作家でごはん!鍛練場
フレディ

金縛りにおける信仰心と性欲を考察する

年を取ると眠れなくなる。子供の頃、十二時間くらいは平気で眠れた。ところが壮年を迎えた今、頑張って五時間、平均すれば四時間程度しか眠ることが出来ない。
 毎晩、だいたい十二時に床に就く。そして、目覚まし時計を必要とせず朝の四時過ぎには自然と目が覚める。問題はここからだ。とりあえずは小便を垂れ、もう一度布団に戻り灯りを消す。しかし、眠れるはずがない。なんとか眠ろうと必死に意識を飛ばそうとするが余計に脳が興奮し、あの、あの怖いやつがやってくる。そう、その名を“金縛り”医学的に言うと“睡眠麻痺”なるものだ。
 生まれて初めて“金縛り”に襲われたのは確か学生時代、自宅で昼寝をしていた時、突然襲われた。もちろん“金縛り”の存在は知っていた。しかし、自分には関係のないものだと思っていた。突然、体が動かなくなった。そして息をするのが段々と苦しくなっていく。最初“金縛り”だとは思わなかった。体調に異変が生じた。そう思った。一向に状況が変わらず息苦しさがさらに増し、やばい、死ぬ、と思った時、突然体が解放された。
 一体何なんだろうとその日の夜、三つ上の姉に話をすると「金縛りやん」といとも簡単に言われた。
「体は寝てるんやけど脳は起きてるときになるねん」
「そうなんや。記念すべき“初縛り”やな」
「あんた、まだ息苦しなっただけやろ。もっと怖いケースは腕つかまれたり首絞められたりするんやで」
「うそっ、それは嫌やなぁ」
 しかし、その後、この齢になるまで一度も“金縛り”と遭遇することが無く、やっぱり俺には関係のないものだと思っていたのだが今や、ほぼ“共生”の関係になってしまった。先にも述べた通り眠れなくなったのが原因だ。       
奴はたいがい二度寝の時にやって来る。
 時に俺の首を絞め、手首を掴み、体の上に乗っかってくる。
 いまでは“共生”のお陰と言っていいのか悪いのか、奴の来るときがだいたいわかるようになってきた。
 おっ、来たか、体の自由が奪われる。強い風が吹く。掛け布団と一緒に吹き飛ばされそうになる。ほとんどポルターガイストの世界だ。さっ、今日はどこだ、手首か足首か体に乗っかって来るのか・・・がつっ、いきなり手首を掴まれる。今日はそこか。強く引っ張られるが動かない体でなんとか耐える。ここで腕を引っ張っている奴の顔を絶対に見に行ってはいけない。過去に一度だけ見に行ったことがあったのだがえらい目に遭ったのでここでの説明は控えておく。
段々と息が詰まり始める。よし、そろそろだな。心の中で呟き始める。
 羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
昔、あるテレビで、怖い夢に包まれた時や“金縛り”に遭った時、心の中でお経を詠むとその場から解放されると言っていたことがあった。そして都合のいいことに、通っていた高校が般若心経を心酔する訳の分からない進学校で毎朝校庭で朝礼があり、そこで約三千人の生徒が一斉に般若心経を読経した。入学したころは校庭が土だったのだが、あろうことか二年生になった時、校庭がアンツーカーに改装され、朝礼の時に雨が降っていない限り毎朝般若心経を読経させられることとなった。おかげで今でも空で詠むことができる。当時、どうして未来のある若い俺たちがこんな辛気臭いお経を毎朝詠まなあかんのやと反感していたが、勝手信仰、利用できるものは利用しようということにした。
いつも通り体が解放される。ありがたやありがたや。
が、そんな“金縛り”との共生において、ついこの間、とんでもないことが起こった。
その日は会社の帰りに立呑み屋に寄って熱燗を三合呑み、家に着くとすぐに風呂に入ったのが悪かったのか血行が良くなりかなり酔いが回ってしまった。それでも喉が渇いたのでビールだけ呑もうと350mlの缶を半分空けた時、きつい眠気が襲ってきた。
時計を見るとまだ十時。このまま眠ってしまうとおそらく二時には目が覚めるだろう。そうなれば朝の六時までには四時間もある。
必死で眠気と闘う。しかし、十一時を前に落城となる。
そして、目覚めると測ったかのように午前三時。小便を垂れ、酒でカラカラになった喉に茶を流し、文庫本を読む。三時を過ぎたころやっと軽い眠気がやって来た。
灯りを消し掛け布団にくるまる。暫くするとヒューっと西部劇のサボテンの間を縫うような風がやって来た。来ましたね。さっ、来いっ。久しぶりに足首でもつかんでくれへんかなぁ。体が硬直する。さぁ、いらっしゃ~い。
うん? うん? なんか唇のへんが・・なんかへん。うん!?
誰かの唇が俺の唇に触れている。いや、吸っている。それもかなり激しく。男とキスをしたことが無いから違いが判らないが間違いなく女の唇だった。何かすごく気持ちいい。キス何ていつ以来だ。二年前まで五年間付き合っていたあの女との最後のSEXの時以来か。いや、ちょっと待て。これは“金縛り”ではなく“夢精”の前の“エッチな夢”ではないのか。
だが違った。段々と息苦しくなってきた。だけど気持ちいい。読経するのがもったいない。もう少し楽しんでいたい。だめだ、息苦しさが半端ではない。しょうがない、ここらで終わりとしよう。
そう思った瞬間、俺は何を思ったのか発作的に女の唇に舌を差し込んだ。
するとどうだ。一瞬にして体は“金縛り”から解放された。
性欲が信仰心を凌駕した瞬間だった。
羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
般若~っ心経~っ

        了

金縛りにおける信仰心と性欲を考察する

執筆の狙い

作者 フレディ
zaq77188fc1.zaq.ne.jp

あまりにもおかしな体験をしたので記しました。

コメント

ぷーでる
pl62468.ag2525.nttpc.ne.jp

夢占いで、そういう金縛りを検索したら、その状態は蛇に締め上げられているんだそう。つまり呪われている。性欲と引き換えにあなたの生気を吸い取っているのです。コロナにご注意ください、もしかしたら既に……弱っている人ほどそうなりやすいそうですよ。

あきら
133-106-72-42.mvno.rakuten.jp

金縛りの経験があります。
精神的にまいっている時によくなっていました。
強い不安が惹起するのではないかと考えています。
その頃は睡眠の質が悪く、よくうなされていました。
夢うつつに幻覚を見ることもあります。
それをお化けと呼ぶのか、ただの幻覚と見なすのか、人それぞれでしょうが自分は後者です。
半醒半睡の状態なので、恐怖を感じる半面だるさと睡魔から投げやりな気持ちにもなって、目の前にまだお化けがいるのに気にせずそのまま寝ちゃいます。問題なく朝になっています。特に異変なし。
その時ははっきり幽霊を見ていますけど、やはりあれを幽霊を見なすことはできません。
ただの脳みその暴走だと思います。
ただ、完全な覚醒状態で見た場合はまた印象が異なるだろうと思います。
ラップ音は覚醒状態で何度も聞いたことがあります。
あとテレビのスイッチが勝手に切れたり(軽いポルターガイスト?)。
部屋の空気が急に重苦しくなって(この感じ、わかる人いますか?)、そういう時は壁の板材とかがわざとみたいに端から順番にパキッ、パキッと音を立てて行きます。
ああいうのを聞くと、この世ならざる存在は実在かも? と思わされます。
不思議ですね。
性欲について思うのは、やはり向日的な前向きな生のエネルギーにはそういうものを駆逐する力があるように思います。反対に弱っている時はそういう禍々しいものを引き寄せてしまう。
病は気からと言いますが、気の持ちようで正のパワーを引き寄せることもあれば、負のパワーを引き寄せることもある。
御作を読んでそんなふうなことを考えました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

金縛りについての話でしたね。文章も読みやすくすらすらと頭の中に入ってきました。金縛りの時の状況やそこまでのストーリーが厳密に描写されているといいかなと素人ながら思いました。

フレディ
zaq77188fc1.zaq.ne.jp

ぷーでる さん
怖いこと言わんといてくださいよ。確かに長年の不摂生で体はかなり弱っているとは思いますが、外呑みも自粛してたまにいく立ち吞みもソーシャルディスタンスは確保してますんで。

フレディ
zaq77188fc1.zaq.ne.jp

あきら さん
ほんと金縛りって嫌ですよね。共生しているといってもやっぱり気持ちのいいもんではないです。ポルターガイストという映画を学生の時に映画館で観ましたがまじで怖かったのを思い出します。お互いうまくつきあっていきましょう。

フレディ
zaq77188fc1.zaq.ne.jp

shion さん
ご拝読頂きありがとうございます。高校時代の毎朝の般若心経読経のくだりは如何でしたか。当時は嫌でしょうがなかったんですけど、時が過ぎれば笑い話で済ませてしまえます。

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