作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

艶笑小咄

こだわり

 男は難しい顔をして妻を前に坐らせた。
 若くて魅力的な妻は、媚を売るように夫を見上げた。
「今度のことで……」
 男は途中で口をつぐんだ。あとを言い出すのには勇気が必要なのかも知れない。
 妻はしおらしく首を傾けた。
「いや、君を責めている訳ではないんだ」
 男は言い訳がましく言った。
「君が男とホテルに泊まったことにこだわってはいない。だが……」
「だが?」
 妻は身体を硬くして問い返した。夫の宣告を覚悟した様にきびしい顔で返事を待った。
 男は思いきったように言葉を続けた。
「せめて、ホテル代だけでも相手に払わせなさい」


運動

 テレビの健康番組を見ていた政男さんが言いました。
「僕たちも運動することにしよう。公園で歩くのはどうかな」
 ユリ子さんは首を傾げました。
「公園で歩くよりプールの方が良いんじゃあない?」
「そうだな。よし一緒にプールへ行くことにしよう」
「ちょっと待ってね。見せたいものがあるから」
 ユリ子さんは隣の部屋に消え、間もなく政男さんの前に立ちました。
「どう、この水着。素敵でしょう」
 ユリ子さんは腰をくねらせてポーズをとりました。
 露出度の高い水着からはみ出したユリ子さんのむっちりとした白い肌に目をやると、政男さんは慌てて言いました。
「やっぱりプールは止めておこう」
「どうして?」
「どうしてと言ったって……」
 政男さんの股間の盛り上がりに目をとめてユリ子さんが囁きました。
「プールは止めて、ベッドの上で水泳の練習をしましょうよ」
 こうして二人の運動はもっぱらベッドの上で行なわれ、プールにも散歩にも行く必要はありませんでした。


スペシャル 

「ムスコがだらしなくてさっぱりですの」
 40才前後の魅力的な婦人の、愁いに満ちた表情は人を動かさずにはいられない。
「それは困りましたね。親の言うことをきかないんですか?」
 中年で精悍な体つきの医師は男の魅力を誇示するように腕組をした。
「そうですわ。さっぱり言うことを聞いてくれないので、私も本当に困っているんです」
「だれかよく言い聞かせてくれる人はいないんですかね」
「主人の場合は言い聞かせたくらいでは駄目ですわ」
「主人? ムスコの話ではないのですか?」
「そう、だから主人のムスコのことですよ」
「だったら、あなたにもムスコでしょ」
「あーら、先生」
 婦人は婉然と笑ってみせた。
「子供は良い子ですよ。困るのは主人のムスコです」
「はあ?」
「主人のムスコが駄目なので私が困っているんです」
「あ、なるほど」
「なにか良い方法はないでしょうか」
「それでしたらいろいろありますがね」
「どんな方法です?」
「まず、朝鮮人参、まむしの黒焼き、漢方薬の八味丸などですね。それで駄目ならバイアグラ」
「人参、まむし、漢方薬は全部試して駄目でした」
「ではバイアグラですね」
「バイアグラでも駄目ならどうなります?」
「その時はスペシャルバイアグラという方法があります」
「スペシャルバイアグラと普通のバイアグラとはどう違うんですか?」
「普通のバイアグラはご主人が飲みますが、スペシャルの場合は私が飲んで奥さまの寝室に参上いたします」

艶笑小咄

執筆の狙い

作者 大丘 忍
p1611005-ipngn200303osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

 艶笑とは艶っぽい話でにんまり笑う事、小咄は短い話、例えば原稿用紙1枚にも満たない短い話、と理解しています。
 短くても小説、起承転結はあるわけで、特に「オチ」の部分が大切だと思います。
 という訳で、艶笑小咄を数編掲載しました。
 え? 全然面白くなかった? これは失礼しました。

コメント

ドリーム
27-136-239-65.rev.home.ne.jp

面白いですね。
まるで4コマ漫画ならぬ4コマ小説です。
3篇と大丘忍さんらしい色っぽいものですが
敢えて言うなら一番目の(こだわり)がとくに面白かったですね。
オチの点でも一番かも。
この切ない世の中(コロナウイルス騒ぎ)クスッさせられました。

渡辺サラ
114-134-212-157.fnnr.j-cnet.jp

大丘さんあんたも古いね。ゑまちゃんは新人賞に忙しいし、なんといっても鈴村智久さんが作家になったかどうか?
この作品はオチだけじゃなくてそこに持って行くプロセスが問われるんだけど綺麗じゃないか・
新作落語の枕作家になれますよ。
近況、幻冬舎ルネサンスにバルトーク作品持ち込んでみたら150万の自費出版30%の印税・A判定と持ち上げて金取り。
医者っていうのはとぼけたようで良く観察してるし結論を急がない。
この3作ではバイアグラあたりが大賞かな。
コロナウイルス、社会制度ばかりいじってるけど何でワクチンや特効薬の情報にマスコミは踏み込まないんだろう?
疑問だね。これで1作作れるよ。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

「艶笑小咄」読みましたが。
三作品とも、以前に読んでいますね、もちろん大丘さんの作品です。
たぶん、感想を書いていると思いますが……。

今回は感想を書くとしたらこうなります。

「こだわり」こちらは、詳しく書きます。

若くて魅力的な妻が不貞を働いたということで、夫である男にしてみれば、「如何ともし難い」気持ちだろうと思います。
もちろん読み手は第三者なので「ああだ、こうだ」と、思っています。
夫の立場に立つ方もいれば妻の立場で考える方もいる。
「若くて魅力的な妻は」と、書いてはありますが、夫については「若い」とかは、書いていないところをみると、「中年のおじさん」だろうと、考えるのが普通です。
それではどうして夫婦になっているのかといえば、夫に甲斐性があるからよい生活が送れる。が、妻の立場です。
夫は妻に経済的に何不自由ない生活を送らせる見返りとして「妻の若くて魅力的」な、うんぬんということになります。
だから、妻が夫に満足しないで不貞行為を働いた場合「夫がどういった反応をするのか」ということになるわけですが。
一般的に、夫は妻に何を求めているのかというと「若くて魅力的な妻の独り占め」という発想だと思います。
だから不貞行為をされると、裏切られたという思いが募るはずですので、「妻の行動に対して、締め付けが厳しくなる展開」になる可能性が高いはずです。


ところが、御作のオチではそうはならずに「不貞行為に対して」「せめて、ホテル代だけでも相手に払わせなさい」と夫は反応した。
これって、「不貞行為をとがめていない」、だから「予想外のオチになった」ので、「意外性があり、面白い」ということになります。

「せめて、ホテル代だけでも相手に払わせなさい」 ← これは、深く考えると、夫は妻に対して、何不自由ない生活をさせているので、金銭を妻のために使っているということになります。
ところが妻は男とホテルに行った折に、自分でホテル代を支払ったということは、若くて魅力的な妻がそれプラス金まで出したということで、夫の立場がありません。
したがって、「お前は若いし魅力的なのだからホテル代ぐらいは出してもらわないと、私のプライドはどうなる」というところでしょうね。
こう考えると、かなり面白い話です。


運動
「運動と妻の肉体美について」と言ったところから、「男と女の本能」という方面に展開しました。
その結果、「二人の運動はもっぱらベッドの上」というオチです。


スペシャル 
医者と相談に来たご婦人のお話ですが、かみ合わなかったのは「ムスコ」と「息子」の勘違いから展開して、「スペシャルバイアグラ」の使用という、医者の診立てプラス参加でオチになりました。


三作品を読み、「艶笑小咄」としては、出来上がっていると思います。
このなかでは「こだわり」が、一番かなと思いますが。
シンプルで、内容もしっかりしているし、ラストの一行でオチが決まりました。


お疲れさまでした。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

ドリーム様、渡辺サラ様、夜の雨様。

読んでいただきありがとうございます。一括してのお礼の言葉にて申し訳ありません。私も87歳になり、新作を書くことがむつかしくなりましたが、このサイトにはなじみが深く、投稿を続けることでボケ防止になるかと思って投稿を続けております。したがって、最近の投稿の多くは新作ではなく、過去に投稿したものを読み返し、多少の手直しをした作品が主となっております。歳をとりますと、何か艶っぽい話のほうが元気が出るような気がして、ポルノ的作品が多くなるように思います。谷崎、渡辺という大家でも、年を取ってからお色気のある作品が増えたような気がしますね。お色気作品を書いていると、何か若返ったような、自分もその小説のような状態になったという錯覚が起きるんでしょうね。まあ、年寄りのボケ防止、気分的な若返り法と考えて大目に見てください。

この艶笑小話は以前に投稿したことがあるものの一部ですが、以前の投稿時には一番評判が良かったのは「こだわり」だったと記憶しております。
夜の雨様には細かく感想をいただいておりますが、私も「こだわり」が一番好きな作品でした。
本当は、詩吟小説を載せようと思っていたのですが、息抜きのためにこんな小話も面白いのではないかと思いました。小話は以前の作品を読み返して面白そうなのがあればまた載せたいと思います。

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