作家でごはん!鍛練場
ムゥ

君の楽園、俺の描いた蜃気楼

「お父さん! お父さん!」
 甲高い声が耳に届いて、俺は我に返った。また考え事をしてしまっていたようだ。
「お父さん、早くリンゴ切ってよ!」
「ああ、そうだな」
 俺は背もたれの無いアルミ製の丸椅子から立ち上がると、バックからレジ袋に入ったリンゴと小さなまな板、それからフルーツナイフを取り出した。
「美味しそう!」
「津久(つく)、あんまり騒ぐと他の部屋の患者さんに迷惑だぞ」
 そう娘の津久をたしなめ、俺は病室の窓を開ける。生暖かい昼下がりの風と共に、桜の花びらがいくらか室内に紛れ込んできた。この部屋は中庭に面していて、満開の桜並木を眺めることができるのだった。
「いい天気だねー」
「後で散歩に行こうな」
 ベッドに横たわっている津久の元に戻って、リンゴを切り始める。数分後、津久の前には切り分けられたリンゴが置かれていた。
「ありがとう、お父さん」
 娘の無垢な笑顔に頬を緩める。しかし束の間の後、
「あ!」
津久の小さな叫び声と同時に、彼女の持つフォークからリンゴがこぼれ落ちていった。音も無く落ちたそれはベッドの近くに転がっている。
「ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。それよりも」
 俺は津久の小刻みに震えている手を見ながら云う。
「手、前よりも震えちゃう?」
「うん。この前まではちゃんと持てたんだけどね、力がこの前よりも入らなくなっちゃって……」
 急に胸が苦しくなるのを感じる、がその心情を絶対に津久に悟られまいと、俺は無理矢理微笑んで云った。
「そう、じゃあお父さんが食べさせてあげるから……」
 津久からフォークを受け取り、リンゴを彼女の口に運ぶ。津久の顔が日に日にやつれているのが、至近距離から見ると一層感じられた。
 やがて小皿の上のリンゴが無くなった。津久が再びベッドに倒れ込むと、彼女の左手と点滴棒を繋ぐチューブが揺れた。
「少し休んだら外に出よう」
 俺の提案に、津久は笑顔で頷いた。

                    *

 両開きの自動ドアが音を立てて開くと、一気に肌に触れる空気の温度が高くなった。少し強いくらいの日差しが心地よかった。両手を車椅子を押すために使っているので日差しを遮ることもできず、俺は目を細めて前を注視した。
 ガラガラガラガラ――。
 車椅子が音を立てて荒く舗装された遊歩道を転がる。
「津久、揺れは大丈夫?」
 俺は車椅子に腰を沈める津久に訊いた。彼女は水色のパジャマに身を包み、左手に点滴棒を握っているという恰好だった。
「うん」
「そう……。場所はどこがいいかな」
「あそことかは? 桜が綺麗だよ」
 津久の指示通りの場所へ車椅子を押し、日陰になっている場所を探す。そこには既に一組の親子がいた。俺らと同じで子供の方が入院しているようで、点滴棒を持った男児に母親らしき女性が付き添っていた。俺は軽く会釈をして少し離れた所に車椅子を止めた。
「芋虫とか大丈夫かなあ」
 そう俺は不安げに頭上を仰ぎ見た。この日陰を作っているのは一本の大きな桜の木で、枝に目いっぱいの花びらをくっつけていた。地面も同様に桃色が大部分を占めている。見たところ芋虫などはいないようだが――。
「すごい! 満開だ!」
 嬉しそうにはしゃぐ津久の様子を見て、俺は不安を胸の内へ引っ込めた。多分大丈夫だろう。
「虫とか躰に付いたらすぐに云ってよ」
「うん」
 一応忠告だけしておく。
 その後は二人で黙って桜を見上げていた。桃色の天井。それが時折風でなびいて、小さな花びらが俺たちに向かって落ちてくる。花の蜜の匂いが微かに鼻に届く。花びらは音も立てずに地面に到着し、既に花びらの散る地面に新しい陰影を加える。俺らの周りだけで完結するそれらの動きに、俺はふとここだけ周囲から切り取られた空間であるような錯覚を覚えた。まるでここだけ時間の流れが遅くなっているような。その気になれば時間の流れを完全に止めることさえ叶ってしまうような。
 それが錯覚でなければ、俺はどれ程幸せだろう。この先確実に出会う現実を、永久に受け入れずに済むのだから。
 ――。
 ――。
「お父さん」
 津久の呼ぶ声が、俺の妄想を断ち切った。
「どうした?」
「ちょっと躰痛い」
「……ああ」
 車椅子にずっと同じ体勢でいたために負担がかかってしまったようだ。
「ごめん。何処か……あそこのベンチとかに座ろうか」
 すぐそばのベンチを指差した。津久がその提案に頷いたので、俺は彼女の躰を抱きかかえてベンチの目の前まで移動させた。
 津久の躰を縦にしてベンチに座らせようとする。しかし、その直前、
「うお、危ねえ」
 俺はあるものを見付けて驚いて、慌てて津久の躰を再び持ち上げた。
「どうしたの?」
 津久が怪訝な声を上げる。
「カエルさんがさ、ベンチの上で死んじゃってたんだよ」
 津久を何処に座らせればよいのかも分からず、俺は取り敢えず彼女の躰を元の車椅子に戻した。そうしながらも、俺の目は死骸を凝視していた。
 それはまだ死んでからそんなに経っていないようだった。皮膚にはまだ湿り気があり、躰の硬直もしていないようだ。しかし、その四肢は力なく投げ出されていて、白目を剝いた顔には生気が宿っていなかった。
「どっか他のベンチを探そう」
 興味津々にカエルを凝視する津久に俺は云う。車椅子の取っ手を掴んで押し始めた、その瞬間。

「ねえ、カエルさんも、今は『向こうの世界』にいるの?」

 思いがけない言葉に、俺は車椅子を押す手を止めた。顔が強張る。
「え……それはどういう……」
「私が死んだら『向こうの世界』に行くんでしょ? このカエルさんも死んでいるんだからそこにいる筈でしょう。それとも、人は行けるけどカエルさんは行けないの?」
「え、ああ……」
 俺は口ごもりながら、慎重に言葉を選ぶ。
「……勿論いるよ。どんな生き物も死んだら『向こうの世界』に行くからね。もしかしたら、お母さんにも会っているかもしれないよ」
「え!」
 津久が顔を輝かせる。
「いいなあ。私も早くお母さんに会いたいなあ」
 その発言に、俺は言葉を失って車椅子ではしゃぐ津久の姿を見つめていた。呼吸ができなくなる程の息苦しさが俺を襲い、頭が真っ白になる。
「お父さん、大丈夫?」
 俺の心情の乱れを察したのか、津久が心配げに声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だよ……」
 作り笑いを浮かべながらふと後ろを振り返ると、先程の母親らしき女性がこちらを強張った顔で凝視していた。恐らく今の津久の発言を聞いていたのだろう。俺は気まずくなり、再び車椅子を押してその場を去った。
 日差しの差し込む芝生の上に出る。春の陽気。土の匂い。津久の余命宣告を聞いたのも、去年のこの季節だった。
 ――。

『生き物はね、死ぬと皆「向こうの世界」に行くんだ』
 それは、俺が津久を安心させたい一心でついた嘘だった。
『本当?』
『うん。だから、津久ももうすぐ死んじゃうけど、何も怖くないよ。向こうでずっと暮らせる。お母さんも「向こうの世界」にいるんだよ』
 津久を産んだ直後に妻が病気でいなくなって、その数年後に津久も同じ病気にかかっていることが判明して、俺は動揺を隠せなかった。混乱した頭で必死に今の娘の平穏を守る方法を考えて、そして生み出したのがこの嘘だった。今思えば何でこんな突拍子もない嘘をついたのか分からない。捻じ曲げた真実を意図して津久に刷り込ませたことに、後から罪悪感が溢れ出てきた。まだ純粋な子供の津久に、ただ都合がいいだけの思想を押し付けた自分が許せなかった。しかし後戻りはできない。一度作られてしまった彼女の世界を守るために、俺は今日も嘘をつき続ける。
 俺の選択は正しかったのだろうか。

 ――。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
 病室に戻る途中、日差しで火照ったコンクリートの上で、津久が俺に話しかけた。
「私もうすぐ『向こうの世界』に行っちゃうけど、お父さんもすぐ来てね! お父さんとずっと会えないのは寂しいから」
「……ああ、そのつもりだよ。だから安心して待っててな」
「うん!」
 満面の笑みを浮かべる津久に、俺は必死に笑みを返す。

 俺の選択は正しかったのだろうか。

君の楽園、俺の描いた蜃気楼

執筆の狙い

作者 ムゥ
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初投稿です。純粋ゆえに、簡単に塗り替えられてしまう娘の死生観をお伝えできれば理想です。
インターネット上でのコミュニケーションに慣れていないため返信に不自然な部分があるかもしれませんが、ご意見、ご感想には誠意をもって対応いたします。

コメント

may
pw126233153249.20.panda-world.ne.jp

はじめまして。読みましたが、ちょっと辛口な感想を失礼します。
まず、冒頭の会話がつまらない。病院にいてリンゴが落ちたから、どうしたというのでしょう?手が震えてしまったことは分かりましたが、もっとドラマチックな展開を期待しました。平凡で、普通で、退屈な会話です。小説にするからには何かしら意味をすべての文章に持たせた方がひきこまれます。父親の座っている椅子に背もたれがないのはどうしてですか?別に意味はないのでしょうが、上手い作家さんは小道具をたくさん文章の中に散りばめていて後から伏線回収したりとあっと言わせる工夫があります。
次に虫とか桜とかですが、ここもつまらない。人の死を扱った話ならなおさら桜の儚さを読ませてほしいですね。周囲から切り取られた空間だと、読者をもっと引き込んでください。
最後に妻と同じ病気で命が残りわずかなことは分かりました。遺伝とかあるのでそこは納得です、嘘をついて娘がそれを信じていることが必ずしも父親の救いになっていない苦しみは感じられました。ですが、娘はやたら明るい。早くお母さんにあいたいとか言っちゃう。なんだか変です。素直で純粋な娘をもっと前半描いたら話は繋がっていたかもしれませんが、なんだか唐突で撮ってつけたような展開でした。

と、失礼な点たくさんあげましたが次回作も期待しています。

匿名ではありません
124-144-112-119.rev.home.ne.jp

主題が前に出すぎ、とでも言うのでしょうか。
主題は「向こうの世界」についてだとすぐわかります、しかし、なんだかあっさり終わりすぎなのです。人間やはり深く考えないと感傷に浸れません。話らしい話のない小説の典型、しかもとても短い、二分で読める、これでは「向こうの世界」について、また、ツクの行動や言動について、考えることは出来ません。
ですからあえて文体を難しくするとか、あるいはもう少し話を長くしたほうがいいと思います。頑張ってください。

色葉月
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読ませていただきました。
桜を二人で見上げた後の描写が好きです。
「桜色の天井」なんて、とても素敵。
お父さんが過去に言ってしまった一言を悔やんでいるのなら、こんな言い回しをすれば良かった、と思案する描写があるともっと良かったかもしれません。
簡単に塗り替えられてしまう娘の死生観、ちゃんと伝わりました。
次回作も頑張ってください。

ムゥ
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may様、ご感想ありがとうございます。

正直、今までストーリーに直接関係のない描写を軽んじて書いていた部分があったので、細かい部分に意味を持たせることの大切さが身に染みて分かりました。私自身は物語の雰囲気を理解して書いていたので何の工夫も無い会話にも違和を感じずにいたのですが、なるほど、読者は何も知らない状態で読み進めるので当然退屈になりますね。上手い人はそこを客観視して執筆できるのかと、大変勉強になりました。

津久の不自然な明るさに関しては私が意図して創り上げたものです。「私も早くお母さんに会いたいなあ」というセリフも、現代人の常識から逸脱してしまった彼女の思想を言葉にしたもので、その純粋だけど歪んでいる発言で読者をぞくっとさせるつもりでした。しかし、may様の発言からして私の表現力不足だったようですね。普通の人が理解できない世界観なら、なおさら文章に深みを持たせて理解しやすくさせなければならない。それなのに私は先走って表面上での記述、結果として突拍子もない発言になってしまったと、そう分析しました。以後気を付けたいと思います。

ムゥ
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匿名ではありません様、ご感想ありがとうございます。

ご指摘の通り、登場人物独自の思想がテーマの文章ではこの厚みには合わなかったことが分かりました。テーマの重さとそれに見合う文章の深さについては、今後気を付けたいと思います。あと、私自身文章を読むのがかなり遅いので、速度の違いからくる獲得情報量の差も加味しなければならないのでしょうね。

難しい文体……語彙の少ない私には時期尚早でしょうが、使いこなせるようになれば世界が広がると思うと胸が躍ります。日々精進します。

ムゥ
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色葉月様、ご感想ありがとうございます。

桜のシーンの描写は特に力を入れて書いた部分なので、その言葉は励みになります。より自分の意図が伝わるような表現になるよう努力します。

やはり文章の薄さが主な課題のようですね。父の発言について、その内省の記述までは考えが及びませんでした。必要な描写を抜かさないためにも、より沢山の推敲が必要だったと反省しています。

夜の雨
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「君の楽園、俺の描いた蜃気楼」読みました。

純粋ゆえに、簡単に塗り替えられてしまう娘の死生観をお伝えできれば理想です。 ← 書けていたと思います。
「執筆の狙い」を読み、どうやって書くのだろうかと思いましたが、「ショッキングな内容が二段落ち」で描かれていました。
普通、オチの後にもう一つオチをつけると作為が見えすぎて、印象が悪くなるのですが、御作の場合はうまく設定ができています。

御作のオチ
一つ目

『生き物はね、死ぬと皆「向こうの世界」に行くんだ』
 それは、俺が津久を安心させたい一心でついた嘘だった。
『本当?』
『うん。だから、津久ももうすぐ死んじゃうけど、何も怖くないよ。向こうでずっと暮らせる。お母さんも「向こうの世界」にいるんだよ』
 津久を産んだ直後に妻が病気でいなくなって、その数年後に津久も同じ病気にかかっていることが判明して、俺は動揺を隠せなかった。混乱した頭で必死に今の娘の平穏を守る方法を考えて、そして生み出したのがこの嘘だった。今思えば何でこんな突拍子もない嘘をついたのか分からない。捻じ曲げた真実を意図して津久に刷り込ませたことに、後から罪悪感が溢れ出てきた。まだ純粋な子供の津久に、ただ都合がいいだけの思想を押し付けた自分が許せなかった。しかし後戻りはできない。一度作られてしまった彼女の世界を守るために、俺は今日も嘘をつき続ける。
 俺の選択は正しかったのだろうか。

二つ目

「ねえ、お父さん」
「ん?」
 病室に戻る途中、日差しで火照ったコンクリートの上で、津久が俺に話しかけた。
「私もうすぐ『向こうの世界』に行っちゃうけど、お父さんもすぐ来てね! お父さんとずっと会えないのは寂しいから」
「……ああ、そのつもりだよ。だから安心して待っててな」
「うん!」
 満面の笑みを浮かべる津久に、俺は必死に笑みを返す。

 俺の選択は正しかったのだろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


一つ目のオチは、亡くなる者に対して、安らかな気持ちで残りの日々を過ごさせるための話というわけですが、このあたりは宗教観にもあると思います。
単純に書くと、亡くなった後は「天国に行ける」とかです。
御作の場合は娘が先に亡くなっている母に逢えるとか言って、娘の気持ちを安らかにさせようとしたものだと思います。
いや、希望を持たせようとしたのかもしれないですね。

二つ目のオチは、娘が自分が亡くなった後に、「父にも寂しいからすぐに来てね」というところです。
このオチは上の一つ目のオチがあるから成立しているオチで、うまく書けていると思いました。
まさに「執筆の狙い」にある『純粋ゆえに、簡単に塗り替えられてしまう娘の死生観』ということになるのでしょう。

御作は短い作品でしたが、ポイントを抑えて書くべきところが書いてある作品だと思いました。
● 病室のシーン。状況がわかりました。

● 病院の中庭で子供の入院患者を見かけるシーン。二度あり、相手の母親の視線が感じられるところがよかった。

● カエルの死骸のシーン。ここもインパクトがありました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
●こういったエピソードがあり、ラストの二段落ちにつながり、独特の世界観になったと思いました。
作者さんは話を創るのが上手く、感受性は伝わってきました。

御作をさらに良くするには、御作が「絵画」だとすると、その描かれているキャンバスの外側を想像してキャンバスに世界を描くと、奥行きがもっと出るのではないでしょうか。


それでは、頑張ってください。

ムゥ
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夜の雨さん、ご感想ありがとうございます。

ラストの表現方法について、これでいいのか迷いが僅かながらあったので、お褒めの言葉を頂いて安心しました。……なるほど、「二段落ち」という言葉があるのですね。今まで感覚でこのように書いていただけで、用語自体は知りませんでした。言葉を知ると脳内の構成がはっきりしますね。勉強になります。

物語の奥行について、今一度読み返してみましたが、確かに父と津久とその周りの描写以外が非常に少なく感じますね。もう一組の親子ぐらいでしょうか、「キャンパス」の外側から読者に干渉してくるのは。例えば廊下から聞こえる足音や病院関係者とのやりとり、中庭での第三者の微かな会話の描写などを入れればリアリティが増したのではと、今読むと悔やまれます(解釈違いであればすみません)。冗長にならない程度に今後描写できればと思います。

最後に、私自身が物語の要素の中でも「世界観」に特に重きを置いているので、作品の世界観についてこのような言葉を頂けるのは非常に嬉しいです。ありがとうございます。

夜の雨
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再訪です。
御作に足りていない部分に気が付いたので。

『生き物はね、死ぬと皆「向こうの世界」に行くんだ』
 それは、俺が津久を安心させたい一心でついた嘘だった。
『本当?』
『うん。だから、津久ももうすぐ死んじゃうけど、何も怖くないよ。向こうでずっと暮らせる。お母さんも「向こうの世界」にいるんだよ』
 津久を産んだ直後に妻が病気でいなくなって、その数年後に津久も同じ病気にかかっていることが判明して、俺は動揺を隠せなかった。混乱した頭で必死に今の娘の平穏を守る方法を考えて、そして生み出したのがこの嘘だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――

ここのシーンですが、どうして娘が自分の死を知っているのかの伏線が要りますね。
誰かが、娘に伝えなければ彼女はわからないはずですから。
母親は娘を産んだ直後に亡くなっているのですから、娘は母親の亡くなるところは見ていないはずです。
なので、母の死と自分の病気と関連付けることは周囲の者が言わないと気が付かないと思います。

幼い娘に「津久ももうすぐ死んじゃうけど」と、父親が言わなければならなくなった、理由が必要です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 作り笑いを浮かべながらふと後ろを振り返ると、先程の母親らしき女性がこちらを強張った顔で凝視していた。恐らく今の津久の発言を聞いていたのだろう。俺は気まずくなり、再び車椅子を押してその場を去った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このシーンがあるので、父親は自分が無慈悲なことを娘に言っていることは、わかっているはずです。
周囲の者が、娘が近くにいることに気が付かなくて、言ったので、彼女は自分の死を知ってしまったとか。
何らかの理由が必要です。

ということで、娘が自分の死を周囲の者の不注意により知ってしまったとして、彼女は本当に自分の死を受け入れて、父親のいう亡くなったあとの世界で母親に逢えることが出来ると信じているのかとか、このあたりの描き方次第で御作は良くも悪くもなると思います。

現状の御作では娘は幼いようですが、年齢設定次第では彼女が父親に対して「自分の死というものを利用して意地悪をしているとも、とらえられるので、それはそれで小説的には面白くなるのですが」。


何やら御作は、不思議な雰囲気があります。

ムゥ
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夜の雨様、再訪ありがとうございます。

私自身は「医者が既に津久に余命を伝えてある」と処理して物語を書いていたのですが、この部分の設定が甘かったですね。もっと力を入れるべきでした。
例えばこの病気の重さを予め示しておいて、津久がそれを夜の雨様の仰った経緯などで偶然知ってしまう。その時の彼女の動揺を描写していれば、「元々の津久の死生観」からの変化を強調することができるでしょう。「簡単に塗り替えられてしまう死生観」というのももっと伝わりやすくなります。物語の起伏を考えたら当然改善すべきですね。

私は、津久は純粋に「向こうの世界」の存在を信じているという設定でこの物語を書いたのですが、なるほど、本当は津久はそれを信じておらず、ふりをしているというのも面白いですね。物語が全く違った印象を読者に抱かせるでしょう。今後の執筆のために参考にさせていただきます。

非現実的な世界観を露骨にならない程度に現実に忍ばせて読者につたえる、というのが私の努めていることの一つです。

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