作家でごはん!鍛練場
とびうお

傘と唄えば

 僕の傘はとても気分屋だ。

 付き合いは今年で丸4年。男物にしては少し可愛い、パステルカラーの青い傘。この先もずっと手放す気などない。畳んでいるときだって、僕は傘を振り回したりはしない。いつだって振り回されるのは僕の方だ。
 この気まぐれが魅力の一部とも言えるし、手を焼いていると言い換えることだってできる。

 よくあるのは、例えばこんな感じだ。

「健太郎、こんなところで何してんの?」
 学校帰り、コンビニで立ち読み。手には傘を持っている。店頭に置かれた傘立てにはいれない。そんなことをすれば、さらに機嫌を損ねてしまうから。
「ああ、急に雨が降ってきたから、ちょっと雨宿りしてんだよ」
 話し掛けてきたクラスメイトは、不思議なものを見る顔をしていた。
「何言ってんだよ。傘、持ってんじゃん」
「まあね。でも、今は開かないんだよ」
「なんで?」
「よくわからないんだよね」
 そう。いつだって理由などわからない。ただ、機嫌が悪いのだ。こうなってしまうと、僕はお手上げだ。たとえどんなに雨が降っていても、傘を開くことはできないのだ。
 前触れもなく機嫌は直るのだが、その頃にはもう雨は上がっている。
 もしくは、びしょ濡れなって家に辿り着いた後だ。

 こんな言い方をすると、こう思う人がいるかもしれないね。
 古くなって錆び付いているだけだろ?って。
 でも、違うんだ。メンテナンスはこまめに行っているから。
 そういうことでなくて、確かな意思を持って開こうとしないのだ。そっぽを向いて、知らん顔しているみたいに。

 他には、朝が早いのも苦手。
 部活の練習試合で、始発電車に乗ることがたまにある。そんな時は決まって、半分寝惚けている。
 傘をさして歩いてると、いつの間にか両肩が雨に濡れている。あれっと思って上を見ると、傘が少しずつ閉じかけているのだ。
「おーい。濡れちゃうよー」
 そう言うと、ぱっと開く。しかし、すぐにまた閉じてきてしまう。
 駅に着く頃には、背中と両肩がぐっしょり濡れている。

 でも、一番の苦い思い出はあの日だろうな。

 その日は1日雨の予報で、僕は家でのんびりする予定だった。しかし急遽、出掛けなければならなくなった。案の定、傘は機嫌を損ねてしまった。
 玄関先で僕は焦っていた。早く行かなければ。でも、外は大雨。台風が近づいてきていた。
 僕は仕方なく、父親のビニール傘を手に取り出掛けてしまった。
 それから1ヶ月以上、機嫌は直らなかった。僕は心から反省し、雨の日は傘もささずに濡れ続けた。
 そのときだって、いつの間にか機嫌が直っていた。いつだって僕の謝罪は受け入れてもらえない。

 それでも僕は、この傘を使い続ける。

 初めてだったのだ。こんなにもひとつの傘を大事に思うことが。
 それまではずっと、ビニール傘を使っていた。コンビニに置き忘れたり、誰かに持っていかれたりしても、別に何とも思わなかった。また買えばいっか、と思うくらい。
 でも、今は違う。
 この傘を失えばきっと、僕の心には大きな穴が開くだろう。
 それくらい、大事な存在なのだ。
 でも、わかっている。いつかは、お別れするときが来ることを。
 だから僕は大事にするんだ。その日が来たとき、後悔が少ないように。後悔しないなんてことはないと思う。だからせめて、今できることは今の内にやっておく。

 少しでも長く、一緒にいられるように。

 雨が降りだした。
「今日の機嫌はどうかな?」
 そう話し掛けながら、僕は傘を開く。
 スパンッ、という小気味良い音がした。
 どうやら今日は機嫌が良いみたいだ。

 僕は笑顔で歩き出す。

 落ちてくる雨粒を弾く音は君の歌声。
 君と唄いながら、今日も歩いていく。
 雨の中を君と二人で。

 君のおかげで僕は、雨が好きになったんだ。

傘と唄えば

執筆の狙い

作者 とびうお
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明確な比喩表現ではなく、どちらともとれそうな作品に挑戦してみました。日常的でありながら、ちょっとした非日常を入れ込むことで想像できる余白を広げたいと考えました。まだまだ未熟な文章ですが、よろしくお願いいたします。

コメント

shion
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傘をテーマにしたなかなか面白い小説だと思いました。全体的にもこれはこれでいいと思います。

とびうお
ac230179.ppp.asahi-net.or.jp

shion 様

励みになるコメント、ありがとうございます。次回作に向けて頑張ります!

夜の雨
ai199181.d.west.v6connect.net

「傘と唄えば」読みました。

文学の味付けがしてあり、おまけに内容が面白いです。
どこかひょうひょうとしていて、とらえどころがない。
傘が意志を持っているように描かれていますが、「しゃべる」とかの行為はしないので、漫画的な雰囲気はありません。
主人公の健太郎の一人称で話は書かれていて、この作品は主人公の思い込で傘に人格を持たせてしまっているとも、考えられますが、思い込みではなくて、たしかに傘が人格を持っていると考えられる内容になっています。

とても不思議な傘の話で、イメージが広がります。


「傘と唄えば」という作品はかなり短いですが、主人公の青春につきあっていろいろな場面で活躍させれば原稿用紙30枚とかが可能ですね。
たとえば、彼女が出来たりしてのデートが雨だったりして、傘がどういった反応をするかとか。
そういうことを考えると楽しいです。

お疲れさまでした。

とびうお
116-64-114-175.rev.home.ne.jp

夜の雨 様

丁寧なコメント、ありがとうございます。
いただいたアドバイスを参考にして、もっと膨らませそうです。そういった展開も面白いな、と思いました。
ありがとうございました!

nthkid021022.hkid.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp

うむー。練り込みが足らない感じだ。
最初からあからさまに擬人化して、いわば「彼女」的な立ち位置にさせている割には、機械的に問題点だけをならべて
終いには一番の(苦い)思い出を6行で終わらせてしまう。
構造とそれの動機たる意図が見えて来ない、或いは最初の数行でわかってしまう。

傘との関係性を人間とのそれに置き換えて話を進めるというアイディア自体は、さほど真新しくもないが習作の題材と
してはいいと思うのだが、それだけになってしまっていないか?
アイディアは話のとっかかりであって、それそのものではない。そこはアイディアとは別に作らなければ創作とは
いえないだろう。
これこれこんな風に私の傘は人間的でね、そうそう少し長い話になるが、この傘との一番の思い出を聞いてくれんかね。
お嬢さんや。みたいな「始まり」があって終わりが来るものだと思う。

とびうお
116-64-114-175.rev.home.ne.jp

K 様

貴重なご意見、ありがとうございます。
おっしゃる通り、まだまだ練り込みが足りませんね…。テーマを深め、しっかりと構成を考えたいと思います。
ありがとうございました!

スカイ画廊の父
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 >練り込みが足らない なんて、まだ練り込むまでのものになっていない。どうして「僕」が傘に好意を抱いているのか、そういう感情を素通りしてしまう筆致は、傘の気まぐれっぷりも書いているようで書かれていないことに通ずる。決して>思い込みではなくて、たしかに傘が人格を持っていると考えられる ようにはなっていない。いっそのこと信頼できない語り手にしてしまったほうがまだ面白味が出てきそうな……とまあ書き始めて間もなさそうな人に、なんと言おうかと迷うが、血の通ったものを書けだとか、そんなしょーもない言及につきてしまう。どうか>文学の味付け とかとんでもない勘違いをまともに受けないで、>構造とそれの動機たる意図が見えて来ない とかもはや理解不能だが、どうせろくでもない記述ならわからないほうが良いかもしれない。

とびうお
116-64-114-175.rev.home.ne.jp

スカイ画廊の父 様

コメントありがとうございました。
勉強になりました。
血の通ったものを書けるように頑張ります!

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