作家でごはん!鍛練場
匿名希望★

BL『黒部』18禁

[1]

 僕の仕事は探偵。
 そう、探偵である。

 今日も今日とて、書類の山に埋もれているかと思えば、いきなりの依頼電話にあたふたする。
 かと思えば、いたずら電話だったりして、僕はご立腹である。

「すいませーん、ラーメン55さんですか? チャーシュー麺一つ」
「あのー、うちはラーメン屋さんじゃないんですが」
「あはは、知ってるよ。あんた、俺をずっと尾けてる探偵だろ」
「どきっ」
「やっぱりね、俺の名前は黒部。下の名前はあんたも知っているだろう」
「……」
「ふうん、やっぱりね。どんな用事で付け狙ってるのかは想像つかないね。泣かせた女の数は数知れず。いったい、どいつが俺を尾けようなんて頼んだんだ」
「……」
「言うわけないか。まあ、今日のところはこの辺にしておいてやるよ。じゃーね」
 そう言って、電話は乱暴に、ではなく静かに切れた。

[2]

 僕は茫然と天井を見上げた。
 謎の四角い柄が並ぶ白っぽい天井を。もうすっかり煤けて黄色っぽくなっている。近いうちに張り替えたいけれど、うちにそんな予算は無い。

「はあ、やれやれ」
 そう一人言を言って、問題の書類を手に取った。
「黒部三郎。外資系バイヤー。三十二才。ふん、確かに」
 真っ黒い髪をオールバックにして、額は険しく、眉毛はやはり真っ黒できりっとしている。目は一重だが黒目勝ちでいかにも女性が好きそうだ。結んだ唇は薄く冷血さがうかがえた。

 僕の仕事は探偵。
 それはさっきも申し上げた。

 実のところ、一人で経営している。雇い人もいなければ、助手のような人もいないし、部下もいない。

 僕の専門は、女性が手を上げた男性を落とす、色恋人。

 さて、今回のターゲットはどうなりますやら。

[3]

 僕の経営する『安野作法所』の看板をビルの外に出て見上げる。雑居ビルは四階建てで、僕の事務所は三階にある。

 表向きは『安野作法所』としてあるが、もちろん中身は探偵事務所なのだ。
 そう言えば、さっきの黒部もここの電話番号を知って電話を掛けてきたのかな。

 まあ、悩んでも仕方が無い。

 僕はいつも通り、黒部の勤めるオフィスがある△△町へと行こうとした。
 その時、背後に殺気を感じた。
 急いで、振り返る。

 目の前に怪しい人物が。真っ黒のスーツに、真っ黒の帽子ときたら、不審者以外の何者でもない。

「誰ですか」
 僕のいきなりの反応に驚いた様子の不審者は、数秒の間を置いて、笑い出した。

「な、なに」
「ぶは、確かに、足立の言った通りだ。常人じゃねえな」
「その声」
「そうそう、黒部さんですよー。あんたが恋い焦がれている様子だから、会いに来てやったんだ」
「な」

 そう言って、真っ黒い帽子を取ったのは確かに黒部三郎だった。
 少しだけ、ご自慢なんだろう真っ黒いオールバックが乱れている。

 そんな彼にどきんとしてしまった。

 こんなことではいけない。
 落とす方の僕が振り回されてどうするんだ。

[4]

「ふうん、ちゃんと見たの初めてだけど、まあまあ可愛いじゃん」
「な、何言ってるんですか。往来で」
「なんか文句ある」
「な、無いですが。僕は」

 すると、いきなり黒部が僕の腕を取った。左手で右手首を掴まれる。

「事務所行こーよ」
「へ」

◆◇◆

「あ、あ、んん」
「へえ、感度いいじゃん」
「あ、や、そこ」
「慣れてるの。やられてる顔も可愛いね」
「ん、あ、ああ」
「もういっちゃったの」
「や、もう」
「俺がいくまでもうちょっとね」
「は、あん」

 結局、何が何か分からないまま、事務所でやられてしまった。
 しかも、三回もいかされた。

 僕、我慢できる事には自信があるのに。

 黒部は向こうを向いてスーツを着直している。
 背中もなかなか逞しくて格好いい。

 いやいやいや、何を考えているんだ、僕は。

「こっち見んなよ、すけべ」
「み、見てないよ」

 そんなことを言っているうちに、黒部が着終わってしまった。
 僕は呆然とそれを見ていたので、パンツ一丁のままだ。

「それじゃあね、白ボクサーパンツの君」
「さ、さっさと帰れ」

[5]

「で?」
 黒部はそう言って、頭をかいた。

 僕は何も言い返せなかった。

 黒部が上半身を反らして小さく息を吐いた。
「俺は、今まで死ぬほど女を泣かせて来たんだが、男とやったのは初めてなんだがな」

「でも、足立さんは」
「ああん! 足立は関係ねーよ。あれは俺の親友なの」
「でも、親友って」
「馬鹿か。もういいわ」

 僕が黙っていると、黒部はソファーから立ち上がって、ソファーの脚を蹴った。

「今度、俺を見たら、他人と思え」
「黒部」

 黒部は僕をぎろりと睨む。
 そのまま、事務所を出て行ってしまった。

[6]

「あ、は、黒部」

 黒部が僕の敏感な乳首をつまむ。僕は胸を反らせて必死に快感に耐える。

「く」
「どうした、目が潤んでるぞ」
「ばっか、あん」

 執拗に乳首を責められて、声が上がる。腰が浮き上がって、黒部のものを求める。

「あ、黒部、好きだ」

 黒部の動きが止まる。

「今、好きって言わなかった」
「しまっ」

 慌てて、両手で口を塞ぐが、時すでに遅し。
 黒部はにやーっと笑って、僕の顔を覗き込んだ。

「もう一回言ってみ。ん」
「やだっ」

 枕を顔に当てて防ぐと、枕を取ろうとする。
 これは何だ。今までだって、こんなやり取りをしたターゲットはいた。

 僕、人を好きになったの初めて。かも。

[7]

 依頼人からファックスが来た。
 
 真面目そうな固い文字が並んでいる。濃い鉛筆で書かれた様子で、Bだろうか、依頼人の性格がうかがえた。

『探偵様

 依頼の件はどうなりましたでしょうか?
 ターゲット黒部三郎はいまだ元気な様です。あなたは相手を攪乱させ絶望の淵に落とす人物だと聞いております。
 こちらは高い金額を先にお支払しております。
 成果が出ないようでしたら全額返金と賠償金もご考慮下さい。

 愛を込めて、B子』

 僕は盛大なため息を吐いた。
 ファックス用紙を食べてしまいたい。

 こんな依頼は無かった事にしてしまいたい。
 そうすれば、あの厄介な黒部とも会わずに。

 いや、今、ぼくの胸に浮かんだ感情は何だ。
 胸がじくんとした。

[8]

「遊園地行こーぜ」
 黒部が雑誌に目を落としながら言った。

 僕の事務所のソファーにいつの間にか、当たり前のように居座っている。

「そんな事より、仕事は大丈夫なんですか、お兄さん」
「いーの、いーの。俺、今日は外回りの日だから。これ読み終わったら帰るよ」
「はあ、気楽な事で」

 黒部はそれには答えず、ソファーの肘掛けを左足で蹴った。

「で、どーなんだよ、行くの遊園地?」
「行きません」
「えー、なんでー」
「目立ちたくないんだよ」
「そう言えば探偵だったな。つまんねーの」

 その言葉にずきんと来た。目の前が真っ暗になった。
 もし、この時間が終われば、僕達はどうなってしまうのか。

 またいつものように、誰かに抱かれる仕事に戻るのか。

[9]

 僕は事務所の床に頭を擦り付けた。

「すみません!」

 女性、B子さん、は黙っている。冷ややかな視線を感じる。
 ような気がした。

「土下座なんてして、どうしようって言うんですか」
「はい」
「貴方、おっしゃいましたよね。絶対、落ち込ませて見せるって。上手く行けば、自殺にまで追い込むって」
「…………」
「それがどういうことですか、これは」
「すみません」
「…………」
「彼を愛してしまったんです」
 数秒の間があった。
「そうですか。分かりました」
「僕は」
「もう結構です。お金も返して頂かなくて結構です。同じ穴の狢にならない事を期待しますわ」

 その言葉の後、ハイヒールの音が聞こえ、顔を上げると、女性がドアを出て行く所だった。

[10]

『Hello!!
I am Kurobe.
So long passed?!
Are you OK?
I miss you...
That's a fact, it's true.

最近、どうしてる?
まさか他の男の上であんあん言ってないだろうな?
俺はお前に会えなくて寂しいよ!

See you later.』

「ふ、何だよ。あんあんって言われてもな。しかも、上で、って」

 僕はその絵葉書を愛しくテーブルの上に裏を上に置いた。
 表は夕焼けのビーチの写真だった。いかにも、黒部が好きそうだ。

「さて、どうするかな」
 僕は買って来たばかりのチョコレート菓子の本を開いた。

 キッチンの上で、開いたまま、冷蔵庫を探る。
「うーん、材料が足りないな。スーパーに買いに行くか」

 それが、僕がいた事務所の最後の記憶……。

(了)

BL『黒部』18禁

執筆の狙い

作者 匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

気の向いた場面から書いて行きました!
分かりにくい点等ございましたら、ご一報くださいませ。

コメント

五月公英
p2930163-ipad020105sasajima.aichi.ocn.ne.jp

こういったノリなら、チャールズ・ブコウスキー(『パルプ』など)が参考になると思います。

既読でしたらごめんなさい。

失礼しました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

BLの良さが伝わってくる小説だと思いました。短いですが、なかなかおもしろかったです。

マーメイド→松岡→PN
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shionはAIなの?ごはん専用の

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

五月公英様♪

『パルプ』ポチッちゃいました! 未読であります。
ありがとうございます。

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

shion様♪

ありがとうございます!
白飯二杯食べられます。

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

マーメイド→松岡→PN様♪

え、AI!? 洒落では御座いません……。
場外乱闘は禁止ですよ……。

アフリカ
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感想返しにきました

ん〰️ーー( >д<)、;'.・

最近、邦画おっさんずらぶ観たんですが確かに笑える場面と言うか回しかたがあってフムフムと眺めることもできたのですが基本的にはなんだかピンとこない

んで、御作

多分、台詞だけで面白いことを伝えるのは酷く難しくて。
理屈っぽく言えば笑いは現実からの脱線であって、エロも同じでシコシコドピューってのでハァハァ(;´Д`)ハァハァなるひとはあんまりいないかも?

例えば 「ハァハァ、イクイク!」よりも、

🌑雄が握り締めたぺニスをゆっくりとしごくと、剛🌑はその行為に声を圧し殺して堪えた。

みたいな?表現の方が読み手に伝わる面積が広がるから台詞だけよりイメージに繋がり易いかも?

映像を読み手に伝えるというか、映画を観た後の感動と、ライブを観に行った後の感動の違いを書く方がちゃんと認識しないといけないのかも?です

厚みのある書き方を模索されてるとのこと。
凄く難しいけど、凄く大切なことでもある気がします。

がんばって下さい

です

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

アフリカ様

そうっすね。
おっさんずらぶは恥ずかしながら未見でしてよくわからないのですが、若い頃、盗み読んでいた黒い報告書にもそういう表現があった気がします。
ハァハァ(;´Д`)なるものはそこか!?
なんて思わされた次第でございます。
仮に、目隠しセックスを1Dと仮定すると、電気の下でガン見のセックスを3Dと仮定なんて……何を書いてるんでせう。じゃあ、2Dはと言うと、普通の感情プラスセックス? なんのこっちゃ。
常人様の萌えが何次元かと模索すると迷い子になりました……。大体、常人って誰さ!?
ツボって人によって違うのだな。
と痛感した次第でございまする。
何が言いたいかと申しますと貴重な御意見あざーっす!! てことで御座います。
ありがとうございました(*;д;)ノ

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

アフリカ様

改めて考えさせて頂いたのですが……。

ドラマがあって、登場人物を好きになって、そうして、セックスシーンがあって……。

そこで、アフリカ様が書いてくださった様な描写があると、
「燃えーーッ!!」
となる気が致します。

今更ながら、真髄というか、基礎に行き当たった気持ちです。
m(_ _)m

アフリカ
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あはは( ̄▽ ̄;)

ドラマを書かない小説って……

でも、多分、書くのが凄く好きなら、作者は書くときに現場にいると思うんですよ。

だから、そこの場面を文章として書き出すだけ。

難しく考える必要もなく作者が観てる世界を写し撮るだけで立体感って出るのかも知れないですよね。

ただ……

描写が上手くてもアイデアがない人には面白いと思える書き物がかけないのかも?

頑張って下さいませ

ませ

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

アフリカ様♪

ありがとうございます!!

そうげん
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BL作品――文ストの太宰×敦関連を熱く描いている人のを読むことがあるのですが、これはこれでけっこうおもしろく読んでいます。オリジナルキャラクターでBL作品を読むのはとってもひさしぶりでした。

台詞のあいだから、雰囲気を想像して読む感じです。直接的な描写をするかしないかは、作者様の好みの問題であって、読者の方でも直接的な描写を好む場合と好まない場合があって、これは書き手と読み手の相性の問題だと思いました。

黒部と主人公の関係。もうすこし濃密なものも観てみたかったけど、これ以上深入りされている物を読むのはまた怖い気もするし、どうしよう、見てみたいのかな自分。みたいな気持ちになりました。

主人公が戸惑いながらも黒部への思いに流されていく感じが、ウケっぽくてよかったです。自分で決めることが出来なくて、状況に流されながら、黒部への気持ちをどう受け止めればよいかわからなくなりかけている感じが、作中にしっかり出てました。

ありがとうございました。面白かったです。

匿名希望★
19.15.31.150.dy.iij4u.or.jp

そうげん様

過分なご感想をありがとうございます!
綿密に書くにはどうすればいいかのと悩んでいたところ、今回のご感想を頂け、ほっと胸を撫で下ろしております。
こういう書き方も楽しんでくださる方がいらっしゃるのだと、少し自信がつきました!
今後ともよろしくお願い致します。

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