作家でごはん!鍛練場
shion

空に溶けた彼女

 窓の外は雨が降っている。雨音が部屋に響き渡っている。部屋の中は少し湿度があって、電気をつけているのに暗く感じた。
 僕には恋人がいる。彼女は布団の中で横になっている。僕の目を時折澄んだ目で見ていた。彼女は病気だった。それで仕事も休職していて、家で療養している。
 僕は彼女の布団の横に座り、彼女の手を握りながら、窓の外の雨を眺めていた。今日は休日だったので、家で過ごしていた。
「アジサイが咲いてるわね」
 彼女は布団に横になって外を見つめている。
「ここに引っ越した時に君が買ったやつだよね」
「もう梅雨になったのね。ついこの間まで冬だった気がするのに」
「時間が経つのって早いよね」
 僕も庭に咲いているアジサイを眺めた。青色の綺麗な花だった。
「アジサイの花言葉に無常っていう意味があるの」
「無常?」
「常に存在し続けるものはないってことね。私もあなたもいつか消えるのよ」
「そういう解釈もあるよね」
 僕の手から彼女の手の温度が伝わってくる。
「私もいつか空に溶けて、自由な身であのアジサイを眺めたいわね」

 僕は彼女に食事を作った後に、買い物に出かけた。近所のスーパーまで歩いて行った。空からは無限に雨が降ってくるようだ。差したビニール傘にせわしなく雨粒が当たり、ズボンのすそは濡れていた。僕はふと立ち止まって、空の雲を眺めた。元気だったら隣には彼女がいて、冗談を言って僕を笑わせてくれたのだろう。でも今は、彼女は元気がなくて、僕もそのせいか心が晴れない。
 スーパーに着くと、僕はビニール傘をたたみ、濡れたすそをハンカチで拭いた。スーパーの中はひんやりしていて、子供連れの母親がパンを買っているのが目に入る。僕はスーパーの中で日用品や食材をかごの中に入れていった。レジで会計をして、白いビニール袋に買ったものを入れる。相変わらず雨は降り続いていた。帰りもぼんやりと外の景色を見ながら、家に帰った。

 家に着くと、彼女の姿はなかった。彼女がいるはずの布団は誰も寝ていない。僕はベランダに出てみた。すると空からアジサイの花が雨のように降ってきた。青色の花びらが無限に落ちてくる。僕はその非日常的な光景を見て、きっと彼女は空に溶けてしまったのだろうなと思った。


 

空に溶けた彼女

執筆の狙い

作者 shion
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短いものになってしまったのですが、ドラマティックな要素を入れて書いてみました。

コメント

夜の雨
ai206244.d.west.v6connect.net

「空に溶けた彼女」読みました。

なかなかセンスがいいです。
文章が巧みなので、場面場面のイメージがわきました。
小説と詩のあいだという感じです。
主人公の「僕」と彼女とのあいだにコミュニケーションがとれている会話文があります。

「アジサイが咲いてるわね」  『わね』
 彼女は布団に横になって外を見つめている。
「ここに引っ越した時に君が買ったやつだよね」  『よね』
「もう梅雨になったのね。ついこの間まで冬だった気がするのに」 『のね。』
「時間が経つのって早いよね」                 『よね』
 僕も庭に咲いているアジサイを眺めた。青色の綺麗な花だった。
「アジサイの花言葉に無常っていう意味があるの」         『の』
「無常?」
「常に存在し続けるものはないってことね。私もあなたもいつか消えるのよ」  『のよ』
「そういう解釈もあるよね」                『よね』
 僕の手から彼女の手の温度が伝わってくる。
「私もいつか空に溶けて、自由な身であのアジサイを眺めたいわね」  『わね』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

語尾を少し変えるだけで、二人のあいだにコミュニケーションが成立しますね。温かみがある。
『わね』こういった語尾をとっても二人のあいだにコミュニケーションはあるけれど、距離感が出ますね。

「常に存在し続けるものはないってことね。私もあなたもいつか消えるのよ」 ← ちなみに、この文章がすでに非日常になっています。つまり、彼女が非日常に近い存在になっている。


>窓の外は雨が降っている。雨音が部屋に響き渡っている。部屋の中は少し湿度があって、電気をつけているのに暗く感じた。<

これは主人公の心情を表現しているのでしょうね、「安息から暗い気持ち」。「暗い」は、このあとの彼女の状態と関係している。

 >僕には恋人がいる。彼女は布団の中で横になっている。僕の目を時折澄んだ目で見ていた。彼女は病気だった。それで仕事も休職していて、家で療養している。<

僕の目を時折澄んだ目で見ていた。 ←彼女が主人公の僕を愛しているというのが、伝わってきます。主人公視点なので、愛情が余計伝わる。

 >僕は彼女の布団の横に座り、彼女の手を握りながら、窓の外の雨を眺めていた。今日は休日だったので、家で過ごしていた。<

僕側から彼女への愛情表現。


>僕は彼女に食事を作った後に、買い物に出かけた。近所のスーパーまで歩いて行った。空からは無限に雨が降ってくるようだ。差したビニール傘にせわしなく雨粒が当たり、ズボンのすそは濡れていた。僕はふと立ち止まって、空の雲を眺めた。元気だったら隣には彼女がいて、冗談を言って僕を笑わせてくれたのだろう。でも今は、彼女は元気がなくて、僕もそのせいか心が晴れない。<

僕は彼女に食事を作った後に、買い物に出かけた。  ←このあたりが当然といえば当然ですけれど、主人公の彼女への愛情が伝わるのですが、「食事を作った後」「買い物」ですから、結構骨が折れます。まあ、それが、楽しいのかもしれませんが。彼女のために頑張っている主人公の存在感。

元気だったら隣には彼女がいて、冗談を言って僕を笑わせてくれたのだろう。 ← 彼女のキャラクターが伝わってくる。

>スーパーに着くと、僕はビニール傘をたたみ、濡れたすそをハンカチで拭いた。スーパーの中はひんやりしていて、子供連れの母親がパンを買っているのが目に入る。僕はスーパーの中で日用品や食材をかごの中に入れていった。レジで会計をして、白いビニール袋に買ったものを入れる。相変わらず雨は降り続いていた。帰りもぼんやりと外の景色を見ながら、家に帰った。<

子供連れの母親がパンを買っているのが目に入る。 ← ここだけ、他人が入っているのですが、たぶん、日常を挿入したのだろうと思います。ラストへ向けて。

 家に着くと、彼女の姿はなかった。彼女がいるはずの布団は誰も寝ていない。僕はベランダに出てみた。すると空からアジサイの花が雨のように降ってきた。青色の花びらが無限に落ちてくる。僕はその非日常的な光景を見て、きっと彼女は空に溶けてしまったのだろうなと思った。

アジサイが空から落ちてくる、それも青色で無限なので、どこまでも空をイマジネーションしていると言ったところでしょうか。

僕はその非日常的な光景を見て、きっと彼女は空に溶けてしまったのだろうなと思った。 ← このラストはよいですね(笑)。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

こういったセンスのある作品が書けるということは、心がゆったりとしているのでしょう。
主人公の「僕」と、彼女とが愛し合っていたというのが伝わってくるし、死を昇華しているようにも思えました。
ちなみに、ドラマチックでした。

また、読ませてください。

お疲れさまでした。

飼い猫ちゃりりん
123-48-131-108.stb1.commufa.jp

shion様
詩なら詩に、小説なら小説にした方が良い内容だと思いました。小説では少し展開に無理があるかなと言った印象です。最期にアジサイが空からは無理っぽい描写に感じてしまいました。
短い文章にするなら詩的表現オンリーにしてはいかがでしょうか。

偏差値45
softbank219182080182.bbtec.net

突然、人間が消えるわけもないので、
そもそも幽霊か何かだった、ということでしょうか。
今にも死にそうな人は家ではなく病院にいることの方が多いですからね。

茅場義彦
M106072175192.v4.enabler.ne.jp

短いっすね 電池切れっすか 同じだよお

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

夜の雨様

読んでいただきありがとうございます。一つ一つの文章に意図を入れていくのは大事なのかなと思いました。小説を読み書いていく上で、より厳密に読み書きができるようになるのかなとも思います。ありがとうございました。

shion
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飼い猫ちゃりりん様

読んでいただきありがとうございます。確かに文章も短く、全体も短いもので、テーマとしては詩でもよかったかなとも思います。もう少し描写を小説的にしても良かったかもしれません。ありがとうございました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

偏差値45様

読んでいただきありがとうございます。確かに現実ではありえない出来事なので、そこをどうするかは悩ましいところです。設定をもう少し練るべきだったかもしれません。ありがとうございました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

茅場義彦様

読んでいただきありがとうございます。やはり今回のは短かったと思いました。長いものも書いていこうと思います。ありがとうございました。

きの
KD111239255188.au-net.ne.jp

読ませていただきました。最初のほうと最後のほうの文章が詩的で暗示的で、かと思えば途中の文章が日常的で、
そのバランスがいいなっと思いました。スーパーの描写や、濡れたすその描写はリアルで良いと思いました。
最後の幻想的な風景をもう少し細かく描写しても良いのではとも思いました。ただ、どの場面も裏に意味が隠れているように思えて、私にはまだそれがわかっていないのかと思います。
紫陽花には無常の他にも花言葉ありますよね。他の意味でとらえるとこの話も全く相貌を変えてきて、そんな読み方もできて面白いと思いました。
拙い感想失礼しました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

きの様

読んでいただきコメントありがとうございます。最後をもう少し描写するべきだったなと思います。基本的には彼女が消えてしまいアジサイが降ってくるという話ですが、何か意味があってもよかったかもしれません。ありがとうございます。

あきら
133-106-72-42.mvno.rakuten.jp

最後の場面は現実にも起こり得るような状況の方が良かったと思います。
ベッドに彼女の姿はなく、数枚のアジサイの花が空からベランダへ落ちて来る。
この場合、彼女は単にトイレに立ったのであり、たまたま風がアジサイの花を巻き上げた、と理解することができます。
僕がふと彼女が空に溶けてしまったのだと空想することで、そう思わずにはいられない僕の切なさとか彼女への思いが読者に伝わると思います。
彼女の病気の程度について触れられていないのが気になりました。
ただの風邪なら僕が感傷的過ぎて妙な印象になりますし。
無常という言葉が出て来るので重篤な病なのだろうなと想像することはできますが、その割に自宅療養ですし、どうなんでしょう?
自宅での緩和ケア? 若いので違和感がありますね。高齢者が終末期に自宅で死にたいと言って戻って来るのとは違う感じですし。
あとスーパーで買い物する描写が不必要な気がしました。狙いがよくわからないというか、フィラー(字数稼ぎ、かさ増し要素)的な感じが。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

あきら様

読んでいただきコメントありがとうございます。最後は確かに現実的でもよかった気がします。今思うとその方が無難だったなと。病気についてもちょっと現実的でなかったかもしれません。スーパーの描写は彼女が消える間合いのため入れました。ありがとうございます。

あきら
133-106-72-42.mvno.rakuten.jp

休職中とありますので風邪はあり得ないですね。すいません、見落としてました。
長期療養が必要でも致命的でない病気もあるでしょうし、その辺がはっきりしていると印象が変わったかと。
病気の設定は便利で私はよく使いますが、病名をどうするかでよく悩みます。そしていつも似たような心臓系の病気になります。
「君の膵臓を食べたい」に出て来る病気は現実ではありえないものらしく、そこを批判する人もいるようですが、人気を博していますのでそういう細部にはみんな拘らないのかもしれません。
そういう意味で、医学的な詳細に踏み込む必要はないのかもしれませんが、その辺りの加減は結構難しい問題だと思います。
病気という設定自体が手垢にまみれたもののようにも思えますが、ドラマ作りにおいて非常に使い勝手の良いものであることも事実です。
必要最小限の説明にとどめるか、開き直って架空の病気をでっち上げるか、具体的な病名を記述するか、難しいところだと思います。
小説は勢いで書くといろいろと粗が目立ってしまいますが、いちいち細かく調べて行くとキリがない。しかも素人がwikiで調べた程度の知識ですけど、それでも膨大なものになりますし、横道にそれてしまうぶんモチベーションの低下にもつながります。
なかなか難しい問題ですね。

とびうお
116-64-114-175.rev.home.ne.jp

読ませていただきました。
前半は短いセンテンスでリズムを作り、中盤は何気ない日常会話で展開、ラストは余韻を残す終わり方。短いながらもこの作品の世界観を感じられました。

茶壺
g33.211-19-71.ppp.wakwak.ne.jp

読んでいて、静かな音楽を聴いているような心地よさがありました。
特に買い物シーンの文章の描写もリズムも素敵ですね。
決して凝った言い回しとか言葉とかではないのに、とてもセンスを感じました。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

とびうお様

感想ありがとうございます。この作品の世界観を感じてもらえたということで、嬉しいです。


茶壺様

センスを感じたという感想ありがとうございます。励みにしてもう少し練った作品を書いてみようと思います。

跳ね鳥
p1851160-ipbf1908souka.saitama.ocn.ne.jp

shion様へ

拝読いたしました。
あじさいの情景の美と、物悲しい厭世観が、涙に濡れたような感情とともに文章にあふれていくようで、とてもしっとりとした想いを感じる小説でした。

文体がこなれていて書き慣れた人の掌編と思いましたが、この色鮮やかさが長い作品になっても色褪せないで続いていって欲しいなと思いました。みずみずしい文章が良かったです。

shion
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

跳ね鳥様

今度はもう少し長い物語を書いてみようと思っています。この作品を書いた時は物語や情景描写を意識していなかったので今後自分の改善余地があるかなと。コメントありがとうございます。

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