作家でごはん!鍛練場
大丘 忍

息子の恋人

 七月の半ばごろになると、晴天続きの午後の陽射しはすべての生き物を焼き尽くすようであった。タクシーの冷房で芯まで冷やされた体は、外の熱気に包まれて汗が流れ出る。
 池宮節子は思わずめまいを覚え、立ち止まって二三度大きく呼吸をした。これから自分がしようとしていることが心の重荷となって、一歩ごとに足の動きを硬直させていった。
 京都の北はずれにあるアパートの部屋の前で、節子は再び深呼吸をすると、意を決したようにドアを押した。ドアは軽い音をたてて開き、節子は表情を固くして中をのぞき込んだ。
「あら、早かったのね」
 玄関に接した台所で水仕事をしていた若い女が明るい声をかけて振り返り、人違いと知ると、あっと小さい声をあげた。
 節子は女の瞳に健康な美しさを感じて、ほっとすると同時に一層の心苦しさを覚えた。
「私は悟の母親です」
 節子が心の動揺を隠すようにゆっくり言うと、女は軽くうなずき、しばらく見つめあったのち奥の六帖間に案内した。
 息子の悟がK大学医学部を受験したときに通学用に借りてやった、六帖と四帖半、台所とバストイレつきの小さいアパートである。僅かの家具類がきちんと整頓されており、窓には可愛らしいカーテンもつけてある。形ばかりの床の間には小さなびんに花が形良くいけてある。部屋の片隅にある小さい鏡台はこの女の物であろう。ベランダにはロープが引いてあり、男と女の下着が万国旗のように風に揺らめいていた。
 女は、節子の前にお茶を置いて一礼し、判決の宣告を聞くような不安な表情で節子の言葉を待った。
「やっぱり、本当だったのね」
節子はこれが現実であることを自分自身に言い聞かせるように呟いた。
 悟が女と同棲しているという電話を管理人から受けたとき、何かの間違いだろうと思った。悟に限ってそんなことをするとは信じられなかった。
 節子の目の前にいる女は、体格のよい、可愛い娘である。性悪な女には見えなかった。時々きらりと光る目の輝きが意志の強さを思わせる。
「あなた、名前はなんて言うの?」
 節子はかすれた声で訊ねた。
「西島京子です」
「いつからここに居るの?」
「三月二十六日からです」
「えっ!」
 節子は一オクターブ高い声をだした。
「三月二十六日といえば、悟が京都に来た日ではありませんか? あなた達はその前から知りあってたの?」
「いいえ、二十六日に初めて会ったんです」
「会ったその日から同棲してたんですか? 一体どういうつもりです。あなた達は」
 裏切られた悔しさが心の重荷を追いやり節子の口を鋭くした。
「あなたのご両親はこのことを御存知?」
「両親も身寄りもありません」
 孤児と聞いてほっとした自分に後ろめたさを感じながらも節子は語気を強めた。
「どんないきさつで同棲したか知りませんが、私はこんなふしだらなことは許しませんからね」
 京子と名乗った女のあどけなさが残っている顔が固くなり、潤んだ目でじっと節子の目をみつめた。
 節子はふっと目をそらした。
「私は別にあなたを責めようとして言っているのではないのよ。あなたも悟もまだ若すぎるし、第一親の許しも得ないでこんなことをするのは社会通念に反することでしょ」
「私は悪いことをしているとも、ふしだらとも思っていません」
 京子は節子から目をそらさない。
「あなた、歳は幾つ?」
「十八才です」
「あなたも悟もまだ子供ですよ。結婚するにはまだ早すぎます。親の目を盗んで同棲するなんて決してよいこととは言えないわ。ねえ、そう思うでしょ」
 京子はだまって首を振った。
「あなたもまだ若いし、いずれは誰かと結婚するんでしょ。こんなことしてたら結婚に差し支えるわよ」
「私は他の人とは結婚しません」
 その強い意志を示すように京子は目を見据えて言った。
 節子は膝を乗り出した。
「悟とは結婚させませんよ。悟にはちゃんとしたところのお嬢さんを貰います」
 京子の目から火花が飛んだように見えた。
「悟さんと結婚できなくてもかまいません。一緒に居るだけでいいんです」
「まあ、あなたって人は……」
 節子は相手を説き伏せる有力な言葉を探したが、頭は徒に空転を続けるだけであった。
「とにかく……」
 節子は大きく息を吸い込んでたたきつけるように言った。
「親として、二人の同棲は許しません。別れて下さい」
 ぎくっとしたように京子の目が大きく見開かれ、しばらく視線が宙を舞ったのち畳の一点に固定した。
「私は別れたくありません」
 下を向いたまま京子が力なく呟いた。
「あなたの気持ちはわかります。でもこれは仕方ないことですよ。悟の父は絶対にこんなことを許しません」
 京子が顔をあげて節子の目をのぞき込んだ。節子はその眼差しの強さに圧倒された。
「もし、私が別れなければどうするんです?」
 節子はうろたえ、哀願するように言った。
「それは困りますよ。悟は勘当されてしまいます。そうなったら悟の将来は目茶目茶ですわ」
「私が働いて悟さんの学校は続けて貰います」
 京子の思い詰めた顔つきが節子の弱気になりかけた心を揺さぶった。
「でも……」
 節子は夫隆造の険しい顔を思い浮かべながら肩を震わせた。
「主人は、無理にでも二人を引き裂きますわ。自分の思ったことは絶対にやり遂げる人ですから」
 京子の口が何かを言いたげに動いたが言葉にはならなかった。節子は京子の動揺を見て取った。
「主人は悟には厳しい人です。悟も主人に逆らったことは一度もありません。それに悟は将来代議士のお嬢さんと結婚することになっているんですよ」
 京子は意外そうに眉をあげ、
「代議士のお嬢さんのこと、悟さん承知しているんですか?」
 と疑わしそうに聞いた。
「勿論ですとも。悟もそれを望んでいる筈です」
 節子はこの娘を欺くことにキリキリとした心の痛みを感じたが、この言葉の予想以上の効果にほっとした。
「そう」
 京子は力なく視線を膝の上に落し、指先をもてあそびながらじっと考え込んだ。京子の心の中で大きな嵐が吹き荒れていることは明かであった。

 中国地方では中堅病院である池宮病院の院長の隆造は、何事も自分の思うようにしなければ気がすまぬ性格であった。
 小学校の低学年の頃から、息子の悟は近所の子供に虐められてはよく泣いて帰った。子供の社会ではすべて腕力が支配する。腕力に秀でたガキ大将の子分としてへつらうことを知らぬ悟は、彼らの絶好の餌食とされた。華奢な悟は勉強は出来ても腕力では到底勝ち目はない。業を煮やした隆造は悟を近所の空手道場に通わせたが、悟は格闘技より室内で本を読むことのほうが好きな子供であった。ある日、悟が小遣いを溜めてやっと買った本を読むために、空手道場をさぼろうとした。それを見て、隆造は買ったばかりの本を目の前で破り捨て、引きずるようにして悟を空手道場まで連れて行ったことがある。
 悟はだんだん子供らしい無邪気さを失い、陰鬱な神経質な子供になっていった。家では隆造に決して逆らわない良い子を演じるようになった。
 成長するにつれて悟は益々孤独となり、親しく付き合う友人もなく、ただ父の気に入るように受験勉強に明け暮れする毎日であった。その頃から、悟の心の中にくすぶり続けている何かがあることに節子は気づいていた。

 節子は悟の行動が心配であった。今までのように父の言いなりになることはあり得ないと本能的に感じていた。父の目を忍んで女と同棲することは明らかに父に対する反抗である。
「私は悟が主人と対立することが恐いの。あなたが身を引いてくれさえすれば万事うまくいくのよ。主人は勘当すると言っています。だからあなたがどんなに頑張っても絶対に二人の仲は許しませんわ。そうなると悟の人生はどうなるやら……」
 節子が目頭を押さえた。
軒下の万国旗が風に揺らめいた。
 京子はうつろな目を外に向け、それに気がつくと、のろのろと立ち上がって下着を取り入れた。悟と過ごした時間を確かめるように、悟の下着を一枚づつ手で皺をのばし、丁寧に畳んで重ねていった。
 ふと下着を持つ手が止まり、肩が細かく震え始めたと思うと、畳んだ悟の下着を胸に抱きしめ、押し殺した鳴咽の声が京子の口から洩れた。その痛ましい姿に節子は思わず目を外らせた。しかし、節子は心を鬼にしようと決心していた。
 しばらく泣いた後、京子は涙の一杯溜った目で節子の表情を見つめた。節子の意志が変わらないことを知ると、唇を噛んで悟の下着をタンスにしまい、押し入れからボストンを出して自分の身の回りのものをつめはじめた。
「これを……」
 節子はおそるおそる紙封筒を京子に差しだした。
「こんなことであなたの心の傷が癒えるとは思いませんが、せめてもの償いです」
 京子はちらりと紙袋に目をやり、怪訝そうな顔で節子を見た。
 節子はその行為が更に京子を傷つけることを恐れながら、
「百万円入っています」
 ともう一度封筒に手を添えた。
 京子の目がぐっとつり上がった。
「手切れ金ですね」
 乾いた声で言うとその紙袋を押戻した。
「金額が少なければ……」
「いりません!」
 節子に最後まで言わせずに激しい口調で京子が遮った。
「お金持ってるの?」
 節子がおろおろした声で訊ねた。
「持っていません」
「ではこれを受け取って頂戴よ」
 京子が目をしばたいた。怒りの色が急速に悲しみの色に変わった。
「この何十倍もらったって、悟さんの代わりにはなりませんわ」
 節子はうちひしがれて封筒を引き寄せハンドバッグに仕舞った。
 いくら隆造の命令だといっても、このままではひどすぎる。何かこの娘のためにしてやらなければならない。節子は焦った。
「ねえ、あなたのこと、詳しく話して下さらない?」
 この言葉が口をついて出てきたとき、節子自身が驚いた。なぜ、こんなことを言うのだろう。今更京子のことを知ったところで何になるというのか。
 京子は節子の真意を測りかねたようにまじまじと見ていたが、やがて低い声で話始めた。


 京子は幼少時に父を亡くした。京子の母は女手一つで京子を育てたが、その母も京子が中学生の時に交通事故で世を去った。京子は小さい鉄工所を経営している遠縁に当たる夫婦に引き取られたが、貧しい養父にとっては京子は重荷になっていた。養父は京子が高校を卒業したら成金の妾にしようと考えているようだった。だから卒業と同時にこの家を逃げ出すつもりであった。
 京子は担任の教師に相談した。教師は女が自立して生きて行ける職業として医者になることをすすめた。友人と旅行すると偽って国立大学である京都のK大を受験し、合格すると教師は当座の費用として五十万円を貸してくれた。五十万円あれば、下宿代、授業料を払って二~三カ月の生活は何とかなる。その間にアルバイトを見つけることもできるであろう。京子はこっそりと準備し家出同然のように新幹線に乗ったのである。
 京子は列車の窓から外を眺めていた。電柱や人家が面白いように後ろに飛んで行く。しかしこれからさきの不安を思うと京子の心は重かった。
 列車が駅に止まり、何人かが乗り込んできた。前の通路の扉が開いて、大きな荷物を抱えた一人の学生が入ってきた。彼はほっそりとした体には重すぎる荷物を引きずるように持ちながら、座席番号を一つ一つ見て京子の方に近づいた。京子の隣の座席番号を見るとほっとしたように荷物を下ろし、ポケットから切符を取り出して番号を見比べた。自分の席であることを確認して初めて隣の席に目をやり、若い女だと気がついて顔を赤らめた。学生は荷物を棚に乗せようと両足をふんばったがもう少しのところで荷物は届かなかった。京子は黙って手を貸して荷物を押し上げてやった。自分の非力を恥じるように小さな声で学生が礼を言った。
 京子はちらりと横目で学生を見て、
「どちらまで行くの?」
 とさりげなく声をかけた。
 学生は若い女と同席したことに戸惑ったような硬い表情で、京都までと答えた。
「あら、わたしも京都までよ。京都には何度も行ったことあるの?」
「いや、今日で二回目。最初はこの間の受験の時」
「では、合格して入学するために行くのね」
 学生の頬にえくぼが浮かび、うなずいた。
「実は私もそうなの」
 と京子も微笑んだ。
「へえ、何処の大学?」
「K大」
 学生の顔が輝いた。
「僕も。全く偶然だなあ。僕は医学部だけど、君の学部は?」
「私も医学部。本当に偶然だわ」
 二人は偶然の一致を喜び合い、自己紹介をした。
 京子は、訥弁を気にしながら懸命に喋っている悟という学生の、どこか翳のある眼差しに心を惹かれた。一目惚れ? そうかも知れないと京子は思った。
 無情にも列車は定刻通りに京都駅に滑り込む。
 京都駅の構内で悟がアパートの住所を書いたメモを手渡そうとした時に一人の男が京子にぶっつかるようにして通り過ぎた。メモを入れようとして京子は自分のバッグが無くなっているのに気がついて色を失った。
「さっきの男だわ」
 二人はあわてて周囲を見回したがもはや男の姿は見えない。
「どうしよう。あの中に五十万円入っていたのに」
 京子は立ちすくんだ。
「とにかく交番へ届けよう」
 気を取り直し、悟が京子を促して近くの交番へ被害届をだしに行った。男の人相を聞かれても二人はメモの方に夢中になっていたので殆ど覚えていない。
 警官は気の毒そうに、
「一応は手配しておきますが、人相が不明ではね」
 と言いながら調書だけは取ってくれた。
 悄然と交番を出た二人は駅の待合室に引き返しベンチに座った。
「どうするの?」
 心配そうに悟が京子の顔をのぞき込んだ。
「あのお金がなければ何処にも行くところはないわ。もう大学にも行けない」
 京子は放心したように呟いた。
 悟も顔を曇らせて黙り込んだ。
 外はもう日が沈んでしまったらしい。駅の中を行き交う人の波が激しくなった。
「やっとここまで来たのに……」
 京子が声を詰まらせて言うと手で顔を覆った。
 人々は怪訝な顔で二人を見て通る。
 悟は周囲の好奇の目に困惑したようにそっと京子の腕を引っ張った。
「とにかくここから出ようよ」
「どこに行くの」
 京子は涙で一杯の目で悟を見た。
「どこって……」
 悟はちょっと口ごもって、
「お腹空いただろう。食事しに行こうよ」
「私食べたくない」
 京子が首を振った。
 悟は困った顔をして浮かしかけた腰をベンチに下ろした。
 かなりの時間が経ち人影が少なくなった。
 悟の腹の辺りがぐーと鳴った。
「食事に行こうよ」
 悟が再び京子の耳元で囁いた。
 京子はちらりと悟を見ると首を振り
「私行かない。だってお金がないもん」
 と涙声で言った。
 悟はしばらく京子を見ていたが荷物を置いたまま立ち上がり、駅の売店からパンと牛乳を買って帰ってきた。
 悟の差しだしたパンを手にとって、じっと京子はそれを見つめた。京子の目から再び涙が流れ始めた。悟は怒ったようにパンをかじり、牛乳を咽に流し込んだ。
「とにかく、今日は僕の所にこないか」
 躊躇うように悟が言った。
 京子はぴくりと体を動かし、しばらく考えていたが、
「行ってもいいの?」
 と悟の目を見ながら言った。
 悟はあわてて目をそらし、
「君さえよかったら。でも、他にいくところないんだろ?」
 と弁解するように言った。
 京子は手にしたパンをゆっくりちぎっては口に入れ、少しづつ牛乳をすすった。
かなりの時間をかけてパンを食べ終わると、では連れて行ってと言いながら京子が立ち上がった。
 二人は黙ってタクシー乗り場に向い、タクシーを拾った。
 アパートに着くと京子は珍しそうに部屋を見回した。
「受験の前から借りてあったんだ。もし落ちてたらここから予備校に通うつもりでね」
 悟は押し入れから座布団を出しながら説明した。
「悟さんは良いわね。お金持ちで……」
 京子が嘆息まじりで言うと、悟はテレたように笑い、すぐに真面目な顔で、
「これからどうするの?」
 と訊ねた。
「明日から仕事探しに行くわ」
 若い女が急に探せる仕事は限られている。
「喫茶店かバーで雇ってくれないかしら」
「バーのホステスなんて駄目だよ」
「何故?」
 京子が沈んだ目で悟を見た。
 悟はその視線を避け、
「だって、そんな仕事は僕は嫌いだ」
 と顔をしかめた。
 京子は目を伏せ、
「仕方がないでしょう」
 と呟いた。
「大学はどうするの?」
「止めるかもしれない」
 京子の口元が歪んだ。
「折角合格したのにもったいないな」
「だって、入学金も授業料も払えないんだもの。私、もう諦めたわ。私なんかどうなってもいいの」
 投げやりな口調で言うと京子は膝を崩した。
 スカートが割れて太股の白さが悟の目を射た。その視線の行方に気がついて京子はあわてて座りなおし、膝頭にスカートを引きかぶせた。
「やっぱり、私なんか大学に行ける身分ではないんだわ」
 京子が力なくそう呟いた時、悟が大声をだして叱った。
「そんなこと言っては駄目だ。まだあきらめるのは早いよ」
「だって……」
「君さえ良かったら……」
 悟は口ごもった。
「ずっとここに居てもいいよ」
京子は大きく目を見開いた。
「そうすれば部屋代も要らないし、アルバイトすれば大学を止めなくてもすむだろう」
「……」
 京子は無言である。
「とにかく、バーで働くのは僕は嫌なんだよ」
 悟の言葉に熱がこもってきた。
 京子は膝を乗り出すようにして悟に向かって、
「本当に居てもいいの?」
 と念を押すように聞いた。
 悟の顔が赤らんだ。
「君さえよければ……。僕と二人で生活するのが嫌でなかったら」
 京子は黙ってうなずいた。 
「誤解しないで欲しいんだけど、僕は君をどうにかしようと思って連れてきたんではないんだ」
 しどろもどろに言う悟に京子は寂しく微笑みかけた。
「わかってるわ。気にしないで……」
 京子はちょっと言葉を切って続けた。
「でも、ご両親に知れたら叱られるんじゃあない?」
 悟は表情を固くした。
「大丈夫だ。黙ってりゃあわからない。見つかっても僕が旨く説得するよ」
 悟は口から唾を飛ばせながら言った。
 その夜、布団を並べて寝た二人は眠れぬ一夜を過ごした。京子は自分の将来を案じ、悟は若い女を身近に意識したのだろうか、しきりに寝返りをうつ。
 翌日の夜、寝苦しそうに寝返りをうっている悟を見ると、京子は自分から悟の布団に入って行った。悟の鼓動が京子に伝わる。京子の鼓動はそれを上回って高くなる。
 悟がぎこちなく入ってきた時、京子はこれで良いんだと自分に言い聞かせた。この人に自分の将来を賭けてみようと思った。胸に支えていた鉛が少しずつ溶けていくような気がしてきた。
 翌日、二人はスーパーの店員の仕事を見つけてきた。学校が始まるまでのアルバイトであるが、それで得た金で生活に必要な道具類を揃えることができた。学校が始まって学生課に行ってみると、家庭教師のアルバイトが沢山あった。悟が週三回、京子が週一回家庭教師をすれば悟の送金と合わせて二人の生活を支えるには十分の金額となった。
「やっぱり大学止めなくてよかったね」
 悟が嬉しそうに言った。
 京子はこの幸せがいつまで続くか不安があったが、すなおに喜んで悟に相づちを打った。


 話を聞き終わって、節子はこの二人を別れさせるのは間違いではないかと思った。弱気になろうとする節子の気持ちを隆造の顔が打ち消した。
「それで、あなたはこれからどうするつもりです?」
 節子が訊ねた。
「どこかよその土地に行って仕事を探します」
「学校を止めてしまうの? 何とか学校だけは続けなさいよ」
 京子は静かに首を振った。
「経済的なこと? お金なら主人に内緒で私が卒業までなんとかしますわ」
 京子は激しく首を振った。
「悟さんと毎日学校で顔を合わせて、それで他人でいることなんて私にはできません」
 節子は、いま京子が出て行った場合、悟がどうするだろうか考えた。このまま京子を行かせてはならない。これだけは確かだと思った。
 ボストンを持って立ち上がりかけた京子を思わず、
「悟が帰るまでお待ちなさいよ」
 と制止した。
 京子の手からボストンが離れ落ち、肩が大きく波打った。下唇を噛みしめ感情の波に堪えている。
 京子はついに畳に膝をつき、
「悟さんの顔を見たら出て行けなくなる」
 と振り絞るような声で言った。
 その時、入り口のドアが開いて悟が帰ってきた。悟は最初に節子を見ると驚いたように目を見開いて顔を凍らせた。
 節子は悟を見た瞬間、これが息子の悟であろうかと目を疑った。数カ月見ぬ間に悟は変わっていた。青白く痩せていた頬が、日焼けしてふっくらと丸みを帯びている。陰鬱であった表情が明るくなり、肩幅もがっちりと広くなったように思われた。健康で逞しくなった息子を見ると、何か胸の中に熱いものが突き上がってきた。京子との生活がこれだけ悟を変えたのである。
 悟はボストンバッグの傍らでじっとうつむいて畳を見つめている京子に気がつくと、京子の側に歩み寄って節子を睨みつけた。
「お母さん、京子を追い出すつもりだな」
「追い出すなんて、そんな……」
 節子はおろおろして悟に取り縋ろうとした。
 悟は母の手を払いのけた。
「僕は嫌だ。どうしても追い出すなら僕も一緒に出る」
「そんなこと、お父さんが許しませんよ」
 悟のこめかみの血管が激しく怒張した。
「お父さんの指図は受けない。これからは自分のことは自分で決めるんだ」
「そんなこと言ったって、お父さんの援助がなければ大学にも行けないでしょ」
「大学なんか止めてもかまわない。京子と二人で働いて生活する」
「それは駄目よ。お父さんもお母さんもどれだけあなたがお医者さんになるのを楽しみにしているか……」
 節子は泣きながら悟に訴えた。
 悟の表情が悲しげに歪んだ。
二人のやりとりを見ていた京子が突然ボストンを持って立ち上がった。
「私一人で行くわ」
「何故? 僕も一緒に行くよ」
 悟があわてて京子の腕を掴んだ。
「いやよ。私一人で行く。あなたと居るの、もう嫌になったの」
 京子は唇を震わせながら悟の目を避けるようにして言った。
 悟は信じられないという表情で京子の肩を揺すって、
「うそだ! ね、うそだろう?」
と叫んだ。
「本当よ。大学を止めたあなたと一緒に生活するなんてまっぴらよ。あなたは大学を出て代議士のお嬢さんと結婚したら良いんだわ。そうしたいんでしょ」
「代議士のお嬢さん?」
 悟の顔がゆっくり節子の方に向いた。
「お母さん、どうしてそんな嘘を京子に言ったんだ。あの話はちゃんと断わった筈だ」
 節子は悟にとりすがるようにして、
「京子さんを騙すつもりはなかったの。でも、あなたと京子さんを別れさせるには……」  悟は節子の言葉を最後まで聞かず、京子の肩を揺すった。
「ねえ、僕が嫌いだってのは嘘だろう?」
 京子は顔をそらした。
「嫌い。悟さんは嫌い」
京子はうわごとのように言った。
「僕の顔を見て言ってごらん。嘘だろう」
 悟は京子の顔を両手で自分の方に向けた。
 京子はいやいやをしながら目を背けようとしたが、とうとう悟と目が合ってしまった。その目からどっと涙が溢れ出て、悟の胸に顔を埋め、絞るような声で泣いた。
 悟は押し入れから鞄を取り出して衣類を詰め始めた。
 節子がその手を押さえた。 「お母さん、止めないでくれよ」
 悟はおだやかにそう言うと、節子の手をそっと外した。
 その時、入り口でもの音がし、二人が振り返ると京子がボストンを持って外に飛び出したところであった。
 悟は節子をはねのけて、大急ぎで鞄に残りの衣類を詰め込み後を追った。
 節子が入り口から外を見たときは二人の姿はもう見えなかった。急に目の前が暗くなって節子はその場にうずくまった。
 悟が出ていった。悟はもう帰って来ないかも知れない。そう思うと胸に塊が突き上げてきて金縛りに合ったように手足の自由を失った。どれくらい時間が経ったのであろうか。節子は騒々しい子供の声で我にかえった。入り口から小学生が三人中をのぞき込んで、節子を見つけると不思議そうな顔をした。
「京子先生はいないの?」
「あなた達は何しに来たの?」
「勉強だよ。おばちゃん、だれ?」
 節子はやっと事態を悟った。京子の家庭教師の教え子であろう。
「京子さんはいないのよ」
 節子が大儀そうに言うと子供達は顔を見合わせ、手にしていた封筒を差しだした。家庭教師の月謝袋であった。
「京子さんはいないから、これお母さんに返しなさい」
 節子がそう言って袋を返すと、子供達は怪訝な顔をしながら姿を消した。
しばらくして髪を無造作に束ねた粗末な身なりの中年の女が入ってきた。女はじろじろ節子を見ながら、
「さっき、京子さんが泣きながら走って行ったけど、何かあったんですか?」
 と詰問するように訊ねた。
 節子は黙ったままで女を見返した。返事をするのもおっくうであった。
「あんた、だれ?」
 女は怒ったように聞いた。
「悟の母親です」
 女は事態を察したようであった。
 上がり口に腰を下ろすと節子を見据えた。
「あんた、京子さんがどんな娘か知ってるのかい? あんな気だての良い娘はいないんだよ。近所の餓鬼どもに勉強を教えてくれて、おかげでうちの子も生まれて初めて良い点をとって学校で誉められたといって喜んでるんだよ。そんな娘をあんたは追い出したんだね」
 節子は焦点の定まらない目で女の方を見ていた。
「京子さんを何処へやったんだ!」
 女が床を叩いて怒鳴った。
「京子さんも悟も行ってしまったんです」
 ぼそりと節子が口を開いた。
「悟さんまで出てしまったのか」
 女ははじかれたように立ち上がった。
「早く見つけなければ大変だよ。二人とも変な気を起こさなけりゃあ良いが……」
 女は心配そうに言うと大急ぎで姿を消した。近くで大声で話し合ってる声が聞こえたがすぐに静かになった。節子の動悸が激しくなり全身から力が抜けていった。激しい後悔が襲う。 
 日が暮れて先ほどの女が現われた。沈んだ調子で、
「手分けして捜したけど、この近くにはいないらしい。これ、京子さんに払う月謝だけど、あんたに預けとくよ」
 と何人分かの月謝袋を差しだした。
 節子は無意識にそれを受取ながら、
「悟たち、大丈夫でしょうか?」
 と心配そうに聞いた。
「京子さんがついてりゃあ大丈夫とは思うけど……。でも、若い人は思い切ったことするからねえ……」
 と呟くように言って、節子を憎々しげに睨みつけ、
「あんたもむごいことをしたもんだ」
 と捨て台詞を投げつけて去った。
 節子は一週間待った。しかし二人は帰ってこなかった。二人は一緒にいるのだろうか。金も持たずにどうしているのだろうか? 二人はもう死んでいるのではないかという不吉な考えが頭をよぎる。いやそんな筈はない。京子がついている。京子さえついていてくれたら……。節子は二人が一緒に居てくれることを神に祈った。京子と悟を別れさせるために来たことを忘れ、ただ二人が一緒にいることを必死で祈った。節子の不安は、京子がついてさえいればきっと大丈夫だという確信に変わっていった。
 一週間後、憔悴しきった体で節子は帰郷した。隆造は節子の処置のまずさを非難した。
「なぜ悟を引き留めなかったんだ!」
 弁解する気力もなく、節子はじっと座り込んでいた。隆造がその場にいても悟を止めることは出来なかっただろう。
 
 悟が後を追って飛び出した時、もう京子の姿はなかった。悟の胸のうちで血液が逆流した。交差点でちょっとためらった後、道を左にとってまっしぐらに走った。行く手には小さい子どもの遊び場がある。二人が同棲しはじめた頃、そこのブランコに二人がすわって話し合いながら京子が泣いたことを思いだしたのである。もし同棲がばれて、悟が叱られることになれば、自分は黙って身を引くと京子が言った時、悟は京子の頬を打った。京子は激しく泣いたがその後、二度とその件には触れなかった。
 やはり京子はブランコにすわって泣いていた。悟は黙って隣のブランコにすわった。黙ったまますこしの時間が経過した。
 悟が京子の横顔を見た。
「どこへ行くの?」
 京子は答えなかった。濡れた目で地面を見つめている。
「死にたい」
 ぽつりと京子が呟いた。
 悟はちらりと京子を見た。
「今日、アルバイトで貰ったお金があるんだ。あちこち旅行しても一週間はいけると思う」
 悟が前を向いたまま低い声でぼそりと言った。
「お金が無くなったらどうするの」
 悟はゆっくりと京子を見て、また前を向いた。
「生きていくか、死ぬか、君のしたいようにする。僕はどちらでもいい」
「どうしてそれを私に決めさせるの。そんなのずるいわ」
 京子が苦しそうに言った。
 悟は首を振って呟いた。
「僕はね……。君ほど強くはないんだ」
 京子はじっと考え込んでいたが、
「明日、奈良へいきましょう。大仏さんに相談してみる」
 と言ってブランコから下りた。その声に明るさが少し戻っていた。
 二人はその夜は市内のビジネスホテルに泊まり、翌朝奈良に向かった。
 京子は豆粒のようになって、大仏を見上げていた。先ほどからじっと同じ姿勢で、目はこの巨大な仏像の顔に固定されている。やがて目をつむり手を合わせた。悟には、京子の姿がだんだん大きくなり、巨大な仏像と話をしているように思われた。
 やがて京子は一礼をすると笑みを浮かべて悟の方に向き直った。
「大仏さんと何を話してたの?」
 肩を並べて歩きながら悟がそっと聞いた。
「色々なこと」
 神秘的な笑みを浮かべながら京子は悟の手を握り足を速めた。
「私は死なないよ。生きていく。そう約束したの」 
二月堂からだらだら坂を下りきると広い道があり、そこに面して小さい病院があった。京子はそこで足を止めて病院の壁を見回した。壁に貼ってある看護婦及び補助婦募集の張紙を見つけるとその前に立った。
 京子は悟の手を引いて病院に入り、事務員をつかまえて院長に面会を求めた。事務員はうさんくさそうに二人を見たが、電話で連絡をとり院長室で待つように告げた。
「こんな所に来てどうするんだ」
 院長室で待っている間、悟が小さい声で聞いた。
「ここで働くのよ」
「看護婦になるの?」
「違うわよ。看護補助婦よ。これなら資格なんて要らないでしょ」
「僕はどうするの?」
「悟さんは夜だけ事務の手伝いか何かさせてもらうように頼んでみるわ。だから昼間は学校にいけるでしょ」
「僕だけ学校にいくなんて……」
「いいの。それ以上言わないで」
 悟は黙った。
 せかせかと足音をたてて笹井院長が入ってきた。二人を見ると驚いたようであったが、すぐに柔和な笑顔を見せて椅子にすわった。
 ゆっくりとタバコに火をつけながら、
「どんな要件だね」
 と切り出した。
 京子は事情があって、二人で働きたいこと、夏休みが終わったら悟は夜だけの仕事を与えて欲しいことを必死の面もちで訴えた。
「あなたは看護補助婦としてすぐに採用しよう。しかし、男の夜だけの仕事となるとちょっと無理だね」
 院長は悟の採用には難色を示した。
 京子の顔が落胆のあまり崩れそうになった。
「僕は大学を止めてもいいんです。だから昼間から働かせて下さい」  
京子から院長に視線を移して悟が言った。
「あら、それは駄目よ。学校を止めては駄目。あなたが学校を止めるのなら私はもう働かない」
 京子が駄々をこねるように言った。
「だって、仕方がないだろう」
 悟も怒ったように言う。
 院長はタバコをもみ消すと身を乗り出した。
「もっと詳しくその事情という奴を聞かせてくれないかね。一体二人はどんな関係かね」
悟と京子は顔を見合わせた。
「事情によっては力を貸してもよい。心配しなくていいから言って見なさい」
 院長の穏やかな口調が二人の心を開かせた。
 京子は同棲したいきさつから今日までのことを残らず話した。
「そうか。二人ともK大医学部の学生か」
 院長はまたタバコに火をつけてゆっくり煙を吐きながら二人を見比べた。 
「ところで、君のお父さんは医者だと言ってたね」
 院長が悟に訊ねた。
「はい、池宮病院の院長をしています」
「君は跡を継がなくてもいいのかね」
「でも、父は僕を勘当するに決ってますから」
「もし二人の仲を許してくれたらどうするね?」
「そうなれば、跡を継ぎます。ねえ、良いだろう」
 そう言って悟は京子の顔を見た。
 京子がうなずいた。
院長は満足そうにうなずいて事務長を呼んだ。事務長に二人を採用することを告げると、二人に優しく微笑みかけた。
「ところで、仕事の件だが、二人とも学校に行けるように夜の外来時間の仕事だけにしよう」
 京子がうれしそうに悟を振り返り良かったねと小声でささやいた。
 院長は取りあえず、悟は薬局に、京子は受付に配置することを告げた。
「ドクター用の住宅、まだ空いていたな」
 と事務長に確かめて、
「ドクターの住宅に入って貰おう。一日一回は窓を空けて風を通しなさい。住宅の管理も君達の仕事だ」
 と言った。
 院長は喜ぶ二人に真面目な顔で、
「もし、お父さんが二人の仲を許してくれたら、本当にお父さんの所に帰るんだろうな」
 と念をおした。
「はい。でも父は許さないと思います」
 悟がそう言ったとき、
「そうかな?」
 と院長が意味ありげな微笑を浮かべた。

 八月の終わりごろ、池宮家では暗い毎日であった。悟が行方不明になってから一カ月以上経っている。アパートの管理人からも悟が帰ったという連絡はない。
 節子は起きあがる元気もなく、殆ど寝たきりであった。隆造もめっきり気弱になり、悟に厳し過ぎたことを後悔していた。悟が生活費の仕送り無しで一カ月以上も生活していけるとはとても考えられなかった。もしや、と思うと居ても立ってもいられない。今は悟の無事を祈るだけである。
 節子だけは、悟が何処かで生きていると信じていた。もし悟が京子と一緒にいるのであれば……。
 池宮院長宅に、ある日電話がかかってきた。悟からか、と隆造は電話に飛びついたが、電話はK大医学部時代の同級生の笹井からであった。
「笹井だ。久しぶりだな。元気か?」
 昔と変わらず豪放な笹井の声が受話器から流れる。
「うん、まあ元気といえば元気だが……」
「どうしたんだ。煮えきらないな。何かあったのか?」
「実は息子が居なくなってね」
 隆造が声をひそめた。
「そりゃあまた、どうしてだ。医学部に入ったと喜んでいたのに」
「ちょっとしたトラブルがあって」
「ちょっとしたトラブルくらいで居なくなることはないだろう。もっとはっきり言えよ」
 隆造は言い淀んだが思い切っていきさつを説明した。電話の向こうで笹井が笑った。
「実はな、K大医学部の二人組の学生を俺が預かってるんだがな」
「えっ、それは悟か?」
 隆造の声は悲鳴に近かった。その声を聞きつけて節子も電話に近寄った。
「悟だけじゃあない。俺は二人組と言ったろう。京子という女の子と一緒だ」
「そのまま悟を止めておいてくれ。俺はすぐそちらに行く」
「ちょっと待て。その前に一つだけ条件がある」
「何だ、条件とは」
「悟と京子の仲を認めるかどうかだ」
「それは……。認める訳にはいかん」
「それならこちらに来る必要はない。この二人は俺が貰っておく」
「何だって?」
「俺には子供が居ないから、二人を俺の病院の跡継ぎとして貰っておくという意味だ」
「そんな無茶な。他人の子供を……」
「悟はお前が二人を認めなければ俺の跡継ぎになることを承知しているぞ」
「そんな、馬鹿な」
「馬鹿なのはお前のほうだ。よく考えて見ろ。何故駄目なんだ?」
「……」
「お前は京子という女を知らないだろう。京子がいなければ悟は今ごろ生きてはいないぞ」
「……」
「京子は、しっかりしている娘だ。頭も切れる。悟の将来を託するのにこれほど良い女はいない。それでも反対かね」
「そんな訳では……」
「まあいい。お前が二人を引き裂くつもりなら、俺がいつでも二人を貰い受けるからな。それを承知でこちらに来いよ」
「わかった。とにかくすぐに行くから二人を止めておいてくれ」
 受話器を置いて隆造が節子を振り返った。
「良かった。悟が見つかった」
 隆造はそう言うとそこにあった椅子に座り込んで額の汗を拭いた。
「京子ってどんな女だ?」
隆造は二人が無事であることを知って放心したように立っている節子に訊ねた。
 節子はその声で我に返った。節子は隆造の問いには答えず、
「京子さん。ありがとう……」
 と呟いた。
 悟のアパートで京子と過ごした数時間が走馬燈のように駆け巡る。それは節子にとって悪夢のような現実であったにもかかわらず、その走馬燈はむしろ心地よい情感をさえ感じさせた。
 息子は親のもとから巣立って行った。それは母親にとっては一抹の寂しさでもあった。 
 節子の目から涙が止めどなく流れた。

                  了

息子の恋人

執筆の狙い

作者 大丘 忍
p1611005-ipngn200303osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

いざとなった時、男より女の方が強いと私は思っております。

コメント

通りすがり
p169064-ipngn200501osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

本当にご本人様の作品でしょうか。
私にはそうは思えません。もしご本人様の作品なのであれば昔の作風の方が好きでしたね…個人的には

大丘 忍
p1611005-ipngn200303osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

通りすがり様

読んで頂き有難うございます。本人の作品かというご質問は、作者が大丘 忍か、ということでしょうか。これは間違いなく、大丘 忍の作品です。

夜の雨
i223-216-205-231.s42.a027.ap.plala.or.jp

「息子の恋人」読みました。
構成的には、かなりわかりやすいエンターテインメント作品でした。

「息子の恋人」というタイトルからもわかるように、母親である池宮節子寄りの三人称視点で書かれています。
こちらの作品は視点移動がうまくて、息子である悟や恋人の京子たちのエピソードでは、彼らを中心にした三人称視点で違和感なくエピソードが書かれていました。

原稿用紙47枚で一本道なので、話もわかりやすく読みやすかったです。

登場人物の心理面は手に取るようにわかりました。
このあたりは、エンタメとして良くできていると思います。


設定について。

悟と京子がK大学の学生で医学部ということになっていますが、京子が簡単に大学に入りすぎですね。
ということで、京子の設定(伏線がなく)がかなり甘いと思いました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 京子は幼少時に父を亡くした。京子の母は女手一つで京子を育てたが、その母も京子が中学生の時に交通事故で世を去った。京子は小さい鉄工所を経営している遠縁に当たる夫婦に引き取られたが、貧しい養父にとっては京子は重荷になっていた。養父は京子が高校を卒業したら成金の妾にしようと考えているようだった。だから卒業と同時にこの家を逃げ出すつもりであった。
 京子は担任の教師に相談した。教師は女が自立して生きて行ける職業として医者になることをすすめた。友人と旅行すると偽って国立大学である京都のK大を受験し、合格すると教師は当座の費用として五十万円を貸してくれた。五十万円あれば、下宿代、授業料を払って二~三カ月の生活は何とかなる。その間にアルバイトを見つけることもできるであろう。京子はこっそりと準備し家出同然のように新幹線に乗ったのである。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

上のような状況で「国立大学である京都のK大を受験し、合格」というのは、伏線もありませんし、ちょっと無理かなと思います。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
 京都駅の構内で悟がアパートの住所を書いたメモを手渡そうとした時に一人の男が京子にぶっつかるようにして通り過ぎた。メモを入れようとして京子は自分のバッグが無くなっているのに気がついて色を失った。
「さっきの男だわ」
 二人はあわてて周囲を見回したがもはや男の姿は見えない。
「どうしよう。あの中に五十万円入っていたのに」
 京子は立ちすくんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

引き続いて、「五十万円を京都駅の構内で盗まれる」エピソードも、とってつけたような展開でした。

上の二点が、ご都合の展開です。
――――――――――――――――

ほかには、「死ぬ」というキーワードがよく使われていますが、若い二人にとっては、死ぬような状況ではないと思います。
せっかく「K大の医学部」に入学しているのに、それを棒に振って、別の生き方、人生を歩むのが、彼らにとってはもったいないだろうと、いう話です。

ほかのエピソードはうまく書かれていました。

池宮節子が京子と対峙するところとか、雰囲気が伝わってきました。
京子と悟が奈良で笹井院長の病院での仕事や世話を受ける話の展開から、悟の父と笹井が知り合いという構成は、うまく設定していると思いました。
このあたりをご都合主義と書くと、エンタメは成立しないので。
ラストは、きれいに治まりました。

登場人物のキャラはぶれないで書かれていました。
――――――――――――――――――――――――――――

>いざとなった時、男より女の方が強いと私は思っております。<

その通りの作品になっていました。
京子だけでなく、池宮節子も含めて。


お疲れさまでした。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

夜の雨様
読んでいただき、いろいろのご指摘ありがとうございます。

京子が大学に入ったのは簡単すぎるということ。確かに、昔も今も医学部に入るということは超難関でした。京都にある国立のK大学といえば一つしかありませんが難関ですね。現在では有名な進学校や塾で鍛えられた学生しか入れない印象があります。しかし、私の経験から言えば、必ずしも進学校でなくても入った人はおりますので、京子の場合はこだわらないことにしました。
駅でバッグを盗まれる事件は、悟と同居する理由として必要だと思いました。
死ぬという言葉、ここに投稿される小説にもいとも簡単に出てきますが、京子のこの状態なら死にたいと思うのは仕方ないかと思います。しかし、京子は強い女ですね。せっかくK大学の医学部に入ったのだから、生きていく道を探ります。

小説にはテーマが必要ですが、ここでは京子と悟という二人の若者を登場させ、女の強さを表現してみました。

有益な感想をありがとうございます。

見習いさんK
121.134.31.150.dy.iij4u.or.jp

おはようございます。
一気に読ませて頂きました。色々あって考えさせられました……。
私も強くなりたいです。家出しようかしら、なんて(笑)

大丘 忍
p1611005-ipngn200303osakachuo.osaka.ocn.ne.jp

見習いさんK様

読んで頂き有難うございます。
家出は手段であって目的ではありませんね。もし家出を書くなら何のための家出かをはっきり読者に示すことが必要でしょうね。

日程
133-106-77-33.mvno.rakuten.jp

最後まで読ませていただきました。
物語全体を通してとても面白く読め、いい時間を過ごせました。
すごいなぁと思った箇所と、少し引っ掛かった箇所があるのでそれぞれ書いていきますね。

☆よかったとこ!

1.私は悟の母親です。という台詞。
最初は挨拶もせずいきなりおかしいのではと思いましたが、後で節子の心持ちを知って作者さんがわざとこんな唐突な表現にしたんだなあと感心しました。

2.京子のキャラが生き生きしている。
節子の目の前にいる女は、体格のよい、可愛い娘である。性悪な女には見えなかった。時々きらりと光る目の輝きが意志の強さを思わせる。
この最初の節子目線の観察も分かりやすいですし、作品全体を通して京子の強さや性格がぶれることがなかったと感じました。京子さん可愛い。

3.多視点だけども読みやすい。
そのままの意味です。節子、京子、悟と目まぐるしく視点が動いていきますが読み辛さがないです。このあたり作者さんは文章を書き慣れた方なんだなと感じました。

4.絶対的な悪としての父親
節子の感情が結構揺らぎがちなので、それに対して父親が頑なであることが物語のいいスパイスになっていました。特に悟が失踪しても尚、お付き合いを認めないシーンは父親の頑固さが印象的に描かれて、悟の幼少期の苦労までもが思いやられてすごく良かったです。現実でもこういう人たまにいますが腹立ちますよねー。

5.京子が初めて悟の家に来るシーン
めちゃくちゃ好きです。悟の女慣れしてない様子やぎこちない距離感、京子の女としての魅力がバチバチに伝わってきます。電車でのシーンもいいですし若い男女の心の動きを描くのが上手いと思いました。ちなみに個人的にはこの辺が一番のめり込みました。笑

よかった所をあげていくとキリが無いのでそろそろ引っ掛かった箇所に移ります。

☆引っ掛かった所

1.京子は担任の教師に相談した。教師は女が自立して生きて行ける職業として医者になることをすすめた。友人と旅行すると偽って国立大学である京都のK大を受験し、合格すると教師は当座の費用として五十万円を貸してくれた。
この部分が少し飛ばし過ぎかなと。
メインの箇所でないのは分かりますが「る京都のK大に合格する」こと「教師に50万円を借りること」は共に相当難しいことなので、もっと長く描写した方がリアリティが増すと思いました。
そもそも京子は京都のK大である必要はあったのでしょうか?京子の強い女としての魅力は存分に描かれてしましたが、勉強が出来るという点での聡明さは特に描かれていないように感じました。付近の私立医大としても悟と気が合うことに不自然はないので、わざわざ超難関大学の合格者にしなくてもよかったのではないでしょうか。あまり名門にすると京子の経歴からしても不自然ですし、父親が交際を否定する理由もぼやけてしまうような気がします。

2.その時、入り口でもの音がし、二人が振り返ると京子がボストンを持って外に飛び出したところであった。
この文章、若干読みづらいです。「その時」と語尾の「あった」が相性悪いのかも。それか入り口で物音がした。で一回切った方が良いかも。これはホントに細かくてすみません。

3.働こうとする場面
補助婦募集の張り紙に目ざとく反応して働こうとする京子の行動力が示された良いシーンなのですが、わざわざ奈良で働こうとするのが引っ掛かりました。東大寺周辺からK大学に通うのはだいぶ遠いです。お金も時間もかかってとても勉強どころではなくなるので、なるべく大学と近い病院を探すべきだと。


ごめんなさい!結構引っ掛かった所も書いてしまいました。笑
僕としては面白かったんですよ、本当に。
何回も読み返したが故の引っ掛かりということでご承知ください。
次作も期待しています。ヽ(;▽;)

日程
133-106-77-33.mvno.rakuten.jp

大丘 忍様の『息子の恋人』の感想です。
埋もれそうなので追記します。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

日程様。読んでいただき、丁寧な感想をありがとうございます。
引っ掛かった所は、他の方からも指摘されておりましたね。
まず、京都の国立K大学医学部といえば一つしかありませんから、京都大学としてもよかったのですが、これは全く架空の話なのでK大学としました。
京都の大学を選んだ理由は、私は京都大学しか知りませんので、大学は京都にあることにしました。京都大学医学部は超難関大学ですから京子が簡単に入れたのが不自然のような気がしますが、合格者の全員が塾や予備校で猛勉強したわけではありません。中には無名の田舎高校から来た人もいるはずです。
アルバイト先を奈良の病院にしましたが、私も無給医局員時代に(昔は研修医は無給でした)奈良の病院でアルバイトをしながら京都の大学病院に通ったことがあり、補助婦を求むという広告に応募してきた女の子を見たことがありますので、その時の経験を参考にしました。。
私が卒業したのは昭和34年ですから、厳密にいえば時代が異なります。当時は医学部に入学するには、ひとまず理系の学部に入学し、教養課程の二年を終了した時点で改めて医学部医学科を受験するという制度でした。
小説での時代は明記しておりませんが、ほぼ平成の現在と考えてもいいでしょう。
私には、平成、令和という現在の若者を描くことができませんので、その点では苦労しますね。ちなみに私の年齢は87歳です。

放浪マック
202.190.93.30

 初めまして。作品読ませて頂きました。細かく気になるところはあるのですが、ざっくりと言えば面白かったです。
 これまでの作品と、少し毛色が違いますね。他の作品は説明調で事実の羅列みたいな印象ーあくまでも印象ーがあったのですが、この作品は小説っぽいです。人の心の動きが感じられるからですね。
 趣味で小説を書かれていると認識しておりますので、敢えて細かな点は申し上げません。一言、面白かったとお伝えしたく、コメントさせて頂きました。
 日頃から、これ程定期的に一定の水準を保ちながら作品を掲載されておられること、素晴らしいと思っております。
 これからのますますのご健筆、心よりを祈願させて頂きます。

大丘 忍
ntoska043001.oska.nt.ngn2.ppp.infoweb.ne.jp

放浪マック様

読んでいただき感想を有難うございます。これまでの私の小説には自分の体験をもとにした、いわゆる自伝的小説風のものが多かったのですが、これは全くの作り上げたストーリーですからそのように感じられたのでしょうね。
素人小説を書き始めて20年以上経ちましたので、作品は沢山あるのですが、最近は齢のせいで新作を書く元気が無くなり、過去の作品を読み返し手直ししたものを投稿しております。まだ元気が残っている間は投稿を続けたいと思っております。

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