作家でごはん!鍛練場
昼野陽平

初恋

 王は太りに太っていた。
 ポンプでもって空気をいれた、ゴム風船のように太っていた。ブクブクと、太りに太った王の身体は、やがて王室の長方形に、ピッタリと嵌ってしまった。それゆえ、王は一歩も動けない。それどころか、ちょっとした動作もできない。部屋の長方形の入り口の部分に、顔を覗かせている。飲食などは、入り口から覗かせている顔面に、召使いに皿ごと掲げさせてパクパクと食べた。
 王は以前は、痩せていた。政治を顧みずに、度重なる性的乱交を続けていた。食べたものは汗と精液となった。淫欲、それも血なまぐさい淫欲が、王の頭脳を支配していた。狂気じみた嵐のように。そして、夥しい数の女と子供が殺された。
 いつしか王は性的オルギアに飽き果てた。常軌を逸した性欲が枯れ果てると、かつての自分は性欲の奴隷であったと思うと言った。今の自分は、性欲から自由だと続けた。
 性欲が枯れると、王は別種の贅沢にふけった。怪食だった。王は人間を食った、爬虫類を食った、両生類を食った、昆虫を食った、無脊椎動物を食った。そして王は、ぶくぶくと太った……。
 
 僕は詩人だった。ゴキブリ派の詩人だった。王に飼われ、この世の退廃という退廃を題材に、詩作していた。完成した詩は王に喜ばれた。しかし、いつしか才能が枯れ果て、詩作から離れた。落ち込んではいなかった。詩人とは別の生き方をするだけだと思った。しかし、他の生き方というものを僕は知らなかった。なにか他の生き方を模索している最中だった。
 
 ある日、王に呼ばれ、王室へと赴いた。部屋にピッタリとはまり、太りに太った顔面のみを入り口に露出している王は、ぶよぶよしていて、醜かった。それでも僕は、王の狂気に対して畏敬の念を抱いていた。
 入り口の脇には、綺羅びやかな衣装をまとった、錬金術師がいた。各地を放浪している、胡散臭いやつだ。この男がなにか王に入れ知恵をしたのだろう。王は、薬草を抜いてこい、と言った。薬草とは、マンドラゴラのことらしい。それを摂取すると痩せるのだという。マンドラゴラに痩せ薬としての効能などあったかなと、疑問に思った。しかし、それ以上に、面倒くさいなと思った。でも、他にやることもないしなと思った。今の僕は、詩作から離れて、タブレット端末で、YOUTUBEの女子小学生の動画を、ぼんやりと眺める日々をおくっていた。

 僕は電車に乗ってX駅で下車した。駅前にコンビニがあるのみで、あとはひたすらに草木がやたら旺盛に、繁茂しているばかりの土地だった。
 ぐるぐると狂気じみて繁茂している、草木のなかをやけくそに歩いている内に、なんとなくマンドラゴラっぽい草を見つけた。露に濡れて、鮮烈な緑色に光る、ワカメみたいな形をした草。これを引き抜いた人間は、死ぬという話だ。
 ふと、女が通りかかった。スタイルの良い、若い女で、美人だった。僕は女に、この草を抜いてくれないか。お礼ははずむ、と言った。女は素直に草を引き抜くと、空気を切り裂くような悲鳴を上げ、口から血をブッと吐き、地面をのたうちまわって、死んだ。
 抜いたマンドラゴラを見て、僕は驚愕した。マンドラゴラの根の形態に驚いたのだった。それは、僕の初恋の少女にそっくりだった。
 僕は高校のころに、クラスメイトの女子に恋をしたのだった。猟奇的な女子で、陰湿ないじめを行い、人の弁当に毒を盛り、犬猫を殺害していた。僕は彼女の狂気に、心を打たれ、恋をしたのだった。猟奇的とはいっても、美しい顔立ちをしていた。とはいえ、狂気の少女らしく、眼差しには異様な禍々しさもあり、そこも含めて好きだった。名前を文恵といった。
 なぜ告白しなかったといえば、当時の僕は、詩作に夢中で、恋愛どころではなかったのだ。恋愛をすると、詩人として堕落すると思い込んでいた。それほど詩作に入れ込んでいたのだった。
 詩作を離れたいま、初恋の人が眼前にあらわれ、僕は当然のように、恋に生きようと思った。

 マンドラゴラ=文恵を持って王室へと赴いた。
 王は、マンドラゴラ=文恵を、肛門に挿入するのだと言った。そうすると、痩せるのだという。
 初恋の人を、肛門に挿入するなど、冗談ではないと思った。しかし王を畏敬する僕は、なかなか拒絶できなかった。
 ぐずぐずしているうち、何をぼんやりしている、と脇にいる緋色のトーガを纏った錬金術師が言って、僕の肩に手を置いた。僕は額にだらだらと汗が流れるのを感じた。
「マンドラゴラ=文恵は、俺の女だ!」
 気がつくとそう絶叫していた。
 後戻り出来なくなった僕は、腰からガバメントを抜いて、錬金術師の頭部を撃ち抜き、次いで王をパンパンパンパンと、撃った。太りに太った王の顔面の、ぶくぶくした表皮に、幾つもの穴が穿たれ、病的なドス黒い血液が、どろどろと流れた。

 僕はマンドラゴラ=文恵と、電車に乗って逃亡した。
 電車内の、僕の席の向かいに、マンドラゴラ=文恵が腰掛けている。右側には車窓があり、豊かな草木が、黄緑色に光っている。
 彼女を見ると、心がジワリとする愛情の念で、満たされる。彼女と二人で、幸福な恋愛関係を築こうと思った。
 ふと電車の中に追手がいるのに気付いた。彼は国内きっての変態殺し屋だった。殺した相手を、死姦するやつだ。顔面には、サソリの入れ墨があり、目には陰気な光を宿している。
 彼は僕の姿をみとめると、トカレフを抜いて、狙いを定めた。すかさず僕も腰からガバメントを抜いたが、遅かった。パンパンと銃で撃ちまくられた。
 僕は血に濡れて、激痛で床をのたうちまわり、ばしゃばしゃと吐血し、床を真っ赤な鮮血で汚した。
 顔を上げて前方を向くと、血に滲んだ、おぼろな視界のなかで、殺し屋がマンドラゴラ=文恵を、強姦しているのが見えた。
 僕は激烈な痛苦と、絶望のうちに、ポタポタと涙を流した。

初恋

執筆の狙い

作者 昼野陽平
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ありがとうございます。ご意見ご感想など宜しくおねがいします。

コメント

どんな言葉に変えて
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ゴキブリ派の詩人は儲かりますか?

shion
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読みました。ストーリーもあり、ちょっと変わった話ですね。全体的には悪くないと思います。

みさきち
p8774182-ipngn21002marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp

童話かなと思ったら、かなり猟奇的で狂気じみている物語。
すごく好きです。

昼野陽平
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どんな言葉に変えてさん
王がパトロンですからそれなりに儲かったのではないかと
ありがとうございました。

昼野陽平
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shionさん
ご感想ありがとうございます。
ストーリーは苦手意識があるのですが、下手なりにやろうとした感じですね。
悪くはないとのお言葉ありがとうございます。
ありがとうございました。

昼野陽平
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みさきちさん
ご感想をありがとうございます。
猟奇とか狂気っぽいのが自分としては得意なのかなと思って書いた感じですね。
すごく好きとのお言葉、嬉しいです。
ありがとうございました。

sin
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 尖っているように見せて、何も尖っていないというか、奇抜を騙るがゆえにかえって陳腐に陥っている、そんな印象を受けました。例えば、村上春樹さんは安部公房さんの作品について、「安部公房は奇妙な話を書きますが、変かというととくに変ではないですね。その奇妙さは良くも悪くも一貫した奇妙さであって、「変」ではない」と述べています。それに比べるとこの作品は、ただ単純に変なだけです。言うなれば、その奇妙さに奥行がないのです。それが私からすると、どうしても薄っぺらく感じられてしまいます。
 結局のところ、どんな人間だって猟奇的な側面の一つや二つくらい持ち合わせているのですから、そのことにもっと配慮し、作中に巧妙な仕掛けを配置すべきだったのではないのでしょうか。猟奇を、至上の残虐と思うのは軽薄な発想だと思います。少なくとも紙上においては、もっと違う形で残虐や無念というものを表現することが出来るはずです。単に猟奇的なものへの憧憬を緩慢に書き記すだけでは、それは売り物にならないでしょう。それは程度の低い感傷の産物に過ぎません。もっと読者の心に突き刺さるものを、書くための努力をすべきです。今の時代、エログロナンセンスなんて平凡なものなのですから。

昼野陽平
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sinさん
感想をありがとうございます
奥行きがないというのは自分でも思いました。プロットの段階で良いものではないなと思ったのですが、物は試しという感じで肉付けしました。
エログロは心象風景という感じなので今後も続けると思います。
ありがとうございました

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