作家でごはん!鍛練場
跳ね馬

名前のない作者たち

 はじまりは、一冊の本だった。




 chapter Ⅰ 夢商人と古代図書館




 鮫が可愛らしく思えるほどの残虐的な口顎を大きく開けて、竜は火を噴いた。生き物のように蠢く火炎が、まばたきすら許さない速度でこちらに向かってくる。炎は私を呑み込む寸前、足元の魔法陣から浮かんだ淡い光に二極化され、背後に二列の火柱を走らせた。
 火炎放射が止まり、辺りに火煙が立ち込める。私はライトブルーの防御壁の中で目を凝らしたが、ウルの影は見つからない。火竜のブレスに灰も残らぬほど焼かれてしまったのだろうか。
 胸の奥がつねられたような感覚に襲われるも、煙が晴れ、岩肌のごとく硬い鱗にぶら下がっている彼を見つけたら、ホッと息が漏れた。
 ウルに気づいた火竜が、蝿を払うみたいに赤い腕を振り回す。だが彼の敏捷性の前では、蜂にからかわれる熊も同じだ。ひらりと掻い潜られた両腕を、階段のように扱われてしまう。
 ウルには、火竜の攻撃パターンが読めていた。" この世界の竜 " は一際巨体だが、小回りが利かず、次の火炎放射には一定時間の溜めを要する。そして眉間に致命的な弱点を持つ。
 ウルはそれを熟知している。なぜなら、私が教えたからだ。
 肩まで上ったウルは、長剣(ロングソード)を逆手に持ち代え、最後の攻撃を待った。お望み通りの噛みつきに襲われては、黒のトレンチコートを高々と宙に舞わせる。
 全身黒の出で立ちは、太陽に重なると余計に眩しく映ったのかもしれない。ウルは宙で回転を加えながら、目を眩ませた火竜の眉間へと長剣を突き刺した。
 決着という名の、空気の張り裂ける瞬間が、場を支配した。まもなく鼓膜がちぎれるほどの叫喚が辺りを駆け巡り、山のような巨漢が崩れ落ちると、大地が震えた。
 防御壁が役目を終えたかのように薄れていく。刺さった長剣も、砕けた砂のように煙にまみれどこかへと消えた。
 ウルのもとへ駆け寄ると、私と同じように傷の有無を確認してくれた。普段の例に漏れず淡々とした所作だが、彼の気遣いは窺(うかが)い知れる。
「『夢』はもうすぐそこだ。行くぞ」
 火竜を倒した感慨もなく、私たちは先を急いだ。
 草木の乏しい岩山を越えると、廃墟が見えてきた。そこは、岩山を竜たちが縄張りにするずっと前に滅んだ市街。
 ウルの目的地だ。実と名前を失った建物の数々が、夕陽に影を伸ばしていた。
「ここの情報は?」
 およそ百年前に滅んだ町、としか答えようがなかった。なぜなら、この場所はその一文しか " 描写 " されていなかったから。
「" ヨミ " がいるかもしれない。俺から離れるなよ」
 頷いて、忠犬のようにウルについていく。彼の目的のものは、市街に入って程なく見つかった。
「この家だな」
 家と呼ぶにはあまりにも朽ちた廃墟だった。ウルはすでに目星がついているといった手際で、崩れた壁の煉瓦(レンガ)をどかし、見つけた地下室への階段を降りていく。
 行き止まりの小部屋は、カビの生えた枯れ葉の臭いがした。くすんだ茶色の壁は薄暗さを助長し、家具は一組の机と椅子だけ。机上にはインクの薄れた文字に埋め尽くされた紙が散らばり、椅子にはいくつかが崩れ落ちた骸(むくろ)があった。
 ウルは骸を一瞥してから、散らばった紙を集め、右目を閉じてから、一枚一枚念入りにたしかめた。
 彼の黒い瞳の、その網膜に、いくつもの青白い文字や記号が浮かんでは流れていく。ページをめくるたびに、左目が青白い光に包まれていく。
 やがて骸もぼんやりと、同じ色を放ち始めた。それはウルの視読が進むにつれ輝きを増し、最後のページが読み終えられると共に、フッと消えた。
 対してウルの左目は紙を元通りにした後も、まるで吸いとったかのようにじっと青白い光を保っている。
 これが『夢』の " 採取 " だ。
「この世界の一般的な弔い方は?」
 埋葬。そう答えると、ウルは丁重に集めた骸骨を屋外に持ち出し、庭先に埋めた。私には見知らぬ骸骨でも、夢を採取したウルにとっては路傍の小石ではないのだろう。一連の彼の所作は普段の淡白なそれとは違い、とても人間味にあふれたものだった。
「さて、もう行くが、思い残すことはないか?」
 ウルは帰るとき、必ずそんなことを私に尋ねる。彼と組んでもう1年になるが、いまだにこの質問の意図は読み取れない。
 頷くと、ウルは義務的に私の手をとって、呪文を唱えた。たちまち私たちの足元に転移陣が描かれていく。その模様に沿ったライトグリーンの光に包まれながら、私たちは帰還の途につく。
 私たちの、世界に。
 帰還はまばたきと同じくらい一瞬だ。数週間ぶりに戻ってきた、古代図書館。見慣れた館内の風景が、おかえりと告げているように見えた。




 見上げると首が痛くなるほど天井が高く、所々に質実剛健なアーチが特徴的の、重厚感あふれる内装。たしかロマネスクと呼ばれた、遥か昔の建築様式だ。古代図書館が建てられた600年前からすでに遺跡のように扱われた建築だが、膨大な本紙書籍を貯蔵する場所としては相応しい造りにも感じる。美と実用性は必ずしも一致しないが、今の人々はあまり関心が無いだろうし、私にとっては居心地が良いかがすべてだ。
 腹蔵のない意見を言わせてもらえば、後者だった。
 そもそも、ここには司書と夢商人しか来ない。だから蔵書の山に囲まれていても、館内は恐ろしく広い。特に転移床だらけのロビーは。
「あ、おかえりなさ~い」
 雲のように宙をふわふわ流れてきたソファーから、若い女の声が聞こえてきた。寝転がっていたのは振り袖を着た見慣れない女だが、司書長だと気づくのに時間はかからなかった。こんなヴィンテージ家具を使用するのは彼女くらいのものだから。
「今日は目尻をきりりと細長くしてみたの。ランダムに選んだページがちょうど着物の欄でね。それに似合うように顔も日本人ぽく変えてみたんだけど」
 その日着る服を選ぶ感覚で、司書長は容姿を変える。この世界では特別なことでもなければ、難しいことでもない。
「あなたはいっつも同じ服よね。服装自由なのに。まあ好きにしたらいいんだけど」
 好きにしたらいいんだけど。それが司書長の口癖だ。彼女は構っているようで、実際はほとんど関心が無い。振り袖もすでにシワだらけだ。
「もしかしてウルさんの影響? あの人もいっつも上下黒だものね」
 ウルは私服だが、私のは司書の制服だ。白地のブラウスに、首元に余裕のあるノースリーブの膝丈ワンピースを重ねる。色は自由だったので、私はダークグレーにした。
「まあ好きにしたらいいんだけど。私も好きにしてるし。明日はウェディングドレスでも着ようかな。ヘップバーンみたいにめっちゃ首細くして」
 前に一度、楽しいかどうか聞いてみたことがあるが、返答は今回と同様、例に漏れなかった。
「だって暇なんだもん」
 これは、司書長に限ったことじゃない。この世界では大概の人がそうなのだ。
「それより早く身体(からだ)洗ってきなさい。『書籍世界』の病原菌を外に出したりしたら司書の資格失っちゃうわよ」
 気づけばウルは先に、備え付けの洗体室に行っていた。相変わらずの几帳面さだ。私も転移床の上で行き先を告げる。瞬時に身体がシャワールーム程の個室へと移り、そこでメディカルチェックとリフレッシュを受けた。オールグリーン。殺菌抗菌ライトに、異物(ゴミ)除去の吸引。検査も洗体も洗濯も、服を着たまま機械が一瞬でやってくれる。
 先にロビーに戻っていたウルは、採取した『夢』を取引先に納品していた。
「ディグニティ商会」
 ウルの目の高さの匿名的な空白に、立体画面が瞬時に現れた。館内(オンライン環境)なら声に出しただけでアクセスが可能なのだ。
 画面には、金貨の山と一冊の本で釣り合った天秤のマークが映っている。『夢』の売買を取り扱うディグニティ商会の象徴だ。
 ウルのIDとPASSの認証が速やかに行われ、納品へと移る。青白い光を携えていた彼の左目が、画面に吸い込まれるようにだんだんとその輝きを失い、やがて普段の黒い瞳に落ち着いた。
 アップロード完了の文字が画面に映ると、女の愛嬌あふれる無個性な声が聞こえてきた。
「ウル様。『夢』の納品、確認いたしました。特にご要望がございませんでしたら、規定通りこのまま競売にかけさせていただきますが、よろしいでしょうか?」
「ああ」
「承知いたしました。落札時にまたご報告申し上げます」
 立体画面が消える。それから「ブレンド」とウルが告げた10秒後に、業務ロボットが彼にコーヒーを、転移床から彼の愛用するふかふかチェアが現れた。
 一息ついてくつろぐウルに、司書長が立体画面を投げつける。
「ウルさん、これ見て。あなたまたランキングでトップ。しかもぶっちぎり」
 司書長が見せた立体画面には、夢商人の業績が順に記載されていた。ウルの名前は一番上にあったが、彼は眠そうな目をさらに細くして、どうでもいいと答えた。
「ランキング、ってのはアレか。まだ羊に毛が生えた程度の判断力しか無かった頃の大衆をメディアが面白おかしく踊らせていた、古代人の悪しき風習と言うべきものか」
 今ではAIがその人の健康状態や趣味嗜好に応じて適切なものをピックアップしてくれるから、こんなものは広告を作ってる奴の下着の色よりも興味が無い、とウルは言う。
 そんな彼に、司書長は取って付けたような声で笑ってみせる。皮肉ではなく、笑う習慣が私たちには無いのだ。
「ウルさんは相変わらず無頓着よね。むしろこだわりって言うべきかしら。保守的な髪型も仕事終わりの一服の仕方も変えないんだから」
「あんたが前衛的過ぎるんだ」
 アナウンス音が鳴った。先程納品した『夢』が競売で落札されたようだ。報告の立体画面に映された落札額は、ランキング17位の年度内獲得金額とほとんど変わらなかった。
「ウルさん、おっかねっ持ち~」
「このご時世、金なんか尻を拭く紙より価値が無い」
「たしかトイレットペーパーとか言ったっけ? それいつの時代の日用品よ」
「化粧とお着替えに1日費やしてるお姫様にはピンと来ないだろうが、書籍世界ではたびたび重宝されてるよ」


 ここは、古代図書館。建物や書籍は一言で言えばアナログ、だが管理運用システムは最先端なものばかり。冠こそ古代と銘打ってはいるが、実際は政府管轄の『本紙専門図書館』である。
 端的に言えば、本紙書籍の世界に入り『夢』を採取(または回収)する夢商人たちの駅だ。そして、そんな夢商人のガイドを務めるのが司書。
 私も司書の一人だ。
 多くの才能(スキル)が要求される夢商人とは違い、司書に必要な能力は三つ。記憶力と語学力、そして読解力だ。司書は探検する書籍世界を事前に調査し、道標とならねばならない。
 つまり、本を読んで内容を覚えるというわけだ。
 幸か不幸か、私はそれが得意だった。


 前述したが、館内は恐ろしく広い。移動手段はもっぱら行き先を告げただけで送ってくれる転移床で、雑用は業務ロボットがやってくれる。私は近くにいた彼に、先程の世界の本の返却を頼んだ。
 ロビーではふわふわ浮いた司書長がまだ話しかけている。ウルに気があるというわけではなく、次の暇潰しが見つかるまでの穴埋めといった喋り方だった。そのため彼がうんざりして見せてもお構い無しだ。
「 ── ウルさん、またすぐ次のお仕事に行くの?」
 ウルは私の顔を一瞥してから答えた。
「いや、1週間ほど休養する。客間を使わせてくれ」
「私なんかの許可は待たずにどうぞ自由に好きなだけ。元々ここはウルさんとドクさんにあてがわれた場所だし、私たちは桜餅を包む葉っぱみたいなもんだし。それよりウルさんでも休養なんてするのね。化物は眠ったりしないのかと思ってた」
「何ヵ月もソファーの上で生活してる人間には分からないかもしれないが、駆けたり山登りをしたりするとそれなりに疲労が溜まるんだ」
「そういえばここ数年歩いてないなあ」
「現場に出ない司書は気楽でいいな」
「そのために管理職に就いたんだもん。ウルさんはどうして夢商人になったの?」
「あんたが容姿を変える理由と同じかな」
 あはは、と取って付けたように笑った司書長を置いて、ウルがこちらにやって来た。
「食事はどうする?」
 私も食べる、と答えて、二人で転移床に乗った。ウルのスラリとした手足と並んだら、胸の手前が引っ張られたような感覚を覚えた。




 chapter Ⅱ 『表舞台』と『裏舞台』



 書籍世界には明確なルールがある。
 それは作者が想い描いた以上の力を使用することはできないということ。つまり魔法の存在しない世界で魔法は使えないし、声の存在しない世界では喋ることができない。
「 ── あんたら、兄妹かい? 見たところ異国の人に見えるが」
 要は郷に入れば郷に従わざるを得ないというわけだ。私の制服もそれなりに変化を求められるし、ウルの佇まいも違ってくる。
「まあ何だっていいか。それより物好きな兄ちゃんたちだ。今日が何の日か分かっててここにいるのかい?」
 蟻さながらの大群と化した筋骨隆々の男たちが、見渡す限りの雄大なジャングルを臨んでいる。息がサウナのように熱気を纏い、霧のごとく辺りに立ち込めている。鼻腔にねばねばとまとわりつく汗の臭いが、生理的に不快だ。
「ふうっふうっふうっ……そろそろだあ……そろそろくるぜえ……!」
 身体の至るところに墨を入れた彼らは、今にも駆け出しそうに鼻息を荒くしながら、女の足くらい太い竹槍を握りしめていた。
「さあ、おっ始まるぜえ! 人類対昆虫の、5年に一度の覇権を巡る祭典がよおおおお!」
 腹底に嫌らしく響く銅鑼(ドラ)の重低音が鳴ると、男たちは一斉に奮起の声を上げた。喚声と共にジャングルへと駆け出していく。
 そのときだった。
「おほほほおおお、きたきたきたあ、野郎共、きやがったぜええええ!」
 群衆の咆哮をかき消す程の羽音が、まるで台風のように、木々の上で葉を散らせた。ジャングルの頭を飛び越えて現れたのは、人の頭を易々と齧(かじ)り取れそうなサイズの蝿たち。そのおぞましい光景を見るや、ウルはすかさず私の腕を掴んで、描いた陣の光に逃げるようにして飛び込んだ。


 夢商人と司書は、本紙書籍の中に入り込み『夢』を採取する。『夢』はディグニティ商会を通して競売にかけられ、手数料と政府への税を引かれた落札額がウルに入り、その3%が私の通帳に記帳される。
 それが、ウルと私の生業。
 本世界(ホーム)(私たちの世界をあえてそう称する)は、完成された社会となりつつある。科学や医学の発展により貧困・難病・資源問題は無くなり、人類の平均寿命は150歳を超えた。化粧をする感覚で容姿や体型を自在に変更できるようになると、(形式上の)格差は無くなり、争いも減っていった。仕事も日常生活に必要なこともすべて機械が行い、人々は暇をもて余すようになった。
 その反面、感情は希薄になり、愛や誇りといった言葉も聞かなくなった(そんなものが本当に存在していたのかは甚だ疑問だ)。その過程で一部の宗教家が活動的になったりもしたが、争いや干渉を是としない社会情勢の波に呑まれては二極化の一途をたどり、現在のかたちへと落ち着いた。
 それからさまざまな娯楽(エンターテイメント)が作られるも、その開発スピードは人間の『飽き』には追いつけなかった。やがて誰も作品を作らなくなり、新規の娯楽は生まれなくなった(というよりも、その頃にはほとんどのジャンルが既存の色違いばかりで、消費者の需要に応えられるものが生まれなかった)。
 夢商人という単語が聞こえ始めたのは、その頃からだ。


 ここは書籍世界。人と昆虫が共生する緑の星。
 しかしある日、突然変異で虫が巨大化したのをきっかけに、彼らはたびたび人類に不服を唱えるようになった。その主張が何とも昆虫的で要領を得ないのだが、端的に言うとこういうことらしい。
 お前ら、ちょっと調子乗ってない?
 それから価値観の定義や生における哲学などの話が、人と昆虫両方の視点からしばらく繰り広げられるのだが、談合の末に平和的(?)解決策が講じられた。それが5年に一度の決闘である。勝った種族が今後5年間の政策を自由にできるのだとか。
 平和的な解決策ならもっと他にありそうなものだが、この書籍世界の人々はなぜかこのやり方に意欲的で、むしろ祭典と称していることからも分かるように、この戦いを待ち望んでしまうくらい独創的(バカ)なのだ。象よりも大きな昆虫相手に竹槍の物量戦で挑んでいくところがまた斬新だ。
 ── と、書いてしまえば数行で事足りる世界観。けれどいざ中に入ってみると、そのリアルさと作者の想いをまじまじと感じることができる。その緻密に描かれた舞台とバカバカしい設定に、たまらず息が漏れてしまう。
 ウルにも何か感じるところがあったのだろうか。たいていは『夢』を採取したらすぐに帰還する彼だが、今回は物足りないと理由をつけて『表舞台』に足を運んだ。結局あまりのスケールの大きさに、ものの数分で帰還することになったのだが。


「 ── ウルさんにも苦手なものあったんだね。なんか意外」
 帰還した後、その話をナザリさんにした。司書長に「変わった子」と評される、私の三つ年上の先輩司書だ。今時珍しい黒の三つ編みでメガネを掛け、館内にいるときは紺黒のチェックの制服をよく着ている。
「私も虫は得意じゃないなあ。ドクは全然平気なのよね。でもそのぶん蛙が苦手だったりするのあの人。口には出さないけど、あのこわばった顔と仕草を見れば一目瞭然」
 ナザリさんはここ2ヶ月間、パートナーの夢商人と一緒にずっと書籍世界にいたそうだ。そのせいか髪が伸びて、少し日焼けもしている。
 けれど彼女は肌の交換はしない。髪もちゃんとハサミで切るようにしているし、転移床の使用などは極力控えている。本を返却している今も、こうして自分の足で歩いている。
「時代錯誤なのは分かってるんだけどね。適材適所に任せちゃったほうが効率的だし疲れない。でも、それってどうなんだろう、って思っちゃって」
 それってどうなんだろう。それがナザリさんの口癖だ。彼女は本世界の技術に甘えず、あくまでも自然体でいることを心掛けているみたいだ。
 そのことが、司書長を始めとした本世界の人たちには時々奇怪に映るらしい。返却に付き合っている私からすれば、毎日顔を変えている人とあまり大差無く思えるけれど。
「次に行くところの本はもう読んだ?」
 今回は比較的早く『夢』の採取ができたので、インターバルは短めだ。私の調査が終わり次第、次の書籍世界に赴くことになる。
 今度の作品は久しぶりの純文学。
 舞台は歴史上の国。21世紀初頭の日本だ。
「司書長が贔屓にしてる国ね。私はまだ行ったこと無いなあ」
 私も初めてだ。
 ウルはどうなんだろう? 珍しく、そんなことが気になった。
「ねぇ、そういえばさっきの人類対昆虫、結局どっちが勝ったの? その先の展開は?」
 それは聞かないほうがいい、と私は答えた。


 司書と夢商人にも、明確なルールがある。
 本世界の物を書籍世界に持ち込む際には、それを必ず(書籍世界用)転移床の識別センサーに通し入力しておかなければならない。
 これをやっていない物は、書籍世界から戻ってこれない(これは書籍世界の物を本世界に持ち込めない規則の一端を担っているようだ)。ナザリさんは初仕事から帰還する際、入力しておいたものとは違う服を着ていたので、大変恥ずかしい思いをしたと教えてくれた。
 書籍世界に持ち込む物にも規則がある。まず必ず持ち帰らねばならないことから数が限定され、また『空想舞台』と『現実舞台』でも変わってくる。平たく言うと、書籍世界の『常識(ルール)』に反する物は(一部を除いて)持ち込めないというわけだ。
 それが関係しているのかは定かではないが、ウルと私の荷物はいつも軽量だ。身に着けているものを除けば、手帳と通貨(金(きん))と携帯日用品(トラベルキット)、そしてその世界の本紙書籍だけ。
 手帳は主に緊急時や『現実舞台』からの帰還の際に用いられる。魔法の使えない世界では自力で転移陣が描けないため、この夢商人専用アイテムが代用となるのだ。
 通貨は館内備え付けの機械で作ることができる(有料)。作成可能なのは『現実舞台』の通貨のみだが、それでも事前に用意しておくと効率的だ。
 『空想舞台』では通貨が用意できないので、金を持ち込むことになる。金が価値を持っていない世界は、私の知る限り無かった。


 私が要約したストーリーと世界観を教えると、ウルは味の抜けきったガムでも噛んでるような顔をして、作成した紙幣50万円をコートのポケットに無造作に突っ込んだ。
「今回も早く終わりそうだ」
 それは、歴史上の舞台だから、という理由だけではないのだろう。ウルはとても勘が良い。
「聞いた限りじゃ " ヨミ " と出くわしそうな世界だな」
 ウルはとても勘が良い。

 出発前にドクさんが見送りに来てくれた。ウルと並んでも見劣りしないスタイルに、ウェーブ掛かった銀髪とウール・グレーのポンチョコートがよく似合う。柔らかい物腰と他意の感じられない微笑は、ナザリさん曰く書籍世界で身につけたものなのだとか。
 しばらくウルと話していたドクさんが、私にこう耳打ちしてきた。
「最近、司書長に変わったところは無かったかい?」
 彼からそんな風にものを訊かれたのは初めてだった。
「いや、深い意味は無いんだ。武運を祈るよ、気をつけてね」
 古代の戦国時代に2ヶ月いたせいだろう。ドクさんは拝手で見送ってくれた。




 今回の書籍世界は、大別すると恋愛小説になるのだろうか。大学生たちがそれぞれのトラウマに抗いながら、人生を模索し切り開いていくハッピーエンド。十代が終わる年頃の、刹那的な機微とでも言うものが、ひどく情緒的に描かれている。設定や構成に目新しさは無く、所々で文章の稚拙さが目立った。作家の哲学なるものは、それを言語化して説明することも容易いほどによく表れていた。けれど ──。
 私にはよく理解できなかった。
 登場人物たちの感情の推移も、ハッピーエンドの定義も、私には今一つピンと来ない。でもとにかく、それがこの書籍世界の『表舞台』となる。
 『表舞台』はその名の通り、作品の本筋が描写された部分だ。そこで登場人物たちは、作者の意のままにストーリーを奏でていくことになる。
 ウルの目的地になるのは、そういうスポットライトが当たらない場所が多い。そんな場所(経路)を私たちは『裏舞台』と呼んでいる。平たく言うなら " 作者が描写しなかった作品部分 " である。
 夢商人(ウル)が求める『夢』があるのは、この『裏舞台』が圧倒的に多い。

 作者が描写した部分以外にも、人や場所が存在する。
 司書になりたての頃、私はその理屈が上手く呑み込めなかった。
「書かれていないのに存在するのは腑に落ちないか?」
 ウルは出会った頃から、よくある普遍的な返答ではなく、彼自身の言葉と解釈をもって、私の疑問に答えてくれていた。
「普通に考えればそうかもな。でも俺もお前も、どこに誰がどんな思想を持って生きているかなんて知らない」
 人は、己の知らないことを非存在と見なしがちだとウルは言う。
 同時に、空白に対してひどく敏感になる生き物だとも。
「隙間だらけの本棚を見てそわそわする……そういった本能的な感覚が人間にはある。ここでは潜在意識と呼んだほうが適しているか。書いた本人さえ気づかないものが、気づかないうちに文字へと宿り、行間から滲み出る」
 言うなれば、文章の潜在意識。それが『裏舞台』。
 もしかしたらそこに、筆者の真意というものがあって、それが『夢』となるのかもしれない、とウルは考える。
「世界はほんのちょっとの配慮と多大な無関心で構築されている。それは現実も書籍世界も同様なんだろう。ただ、関心が無いからと言って、何も無いということにはならない。感情が希薄な人間でもちゃんと腹は減るようにな」
 人が目に見える世界は、その人の関心によって広がったり縮まったりするが、自分が見えないところにもちゃんと世界は存在している……。それがウルの持論のようだ。
 私は理屈抜きで納得してしまった。それはきっと、私自身もまた空白を埋めるため、貪るように知識を蓄えたからなのだと思う。
 私には、10歳以前の記憶が無い。




 書籍世界への転移先と進行状況は、開いた本紙書籍のページで決まる。今回の『表舞台』は東京から動かない。私たちは早朝から情事に耽る主人公と人妻のプロローグを飛ばし、第1章からスタートした。
 主人公たちが通う大学から、徒歩で駅に向かう。大通りは朝の通勤ラッシュを終えても人通りが絶えない。車の往来が激しいせいか、空気は薄く、排気ガスが何の浄化も受けずにそのまま空へと吸い込まれていた。時々すれ違う女たちがハッとウルに目を奪われるも、彼は素知らぬ顔で目的地へと足を進めた。
 なんだか居心地が悪かった。それはウルに目を惹かれた女たちが、私に気づくなり舌打ちしたこととは別問題なのだろう。ここは比較的インフラが整っているのに、どこか息苦しく感じる。同属嫌悪とでも言えばいいのだろうか。歴史上の舞台であるせいか、私たちの世界に通じている部分がいくつか見受けられる。人々が虚像や電子機器に振り回されているところなどまさにその根幹だ。
 そして、いくらか陰湿で粘着的だ。
 私はあまり考えないようにした。
 ウルの鼻に従って、埼京線から大宮を目指す。彼曰く、夢商人とはモグラのようなものらしい。『夢』の在処(ありか)を嗅ぎ取れることが、夢商人になる最低条件なのだとか。


 『夢』の定義はいくつかある。 " まだ世に生まれていない未知 " と称する人もいれば " 捨てられた未来 " と訳す人もいる。『夢』はあくまでも広義として用いられ、その正体はいまだ明かされていない。
 その真理にもっとも近づくことができるのは、おそらく『夢』を競り落とした者だけなのだろう。彼らはさまざまな媒体(2D、3D、疑似体験)を通して『夢』を堪能し " 独占 " する。納品頻度が多いウルは固定ファンが多く、その『夢』にはたびたび巨額の値札が掛けられる。
 『夢』……。実際にそれを採取する光景を見てきた私でも、その実像は計り知れない。その目で回収するウルですら、ぼんやりとしか見えないのだとか。
 それでも彼は、前に一度だけ『夢』をこんな風に評してくれた。
「夢というのは、たいがい飢えから生まれるものだ。過去には希望や願いなんて言い方もされてたな。足りなかったから、必要だったから、人はそれらを想い浮かべた。だから発展途上の世界には石ころのように夢が転がっている」
 時代の発展とは、願望の取捨選択のようなものだとウルは言った。子供が樽から無作為に握り取った飴玉が、歴史を構築してきたのだと。
 だが同時にそれは、選ばれなかった想いが闇に葬られることでもあるという。
 そんな『夢』を拾って、人々に見せるのが、夢商人の仕事。
 見方を変えれば、夢商人(ウル)は、果たされなかった想いを叶えているのかもしれない。


 背骨に冷水を流されたような感覚に襲われたのは、電車に乗ってしばらくしてからのことだ。乗客がまばらに席を埋めた車内に、透明に近い白色のレースカーテンを切り取ったような姿形のものが、音もなく現れた。
 " ヨミ " だ。
「じっとしてろ」
 " ヨミ " は私たちの前をひらひらと揺れながら、そのまま隣の車両へと壁を通り抜けていった。
 乗客は誰も気づいていない。視認できていたのは私たちだけ。
 あまりに唐突だったので、ため息を止められなかった。ウルは見慣れているのだろう。川の流れでも眺める老人さながらに落ち着いた所作で、未知なる存在をつまらなそうに観察していた。
「皮肉なもんだな。多くの学者が " ヨミ " を " 絶望の化身 " と称していたが、荒廃した世界よりも秩序が整った舞台のほうが出現率が高い」
 " ヨミ " とは、作者の陰鬱な感情が書籍世界に具現化されたものと推測されている。詳細は不明だが、触れた者は精神を侵される。書籍世界で消息を絶つ夢商人と司書の数%は、この " ヨミ " が原因なのではと言われたりしている。
 " ヨミ " の出現は『夢』と同じく『裏舞台』に圧倒的に多い。
「空想舞台と同じくらい気を引き締めておけよ。見た目がちゃんとしてる世界ほど、臭いものに蓋をしているものだ」
 " それ " は、ウルの忠告をしっかり反芻しているときに現れた。まるで " ヨミ " の置き土産かと思うほどに、間髪入れずに私たちに話しかけてきた。
「やっと見つけた」
 電車のジョイント音だけでなく、皮や骨まで突き抜けて有無も言わさず聞かせてしまう程に硬く渇いた声。暗い目元を隠すかのようにパーカーのフードをかぶった二十歳前後の小柄な女が、要領の得ない言葉を次々と浴びせてきた。
「ずっと、そうなんじゃないかって思ってた。物心ついてから、ずっと。孤独とか、そんなんじゃない。私は、そもそもが、違ってるんだ、って」
 私はたまらず目でウルに尋ねた。明後日の方向を見ていた彼は、私にのみ分かる言語で「目を合わせるな」とだけ答えた。
「ねぇ、連れてって。私も連れてってよ。あなたたちは知ってるんでしょ? 世界の理を。ここが幻想なんだってことを。ここがどれだけ醜くて間違ってるかってことをさ」
 大宮駅到着のアナウンスが聞こえてきた。一貫して彼女を無視していたウルは、私の手を取ってそのまま改札を抜けた。私は何度か電車のほうを振り向いたが、彼女が追ってくることはなかった。
「『夢』はもうすぐそこだが、紙幣もたんまり用意してきたことだ。その前に茶の一杯でもいただくことにするか」
 駅前の喫茶店でブレンドコーヒーとメロンソーダを頼んだ。私はしばらく味がよく分からなかった。
「お前は初めてだったか。 " ああいうの " に遭遇したのは」
 ウルが言うには、" ヨミ " 同様、秩序が整った世界ではごく稀に見ることのできる人間らしい。
 だがあれは " ヨミ " とは一切関係が無いと彼は言う。
「あくまでも俺の推論だがな。あれはおそらく、作者の意識云々からも外れた存在だ。" ヨミ " の症例はもっと暴力的で、見境が無い」
 そんな存在を、ウルやドクさんたちはこう呼んでいる。
 バグ、と。
「あまり深く考えるな。楽しみにしてたピクニックに出掛けたら予報外れの雨に見舞われた。その程度のことだと思えばいい」
 ピクニックの何が楽しいのだろうか。
 そう訊いたら、ウルは珍しく口元を緩めて、どこか自嘲気味に鼻を鳴らした。


 『夢』とは、果たされなかった想い。
 いくらか情緒的で空想的過ぎる表現だが、私にはいつも、それが適切なのではと思う瞬間がある。
 それが『夢』を採取するとき。
 そこでは得てして『夢』の作り手の最期を見ることになるから。


 年の頃は、二十代後半と言ったところだろうか。痩せて化粧気の無い顔立ちをした、見るからに太陽に嫌われていそうな女。
 整然とされた薄暗いアパートの一室で、彼女は遺書も残すことなく首を吊っていた。丈の長いクリーム色のワンピースが裾まで汚れ、傍らに開き置かれたノートパソコンの淡い光にぼんやりと照らされていた。
 ウルはいつもと同じように、作り手を一瞥し、右目を閉じてから、ノートパソコンを閲覧した。彼女から発せられる青白い光が、彼の左目に吸い込まれていく。それが終わると今度は右目だけを開き、同じことをした。彼は『夢』を二つまでストックできる。
 両目に十分な光を携えたウルは、どこか名残惜しそうな顔でパソコンを眺めた後、ふうと息をついてから、ぶら下がり器具に繋がれたロープを切った。
「お湯を沸かして持ってきてくれ。温(ぬる)めでいい。あと適当に着替えも見繕ってな」
 『現実舞台』は何かと『常識(ルール)』に覆われている。そのためウルの、流儀とも呼べる習慣にも多少の妥協を強いられる。
 普段はその書籍世界に応じた弔い方をするウルだが、ここでは彼女を綺麗にするところまでにとどめた。彼自身がやることと、通報してここの『常識』に任せることに何の違いがあるのかは私には分からない。
 分からなかったけれど、それがウルらしいと、私には思えた。
 胸の奥の名前の分からない部分が、ひねられたような感覚に襲われる。
 不快な気はしなかった。
「さて、もう行くが、思い残すことはないか?」
 いつもの確認に、私は頷いて手帳を差し出す。ウルは手帳のあるページを開くと、人差し指の先を噛みちぎり、そこに浮かんだもので赤い模様を描いた。
 模様がライトグリーンの光を帯びる前に、私は、ふと気になったことを訊いてみた。
 ウルはどうして夢商人になったのか。
 彼は司書長に訊かれたときとは違い、今度は真面目に答えてくれた。
「『夢』を回収し、それをアップロードしたとき、俺の中の " なにか " が一時的に満たされる。空腹にメシを詰め込んだ感覚に似てるな。でもメシがやがてクソに変わってしまうように、やっぱり一時的なものなんだ。そこらの夢待ちの乞食みたいに、すぐ飢えちまう。ひび割れだらけの花瓶に水を注いでいるみたいだ。花なんか一本も入ってないのにな」
 もう一度、胸の奥が優しくひねられる感覚を覚えながら、私はライトグリーンの光に包まれた。




 chapter Ⅲ 消えた夢商人




 探検する書籍世界を決めるのは夢商人と規定されている。たいていは彼らが読み好んだ本紙書籍が選ばれるらしいが、私とウルの場合は違う。彼は(特殊な)サイコロを振って、出た目の書籍番号に該当した本を私に読ませる。自分は1ページも読まないのだ。
「活字見てると眠くなるんだ」
 そんな夢商人、聞いたことがない。

 とにかく、私たちはそれからも書籍世界を探検し『夢』の採取に励んだ。『現実舞台』でのウルはいささか退屈そうで、危険が伴いがちな『空想舞台』では生き生きして映った。冷静沈着が代名詞のウルはあまり表情に出さないが、その所作や佇まいの微妙な変化から私には分かる。
 今でこそ性別による差異はあまり見られなくなったが、こういうウルを見ていると、やっぱり男の人なんだなと感じる。

 私の知らない場所にはさまざまな世界があり、そこには色んな人がいた。
 私の知らなかったウルの一面も、いくつか垣間見ることができた。
 猫の生態を事細かに描いた書籍世界では、ウルの怠慢さが目立った。いや、きっとあれは怠慢とは別のものなのだろう。私が帰還を急かしても、彼はなかなか転移陣を描こうとしなかった。快晴の微風に影を走らせる草原に寝転がっては、そこかしこで居眠りする猫たちを眺め、ひたすら眺め、彼らのお腹を何度もくすぐった。
「仕事ってのはただ量をこなせばいいというものじゃない」
 急に説教臭いことまで言い出したものだから、私はまばたきを止められなかった。
「速いか遅いかなんてしょせん付加価値的な評価でしかないんだよ。大切なのは、その本質にちゃんと触れて見極めることができるかだ」
 とにかく猫と戯れたいといった口調に聞こえた。

 『空想舞台』ではたびたびウルの真価が発揮された。優れたフィジカルと考察力、そして的確な判断力の前に、強敵と称された怪物たちはことごとく敗者と化した。
 蔓延する大蛇が人を食らう設定の書籍世界では、行き行く先々で退治しながら進んだせいか正義の使者と持て囃された。どういった大蛇かというと、実はよく覚えていない。私はどうも蛇のフォルムや動きが苦手で、遭遇してもウルの背に捕まってずっと目をつむっていたから。仕事をしろと何度か窘(たしな)められたが、目が開かないのだから仕方がない。

 『現実舞台』ではやはり退屈そうだったが、私はそうでもなかった。日本に行ったのを境に、バグと遭遇する機会が増えたからだ。ウルは気にしてなさそうだったが、私はあまり良い気分ではなかった。
 一度だけ、『空想舞台』でもバグと遭遇した。ヒンドゥー教らしき思想を軸とした世界観で、陰鬱な影を従えるも馬車馬のように働く人々は、皆、部品の足りない人形のように見えた。目的意識は持っているが、何かを見失っている……備わっているようで、何かが欠けている……私にはそんな風に映った。
 そして、その何かを代弁することは、私にはできなかった。何も言わないウルの横顔を見上げては、いつもとは異なる胸の振動に耳を澄ませた。
「あなたたちは、きっと輪廻転生の理の中にいるのね」
 バグと遭遇したのはそんなときだ。男たちの脱ぎ捨てた物を川でひたすら洗っていた彼女は、私を見つけるなり目の前で膝をつき、両手を包み込むように握りながら言った。
「間違ってないわ。このあなたも、これではないあなたも、みんなあなたの一部。あなたのすべて。何も怖いことなんて無いのよ」
 私はただただ、いつもとは異なる胸の震えに耳を澄ませていた。


 そんな風にして日々は過ぎていった。ドクさんが片足を失って帰還したのは、ウルとのパートナー生活が3年目を迎えてまもなくのことだ。




 春分が異常気象に見舞われがちなのは今に始まったことではないが、この日はとりわけ酷かった。雷雨は恨みでもあるかのように桜を散らせ、建物すべてに避雷と遮音シールドを張らせた。司書長が大画面で見ていたニュースでは、政府から発令された気候管制令により、気象庁が雲や雨量を調節したとの報道がなされていた。
 愛嬌あふれる無個性な声が自慢の最新型AIロボットアナウンサーが、原稿を次々読み上げていく。
 人口は15年連続で減少し、推移グラフはスキー場を連想させるほどに下降していた。だが反対に平均寿命は上昇傾向で、経済は安定の一途を辿っているから懸念要素は無いということを彼女は強調した。
 夢商人の数も年々減少していることは、付け合わせのパセリよりも存在感の無い声でさらりと伝えられた。
 数年ぶりの刑事事件の報道に切り替わると、こちらはことさらシステマチックな素振りで仰々しく読み上げた。
「次のニュースです。宗教法人ワヤング会の会員数名が、政府管轄サーバーにハッキングを行ったとして、不正アクセス禁止法違反により身柄を拘束されました。容疑者たちは取り調べに対しいずれも支離滅裂な受け答えを繰り返しており、今後の動向が着目されます。この事件に対しワヤング会本部は、公式に次のように回答しております」

『人はあらゆる欲の味を知り過ぎたため、意欲を無くした。人はあらゆる物語に浸り過ぎたため、生み出す力を失った。それはまるで、神の在り方なのではないのだろうか。人が神に成り代わってしまったから、神が消えてしまったのではないのだろうか。生み出すという行為そのものが、神なのかもしれない』

「続いて、次のニュースです ── 」
 ロビーから突如聞こえてきた騒ぎに、立体画面が波打つ。向かってみると、業務ロボットに囲まれたドクさんとナザリさんがいた。彼女は汗で額にべっとりと付いた前髪を払うのも忘れて、業務ロボットたちに指示を出している。
 ナザリさんの手から袖まで、血で真っ赤に染まっていた。彼女が懸命に止血の布を巻いていた部分は、膝から先を失ったドクさんの右足だった。
「手伝って!」
 ナザリさんの怒鳴り声にハッとして、私はロボットたちと一緒に移動家具を手配した。雷雨の影響で館内システムが一時的に切り替わり、館内用の転移床がメンテナンス状態になっていたのだ。飛ぶベッドにドクさんを乗せ、急いで治療室へと運ぶ。
「なになに、いったい何の騒ぎ?」
 ドクさんに輸血と再生治療を施し終えた頃に、司書長が治療室にやって来た。彼女なりに急いで来たのだろう。雲のように浮くソファーを降り捨て、裸足で息を切らしている。
 ドクさんはいくらかばつの悪そうに笑って答えた。
「お騒がせして申し訳ない。ちょっとドジを踏んでしまって」
「あらやだ、ドジと言うより地雷でも踏んだような有り様ね」
 笑ってみせた司書長をよそに、ナザリさんは今にも雨が降りそうな顔でうつむいている。
 司書長が無神経に続ける。
「でも珍しいわね、ドクさんが回収もできずにヘマして帰ってくるなんて」
「はは、お恥ずかしい」
「どうした?」とウルもやって来た。
「竜に一噛み」とドクさんは笑った。
「足で幸いしたな。頭だったら今頃墓石に名前を削られてる」
「はは、間違いない」
「あはは、今時墓石って」と司書長。
 堰(せき)を切ったように、ナザリさんが口を開いた。
「私のせいなんです!」
「なにが?」と司書長。
「私が、ぼんやりしてて、それで、ドクが私をかばって……」
 自分のミスだとドクさんが慰めても、ナザリさんは首を振り続けた。
 そんな彼女に、司書長が渇いた声を浴びせる。
「ドクさんが気にするなと言ってるのだから、悲劇のヒロインぶるのはもうそのくらいにして、早く身体洗ってきなさい」
「ヒロインぶってなんかいません!」とナザリさんは涙ぐんだ。
「あのねえ、夢商人が司書を守るのは義務なの。義務って何だか分かる? 必ず果たさなければならない務めのこと。唐揚げに付いてくるレモンとは違うのよ。ねぇ、ウルさん?」
「正論だが、あんたこの前レモンじゃなくてマヨネーズ1本丸々ぶっかけてたよな」
「あはは、あれめちゃくちゃ合うんだから。ウルさんも今度やっ ── 」
 ナザリさんは部屋を駆け出してしまった。
「ホント……変わった子」
 ため息混じりにそう口にした司書長を見て、私は一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまった。
 このときは思い出せなかった。ナザリさんの背中に向けられた司書長の眼差しが、書籍世界の女性がよくするそれに似ていたことを。
 侮蔑とか、嫌悪とか、そういった黒いものが滲んだ視線。
 固まっていると、ウルに頭を掴まれ揺すられた。
「行ってやれ」
「僕からも頼むよ」とドクさん。
「ふわ~あ、夕食前に一眠りしようかな」と司書長。
 言われなくてもそうするつもりだった。


「 ── 人はどうして『夢』に飢え焦がれるのだろう」
 落ち着いた頃、ナザリさんは唐突にそんな話をした。
「最近、よく考えるんだ。私たちのしていることって、いったい何なんだろう、って」
 私は考えたことはない、と言えば嘘になる。
「私はずっと、『夢』は書籍世界のようなものだと思っていた。私たち司書や夢商人のように、あの刺激的で感動的な世界を旅するための舞台なんだって」
 刺激的で感動的。そんな風に評した司書は、ナザリさんが初めてなのかもしれない。
「……ごめんね、さっきは怒鳴っちゃって。私、どうしていいか分かんなくなっちゃって」
 以前の私なら、なぜ、と訊いていたかもしれない。
 今の私は、黙って耳を傾けた。
「すでに世に出た本ですら、あんなにたくさんの世界があるのに、どうして人はそれに無関心で、まだ解明もされていない『夢』を手に入れようとするのだろう。未知、だから? 中身はどうでもよくて、ただ新しいから手を伸ばすの? でも、それってどうなんだろう」
 この日の彼女の口癖は、答えが分からないといった使い方には聞こえなかった。
 自分の見つけた答えを表現するに適切な言葉が見当たらない……そんな感じだった。
「『夢』とはいったい何? 人はなぜそれを求めるの? どうして他の娯楽では代用が利かないの? どうして、人は ── 」
 そこまで言いかけて、ナザリさんは後悔するように首を振った。
「最近、バグとよく遭遇するの」
 私もだ。
「最初は、あの人たちが何を言っているのか分からなかった……でも、最近になって、ふと感じることがある。あれは、あの人たちは、もしかしたら、私の ── 」
 寒さとは違う何かに襲われた彼女は、震える腕を抱き抱えて、迷子の子犬のような目で私を見た。
「最近、ドクがおかしいの」
 私には、ナザリさんのほうがおかしく映った。
「あなたは考えたことない?」
 何を、なのだろう。述語を省くなんて司書(ナザリさん)らしくない。
「ウルさんを失ってしまったら、って」
 私は時が止まったような感覚に襲われた。
 そんなこと考えたこともない。
 考えたくもない。
 どうして?
 どうしてそんな話を私にするのだろう。
「ごめんなさい、気にしないで」
 どうして謝るのだろう。
 私は何だか頭が重く感じたので、久しぶりに水を使って洗顔することにした。そこの鏡に映った少女は、先程の司書長のような、それでいてまた違った色をその瞳に滲ませて、私を見つめていた。
 この子は、誰?
 息苦しい。
 頭が痛い。
 不快な熱に身体が焼かれているみたいだ。
 気づけば私の靴は、垂れてきたもので赤黒く濡れていた。


「 ── あら、あなた初経まだだったんだ。大人びてるからとっくに済ませてるのかと思ってたけど」
 すぐに取り寄せてくれた生理用品の使い方を司書長から教わりながら、私はまったく別のことを考えていた。
「しっかしこの生理用品、ずいぶんと旧時代的よねぇ。通貨と同じで古ければ古いほど復元にお金がかかるらしいじゃない。遺物コレクターには重宝されそうだけど、一般の需要はあるのかしら?」
 何を考えていたのだろう。自分でも上手く言葉にできないけれど、ただ漠然としたものを感じていたことはよく覚えている。
 私が、これまでの私とは違う私になっていくような……。
 もしかしたら、すでに ── 。
「ねぇ、聞いてる?」
 ハッとして見上げると、無痛剤を数日ぶん渡された。
「とりあえず今回のぶん。次からは自分で用意するなり手術するなり好きにしてね。あ、どっちも司書の経費で落ちるから安心して」
 司書長はだいぶ前に手術したから、月一の煩わしさは無いという。
「何も面倒くさいことなんてないわよ。さすがに普段のメディカルチェックよりかは時間使うけど、一昔前みたいに宗教団体からごちゃごちゃ言われることは無くなったしね。インスタントラーメン作って食べ終わる頃にはとっくに済んでる。あ、インスタントラーメンって知ってる? 昔は自分でお湯入れて作ってたんだって。あなたこの前日本に行ったとき食べたりしなかった? あれって凄く油臭くて身体に悪いけど、なぜかクセになっちゃうのが分か ── 」
 私は司書長に礼を言って、自室で休むことにした。何もする気がおきなかった。ウルと何か話したいなと思ったけれど、話題が見つからなくて、目を閉じた。


 翌朝にはもう、ドクさんの足はすっかり元に戻っていた。ナザリさんも普段と変わらず挨拶してくれたが、目の下がいくらか腫れていた。
「ちょっといいかな?」
 次の書籍世界の本を読んでいると、ドクさんに話しかけられた。彼はすぐ済むからと手で示すと、辺りに目を向けてから、以前と同じように囁いてきた。
「司書長には気をつけるんだ」
 しばらく口を開け放しにしていた私に、ドクさんはまた耳元で続けた。
「彼女は政府の人間だ」
 彼の意図が読めない。それを言ったら国家資格で働いている私やドクさんだってその一員だ。
「僕たちはあくまでもフリーランスだ。直轄の彼女とは違う」
 ドクさんはもう一度辺りを警戒して、こう言った。
「彼女の仕事は、キミとウルを監視することだ」


 その数日後、ドクさんとナザリさんは姿を消した。ある書籍世界に行ったきり、戻ってこなかった。




「 ── 私は二人の失踪に関与している。そう答えたら、あなたはどうするの?」
 分からない。
 私は十分に考えてから、司書長の問いにそう答えた。
「分からない、か……」
 司書長は昆虫のような目で私をじっと覗き込み、含みを持たせるように繰り返してから、こう言った。
「いいよ。あなたが知りたいこと、なんだって答えてあげる。別に何がどうなろうとかまわないもの」
 なげやり、ではなく、本心からそう言っているように聞こえた。




 chapter Ⅳ 瞬間(とき)のかがやき




 数日前。


 秋がやって来た頃には、私はよくキリくんと話すようになっていた。彼は私より少し年下の見た目の業務ロボットで、人そっくりの小さな身体を目一杯使って働く姿や愛嬌たっぷりの笑顔は、AIの中でも一番、書籍世界の人たちのそれによく似ていた。
「きっと帰ってきますよ」
 気休めだと分かっていても、その言葉を聞くといくらか気が紛れた。

 ドクさんの忠告を聞いてから約半年。二人の消息はいまだ不明だ。
 書籍世界での滞在が長期となる場合、1ヵ月単位で手帳を使った連絡を図書館に届けるのが夢商人の義務だ。けれど何らかの状況に陥り、それができない場合もある。または面倒臭がったり、単に忘れてしまうこともこの業界では珍しくない。ウルは前者だし、探検に没頭しがちなドクさんはよく始末書を書かされていた。
 今回もきっとそうだと思えないのは、やはり失踪前のナザリさんの様子が気にかかっているのだろうか。このまま会えなかったら、ギクシャクしたまま関係が途絶えてしまう。
 それは嫌だな、と私は思った。

 私はキリくんに司書長のことを訊いてみた。彼はいつも館内で働いてるから、彼女と距離が近い。
「優しい人ですよ」
 少し意外だったが、間違った印象には感じなかった。
「分からないことは丁寧に教えて下さいますし」
 たしかに教え上手なところもある。
「不満を上げるとするなら、マヨネーズの使用量が尋常ではないことですかね。ここだけの話ですが、あのまっ黄色の山を見てると食欲無くなってくるんですよ」
 私が書籍世界に行っている間、館内で何か変わったことは無かったか尋ねてみた。
「一つだけ」
 キリくんが言うには、ドクさんたちが行った書籍世界の本紙書籍が見つからないらしい。
「もちろん本紙書籍は司書の皆さんが肌身離さずお持ちになられるのですが、僕が言ってるのは、その情報です。誰が何の本を選んだかというのは、データにちゃんと残るんです。転移床にその履歴が残るシステムになってるんです。だけど、そのデータが無いんです。消えてるんです」
 不具合でも生じない限り、そんな現象はあり得ないとキリくんは続ける。
「管理に携わる僕の立場から言わせてもらえば、むしろ不具合が起こるほうがあり得ません。気象影響でシステムが切り替わっても、仮にその段階でバグが生じても、バックアップにはすでに保存されているから、残ってないというほうがおかしいんです」
 つまりこれは、作為的に消された可能性もあるという。だが古代図書館のセキュリティ対策は、おおよそ世界でもトップレベルだ。外部からの不正侵入(ハッキング)は現実的ではない。
 外部ではないとすると、有力なのは管理運用システムの絶対権を持っている者となる。
 それが、キリくんたちの直轄の上司。
「司書長を疑ってるんですか?」
 まるで人形に戻ったみたいに、キリくんの顔から愛嬌たっぷりの笑みが消えた。
「僕たちは、司書長が理由も無しにそんな違反をする人だとは思っていません」
 理由も無しに、という言葉に私は引っ掛かったが、問い詰めるのはやめにした。私は彼女に変わったところが無かったかだけを尋ねた。
「変わったところが一つも無いほうがおかしいでしょう。あなたたちは人なんだから」
 彼はたぶん正直に答えてくれたのだろう。眉に怪訝そうなシワを作ったその顔は、本世界の誰よりも人間らしく映った。
「僕には、あなたたちのほうが異常に見えるときがあります」


 最近、10歳以前の自分をよく想像している。
 色も音も見つからないその空白に、今の私を助ける何かがあったのではないのかと思いながら。
 そんなことをウルに告げたら、彼は目尻を菩薩のように緩ませて「そうか」とだけ口にした。
 その顔を見たら、急に彼の10歳の頃を聞きたくなった。
「もう少し背が伸びたら教えてやるよ」
 ウルも少し変わったように思えるのは、私が変わったからだろうか。


 鮫が空から降ってくるという、説明するのもバカバカしくなるような設定の書籍世界で、私は自分の一面に気づいた。
 世界各地を悪夢が襲った日、私はウルの描いた魔法陣の中で、まな板に乗った魚みたいに鮫を斬り捌(さば)いていく彼を見守っていた。
 街中では民衆が青ざめた顔で避難に追われている。そんなとき、ナザリさんと同じ年頃の女が子鮫に足首を噛み付かれているのを見つけた。私は咄嗟に、防御壁から出るなというウルとの約束を忘れ駆け出してしまった。子鮫を外して彼女を逃がしたときにはすでに、私の頭上に口を開けた大鮫の姿があった。
 目を閉じて暗闇に逃げ込むと、肉の裂ける音が、私の鼓膜をノコギリで削るみたいに嫌らしく響いた。
 頬についた飛沫からは、今まで触れたことのない温かみを感じた。
「大丈夫か?」
 ウルの声に目を開けたら、何度も目にしてきた彼の右腕が無くなっていた。
 探してきた空白に、私の何もかもが呑み込まれた気分に駆られた。
 その瞬間、わけが分からなくなって、彼の名前を叫んだ。ウルを含めた目に見える景色がすべて、溺れて滲み、ぼやけていくにつれ、悲鳴を止められなかった。
 まるで産声を上げた赤子みたいに、私は人目も憚らずに泣いた。
 初めて感じた涙の熱さに、どうしていいか分からなかった。
 自分の一部が失われたような錯覚に襲われては、右腕を何度も何度も擦った。腕はちゃんとあるのに、喪失感は私から離れてはくれなかった。
「問題ない。陣から出るな」
 止まらない涙を拭きながら、私は胸の中に漠然と浮かんできた言葉を口にした。
 これが、恐怖なんだ、と。
 ただ、その感情の背後から影のように付いてきたものの正体までをも見極めるには、背丈がもう少し必要だった。
「今何を考えてる?」
 鮫の雨がやみ、簡単な止血を済ませた後、ウルからそんなことを訊かれた。言葉にできないでいると、頭を揺するように撫でられた。
「『夢』はもうすぐそこだ。行くぞ」
 後悔と申し訳無さに襲われる中、私は色んなことを考えていた。一つはナザリさんのこと。あのときの質問の意図が、分かりかけた気がした。


 ウルは教会に入る前に、フルヴィエールの丘先からリヨン市内を一望した。鮫を吐き出した雲が晴れ、旧市街に並ぶ赤い屋根にオレンジ色が映え渡っていく。
 暮れていく夕陽に、初めて訪れた20世紀のフランスの街並み。それを眺めるウルの背中は、まるで切り取った一枚の宗教画みたいに見えた。
 一日早く来ていれば、前にナザリさんが言ったように感動的な光景となり得たのかもしれない。一面に散らばる鮫や人の死骸、そしてウルの隻腕に、私は真逆の印象を覚え、胸がちぎれるくらいに締め付けられた。


 大聖堂の造りは、古代図書館によく似ていた。天井はとても高く、避難民のすすり泣きがそこかしこから反響した。老若男女の誰もが、何が起きたのかも分からず、ただただ悲痛の想いに駆られていた。
 万華鏡のビーズのごとく美麗なステンドグラスがいくつか割れて、その下では鮫が破片にまみれていた。すでに死んでいたが、近寄って確認する者など一人もいなかった。
 彼女以外は。
 下見をする画家のように、その瞳は鮫の死骸を焼き付けていた。黒のレインコートに包まれた細身は、怯える民衆とは違い、すべてを受け入れる大木のような佇まいだった。
 異質。そんな印象の彼女が、私には最初バグに見えた。でもバグではなく、ウルの目的のものを持っていたのがその人だった。
 私は初めて、生存している『夢』の作り手と出会った。
 割れたガラスから、鮫と共に降ってきた雨の名残がぽたぽたと垂れている。
 彼女はやって来たウルを背中に従え、しばらくそこに溜まる水音に耳を澄ませていた。そして、まるで遺言でも録音するかのような口調で、話し始めた。
「子供の頃、近所に占いが趣味なおばあさんがいてね。偏屈だったけどよく当たるって評判で、友達が何人も手相を見てもらっては一喜一憂してた。私も何度か頼んだんだけど、今はあんたのを見る時期じゃないの一点張りでね、ようやく見てもらえたのは、あの人が亡くなる前日だった」
 彼女はきっと悟っていたのだろう。この世界の顛末を含めた、あらゆる疑問の答えを。振り返ったその微笑は清々しく、まだ若い顔立ちなのに、子を何人も産んだ包容力みたいな雰囲気を漂わせた。
「おばあさんの占いは当たってた。奇妙と苦悩の連続という、私の人生。おばあさんは正しかった。誰もあんたを見ないかもしれない、誰もあんたに気づかないかもしれない。苦しいだろうね、辛いだろうね、なんでどうしてなぜ私がって思うだろうね。でも忘れちゃあいけないよ。あんたがどれだけ孤独になっても、あんたが生きて、懸命に作り出していくものは、いつかきっと、誰かに紡がれていくのだから……」
 人類はあと1ヵ月もしないうちに鮫に食われる。けれどそんな結末は、今の彼女の形成に何ら関係しなかったように思えた。

 『夢』の作り手は得てして孤独。それは、馬の群れに紛れたロバのような存在であることを最初から自覚しているバグとは違い、後天的にそうなることが多いらしい。
 そこにいるのに、見てもらえない。声を上げているのに、聞き入れてもらえない。
 人には、理解者が必要だ。価値観が嵐のようにうねる人の世では、誰もがそれを求めている。他者との触れ合いとか、そういった肉体的なものではなく、もっと根本的なこと。どんなに恵まれても、手に入れたとしても、誰も自分を知らないのならば、そこに価値は生まれない。
 例えるなら、空白の中でただ一人立ち尽くしているようなもの。あるのは四方を囲む、真っ白な壁だけ。
 だから『夢』が生まれやすいのかもしれない。
 帰還した後に、ウルはそう教えてくれた。
 『夢』とは、いったい何なのだろう。作り手とは、バグとは……。
 それを採取する私たちは、いったい……。

 彼女はその網膜を感慨深く震わせながら、もう一度、人生をたしかめるかのようにこう問いかけた。
「おばあさんは、正しかったんだね……」
「そうかもな」とウルはいつにも増して穏やかな声で答えた。
「力になれる?」
「ああ。手を出してくれるか」
 手が繋がれると、ウルの左目が、続いて右目が青白い光を携えていく。
 周りの人たちは何の反応も示さなかった。見えていたのは私たちだけ。
 物語は、人知れぬところで生まれてくるのだと、私は知った。
「これで全部?」
「悪いが、二つまでなんだ。勝手に選ばせてもらったよ」
「そっか。また来ることはできないの?」
「来れることは来れるが、そのときにはもうあんたはいない」
 赤ん坊が雷みたいな鳴き声を上げた。
「どういう仕組み?」
「要するに複雑なんだ。一つ言えるのは、たとえ火にくべる薪のごとくあてがわれた存在であっても、その命は唯一無二だということだ」
 たとえ同じ時間に赴いたとしても、彼女がいた場所には違う誰かがいて、彼女のそれとは違う人生を送っていくことになる。
 そしてもう二度と、同じ『夢』は生まれない。
 まるで瞬間に咲く火花のように、儚く散る。
 初めて耳にした世界の理に、私は空気の塊に押し潰された錯覚に陥った。それが愕然と言われるものだと気づくまで、そう時間はかからなかったけれど。
「なるほど ── 」
 心の底から納得できたという顔で、彼女は私たちに微笑みかけてくれた。
「だから、あなたたちみたいな人が必要なんだね」
 必要かどうかは分からない。
 初めて目にするウルの、その無言の横顔が、そう答えているように見えた。彼女は何も言わず、書籍世界の男女が心を通わせたときみたいに、彼の頬にそっと唇をつけた。
 そして私のところに来て、いつの間にか震えていた手を優しく握ってくれた。
「あなたは、この世界を知っているのね」
 迷ったが、私は頷くことにした。
「私は、ずっと憎んでいた。世界を、運命ってものを……。でもね、世界は、とても素晴らしい。ただここが、私にとってそうじゃなかった。それだけのこと……」
 あなたは見つけてね。
 握られた手から、そんな言葉を受け取った気がした。
「会いに来てくれてありがとう。何度も何度も、見失って、分からなくなって、放り出そうとした ── 」
 でも、今日やっと、私が生きてきた意味というものを見つけられた気がする。
「私の『夢』をお願いね」


「 ── 時々ああいった作り手はいる。周りの目にはおかしな奴に映ってるかもしれないけどな。どこかバグに似てるところも、そんな印象を与えるんだろう」
 輸血と再生治療を受けたウルは、そう言って眠りについた。色々聞きたいことはあったが、私は彼の頬の温度をたしかめるだけにとどめて、司書長に会いに行った。




 last chapter 司書と夢商人




 古代図書館は恐ろしく広い。入口に面したロビーには転移床が配置され、館内の至るところに通じている。ロビーから見て西側は主に居住施設が並び、司書や夢商人、そしてキリくんたちロボットがそこで食事や睡眠を取ったりしている。今ウルが寝ている治療室もそちらの一画にある。
 東側は西側とは比べ物にならないほど奥行きがあり、数えきれない本棚が軍隊のごとくズラリと立ち並んでいる。
 司書長はロビーに近い東側で、ふわふわとソファーで漂いながら立体画面を広げていた。途中から見たので経緯は分からないが、どうやら例の宗教団体のニュースのようだ。新たな事件が起こり、警察が本部に家宅捜索に入ったらしい。
「茶番もいいとこね」
 立体画面が消えると不自然なまでにしんとした。キリくんたちの姿が見えない。沈黙が訪れると、空調の音だけが微かに聞こえる。
「珍しいことって続くのね。まさかウルさんまでケガして帰ってくるなんて。まあ、それでもちゃんと『夢』を回収してくるところはさすがランキング1位と言うべきかしらね」
 司書長は、ひどく普段通りに見えた。そのことが、私にはどこか不気味に感じた。
「それで? 私に聞きたいことがあるんじゃないの? 最近ずっとそんな顔して私を見ていたでしょ」
 私はひどく驚いた。彼女はずっと興味があるように見せて、実際は関心が無い人だと思っていたから。
「ドクさんに何か言われたのね」
 どうしてドクさんだと分かったのだろう。
「当然よ。だってウルさんならそんな回りくどいことするはずないもの」
 意味がよく分からなかったから、私は黙って続きを待った。
「とにかく、あなたは私を疑っている。そういうことよね?」
 戸惑ったが、頷くことにした。
「私は二人の失踪に関与している。そう答えたら、あなたはどうするの?」
 分からない。
 私は十分に考えてから、司書長の問いにそう答えた。
「分からない、か……」
 司書長は昆虫のような目で私をじっと覗き込み、含みを持たせるように繰り返してから、こう言った。
「いいよ。あなたが知りたいこと、なんだって答えてあげる。別に何がどうなろうとかまわないもの」
 なげやり、ではなく、本心からそう言っているように聞こえた。


 私の記憶の始まりは、いつも白い病室からだ。医師兼看護師のAIロボットが私を覗き込み、体温を計り、瞳にライトを当て、脳波の画面を凝視する。それから彼女はにっこり笑ってこう言うのだ。「おはよう、気分はどう?」と……。
 私には何も無かった。記憶も親も無く、名前さえ無かった。あったのは空白から目覚めたばかりの身体だけ。メディカルチェックにより推算された肉体年齢があてがわれるまで、自分の年齢すら知らなかった。
「時々いるのよ、あなたみたいな子は」
 それが彼女の精一杯の気遣いだと知るまで、そう時間はかからなかった。この本世界では、そんな子供など存在しない。人工出産が一般的な現代では個人情報は例外無く国管轄のサーバーに保存されるし、たとえ捨て子でも少し調べ上げれば親の祖父母の顔まで把握できる。
 つまり私は、非正規に生まれた子になる。
 もしくは、生まれた後に、データが消されたか。

 目覚めた私も例に漏れず、感情が希薄だった。けれど私には、人々には無い意欲があった。AIロボットでさえ舌を巻く程のスピードで、私はあらゆる知識を吸収した。
 空白を少しでも埋めるがごとく。
 そのおかげもあってか、12歳のとき特例で司書学校に入学することができた。それから1年後、卒業した私はウルと出会い、彼のパートナーとして今に至る。


「 ── どうして書籍世界には、本紙書籍を持ち込む必要があると思う?」
 質問の事柄を吟味していると、司書長がそんな話を始めた。
「どうして『夢』の回収に、司書を帯同させると思う? どうして夢商人は、転移陣の上で、司書の手を繋ぐのだと思う?」
 どうしてと訊かれても、それが司書学校で学んだ、この仕事のルールだ。司書は事前にその世界の情報を把握し、夢商人のガイド役となる。本紙書籍はその世界に通ずる鍵のようなもの。
 これらの常識を不思議に思ったことはない。だけどこうやって尋ねられたら、その理由を問わずにはいられなかった。
「そもそも、書籍世界とは何?」
 作者が書いた本の世界だ。私たちはその中に入り込み、現実と同じようにその空気を肌で感じることができる。
 そんな私の常識に、司書長は首を振った。
「それだけなら、そこらのキモデブが鼻息荒くして自分をカスタマイズした後に俺ツエーできる、量産型仮想体験ゲームで十分よね。ならどうして私たちは、" わざわざ本を読み、内容を覚えて、その本紙書籍を大層大事に抱えて、夢商人と共に行く必要があるの? "」
 私は沈黙で応じるしかなかった。
「書籍世界は、巷によくあるような、別世界を疑似体験できる仮想空間とはまったくの別物なの」
 夢商人と司書にだけ探検を許された架空の世界。
 それだけではないのだと司書長は言う。
「『裏舞台』のことを、ウルさんは何て説明してくれた?」
 文章の潜在意識。
「なかなかロマンチックな例えだけど、それだけじゃ不十分。正確には、その潜在意識に触れた、司書の潜在意識。司書が事前に本を読むのは、その世界の情報とストーリーを把握するだけじゃない。本当の理由は、司書が作者の想いを汲み取ること。意識的か無意識かは問題じゃない。文章を読んで想いに触れた司書の心が、映し出した世界。それが書籍世界なの」
 書籍世界とは、その司書独自の読解と想像により構築される、唯一無二の世界。
 それは、人によってまるで違う。そして背丈が伸びていくように、その心も同じままではいられない。だから『裏舞台』では、同じ人は二度と現れないのだと司書長は言う。
「夢商人とは、司書と本紙書籍を繋ぐ架け橋。あなたが探検してきた書籍世界は、あなたが作り出したものなの。そう、ねえ、もう分かったでしょう ── 」
 バグとは、あなたの一部。論理的に説明することができない、あなたにとっての " なにか "。
「それは個人差があるけど、だいたいは10~15歳の間に出現が始まる。あなたの初経が始まったみたいにね」
 たしかに、時期的には一致する。
「私も彼と別れる前は、よくバグに遭遇したわ」
 彼と聞いて、最初は分からなかった。忘れていた。
 彼女が、元司書だったことを。
「私も以前はあなたたちみたいに書籍世界を旅していた。夢商人のパートナーとしてね。今はもうあまり実感は残ってないけれど、それなりに充実してたと思う。彼と一緒にいると時間を忘れることが多かった」
 間を置くように息をついた司書長は、ほんの一瞬だけ、遠い目をしてみせた。
「きっかけは、何だったのかなあ……今でも……ううん、今だからこそ分かんなくなってるのかもね。とにかく、彼は私から本紙書籍を取り上げ、私だけを転移陣に詰め込んで、一人、書籍世界に残った。それから二度と会ってない」
 そのとき、生まれて初めて泣いたのだと、司書長は教えてくれた。
「不思議な体験だったなあ。何て言うか、胸の中で膨らんでいくのよ。" この身体の中にあるべきではないと悟っているのに、それでも決して手放してはいけないと感じてしまうようなもの " ってやつが。それがどんどんどんどん大きくなって、私を内から破裂させようとするの。こういうのって、分かる?」
 分かる気がする。
 私は胸の中でそう答えた。
「ウルさんなら分かってくれるかな。あの人も、私と同じように捨てられた身だから……ううん、それは正しくないかな。彼女はウルさんを欲しくなった。でもウルさんは誰のものにもならなかった」
 固まる私に、司書長は「失言失言」とはぐらかしながら笑った。
「とにかく、私はそこで彼と別れて、一人で古代図書館に帰還した。私は何度も上に嘆願したの。もう一度、あの書籍世界に私を送り込んでって。でも " 元 " となる本紙書籍は彼が持っていたし、上も相手にしてくれなかった。キミは疲れているんだよ、って言われて、しばらく休んだらその通りかもって思えるようになった。それからはずっとこんな調子よ。" 私の胸には、もう何も残ってない " 」
 かける言葉が見つからない中、私の頭にはウルのことと、こんな単語が浮かんでいた。
 同属嫌悪。
 司書長はもしかしたら、あのときのナザリさんに昔の自分を見つけていたのかもしれない。
「彼は、どうして私を置いていったんだろう」
 言葉を見つけられないでいると、司書長はいつもの顔と口調に戻した。
「私の仕事はここの管理と、あなたたち司書と夢商人の言動を上に報告すること。もちろん人道的な範囲でね」
 彼女の言う上というのは、政府にあたる。
「私が言っても何の信憑性も無いことだとは思うけど、事実だけを言うわね。上も私も、別に悪意を持ってそんなことをしているわけじゃない。ただ知りたいのよ、未知を。『夢』は、司書と夢商人が描いた書籍世界に生まれる。だったらその人たちを知りたいと思うのは当然の反応じゃない?」
 否定する材料は見つけられなかった。
「なぜかは分からないけれど、ドクさんにはそれが不快だったんでしょう。もしくは、" 不都合 " だった。どっちでもいいんだけどね。とにかく私は、二人の失踪に関与してない。まあ信じなくてもいいんだけどね。ただ私はこれでもここの管理者だから、一応義務は果たしてみた。調べてみたのよ、どうして本紙書籍のデータが消えたのか」
 司書長は宙に現れた立体画面をスワイプし、私に見せた。
 ドクさんが、転移床のシステムに何か細工をしている録画映像を。
「確証は無い。でも、可能性はあるんじゃないかなあ。ねぇ、私はあの子がおかしくなってたことには気づいてたけど、ドクさんはどうだった? 何か変わったところは無かった?」

" 最近、ドクがおかしいの "

「そっか……私のパートナーも、最後のほうは様子が変だった。何がどうおかしかったのかは、今でも上手く言えない。良いとか悪いとか、そんな物差しで計れるようなことにも思えない。 " ただ、変わっていったの " 。私が、そうだったように。いつからだったかな。たぶん ── 」
 バグとよく遭遇するようになってから。
 その声と館内の空調の音が、やけにうるさく響いた。
「政府は、何かを懸念してる。それは抽象的な主張表現と蚊に刺されたくらいの嫌がらせしかできない宗教団体にじゃない。" 彼ら " はこの世界の、とても大切な仕組みというものを知ってるみたい。宗教団体は何かを変えたくて、政府は変えたくない。そして夢商人とディグニティ商会がその中間に立っている」
 その中立の立場にいたドクさんは、何かを知ってしまった、もしくは知りたくなってしまったのかもしれない、と司書長は推測した。
「あなたは、この世界が間違ってると思う? 平均寿命と人口が反比例し、争いも飢餓も無ければ、苦しみも愛も無い。誰も、誰もを恨まない。意欲を無くした人々は、ただただ昆虫のように平然と毎日を過ごし、無関心で、それでいて『夢』だけには群がって手を伸ばす。異常だと思う?」
 かつて人は、あらゆるものを欲していた。そして生み出してきた。それこそ神の真似事のように。
 新しいものが生まれるたびに、人は得、同時にいくつもの代償を捧げてきた。
 困難を切り開き、現状を打破するたびに、何かを削ってきた。その削りカスのようなものが、どんどんと積み重ねられた。
 やがてそれすらも消すことができるようになると、人はまた新しいものを欲した。実に存在しないと見るや、虚像に顔を突っ込んだ。
 次第に現実と幻想の境となる感覚(フィルター)が薄れ、外界の刺激を直接受け取るにつれ、人は、これまでの人とは違う軌跡を歩み出した。
 その変化は月日を追うごとに深くなった。
 まず、本が読まれなくなった。
 昆虫を踏み潰すみたいに、人が人を殺した。
 傷つけ合いが無くなると、静寂が押し寄せた。
 赤子が泣かなくなった。
 最後には、人は歌をうたわなくなった。
 機械が手間を背負い、科学が苦しみや痛みを取り払うと、人は、何も生み出せなくなった。
 生み出す価値や意味すらも、見失った。
 そしていつしか、人は『夢』に手を伸ばした。『夢』を映し出し、回収し、独占した。まるで脱皮した殻でも名残惜しむかのように、惨めに、不合理に、そして真剣に。
「あなたは、そんな世界をどう思う?」
 私には答えられなかった。私もまた、その世界の一員なのだから。
「私にはね、その感情の推移が、人が築き上げてきた正しい道筋のようにも思えるの」
 どこか、自分に言い聞かせるような口調だった。
「きっと人は、こうやって進化せざるを得なかったんだよ」
 ソファーがゆっくりと降りてくる。転移床に着地すると、司書長はそれをどこかに転送しては二本足で立ち、私にこう告げた。
「ウルさんの元パートナーやあなた自身のことは、ウルさんから直接聞きなさい。そのほうが正しいことだと思うから」
 私は、もう一度言ってくれと頼んだ。
「だから、あなたをパートナーに迎え入れた経緯のこと……って、あなた聞いてないの?」
 司書長は本当に驚いたといった顔で、私の目を覗き込んだ。
「5年前、道端に捨てられていたあなたを保護したのは、ウルさんなのよ」
 彼女が嘘をついているようには見えなかった。
「人生って、何なんだろうね」
 その言葉を残して、司書長は歩いて自室へと戻っていった。慣れないその歩き方が、背中が、私にはなにか、彼女の言葉にできなかった想いのようなものを、反映しているようにも見えた。
 彼女が顔を変える理由が、私にはずっと共感できなかった。でもこのとき初めて、それが意味のあることのようにも感じた。
 自分を消してしまいたいようにも。
 失(な)くした自分を、取り戻したいようにも。

" 彼はどうして、私を置いていったんだろう "

 そして、答えを見つけたがっているようにも。


 ロビーで待っていたキリくんから、言伝てを聞かされた。
「ウルさんから伝言です。屋上で待っている、と」


 ウルとの出会いを、私はよく覚えている。
 少し眠そうな顔をした彼は、私の目をじっと覗き込むと、唇の端をそっと緩めて、手を差し出した。
「ウルだ。これからよろしくな」
 あの手の感触は、私の記憶の中でもっとも鮮明に輝いている。


「 ── 遥か後世にまで残り続ける本紙書籍のようにドラマチックな出会いだったら、俺もそれなりに雰囲気を出して語ったりするんだが、まあ現実ってやつはなかなか、小説より奇となることは無いらしい」
 冬の匂いのする風が、眉まで伸びたウルの黒髪をふわりと揺らす。星天を仰ぐその佇まいが、どこか遠い存在に感じてしまうのは、いまだに彼のことをほとんど知らないからだろうか。
「男に服と下着を一緒くたに脱がされた少女みたいな顔してるな、お嬢さん」
 右腕がもう元に戻っていたせいか、私はいくらか尖った口調で続きを催促してしまった。
 ウルは出会った頃と同じような顔をして、星に語りかけるみたいに話した。
「この世界でも、昔はたくさんの人間が『夢』を生み出していたらしい。それこそ思春期のガキみたいにな。数々の想いが生まれてきたが、いつだって選ばれたのはほんの一握りだ。書籍世界(あっち)で屍と化した作り手同様に、報われなかった『夢』は数えきれない。いつの時代の誰かは忘れたが、そのことをこんな風に表現していたよ。悲願は光となり、やがては夜空で輝く存在へと成り代わる……」
 ウルは私と組む前、ある女性と書籍世界を旅していた。
「今の常識に照らし合わせてみれば、これまでの人の願いなんてものは逃避や妄想と変わらない。現代の知識を駆使してやればものの数分で論破できるだろうさ。だが当時のそれらは、とても純粋だった。澄みきっていた。重要なのはそこなんだ。正しいか間違ってるかじゃない。そういった無垢なる想いこそが『夢』へと成り代わるんだ」
 前パートナーは、司書長がされたのと同じことをウルにした。本紙書籍を抱えたまま、ウルの手を離し、転移陣から浮かび上がるライトグリーンの光から逃れた。

" 彼女はウルさんを欲しくなった。でもウルさんは誰のものにもならなかった "

 だから……?
 だからその人は、ウルと……。
「彼女(あいつ)も司書長も、もしかしたらそんな、報われなかった『夢』の作り手と呼べるのかもしれない。司書長はこの世界に適応し、あいつはできなかった……もしくは、したくなかった。言葉にしたらその一文で済むが、そこにはたくさんの背景が隠れている。見えなくても、そこにちゃんと存在している。俺たちがあっちで見てきた人々と同じようにな」

 ウルは話してくれた。前パートナーのこと。宗教団体と政府のこと。そして、私のことを……。

「この世界には苦しみが無い。ゆえに、愛も憎悪も無い。社会が整然とされ、秩序が完璧に近づくたびに、人は何かを失っていった。無慈悲が無くなり、理不尽が消えたその一方で、人口は目に見えて減少した。痛みも不安も獲得の喜びすらも無いから、日常に張りが出ないんだろうな。どうでもよくなっちまう。精子や卵子提供どころか食事すら摂るのも忘れて、気づかぬうちにくたばっちまう。中には健康保全機器の電源を切って、クスリで楽に逝っちまう人間も少なくないらしい」
 ただ息をするだけの者。
 司書長のように、苦しみを実感できずに、出口の無い迷路をさ迷っている者。
 そんな国民を危惧した政府の立案したものが、司書と夢商人を使った『夢』プロジェクト。
 またの名を、人類救済計画。
「あくまでも上層部に限った話だがな ── 」
 そう前置きして、ウルはこの世界の仕組みを教えてくれた。
「政府、宗教団体、そして『夢』を売るディグニティ商会はグルだ。裏で繋がってる」
 古代図書館が世界各地に建てられた何百年も前から、『夢』は研究されてきた。だがいまだにその詳細は解明されていない。
 そこで政府は、民間に協力を求めた。それがディグニティ商会。『夢』を求める消費者に供給し、その見返りとして大金と、データを採取する。
 つまり『夢』を堪能し独占する人の観察……主に脳の働きを事細かに調査(監視)するというのだ。落札額の一部はその研究費用にあてられる。
「当然違法だが、騒ぎ止める奴はいない。もともと自他への関心が希薄な奴ばかりだし、『夢』を買った当人は " いまだに『夢』の世界だ "」
 『夢』をみたきり、目覚めない。戻ってこないのだという。
「それがどう救済に繋がるのかは分からないが、なかなか興味深いデータは得られているらしい。もっとも根幹的なところまではたどり着けていないみたいだけどな。政府と宗教団体の軋轢は、さっきも言った通り茶番だ。末端同士はそれなりに真面目に小競り合いをしているみたいだが、上層部の関係は21世紀初頭に流行ったママ友のお茶会とたいして変わらない」
 馴れ合いにも取れるその関係には、二つの動機があるのだとウルは言う。
「注目を浴びて関心を引きたいんだろうな。それほどまでにここの人類は、人生を謳歌し過ぎてる」
 もう一つは " 歴史に残すため " だとウルは考える。
「いつか誰かが、この出来事を本にしてくれることを信じて」
 どういう意味かと訊かずにはいられなかった。
「俺がそんな事実を知っているのは、実際にこの目で見てきたからだ」
 ウルは、本世界を詳細に描いた書籍世界を探検したことがあるという。
 つまりノンフィクション。
 ノンフィクションの書籍世界への侵入は、夢商人と司書にとっての禁忌(タブー)中の禁忌だ。政府に知られたら資格停止どころの話ではない。
「そこに、あいつは残った」
 ウルの前パートナーは、その書籍世界に残った。まるで罪と後悔の証拠を消すみたいに、その本紙書籍を胸に抱えたまま……。
 書籍世界とは、文章の潜在意識に触れた司書の潜在意識が映し出す世界。作者の想いを汲み取った読者が、新たに創造する世界。
 もしかしたら彼女はそこで、その世界のウルに会いに行ったのかもしれない。
 私は、そんな風に感じた。ひょっとしたら、ドクさんたちも……。
「司書学校に入るには、ある資格が必要だ。いや、資質と言ったほうが適しているか」
 急に私の話に切り替わったので、頭を追い付かせるのに苦労した。
「いくら感情が希薄とはいえ、人は大なり小なり刺激に反応するものだ。旨い飯とか、遺伝子が強制的に過敏になっちまう性癖や異性の姿とかにはな。だが本を読むってことには、それなりに意欲を要する。活字のみとなる本紙書籍などは特にな。どこぞの誰かみたいに眠くなられたら困るんだ。そこで政府と宗教団体は、そういう意欲のある子供を育てようとした。簡単なことだ。人口出産でなく、古代人たちと同じように、性交して妊娠する。そうやって出産した子供は、脳のある一部に欠陥を持つ例が少なくない。実はその欠陥部分が、意欲や感受性を生み出すために必要らしい。だが同時にデメリットもある。感情の抑制が難しくなる時期に襲われたり、一時的な記憶障害におかされたりする」
 つまり私は、そうやって生まれてきたのだ。
 いや、もしかしたら私だけでなく、ナザリさんや司書長たちも……。
「下の奴らのバカ騒ぎにでも巻き込まれたのかは定かではないが、とにかく俺はお前を見つけて施設に保護した。それからすったもんだがあり、新しい司書を探しているときにお前と再会した ── 」
 何かの縁だと思った。
 ウルはそう言って、私をパートナーに選んだのだと教えてくれた。
「本音を言えば俺は世の中がどうなろうと知ったこっちゃない。ただ知りたいんだ。『夢』の謎を。どこから来てどこに行くのか。俺の中を満たしてくれるあれは、いったい何なのかを……」
 知ってる。ウルはそういう人だ。
 だって、私は一番近くでそれを見てきたのだから。
「俺はいつだって、自分のために生きてる。お前もこれからはそうしろ。壊したくなったら壊せばいい。泣きたくなったら泣けばいい。もしこれからも司書として俺と書籍世界を旅していくのなら、どんなことがあってもお前を守っていくよ」
 それが夢商人の義務だから。
 ウルはそれを言わなかったし、私も訊かなかった。訊くのが怖かったのもあるけど、それ以上に、彼の気持ちを知るのが怖かった。
 ……そうか。そうだったんだ。
 最初は理解できなかった。ウルと司書長の前パートナーが、どうして何も言わずに離れることを選んだのかが。
 だけどこのとき、その答えの輪郭に触れられたような気がした。
「感情の無い人間なんていない」
 叶わなかった輝きに目を細めながら、ウルはそう言った。
「それは失ったように見えるだけで、本当は誰の中にも存在してる。『裏舞台』の理屈のようにな。目を見開いて、耳を澄ましていれば、見えない聞こえないものなんて無い」
 苦しみも、この世にはある。それはきっと、私たちに必要なものなのだ。




「 ── ねえねえ、騙されたと思って食べてみなって! チョー旨いんだから!」
 あれから数ヶ月。司書長は前にも増して絡んでくるようになった。私がどんなに拒否しても、やたらと彼女の好物を押し付けてくる。私の口に合うものも中にはあったが、たいていは食欲が失せるものばかり。正直鬱陶しい。
 でも、不快ではなかった。
「マヨネーズの良さが分からないとは、まだまだお子様ねぇ」
 司書長は前よりも自然に笑うようになった。昨日と少しも変わらない顔立ちで。服装は相変わらず不謹慎なものばかりだけれど。
 変わらない笑顔を見るのは、どこか心地良かった。


 ナザリさんたちはまだ帰って来ていない。心配無いと言ったら嘘になるけど、私は彼らの選択を尊重することにした。
「きっとまた会えますよ」
 キリくんの言葉を、信じてみようと思えるようになった。



 今日も私は、世界を生きる。
 さまざまな想いに触れて、言葉が見つからない何かを探している。
「 ── 竜とは、いったい何なんだろうな」
 荒廃した世界で、崖先に立ったウルは、夕陽を背中に飛んで行く竜の影を、目を細くして見つめていた。
 竜が登場する世界は数えきれないほどある。古代の人々が夢想したその空想上の怪物を語るとき、ウルは少しだけ、いつもとは違う輝きを、その黒い瞳に浮かべる。
「人はなぜこんなに、竜を想い描いたんだろう」
 小説の言葉を借りれば、明日に目を輝かせる少年のような瞳をして、とでも言うのだろうか。
 私は、その瞳に胸の奥が震わされてしまう。
 これを何と呼ぶのか、今の私にはまだ分からない。
 だけど、いつか、きっと……。




 はじまりは、一冊の本だったのかもしれない。
 ページをパラパラとめくるように、さまざまな願いが垣間見られては忘れ去られた。
 私たちはその世界に入って初めて、そこに捧げられた熱量、込められた想いというものを確認できる。
 もしかしたらそれは、人々が培ってきた歴史と呼べるのかもしれない。誰もが誰もを知らなくて、でもたしかにそこに命はあって、数えきれない想いが、さまざまな物語を生み出してきた。
 そして、紡がれていく。かつての正義や悪のように、色んなものにかたちを代えて……。

 ウルと私は、今日もその『夢』を探しに行く。
 何のために?
 何のためかも、分からずに。
 何のためかを、見つけるために。






 END

名前のない作者たち

執筆の狙い

作者 跳ね馬
sp49-98-152-239.msd.spmode.ne.jp

構想している長編をおもいっきり凝縮した作品です。
そのため、いくらか側面的な視点から物語が描写・展開されていきます。
ストーリーへのご感想はもちろん、「ここは冗長」「ここは蛇足」「ここはもっと掘り下げるべき」等々、構成に関与するご意見もいただけたら嬉しいです。

余談ですが、この物語は「読者」ではなく「作り手」の立場におられる方々にぜひ読んでほしいと思って書いた作品です(誇大誇張)。

何かを感じていただけたら幸いです。


※久しぶりの投稿なので、漢字にルビが付いてないかもしれません。ご了承ください。

コメント

たまゆら
p1817002-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

章タイトルはとても魅力的です。
でも、どうして物語をこの場面から始めたのでしょう。
小説の試し読みをしていますか。いきなり戦いの場面から始まる作品は少ないと思いますよ。
せっかく夢商人と古代図書館という引き込みのあるタイトルがあるのですから、ここを前面に押し出すべきです。インパクトのある冒頭、この言葉に踊らされすぎかもしれませんね。
まずは新人賞受賞作の試し読みをして、どのような冒頭に引き込まれるか読むことをお勧めします。そのうえで応募作の講評を読めば、自分に何が欠けているのか気づくはずです。
 
じつは私も今月締め切りの長編の新人賞に応募したばかりで、作品が気になっていました。冒頭だけしか読んでいませんが、はてなと思った箇所を少し書かせてもらいます。

・物語舞台が立ち上がっていない。
物語は根を下ろす舞台が必要です。時代背景や登場人物、それが早い段階で提示されなければなりません。
時代は、舞台はどこ。主人公の名前は。
いつまでも提示されないと苛々が募り、読み手にストレスが蓄積されます。主人公に寄り添って読み進めたいのに、その読み手を蔑ろにして物語が進んでもついていけなくなります。
 
・いきなり視点の狂いもあります。
>炎は私を呑み込む寸前、足元の魔法陣から浮かんだ淡い光に二極化され、背後に二列の火柱を走らせた。
・カメラをどこに設置していますか。
一人称なら、私は炎に飲み込まれる寸前~となるはずです。カメラを引いてはいけません。
 
主人公は幽霊のように茫洋としていますが、ウルは魅力的な気もするので、読み進めれば面白い作品なのかもしれませんが、いかんせん読み進めるのに苦労を強いられる作品です。
司書長も好みでしかないと思われますが、軽すぎる。こういうキャラは作者が書いていて楽しいかもしれませんが、大人の読み手には受け入れられない気もします。別サイトならわかりませんが。
いずれにしろ古代図書館という稀有な場所を安っぽくさせているとしか思えないキャラ設定です。舞台を活かす脇役を固めるべきかもしれません。
 
きつい感想でごめんなさいね。

跳ね馬
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たまゆらさん、コメントありがとうございます。率直なご意見は嬉しいです。


>>・いきなり視点の狂いもあります。
>>・カメラをどこに設置していますか。

そういう風に読まれるとは思いませんでした。これは大きな発見です。とてもありがたいです。

一人称なので、カメラはずっと「私」です。これは魔方陣の光に二極化された炎を、振り向いた「私」が見ている描写として書いたつもりなのですが、上手く伝わりませんでしたね。
個人的には「私」から見た「炎」を描写しているので、視点が狂っているとは思いません。が、誤解を招く書き方だったというのは分かって良かったです。


その他のご指摘については「冒頭だけでなく、最後まで読んでもらうしかない」というのが最適な返答となるでしょうか。読む気になれない、苦労を強いられると言われれば、それまでです。己の力量不足が原因です。


>>でも、どうして物語をこの場面から始めたのでしょう。

たしかに、いくらか稚拙な始まりかもしれませんが、「夢商人」と「ウル」のイメージを端的に掴ませるにはこれしか浮かびませんでした。好まれないのは仕方ないです。

もう一つは「竜」を出したかったからです。その理由は、後にウルの心情を回収するフラグだからです。なのでもし知りたければ読んでもらうしかありません。


>>・物語舞台が立ち上がっていない。
>>物語は根を下ろす舞台が必要です。時代背景や登場人物、それが早い段階で提示されなければなりません。

竜を倒し『夢』を回収し帰還した後に舞台が現れますが、そこに行くまでに飽きられてしまうということですね。


>>時代は、舞台はどこ。主人公の名前は。
いつまでも提示されないと苛々が募り、読み手にストレスが蓄積されます。主人公に寄り添って読み進めたいのに、その読み手を蔑ろにして物語が進んでもついていけなくなります。

名前の無い主人公など珍しくないと思うのですが……。
タイトルから察していただけるとありがたいですが、それも冒頭部分を読んだだけでは分からないかと思います。


>>司書長も好みでしかないと思われますが、軽すぎる。こういうキャラは作者が書いていて楽しいかもしれませんが、大人の読み手には受け入れられない気もします。

むしろバリバリ大人向けに書いていたので、こういうご感想は参考になります。大人の読者にも第一印象が重要ということですね。当然ながら、司書長にも読み進めていけば見えてくる背景があります。


やはり、いただいたご意見にはすべて「冒頭以降も読んでもらえれば分かる」という返答が適切なとおり、結局のところ「読ませる力が無い」この一言につきますね。
冒頭だけにしかないバトルも、読み手の意欲を削ぐ形になっていたと知れた事は発見でした。ありがとうございました。

may
pw126245158088.16.panda-world.ne.jp

一見したところ長編ファンタジーですね!じっくり読み応えがありそうです。私も、お礼の気持ちをこめて、感想書かせて頂こうと思いますが、なんせ長いのでよく読んでからまた後で書きますね。

may
pw126193122197.28.panda-world.ne.jp

素直な感想を書かせていただきます。まず、ウルと、私、他のキャラクターのキャラ立ちがいまいちかなあと。人間性や心理描写が無いから感情移入しにくいです。世界感は魅力的でした。RPG的なイメージを持ちました。作者さまの頭の中では、ファンタジックな世界観がきめ細かく設定されているのでしょう、せっかく魔法がでてくるのだから、それを活かしてハリーポッターばりの物語ができると思いました。ただ、やっぱり人が主人公である以上何かの人間味を感じられたらもっと読みやすかったなあと。残念ながら読みづらかったです。文章は、説明と描写が両方バランスよくあったと思います。竜と戦って倒す冒頭のシーンはよく描けていました。主人公の成長とか、心境の変化や、心のきず(10歳のころの記憶が抜けている)などがもっと読みたかったです。
すみません、偉そうに失礼しました。でもこれだけ長い長編を書けるのは素直にすごいと思いました!お疲れ様でした。

跳ね馬
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may.さん、ご感想ありがとうございます。大変参考になりました。

作り手側である自分の重視しているもの・伝えたいものが、読者側が求めているものと大きく隔てていることが分かって良かったです。
独りよがりな文書、とでも言いますか……こうして客観的なご意見をいただくと、それをきちんと認識することができます。
大変ありがたいです。


世界観は魅力と感じてくださった事だけが救いです。
これをどうにかスムーズに分かりやすく、そして面白く読んでもらえるように頑張りたいと思います。
ありがとうございました。

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