作家でごはん!鍛練場
鑑真

灯火

寂れた駅のホームの向こうで太陽は少し傾いている。ついた溜め息はもう白く染まることはない。左手にひっかけた百円ショップのビニール袋が、後ろから追い越したサラリーマンの脚に当たってカサリと音を立てた。

「行くか」とわざとらしく小さな声を出してみて、重い足を動かした。
半年振りに訪れた駅の正面の道路に、死んだ友達の後ろ姿が鮮明に思い出された。文化祭の後に、この駅まで一緒に歩いてきた。それが最後の会話になるなんて思ったはずもないけれど、駅から自転車を押して帰っていく後ろ姿はなんだかとても頼りなかったのを覚えている。

自殺だった。何度検査しても原因がわからず、一向に良くならない腹痛と、それによって手につかない受験勉強。親や教師からのプレッシャー。色んな煩わしいものに囲まれて、去年の秋に死ぬことを選んだ。



駅を出て右の坂を下ると交差点があって、その先にある川を渡って、目の前の高台にある家。川の周りは田んぼが広がって、子供たちが大きな声で騒ぎながら走り回っている。高台を登る道は左手に家が並び、右手に木々が茂っている。蚊柱を払いながら、死んだ友達の苗字を探す。

高台の一番上。白い大きな家。こんなに大きくてきれいな家で、こんなに穏やかないいところで、ひとり苦しんで、ひとりで死んで。


家を少し過ぎたところには彼が眠っている墓があるらしい。墓へと伸びる二十ほどの石段を登るのに少しだけ勇気が必要だった。この上に半年振りに会う友達が待っている気配と、そんなスピリチュアルな感覚を抱いていることをへの居心地悪さが混ざって不思議な感覚がした。

階段を登ると、右に墓があって、反対には綺麗な景色が見下ろせた。少しの間その景色を眺め、振り返って墓の前にしゃがみ込む。


「久しぶり。受験終わったよ」


墓の前で故人に話しかけるなんて、ドラマや漫画みたいな気恥ずかしい行動を取っているのに、それは至極当たり前のことをしているだけのような気がしていた。


「オレ受験うまくいかなくてさ、うちのクラスから他にも高井とか福田とか、何人か浪人することになって、あとは大体うまくいったわ」


「それと石田が医学部受かってさ、センターうまくいかんかったのに、なかなかやろ」


「それから新原とりょうちゃんが付き合ってな、二人で同じ大学行こうって頑張っててん。まあ新原が落ちて同じ大学行かへんかったから遠距離らしいけどな」


ひととおり受験の報告をすると、途端に話すことがなくなってしまった。あいつが死んでから長い時間が経ったように感じているけれど、僕らはまだ、あまり先へは進んでいないらしい。
一度言葉に詰まると、それまで自然に出てきていたのが急に滞ってしまった。
二呼吸分くらいの大きな息を吐いて、なんとか言葉を繋げる。


「そんでな、オレと福田が市内の予備校でな、高井は大阪の予備校の寮入るし、他のみんなは大学でばらばらになるから、お前寂しくなるかもしれんね」


少しの間言葉を繋げることを諦めて、友達の死を聞かされた時の教室を思い出していた。


「お前が急に死んだりするからな、クラス大変だったんよ。急に亡くなりましたなんて聞かされてな、みんな泣くとかそんなレベルじゃないんよ。そんな急に涙なんて出てこんねん。橋口とかトイレで吐いててんで。」


「まだみんな分かりやすく沈んでたら時間で何とかなったかも知れへんけどな、中山とかええやつやからな、みんなを励まそうと無理して明るく振る舞うんよ。それが痛々しくてな、ほんとに、見てられへんくてな、お前と一番仲良かったやんか、だから、ほんとにな」


川沿いで遊んでいた子供たちの声が高台を登ってきたのに気づいて、ふと我に帰る。いつのまにか墓の前に座り込んでいたこと、涙を流していたことを見られたような感覚がして、途端に恥ずかしく思った。
それでもまだ、僕は目の前の友達ともう少しだけ話がしたかった。


「それからお前な、葵ちゃん泣いててんで。オレ好きやってん、葵ちゃん。女の子泣かせたらあかんねんぞ」


「あの子お前が死んだあとずっと勉強ばっかりするようになってな、そのせいであんまり仲良くなれへんかったんやぞ。お前のこと好きやったんかなぁ。仲良かったもんなぁ」


ふと風が吹いて、地面に落ちていたビニール袋がカサリと揺れた。
電車に乗る前に買った線香に百円ライターで火をつける。


「まだバイト出来んからな、ごめんな。花は買えんかったわ」


先端が白くなった線香を鉢に挿して、二呼吸分の溜め息をついた。
振り返ると、太陽は大きく傾いていた。オレンジ色の町はとても穏やかで、静かな暮らしを思わせるばかりである。
「行くわ」とわざとらしく大きな声を出してみて、足を動かした。少しだけ軽くなった気がした。

灯火

執筆の狙い

作者 鑑真
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世界観が上手く出せているか不安ですがよろしくお願いします。

コメント

may
pw126233147013.20.panda-world.ne.jp

雰囲気がいいですね。情景が浮かんできます。
ひっそり静かに死んだ友人と、周りは温かい人がいて、死んだと知らされて吐いちゃうなんてなんていい人。僕らはまだあまり先へは進んでいないらしい、と友人が亡くなったところからまだ抜け出せていない現状と未練が感じられます。惜まれるのは幸せなこと。墓参りしてくれる友人がいて、こんなふうに現状報告してくれて。この死んだ友人は実は死ぬ必要なかったんじゃないかと思わされました。
自死だったとあります。正体不明の腹痛に悩まされていたとも。死をえらぶ勇気があったのなら他のこと受験以外に逃げてもよかったんじゃないか。友達に恵まれているのなら、一度浪人したってもう一年やり直しが聞くんじゃないか。惜しい。と思いました。でも、いい人ほど早く死ぬんですよねー。

大丘 忍
p1611005-ipngn200303osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

自殺した友人の墓の前で現状報告をしただけ。ストーリーも何もありませんね。文章が上手いかどうかは、小説を書く上の一条件に過ぎません。短いものは短いなりの起承転結があれば面白いものになると思います。
最近ここの投稿される作品で小説になっていないものが多すぎると思います。文章はうまいのですから、小説とは? を考えて頑張ってください。

スカイ画廊の父
sp1-72-0-46.msc.spmode.ne.jp

 一場面を描いただけとはいっても最低半年間という時間が作品の底には流れているはずで、それ相応のものが凝縮されていれば、矛盾するようですが一場面でも一場面と感じさせないものが描けると私は思います。
 友達の自殺の真相やそこまでに至った彼の思考、死なせずに済んだ後悔などを深く考えず、近況報告だけに終わり足取りまで軽くなるのは不自然だと感じます。だいたい半年間も主人公は何をやっていたんでしょうか。
 結局この話は語り手の自己欲求しか満たされないもので、安全圏から語る語り手は常に守られているし、同時に癒される、といったここでも大変多く見られる作品群の特徴を如実に表したものだと、いささかの悪意をもって私は読みました。家と墓が近すぎるというところにもそれは顕著に表れているのでしょう。

哲実
KD027083171050.ppp-bb.dion.ne.jp

読みましたが、ただ墓参りをしただけという感じです。
読後に何も感じません。
後半は少し違和感を覚えました。

ω
softbank126159224090.bbtec.net

小説になってない?淡々と事実だけ述べて、読者の想像にお任せ(ってか押し付け)の手法もあるじゃん。宮本輝とか。

鑑真
KD106130205006.au-net.ne.jp

may様
ありがとうございます。
投稿したものは元々長いものの最後の一章であるので、この一場面ではなかなか感情移入いづらかったかと思いますが、正確に読み取ってくださり感謝します。

鑑真
KD106130205006.au-net.ne.jp

大丘忍様
ありがとうございます。
上に書いた通り、これは長いものの締めの節なので、ストーリーという点では確かに弱いです。
恐らくここに投稿されるものの多くはそういった起承転結の一文字であったり、あぐで練習で書きたい場面のみを書いたものが多いのではないでしょうか。あまり詳しくないので推測の域にありますが。
雰囲気だけでも感じてくだされば嬉しいです。

鑑真
KD106130205006.au-net.ne.jp

スカイ画廊の父様
ありがとうございます。
主人公の視点で書いているものなので死んだ友達の心情は書きません。推測できるだけの要素は入れたはずなのですが…
不自然ということですが、半年も経っているのに墓の前で泣き叫びながら「お前にあのとき何か一言救いの言葉を言えていたら…!クソォ…!!」なんて言う方がかなりやばいと思うのですがどうでしょうか。ちなみに文中にもある通り主人公は半年間受験でした。
それからおっしゃる通り癒されるという感想は不自然なものです。この文章は読後に若干の不快感というか苦いものが残るのが正しい読み取りかと思います。長くなりすぎるので詳細に語るのは留めますが、死の匂いの漂うオレンジの町並みに安心はしないでしょう。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

「灯火」読みました。
世界観や背景がイメージできるのか、が、この手の作品が成功しているかどうかだと思いますが、御作はよく出てきていると思います。

>「寂れた駅のホーム」の向こうで「太陽は少し傾いて」いる。「ついた溜め息」は「もう白く染まることはない」。「左手にひっかけた百円ショップのビニール袋」が、「後ろから追い越したサラリーマンの脚に当たって」「カサリと音を立てた」。<

導入部のシーンだけでも「絵になる」ように書かれています。
私が、「  」 ←で、囲んだ「文」を読んでも作者さんは、工夫しているなぁと思います。


御作を読み進めると、主人公は亡くなった友人の墓参りということになっていて、お互いに若いというか受験生だったわけなのですよね。
墓参りで、友人は自殺ということが描かれていますが、クラスメイトが悲報を知った時の反応が書かれていて、友人が彼ら彼女らに好かれていたという設定になっています。
「葵ちゃん」のことも書かれているし。主人公も彼女を好きだったということですが、青春はいろいろあるよね。

>「行くわ」とわざとらしく大きな声を出してみて、足を動かした。少しだけ軽くなった気がした。<
このラストの一文も「少しだけ軽くなった気がした。」この気持ち、どうしてそうなったのかが、御作の中で書かれていました。

ということで、場面設定としては背景がイメージできるので、よいと思います。
NHKの短歌教室などを視聴していると、視聴者から送られてきた「短い場面設定から、素敵な俳句を創っています」が、御作のこの内容なら、短歌をやっている方なら、それなりの句が出来るのではないでしょうか。


ただ、この手の作品は、背景も含めてすでに誰かが書いているのではないかと思います。
友人の自殺に絡んだ作品で、主人公や仲間が悩んだり成長したりする小説や映画、ドラマは絵になるので。
だから、この手の作品を書く場合は、ほかの方が描くであろう世界観や設定を、違う味付けにする必要があると思います。

お疲れさまでした。

鑑真
M014012134032.v4.enabler.ne.jp

哲美様
ありがとうございます。返信が遅くなりすみません。
何も感じませんでしたか…残念です…
できれば何に違和感を感じたのか言葉にしていただきたかったです。

鑑真
M014012134032.v4.enabler.ne.jp

ω様
ありがとうございます。返信が遅くなってすみません。
小説の定義にもよりますが、確かに起承転結が綺麗に整っているものではないですね。個人として心情が動けばそれは小説だと考えているのですが。同様の理由で心情の動きははっきりと書いてあるつもりでいます。宮本輝ほど正確に書いてはいませんけどね。

鑑真
M014012134032.v4.enabler.ne.jp

夜の雨様
ありがとうございます。
世界観があらわせているかということが作者コメントに書いた通り今回の課題だったので良かったです。 
最初の段落に関しては、一文目が時間、二文目が季節の文で、すべて主人公の視点から見える「景色」として書きました。今回のものは世界観を出すためにも視覚を多用したものが多いです。上手く効果していたようで安心しました。

ちなみに他の方への返信にも書きましたが、投稿したものはボツにした小説の最後の章で、元々は友達が死んだことを受けて、予備校の話、橋口の話、葵ちゃんの話など章ごとにフォーカスを変えて主人公の視点から書いたものでした。青春は色々ありますね。

また、確かに独創性という点ではかなり弱いと思います。友達の自殺なんて創造物においては重さはどうであれ凡庸なテーマですよね。その上テーマの凡庸さを補うようなアイデンティティもありませんし、自分で書いたものではありますが、高評価しづらいものだと思います。
次は設定にまで拘って買いてみます。ありがとうございました。

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