作家でごはん!鍛練場
加茂ミイル

ペロポネソス戦争・疫病・ソクラテス

 古代ギリシアは、都市国家という単位の独立した共同体が並立する形で構成されていました。
 その中でも特に強大だったのが、アテナイとスパルタでした。
 アテナイの政治体制は民主制をとっており、一人一人の市民が平等に政治に参加していました。
 スパルタは二人の王のもとに、厳しい軍国主義がしかれていました。
 古代ギリシア世界はこの二つの国家を盟主とする同盟によって二分されていました。
 アテナイを盟主とするデロス同盟は、海軍主体による軍事同盟でした。
 一方、スパルタを盟主とするペロポネソス同盟はスパルタを盟主とする陸軍主体の軍事同盟でした。
 この二つの同盟は互いに睨み合いをきかせ、勢力均衡を維持していましたが、いずれは全面対決せざるを得ないような一触即発の空気が常にみなぎっていました。

 紀元前431年、この二つの同盟が衝突する事件が起きます。
 ギリシア内の小都市の間で小競り合いが起き、一方の都市がアテナイに援助を求めました。アテナイがそれに応えると、アテナイの勢力拡張を恐れたスパルタが、アテナイに敵対する行動を起こしたのです。
 こうして引き起こされたのが、ペロポネソス戦争です。
 
 スパルタ人は子供の頃から厳しい軍事訓練を受けており、女性すらも屈強な戦士たりえました。
 一方アテナイ人は、学問や芸術に力を入れており、スパルタほどの厳しい軍事訓練は課されていませんでした。しかし、アテナイにはエーゲ海を支配するほどの強大な海軍力がありました。
 アテナイ人は巧みに船を操り、スパルタの海岸線に突然現れ、上陸しては攻撃をしかけ、農地を焼き払い、スパルタ軍が反攻に転じようとすると、素早く船に乗り込み、沖の方まで避難するのでした。これを繰り返しさえすれば、じわじわとスパルタ側の土地は荒廃し、軍も疲弊し、いずれスパルタ側は敗北に追い込まれるはずでした。
 
 ところが、アテナイに予想外の出来事が起こります。
 それは疫病の大流行です。
 当時、エジプトで流行っていた疫病がアテナイを襲ったのです。
 この戦争中、アテナイは籠城作戦をとっており、狭い空間に人口が密集し、疫病が蔓延しやすい状況が作られていました。
 この疫病でアテナイの人口の3分の1が失われてしまいました。もはや、戦争どころではなくなってしまいました。
 それまでアテナイの文化の隆盛に大きな役割を果たし、政治においても軍事においても一流の手腕を発揮し、アテナイを一つにまとめていたペリクレスという有能な指導者もこの疫病にかかって命を落としました。

 ペリクレス亡き後、彼に代わるほどの手腕を持った政治家が現れず、アテナイは混乱に陥りました。
 ペリクレスの甥であり、才能と美貌の持ち主であるアルキビアデスという人物が民衆の支持を受けてこの戦争を指導することになりました。しかし、彼の存在を疎ましく思う者が政界内には多く、戦局の危機にも関わらず、状況は政治家同士の足の引っ張り合いのようになってしまいました。
 アルキビアデスを司令官としてアテナイ人はシチリア島遠征に赴きます。ちょうどその頃、彼は国内にいる政敵の企みにより、神聖なヘルメス像を破壊したという罪状で召喚を受けてしまいます。当時、神を冒涜する行為は非常に重い罪でした。このように政敵の攻撃が激しさを増し、身の危険を感じたアルキビアデスは戦線を途中離脱し、逃亡しました。アルキビアデスを失ったアテナイ軍はシチリア戦で大敗北を喫し、多くの兵士を失い、戦況は窮地に追い込まれました。
 アルキビアデスにとっては故国アテナイこそ危険な場所になりました。そして、よりにもよってこの戦争の敵国であるスパルタに逃亡し、そこで王に身をかくまってもらうことになります。しかし、そこで王妃とのスキャンダルが発覚すると、スパルタにもいられなくなり、今度は従来からの敵国である東方の大帝国ペルシアに亡命し、ペルシア王の庇護を受けながら生き延びることになります。
 しかしながら、アテナイの国内情勢が変化すると、彼は再度故国に帰還し、政権に参加します。その後、スパルタとの局地的な戦闘で勝利します。
 しかし、その後の海戦における敗北の責任を追及されると、トラキアという北方の土地に逃げるのですが、そこで暗殺されてしまいます。
 結局、アテナイは最終的にスパルタに敗北し、スパルタの管理下に置かれることになります。

 アテナイ敗戦の原因をアルキビアデスに求める人々から、ソクラテスは非難を受けます。というのは、アルキビアデスはソクラテスの愛弟子だったからです。
 しかし、その非難が的を射たものかどうかは、議論の余地が多いにあります。
 戦局の混乱がアルキビアデスの浅はかな行動によるものだったのか、それともアルキビアデスに罠をかけようとした政敵の悪意によるものだったのかは、それぞれに様々な意見があることでしょう。

 ソクラテスはアテナイという都市国家を心から愛しながらも、民主制の持つ危険性を指摘します。
 民主主義では、あらゆる才能が花開く一方で、あらゆる誤謬を含んだ思想までをも平等に認めなければなりません。
 重要な政治的決定は多数決によって決められますが、もし民衆の多くが愚かな考えに囚われていた場合でも、それは多数決で決定されてしまうのです。
 この点に危機感を抱いたソクラテスは、プラトンの著作『国家』の中で、知的に訓練された哲学者による哲人政治を理想として語っています。

ペロポネソス戦争・疫病・ソクラテス

執筆の狙い

作者 加茂ミイル
i125-205-104-206.s42.a014.ap.plala.or.jp

古代ギリシア世界に興味があって、以前勉強したことを要点をまとめて記述してみました。

コメント

すもも りんご
116-65-240-38.rev.home.ne.jp

非常に勉強になりました。
実は太陽と光冠で表現の難しさに苦労していました。
糸口が見えてくるようで本当によかったです。

加茂ミイル
i125-205-104-206.s42.a014.ap.plala.or.jp

>すもも りんご様

お役に立てて嬉しいです。
皆さまが作家になるために少しでも協力できることこそ、私の使命だと心得ております。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

「ペロポネソス戦争・疫病・ソクラテス」読みました。
この手の話はあまり知らないのですが、読んでみて、わかりやすくポイントが書かれていると思いました。
これを元にして、多種多様な小説やドラマを書けるのではないでしょうか。
そのまま国々の小市民が翻弄される話を書いてもよいですし、魔法などのファンタジーをくわえて、独自の世界を構築してもよいのではないかと思います。
タイムスリップもありだし、宇宙人が来ていたという設定もありです。
もちろん神が登場してもよいですし、いろいろな方法があります。
当時の芸術家がどう生きたかという話なども、面白いのではないかと思います。

どちらにしろ、加茂ミイルさんの書いた内容はかなりわかりやすかったです。


お疲れさまでした。

加茂ミイル
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>夜の雨様感想ありがとうございます。

ちょっとマニアックな分野かと思い、分かりやすく書かなければ一般の方には面白く読んでもらえないだろうなと思っていました。
ギリシア世界には興味があり、いろいろな本を読んだのですが、専門的な書き方をしているのが多く、
自分は、それをもっと分かりやすく書きたいと思っていました。
今回の作品は、内容的にはあらすじのように浅いものかもしれませんが、
夜の雨様のご助言のように、これを下地にして、いろいろなイマジネーションを加えて小説として形になっていくと思います。
どうもありがとうございました。

瀬上
36-2-182-79.kanagawa.fdn.vectant.ne.jp

加茂ミイルさま

大変興味深く読ませていただきました。
ペリクレスが疫病の流行によって亡くなったなんて、全く知りませんでした。温故知新、今の状況に思いを馳せてしまいます。歴史は面白いですね。
ありがとうございました。

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