作家でごはん!鍛練場
的場ミトン

レンタルメンタリティ

『レンタルメンタリティ』を知ったのは、インターネットの検索バーに''勇気が欲しい''と打ち込んだことがきっかけだった。
 
 検索結果に出てきた自己啓発本や数珠の販売に混じって、あるホームページを見つけた。

 『アクションを起こしたくても、起こせないあなたへ!レンタルメンタリティで人生を変えてみませんか?』

 レンタルメンタリティ?DVDや車のレンタルなら聞いたことがあるが、目に見えぬメンタルをレンタルするなんてことが可能なのだろうか。
 ホームページを見た時点で僕の気持ちは半信半疑。いや、無信全疑ではあったが行くだけ行ってみるのも面白いと思い、僕は店へ出かけた。

 店はアパートの一室にあった。表札のところに『レンタルメンタリティ』とあったのでインターホンを押した。

 扉が開いて出てきたのは、パーマをキツくあてたおじさんだった。ポロシャツにチノパンとかなりラフな格好をしていた。メンタリストのようなシュッとした人を想像していたので、僕は戸惑った。

 「おぉ、予約の人か?とりあえず、中入りや」

 おじさんはどぎつい関西弁でそう言うと、部屋の中にスタスタ入って行ったので僕もあとを追った。

 部屋はザ・おじさんの個人宅といった感じであった。畳の上には競馬新聞や酒缶が散らかっていて、部屋はやたらと蒸していて心地悪い。
 
 おじさんは敷いてあった布団を折り畳んでスペースを作り、あぐらをかいて座った。
 
 僕も正面に座ると、おじさんが話し出した。

 「んで、兄ちゃんは何をレンタルするんや?」

 「え?それはそのメンタルをレンタルしたくて」

 「ちゃうがな。メンタル言うても色々あるがな」

 おじさんは灰皿を引き寄せて煙草に火をつけた。

「負けられへん試合に臨むなら闘争心、誰かを見返したいなら反骨心。悲劇の主人公を演じたいなら、悲壮感」

「色々あるんすねぇ」

「兄ちゃんもなんか人生変えるようなこと企んでるからここへ来たんやろ?何をするつもりなんや?」

 僕はおじさんに言われて顔が熱くなった。初顔合わせのおじさんとはいえ、誰にも言ったことがない自分の秘密を他人に話すのは恥ずかしいものだ。

「実は好きな人がいまして、告白をしようと思っています」

 おじさんが黄色い歯を剥き出し、「ええやん!」と言って手を叩いた。

 ついに誰にも言ったことがない僕の秘密を他人に言ってしまった。

 片想い歴は高校一年生の五月から、二年半になる。片想いの女の子は通学の電車で、いつも同じ車両に乗り合わせていて、僕の通う高校の近くにある女子校の制服を着ている。
 
 初めて彼女を見かけたときったら、もうそれは凄まじい衝撃だった。小学五年生の時に四トントラックと衝突した以来の、全身がバキバキになるようなノックアウト感だった。
 
 気弱な僕が、彼女に話かけるなんてとんでもないことで、いまだに彼女の名前も趣味も家族構成も知らない。
 
 でも、卒業するまでに彼女へ気持ちを伝えたい!ここ最近ずっと、彼女への告白のことで悩んでいたのである。

 「卒業前の告白かぁ!そら絶対アクション起こさな、爺さんになっても後悔するで!
 よしゃ、ほな兄ちゃんは勇気をレンタルしたらええわ」

 「あ、はい。勇気をレンタルさせて下さい」

 「じゃあ、税込み一万千円ね」

 「一万千円!?」

 しまった!僕は料金のことを確認して来るのを忘れていた。一万千円!?これは高校三年生には一世一代の勝負に充てるほどの大金である。
 
 でも、おじさんの言うように、ここで告白をしなきゃ、僕はこの先ずっと後悔し続けるだろう。

 僕は財布から一万千円を抜き取り、畳の上に差し出した。
 
 おじさんはチノパンの左ポケットにお札をねじ込むと、反対側のポケットからある物を取り出した。

 「ほなこれ」

 おじさんがペットボトルのキャップのような物を僕に差し出した。

 手に取り見てみると、上部に赤いボタンが付いている。

 「勇気が必要な時、そのボタンを押しな。そしたら、君に勇気が備わる。くれぐれも押せるのは一回だけやからな」

 まじまじとボタンを見た。ホントにこんな物を押して勇気が湧くのだろうか。騙されているような気もしなくはない。

 おじさんはそんな僕の不安に構うことなく、「よしゃ!君はこれで必ず彼女とうまくいく!」と言って、僕の左肩を力強く叩いた。

 ※※※

 今朝も先頭車両に彼女の姿があった。
 
 僕の心臓がアップテンポなビートを刻んでいる。緊張感が半端ない。

 僕は学ランのポケットに手を入れてボタンを確認する。
 
 そして、ボタンを押そうとしたが、なかなか押せない。ボタンを押すための勇気もレンタルすべきだったのかもしれない。

 僕がボタンを押すのに戸惑っていると、彼女の後ろに学生服を着た男がすっと歩み寄っていった。

 その男は何やら彼女の耳元で何かを囁いているではないか。 

 えぇ!?もしかして彼氏すか、彼氏なんすか!?

 僕は彼女と話したことが無い。彼女のことなんて何も知らない。彼氏がいるかどうかも知らない。むしろ、あんなに美人な人に彼氏が居ないなんて不自然ではないか!

 あぁ、なんでそんなことに気が付かなかったのだ、僕は。

 一万千円が……。
 
 でもよく見ると、彼女は扉の脇の手すりをギュッと握って体を縮こませている。困惑した顔で怯えているように見える。

 僕は、込み合った車両にいる人たちをかき分けて彼女の方へ近づいた。

 「ずっとさ、電車で見かけてて気になってたんだよ。LINE交換してくれよ」

 「いや、結構です」

 どうやら、漏れ聞こえる話を聞くと、男が彼氏ではないことがわかった。

 見知らぬ男に言い寄られて困惑しているらしい。
 
 なんてことだ。同じタイミングで、彼女へ告白する人間が僕以外にもいるなんて。
 
 

 「いいじゃないかよ!なぁ、一回だけデート付き合ってくれよ」

 男が彼女の腕を掴んだ。

 彼女はさらに身を小さくして、震えている。
 
 助けてあげなきゃ!

 でも僕の足は動かなかった。

 
 そうだ!勇気のボタンを押そう。

 
 僕はポケットの中に手を入れた。

 ほぼ同時に、彼女は助けを求めるように周りを見渡して、やがて彼女の目が僕をとらえた。

 そこで彼女の視線は動きを止めた。じっと僕の目を見て目を離さない。
 

 気づけば僕は、彼女の腕を掴む男の手をねじり上げていた。

 「やめろよ。嫌がってんだから、諦めろよ」

 男は僕を睨みつけた。

 気持ちで踏ん張ってはいるが、僕は怖くて足が震えていた。

 しかし僕は、男から目を逸さなかった。

 男は僕の襟元に手をかけた。

 殴られる!
 
 目を瞑って覚悟をしていたが、僕はそのまま男に押し飛ばされて電車の扉に背中を叩きつけられた。

 
 すると、電車は次の駅に停車し、男は降りて行った。

 ああ、怖かった。僕は大きく息を吐いてその場でへたりそうになった。他人に敵意を持って対峙したのは生まれて初めてのことであった。

 「あ、あの、ありがとうございます」 

 彼女の声を聞いて、我に返った。

  ※※※



 「おぉ、付きあえたんかぁ!兄ちゃんやったなぁ!」
 
 おじさんが手を叩いて喜んでくれた。

 「ありがとうございます。ちょっと勇気を使う場面が予定とは変わりましたけど」
 
 僕はレンタルしていたボタンをおじさんに返却した。

 僕は電車での劇的な事件から三日後、レンタルしていたボタンを返しにおじさんの部屋へやってきたのだ。

 前回訪れた時と違ってエアコンが入っていたので、心地悪い湿気はなかった。
 
 「でも、ひとつ気になることが……」

 「なんや?」

 「僕、ボタン押してないんですよね。ボタンを押そうとはしたんですけど、その前に足が動いていたんです」

 「あはははは」

 おじさんが豪快に笑い出したのを不思議そうに見ていると、おじさんは続けて言った。

 「兄ちゃんは純粋なええ子やし、ホンマのこと言わなあかんな。ええか?兄ちゃんは勇気なんてレンタルしてへん」

 「え?どう言うことですか!?」

 
 「メンタルみたいなもんをレンタルなんかできるわけあらへんがな」

 レンタルなんてできるわけない!?

 僕はおじさんの言葉に、目をぱちくりさせていた。
 
 「兄ちゃんが心の奥底に持ってる勇気が表に現れただけなんや。
 人間みぃんな、肝心な時にアクションを起こせる強い精神力は備わってるんや。
追い込まれた時に力を発揮でけへん奴なんておらんよ」

 おじさんは顎髭を撫でながらつづけた。

 「せやけど、みんな自信ないんやなぁ!人間は本来強いもんなんや!でもみんな自分の力にまるで気がつかへん。
そこに目をつけた商売がレンタルメンタリティや。
 俺はただ、ボタンを押したら強いメンタリティが湧きだすと、暗示をかけとるようなもんや。
実際はみーんな自分の力で成功しとんやから、元手も原価もゼロ。最高の商売やでぇ」

 ということは……。僕はあることに気が付いた。

 「おじさん、僕は勇気をレンタルしなかったんですよね?それってつまり……」

 僕は嬉しさと興奮が入り混じったテンションでおじさんに言った。

 おじさんは、得意げな顔をして僕の言葉の続きを引き取った。

 「つまり!そう、兄ちゃん自身の愛と勇気で彼女を守ったってことなんや!
 若者よ、自信を持て!君は強い!」

 僕は首を横に振った。

 「いや、そうじゃなくて……。
 つまり、僕が自分自身の勇気で行動をした結果なら、レンタル料は返してもらえるんですよね!?」

 「え?」

 「え?」

 エアコンの音がぶーんと鳴っている音だけが部屋中を支配していた。

レンタルメンタリティ

執筆の狙い

作者 的場ミトン
KD106133174013.au-net.ne.jp

約4000字のショートノベルです。
不可思議の中の日常を書いてみたつもりです。

初執筆、初投稿ですが、厳しいご意見を頂き成長したいと思います。

よろしくお願い致します。

コメント

青山りか子
om126208135001.22.openmobile.ne.jp

面白かったでした。オチもあったし読みやすかったでした。

ぷーでる
pl62468.ag2525.nttpc.ne.jp

面白いです、読みやすいし、分かり易い。話がごちゃごちゃしてないので良かったです。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

面白かったです。すらすらと読めたし、ストーリーもすんなりと入ってきました。

的場ミトン
zaq3d739a4c.zaq.ne.jp

青山りか子さま

ありがとうございます。
オチありきで書き始めたので、すごく嬉しいです。
また次回作も投稿予定ですので、ご意見下さい。

的場ミトン
zaq3d739a4c.zaq.ne.jp

ぷーでるさま

ありがとうございます。
初執筆でしたが、書いて伝えるのは難しいと痛感しました。
でも、分かり易いと感じていただいたのなら、すごく励みになります。

また、次回作にもご意見下さい。

的場ミトン
zaq3d739a4c.zaq.ne.jp

shionさま

ありがとうございます。
他の人にストーリーが伝わるって、すごく嬉しいことなんですね。
励みになります!

また、投稿したいと思ってますので、ご意見下さい。

夜の雨
ai199181.d.west.v6connect.net

「レンタルメンタリティ」読みました。

勇気の無い主人公が怪しげな「メンタリティ」をレンタルしたが、結局そのレンタルした「メンタリティ」を使わずに、主人公自らの勇気をもって問題を解決したという話です。
オチは、レンタルした「メンタリティ」を使わなかったのだから、料金は返してください、ということになっています。

しかし主人公が「レンタルメンタリティ」の赤いボタンを押さなかったという証拠はないよね。
現実的には赤いボタンをいつでも押せる状態だったので、それが後押しになって彼女の危機を助けたということも考えられる。
だから、押さなくても効果はあったので、料金の値打ちはあった。
「レンタルメンタリティ」の赤いボタンを持っていなかったら、彼女の危機を助けられただろうか、ということも考えられる。
それに一万千円と料金が高額だからこそ、その分の元はとらないといかないと考えるので、自然と勇気が出た。
もし千円という料金だったら、勇気は出ていなかったかもしれない。

御作の話に戻すと、設定とか構成、話の展開のさせ方、キャラ立などはうまいと思います。
文章も、わかりやすい。
しかし、後味が少し悪い。
主人公が「レンタルメンタリティ」が必要だったのは、通学電車内の彼女に告白するべく勇気が必要だったので、購入したわけで、結局彼女とはうまくいったのだから、そのうえ料金を払い戻せは、ないだろうと思います。

まあ、おじさんも商売しているのだから、「レンタルメンタリティ」を使用しなくても、料金は返済しません、と、最初に話しておくべきでしたね。

●空行がかなりありますが、詰めて書いても問題はないと思います。
●上にも書いたように、話のつくり方はうまいです。


お疲れさまでした。

的場ミトン
zaq3d739a4c.zaq.ne.jp

夜の雨さま

ありがとうございます。
貴重なご意見、本当に嬉しいです!

オチありきで書き進めたので、ご指摘の通り、都合のいい言動で収まりをつけようとしてしまった箇所があると思います。
(なるほどと思いました)
裏付けとかそういうあたりにも気を配って書いていこうと思います。

小説を書くのは難しいですね!
勉強になりました。

次回の作品にもご意見いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。

may
pw126035087194.25.panda-world.ne.jp

ほんとに勇気がレンタルできたらいいなあと思い読みました。面白かったし、読みやすいです。
個人的には、4トントラックと衝突したときのことが気になりましたね。おじさんの、勇気を出さなきゃ爺さんになっても後悔するぞと言う言葉は、その通りやなあと。好きなら好きと伝えなきゃ始まらないですからね。
悪い男から守ってあげる、ていうのもいいですね。ただ、そこから付き合うまでの展開が早いかなー。もう一つくらいエピソードが欲しかった。オチもよくできてました。10000円という高いけど出せないほどじゃない値段設定もナイス。読みやすかったんですができればもっと描写を充実させればさらに良くなると思います。
ありがとうございました。

スカイ画廊の父
sp49-97-104-114.msc.spmode.ne.jp

 そんなことで彼女と付き合えたのなら、ハプニングなくても付き合えたよね。そうなってくるともう変なボタンとかおじさんとかタイトルのやつとか何も要らないよね。さっきの傘の話とつくりはおんなじでアイディア先行型ともいうのか、人間が描けていないのだけどただラストだけはそういう部分でない(アイディアでない)ところなのか、ようやく生の人間の顔がひょっこり見れたという感じでちょっとだけ良かった。>後味が少し悪い などという言葉に惑わされないように。

的場ミトン
zaq3d739a4c.zaq.ne.jp

mayさま

ありがとうございます。

ひとつひとつのエピソードに対して単調に進んでしまいましたね。(4トントラックしかり……)
ご指摘いただき読み返すと、気がつくことが多いです。
次回はラストに向かって盛り上がるような展開を意識してみたいと思います。

次回も、ご意見下さい!
よろしくお願いします。

的場ミトン
zaq3d739a4c.zaq.ne.jp

スカイ画廊の父さま

ありがとうございます。

一発ものの発想勝負で書ききったので、人間描写が疎かになってしまってます。。
最後の少しだけでも、人間味を感じていただいたなら、励みになります。

人間味!大切ですよね。難しいですが、次回は意識して書き進めたいと思います!

次回もご意見下さい。よろしくお願いします。

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