作家でごはん!鍛練場
日程

革命前夜

  素性

 源家のお屋敷に不法侵入した二人の男が見張りに捕らえられた。彼らは縄で縛られて、殿様の前に引き出された。
殿様は二人を見下ろして言う。
「おぬしら二人はいきなり儂の屋敷に現れた誠に怪しい者じゃ。
そのほうらの名前ならびに素性を述べよ」
縛られた男の一人が言った。
「源氏の方でよろしければ……」
「ふむ、源氏であるなら結構じゃ」殿様は大仰にうなずく。
もう一人の男が言った。
「私は長らく平で……」
「平……何じゃと?平氏だと!それは許すわけにはいかぬ」
殿様が声を荒げて言うと、周りを取り囲んでいた近衛兵が一斉に立ち上がった。

 かくして、突然鎌倉のお屋敷にタイムスリップしてしまった二人、ホストは赦免されたが、平社員は打ち首となった。



  真実の言葉

 俺は女に愛の言葉を囁き続けていた。
「ねえ、あなたの気持ちは本当なの?」
彼女は俺の言葉を遮って、なぜだか俺の首筋に手を当てる。
「本当だ、俺はもう君がいなければ生きていけない」
噛み締めるようにそう言うと、彼女は俺の首筋からすっと手を離した。
よく見ると、彼女の手のひらには小さな機械が乗っかっている。
「これね、私が作った頸動脈から測る最新型のウソ発見器なの」
実は彼女は世界的に有名な研究者なのだ。
しばらくの間、彼女はその機械を真剣な表情で見つめている。
「あなたの言ったことは真実みたいね。私のもとに集まってくる男はみんなお金目当ての人ばっかりで。真実の言葉を言ってくれたのはあなたが初めてよ」
彼女の目頭が熱くなり、一筋の涙が頬を伝う。

 俺は本当のことを言って心底よかったと思った。今の俺には多額の借金があり、彼女の援助がなければ生きてはいけないのだ。



  ピエロ

 大きな赤い鼻に真っ白の顔。探検隊が降り立ったその星の住人は、地球のピエロにそっくりな顔をしていた。普通別の星の生物とコンタクトを取るときは思わず警戒してしまうものだが、この住人があまりに地球で見慣れたひょうきんな姿なので、探検隊たちは自然に笑顔になることができた。また住人の側も異星から来た彼らを気に入ったのか、古い知り合いのようにやけに笑顔で親切にしてくれた。
 住人らの友好的な歓待を受けること1週間が過ぎた。この日探検隊たちは、住人の好意で自由に街を歩くことを許されていた。そこで彼らが都市を観察して回っていた時、その横を何と驚いたことに地球人が通り過ぎた。そこで現地の言葉を覚えた隊員の一人が、その人物に声をかけに行く。
ところが隊員は、すぐに浮かぬ顔で仲間たちのもとに戻ってきた。
「おいどうだった?」
仲間たちは話を促す。
「それが地球人じゃなかったみたいなんだ。地球人に見えたのは肌の色を塗って、鼻をテープで潰していたからだった。もうすぐ仕事だからって追い返されちゃったよ」
「なんだって?何のためにそんなことをしているんだ、そいつは?」
すると隊員は何とも言えない表情で言った。
「それがさ……彼の仕事、地球の言葉で翻訳したら、ピエロだってさ」



  眠れぬ人

 目覚めたのは暗い地下室だった。目の前には意地悪い笑みを浮かべた男。私は体を動かそうとするが、椅子に縛られており動けない。
「気づいたか、ゴミ虫」男は粘着質な声で言った。
その声に私は聞き覚えがあった。こいつは私の彼女のストーカーだ。
「おい、今すぐほどけ。いったい何のつもりだ!」
「お前にはここで死んでもらう。しかしただ殺すだけでは面白くない。そこでその電気椅子を用意した」
「おい、俺をどうするつもりだ」
「俺は遠くから24時間体制でお前を監視する。そしてお前が疲れて寝ようとすれば、強烈な電流を流す。どうだ、眠れずに死ぬんだ。最高の処刑方法だろう」
男は気味の悪い笑い声を残し部屋から出ていった。
それから地獄が始まった。睡魔に襲われては電気をくらい、覚醒する。いったい何度繰り返しただろうか。身も心ももう限界だった。

 「大丈夫ですか?」体を強く揺さぶられ目が覚めた。体を縛っていた縄はほどかれており、目の前には大勢の警官がいた。
「どうして私は……。あの男は?」 
「死にました。なんでも5日間一睡もせずにパソコンの画面を見続けていたようで……」



  使命

 前から小さな男の子が近づいてくる。それが私のターゲットだった。なるべくならばやりたくない。しかしこれは使命なのだ。自分に言い聞かせて、私は男の子に話しかけに行く。
「坊や、一人でどこに行くんだい?」なるべく自然な調子でたずねる。
「あのね、ママに頼まれておつかいに行ってるの」
「そうなのかい、偉いね坊やは。でもスーパーはあっちじゃないかな?」
「ううん、こっちで合ってるよ、いっつもママと行ってるもん」
「そっかあ。すごいねえ。おじさんびっくりしたよ。坊やにお菓子をあげるから向こうの方で待っててくれないかな?」
「ううん。ぼくおつかいの途中だからダメだよ」
賢い子供だ。残念ながら子供だましの手法は通用しそうにない。こうなれば仕方がなく私は覚悟を決める。男の子の耳にそっと近づくと、できる限りドスの効いた声で言った。
「おい、今すぐ引き返せ、ぶっ殺すぞ」
男の子はわっ、と泣くと走って逃げていった。
きっとこの部分はカットされ、男の子が寂しくなって泣きだしたかのように編集されるだろう。罪悪感は消えるものではない。しかしこれは、尺を伸ばして、盛り上げ場を作るという私の使命なのだ。

 こうして今週も、「はじめてのおつかい」の収録は無事に終わった。



  リフレクト

 少し頑固だが真面目な警官がいた。男は普段から社会を少しでも良くしようと思っており、本気で犯罪の撲滅を目指していた。
そんな男はある日夢を見た。その夢では神様が現れ、男の心に語りかけてきた。
「お前はこれまで真面目に生きてきた。よってお前の願いを一つだけ叶えてあげよう」
夢の中の男は迷わずに言った。
「世界からあらゆる犯罪を失くしてください」
「よかろう」神は即座に答える。
それから何もかもがぼやけて消え、男は夢から目が覚めた。目覚めは感じたことのない不思議な気分だった。
「妙に心に残るリアルな夢だったが、まさかな……」
しかしその夢は本当だった。男が神に願ったこの日から、一切の犯罪が起こらなくなったのだ。

 一年後、警察という職業自体がなくなり生活に困った男は、刃物を片手にコンビニのネオンの前にたたずんでいた。全ての犯罪が消えた日から初となる犯罪が、今、まさに起ころうとしている。



  ゴミの日Ⅰ

「さあ奥さま、ゴミの日です。今日は確か粗大ごみでしたね。さあ、どうぞ捨ててください」
「……」
「あれ?どうしましたか奥さま?私はただ仕事でこのマンションに来ているだけなので私に構わずに。今日はゴミの日ですよ、ゴミの日」
「……」
「あら、奥さま家に戻ってしまうのですか?その袋に入った大きな四角いごみを捨てなくていいんですか!」

 私は家へと帰りながら、厭味ったらしい敬語でしゃべり続ける役人に思わず舌打ちをする。
 もうあの役人とは三年以上口論を繰り返している。
私はずっとテレビはないと言い続けてきた。だからその体裁を守るためにも、何度もしつこく我が家に集金に来たあのNHKの役人に、テレビの存在を知られることだけはしたくない。

  ゴミの日Ⅱ

「さあお姉さん、ゴミの日です。今日は燃えるゴミの日で合ってますよ。さあどうぞ捨ててください」
「……」
「あれ?どうしましたか?ゴミの日ですよ、ゴミの日。早くここに置いてくださいよ」
「……」
「あれ?いいんですか?もう行っちゃいますよ、そのゴミ捨てなくてもいいんですか!」

 私はゴミ袋を抱えて自分の部屋へと駆け戻る。
なんで……なんであいつが今日に限ってこの地区の担当なのよ。いくら仕事っていってもなんであんなに普通の顔ができるのよ。
あれからまだ一週間も経ってないのに、なんでなのよ。
とどめなく涙が溢れてくる。
もう別れたんだからきっぱり忘れようと、ゴミ袋に詰め込んだ彼との思い出の品を抱きしめて、私は声を殺して泣く。

  ゴミの日Ⅲ

「さあ奥さま、ゴミの日です。今日は確か生ごみでしたね」
「……」
「あれ?どうしましたか奥さま、早くそのゴミを捨てましょう。要らないものなんですよね?そのためにわざわざこんな夜中に家から出てきたんでしょう?」
「……」
「あれえ、奥さま、なんで震えていらっしゃるんですか?もう長―い付き合いじゃないですか。今更そんな顔しないでくださいよ。ハハ」
「……」

 私は恐ろしさのあまり、その場から動くことができなかった。理屈はわからない。ただ悪夢ではない、間違いなく本物の現実だった。
私の目の前にいる人物はどうみてもやはり夫である。
今朝に五体全ての解体作業を終えて、今は私が持っている黒いビニール袋に包まれているはずの。

  ゴミの日Ⅳ

「さあおじさん、ゴミの日です。今日は不燃ごみですよ。何かまだ使えるものがありましたら、どうかご協力ください」
「……」
「あれ?どうしましたか?僕は決して怪しい者ではございませんのでどうかご協力お願いします」
「……」
「さあゴミの日で……」
私と近距離で目が合い、不意に彼は言葉をつぐんで目を逸らした。
私は無言で彼の前にゴミ袋を置く。
「……」
彼は何も語らない。私も何事もなかったかのように踵を返す。
吐く息が白い。もうそんな季節だ。

 この地区で物乞いをする男がいるとは前々から噂で知っていた。
しかしそれが進学をめぐる大げんかの末に、勘当で家を飛び出た我が息子だと知ったのはつい最近のことだ。あれからはや十年が経つ。
ゴミ袋に入れたのは新品のポットとヒーター。
今の私にしてやれることは、そのくらいしかない。



  良性殺人

 「君は病気なんだ」
周りの人間はみなそう言った。
「お前は人間のゴミだ、いてもいなくても変わらないんだ」
父親はいつも僕に繰り返した。
「大丈夫よ、あなたはおかしくなんてない」
僕の最も身近な人だけはそれでも僕を慰め続けた。僕はそのたびに怒りや憎しみをぐっと堪えることができた。
 ある日、白衣の男が険しい表情で僕に言った。
「君の病気を完治するにはとても長い時間がかかるかもしれない」
僕は思わず顔をひきつらせた。
「みんなそうやって寄ってたかって僕を馬鹿にして!」
男は何も言わずに静かに去っていった。
 気持ちが静まらなかった。誰も僕を正常だと認めてくれない。僕は本当に病気なんだ。どうにもならない病人なんだ。だんだん精神が荒ぶってくる。
「落ち着きなさい、あなたは病気なんかじゃ……」
その忠告も我を忘れた僕には届かなかった。
気づけば僕は、自分の最も身近な女性を殺してしまっていた。
僕は本当に病気になってしまったんだ。

 「院長、その後の経過はいかがでしょうか?」
看護士が訊ねると、院長は首をかしげて言った。
「不思議だ、実に不思議だ。両親が離婚して父親の元で虐待を受けていた子供だ。母親代わりに造られたのであろう、2つ目の人格との解離性同一性障害が、これほどたやすく完治されるとも思えんのだが……」



  救世主

 ある一人の男が、小さな岩山に漂流して悲嘆に暮れていた。先ほどまで自作の船で意気揚々と趣味の航海を楽しんでいたのだが、同じような小さな岩山が多いうえに朝晩で潮の流れが真逆になる難所のスポットに入り込んでしまい船は破損。食料もそれほど残っておらず、連絡手段はなにもない。男は仕方なく手元に残ってあった紙とペンを使い、助けを求める手紙を書く。それを瓶にいれて、藁にも縋る思いで海に流した。
それから2日ほど経った夜のことだ。懐中電灯で通り過ぎる船を探していた男は、自分が流した瓶が、陸に戻ってきているのを見つけた。特に期待もせずに瓶を開けて、驚いた。なんと自分が出した手紙の裏に、言葉はわからないが返事が返ってきているではないか。
この潮の流れの先に間違いなく誰かがいる! 確かな希望を得た男は、今度は言葉が通じなくてもわかるよう、地図を描いて自分の場所を記し、希望をこめて海に流した。

 波打ち際に返ってきた手紙を開いた男は歓喜した。最初はどこかの国のラブレターがたまたま自分の漂流先に流れ着いただけだと思っていた。しかし、その手紙の裏にダメもとで救助を頼む文書を書いたところ、それがほぼ正確に自分の居場所を指し示す地図となって返ってきた。俺を助ける救世主が現れる日はもう近い。彼は喜びに打ち震えるのだった。



  天命

「おいコラ!何度言ったらわかるのだ!」
俺はまた怒鳴られた。本当に嫌になる。ついてないとしか言いようがない。
「何故おまえはここまで物覚えが悪いのだ!」
うるさい、俺は暗記が苦手なんだ。こんなもん覚えれるわけねーじゃねーか。心の中では盛大に悪態をつくが、もちろん実際には言い返さない。そんなことをすれば何をされるかわかったもんじゃない。
どん。 
目の前に分厚い本が置かれていた。
「ここまでもう一度覚え直してこい。次に満点が取れんと容赦せんぞ!」
「……」
最悪だ、死にたい、オワタ。俺が絶望に打ちひしがれる中、隣の奴は二冊の分厚い本を猛スピードで覚えていた。 
続けて神は言った。
「隣のキリストは旧約聖書と新約聖書の両方を覚えねばならんのだぞ。ムハンマド、お前はコーランだけなのだからさっさと覚えろ!」
俺は嘆いた。
あーあ、何で俺が預言者なんかに選ばれちまったんだろう。




  ある晴れた日に

 ある晴れた日に、僕は死んだ。
それではなぜ意識を持っているのかといえば、今日があの日とよく似た「晴れた日」だからだ。
僕は地縛霊。この世に未練があるから霊になったのだが、僕の霊力はとても弱い。程よい雲の隙間から降り注ぐ太陽。からからに乾いた地面。あの日と同じ、一定の条件が揃わなければ、僕は意識を持つことができない。今日は何か月かぶりに霊として蘇ることができた特別な日なのだ。
 前から二人の女の子が歩いてくる。そのうちの一人が僕の前で足を止め、地面の上に花束を置いた。もう一人の子がそれに話しかける。
「エリちゃん偉いね。いくら昔のカレでも、2年以上前の事故なのに、まだ献花してあげるなんて」  
「いいのよ、大切な人だったから」
「そうなんだ……。その花はなんて名前なの?」
「これはね、スターチスっていうの、めちゃくちゃ可愛い花でしょ」
「え、本当にすっごい綺麗」女の子は高い声を上げる。
エリは小さなじょうろを取り出して、その中の水をスターチスに、いや僕に向かってかけ始めた。
彼女と目が合う。僕には実体がないが今、間違いなく目が合った。
彼女は僕を見下ろし、意地悪な笑みを浮かべる。
おそらく彼女にはある種の霊感があるのだろう。僕の存在に気付いている。
そして僕が彼女に対して全く無力である状況を、この上なく楽しんでいる。
からからに乾いた地面が水を浴び、確かな湿り気を帯びる。悲しいことに、僕の霊力もそれに伴い次第に薄れてゆく。意識が途切れ途切れになり、何かを考えることも、エリを直視することもできない。
スターチスの花言葉は「永遠の愛」と「途絶えぬ記憶」。なんという皮肉だ。彼女は僕を、自分が飽きるまで永遠にいたぶるつもりなのだろうか。
次に意識を取り戻すのはいつになるのか。消えゆく世界の中で何もかもが崩れ落ち、視界がついに暗転する。
最後に見たのはあの日と同じ、彼女特有の笑みに似た、ゆがんだ唇である。

 ある晴れた日に、僕は彼女に殺された。



  告白

 「どうしてなんだ。こんなにまで僕は君を愛しているのに」
それは心からの叫びだった。気が付けば彼女も目に涙を溜めている。
「わかってる。私だって、貴方のことが好き。だけどダメなの。どうしても男の人を愛することができないの」
心底つらそうな彼女の眼差し。可愛い、こんな時でさえ不覚にもそう感じてしまった。僕は彼女より美しい人を見たことがない。どうして神様は彼女を普通の女の子にしてくれなかったのか、世界は残酷だ。
「僕が、女の子だったらよかったのかい?」
「わからない……ごめんなさい。私だってこんな自分が一番大っ嫌いよ。私駄目だわ……もうこれ以上会うのはやめましょ」
声が震えていた。彼女は涙を悟られないためか、僕に背を向けて歩き出す。その寂しげで小さな背中を見て僕は誓った。
僕は世界一可愛い女の子になって、もう一度彼女に告白してやる。
それから僕は整形手術に手を出した。金も惜しまず、自分の思う理想の顔になるために、名だたる医師たちに施術を頼み、いたるところで細かく指示を出した。様々な困難を乗り越えてついに、鏡を見たら自分自身が惚れてしまうような、最高の顔を僕は手に入れたのだ。

 あの日から3年後、僕はあの日と同じ場所で、彼女と向き合っていた。
「やっぱりどうしても君が好きだ。僕と結婚してくれ」
「どうして……」
「僕が愛せるのは君だけなんだ。本当に君が好きなんだ」
「……どうして私が世界で一番嫌いなものに貴方がなるの」
動揺する瞳が見つめていたのは、彼女と生き写しの「僕」だった。


  占い師

 「そこのお父さん」
仕事帰り、私は突然声をかけられた。
振り向くと年若い青年が路上で机を広げていた。机には『占い師』と書かれた紙が貼ってある。
「僕の占いは絶対に当たります。もし当たらなければ代金は結構です。少しだけでもいかがですか?」
私は占いを信じない人間なので、そう言うのであれば逆に寄ってみる気になった。机を挟んで青年の向かいに座る。
すると青年は、何やら私をじっと観察している。
「あなたの年齢は五十六ですね」
正解だった。内心少し驚いたが表情には出さない。
「あなたはそれなりの規模の会社の社長をやっておられる」
青年は確信に満ちた口調で言った。思わず私は目を丸くしたが、このくらいではまだ信じては彼の思うつぼである。
動揺する私に構わず、青年は続けて言う。
「あなたの趣味は競馬ですね。そして最近プラモデルにも興味を持ち始めている」
こうなってくるとさすがに驚きを隠せない。競馬はまだしも、プラモデルはまだ妻くらいにしか言っていないのだ。これほど当たるならこの占い師は本物に違いない。
私もついに認めざるを得なかった。その後も青年は、なかなか人が知りえないようなことを次々と当てていった。
感服した私は思わず申し出た。
「君の占いは素晴らしい。代金は払うからもっと先の事も占ってくれないか?」
すると青年は急に顔を曇らせた。
「どうした?何か悪いことでもあるのか?」
「実は……」青年の歯切れは悪い。
「もったいぶらずに教えてくれよ」
私はせかすように言う。
「実は……あなたの奥さんとあなたの運命にとてつもなく嫌なものを感じています。理由は何とも言えません。強いて言うなら波長の違いといったものでしょうか。ここままお二人が一緒におられると、次々に不幸が起こります。場合によっては、社長はおろか、職すらも失う可能性もあるでしょう。あなたが仕事でこの道を通るたびに、僕はいつもその嫌な気配を感じていました。だから今日、思い切って声をかけさせて頂いたのです」
あまりの話に私は絶句した。思考は乱れ、とても信じたくはなかったが、この青年が嘘を言っているとも思えない。
何より私は一度信じたものは疑わない主義だ。それが社長としてあるべき姿と確信している。そしてまだ若い妻を、残酷な運命に合わせて後悔させるようなこともしたくない。
やがて落ち着いた私は口を開いた。
「わかりました。これから妻と相談します。場合によっては妻をここに連れてくるかもしれません」
私は占い師に謝礼を払うと直ちに家へと帰った……。

 「それで、どうなった?」
電話越しに彼女は訊ねた。
僕は路上の机を畳みながらそれに答える。
「うん、思ったよりもいい調子だよ。しかし驚いたな。こんなに事がうまく進むなんて」
「あたしはあの人の性格もプライベートも知り尽くしてるんだから当然よ。離婚が決まればたっぷり謝礼も貰えそうだわ。
それでもう決まった? あたしたちの新しいマイホームは……」

革命前夜

執筆の狙い

作者 日程
KD111239155070.au-net.ne.jp

1話1分で読める話を書きました。強烈に短いショートショートです。誰も書いていない長さを目指しました。感情表現の無い淡白な文章の中に、いかにエンタメ性とメッセージ性を両立させるかが、永遠の課題です。
ショートショートは中学生の時から書き続けている僕の原点なので、ここから這い上がってやるという気持ちを込めて「革命前夜」というタイトルをつけました。

コメント

may
pw126033133113.23.panda-world.ne.jp

読みました。拝読しました。
どれもアイデアが詰まっているなあと思います。救世主ていう作品は、どちらも同じ場所で遭難していたっていうオチなんですか?ちょっと読解力がなくてすみません。
平氏と源氏なんかは笑えましたね。ホストの源氏名のことを知っていないと作れないからなかなか知識が豊富なんやなと。
最後の占い師も、面白いですね。別れさせ屋かなあと、ちょっとオチに途中きづいてしまいましたが。
何にせよ沢山ネタがあるのが読み取れました。今後も本気で作家、がんばってくださいね。

日程
p408230-ipngn200407sinnagasak.nagasaki.ocn.ne.jp

mayさん

コメントありがとうございます!
救世主は、「同じような小さな岩山が多いうえに朝晩で潮の流れが真逆になる難所のスポット」の所が一応伏線で、付近の無人島で漂流していた別の人とやりとりしているだけだったということです。
これからもがんばります!

yorunoame
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

「革命前夜」11作品まで読みました。


素性
水商売で使う「源氏名」を一人は使い、もう一人は会社での地位である「平社員」の「平」といったところに、平家と間違われて、打ち首になったというタイムスリップものでした。
いつの時代も、相手にわかりやすく伝える必要があるようです。
そうしないと思わぬ失態をしでかす。


真実の言葉
君なしでは生きていけない、というような言葉でも、いろいろな意味があるという事。
彼女は有名な研究者なのだが、「男と女の世界」の勉強は足りなかったようです。


ピエロ
ははは、これは受けました、面白い。

大きな赤い鼻に真っ白の顔の星の住人は、地球人のピエロにそっくりな顔をしていた。
歓待を受けた地球人はやがてその「ピエロ星」で自分たちと同じ顔つきの人間を見かけたのだったが……、というお話。
オチは、仕事先に向かうためにピエロの役作りをしていたピエロ星人だったという話。

ところで近頃のハリウッド映画はピエロのホラー物が多いようです。
御作を読み始めたとき、その展開になるのかと思いましたが、正面突破でよかったです。


眠れぬ人

このオチかい(笑)。
これはうまく伏線が張られていました。
つまり主人公の苦しみは犯人の苦しみでもあったという話。
犯人が「ドM」だとしたら、もっと面白いかも。
つまり口からよだれを垂らして、にやついて死んでいたとか。
サイコ系作品。


使命
「はじめてのおつかい」の収録も、大なり小なり、こういった演出がなされているかもしれません。
ラストの一行を読むまで、オチはわかりませんでした。
タイトルはうまくつけました。


リフレクト

構成的になかなか面白い展開です。
登場人物の職業も警察官で頑固というのも、いいですね。
それでラストですが、当人が神様にお願いした犯罪撲滅が、生活に困った主人公により、起ころうとしていたというオチですが、これは、真逆にした方が面白いとは思いますが、主人公が犯罪を起こせずに飢え死にしたとなると、何やら困ったときは犯罪を奨励しているみたいになるので、通りがかった神父に一善の飯をごちそうになり、生きる希望をもったというような展開がよいかもしれません。
話の展開は「レ・ミゼラブル」をほうふつとさせるような内容がよいかも。
ショート・ショートにならないか(笑)。


ゴミの日Ⅰ
NHKの集金員に腹立たしさを持ち、そのプライドからテレビを隠れて捨てようとしていたところ、集金員に絡まれるという話です。
これって、あるかもですね、いろいろな展開で。

ゴミの日Ⅱ
彼との思い出を片づけてゴミとして捨てようとしたところ、ゴミ収集車の担当者が彼で、捨てにくい彼女だったというお話、表現を変えれば、他の場面でも使えますね。

ゴミの日Ⅲ
解体した夫を深夜に捨てようとした女が体験した恐怖ですが、これって、女の方が怖いです。
ホラー作品でした。

ゴミの日Ⅳ
ゴミの日を利用して、昔家出した息子に使える品物を渡す男の話。
お互いに相手を認めているようで、何やら掌編という感じでした。


良性殺人
二つの人格を持つ男がひとつの人格を消してしまったので「解離性同一性障害が完治」という話になるわけですね。
一人称は使い方でいろいろなトリックが出来ますね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お疲れさまです、大量のショートショートなので、読み応えがあります。

今回はここまでの感想です。
残りは総評込みで、後日書きます。


よろしくお願いします。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

失礼しました。
自分の名前を「yorunoame」とローマ字のままで投稿してしまいました。
「夜の雨」でした。

明日の夜までには、他の感想を書きます。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

「革命前夜」後半5作品読みました。


救世主
つまり「同じような小さな岩山が多いうえに」というところが味噌で、近くの岩山に二人が別々に遭難していて、助けを求めていたというわけですか。
コントに採用です。


天命
これは、多少なりともキリストを知っていなければ理解できない作品と思われます。


ある晴れた日に
エリという女性がどうして主人公である「僕」を殺したのか、動機が書かれていない。
単にいじわるなだけで、事故現場に何年も献花するだろうか。


告白
主人公にとって、彼女は愛するに値する女性だったわけだが、彼女が、「どうしても男の人を愛することができないの」と、「まどろっこしい」ことを言ったがために、主人公は整形手術をして最高の顔を手に入れた。
だけど、彼女は自分とそっくりになった主人公を見て「私の一番嫌いな顔」だという。
伏線として「私だってこんな自分が一番大っ嫌いよ」がある。
意味は分かるのですが、何やらピンと来ないのは、「どうしても男の人を愛することができないの」と、余計な言葉があるからなのではないかと思いました。
もっと、シンプルにするとよいのでは。


占い師
この作品は推理小説的な創りですね。
なるほどと、思いました。
仕掛けが良くできていました。
「若い妻」が伏線でしたか。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
総評
ショートショートといえども16作品ともなると、二日がかりです。
前半にわかりよい作品が多かったような気がします。
以下順位です。

1 ピエロ
2 眠れぬ人
3 占い師
4 ゴミの日Ⅱ ゴミの日Ⅳ 救世主
7 真実の言葉  リフレクト
9  素性 ゴミの日Ⅲ 
11 良性殺人
12 ある晴れた日に  告白
14 良性殺人
15 使命
16 天命


こうやって、順位をつけてみると、ショートショートとして、王道を行っている内容が上位を占めていますね。
まあ、私の好みなのですが。
ラスト二つの作品は根本的なところでミスっているようです。
ゴミの日が3本頑張っているのは、日常と非日常の面白さに味がありました。

ちなみに作者さんはショートショートのような短い作品よりも、短編以上の構成のしっかりとした作品を書く方が向いていると思います。
なぜなら、前作などは構成が緻密でした。
ショートショートはアイデアを創るための訓練ぐらいに考えて書くのがよいと思います。


それでは、今後も頑張ってください。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

抜けていました。
「ゴミの日Ⅰ」を14位にいれます。

以下順位です。

1 ピエロ
2 眠れぬ人
3 占い師
4 ゴミの日Ⅱ ゴミの日Ⅳ 救世主
7 真実の言葉  リフレクト
9 素性 ゴミの日Ⅲ 
11 良性殺人
12 ある晴れた日に  告白
14 ゴミの日Ⅰ
15 使命
16 天命

以上です。

日程
p408230-ipngn200407sinnagasak.nagasaki.ocn.ne.jp

夜の雨さん

前回に続き今回も読んで頂いて、総評までありがとうございます!嬉しいです。
「リフレクト」の別パターンは面白そうなので書いてみようと思います。味が出る気がしたのでまたどこかで載せますね!

ショートショートはこれまでに100編くらい書いているのですが、何が面白いのかについては自分と他人、他人と他人でも大きく違っていて夜の雨さん的順位を伺えて興味深かったです。ほんとにこれ、順位が真逆の人もいるんですよ。もう分からないです笑
自分が長編の方が向いている自覚はあまりなかったのですが、これからどんどん書いていこうと思いました。

最後にもう一度、ありがとう御座いました

5150
5.102.0.111

読ませていただきました。

気にいった作品や印象に残ったものをランダムに書きます。

・リフレクト ・・・ モロ星新一を思わせる主題と展開が好みの大好きな作品でした。
・ゴミの日 ・・・ ショートショートは型にアイディアを埋める作品形式だと思いますが、これだけよくバリエーションを考えたな、と感心しました。
・ある晴れた日&占い師・・・短編ミステリーともなれる骨子とオチに思わずニヤついてしまいました。逆説的アイディアに惹かれます。
・告白&真実・・・他人が発する言葉の解釈って、受け取る側によって変わるので、小説的なアイディアが詰まっているよな、と思いながら読みました。


ショートショートを書き続けているということで、さぞかしマメな方なのだろうと想像します。メモとかアイディアノートもされているんでしょうね。どれもそれなりに楽しめた作品ばかりでした。

日程
p2447147-ipngn200806osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

5150さん

読んで頂きありがとうございます。
僕はマメな人間では無いのですが、星さんが好きすぎて頑張っています。

以前は5150さんの作品に少し辛いコメントを残してしまいましたが、話の発想はとても好きだったので、また新作書かれましたら読みたいと思っています。何よりこのサイトに僕と同じSS好きが居て嬉しいです。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

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