作家でごはん!鍛練場
森下慎吾

嘘つき者しかいない国

「足りん、足りん。まったくもって足りん」
 豪奢な王宮の執務室、立派な衣に包まれた王様がため息交じりに呟いた。
 王様の横に立つ大臣が、無表情な顔で聞き返した。
「どうなされたのですか、王様。いったい何が足りないと仰るのですか?」
「税金じゃよ、税金。我が国の民は嘘つき者ばかりじゃ。民はいつも、一生懸命働いている、これ以上の税金は払えない、と嘘ばかりじゃ」
 金銀をちりばめた王笏にあごを乗せた王様は、どんなに自分が不幸で、どんなに理不尽な困難に立ち向かわされているのかを、芝居がかった口調で語った。
「おお、王様。それはなんと嘆かわしいことでしょう」
 大臣は無表情のまま、声色だけで同情を示しながらあいづちを打つ。
「そうなんじゃよ。大臣よ、何か良い案はないか?」
 王様は心底困ったように眉をまげ、大臣の顔をすがるように見つめる。
「もちろんございます、王様」
 大臣は自信ありげに応えた。
「民ひとりひとりに『お前は正直者か?』と聞いて、『はい』と答えたものに増税を課すのです」
 大臣は口角を少し吊り上げ、ちょっとうれしそうな声だ。
「なぜ正直者に更なる税を課すのじゃ? 嘘つき者にこそ増税を課すべきではないのか?」
 王様は不思議そうに大臣に尋ねる。
「仰るとおりでございます。しかし王様、自分は正直者かと問われて臆面もなく自分は正直者であると答えられるような面の皮の厚いものは、大嘘つきと相場が決まっております。ですから、『はい』と答えたものに増税を課すのでございます」
 大臣の説明を聞いた王様は納得し、うなずぎながら言った。
「なるほど。それは素晴らしい案じゃ。さっそくやってみるが良い」
「王様の命ぜられるとおりに」
 大臣は恭しく頭を下げた。


 さっそく次の日から、大臣はたくさんの部下を使って民の一人一人に、お前は正直者か? と尋ねてまわった。
「おい、お前は正直者か?」
 大臣の部下の一人が、民の男に聞いた。
 質問された男は正直に答えた。
「はい、もちろん私は正直者でございます。毎日、王国のために一生懸命に働き、毎年、税金を正しく収めております」
 それ聞いた大臣の部下はニヤリと笑って言った。
「よし、お前は嘘つき者だな。よってお前には増税を課す」
 このようにして、王国の税収は一気に増えることとなった。
 しかし、民の間ですぐに噂が広まり、誰も質問に『はい』と答えなくなってしまった。


「大臣よ。税収が多少増えたのは良いが、まだまだ足りぬ」
 栄華の粋を極めた王宮の執務室、豪華絢爛な衣に包まれた王様がため息交じりに呟いた。
 王様の横に立つ大臣が、無表情な顔で聞き返した。
「左様でございますか」
「左様じゃ。民の間には噂が広がり、もう誰も『はい』と答えなくなってしまった。わしが思うに、民はまだまだ嘘をついておると思うのじゃ」
 この世に二つとない特大のダイヤモンドを埋め込んだ玉座に座った王様は、どんなに自分が不幸で、どんなに理不尽な困難に立ち向かわされているのかを、舞台上のオペラ歌手のような大げさな口調で語った。
「おお、王様。それはなんと嘆かわしいことでしょう」
 大臣は無表情のまま、声色だけで同情を示しながらあいづちを打つ。
「そうなんじゃよ。大臣よ、民の中から嘘つき者全員を見つけ出す良い案はないじゃろうか?」
 王様は、母の姿を見失った乳飲み子のような表情で、大臣の顔をすがるように見つめる。
「もちろんございます、王様」
 大臣は自信ありげに応えた。
「民ひとりひとりに『お前は嘘つき者か?』と聞いて、『いいえ』と答えたものに増税を課すのです」
 大臣は口角を少し吊り上げ、ちょっとうれしそうな声だ。
「なるほど! 嘘つき者かと問われて、嘘つき者が素直に『はい、嘘つき者にございます』などと認めるわけがないからのぉ」
 大臣の説明を聞いた王様は、合点がいったという風にポンと手を叩く。
「仰るとおりでございます。王様のご慧眼の前では、私などの考えはたちまち見抜かれてしまいます」
 無表情に戻った大臣は、声色だけで賛辞を示しながらお世辞を言う。
 王様は喜色満面の笑みで「ほめるな、ほめるな」と満足げだ。
「しかし、大臣よ。今度もまた噂が広がって、すぐに誰も『いいえ』と答えなくなるのではないか?」
 すこし冷静に戻った王様は、心配になって大臣に尋ねる。
「ご安心ください。それに関しても考えがございます」
 大臣は無表情のまま、しかし確信を秘めた声で請け合う。
 大臣の返答を聞いた王様は納得し、うなずきながら言った。
「そうか、ならばよい。良きに計らえ」
「王様の命ぜられるとおりに」
 大臣は恭しく頭を下げた。


 さっそく次の日から、大臣はたくさんの部下を使って民の一人一人に、お前は嘘つき者か? と尋ねてまわった。
「おい、お前は嘘つき者か?」
 大臣の部下の一人が、民の男に聞いた。
 質問された男は正直に「いいえ、もちろん私は……」嘘つき者ではございません、と答えそうになって慌てて口をふさいだ。
 少し前に、自分は正直者だと答えた者たちがみな嘘つき者扱いされ増税を課されたことは、民たちの間でまだ記憶に新しい。ということは今度は自分は嘘つき者ではないと答えると、嘘つき者扱いされて増税を課されるに違いない。
 そこで男はこう答えた。
「はい、もちろん私は嘘つき者にございます。しかし私は毎日、王国のために一生懸命に働き、毎年、税金を正しく収めております」
 それを聞いた大臣の部下はピクリと片方の眉を吊り上げ、いぶかしげな顔で男を睨みつけた。そしてニヤリと笑って言った。
「よし、お前は嘘つき者だな。つまりお前は、毎日、一生懸命に働かず、毎年、税金を正しく収めていないのだな。よってお前には増税を課す」
 このようにして、王国の税収はさらに爆発的に増えることとなった。

嘘つき者しかいない国

執筆の狙い

作者 森下慎吾
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嘘つきのパラドックス風のお話ですが、あくまで「風」です。

全体として破綻がなく、意味がちゃんと通じるお話を書けるよう目指しています。
そして、できれば読んで面白い文章が書けるようになりたいと思っています。
ご意見、ご感想等、お待ちしています。

コメント

shion
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設定としてはそれなりにおもしろいと思います。もう少し情景描写や物語があるといいかもしれません。

森下慎吾
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コメントありがとうございます。
次を書く時には、もっと情景描写と物語を意識して書いてみます!
またよろしくお願いします。

ぷーでる
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読みやすくて、面白かったです。これを読んで裸の王様を思い出しました。
裸の王様の反対みたいな?感じかな?

森下慎吾
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コメントありがとうございます。
返信が遅れまして申し訳ありません。
こういうのはなんて言うんでしょうね。
反対というのか、何というのか?
次も頑張りますので、よろしければ、また呼んでください。お願いします。

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