作家でごはん!鍛練場
久方ゆずる

『最終試験』

 古代恐竜の図鑑は高いところにあって、僕の身長では少し届きにくい……。
 踏み台を机の下から出して、本棚の前に置く。床は長い間磨かれていないのでざらついていて、木目が深い溝になっている。細い長方形の木の板は隣同士の色も違っていて、この図書館が過ごしてきた年月を物語っている。
 金属の四つ足の踏み台は天板が厚い木製で、ゴムの足先が床の板によく馴染む。僕は静かにその天板に片足をのせた。両足をのせて、図鑑に人差し指をかけようとした時。
 右側のドアが音を立てて開いた……。
「あ、協会長。失礼致します」
 ドアから入ってきたのはアインさんだった。アインさんは面接官をしてくださっていた時より白い髪になられて、ずっと穏やかな雰囲気になられた。
「アインさん、お久しぶりです!」
「本当にお久しぶりですね」
 僕は図鑑から指を離して、踏み台から降りた。すぐ前の机の椅子に座る。アインさんは僕の方に来られて、探るような目で僕を見られた。
「ツヴァイは元気にしておりますか? 面接官に戻ったとうかがいましたが……」
「ああ、それなら……」
 アインさんは普段、僕のいる図書館とは違う図書館におられる。僕のいる図書館は幹部が常駐しており、時々、違う図書館に移動する。今は中央の大陸の図書館が中心となっていて、僕たちはそこにいる。
「前にお会いしたのは五年前でしたね。あれから、色々とありました」
「それは愚息から聞いております」
「ツヴァイさんは、僕の希望で以前通り、面接官に戻っていただきました。今は下の階におられるはずです」
「実は、先ほど、会いまして。ガツンと言ってやったところです!」
「あはは。どうおっしゃっておられました……?」
 アインさんはただ、肩をすくめられて、一礼された。
「それでは、失礼致します。久々にお話できて……楽しかったです」
「ふふ。僕もです。北の図書館へ帰られるのですか? お気をつけて」
 アインさんは一瞬、寂しそうな表情をされた後、笑顔になって反対側のドアから出て行かれた。

「あの~……」
 アインさんが入ってこられたドアから、ツヴァイさんが顔をのぞかせられた。
「親父、行っちゃいました?」
「ついさっき、行かれましたよ」
 僕が読んでいた歴史の本を机に置くと、安心したようにこちらに来られた。
「いや~、相変わらず、怖~の……」
「怒られたんですか?」
「そんなんじゃ!……ないっすけどねえ……」
 僕は図鑑を机の奥角に動かして、両ひじをついた。
「モア様にお会いしてこようと……思うんです」
「へ?」
 モア様はこの世界の創造主といわれている方で、ツヴァイさんもお話をされたことがある。
「中央の天文台に行ってきます」
「一人で大丈夫ですか?」
「はい」

 中央の街にある天文台に来るのは本当に久しぶりだ。何年ぶりだろう……?
 僕が協会長に就任してから二年目に旧協会長である父に連れてきてもらったのが最後だから、もう二十年以上前になる……。
「おや、協会長様。お久しぶり」
 天文台守さんは今もあの時と変わらない姿で、お茶を飲まれていた。
「今夜はどうされました?」
「ええ、モア様にお会いしようと思って……大丈夫ですか?」
「はいはい、今日は十二日でしたね。大丈夫ですよ。上に上がってください」
 天文台守さんにお礼を言って、丸い壁にそった階段を上がる……。

 帰った中央図書館のドアを開けると、部屋にいた人たちがお辞儀をして下さった。
「協会長、お帰りなさい」
「変わりはありませんでしたか?」
「ええ、特に……」
 そのまま部屋を通って、中央の部屋へのドアを開ける。
「お。お帰りなさい!」
 僕の机の横でツヴァイさんが本を読まれていた。
「ここにいらっしゃったんですか……」
「ええ、まあ……」
 ツヴァイさんは心配そうに僕の目を見た。それから、読まれていた本を本棚に戻すと、
「こんな難しい本、よく読めますね~」
 と向こうを向いた。
「ツヴァイさん、お話があります」
「へえ、なんでしょ? ご神託でも賜ってこられましたか?」
「貴方に最終試験を行います」
「最終……って……」
「ツヴァイさん。世界を動かしているものは何だと思いますか?」
「愛、とかですよ」
「合格です」
 僕は深く頭を下げた。
「あなたが次の協会長です。よろしくお願いしますね!」

 そうして、僕は中央の大陸、南東の実家に戻った。
 玄関ベルを鳴らすと、少し疲れた様子で、父が出迎えてくれた……。

『最終試験』

執筆の狙い

作者 久方ゆずる
208.128.31.150.dy.iij4u.or.jp

『雷と魔術師協会の秘密』の第一部完です。
前回までをご存知じゃない方にはちんぷんかんぷんの内容かもしれませんm(_ _)m

よろしくお願い致します!

コメント

久方ゆずる
208.128.31.150.dy.iij4u.or.jp

第二章の冒頭が書けたので載せさせて頂きます。
続きを読みたいと思われたでしょうか?

◆◇◆

 お母さん譲りのブロンドとおじいちゃん譲りのウェーブ、それで私の髪はブロンドウェーブのショートカット。
 お父さんは剣士で、癒し魔法の使い手。

 緑色の上下の剣士服は腰に大きなベルトがされていて、まだまだ私の身体には重い……。
 剣を腰にさして、もう一度、玄関ドアに頭を下げた。
 玄関ドアは木製で、外から中は一切見えない。welcomeのドア飾りが私を応援してくれているような気になって、一人微笑んだ。

 そして、私はおじいちゃんの図書館へと向かった……。

 図書館への道は単調だった。今は西の大陸の図書館が中心で、おじいちゃん、じゃなかった、協会長はそこにいらっしゃる。
 昼食のおにぎりを食べていると、横の草むらから一匹の小動物が出てきて、また入って行ってしまった。


「マジシャ!」
 入口ドアを開ける魔法の言葉を唱える。ドアは両側にギイイ~っと開いた。何度唱えても間抜けな言葉だなぁ。
 部屋にいる人たちが私を不思議なものを見る目で見た。
 壁の本棚を整理していた女性が気づいてくれて、
「協会長のお孫さんね。協会長にご用事?」
 と言ってくれた。
「はい。ツヴァイ協会長はいらっしゃいますか?」
「ちょっと待ってね」
 奥のドアをノックされて、返事を待つ。
「はい」
 ドアを手で指し示されて、ドアを開けた……。

 中の丸い大部屋に、ツヴァイおじいちゃんが眼鏡をかけて、本を読まれていた。
 後ろ手でドアを閉めた後、
「ツヴァイおじいちゃん!」
 と机の方に駆けよった。
「よお、キッティン。ここでは協会長と呼べと言っただろう……」
 机の横で立って本を読まれていた協会長は、すぐ前の本棚に本をしまわれた。
「だってぇ、久しぶりなんだもん……」
 私が側まで行くと、
「ダインとシェーンは元気か?」
 と言った。
「お父さんもお母さんも元気よ! 今日は二人に許可をもらって、魔法の修業に来たの」
「へえ、俺に魔法の修業をねえ……炎系か?」
「当ったりー」
「よしよし、それでは裏庭で教えて進ぜよう」
 そう言った協会長は私と同じ年くらいに見えた。そのすぐ後に、老眼鏡は外してっと、なんて眼鏡を外すから思わず笑ってしまった。

久方ゆずる
208.128.31.150.dy.iij4u.or.jp

 図書館の裏庭に行く。
 砂っぽい地面に黄色い草が所々生えている。おじいちゃんは、ローブとお揃いの靴で軽く地面をならした。砂が少しだけ舞い上がった……。
 左の奥に大きな木が生えている。おじいちゃんは今度はその木の幹を親指で指差し、
「ここに意識を集中してみろ」
 と言った。
 私はうなずいて、その点を一生懸命に見た。
「次に、右手を胸の高さに上げて、手のひらを上に向けてみ……」
「はい……」
 言われた通りに手のひらを上に向ける。
「心の中に炎を思い浮かべる。意識を澄ませ」
 手のひらに力を入れすぎないようにして、炎を思い浮かべた。
 意識を澄ます……。
「そう……!」
 ツヴァイおじいちゃんが言ってくれた瞬間、手のひらから力が抜けた。
「出て、ました?」
「ああ、ちょっとだけな」
 そう言って、おじいちゃんは笑ってくれた。すぐ、厳しい表情に戻って、これを何度も練習するように、と頭をなでてくれた。


 練習に疲れきって図書館中央部屋に戻ると、おじいちゃん、いいえ協会長が待っていてくれた。
「お茶でも飲む?」
 そう聞いてくれて、私は笑顔になった。


「ところで、お前、何歳だっけ?」
「十五よ! もう、ひどいんだからぁ」
「ごめんごめん、最近、忙しくって……」

 机の上の、私の紅茶をすすめてくれながら、ツヴァイおじいちゃんが笑った。
 おじいちゃんは自分の紅茶を見つめながら、ポツリと言った。

「そろそろ、旧協会長にお会いしてみるか……?」
「え……?」
 噂には聞いたことがある。おじいちゃんの前の協会長さんのことよね……?
「旧協会長さんって、おじいちゃん?」
「バアカ、違うよ。俺よりずっと若いよ。お前よりはずっと大人だけどな。なあんて」
「ふうん」
「会ってみるか……?」
「はい」

 その時、私の胸は不思議なトキメキでふくらんだのでした!


 旧協会長のお家のドアの前で、二回、深呼吸した。
 おじいちゃんに借りた地図を見て来たけれど、こちらでいいのよね……?

 ここら辺って、本当にお家が少ないのねぇ。緊張しちゃう!

 ドアをゆっくりとノックする。
「はい!」
 中から、高めの声が聞こえた。男性みたいだ。

 両足を揃えて立っていると、キィと音を立てて、ドアが内側に開いた。
 ドアを開けてくれたのは、おじいちゃんより少し背の低い水色の綺麗なお洋服を着た男の人だった。四十歳代ぐらい?

「キッティンさんですね。ツヴァイさんからテレパでお話はうかがっています……」
「あ、はい!」

 テレパっていうのは、遠距離でもお話ができる魔法。おじいちゃんは得意みたい……。
 旧協会長は、どう見ても不機嫌だった。

「中へ、入られますか?」
「ええと」
「父は寝室ですので、僕と二人きりになりますが……」

 どうしよう!?

「入らないのなら、閉めますよ」
「ああ! 入ります……!」

久方ゆずる
208.128.31.150.dy.iij4u.or.jp

続きは、星空文庫様で!

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内