作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

P子の初体験

 異様な雲行きになってきた。
 彼女が指示する国道筋に車を走らせると、やたらとモーテルが目につくのだ。
 彼女の息づかいが荒くなってきたのがわかる。道に面しているモーテルに目をやっている。 モーテルに入れということだろうか。
「セックスの経験はあるの?」
 彼女が訊ねた。
「ない……」
 俺は小さい声で答えた。
「そうでしょうね」
 彼女のしらけた言い方が俺の神経を逆なでした。俺だって女を抱くことくらいできるさ。何なら今すぐにでも抱いてやる。
 俺は目についたモーテル・レインボーに車を滑り込ませた。胸がドキドキはずんだ。
「お茶でもいれようか」
 派手な色彩のベッドに腰掛けて彼女が言った。俺の気持ちを落ちつかせるためだろう。勢いこんでモーテルに入ったものの、つぎにどうしていいかわからない。俺は、備え付けのポットで彼女が入れてくれたお茶をすすった。味も香りもないカスみたいなお茶だった。
 こんな時に男はどうするのだろう。まず女を抱きしめてキスをするのか。それとも、先に女のシャツの釦を外して裸にするのだろうか。あるいは、まず男からベッドに入るのか。どれも正解のようでもあるし、違うようでもある。
「さきにいくから」
 彼女は声をかけて俺の目の前で脱ぎ始めた。最後の下着を脱ぎ捨てるとベッドに潜り込んだ。白くて大きい尻が網膜に焼き付いた。俺の股間はすでに怒張して小刻みに脈打っている。俺も同じようにベッドに潜り込む。彼女は毛布をはねのけて俺にしがみつき、唇をつけてきた。胸の膨らみが俺の胸を圧迫する。俺は思わず乳房を手で揉んだ。
「入って」
 彼女がかすれた声で囁いた。俺は股間の怒張を壷にあてがって腰を沈めた。
 肉襞を押し分けて吸い込まれる感触。
 彼女の腰の動きにつられて俺の腰も激しく動く。
 放出して横になり、一息ついた。彼女の手が俺の股間に伸びる。股間の肉片はたちまち硬度を回復する。彼女が俺にかぶさってきた。俺は何度も精液を吸い取られてふらふらになった。
 終ったあとで、下着をつけながら、
「私も初体験よ。あなたとは」
 彼女が婉然と笑った。
 うそつき。初体験の筈があるものか。手慣れたもので、声さえあげていたではないか。ただ、俺とは初めてだが。
 これが俺の初体験だった。それから何人かの女と体験した。

 大学の文芸クラブの部室で猥談しているとき、下級生のP子が入ってきて話に割り込んだ。P子は、まだ童顔で可愛い顔をしているが、体の方はなかなか美味しそうだった。
「女の子の割り込む話じゃあねえぞ」
「どうしてよ」
「子どもがする話じゃあないんだ」
「子どもじゃあないよ」
 皆は顔を見合わせた。
「子どもでないなら、P子、セックスの経験、あるんか」
「当り前よ。この歳でバージンなんて遅れてるわ」
「じゃあ、オルガスムス知ってるか?」
 俺はにやにやしながら言った。
「オルガスムスって?」
「あの時、いい気持になることだよ」
「そんなん、知ってるわよ。馬鹿にしないでよ」
 P子は俺に向かって、大きく膨らんだ胸を突き出した。

 車は国道に入った。左右にモーテルの派手なネオンが流れる。P子は硬い表情で前を見つめていた。
「入る勇気あるんか」
 ふん、とP子が鼻を鳴らした。
 俺は以前に行ったことのあるモーテル・レインボーに車を滑り込ませる。部屋への階段をP子はついてきた。
「やめるんなら今の内だぞ」
 P子は唇を噛みしめたまま首を振った。
「お茶でも入れようか」
 俺は備えつけのポットから湯を注ぎ、振り出しの茶のパックを入れる。味のないカスみたいなお茶だった。
 P子は湯呑を持ったまま凍り付いたように固くなっている。
「お前、本当に経験あるんか」
「もちろん、あるわよ」
「よし、それならお前からさきに入れ」
 俺はベッドを顎で指した。
 P子はお茶を飲み干して俺を睨みつけた。俺が顎をしゃくると裸になり大急ぎでベッドに入った。
 そのぎこちない入り方から思えば、どうせ大した経験ではあるまい。
 しばらく乳房を揉み、頃を見計らって怒脹した肉塊を当てがい、ぐいと腰をすすめた。痛いと叫んでP子が腰を引こうとしたが既に肉棒は襞の間に呑込まれていた。P子の手は俺の背中をかきむしって、泣き声とも悲鳴ともつかぬ奇妙な叫び声をあげた。
 終わってティッシュで拭くと血が滲んでいる。
「お、お前、初めてだったのか」
 P子は泣きそうな顔でうなずいた。
「どうしてこんな馬鹿なことをしたんだ」
「だって、子供だと思われたくないんだもの」
 そりゃあ、まあ、そうだが。でも、P子が初体験だなんて知らなかった。 

 それから数年経ち、俺は大学を卒業して就職していた。
 朝、マンションを出るときP子が囁く。
「今夜は初体験よ」 
 うそつけ。今朝の明け方にも一回したではないか。でも考えてみれば、今の時刻を起点とすれば、今夜のセックスは妻との初体験であることに違いない。
 妻が初体験と囁いた日は、呑み歩くことを止めて早く帰宅しなければならないのだ。俺は、数年前のP子の初体験以来、こうしてほとんど毎日初体験を経験させられている。
 俺はP子と結婚したことを悔やんだ。P子の処女を奪ったことに責任を感じて結婚したものの、P子がこれほど淫乱女になるとは思わなかった。
 その夜も夕食を済ませて風呂からでると、すでにP子がベッドで待ちかまえている。
「早く。なにもたもたしてるの」
 P子がベッドから催促する。俺は屠殺場に向かう牛のように、のろのろとベッドに入った。そのうちきっとP子に全部の精液を吸い取られて、俺は抜け殻になるに違いない。
P子が体を痙攣させて俺に足を絡める。オルガスムスなんて教えなきゃあよかった。
 P子から離れて、俺は一息ついた。
 休む間もなく、P子の手が俺の股間をまさぐる。俺の意志に反して無情にも股間の肉塊は確実に硬度を回復する。P子が俺にかぶさってきた。
「やめてくれ」
 思わず、俺はP子を押し退けようとした。

「どうしたの」
 P子がきょとんとした目で俺を見つめていた。
「もういい加減にしてくれないか」
「どうしたのよ、いったい?」
「毎日毎日、こんなことをしたらおれは病気になる」
「だって、私はセックスしたのは今日が初めてよ」
 P子は不思議そうな顔で俺を見ている。
 俺は体を起こして見回した。派手な色のベッド。壁にはめ込んだ鏡。ベッドの側のテーブルにはお茶の湯呑が置いてある。
 P子を初めて連れ込んだモーテル・レインボーではないか。なんでこんなところにいるのだ?
「夢でも見たんではないの?」
 P子の初体験を済ませた後でうとうとしていたらしい。
 俺はP子の童顔を見つめた。可愛いと思った。
 俺は夢のことを考えた。このP子が数年もすれば、あんな淫乱女に変身するのだろうか。
 俺はP子の顔を見てため息をついた。
 P子がにやりと笑ったように思えた。 

                了

P子の初体験

執筆の狙い

作者 大丘 忍
p1611005-ipngn200303osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

官能小説の続きはショートショートです。難しく考えずに手軽に読んでいただけば結構です。オチの具合は如何でしょうか。

まど手始めですから官能度は軽度です。段々官能度は上がってきます。

コメント

雫石
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作者様のライフ・ワークでしょうけど「ヤリチン自慢」には辟易しておる、のが感想です。
初体験初セックスが忘れられないってのは、糖尿親父の「昔は良かったナア」で共感しませんわ。
その豊富な性歴を元に「チンポ一本で権力機構の頂点を目指す」とか「性病に怯え自滅するスケコマシ」とか、もっとバリエーションがあると思うのですが。

雫石
softbank126159227118.bbtec.net

あとね、作者様のセックス感に文句を言う筋合いはないんですが、男も女も機械的に性行為を
行うだけで、ちっとも「抜けない」んですよ。
「アッアッ、いくいくいくー!」なんてアホくさい台詞を吐かせないのはいいですけど、女を
単なる「穴」だと思う主人公。単なる「男女の儀式」としてやりまくる女。オルガスムスって
言葉だけで、どう気持ちいいのか説明をうやむやにするのは、ねえ。

shion
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読みました。ストーリーもあり悪くない小説だと思います。ただセックス をモーテルでするという、もう少しストーリーが手の込んだものになるとよりいいかなと思いました。

夜の雨
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「P子の初体験」読みました。

単純な性作品に見えて、何やら仕掛けがしてあるように感じました。
まず頻繁に出てくる「初体験」とか「初めて」というセリフとか、言葉。
導入部での主人公は尻の大きな女と初体験をすましてから、何人かの女と経験を重ねます。
この最初女が「私も初体験よ。あなたとは」と、不思議なコミュニケーションの取り方をする。

>うそつき。初体験の筈があるものか。手慣れたもので、声さえあげていたではないか。ただ、俺とは初めてだが。<

となるのだが、この主人公の心理状態に違和感がある。
「ただ、俺とは初めてだが。」ここの部分は真実なのだが、「うそつき。初体験の筈があるものか。手慣れたもので、声さえあげていたではないか。」こちらの部分に違和感がある。
ただ、この違和感は「作者がわざと違和感が出るように書いている」ので、単純な性作品ではなさそうだと思う。

そのあとのP子が出てくるところで彼女は身体こそは大人だが、経験がなかったという設定で主人公とモーテルに入る。
身体を重ねたあと主人公はP子が初体験だと知るわけだが、空行をあけて新婚生活をしている主人公とP子という展開になっている。
ここでの主人公はP子との性生活に疲れ果てていて、いたぶられているような感じ。
つまり性関係においては女が常に主導権を握っているという話で、導入部から後半の新婚生活まで書かれている。
そしてラストはP子と一緒に入ったモーテルで目を覚まし、まだ結婚していないことを悟り、女の怖さにおののき、童顔のP子が数年もすれば淫乱女に変身するのだろうかと思う。
P子はにやりとした表情を浮かべている。

御作は主人公の男が感じた、性経験を重ねた女の怖さみたいなものが描かれているのではないかと思うのですが、もちろん主人公が軟弱であるとも考えられる作品になっています。

●御作は性に特化した作品になっていますが、こういった内容に周囲の人間関係や社会風景を書きこむと面白くなるのではないかと思いますが。

お疲れさまでした。

どんな言葉に変えて
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つまるとこセックスが好き?

大丘 忍
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雫石様
87歳という人生の終わりに差し掛かって思うことは、楽しい人生であったかどうかということですね。まあ、長い人生の間には、苦しかったこと、面白かったこと、楽しかったことなど、思いだせばいくらであります。それらを題材にして小説を書くわけですが、私のような歳になれば、つらかったことより楽しかった思い出を書きたくなります。
人生において何が楽しかったかは人それぞれでしょうが、私の場合は、若いころの妻との出会いです。私も妻もセックスは大好きで50数年、セックスを楽しんできました。セックスは本来は楽しいものでしょう。50数年も大好きな女を抱き続けた男の幸せ。想像できるでしょうか?
この歳で小説家を目指して小説を書くのは無理ですが、書くなら楽しみながら書きたい。妻と過ごした性生活の思い出をちりばめた小説を書き、若いころはよかったなあと思出に浸りたい。これが最近小説を書いている目的です。したがって、書ければもっとセックスをもとにした官能小説を書いてみたいと思っております。

大丘 忍
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shion様
初体験がテーマになっておりますが、初体験の場所としてはモーテルが一番手軽だと思いましたが、私はモ-テルに行った経験がありませんので、想像で書きました。
最初のモーテルは、話者(俺)の初体験ですが、次のモーテルは後輩のP子を連れて入るわけですが、ここでの出来事にオチがつく仕組みになっております。短い作品ですから、あまり詳しくはかけなかったのですが、セックスを小道具にしていろいろな官能小説を書いてみたいと思っております。

大丘 忍
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夜の雨さま
読んでいただき感想を有難うございます。
「初体験」とは、文字通り初めて体験することですから一般的な意味ですが、「初体験」と独立して使えば、一般的にはセックスを初めて体験することを意味するでしょうね。冒頭ではこれを「あなたとは初めて」というように拡張して使用しております。この拡張した言葉の使用法は最後の場面でも出てきていわゆるオチの一部分を形成しております。

官能小説は書いてみると結構楽しいですね。87歳の私では無理でしょうが、男性読者なら読んで思わず勃起してしまったという作品を書きたいと思いますね。

大丘 忍
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どんな言葉に変えて様

 セックス大すきですよ。いや、大好きだったというべきか。 
ところでセックスが嫌いは人、いますか? いるならもっと勉強すべきですよ。

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