作家でごはん!鍛練場
田中蜜柑

雨の中の蛙

 雨の日。近江(おうみ)香苗(かなえ)は学校を休んでいた。風はないが強くひたすらに振り続く雨だった。

 「言い訳をするわけではないが、こんな日に真面目に授業なんて受けてられないよ。」ふらりと雨の中を歩きながら近江は真面目くさって呟いた。
 古い町に流れる増水した河には石組みのアーチ橋が架かっていた。風情のある橋であった。近江は普段から学校を休みがちなわけではない。基本、真面目に通っている。そう、真面目に。無駄に暑さが続くときも、学園祭の翌日なんかも同じ。こういう雨の日だけふっと肩の力が抜けてこんなことになる。

 こんな雨の中で、近江はひとり考えていた。―どうして私は彼らと同じようになれないのだろうか。私の何がいけないのか。そんな些細なことがどうしても拭えない。
 安物のビニール傘がぱららと音を立てる。霧煙が路を独り占めしていた。前も良く見えない。突然、大きな橋が目の前に現れた。近江は面食らったが何のことは無い。いつも見ている石組みの古いアーチ橋だった。ふと、橋の下の静かな空間に目をやる、石で組まれた壁に木の扉が見えた。凝った装飾が施されている。
 とっさ、「あっ」と声を上げておもわず駆け出した。扉にノブはない。周りに人影はない。そっと扉に掌を当てる。ギイと軋んで内側に扉が開く。踏み出した近江の背後で扉が静かに閉じた。

 暗闇に目が慣れてると、彼女は自分が駅のプラットホームにいることに気づいた。本来、線路が敷かれているはずの場所には水が流れていた。年代物の小さなランプが、等間隔に吊るされている。それでもホームはうす暗い。石畳はすり減っていて、全体的に橋の外観に似つかわしい古ぼけた場所だった。

「なんだろうここは」近江は呟いた。

 背後でふうっと息を吐く音が聞こえた。そちらへ顔を向けると、身長わずか1メートルに満たない程の小人がホームのベンチに腰掛けていた。
「まったく。」と彼は独り言ちた。
 白いひげに目深にかぶった帽子。そして釣りにでも行きそうな格好をしている。
「どうしたもんかなあ。」
 近江はうろたえ言葉を失った。
「肩肘張りすぎているよ、あんた。」小人が口をとがらせて言う。
「ええと…、」近江は言いかけたが、小人の眉が軽く釣り上がる。
「まあいいさ。仕事をするさ。」小人は少々不機嫌そうに言った。懐からパイプを取り出してぷかりと煙の輪を吐き出し始めた。
「ええと、出口は…」近江はやっとそれだけ言った。
「いいんだよ、出口なんて。」小人は気軽に言った。
「そうだろうか。」
「あんたはこれから船に乗る。」
 彼はそこで水路の方へ顔を向けた。折に闇の中から無人のボートが滑るように姿を現した。
「あれに乗りな。」小人はまた近江の方へ視線を戻した。
「いや、出口はどこにあるのだろうか…。」いよいよ近江はうろたえだした。
「まだ言うかあんたもなかなか頑固だな。いいから、乗れ。つまるところ、最後に必要なのは正しい選択じゃあない。諦めと肝っ玉だよ。」小人はさらに不機嫌だ。
「何でもいい、乗れ。」
「しかし、何処に行くかもわからない。」相手の顔色を伺いつつ近江が呟く。小人はもはや無言で、先ほどのパイプを吹かし始める。
「では、ちょっと行って来ようかな。」近江は出し抜けに言った。
「ふむ。」急に機嫌の良くなった小人が頷いた。
 近江は注意深くボートに乗り移った。ボートはひとりでに進み始める。近江が少し後悔したような顔で振り返ると、小人はだんだん遠ざかる彼女を見詰めているようであった。やがてその姿も闇に溶け込んだ。

雨の中の蛙

執筆の狙い

作者 田中蜜柑
pl35513.ag1001.nttpc.ne.jp

長編書く。なんか参考意見が欲しい。
イメージが。

コメント

may
pw126035023219.25.panda-world.ne.jp

雰囲気が良いですね。学校行きたくない理由がなんとなくわかる。普段真面目な香苗が肩の力抜けちゃって。
で、いきなり小人に出会うんだけど描写が綺麗だからいきなり感がなくすんなり受け入れられる。そのまま行く先はどこなんだろう?
最後に必要なのは諦めと肝っ玉
良い言葉ですね。
そのまま異世界に行っちゃうのかな?続きのアイデアは募集中ですか?

may
pw126035023219.25.panda-world.ne.jp

白雪姫のパロディなんかはどうでしょう?
小人だから。
森には喋る動物たちがいて個性的な7人の小人がいる。悪役は、学校の先生とか悪友です。

偏差値45
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>ふと、橋の下の静かな空間に目をやる、石で組まれた壁に木の扉が見えた。凝った装飾が施されている。

具体的にイメージがしにくいかな。
先ず、主人公が何処に立っているか、橋の何処に扉があるか、分からない。

>ギイと軋んで内側に扉が開く。踏み出した近江の背後で扉が静かに閉じた。
>暗闇に目が慣れてると、彼女は自分が駅のプラットホームにいることに気づいた。

展開が雑。
自分でも分からない場所に行く場合、細心の注意を払うでしょうからね。
不自然のような気がします。

夜の雨
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「雨の中の蛙」読みましたので、感想を書いておきます。

御作は短いですが、小説としての面白味があります。
香苗(かなえ)という主人公の女の子に問題意識があるので、話が転がるようにできている。
なので、問題意識から世界観を膨らますと、自然と枚数は書けると思う。

>長編書く。なんか参考意見が欲しい。<
>イメージが。<

●香苗の問題意識がどこにあるのか。

強くひたすらに振り続く雨の日は肩の力が抜けるので、学校で授業を受ける気持ちがない。
基本、暑さが続いたり学園祭の翌日なんかも、真面目に学校へ通っている。
こういう雨の日だけふっと肩の力が抜ける。

どうして私は彼らと同じようになれないのだろうか。私の何がいけないのか。 ←上の問題に対して、他人と自分の違いがわからない主人公の香苗。

ということで、香苗は古いアーチ橋の扉を開けてしまう。
そこには小人がいた。
>「肩肘張りすぎているよ、あんた。」
>「まあいいさ。仕事をするさ。」
「あんたはこれから船に乗る。」
小人はこんな調子。

「では、ちょっと行って来ようかな。」と香苗が言うと、機嫌が良くなり頷づく小人。
 香苗がボートに乗ると進み始める。彼女は少し後悔して振り返ると、小人は遠ざかる香苗を見ていたが、その姿も闇に溶け込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
という流れなので、香苗の問題意識は、「自分探しの旅」という方向でよいと思いますが。
どういう旅になるのかというと、「古い町に流れる増水した河には石組みのアーチ橋が架かっていた。風情のある橋であった。」その橋に扉があり、中には人生案内人の小人がたいのだから、おのずと、これからどんな世界が広がるのか、イメージが出来るのではないかと思います。

香苗が行く世界で、彼女が成長するような話の展開になると思いますが。
「強くひたすらに振り続く雨の日は肩の力が抜ける」「肩肘張りすぎているよ、あんた。」等が、キーワードなので、肩肘を張らなくてよくなるような展開に構成を練ればよいと思います。
香苗がどんな人物やキャラクターと遭遇するのか、彼らはきっと肩肘張らなくて済むような世界のキャラクターだと思います。
動物や妖怪、そのほか不思議ワールドにするのか、それとも案外現在と近い人間の世界で少しだけ何かが違うワールドを描くのか、そこで主人公である香苗を成長させて、元の世界に帰らせばよいと思います。


それでは、頑張ってください。

ドリーム
27-136-239-65.rev.home.ne.jp

拝読致しました。

ちょっと不思議な物語ですね。
気になるのは二つ、題名にある蛙の存在は? 小人の事ですかね。
それとセリフの「何でもいい、乗れ。」
セリフの場合は(。)は必要ありません。やたらとあるので気になりました。

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