害する体液を出して獲物の血を吸う。またコウモリは、危険を感じると牙をむいて威嚇する。そして人が感染すると100%死に至る狂犬病のウイルスを保有している。(図鑑より抜粋)

―山本花音(家出中)の場合

夜の公園のベンチにその人はいた。私はその人から目が離せなかった。酷いけがをしているようで白いシャツにもズボンにもべっとりと血がついていたから。

なのにその人はちょっとビールを飲みすぎたサラリーマンが休憩するような気軽さでベンチにひょいっと座っている。公園に備え付けられた常夜灯は舞台のスポットライトのようにベンチをこうこうと照らしていて、座り込んだ彼を浮かび上がらせていた。

ここは平和で穏やかな住宅街の公園だ。彼も、そのシャツについた赤黒い血も場違いすぎて似合わない。あの人はいったい何者なのだろう。公園の入り口からこっそりのぞいている私とその人はゆうに10メートルは離れているのにこっちにまで鉄のさびた匂いがしてきた。

これって多分血の匂いだろうな。

はっきりとはわからなかったけれどそこには何人もの血が入り混じっているような気がした。そして、あの人に決して近づいてはいけない、そんな気がした。近づいてはいけないとわかっているのになのに私は何となく目が離せない。

その人は自分をじっと見ている私に気づいて立ち上がると、常夜灯にこうこうと照らされているベンチから立ち去り暗闇の深い方へと移動していってブランコの鉄枠の部分にまた腰かけた。今度はこちらに背を向けたから闇に潜む黒い影になってしまった。

その人の背中にはまるで畳んだ大きな翼のようなものが生えていて、彼はその翼をバサッと広げた。私はソレを見てどきりとした。まさか、大きなコウモリ男?うそ、翼?いや違う、それは私の目の錯覚だった。灯の下から移動してしまっていたからあまりよく見えなかったけれどよくよくみれば黒いコートを肩にかけていて、それを着ただけみたいだった。

本当にあの人、何者なんだろう。

時刻はもう10時を回っていた。

私はと言えば、さっき母親と大喧嘩してプチ家出をしたところで喧嘩のきっかけはとってもしょうもないことだった。私がスマホのゲームに課金していたのがばれてこっぴどく叱られたのだ。そりゃあ一万円も無駄にしてしまったのは悪いと思うけれど、だからと言ってあんなにがみがみ怒鳴り続けることはないのに。

しかもスマホを没収するなんてのはひどいと思う、私だってもう中学生なんだから友達とラインだってしたいし好きな男子から電話だってかかってくるのに没収は絶対許せない。

思い出しただけでむかむかしてきた。母親だって父に内緒でこっそり高いバックとか買ってるじゃん、私はダメで母はいいの、おかしくない?

そんなわけで怒りが収まらずむしゃくしゃして勢いのまま飛び出しこんな夜中に公園へ来ていたんだ。そしてそこで、あの人を見つけた。最初見つけた瞬間の雰囲気ではサラリーマンだと思っていたんだ。

だって何となく飄々としていて不審者っぽい気持ち悪さがなかったからだ。けれどそのシャツに大量の血がついているのに気付いてそれを見てやばいと思った。だけどそれでも怖いもの見たさで恐る恐る観察していた。

何だろう、あの人。血だらけってどういう状況?危ない人?こんな閑静な住宅街に?そんな雰囲気じゃないけれどなあ。ヤンキーっぽくないし浮浪者でもない。きちんとしたシャツとコート。だけどあんなに大量の血なんて今まで一度も見たことがないよ、これまさか、現実じゃないのかな。もしかして悪者と戦ってきたスーパーマンかな?いやどちらかっていうと悪者か、全身黒ずくめだし、ね。

公園の常夜灯の周りには3,4匹のコウモリが飛んでいて、それを見てふっと思った。

もしかしてあの人、吸血鬼かな?ドラキュラ伯爵みたいに人の血を吸うための牙が生えているんじゃないだろうか、それかやっぱりバットマンだ。黒いマントがよく似合うから。

ブランコの鉄枠に腰掛けてじっと動かないバットマンのぐるりをコウモリが一匹引き寄せられてきたように旋回しはじめた。コウモリの飛び方はまっすぐ一直線に飛ぶスマートな飛び方じゃなくてふらふらした感じだった。なのにやたらスピードがある。そっか、血の匂いに誘われてきたんだな。

私は急に昨日のニュースを思い出した。外国でコウモリにかまれた人が狂犬病に感染して死んでしまったというニュース。コウモリって小さいけれど結構アブナイ獣なんだっけ。かまれた経験がないからわからないけど。コウモリは昼間巣の中で眠っていて夕方になると出てきて空を飛び回る。目がほとんど見えていなくて嗅覚と特殊な電波でコンタクトをとっているのだ。

もしこの公園で私がコウモリにかまれてしまったら母は心配するだろうか。もしもバットマンの吸血鬼みたいなあの人に襲われて血を吸われたら心配するだろうか……。

そこまで考えて私は「帰ろうかな、」そうつぶやいた。

--名塚の場合--

「かかってこい。3秒で片付けてやる。」
名塚はそう言って平手を差し出した。
ミヨリは銃口を名塚にむけて、震える指をどうにかしようと思った。銃が、うてない。膝はガクガク震えまるで脳みそがトコロテンになった気がした。ミヨリがなんとか安全バーをガチャリと下ろしたその瞬間名塚は距離を詰め、ミヨリの喉元に一発拳をたたき込んだ。ミヨリは気を失って頽れた。同情はしない。名塚は、ナイフを懐からサッとだし、ミヨリの景動脈を切り裂いた。血が噴水のように吹き出た。ミヨリは死んだ。名塚は、
「戦利品だ。」と呟いて銃を取り去った。
「ミヨリのかたき!」凪沙が名塚の後ろから飛びかかり銃を一発ぶっ放した。狙いはそれ、名塚の肩ボネに当たった。そのまま銃弾は貫通し、名塚は左肩に負傷を負った。しかし次の瞬間、凪沙は自分がうつ伏せに組み伏せられているのに驚いた。なぜ?考えるまもなく能天をミヨリのものだった銃が撃ち抜く。即死だった。「弱い、弱すぎる。」はみ出した脳みその悪臭から逃れるように名塚は左肩を押さえて立ち上がった。「雑魚が。ボスの情報を聞きたかったのに、死んだな。仕方ない。」血の海の中にいるミヨリのズボンのポケットには一枚の紙が入っていて、そこには携帯番号があった。携帯は凪沙が持っていた。事務所を見渡すとパソコンもある。名塚はシステムを起動させ、パスワードと思しき数字とアルファベットの羅列のメモを探した。メモは壁の掛け軸の裏に書いてあった。わかりやすい、そう名塚は思った。馬鹿にもほどがある。凪沙の携帯でミヨリの持っていた番号にかけると、ワンコールで男がでた。
「もしもし、どちら様?」
「名塚と申します。拾った携帯にかけました。そちらは叡電様でしょうか?」
「いいえ、久保田の携帯です。わたしは一緒にいる友人ですが、久保田は今入浴中ですので用件お伝えしましょうか?」
「いいえ、結構。またかけます。」
ガチャリと切った。久保田といえば叡電がいたく気に入っているという凄腕の殺し屋だ。叡電にたどり着くには久保田をやる必要があるようだ。次の相手はなかなか評判が良い奴で、左肩の傷が治ってからの方が良さそうだ。

-叡電の場合-
右手を固めて叡電は握り拳を名塚の腹につき叩いた。瞬間、空になった叡電の左腹に名塚は銃口を向けるが叡電はすぐに身を翻し左腹を守りつつ左腰に刺していた日本刀をぬく。名塚が虚しく空に向かって銃をぶっ放したコンマ1秒後叡電の刀の裏が名塚の首筋を襲った。くず折れる名塚、首の骨の一本か二本は折れただろう。再起不能だ。叡電は、15分間このまま名塚の首を落とすかどうか熟考したが、日本刀のそれも名のある主に叩いてもらった刀が血のりで汚れる事を気にした。そして、殺すのを辞めた。刃こぼれさせたくなかったのだ。叡電からすれば名塚はまだまだ腕が未熟だ。今日のこともある。暫くはコマとして働かせよう。そうして生かして置いた人間は星の数ほどいる。久保田も、そのうちの一人だった。久保田がまだ中学生の頃、叡電にはむかってきたことがあった。久保田の姉をクスリづけにしてとある暴力団員に売り渡した黒幕が叡電だと嗅ぎつけてきたのだ。叡電は片手で勝負した。久保田はメリケンサックで叡電の顔面を狙ってきたが、外れ、叡電の右頬に傷をつけただけで終わりだった。叡電は拳を久保田のみぞおちに叩きこんだ。勝負はついた。久保田はそれから叡電の元で働くようになった。飼い犬だ。程よく扱い、指示し手に入った金のほんの一部を渡せば満足するのだ。今までみんなそうだった。



-守谷エマの場合

その時私の目にはスローモーションで景色が流れていた。電車のホームから突き飛ばされて線路に落ちていく途中の私には時速100キロで迫ってくる電車が限りなく遅く見えた。こういうのを瞬間記憶というのだろうか私は今でもその電車の前面を細部に至るまではっきり思い出せる。私の世界からは音が消えて映画のカット割りのようにすべてが静止画にみえていた。

ああ、私これで死ぬんだなと妙に冷静な思考をする自分がいた、短い人生だったな、まだやりたいこといっぱいあったのに。

美味しいものも食べたかったし恋だってもっとしたかった。その時目の隅っこに黒いコートの人がちらりと映ったけれどそれが何なのかはわからなかった。そしてあり得ないほど遅くだけど確実に電車が迫ってきていた。ここでいったん記憶が途切れる。

次に覚えているのはなぜか隣に男の人がいたことだった。私は彼に抱きすくめられていて黒くて太い眉毛と細い目の横顔、形のいい鼻筋とその下の薄い唇をまじかで見ていた。この人はだれ?死神かな?とちょっと思った。あれ、死神って結構カッコいいじゃん。それに……。薄れゆく意識の中不思議と脳裏に焼き付いたその顔を見ながら私は次のことを考える間もなくすうっと意識を失った。

私が線路に落ちて10秒たつか経たないかのうちに轟音を響かせて電車が通り過ぎたらしい。それは駅には止まらない貨物列車だった、らしい。「人が落ちたぞー!!」という声と金切り声の悲鳴が起きてプラットホームは騒然となった、らしい。すべては後から教えてもらったことだ。

だけど私はちゃんと生きていた。プラットホームから落ちた私を守ってくれたのは久保田さんという人だった。不思議なことにしっかり覚えているのは迫ってきていた電車の様子と久保田さんの顔。だけどその代わりにすっぽりと頭から抜け落ちるように忘れてしまったのは自分がどうしてそんな状況に陥ったのかの直前の記憶。

真っ黒なコートの裾をなびかせて飛び込んでくれた久保田さんはまるで映画に出てくるダークヒーローバットマンみたいだったと後から一部始終の目撃者が教えてくれた。ちょっと痩せていて飄々としたコウモリだったと。

「まるでアクション映画でも見ているようやったで。」

目撃者のおじさんはそう言っていた。おじさんに聞いた話によると私は混雑したプラットホームを歩いていてすれ違った女に突き飛ばされたそうだ。プラットホームはありえないほど人でいっぱいだったので私はホームの外側ぎりぎりを仕方なく通っていた。そういえば、と私はなくした記憶をたどってみた。前から来た名前も知らない女性が、なんだかぎらついた眼をしていたのまでは覚えていたけれど、突き落とされたときの記憶は完全になくなっていた。多分落ちたショックで記憶が飛んでしまったんだろう。

人が落ちたと、大騒ぎになるよりも一瞬前に久保田さんが飛び込んで、倒れた私を引っ張り抱きすくめてせまりくる電車から逃げてくれた。そのままプラットホームの下のわずかな隙間に連れ込んでくれたおかげで、私はかすり傷で済んだのだ。

「あの兄ちゃんはホンマに素早かったで。なんちゅう勇気のある人やと思たわ。ねーちゃん感謝しなあかんで。」

感謝してもし切れないほどだ。あの時見た男の人は、死に神なんかではなく、私の命を守ってくれた人だったのだ。

私を突き落とした女の人は逮捕され、その後警察で取り調べを受けた。警察の報告によると彼女は少し精神的に問題のある人だったそうだ、でもその時彼女がなにを思っていたかは私にとってどうでもよかった。あのまま死んでいたかと思うとぞっとする。顔も知らない相手なので彼女を恨む気持ちさえ起きなかった。それよりもあの時の命の恩人の顔をしっかり覚えられてよかったと思ったし、彼にお礼を言いたいという気持ちの方が大きかった。

「ホンマに運がよかったなあ。あのままやったら当然ねーちゃんは死んでたで。」

目撃者の人のよさそうなおじさんは何度もそういった。その人も私と同じくらい久保田さんの勇敢な行動に感心しているように見えた「だけど、警察に電話したりねーちゃんを開放したりするのに忙しくて、兄ちゃんの方をあまり気にしてへんかったらいつの間にか消えてしまって。クールな人やってんなあ。」

おじさんは残念そうに話してくれた。駅の救護室に寝かされていた私が目を覚ました時には久保田さんはすでにどこにもいなかった。助けてくれた久保田さんは駅員に気を失った私を受け渡すとそのまますっとかえってしまった。駅員は何とか引き留めてなまえと電話番号をきいてくれていたらしくそのメモを渡してくれた。

「だけどここだけの話、彼ちょっと迫力があったんだ。雰囲気がね。」

駅員がこっそりそう言って私に渡してくれたメモには久保田誠という名前と電話番号だけが書かれていたのだ。いたく感動した私は久保田さんにお礼を言いたいという一心だったのだけど、彼の方はややこしいことには巻き込まれたくないらしかった。というのも電話番号が嘘だったからだ。

私はもちろんその電話番号にかけてみたけれど現在使われておりませんというアナウンスが流れ、つながらなかった。番号が嘘なら名前も本名かどうか怪しい。多分だけど、偽名だろう。なんで?それにちょっとだけ気になることがあった。駅員の言った迫力とはどういう意味だろう。。偽の番号を書くなんて助けてくれた割には冷たいような。名前も嘘だったら寂しい気がする。だけどそれ以外呼びようがないから私は久保田誠という名前をしっかり覚えた。そして何が何でも探し出そうと決心をした。

私の久保田さんへの思いは、映画の俳優を見て憧れを抱く感じに似ている。好きなアイドルに熱狂してぼーっとなる感覚だ。どこかでその人を理想化していて恋に恋をしている楽しさがあった。

ベットには寝る前に読んでうとうとするための何冊かの恋愛小説が置いてあり、おとぎ話とか、報われない恋とかが好きだった。今読んでいる本は吸血鬼と人間の報われない悲恋のおとぎ話だ。

大学時代にはもちろん彼氏もいて、現実の恋愛はそんなに夢みたいなもんじゃないとわかってはいた。友達はもう結婚して子供ができていて、この前ランチしたらちょっと太っていた。そうやって地に足の着いた生活をして普通の平凡な旦那さんと恋愛感情なんて忘れて家族になってのんびりやっていくのが幸せなんだろうなとわかってはいたけれどそれでもやっぱり心が躍るようなときめきを感じたくて、王子様にさらわれるお姫様になってみたくて、そんな恋がしたいと思っていた。

命の恩人なんていうシチュエーションはそんな私にまさにうってつけで。だからどうしてもまた彼に会いたかった。瞳を閉じて妄想する。あの人はどんな人なんだろう、どんな声で話すんだろう、私の脳内では今読んでいる小説の吸血鬼と重なってあの人が優しく微笑んでくれた。そうやって夢見心地でうとうとして眠る。絶え間なくいきかう人、雑踏。混雑時には5分おきにひっきりなしにくる電車。みんなの話し声や靴音やアナウンスの声や電車の立てる警笛音が全部混ざり合って反響している。都会の電車のホームってのはそんな場所。運命の人は意外とすぐに見つかった。私はなんと事故にあったのと同じ電車のホームで久保田さんを見つけたのだ。会社からの帰りだった。夕方の駅は会社帰りの人々であふれかえっている。もしも私がこんなにはっきりと顔を覚えていなかったら何万といる乗客の中に紛れてきっとずっと気づかずにいただろう。だけど命の恩人の顔は私の脳裏に焼き付いていた。それにもともとに多様な時間帯に同じ電車の駅を使うもの同士、再開するのは当たり前と言えば当たり前だった。

「久保田さん」

私は黒いコートを着た彼の背中に向かって声をかけた。久保田さんは全く反応しない、やっぱり久保田という名前は偽名なんだろうな、そう思ったけれどあきらめずに人ごみの中彼へ追いすがった。私の気配に気づき久保田さんはこちらを振り向き「あ」という顔をした。覚えていてくれたのだろうか、私はもう一度「久保田さん」と声をかけた。

「あれ、君あの時の。」

「そうです覚えていてくれたんですね。」

久保田さんは照れくさそうにははは十笑った。

「先日は命を助けていただいて本当に本当にありがとうございました。」

「いやあなんか、おれ、ついね。」

久保田さんは悪いことのいいわけでもするみたいに恥ずかしげに言った。私は尊敬の気持ちを込めて久保田さんを見つめた。

本物は、私の記憶の中にあった人よりもちょっとだけかっこよかった。そして迫力という言葉の意味が分かった。なんだか周りの人と雰囲気が違ったのだ。それでついときめいてしまった。さっきまでは純水に感謝だけだったのが今はちょっとだけ下心を感じている。ところが久保田さんの左手を見てぎょっとした。

パックリまいちもんに割れていてひどいけがだ。鋭利なナイフをぎゅっと力いっぱい握りしめ引き抜いたような傷だった。ほったらかして治ったらしく皮膚が引き連れていてなまなましく見ていてぞっとしない。

「久保田さんこれ」

「あ、あらほんと」

「どうやったらこんなけがするんですか」

「いや、まあね。」

「えげつなくて見れませんよ。」

なぜこの人はこんなけがをほっといてのほほんとしていられるのかちょっと神経を疑った。

「もう治っているんだよ、いたくもないし。」

「それでも」

久保田さんは歩くスピードを緩めない。

「よかったら家がすぐ近くにあるんです。寄っていってください。こないだのお礼にお茶でも出しますから。」

私は半ば強引に久保田さんをマンションへ連れて行った。



「なんでこんなけがしたんですか?」

「うーんと」
「ふつうしませんよ、こんな。どうやったらこんなけがするんですか」
「そうねえちょっと、」
「久保田さんはこの近くに住んでるんですか?」
「うん」
「ひとり?」
「うんにゃ、ふたり」
「そっか、結婚してるんですか、」
「してないよ、家賃折版のためにやろうとシェアして住んでる」
「そっか。じゃあほかに彼女いるんですか」
「いないよ」
「そうなんですね、」
私はそのことを聞いてちょっとうれしかった。
「またきてくださいね、」
「うん」

私たちは奇妙な友達になった。命を救ったもの、救われた者。人には説明できない不思議な関係だけど会える理由があることで私は満足だったし久保田さんもまんざらでもないみたいだった。

久保田さんが危ないこととかかわっているようだということはあっているうちに何となくわかってきた。頻繁に軽い傷、時々は大きい傷を作ってやってくるから私は手当の腕がプロのナース並みに手早くなった。傷の治療についても勉強したし効き目のある薬も買い込んでいた。久保田さんはソレを頼ってきてくれていてうれしかったし彼の役に立ちたいという一心だった。

だけど私たちの関係に進展はなかった。久保田さんはたいていどこを見つめているのかわからない瞳でタバコをずっと吸っていて政治のニュースなんかを聞きながらぼんやりしている、そしてコーヒーを飲んでから帰って行く。帰り際に見送る背中さえが飄々としていて掴めない人だった。だけどそんな彼の筋肉質な腕がいざというときに何の面識もない私のために力を発揮してくれたことを私は知っている。自分の命も顧みないで線路に飛び込んでくれたことを知っている。私はそんな久保田さんのことを自分ではどうしようもないほどに好きになっていた。

奇妙な関係が始まって一月したころ私は思い切って話してみた。

「もしよかったら。」

「ん?」

「私を彼女にしてくれませんか、あの、私久保田さんのことすきみたいで。」

見たいって何だろう、それにこんな告白の仕方があるだろうかムードも何もあったもんじゃない、自分で突っ込みを入れて悲しくなった。久保田さんも予想外だったみたいでしばらくぽかんと口を開けていた。そしてだいぶん時間がたってから言った。「彼女、ねえ、どうしようか。」

「やっぱだめですか。」

「おれさ、嫌なんだよね、カノジョとかを作るのが。」

「え」

「足手まといに感じてしまうから」

グサッと刺さる言葉だった。

「そうか、そういう考え方もありますよね。」

優しい態度に舞い上がっていたかな、そりゃそうだよね、だってはっきり言って久保田さんと私じゃ釣り合わないもの。

でも、もうひと押しだけだ消してみたいと思った。それは久保田さんが氷のように冷たい言葉を発しているけれど口調はとてつもなく優しかったから。

照れ隠しに笑って私はこの瞬間を無かったことにしようとおもった。久保田さんの返事に困った長い間が拒絶を物語っていると感じられて球に恥ずかしくなった。そりゃそうだよね。

私たちはまだたった二回しかあったことのない赤の他人なんだ。優しくされたことでちょっと天狗になっていたかな。私は反省して恋心を吹き飛ばし久保田さんを玄関までお見送りした。彼も普通っぽくじゃあね、と言った。ドアをバタンと占めて変ええってしまった。部屋に一人残された私は猛烈な寂しさに襲われた。誰もいない部屋にこぼした言葉は部屋にとどまることなくスッと消えた。自分は世界からはじき出されてしまったように感じる。果てしない寂しさが押し寄せてきてたまらなくなった。夏に見る氷菓子のようになにもかもの輪郭が溶けてしまう。自分が自分だという感覚が薄まり氷が解けたドリンクが薄まるように。

-久保田の場合-

空っぽの空き部屋で一つだけぽつんと置かれた電話が鳴っている。固定電話にかかってくる電話は取らないように気を付けている。電話は自動で留守電に切り替わり録音されてそのまま切れた。チカチカと目障りに点滅する留守録ボタンを押して俺はその内容を確かめた。

ピー

本日の案件だ。依頼人は伏せる。六番は社員の山里昭雄43歳、彼は極秘顧客データを横流ししようとしているしかし巧妙なルートを通じているので会社としては気づいていても彼を止められない。なので君に阻止してほしい。方法は問わないが、山里昭雄に妻子はいない、やりやすいだろう。六番のくわしいデータはいつもの方法で送る。よろしく頼む。

その時に事故を装ってくれ。

ピー

例のフライパンと鍋を宅配で送る。13日の午後7時に届くはずだ、活用してくれ。

ピー

依頼人押尾雄二から感謝の伝言が届いている、評判通りだったと満足しているようだ、よくやったこれからもよろしく頼むよ。報酬は後日振り込む、以上だ。




留守電を聞き終わり、内容を頭に叩き込んでからデータを削除する。コートの内ポケットにある小さい鍋を見て、グザイの調子を確かめる。問題なかった。平和ボケした日本で鍋を使うことはほとんどないが、護身と脅しのためにいつも持ち歩くのだ。もしかしたらこれが最後になるかもしれない。13日の午後7字か。あまり時間がないな。電話を一つだけしか置いていない殺風景な部屋を出て鍵を閉める。606号室。それからマンションの階下に降りてポストを開けてみる。606号室と607号室の両方の分だ。606号室のポストは空。607号室には親父さんからの手紙が一通。去年までは607号室に住んでいたから。名前は久保田誠。606号室の名義は……。それから。

財布を取り出して免許証を見た。久保田誠、か。この名前あの子に呼ばれ続けていると妙にしっくり来てしまってまずいな。居心地がよすぎるのも考え物だ。少し自粛しよう。あの子を巻き込まないためにも、いや、あるいはもう巻き込んでしまったか。妙な事態になったもんだ。

あの子は何でここまで俺のために尽くしてくれるのか。まったくもって理解できない。そりゃあ嬉しいのだがしかしちょっと驚きだった。

それにしても器用なもんだね。きっちりと左手に巻かれた包帯を眺めてひとりごちる。それを見ていると何となく罪悪感にも似た気持ちの悪さが沸き上がってきてちょっと不愉快な感覚を持て余した。せっかく几帳面にまかれた白い包帯を、俺の手からにじむ血が汚すんだ。それがなぜかあの子に申し訳ないようなその穢れを見て気分が悪いような、どうしたものかと思い悩んだ。タバコの火をつける。タバコを吸うとたいていのことは忘れるのだが、久しぶりの子の気持ちの悪さはなぜかぬぐえない。日常に潜む非日常。
毎日の繰り返しが続く中繰り返しじゃない事は確かに起こっていて、それが小さな転機になったりする。音が波のように押し寄せてきては盛り上がり、少し去ってはまた膨らんでを繰り返す。人混みで聞こえる靴音は、ザクザクと不揃いでまるで地響きの様で。せわしなく職場へ向かう人たちに紛れ込んでコーヒーを片手に俺は優雅に休日を謳歌する。綺麗な目をしている。電車で隣り合わせた女の子だ。まっすぐで、大きな瞳孔、少し潤んでいて茶色がかった瞳、くっきりとした二重。まるで生まれたての赤ちゃんの様に曇りのないその目に惹かれた。しかしあの日俺が興味を持ったのは落ちた子ではなく突き落とした女の方だった。ホームを歩いていた女を一目見て、ちょっとピンとくるものがあったのだ。「あ、こいつなにかやらかすな。」と。

案の定そいつは女の子を突き落とした。「やっぱりな」俺は瞬間、あの女が俺と同じタイプの人間だと悟ったわけで無差別に、何の関係もない人間を平気で奈落の底に突き落とせるタイプのいかれた人間、だから興味をひかれた。何をしでかすか見てやろうと思っていた。

そうやって突き落とす前からマークしていたから女の子が落ちるのとほぼ同時に飛び込むこともできたのだ。運がよかったからいいけれど別にあのまま死んでしまってもいいかなと思っていた。このまま死ねたら気分がいいだろう。女の子を助けようとした運の悪いヒーローだと思われてそのまま。。。

俺はどうも悪運が強いようだ。妙な悪魔に気に入られているのかもしれないな。だけどもうそろそろ潮時だ。包帯を眺めて気持ち悪さを味わってみる。どうする?あのオヤジに頼んで新しい名義を作ってもらうか。しばらく免許証を見つめて今後のことを思案した。

-守谷エマ

次の週も彼はちゃんと来た。いつものように私はたわいのない話をした。彼も変わらない様子で答えてくれていた。一通りのが終わって彼は「じゃあね」と言って帰りかけた。が、久保田さんは「あっ」といって引き返してきた。忘れ物をしているみたいだった。私は横に立てかけてあった傘を見つけて急いで取ってあげようと思って久保田さんに背を向けた。

私が後ろを振り返った瞬間、久保田さんに後ろから抱きすくめられた。背の高い久保田さんは顎を私の頭の上に乗せるようにしてじっとしていた。ふんわりと煙草の香りがする。ゆっくりとした心臓の鼓動がつたわってきてそれを聞いていると安堵に包まれた。

彼女にしてくれるとは言っていない、決して言ってくれない。だいたい、本当の名前を知らない。それでもこうして抱きしめてもらえるということはそれなりの関係をOKしてくれるということなのだろう。私にとってはそれだけで十分だ。私の心の中はもうぐちゃぐちゃで訳が分からなくてでも今感じている体温と彼の鼓動と、彼の笑顔が嘘じゃない事だけは理解した。彼もちゃんと生きているんだな。

私たちはただの顔見知り、からもう一歩進んだってことかな。

私の部屋のベッドの上で男と女になる。

上と下で重なる体のその生身で触れあっている広い面積全てから私が今感じている愛おしさをすべて久保田さんに伝えられたらいいのにと願う。

体は簡単に触れ合えても心は触れ合えない。こんなにも私の心は波打っているというのに。

久保田さんの心が今どこにあるのか、彼がいつも何を見ているのかを私は想像することしかできないのだ。しかも多分彼は私の想像がはるかに及ばないところにいる。

たとえ四六時中久保田さんにぴったりとついて回ったとしても多分彼が本当にいる場所に私は入っていくことができない。だけどわたしはどうしても久保田さんが見ているものを一緒に見たいと思い焦がれてしまう。私は久保田さんの心がほしかった。例えば神話の悪魔は人間と契約を交わしてその願いをかなえる代わりに人間の魂と心を奪っていくという。悪魔はもしかすると今の私のような気持だったのかもしれない。人間の魂に恋い焦がれてそれがほしくてたまらない。だとすれば私はこの久保田さんという男に恋した悪魔か。それとも久保田さんの方こそが、知らぬ間に私の魂を盗んだ悪魔なのか、私は久保田さんのタダノ性欲解消の道具で構わないとさえ思った。二人の間に深い愛がなくても体のつながりだけでも欲しかった。

久保田さんの優しさが表面的なものでも十分うれしかった。わたしは久保田さんを本気で好きになっていたから。

彼の体にはいくつもあざや傷があって、普通にはあり得ない部分、つまりお腹とか太ももの裏とかに傷が治った跡があった。そしてそのあざを見るたび私はぎょっとする。単純に怖いからだ。

彼が目を閉じて私の舘恩を感じてくれているとき私は深い満足を覚えた。

その瞬間だけは、私が彼を手に入れた時間だと思えた。

深くつながりあっている喜びと受け入れる幸せ。

だけどそうするたび久保田さんへの思慕が膨らんでしまってどうしようもなくなある。私はまるで中毒になったみたいだった。

彼は時々連絡をよこすことなく気まぐれにうちに来た。私はいまだに彼の本名を知らなかったし、電話番号もメールアドレスも何一つ知らなかった。私を見て、煙草を吸って、セックスしてタバコを吸って私と一緒にコーヒーを飲んでのんびりテレビを見てやっぱりまたタバコを吸って彼は帰って行く。

「久保田さん、私の事好きですか?」

「そうだねえ」

にこっと優しげに笑ってでも何も言ってくれなかった。

私の心の中はもうぐちゃぐちゃで訳が分からなくてでもこの笑顔が嘘じゃない事だけは理解した。そっと触れるか触れないかのキス。唇が離れるときに煙草の香りだけを残していく。

私の手頸の一番細いところを優しくつかんでいる久保田さん。二度目のキスは力強くて圧迫感があってそのまま舌が入って私は久保田さんに食べられてしまっているような気分になる。有無を言わさないくらいの強い力で体を押さえつけられてちょっと痛いけどそうされるのがちっとも嫌じゃないのね。心が潤うってこういうことね、多分。

-久保田誠

俺と同居人の暮らす家にあのオヤジが新しい名義の免許証と銀行口座、それにパスポートを送ってきた。同居人はテレビゲームが好きな男で仕事がない時は四六時中リビングのソファーでごろごろしている。気楽なもんだ。俺は彼を景色の一部みたいに思っていた。

親父がケータイに電話をかけてきた。留守電にしかならない固定電話ではなくケータイにかけてくるということは俺と直接話したい、という意思の表れだった。

「もしもし」

「おう、久しぶりだな」

「どうしたんですか」

「いやなに、元気かと思ってな、」

「ちゃんと生きてましたよ、」

「なあ80番よ、お前もしかして女ができたのか。」

いきなりの親父の言葉とないように、親父の勘の良さにぎょっとする。エマのことがもう感づかれたのか。もしや俺の行動は組織のやつらにつけられていたのか?しかしこの住所は同居人の名義だ。親父とその下のやつらには知られていないはず。いろいろな手続きを経由して別の場所を本拠地だと指定しているはずなのだ。

しかしこういう自分より知能の高い人に対しては下手なうそをつくよりは真実とうそを降り舞えた情報で信用させておき、のちのちけむに巻く方がよいと経験上心得ていた。

「そうですよ、さすがに鋭いですね。」

俺は素直にそう認める。

「なんでわかるんですか。」

怪訝そうに聞く俺に、親父さんは図星だったかと得意になっているようだった。

「声のトーンが今までと違うんだよ、電話越しでもわかるくらいにな。」

「やっぱりばれますか」

「当たり前だ、俺を誰だと思っている」

監視されているわけではなさそうでよかったが、声のトーンだけでばれるはずもない。そろそろ潮時かもしれないと思っていた。

「オヤジ、ちょうどよかった、実はちょっと話があるんです」

おれは同居人に聞こえないように声を下げずっとまえから計画していたことをゆっくりと切り出した。

-守谷エマ


ある日夜遅くに彼が来た、もう10時を回っていて寝ようかなと思い始めた時刻。

彼からは血の匂いがした。気持ちが悪くなるえぐい匂いだ。生理で出血したナプキンをしばらく放置したときのような不快極まりない匂いとそれに混じる強烈な鉄さびの匂い。野生の野獣みたいだった。汚くて疲れ切っていて、でも飄々とした態度。何かと戦ってきた後みたいだ、

「しばらく公園で休んでいたんだけどね。」

彼は言った。それはつまるところ、力尽きて自分の素まで帰れなかったということだろうか、久保田さんの目はいつもよりずっと暗く、怖く、無表情で血の通わない人造人間のようだ。

普段は裏に隠されている彼の闇が前面に現れていて闇にするまがまがしい者たちでも召喚してしまいかねない雰囲気を立ち昇らせている。

「エマ、悪いけどちょっと休ませて。」

怪しくて獣のようで重低音で聞くものに不安を起こさせる昏い声。しかし同時に不思議な色気があってつかまってしまえば逃げられない。

彼が無言で私の方を抱き寄せた時、私はそのまま殺される、というような気が明日。首筋に触れた久保田さんの葉にいろんな意味でぞくっとした。そうか吸血鬼はこうやって生き血を吸うんだ。彼は何も語らなかったけれどいつもより荒々しく私を抱いた。タバコの匂いもいつもよりきつい。人間の男は死を目前にしたときに最後に自分の遺伝子を残したがるのだ、と何かの本で読んだ気がした。

あっという間に事があ住んでなんだか物足りないくらいだった。でも久保田さんはさっきよりも若干人間味を取り戻して穏やかな表情になっていた。

その時私は彼の足にけががあることにやっと気づいた。さっきまではこの人の迫力で頭の芯がしびれてしまっていたから見えなかったんだ。

「これ、どうしたんですか。」

「ああちょっところんだ」

嘘だ、転んでできる傷じゃないことくらい私はすぐわかった、ふくらはぎの横側がえぐられるようになっていて筋肉が見えている。ごっそりと肉を削られていて痛々しい。乾いた血が茶色くなってこびりついている。「だいじょうぶきにしないで。」

久保田さんは大したことないような口調で言ったけれど手当もせずにほったらかされたその傷は生んでいて生々しい。私は急いで救急箱を持ってきた。ぬるま湯で濡らしたタオルで汚れをふき取り消毒液をかける。消毒液が掛かったとたん久保田さんはいたっと顔をしかめたけれどそれはさっきまでの人造人間じゃなく人間らしい間抜けな表情でホッとした私を笑わせた。

「もうこんなにひどいのに、なんですぐに手当てしないんですか。」

私はちょっと怒ったように言う、久保田さんにはもっと自分を大切人してほしいものだ。

「だって怪我してすぐ君の顔が浮かんだから。」

「え?」

久保田さんのその返事がどういう意味だろうとちょっと考えあぐねたけれど私の頭ではよくわからなかった。


-叡電の手下の場合-
エライコトガオキタ。

組織を抜けたいって?下っ端にそんな権利があるわけがない。

無理っしょ。みんながそう思った。

それになんで?誰もがそう思った。

女ができたようだ、と親父さんは言った。

ああなるほどね、ありがちな理由だ。

だが奴にいま抜けられると困る。あいつは意外といいコマだからな。

親父さんはそう言っていた。

だから当然引き留めたわけで。

俺らは親父さんの指示で動いた。

奴のアパートはもぬけの殻だった。

女ができたのは最近のはずじゃなかったか。

用意周到に契約は一年前に解除されていて

はなから行方をくらますつもりだったのだ。

俺たちに教えていた住所は全てうそで銀行口座ももちろん引き払われていた。

本当はきっと県外のどこか遠いところに住んでいやがる。

アイツは俺たちを最初からだましていやがった。

真実とうそを上手に混ぜ合わせて。信用させて。

抜け目ない奴だ。

アイツの得体のしれなさに、俺たちは今更気づいた。

それでも親父さんはやつを港に呼び出した。

理由はなんだってかまわない。

親父さんが本気を出すと恐ろしいからな。

裏切者には何が待ち受けているのか、

この世界で知らないバカはいないのだ。

俺たちは親父さんの指示通り動いた。

それでもうちの腕利きが奴に三人、、やられた。

俺の実の兄貴もやられた。

殴りかかったのを見透かしていたかのようにやつはひらりとよけて

腹に一発、もちろんコブシじゃない、、銃だ。

もちろんひるんださ

本物の銃声なんて初めて聞いたのだから

しばらく鼓膜がおかしくなってしまって耳鳴りが止まらなかった。

それでもやれるだけのことはやった。俺は初めて銃をぶっぱななしたよ。

じーんと右手の骨に響いた。狙いもそれてしまって奴の足をかすっただけだ。

奴を倉庫の屋根へ追い詰めた時にはこれで終わりだろ、と思ったのだ。

しかしやつは

とんだ。

飛んだ。……。?

この高さだろ、あり得ねえ。まじで恐怖を感じたのはその時だ。

俺も、きっと殺される。

俺は兄貴の血の海の中で親父さんへと電話するしかなかった。

「逃げられました。」

耳鳴りがひどくて吐き気もやばくて親父さんが電話越しに何を怒鳴っているのか聞こえなくて逆に良かった。あいつはこれで勝ったつもりだろうかぶ。

俺たちから逃げたつもりだろうか。だがこのまま逃げ切れると思うな。

アイツは親父さんの怖さをなめているんだ。

なあに、俺がたとえ殺されたってきっと誰かが地獄の果てまで追いかけてやるさ。

-守谷エマ


「ね、いい加減電話番号教えてもらえませんか?私久保田さんが好きなんです。このままずっと本名も教えてもらえないんですか」

久保田さんの目をまっすぐに見ていってみた。

「それは……。ごめんね」

久保田さんの返事はあっけないものだった。

「なんせ僕はちょっと普通じゃないから。」

「そんなこと、知ってますよ。」

理由はそれだけだった。普通じゃないなんてもう十分わかっていたしそれでもそばにいたいと思ったのに特別な関係になりたかったのに。

「でも、じゃあこういうことしてもいいんですか」

うん?と久保田さんは不思議そうな反応を返す。ちゃんとした恋人でも何でもないのにベッドの上でこういうことを平気でするのはやっぱり男の人だからなんだろうか。久保田さんはこういう時、私への愛は感じてくれていないんだろうか。

でも今日は初めて彼が泊まっていく。

寝顔は無防備で可愛かった。

やるせない思いがごちゃ混ぜになって柔らかくてふかふかなクッションへと私は身を投げ出した。

クッションはぴったりと私の体の形に迎合してくれた。久保田さんと違って。

久保田さんが眠っているのはお気に入りのローベット、シモンズだった。これを買うとき、相手もいないのにやたら広いセミダブルを選んでしまったが今ではこうやって役に立っている。

私の体重でスプリングがきしむ音を立てる。先に眠ってしまった久保田さんを横目に見ながらサイドボードにある読みかけだった本を手に取ると本は形状記憶していて昨日呼んだページまでパラパラと自動的に開いた。

かぐや姫をモチーフにアレンジした恋愛小説だ。

内容にはあまり興味が持てない、寝る前に読む本はつまらないくらいがちょうどいい、読んでいるうちにうとうとして気持ちよく眠れるからね。

いつものよう日本の文字をぼんやりと眺めながらしかし心は久保田さんのことに思いをはせていた。




終章

ざあざあ雨に濡れたまま2人は港に立っていた。人の少ない田舎街。誰も知り合いがいないこの場所で2人は新しい生活を始めるつもりだった。お互い寄り添いながら2人きりで立っていた。未来は明るいのか。表情からは何も読み取れない。男の方は飄々としていて、女の方からは困惑がうかがわれる。金は充分あった。男には沢山の数えきれない傷跡。女の鞄は小さくまとまっていて、荷物が少ない。でも男を支えるような雰囲気があった。
雨がざあざあ降っていた。風が強く吹いている「嗅ぎつけられた。」
ある日久保田さんが青い顔をして言ってきた。なんのことか私にはわからなかった。何かまずい事なのは想像できたが、それが具体的に、なんなのかはわからない。久保田さんがタバコに火をつけた。向かいあって座り、「あのね。」と久保田さんがきりだした。
「エマ、最後になるかもしれないから、全てを話す。俺は殺しを受けおっていた。」
「知ってる。」
「やれやれ。女の子の勘は侮れないね。それでね、俺の命を狙っている奴がいる。名塚という殺し屋だ。彼とは、面識がない。噂の情報だ。」
「久保田さんは何人殺したの?」
「わからない。何人も殺して、報酬を得てきた。数は数えていない。」
私はゾッとした。小さく笑う久保田さんの中に確かに狂気が見えたからだ。
「名塚が、俺の居場所を突き止めたらしい情報が入った。名塚は暴力団と、ボスの叡電と繋がっている。俺はボスの叡電を裏切って逃げてきた。エマ、君と暮らすためだ。」
久保田さんが私を抱き寄せた。静かに、清らかに。
「エマ、お別れかもしれないよ。」
私は抱かれるまま、その暖かさを胸に刻んでわすれまいとした。これが最後だという予感がしていた。
「明日俺はボスに会いに行く。決着をつけてくる。ボスは俺の姉を廃人にしたやつなんだ。エマ、君は逃げてくれ。」
「久保田さん。私久保田さんの役に立ちたい。逃げないわ。足手まといにもならない。私には私に出来ることがある。明日証明してみせるね。」
「どういう意味かな?」
「明日になればわかるわ。」

叡電という人は、初老の、ジェントルマン風な男性だった。私は久保田さんが止めるのを聞かず彼と同じタクシーに乗った。行き場は波止場。殺し合いにふさわしい場だ。人数は大勢。叡電は沢山の手下を連れてきた。何十人もいる黒服の男たちがあっという間に私と久保田さんを取り囲んだ。始まりの銃声、矢継ぎ早に飛び散る血飛沫。私は久保田さんから離れずぴったり彼にくっついていた。久保田さんは私一人を守っているのに余裕で銃口から逃げられる。頭を抱えられて伏せた。ほんの一ミリ上を銃弾が飛び交う。意外と、当たらないもんだな、私は思った。敵が下手なのか、久保田さんが手練れなのか。叡電は、暫く上で見ていたが、久保田さんが自ら近づいていった。久保田さんの放った銃が叡電の胸を貫いた、と思った瞬間叡電はその場をひらりとかわし、久保田さんの目の前に降りたって久保田さんは叡電を殴った。いや、私の目から見ればわざと叡電は殴られたように見えた。
そのまま叡電は久保田さんの腕から私を引き剥がし自分の元へ引き寄せた。
久保田さんは躊躇しなかった。最初から、示し合せていたみたいに。私たちの最初で最後の以心伝心だった。叡電が、私を盾にして久保田さんに向き合いにやりと笑った。私の心臓に久保田さんの銃が突きつけられた。一発。大きな銃声がして、叡電が倒れた気配がした。私を通して久保田さんは撃ったのだ。弾丸が柔らかい私を貫き、そのまま叡電の心臓部へ届いた。抱き留められたのは私だけ。叡電は血を沢山流して即死した。私は、久保田さんの涙をみた。そして息を引き取った。

あの電車でまた会おう。

執筆の狙い

作者 may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

バトル、悲恋ものが描きたいと思いました。人称がかなり飛びますが理解してもらえたでしょうか?戦闘シーンはいかがですか?ご批判お待ちしております。長いですが是非お読みください。

コメント

群青ニブンノイチ
softbank126159210018.bbtec.net

批判すらされないなんて間違いなく才能ないです、っていうかこれからは批判されてこその時代でしょうそれを突っぱねてこその時代でしょうと個人的には言い切りたいタチなので、こういう鈍らな自己愛を衆目に恥ずかしげもなく晒してしまえるスレ主の相変わらずとしか言いようのない欲求の低さが個人的には致命傷の如く嫌いです。

まじで向いてないと思うし存在の仕方からとりあえずくそつまんないですよね、と脊髄反射程度の批判くれてやります。

may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

群青ニブンノイチ様


ご批判ありがとうございます。浮かれていた気分が吹っ飛びました。やはり、向いてないですかね。コメントいただけないから、あーあ、やっちまったなという感じです。自己愛強いですはい。こういうの、描きたかったんですが、好みに合わないですよね。すみません。と、とりあえずひたすら謝ったところで、掲載されてしまったものはしょうがないので、面汚しになりますが。ご批判ありがとうございました。

恵 幸人
115.198.214.202.rev.vmobile.jp

 mayさん、違いますよ。それは、創作意見室のスレッド掲示板に書き込まれた内容を誰かがコピーして貼り付けた物です。創作意見室のスレッド掲示板のURLはこれです。→https://sakka.org/opinion/thread/index.cgi?mode=view&no=1670
 だからその書き込みはmayさん宛の内容ではありません。落ち込む必要はないですよ。

跳ね馬
sp49-98-172-242.msd.spmode.ne.jp

コメントいただけないとそう思ってしまっても不思議じゃないですよね……痛いくらい分かります(自虐

なんか勝手に親近感が湧いたので(超失礼)、仕事から帰ったら拝読させていただきます。

may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

恵さま
そうでしたか。ありがとうございます。気付きませんでした。創作意見室も見るようにしますね!

may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

跳ね馬さま
ありがとうございます。親近感湧いていただけたなんてすごく嬉しいです。
お目汚しになりますが、しかも長ったらしいですが読んで頂けたら幸いです。

大丘 忍
ntoska042068.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

 きちんと読んでおりませんのでコメントするのをやめようと思ったのですが、ざっと見た感じで私の考えを申します。
 小説には、一応は「小説の書き方」というものがあります。絶対的基準ではありませんが、これから外れた新規の小説を書くとすれば、きわめて熟練した小説書きの手腕が必要だと思います。「小説の書き方」に関する書物を一読されたらお分かりかと思います。
 この小説で言えば、いわゆる「話者」がバラバラのように見えますね。話者が一人称(私とか僕というように自分を示す)場合と、三郎とか花子とか、第三者の人名を話者にする場合を三人称といいます。この話者は終始統一されていなければなりません。
 ここで小説の書き方を述べるつもりはありませんが、私は話者が混乱していると感じて読むのを中断しました。
 また、意味のない空行が多いですね。小説では規則として、改行後の段下がりあります。また空行にも意味があります。意味のない空行を入れてはいけません。
 きちんと小説になっているかどうかを知りたければ文学賞に応募してみることです。この小説では、一次審査で読まずに没になるでしょう。審査員は、最初の一目で小説ではないと判断して没にします。
 作者の創作意欲はよくわかりますし、発想がゆたかで面白い小説が書ける人だと思いましたので、一言おせっかいをやき、苦言を呈しました。

may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

大丘忍さま
手厳しいコメントありがとうございます。その通りですね、話者がポンポン飛びますので読者がついていけないはずでした。改めようと思います。
おせっかいではないですよ。為になりました。大変ありがとうございました。
文学賞に応募、は20年後くらいにしたいなあと狙っておりますが、今はまだ時期早でもっと鍛錬を積んでからと考えています。
まずは小説であると認めてもらえる形にして行こうと、スタート地点に立った気分です。

跳ね馬
sp49-98-172-242.msd.spmode.ne.jp

拝読しました。

なんと言うか……自分にはとても難解でした。色んな意味で。

率直な疑問なのですが、この作品は推敲しましたか?何度読み返しましたか?

もし推敲されていないのならば、今後はされる事をオススメします。書き終わった後に一度、翌日に一度、一週間後、隙間時間に何度も、そして一ヶ月後にもう一度見直してみてください。

自分は、小説はジグソーパズルのようなものだと思っています。完成図を知ってる作者なら、いくらピースを失くしたとしても全体図を見渡せますが、0からイメージを構築していく読者からすると、一つ足りなくなっただけで立ち止まらざるを得なくなります。ちなみにピースが多すぎても敬遠されます(自虐)。

ピースの繋ぎ目が曲がっていたら直さなければなりません。そんな作業をいちいち強制されてしまうと、せっかくのストーリーにのめり込めなくなります。ここでの繋ぎ目とは、他の方のご指摘にもあるように、文法や人称などですね。インデントを使ったり、空行にも意味を持たせる(使用する際のルールを一貫させる)と、文脈に味わいが出るかと思います。例えば、場面切り替え以外では使わないとか。

あとは句読点が少なくて読みづらかったです。そして誤字。一つ二つの誤字ならご愛嬌とは思いますが、たまらず「推敲したの?」と聞いてしまいたくなる程の量がありました。

今後も小説を書かれていくのならば、面白さは二の次にし、まずは作品の完成度を高める方向性を目指されてはいかがでしょうか。
文章はともかく、話の内容はそれほど悪くないなと思いました。

長文失礼しました。

may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

跳ね馬さま
すみません、推敲はしていませんでした。読みづらかったですよね。せっかく親近感湧いていただけたのに、残念です。ごめんなさい。
内容悪くないと言ってくださるのが救いです。そうですね。もっと完成度を高めてから出すべきでした。
人称が飛ぶ事といい、読みづらさといい。
まだまだ勉強がたりません。小説は読者に伝わってからがなんぼですよね。
すみませんでした。稚拙な作品を読んでいただきありがとうございました。すみませんでした。

大丘 忍
p1793091-ipngn200202osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

may様。
 再訪です。この作品をもう一度読み返してみました。このパソコンの画面からではありません。この文章をコピーし、無駄な、無意味な空行をなくし、改行後に段下がりをつけて体裁を整え、さらにプリントして読みました。このように体裁を整えるだけで随分と読むときの感じが違ってきます。
 やはり、話者の統一が一番問題ですね。……何々の場合……として数名の人前を挙げておりますが、これによって話の流れが混乱してしまっております。だから登場人物を絞って一つの話の流れに入れることですね。
 読んでみて、これは面白い話になると感じました。だからこそ、小説としての体裁を整えた書き方を練習して欲しいと思ったから再訪した次第です。
 mayさんはおそらくまだ若い女性の方ではないかと推察いたします。発想の内容は非常に面白く、私が述べたような小説の書き方の基本に従って書けばキット面白いエンタメが書ける人になると思ったからです。
 最後にもう一つ苦言を呈しておきます。書き終わった小説は、何度も推敲して下さい。発表するなら最低10回くらいは読み直してください。誤字、誤変換、文章の拙いところ、重複している表現、人称のブレ、ストーリー展開に無理はないか等々。
 これ等がマスターできれば面白い小説が書ける人だと期待しております。

may
pw126245175150.16.panda-world.ne.jp

大変温かい言葉をいただき感謝しています。わざわざプリントアウトしてもらったなんて恐縮です。小説の体裁の大切さをいたく思い知りました。読んでもらうためにはそれなりの文章を書かなくてはなりませんね。
内容まで見ていただきありがとうございます。そうです、まだ未熟者の女性です。
推敲の大切さもわかりました。作品を世に晒すなら、自分自身もっと深く切り詰めて行こうと思った次第でございます。

夜の雨
ai193170.d.west.v6connect.net

「あの電車でまた会おう。」読みました。

「誤字、誤変換、文章上の問題」がかなりありましたが、脳内補完して読みました。
「誤字、誤変換、文章上の問題」これらはとりあえず、内容とは関係ありませんが、書き終わった後、「作品を寝かしていない」、ということはよくわかります。
「作品を寝かしていない」ということは、構成その他、諸々問題があっても気が付かない可能性があるので、「書き終わった作品」は必ず一週間でもよいので、寝かしてから、読み直しましょう。
そうすると第三者の目で読めますので、自分で問題点に気が付きます。

――――――――――――――――――――――――――――

バトル、悲恋ものが描きたいと思いました。

バトルがいまいち、書けていないように思いましたが、これはバトルの文章テクニックだと思います。
意気込みはわかる(伝わってくる)ので、バトル関係がある小説を何冊か読むと良いのでは。
要するに、作者さんがバトルを書きたいというのは伝わりました。

人称がかなり飛びますが理解してもらえたでしょうか?

理解できました。(以下、各章の内容です)。

1● 山本花音(家出中)
夜の公園で怪我をしたコウモリ男を見る、家出中の少女。
怪我をしたコウモリ男が、ヒーローの「久保田」(主役)です。

2●--名塚の場合—
●最初にバトルの場所を書いておいた方がよい。どこで戦っているのかがわからない。
ミヨリ、凪沙、名塚の三名のバトルが描かれている。
場所は「事務所」(どこの事務所なのかがわからない)そこに「名塚」が侵入してミヨリ、凪沙とのバトル後、パソコンを起動後、パスワード等を探した。
ボス叡電の情報を手に入れるために。
名塚は凪沙の携帯でミヨリの持っていた番号にかけた。
「名塚と申します。拾った携帯にかけました。そちらは叡電様でしょうか?」
「いいえ、久保田の携帯です。わたしは一緒にいる友人ですが、久保田は今入浴中ですので用件お伝えしましょうか?」
というような流れ。
●ちなみに「久保田」がこの作品のヒーローで主役である。

3●-叡電の場合-

叡電は握り拳を名塚の腹につき叩いた。
くず折れる名塚、再起不能だ。
叡電からすれば名塚はまだまだ腕が未熟だ。
叡電は名塚をコマとして働かせるつもり。そうして生かして置いた人間は星の数ほどいる。
久保田も、そのうちの一人。
久保田がまだ中学生の頃、叡電にはむかってきた。久保田の姉をクスリづけにしてとある暴力団員に売り渡した黒幕が叡電だと嗅ぎつけてきたのだ。
叡電は拳で簡単に勝負をつけた。久保田はそれから叡電の元で働くようになった。
飼い犬だ。程よく扱い、指示し手に入った金のほんの一部を渡せば満足するのだ。今までみんなそうだった。

4●-守谷エマの場合(ヒロイン)

プラットホームから落ちたところを真っ黒なコートの裾をなびかせた久保田が助けた。
それで、守谷エマ(ヒロイン)の運命の人になった。
お礼も兼ねて、マンションに誘った。

5●-久保田の場合-(ヒーロー)
マンションの一室に電話がかかってくる。
叡電の手下になっていて、ヤバい裏家業を請け負っている。

6●-守谷エマ
久保田がたびたびやってくるようになった。
エマの部屋で男と女の関係になる。
エマは、愛おしさをすべて久保田に伝えられたらいいのにと願う。
体は簡単に触れ合えても心は触れ合えない。ある意味、エマつらい。

7●-久保田誠

「なあ80番よ、お前もしかして女ができたのか。」と久保田誠は番号で呼ばれている。
相手は「叡電」である。
親父の勘の良さにぎょっとする。エマのことがもう感づかれたのか。
叡電には知られていないマンションを借りていた。
いつまでも叡電の下で働く気がないから。
組織を抜けたいということになるが、もちろん、それは叡電にいわすと裏切りということになる。
「オヤジ、ちょうどよかった、実はちょっと話があるんです」


● 続く。

夜の雨
ai193170.d.west.v6connect.net

● 続き。

8●-守谷エマ

ある日夜遅くに彼が来た、もう10時を回っていて寝ようかなと思い始めた時刻。

彼からは血の匂いがした。気持ちが悪くなるえぐい匂いだ。
野生の野獣みたいだった。汚くて疲れ切っていて、でも飄々とした態度。何かと戦ってきた後みたいだ、

●「しばらく公園で休んでいたんだけどね。」 ←これが、導入部の「1 山本花音(家出中)」の場面になる。

彼は言った。それはつまるところ、力尽きて自分の素まで帰れなかったということだろうか、久保田さんの目は
人間の男は死を目前にしたときに最後に自分の遺伝子を残したがるのだ、と何かの本で読んだ気がした。

「ああちょっところんだ」
嘘だ、転んでできる傷じゃないことくらい私はすぐわかった、
「だって怪我してすぐ君の顔が浮かんだから。」
「え?」
久保田さんのその返事がどういう意味だろうとちょっと考えあぐねたけれど私の頭ではよくわからなかった。

9●-叡電の手下の場合-

久保田が組織を抜けたいと言ったので、処分ということになった。
しかし久保田は強くて、仲間がだいぶやられた。
俺たちから逃げたつもりだろうか。だがこのまま逃げ切れると思うな。
アイツは親父さんの怖さをなめているんだ。
なあに、俺がたとえ殺されたってきっと誰かが地獄の果てまで追いかけてやるさ。

10●-守谷エマ

「ね、いい加減電話番号教えてもらえませんか?私久保田さんが好きなんです。このままずっと本名も教えてもらえないんですか」
久保田さんの目をまっすぐに見ていってみた。
「それは……。ごめんね」
久保田さんの返事はあっけないものだった。

久保田はエマを巻き添えにしたくなかった。ということになるのだが。
愛する者たちのドラマが最終章で待っている。

11●終章

ざあざあ雨に濡れたまま2人は港に立っていた。
誰も知り合いがいないこの場所で2人は新しい生活を始めるつもりだった。

「名塚が、俺の居場所を突き止めたらしい情報が入った。名塚は暴力団と、ボスの叡電と繋がっている。俺はボスの叡電を裏切って逃げてきた。エマ、君と暮らすためだ。」
これが最後だという予感がしていた。
「明日俺はボスに会いに行く。決着をつけてくる。ボスは俺の姉を廃人にしたやつなんだ。エマ、君は逃げてくれ。」
「久保田さん。私久保田さんの役に立ちたい。逃げないわ。足手まといにもならない。私には私に出来ることがある。明日証明してみせるね。」

叡電という人は、初老の、ジェントルマン風な男性だった。
叡電は久保田さんの腕から私を引き剥がし自分の元へ引き寄せた。
久保田さんは躊躇しなかった。最初から、示し合せていたみたいに。私たちの最初で最後の以心伝心だった。叡電が、私を盾にして久保田さんに向き合いにやりと笑った。私の心臓に久保田さんの銃が突きつけられた。一発。大きな銃声がして、叡電が倒れた気配がした。私を通して久保田さんは撃ったのだ。弾丸が柔らかい私を貫き、そのまま叡電の心臓部へ届いた。抱き留められたのは私だけ。叡電は血を沢山流して即死した。私は、久保田さんの涙をみた。そして息を引き取った。


上のように各章ごとに内容をまとめれば、中身がわかりよい。
どこに問題があるのかがわかる。
御作では、本筋の「守谷エマ」と「久保田」のエピソードは違和感がなく描かれている。
もちろんもっと丁重に描いてもよいが。
●問題は「久保田」に関連した背景の「章」。
「名塚」と「ボスの叡電」の章に問題がある。
叡電の手下になるくだりの描き方(設定)が甘い。
「久保田」の場合は実の姉が殺されているのに、簡単に手下になっている。というか、そのあたりが描かれていない。
「名塚」にしても背景が描かれていないので、叡電を倒すために「2 --名塚の場合—」でミヨリ、凪沙の二人を殺しているのだが、「名塚」と「叡電」の関係性が描かれていないので、奥行きが伝わらない。

御作は「守谷エマ」が一般人で駅のホームから落ちたところを「久保田」という裏家業している男に助けられて、彼のことが忘れられなくなり、再会した後二人は男と女の関係になる。
久保田は守谷エマが好きになり、以前から組織を抜け出そうと段取りをしていたが、それが組織にばれて消されそうになる。というような話です。
ラストは守谷エマが盾になり久保田を助けて死ぬ。

●基本的な構成はよいと思う。
それは主役の二人のエピソードがうまく書かれているからだと思う。

戦闘シーンはいかがですか?

最初に書きましたが、バトル関係がある小説を何冊か読むと良いのでは。

ご批判お待ちしております。長いですが是非お読みください。

作品が書けたあと、しばらく寝かしてから読み直して、手直ししたほうがよいですね。
それに尽きると思います。
今回御作を読んでみて、大まかな流れとか、作者さんが書こうとした世界は悪くはないと思いました。
ただ、こういった裏組織を抜けたいヒーローと彼に恋愛感情を持ったヒロインの話はよくあると思います。

お疲れさまでした。

may
pw126193122197.28.panda-world.ne.jp

夜の雨さま
細かな分析ありがとうございました。分析の通りです。構成も、ああ、こんなふうに書けばわかりやすいと、納得しました。
寝かす、ですね。確かに。勢いばかりで先走りました。読解力がすごいと思いました。とくに、冒頭の、公園で休んでいた久保田に気付いてもらえたのが嬉しかったです。バトルを描きたいといいながら、バトルが出てくる小説をほとんど知りません。もっと勉強いたします。
ほんとに、分析の通りでした。ありがとうございました。

may
pw126193122197.28.panda-world.ne.jp

補足。
守谷エマは、盾になり、久保田を助けた、のでは少し語弊があります。本当をいうと、久保田の復讐のためにおとりをかってでたというか、自ら死ににいったというか、叡電を殺すための道具になった感じです。久保田は躊躇なくうちました。エマへの愛よりも自分の復讐を優先させました。元々エマを電車から助けたのも、エマのためではなかったのです。久保田はエマを、コマとして扱いました。その辺、久保田が狂っているところが伝わらなかったのは私の力量不足ですね。すみません。大変丁寧な分析ありがとうございました。

夜の雨
ai193170.d.west.v6connect.net

久保田の復讐のためにおとりをかってでたというか、自ら死ににいったというか、叡電を殺すための道具になった感じです。

上の通りに伝わっています。

「盾になる」と、書いたのは、盾になり、久保田に叡電を殺させるためです。

御作の世界観は、このラストの守谷エマと久保田の行動でよく伝わりました。

may
pw126193122197.28.panda-world.ne.jp

そうでしたか。ありがとうございました!!

夜の雨
ai196000.d.west.v6connect.net

>「久保田さん。私久保田さんの役に立ちたい。逃げないわ。足手まといにもならない。私には私に出来ることがある。明日証明してみせるね。」<

「私には私に出来ることがある。明日証明してみせるね。」これが、守谷エマが翌日とった行動になります。

●なので、エマを犠牲にしてまで叡電を殺す必要があるのかということになり、そのあたりが、●問題は「久保田」に関連した背景の「章」。
ということになります。

>「名塚」と「ボスの叡電」の章に問題がある。
叡電の手下になるくだりの描き方(設定)が甘い。
●「久保田」の場合は実の姉が殺されているのに、簡単に手下になっている。というか、そのあたりが描かれていない。

御作には「久保田」が恋人を犠牲にしてまで叡電を殺す必要があるのかというところが、書けていません。
このあたりを書く必要があると思います。

may
pw126193122197.28.panda-world.ne.jp

なるほど。甘かった部分もよくわかりました。理由もなく愛する人を犠牲にしませんよね。久保田の背景が未熟でした。
ご丁寧な解説のおかげで良く理解できました。
とにかく、読んでいただきたいと願う以上は、綺麗に体勢を整え、人称に注意し、構成を練り、何ヶ月も寝かして冷静に推敲すべきですね。名塚と叡電、適当すぎました。反省し、今後の執筆にいかします。重ね重ね感謝いたします。

p1052254-ipngn201007tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

その、それ、そして、それから、そうして等抜きで文章組めれば、もう少し描き分けできる様になります。今の文だとどれも同じ使い方で同じ量使っちゃってる。

may
pw126193079040.28.panda-world.ne.jp

熊さま

なるほど。そうですね。使い方が一通り、癖があると思いました。たしかに乱用していました。それ、とかが使いやすいからでした。
美文を書いてみたいと思いました。ありがとうございます。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

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