作家でごはん!鍛練場
香川

私と他人とちんちんの事情

 おもらししてない! ちんちんが足にくっついちゃったんだ! 
 というのが透也《ゆきや》の言い分だった。今日の午後二時頃、幼稚園から帰ってきた透也の鞄を開けると、そこには「おもらししました」のメモ付きで、ビニール袋に入れられた汚れ物のパンツがあったのだ。もう五歳だというのに、いつまでもトイレに失敗していては困る。そう思って注意すると、逆に透也が怒りだした。「ちんちんが足にくっついちゃったんだ」と。
 その反論があまりに思いもよらなくて、私は声を上げて笑ってしまった。
「おかしくない! 笑っちゃだめ!」
 透也が幼児らしいキンキン響く声で叫んだ。私は、ごめんごめん、と言い、透也の頭をぽんぽん軽く叩く。
「だめ! やめろ!」
「そんなこと言うと、チューしちゃうよ」
 透也はわざとらしいくらい勢いよく両手でバチンと頬を覆った。
「だめ!」
 声を張り上げて逃げた透也を私は追った。チューしちゃうぞ。すぐ怒る子は、チューしちゃうぞ。
 
 それにしても、おもらしの言い訳が「ちんちんが足にくっついちゃった」なんて。たぶん、おしっこしようとパンツを下ろした時、ちんちんが足に貼り付いていて、はがすより前に出てしまったということなのだろう。透也を見ていると、私には全く想像のつかないようなことが何度も起こる。女もそうだけど、男には男の体の事情があるのだ。
 そう痛感すると、ふわっとある記憶が脳裏に浮上した。
 浪野(なみの)くん。
 はじめおぼろげだったその記憶は、次第に輪郭をはっきりさせ、色がつき、そのうちアクリル絵の具で描いたばかりかのように鮮やかになった。中学二年生の私の初恋が、痛みと共によみがえってきた。
 
 進級したばかりのクラスは、まだ感覚に馴染みきっていないせいか、新鮮だ。前の教室とは違う位置にある掲示板や、黒板の大きさの微妙な違い、見たことのない傷のついた机、そして新しいクラスメイトたち。そういったもの全部が教室の空気を程よくピリッと緊張させていた。
 その空気と同じくらい真新しいピカピカの気持ちで、私は周りの様子をうかがっていた。もともと、小さな小学校出身だったので、一年の時のクラスメイト以外に知り合いはほとんどいない。この中の誰かと仲良くなれるかな? 新しい先生って、どんな人だろう? 
 キョロキョロしてばかりだった私へ初めに話しかけてくれたのは、すぐ後ろの席の子だった。何と言われたのか、はっきり覚えてはいない。でも彼女が私の肩を叩いて、私が振り返って、言葉を交わして――そこから私の中学二年生の新しい生活がスタートしたのは確かだ。お互いに知り合いが少なかったこともあったのだと思うけど、私たちはすぐに意気投合した。
 それからは、何をするのも彼女と一緒だった。休み時間は二人でずっと喋っていたし、何かを二人一組で行う時は必ず彼女と組んだ。私は彼女を美咲と、彼女は私を涼子と呼び捨てにし、他人にはあまり話さないようなことを打ち明け合った。
 美咲は隣のクラスの清水くんが好きだと言った。私は母親が一年前に家を出てしまったことを語った。
「じゃあ、涼子んちって父子家庭なんだ」
 美咲が返してきたので、まあね、と応じた。続けて「今はまだ」という言葉を喉から引っ張り上げる前に、美咲がそれまでよりさらに声を低めて言った。
「なら、浪野くんと一緒だよ」
 いきなり飛び出した名前にドキッとなり、気がつくと視線をめぐらせて浪野くんの姿を探していた。彼は窓際の席に座り、何やら白い紙にペンを走らせていた。それまで、私は彼に対して「いつも寝ている人」という印象しか持っていなかったのだけど、改めて意識してみれば、とても美しい横顔をしている。まつ毛が長く、鼻梁は眉間から綺麗に通り、鼻先がやや尖っていて、唇は控え目。首が長く、しっかりと出っ張った喉仏が、私の目には妙にセクシーに映った。ちょっと見惚れている間に、美咲が何か言いかけたけれど、最後まで終わらない内にチャイムが鳴った。
 その日から、浪野くんのことが気になって、時々、盗み見るようになった。頬杖をついてうとうとしている彼の横顔は、見れば見るほど美しくて、計算し尽くされた芸術品のようだった。それで、私は気がつくといつも、おでこから喉仏までのその完璧なラインを、目で追っていた。浪野くんはこちらの視線に全く気づいていなさそうだった。だけど、同じバスケ部で仲が良いらしい清水くんが教室に遊びに来ると、彼はうたた寝したりせずに笑って話していたから、その時だけバレないように目を逸らしていなくてはならなかった。
 憧れに似たこの感情がより強くなったのは、保健室での一件からだ。
 六月下旬の全校朝礼。私たちのクラスの列に、浪野くんの姿がなかった。休みかな、と少し残念な気持ちで、夏休み前の生活態度がどうこうという説教を聞いていた私に、担任の先生がそっと近づいてきて言った。
「平野、悪い。浪野が朝練の途中で体調崩してな。朝礼終わったら保健室に様子見に行ってくれ」
 心臓が跳ね上がると共に、嬉しさが熱になって指の先まで広がっていた。自分が保健委員であった幸運に、心から感謝した。
 人の密集した体育館を出ると、それだけで呼吸が楽になる。こんな暑い中、朝から体育館で動き回っていたら具合も悪くなるだろうな。そんなことを考えながら、他の生徒の間を縫って、校舎へ続く渡り廊下を小走りに進む。半透明の屋根から入ってくる陽が眩しくて、目を細めた。
 保健室へ入っても、誰の姿も見えなかった。養護の先生は朝礼からまだ帰ってきていない。しんとした室内の空気は、けれど、外より温いような気がした。いくつかあるベッドの内のひとつは、ぴったりカーテンを閉められている。ああ、あそこに浪野くんがいるんだ。この温さは浪野くんの気配なんだ。ちょっと気持ちが高まって、私はそのまま声をかけずにカーテンを開けてしまった。
 浪野くんは眠っていた。仰向けで、少しだけ寝息をたてながら。暑いためか布団はかけていなかった。体の線の細さがよく分かった。カーテンの位置から見える斜めの角度からの寝顔は、とても綺麗。それが、ゆっくり近づいて正面の角度になっていくにつれ、鼻や口元の美しい線が目立たなくなった。やっぱり横顔イケメンなんだな、と思って少し視線を横にずらした時、
 見慣れない出っ張りが目についた。
 ちょうど、股の辺りだ。青いジャージが押し上げられて、そこには小さな山みたいな出っ張りができていた。
 これはいったい何なのだろうかと、私が考えを巡らせながら再び彼の顔へ顔を向けると、浪野くんが目を開けた。そして、その視線が私を捕らえた瞬間、彼は目玉がこぼれ落ちそうなくらいぎょっとして起き上がった。両膝を立てて、お腹でも痛いみたいに体を縮め、顔を真っ赤にして「ごめん」と言った。
 私はポカンとしてしまい、とりあえず首を横に振った。具合が良くなったら教室に来て、というようなことを口にした気がする。そうして保健室を出てのんびり教室までの人気のない廊下を歩いているうちに、理解が追いついてきた。
 あれは、勃起だ。
 保健体育の授業で習った、勃起。女の私には何の現実感もなく、もはやファンタジーと同じだった、勃起。それが突然目の前に現れたのだ。知ってはいけない浪野くんの秘密を目にしたように感じて、胸の奥がくすぐったくなった。
 
「あたしさ、清水くんに告白しちゃった」
 美咲が私に明かしたのは、保健室での勃起事件から数日後のことだった。ふうん、と返した時、心は不快感にミシリと音を立てていた。その感情がなんだったのか、今でもはっきり分からない。でも、たぶん、私は美咲の何かに嫉妬して、美咲の何かに腹を立てた。
「返事は?」
 嫌な気持ちを喉の奥へ飲み込もうとしたら、声が変に高くなった。美咲は笑みを堪えようとしたのか口をすぼめたけれど、頬に浮かんだ喜びは隠しきれていなかった。
「オッケーだって」
 ミシリ。また心が軋む。
 それで、私は浪野くんのことを考えてみた。彼の綺麗な横顔と、ジャージを押し上げるその下の物のことを。すると、途端に美咲の話がとても小さなことに思えて、嫌な気持ちは霧が晴れるように消えていった。浪野くんとの距離が急に縮まったように感じると同時に、美咲と清水くんのことなど、どうでもよくなった。
 美咲のことを嫌っていたわけではない。当時の私にとって、美咲は一番近しい、一番話しやすい人間だった。それはよく分かっていた。でも、彼女がいなければ、どんどん鬱積していく嫌な出来事を吐き出せずに自分が潰れてしまったかもしれないということまでは、考えられなかった。私は、ただ話せる範囲で彼女に愚痴をこぼし、彼女が私に打ち明ける思いは、疎ましく思っていた。
 
 清水くんが教室にやって来る頻度が高まった。私が休み時間に浪野くんを横目で見ていると、清水くんが毎日のように現れるのだ。彼はずっと浪野くん相手に喋ってはいたのだけど、時たまこちらへ視線を向けて、にこっと笑った。すると私の横でさざ波みたいに空気が揺れて、見ると美咲が口をすぼめて頬に笑みを浮かべたあの表情で手を振っていた。何となく嫌な気持ちになって、私は美咲からも、清水くんからも、目をそらそうとした。でも、そうすると浪野くんを盗み見る時間が減ってしまう。
 そこで思いついた。写真を撮ろうと。浪野くんの横顔をスマートフォンで撮影しておけば、いつでも好きな時に眺められる。学校以外でだって、たとえどんなに嫌なことが起こったとしても彼の横顔を「目の保養」にすれば、それだけで癒される。いっときだけでも夢中になって、いらいらした気持ちから解放される。浪野くんを見ていると、心になみなみと幸福感が広がっていくのだ。今から思えば、あれは男性アイドルや美しい海外男優を見つめて胸をときめかせるのと、似たようなものだったのかもしれない。私の場合、その対象がもっと近くにあった。
 
 今日は涼子ちゃんの好きなメニューにしたから、いっぱい食べてね。
 美咲と清水くんのことで苛立っていた頃、家庭でもムカつくことが起こった。父の交際相手の女が、本格的に家に乗り込んで来たのだ。私の機嫌を取りたいらしく、プレゼントやら料理やら、いろんなもので手懐けようとしてくる。でも、帰宅した途端、玄関まで小走りにやって来て、「おかえり」も言わずに夕飯の話をしだしたのにはちょっと引いた。
「いりません」
 そう言って、彼女の横を通り過ぎようとすると、
「涼子! せっかく手間ひまかけて作ってくれてんだぞ!」
 廊下の奥から威圧的な声が飛んできた。父だ。なんでこの時間に家にいんのよ? と疑問が頭を過った次の時には、勘づいた。この女が頼んだに違いない。手料理を振舞って、この反抗的な子どもの機嫌を取るから、ちゃんと食べてくれるよう側にいてくれと。気づいた時、心の底から気持ち悪さが突き上げて、私はほとんど彼女を突き飛ばして二階の自室へ駆け込んだ。
 悔しかった。傍から見れば、私が悪い。子どもじみた反発心から父親の恋人に意地悪をしている。そう見えると分かるから、悔しかった。でも、そういう状況に私を追いやったのは、誰? 離婚したのも再婚するのも大人の勝手な都合なのに、それを不満に思う私を二人がかりで悪者にしようとしているのは、誰?
 いや、二人じゃない。三人だ。母だって、自分で勝手に家を出たくせに、私のことを「たまにしか会いに来てくれない親不孝者」と言って、いつも詰る。父に会いに行ってやれと、半ば強制的に出かけさせられて、挙句に理不尽な説教を聞くなんて、たまったもんじゃない。
 だいたい、父だって、私に行けと言うなら自分で会いに行けばいい。ひとことくらい謝ってやったらどうだ? 母は父との生活が嫌になって出ていったのだから。なのに父は決してそうしない。いろいろ理屈を付けて、私に何もかも押し付ける。自分の恋人と仲良くしろだの、母親に優しくしろだの。もう、何もかも腹立たしい。
 お腹の底からムカつきが突き上げてきた瞬間、私ははっとひらめいた。そして考えるより先に、手はポケットからスマートフォンを取り出し操作していた。画面に浪野くんの姿が映し出される。横顔の見事な輪郭、筋張った首。喉仏。少しだけはだけた胸元から見える鎖骨の膨らみとその上の窪み。
 ああ、綺麗。
 嫌な気持ちは、潮が引くように消えていった。
 その日、私は自室に籠ったきり一歩も外へ出なかった。ドアの外から父の怒声が響いてきたり、あの女がなぜか「ごめんね」と謝ってきたりしたけれど、全て無視した。

 いつの間にか眠ってしまっていたらしく、目が覚めた時、カーテンの細い隙間から朝の光が零れていた。スマートフォンを見ると、時刻は午前五時。学校へ行くにはもちろん早すぎるけれど、あの二人と顔を合わせたくない。私はそっと部屋を出て軽くシャワーを浴びると、身支度を整えて家を後にした。
 こんな早朝に学校は開いているだろうか。朝練だって七時くらいからのはずだ。早めに入れたとしても、せいぜい六時半頃なんじゃないか。そう思いつつ、他に行くあてもなかった私はブラブラ散歩するみたいにのんびりした足取りで学校へ向かった。
 ゆっくり歩いたおかげか、着いた時にはもう六時を回っていた。運良く門も開いている。ほっとして、私は校内へ入った。
 いつも絶え間なく動いている空気が、しんと静まっている。誰もいない校庭は、それだけで少し特別な感じがした。けれど、ちょっと距離を置いた前方で活気を帯びた気配がした。キュッキュッ、バーン、バーンという床をこすったりボールをついたりする音が届いてきたのだ。バスケ部の練習だ。体の中の細胞が急に目覚めたみたいに、気持ちが高まった。
 浪野くんがいる。
 私は体育館まで走った。ほんの数十秒がもったいない気がして、思い切り走った。浪野くん、浪野くん、浪野くん――。
 たどり着いてみると、しかし、浪野くんの姿はなかった。元気を取り戻した心が、みるみるしぼんでいく。でも、練習風景をよく見ると、それぞれが、それぞれにボールをついたりシュートをしているだけだから、たぶん早く来た人たちが個人練習しているだけなのだ。待っていれば、そのうち現れる。
 気持ちを立て直したちょうどその時、見知った人物が目にとまった。
「清水くん」
 声をかけると、清水くんは目を丸くしてこちらへ振り返った。私と視線が合うと、にっと笑ってやって来る。
「平野さん、何?」
 彼の言い方も表情もやけに感じが良く、嬉しそうにさえ見えた。おそらく、美咲からの伝言を携えて来たとか、そんな風に思ったのだろう。朝っぱらからそんなことするわけないのに。
「浪野くんは?」
 私が尋ねると、案の定、清水くんの表情から朗らかさが消えていった。口角は上がったままだけど、がっかりしたのがバレバレだ。眉間には疑問の気配が差している。
「浪野はって……あいつ、もう部活辞めたよ」
 清水くんの単純な言葉を理解するのに少し時間がかかった。ゆっくり脳がその意味を咀嚼していくと、急に胸がざわざわしてきた。いつ? と聞くと、彼は、ちょっと前だよ、と教えてくれた。それはそうだろう。少し前に、私は部活の朝練で倒れた浪野くんの様子を見に行っているのだから。
 それから、じゃあ、と清水くんに軽く挨拶をして体育館を出ると、私はゆっくりと教室へ歩を進めた。
 心の中の浪野くんの姿へ、急に靄がかかったようだった。あの保健室での一件から、私は浪野くんと特別な繋がりを感じていた。勃起なんて、普段、他人に見せられないものを目にしたことで、彼の深いところに触れられた気がしていた。でも、彼は私の知らない内に部活を辞めてしまっていて、当然、私にはその理由も見当がつかなかった。少し、裏切られたような気持ちになった。
 
「涼子!」
 自分の席でぼんやりと喪失感の甘さに浸っていると、後ろから呼びかけられた。振り向けば美咲がそこにいて、頭の中央に付けた大ぶりのリボンを示していた。
「こないだ一緒に買ったリボン、付けてきちゃった」
 涼子は付けないの? と聞かれ、お腹の底で何かがぐるりと回った。
「父親にみっともないから付けるなって、取り上げられちゃった」
「うそ!」
 美咲は目を見開いて声を上げた。
「涼子のお父さんって厳しい。もうちょっと小さいリボンにすれば良かったかもね。私だけ、ごめん」
「別にいいよ」
 そう言ったし、そう思った。けれど、心に浮上した嫌な気持ちは消えなかった。
 美咲は少し困ったように眉を八の字にしていて、それからおもむろにリボンを外した。
「涼子が付けないんなら、私もやめる」
「いいって!」
 言葉が口をついて出て、でも反面、心は思いがけず弾んでいた。
 美咲はにっこり笑って首を振る。
「だって、別に学校に付けて来なくてもいいもん。涼子が付けられないもの、涼子の前で付けるなんて嫌だし」
 美咲の言葉で、ぱっと跳ねた心が鎮まり、急に腑に落ちた。
 私はてっきり、美咲が「涼子の付けられないものを付けるわけにはいかない」とそのリボンをお蔵入りさせるつもりなのだと勘違いしていたのだ。別にそんな風にして欲しいと思っていたわけではないけれど、私のためにそこまでしてくれるのだと思うと信じられないくらい心が動いた。私の思うより美咲が私に抱く友情は厚かったのだと感じた。嫌なことが立て続けに起こったことも影響していたのだろう。
 でも、違った。美咲はあのリボンを、ただデート用にすると言っているだけだ。学校に付けて来なければ、涼子の目に触れなければ、それでいいと。清水くんに見てもらえれば、それでいいと。私は美咲の友情に胸打たれ、心にさっと大空が広がったけれど、それは一瞬で消えてしまった。
 美咲に感じるこういう不満が、理不尽だとは分かっていた。けれど、そうと分かるからこそ、余計に腹が立った。理不尽に機嫌を損ねるこの感情を、誰も理解してはくれないだろうと思った。だから私は一人で、心を掻きむしりたくなるような思いを抑えつけるしかなかった。
 私は浪野くんをじっと見つめた。彼の美しい横顔の輪郭を視線でなぞった。そうすることで、心は手のひらで優しくさすられたように、落ち着いた。彼が私の知らないところで部活を辞めていたからって、それが何だというのか。ただ、この綺麗なラインを眺めていられれば、いいじゃないか。
 
 顔を見ていれば自然と彼の言動も目にとまる。私はだんだん、彼が周りの男子たちよりはるかに大人びていることに気がついていった。
  男子たちはテレビでお笑い芸人がやるネタをよく真似していた。そして、ある日、一人のクラスメイトが認知症の老人を大袈裟に演じて笑いを取っていたことがある。何が面白いのか、男子はそろって大はしゃぎで盛り上がっていたのだけど、そのさなか、浪野くんは席に座り、ぼんやり頬杖をついていた。
 浪野、ノリ悪いぞ。一緒に騒ごうよ。そう言ったのは彼の後ろの席の男子で、おそらくクラスメイトたちと積極的にかかわろうとしない浪野くんを気遣って声をかけたのだろう。でも、浪野くんは頬杖をついたまま、空中へ目を向けて返した。
「いい。オレ、ああいうの好きじゃないし」
 私も好きじゃない。心でそう呟いた。ああいう悪ふざけ、私もくだらないと思う。何となく周りを冷めた目で見てしまう、彼のそういうところに、私は自分の心の音叉が共鳴したような気がして、ちょっと胸が踊った。
 
 他にも、こんな嬉しいことがあった。
 夏休みまであと一週間。数学の成績不振者が放課後に集められ、補習を受けることになった。部活のある人たちはそれを口実に休んでいたけれど、バスケ部を辞めたという浪野くんと、吹奏楽部の活動よりも勉強を優先しないと父親に叱り飛ばされる私は、そういうわけにはいかなかった。
 浪野、一年の時は数学得意だったのになー、ドンマイ、なんて冷やかしながら何人かの男子が浪野くんの肩を叩いて教室を出ていった。美咲は、涼子なら大丈夫だよ、頑張ってね、と謎なほど大袈裟に私を励まして、部活へ向かった。結局、残ったのは私と浪野くんだけだった。つまり、浪野くんと二人で補習を受けることができるのだ。
 がらんとした教室に、二人、離れて席に座っていると、空気が湿った夜気みたいに、冷たく甘くなった気がした。先生が背を向けて黒板に暗号みたいな数式を書いている隙に、私は浪野くんの横顔を、じっと眺めていた。
 
 私が再び浪野くんとの繋がりを感じ始めた頃、美咲がこの世の終わりみたいな顔で相談してきた。
「涼子、私、清水くんと喧嘩しちゃった」
 私は驚いて目を見張った。
「なんで? あんなに仲良かったのに」
 美咲は目じりを悲しげに下げて話した。
「部活終わるの待ってたらね、みんなにからかわれるから待たなくていい、先帰っててって言われて。でも、一緒に帰りたいって言ったら急に怒ってさ。『なんでお前、そんなにわがままなんだよ』って。ねぇ、私、わがままかな? 一緒に帰りたいって、怒られるほどわがままなこと?」
 「そんなことないよ」という答えを明らかに期待する美咲の眼差しが目に痛くて、私は視線をそらした。
「そんなこと、ないよ」
 美咲の望み通りに返した時、みぞおち辺りで何かがのたうつような感覚がした。
 わがままだ、と思っていた。だって、私はどんなに浪野くんに惹かれても、彼と一緒に帰るどころか、堂々と見ることもできない。バレないようにこそこそ盗み見るしかない。お小遣いを奮発して買った可愛いヘッドアクセサリーも、みっともないなんて言われて取り上げられてしまう。そんな私と比べて、美咲はとんでもなく恵まれてはいないだろうか。彼女の辛さも悩みも、私にはひどく軽いものに感じられた。
 美咲は私とは違う種類の人間なんだ。いつの間にか、そんな風に考えていた。両親が共に揃っていて、いちいち、ああしろ、こうしろなんて命令されなくて、家の中でいたたまれなくなる時なんかなくて、彼氏と堂々と付き合えて、それでも辛い苦しい悲しいと思うような贅沢な種類の人間だ。私が側にいても、自分がどれだけ幸運か気が付かないくらい、幸運が当たり前になっている人間だ。頭の中でぐるぐる美咲のことを考えていると、血と一緒に濁った気持ちが全身を巡っていった。
 美咲から清水くんとの喧嘩のことを聞いて数日の放課後、私は一人で教室に残っていた。家には帰りたくなくて、でも他に行くあてもなくて、ただそこにいるしかなかったのだ。することもなく、美咲や父や母や父の恋人のことを考えていると、急に心まで濁り切ってしまいそうな恐怖に襲われた。私はスマートフォンを取り出した。パスワードを入れて、画面をタップし、スライドし、またタップすると浪野くんの姿が映し出される。
 綺麗。
 彼の横顔に、硬く絡んだ心が解けていった。
 そうして考えた。清水くんと喧嘩した美咲は、彼の勃起を目にすることなど、もうないかもしれない。いくら美咲が男子と付き合っていると言っても、ただ一緒に帰ったり、二人とも部活のないたまの休日に会ったりするくらいだろう。やっぱり勃起を見るというのは、特別なことなんだ。
 浪野くんの顔を眺め、彼の勃起を思い、とくとくとくと心の杯が満ちてくる。すると、
「平野さん、何してんの?」
 心臓が飛び上がった。とっさに振り向くと、今しがた液晶画面に映っていたその人が立っている。慌ててスマートフォンを隠した。ドキドキドキと、胸の奥も、耳の中も脈打った。
 別に。遠くの方から自分の声が聞こえた。
「オレの写真、見てたよな?」
 急所に手をかけられたように、ゾクリとした。心の表面が粟立ってくる。
「何言ってんの?」
 再び自分の声がする。なんとかごまかさなくちゃ……。でも、頭の中はすごい勢いで歯車が回っているみたいで、全然考えられなかった。
「とぼけんなよ。前もオレの写真、撮ってただろ。なんでそんなことすんの? ストーカーじゃん。気持ち悪いよ」
 気持ち悪い。
 その言葉で、鎮まっていた濁った気持ちが一気に沸騰した。気持ち悪くなんかない。私は、ただ、嫌なものに囲まれて、それでもなんとか堪えようとしているだけだ。なんでそれを「気持ち悪い」なんて言われなきゃならないの?
 プツンプツンと血管を突き破った感情が金切り声となって口から飛び出した。
「違う! 気持ち悪いのは私じゃないよ。私の周りのものだよ! 勝手に家出てったお母さんは、私のこと冷たい娘だなんて責めてくるし、お父さんのカノジョは私の機嫌取りに必死で、そのくせ自分のせいで私がお父さんに怒鳴られてても知らんぷり。お父さんは自分の都合で私に命令して、嫌だって言うとめちゃくちゃ怒って……。美咲だって、私とずっと一緒にいるのに、私が家でいろんな嫌なことがあるって分かってるはずなのに、そういうの全然気遣ってくれない。私が辛くなるようなこと、平気で言ったりやったりする。もう、みんな自分のことばっかり。私のことなんか全然考えてくれな――」
「それ、お前のことじゃん」
 遮られた驚きで、意識を視線に向けていた。浪野くんは石みたいな冷たい顔で私をじっと見ていた。
「家の人のことは知らねぇけど、美咲は悪くない。お前こそ、自分の見たいものしか見てないんじゃねぇの?」
 浪野くんは視線を下げ、深くため息をついた。
「一生、自分だけがかわいそうな世界で生きてろよ」
 そんな捨て台詞を吐いて、彼は行ってしまった。
 
 ひどい、ひどい、ひどい、ひどい、ひどい、ひどい――。
 後ろへ流れていくアスファルトを凝視しながら、私は心で何度も繰り返し、帰路を辿っていた。家に着くと、「おかえりなさい」と小走りに出迎えてきた父の恋人の脇を無理やり通り抜け、一直線に自室へ向かう。そうしてバタンと音を立ててドアを閉め、部屋をひっくり返すくらいの勢いで漁り始めた。
 一体何を探しているのか、自分でもよく分からなかった。でも、違う、違うと叫ぶ心が、しゃにむに何かを求めていた。たぶん、自分を認めてくれるものが、浪野くんの言ったことが間違いだと証明してくれるものが、欲しかったのだ。
 クローゼットにあるものを手当たり次第に取り出していると、見慣れない包みが目にとまった。開けてみると、出てきたのはいくつものヘッドアクセサリーだった。美咲と一緒に買ったような大ぶりのリボンの付いたカチューシャもあれば、ヘアゴムに小さなリボンを飾ったものもあった。普通のリボンも、布やフェルトで作ったリボンもあった。どれもすごくかわいい。それに、どうやら手作りのようだった。一体これはなんだろうと考えている時、包みの底に小さな封筒が入っていることに気がついた。取り出してみれば、中にはメッセージカードが入っていて、父の恋人の名前が記されていた。それを見て、ようやく思い出した。あの女が「プレゼント」と言って手渡してきたことを。
 私はカードへ視線を走らせた。
『涼子ちゃん。いつも嫌な思いさせてごめんね。お父さんは涼子ちゃんにちゃんとした人になってほしくて厳しくしちゃうけど、私があげたって言えば髪飾りくらい付けさせてくれると思うから、良かったら使ってね』
 目が文字を追うごとに、体の底の方から大きな感情の渦がせり上がってきた。
 悔しかった。大嫌いな父の恋人がこんな風に私を気遣ってくれている。結局、悪いのは自分の方なのだという事実が、否定のしようがないくらいはっきり目の前に突きつけられた。自分の抱えている感情が、全部間違いなんだと言われた気がした。
 でも、だけど、一方では心が毛布でくるまれたみたいに、ほっとしてもいた。私に味方してくれる人は、ちゃんといるんだと思えた。私はずっと、たった一人で気を張って、全ての嫌なものに立ち向かわなくてはいけないような気持ちでいて、それが苦しくて苦しくてしかたなかったのだけど、そんなことをしなくてもいいのだと、初めて分かった。悔しくて、でも気持ちが楽になって、相反する二つの感情をどう扱えばいいか分からなくなって、涙が溢れてきた。
 
 髪を結ぶ。前日に見つけたヘッドアクセサリーの一つ、フェルト地のリボンを飾ったヘアゴムを使って。あまり大きな飾りだと、また父に見とがめられるかもしれないから、小さめのものを選んだのだけど、耳の下で二つ結びにするだけでとてもかわいかった。少し嬉しくなり、ひとことくらいお礼を言わなくてはと心に決めてリビングへ下りた。けれど、いざ本人を目の前にすると何も言葉が出ない。それで仕方なく、「行ってきます」と挨拶だけしておいた。
 
 浪野くんと顔を合わせるのが気まずくて、学校へ向かう間中、お腹の底がずんと重かった。でも、登校してみれば、浪野くんは相変わらず寝てばかりいて私の心配は杞憂に終わった。
「涼子! そのゴムすごいかわいい! どうしたの? それ」
 美咲は私の髪飾りに目を留めると、綺麗な花でも見つけたみたいに目を輝かせてやってきた。
「お父さんのカノジョがくれたの」
「いいなあ。これ、手作りでしょ。器用なんだね、その人」
 うん、と口の中で小さく答えつつ、私は全く別のことを言うために、勇気を胸にかき集めていた。深く息をつき、美咲の顔をまっすぐ見ると、彼女は目を丸くして見つめ返してくる。胸に固めた決意が崩れそうになり、その前に言ってしまえと口を開いた。
「ごめんね、美咲」
 きっと、さらにきょとんとされるだろうと思って、私は説明の言葉を舌の上に用意しようとした。けれど、美咲の反応は違った。
「ううん、いいよ」
 彼女は穏やかな表情でそっと首を振ると、浪野くんから聞いた、と言った。
 驚いて、ぽっかり口を開けてしまった。美咲は少しばつが悪そうにうつむいて、下唇を噛むと、ゆっくり語り始めた。
「浪野くんと私、幼なじみなの。家が近くて、幼稚園も一緒だったから。でも、小学校の高学年頃からあんまり話さなくなって、今は私もちょっと恥ずかしくて苗字で呼んじゃうくらいなんだけどね。でも、浪野くん、清水くんと仲良いから、清水くんのこと相談したくて、また連絡取るようになってね。涼子に言おうかと思ったんだけど、涼子、浪野くんのこと気になってそうだったから、話しにくくて。それに――」
 言いかけて、また美咲は顔をうつむける。視線が机の上を右往左往していた。でも、すぐに彼女は目に決意の色を光らせて顔を上げた。
「涼子のことも相談してたの。私、涼子に嫌われてるかもしれない、みたいなこと」
 美咲は肩を縮こまらせ、再び視線を下げて、ごめんね、と言った。私のことを怖がっているみたいに。確かに、前日までの私なら、きっと心の中で嵐みたいに怒っていただろう。でも、この日は、髪を束ねるヘアゴムのリボンがそっと囁きかけてくるように、耳の下がさわさわして、全く腹が立たなかった。どころか、肩を竦める美咲を見て、美咲は美咲で私との関係に心を痛めていたんだな、と思いさえした。それで、自然と言葉が出た。
「元は私が悪いんだよ。気に入らないこといっぱいあって、心の中で美咲に八つ当たりしてた。そういうの全部、態度に出てたんだよね。ごめん」
 ごめん。
 そこまで言い切った途端、心に風が吹き、光が差した。お腹の底で燻っていた気持ちが、さっと消えていった。悔しさは、沸いてこなかった。
 美咲はそっと視線を上げ、私と目が合うとほっとしたように頬を緩めた。
 
 夏休み前に美咲との間にできた綻びを繕えたおかげか、私は穏やかな気持ちで長い休暇を過ごすことができた。父の恋人とは上手く付き合えなかったし、父の横暴は変わらないし、母は悲劇のヒロイン気取りで私を責めてきたけれど、そういうこと全部、前ほど気にならなくなっていた。
 父の恋人は私のことをいろいろ考えてくれているらしいと分かったし、父は文句をつけながらも、なんだかんだ私に構ってくる。それに母。あの人のアパートの部屋をよく見れば、小さな頃からの私の写真がそこら中にあった。それで、やっと思い当たった。母は急に一人になり、寂しくなってしまっただけなのだろうと。
 今まで見えていなかったものが見えてきたのは、浪野くんのおかげだ。私の知らなかったちんちん事情は、そこから抱いた彼への憧れは、他人の事情を慮ることへの扉となった。彼はあのひどい言葉で、私を無理やりそこまで誘(いざな)ってくれた。浪野くんにお礼を言おう。きっと、また嫌な顔をされるに違いないけれど、でも、ちゃんと言おう。私はそう心に決めていた。
 夏休み明け、久しぶりに登校すると、しかし、そこに浪野くんの姿はなかった。浪野は家庭の事情で転校した、と告げた先生の声が、耳の底でリフレインした。
 
 美咲に聞いてみたところ、理由は彼のおばあさんだという。
 父子家庭だった浪野くんの家では、父方のおばあさんが、ずっと浪野くんや、まだ小学校低学年の弟の面倒をみてくれていたらしい。でも少し前から、そのおばあさんに認知症の症状があらわれ始めた。それで中二になってからは、浪野くんが家のことや弟とおばあさんの世話をしなくてはならなくなったという
 それを聞いた途端、全てが繋がった。いつも寝てばかりいたこと、部活の途中で体調を崩したこと、バスケ部を辞めたこと、数学の成績が悪くなったこと、そして認知症の老人を笑いのネタにするのを嫌っていたこと。みんな、中学二年生という年齢で祖母を介護しなくてはならなくなったからなのだ。
「浪野くんね、小さい頃、すごいおばあちゃんっ子だったの。公園に何人も友達がいたって、みんなと遊ばないでおばあちゃんの側にくっついてたくらい。だから今回の転校の件、言い出したのは浪野くんなんだって。浪野くん一人でおばあちゃんのことみるのが難しくなって、施設に入れなくちゃってなったらしいんだけど、浪野くんは、だったらその施設の近くに引っ越そうってお父さんに話したって。そうすれば、いつでもおばあちゃんの面会に行けるからって」
 美咲の話は私の心をえぐった。どれだけ私が浪野くんのことを知らなかったのか、彼の抱えている苦しさを知らなかったのか。その事実が、痛みとともに心へ染み広がってくる。いつも涼しい顔で、ただ眠たげにだけしていた浪野くんは、私の想像なんて及ばないくらいの辛さを、まだ細いその体に背負っていた。そういうことに何一つ気づかないまま、勃起なんて生理現象を見て、自分だけが彼の秘密を知ったような気になっていた。
『お前こそ、自分の見たいものしか見てないんじゃねぇの?』
 浪野くんの言葉が脳裏を過ぎった。その通りだ。本当に私は自分の見たいものだけ見て、それが全てだと思い込んでいた。
 そうと分かった瞬間、私は恋に落ちた。
 浪野くんのことを思うと、彼の痛みを思うと、彼の言葉に込められた気持ちを思うと、切なさに胸が締め上げられて、苦しくなって、でも、とても彼をいとおしく感じた。「気持ち悪い」と突き放された相手に、今さら、本当の意味で恋をした。
 
 あれから六年がたった。
 美咲とは高校までは一緒だったけど、大学は別々になり、それからはあまり連絡も取っていない。でも、SNSでお互いの近況はチェックし合っていて、私が写真をアップするとちょこちょこリアクションを残してくれる。清水くんとはくっついたり離れたりを繰り返していたけれど、中学卒業と共にきっぱり別れたらしい。
 母はだんだんに私への態度を改めた。自分でも間違っているとは分かっていたようだ。分かってはいても、きっと辛くて、誰かのせいにしないとやっていられなかったのだろう。それはよく分かる。
 父と父の恋人は結婚し、法律的には、私は彼女の娘になった。でも彼女が母親だなんて、すぐには受け入れられない。「お母さん」なんて、絶対に呼べない。だから私は「恵子さん」と名前で呼ぶようにしている。
 父はやっぱり自分の考えを強引に押し付けてくるけれど、でも以前に比べるとだいぶ丸くなってきた。雰囲気もどこか柔らかい。たぶん、透也のおかげだ。
 私が中学三年生の年に、父と恵子さんとの間に生まれた弟。それが透也だ。とてもかわいい。この子だけは、本当に本当に大好きだと言える。もし私が父と恵子さんを恨んだままだったら、こんな風に透也をかわいく思い、大事にすることはできなかっただろう。
 
 頬を両手で覆ったまま階段を上ったり下りたりして逃げ回る透也。それを追いかけているだけで、息が上がってきてしまう。でも、私が立ち止まると、透也はニヤニヤしながら近づいてきて、視線が重なった途端に、また飛び上がるようにして逃げていく。本当に、かわいいけれど、しょうがない子だ。
 深く息をつき、呼吸を整えてから、私は再び透也を追いかける。そうしながら考えていた。もしいつか、また浪野くんに出会えたら、私は彼と恋人同士になることができるだろうか。彼は私を好きになってくれるだろうか。きっと、また「気持ち悪い」と言われて終わってしまうな。だって、私は自分の弟に彼と同じ「透也」という名前を付けたんだから。でも、中学二年生の、あの時とは違う。私はちゃんと、彼の抱えたいろんなことを知って、そういうもの全部ひっくるめて、好きになったんだから。

私と他人とちんちんの事情

執筆の狙い

作者 香川
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久しぶりの投稿です。
よろしくお願いします。

コメント

そうげん
58-190-240-140f1.shg1.eonet.ne.jp

浪野くんの言葉がずしんと来ました。面白かったです。

人は自分のことばかり考えていると、人も自分自身のことしか考えてないっていう風に考えてしまう。視野が狭まっていると、小さなことにも気づけなくなるし、行動範囲も狭くなってしまう。勘違いが疑心暗鬼にかわって、マイナスの方向に視野が向いてしまうことも多い。そうだなあ、たしかになあと思いながら、作品を読みました。

浪野くんとは、最終的にうまくいくのかなと思ったりもしたのですが、思いがけない展開に、しかもそれは甘酸っぱさ、ほろ苦さ、人生の苦みみたいなのをほんのすこし絡めていて、うまくいかなかったけれど、そういうのも人生だよねと、この作品の世界観みたいなものにこそ、共感をおぼえました。人物にではなく、世界観に、共感をおぼえたという感覚です。

美咲ちゃんとはちゃんと仲直りができたし、お父さん、義理のお母さんともちゃんとした家庭生活を送ることができるようになったみたいだし、ハッピーエンドといってもいいのかなと思いました。

舞台や心理がていねいに描かれてありました。落ち着いて読むことができました。
よかったです。

ラピス
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タイトルに引いて、躊躇しましたが、読んでみると良かったです。
思春期の少女の思いが丁寧な筆致で書かれてあり、私の模範となりました。
読みやすく、テーマもあり、心に来るので、いい。ほぼプロレベルではないでしょうか。褒めすぎ?
気になったのは回想で綴られていること。現在進行形のほうが臨場感あるんですよねー。
主人公と浪野くんのこれからが面白そうで、長編にもなりそうだなと感じました。

香川
KHP222000136051.ppp-bb.dion.ne.jp

そうげんさん

ご感想ありがとうございます。

浪野くんの言葉は印象づけたいものだったので、ずしんと来た、というご感想はとても嬉しかったです。

このお話は(というか、私の書く多くの作品は)、語り手(や主人公)に私自身が信じていないことを信じさせている、つまり私はこの語り手に対して批判的な気持ちを抱いて書いていました。
キャラクターが嫌いと言うよりは、人が陥ってしまいやすい誤りを彼女にさせている、という感じです。
ご感想をお読みして、そういった部分を汲み取ってくださったのだなと思い、励まされました。

ラストの方の展開も、ほろ苦い現実感というか、そういうものは今から思うと意識していたように思います。
自分の中で言語化はされていませんでしたが。

ありがとうございました。

香川
KHP222000136051.ppp-bb.dion.ne.jp

ラピスさん

ご感想ありがとうございます。
明らかに褒めすぎだと思いますが、褒められることは大好きなので、お言葉はありがたく頂いておきます。
照れてしまってひねくれた感じの書き方になっていますが、すごく嬉しいです。ありがとうございます。

回想形式について。
これは、仕掛けのあるお話だと回想形式が書きやすいのと、過去のことを語る形の方が一人称小説の抱える問題を多少なりとも解決しやすいから、ということで、使いました。

一人称の抱える問題、というのは「いったい語り手はいつ誰に向かってこんなことを語っているのか?」という問題です。
回想形式にすれば、この問題の「いつ」の部分がある程度解消されるんですよね。
なので、一人称の扱いが上手くない書き手には、易しくてとっつきやすい書き方でして…。
あとは、他の方へのお返事にも書いた通り、私は語り手に対してある意味批判的な視線から描いていて、回想の方がそのことを示しやすかった、というのがあります。
現在進行形だと自分の行いについて批判的に見つめることは出来ませんが、回想形式であれば、当時を自省的に振り返ることが可能なんですよね。

ただ、回想形式も諸刃の剣というか、書きやすくなる点もあれば、難しくなる点もあるのだなと、ご意見を拝見して感じました。
臨場感、というのは、私にとっても大事にしたい点です。
一人称で描く時、回想形式しか取れなくなってしまうのも書き手としては問題ですし、今後は現在進行形で上手く進める練習もしていかないとなと思いました。

実は連作にする予定があります。
浪野くんが語り手にはならないけど、彼の周囲の人たちが語り手となり、全体としては浪野くんの物語、みたいな感じにできたらいいなと。

ありがとうございました。

愛&背文
nthkid021022.hkid.nt.adsl.ppp.infoweb.ne.jp

うん。回想にしたくなる気持ちはわかるけど、回想である必要性はないし、回想にしないならこの書き方ではちょっと
荒い感じがあります。

回想にする場合、もっと過去の「出来事」と現在の「何か」をくっつけないとならないでしょう。この作品の場合
現在の、の部分がほぼ無いですね。
入りの「チンチンが!」は面白いのだけれど、三回は使いすぎでマイナスにふれてしまう気がする。
回想であるのだよ、という体裁をとり続けなければならないのだけど、回想の一行目から「新鮮だ。」と無視されて
しまっている。
回想にしても、キャラの個々の紹介やそれを織り込んだエピソードが、忘れ去られているか意図的にか、わからないけ
ど無さすぎて、その世界に入り込んでいけない。無言で何かを思い出している誰かをじっと見ているような感覚。
たぶん無意識に暴走してのめり込み、回想が長大になりすぎている。
長大な回想が、本人走り回りっぱなしの中行われているという酷な設定。多分落ち付かない読み手が出るでしょう。

リアルタイムのする場合、やはりもっと朗読よりもお芝居的な方向でのドラマがあったほうがいいでしょう。
結局は、主人公の中の問題を語っていきたいのだとしても、お話の舞台全体の情報を意識して取り込まないと日記的
になってしまう。
最初の教室以来、ディテールがちょっと足りない気がします。
山場とサイドストーリーを意識するべきでしょう。テント立ったところと、ストーカー見つかったところどちらが山
なのか、カッコイイ波平さんの横顔を舐め回すようになった経緯と、テント立ったところを目撃したエピのどちらが
メインなのか。
テント目撃事件がちょっと使い捨て感ある。
締めくくりがあまりにご都合主義。友達の友達ならそんな話がでていてもおかしくない、っていうか出てないとおかし
い距離感だし、知ってれば全然成り立たない話になるかと思います。

香川
KD182250050202.au-net.ne.jp

愛&背文さん

ご感想ありがとうございます。
仰る通り回想である必要性は低かったかもしれません。
回想ならば、振り返る過去と現在とをもっと絡めなくてはならない、というのもその通りだと思います。
私の狙いとしては、家族とそれなりに上手く関わることが出来ている現在があるのは回想中に語られた浪野くんとの間の出来事のおかげ、という関連性を持たせたつもりではあるのですが、それが十分だったかと言われると、自信を持ってそうだとは答えられません。
むしろ、すごくその辺りは大味というか、もう少し細やかな配慮を持って過去と現在を絡めていかなくてはならなかったのだろうなと思います。
大雑把なあらすじ的繋がりで満足してしまっていたのだなと感じました。

また、ご指摘内容とは少し違うかもしれませんが、回想で語られた出来事と現在との関わりの他にも、回想することそのものが現在に与える影響というのも考えた方が良かったのかな、と感じました。
回想をすることによって、現在の語り手が何かしらの気づきを得たり、成長したり、失っていたものを取り戻したり、といった要素も、あってしかるべきだったかもしれません。
回想は易しい、という安易な考えから使うべきではないですね。
ここは大きな反省点です。やるなら、もっとしっかり回想形式で描くことの意義を考えて構成すべきでした。

「ちんちん」の件はインパクトに頼ってしまった結果かもしれません。
確かに、繰り返すほどくどくなり印象も薄まりますね。

回想部分一行目の「新鮮だ」の部分。
これは過去の時点から見て「新鮮」と言っているというよりは、「進級したばかりの時は何もかもが新鮮に見えるものだ」という一般論を語ってから、具体的な過去の場面に持っていくことで、現在と過去の間のクッション的役割をさせたかったのですが、ご指摘を受けて読み返してみると、機能していなさそうですね…。
自分ではそれなりに上手くやっているつもりだったのですが、言われてみれば、急に過去の場面に入り込んでしまったような唐突感があります。
これは書き方を変えた方が良いですね。
私が上に書いたような「進級したばかりの時は何もかもが新鮮に見えるものだ」を使ってもいいかもしれません。
指摘を受ければ何となく言葉も見つかりますが、それを自分一人でできないことが実力の足りなさなのだなと思います。

キャラの個々の紹介やそれを織り込んだエピソードについて。
これは実は意図的でした。
私は短編よりもどちらかと言うと中編〜長編を好んで書くのですが、その場合、キャラクターのことを書きすぎて話が停滞してしまうことが多いです。
ここでも、数ヶ月前に長編を4回に分けて掲載したことがあるのですが、キャラクター個々の話に分量を割きすぎていてお話が進んでいかない、というご指摘を受けました。
短編は長編よりもさらに文章の効率の良さが求められると思ったので、極力関係のないことは書かないようにし、描きたい他の人物のことは、他の方へのお返事にお書きした連作の別のストーリーでやっていこうと考えていました。
ただ、もちろんこのお話はこのお話だけで満足のいくものにしなくてはなりません。
そもそも、語れないことは別エピソードで、とかスピンオフで、という考え方が、甘いのかもしれないなと思いました。
それを考えると、もう少し他の人物にも目配せをして、視野広く描いていくべきだったように思います。
短編的な効率のいい文章と、キャラクター一人ひとりの描き込み、良い塩梅を探しながら練習していこうと思います。

ディテールの描き込み不足、朗読的な文章も、上にお書きした「効率の良い文章をめざした」という意図が失敗した結果だと思います。
一人称回想形式は、一人語りっぽくなりやすく、それを上手く利用しようと思いましたが、たぶんやりすぎた、適切な範囲を超えてしまった、ということなのだろうなと。

また、淡々としているという自覚はあり、それが退屈に繋がらないかは懸念していましたので、ああやっぱり、と感じました。
山場を意識するべき、というのは仰る通りです。
出来事の羅列になってはいけませんよね。
私としては浪野くんに写真を眺めているのを発見されたところから、語り手が父親の恋人からのプレゼントを発見し涙するまでが一応山場のつもりではいたのですが、もっと山場なら盛り上げなくては行けなかったのかもしれません。
その他の場面に関しては、前述のように出来事の羅列になってしまっているというのは自分でもご指摘を受けて感じましたので、この辺りのメリハリの付け方は課題になっていきそうです。

テントの目撃事件はきっかけの出来事というつもりで、私としてはあまり重要視していなかったので、それが使い捨てという印象の原因だと思います。
また、「友達の友達ならそんな話が出てもおかしくない」というのは浪野くんの背景についてですよね?
これは大いに納得です。
ここはお話をこういう形でまとめるために、語り手は浪野くんの背景について知らず、ラストでそれを知るという形にしましたが、かなり距離の近い友人である美咲にそれを語らせるというのは安易でした。
これも大きな反省点です。もっとしっかり練るべきでした。

たくさんアドバイスを頂きました。
ありがとうございました。

群青ニブンノイチ
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書き手の思い描いたつもりの世界と、読者が率直に受け止めるだけのただの印象や感想という関係において、まったく無理解と言っても過言ではないレベルでその表現や景色がすれ違っていることに気付くべきだと思います。


物語の展開は関係ありません。
終始一貫して主人公に好感も共感も理解も思い付ける読者はいないはずですし、語り手の心象はナイーブでも思春期でもアンニュイでもなく、ただのサイコパスであって見苦しくこじれただけの腐性であって、そのどちらでもないつもりならそもそも人間ではありません。

それは書き手自身の感性に対する批判でも物語としての不出来でもなく、単純に観察と思考と客観の鈍さ、ということを言っています。


作品全体を通じて言えることだと思いますが、これは一人称として語り手の思考を表現したものとは個人手的には爪の先ほども受け止めていませんし、同じことを書くならこの三分の一、四分の一の文量で足ることと感じさせられますし、同じ分量を満たすなら観察や触れる景色、心象、理由は全く別の表現のものになるはずと個人的には思います。


とにかく、人間の気持ちを眺めるものとしてまったく読み応えがありません。
思春期の女の子はこんなものだろう、という話をしているのではありません。
そうだとしても、不十分且つリアリティーとして表現する上で余りにも未熟過ぎる作為のように感じさせられます。



>私はてっきり、美咲が「涼子の付けられないものを付けるわけにはいかない」とそのリボンをお蔵入りさせるつもりなのだと勘違いしていたのだ。別にそんな風にして欲しいと思っていたわけではないけれど、私のためにそこまでしてくれるのだと思うと信じられないくらい心が動いた。私の思うより美咲が私に抱く友情は厚かったのだと感じた。嫌なことが立て続けに起こったことも影響していたのだろう。
 でも、違った。美咲はあのリボンを、ただデート用にすると言っているだけだ。学校に付けて来なければ、涼子の目に触れなければ、それでいいと。清水くんに見てもらえれば、それでいいと。私は美咲の友情に胸打たれ、心にさっと大空が広がったけれど、それは一瞬で消えてしまった。
 美咲に感じるこういう不満が、理不尽だとは分かっていた。けれど、そうと分かるからこそ、余計に腹が立った。理不尽に機嫌を損ねるこの感情を、誰も理解してはくれないだろうと思った。だから私は一人で、心を掻きむしりたくなるような思いを抑えつけるしかなかった。



適当に抜粋しました。すみません。
とりわけどこでもいいつもりで抜粋していることも理解してください。
気に障ったならすみません。


一人称として、これを心理描写として適切と感じるなら、一人称は諦めた方がいいです。
はっきりと言いますが、一人称という機能は断じてこういったものではありません。
それは個人的なだけの一意見ではなく、“読書”というシンプルな価値や目的の話です。
先の方に対する返信で一人称についての作者なりの理解や目的や課題について話されていますが、そのほとんどが誤解されていることも作者自身で触れて気付くことが絶対に必要です。

個人的には、そんなことこそを創作に不可欠とも言える“感性”と呼ぶものと心得ています。


作者が意図されているらしい“一人称”は、“小説”として存在価値を獲得し得るものではないことを、自らの経験のみで嗅ぎ分ける必要があります。
回想形式についての不格好さはもはや問題ではありません。
根本が不理解であるなら、時制や体裁や構造など、触れるだけ野暮というものです。

あまりな言い方かもしれませんが、まったくその程度のレベルとしか見受けられなかったことを憚るつもりはありません。
香川さんは、三人称に、物語に集中するべきです。
不愉快、お節介と感じられるなら、読み捨てて下さい。


単純な話をします。
あたしがこの世界をお借りするなら、あるいは最低限の人間として涼子がこの世界に生きるなら、父親の恋人の料理をきちんと食べます。
だからこそ、クローゼットから掘り出すメッセージカードに憎しみばかりではない複雑を思いつきます。
自分を愛しく呪います。
そういう最低限の思春期を、涼子は繊細に生きさせてもらえていないです。
それは書き手の薄情で、ただの手仕事で、理屈と仕組みに嵌め込みたがっただけの愛情の欠落に見えます。


恐らく相応しい読み手は人間の感情を、仕組みを知っていて求めますから、この世界は確実に未熟で不十分と受け止めるはずです。
少なくとも個人的には、“小説”という意義をこの程度の感情や理解に汚されたくない気がします。
及んだらしく受け止められたくないと感じます。



この場所で励む貴重な矜持の持ち主として、あたしはあなたのことをとても認めているのですが、この作品は驚くほど残念な出来のように思いますし、あなたには不適当な手段と受け止めざるを得ません。

あなたはこういった欲求に騙されるべきではないような気がします。
あなたにちゃんと合った世界と方法を見つけられるでしょう。

一万字以内で、あなたがあなたらしく正確に表現出来る方法と世界を、筆休めのつもりで冷静に向き合ってみて欲しいです。
長編が得意とのことですが、むしろその為にこそ、ということを言っています。

香川
KD182250058188.au-net.ne.jp

群青ニブンノイチさん

ご感想ありがとうございます。

作者と読み手とがこの作品に見る世界が全く一致していない、というご意見は、否み切れません。
私はこの語り手に明らかな過ちをさせていますし、冷ややかな目で見つめてもいます。
一方では彼女にさせている過ちは、人が陥ってしまいやすいものと思って私は書いてもいますから、共感ゼロというつもりもありません。
ですから、あまりにも語り手を同情的に捉えられてしまったりだとか、 逆に群青ニブンノイチさんのように全く共感できないサイコパスと取られてしまったりだとか、その他のいろんな読み方があると思いますが、仮にそういう風にお読みになる方がいらっしゃったら、それは私の視線とは一致していません。
もちろん、読み手それぞれにそれぞれの解釈があっていいと思いますが、書き手としては、その不一致を「それぞれの解釈があっていいから、気にしない」となってはいけないとも思います。
不一致は、書き手が自分の物語やキャラクターから読み手にどういう印象を抱かせるか、どういう感情に読み手を誘導していくか、という点をコントロールできていない結果に他なりませんから、真摯に受け止めて、きちんと改善に努めるべきだと思います。

一人称に関して。
これはあくまで私の解釈ということですから、誰かに押し付けるつもりはありません。
ただ、私はこういう意図で書いているということで、少し以下に書かせていただきます。

同じ一人称をとっていても、現在進行形と回想とでは全く別物だと、私は考えています。
現在進行形のものは、語り手は主人公として人物の内側から世界を見て語っています。
けれど、回想では、語り手は昔の自分を振り返って、つまり昔の自分を外側から見て語っていると思うのです。
だから、回想形式の一人称は、現在進行形の一人称よりは三人称に近い性質を持っているのではないかなと、私は思っています。
そういう観点から見ると、同じ一人称と言えど、それは表記の問題、つまり同じ「私」という記号を使っているだけであって、根っこの部分は違っているのではないかなと。
少なくとも、私はそういうつもりで書いています。
ですから、私の書いたこの話が「一人称らしくない」というのは、ある意味ではご明察と言えると思います。

けれど、仮に私が上手く回想一人称を使いこなしていたら、同じご感想にはなっていないと思います。
ご指摘をいただくまでは、あまり意識できていなかった点ですが、過去の自分を外側から見ているとは言っても、見つめる人物は過去にそういう経験をした本人なのですから、やはり第三者よりはずっと近い距離から語ることになるんですよね。
その距離の塩梅を、たぶん私は誤ったのだろうな、と思いました。
ここは、改善の仕方が全く思いついていない状況ではありますが、他の方の作品や書籍を読む際に、どんな風に書かれているかをよく見る必要があるのだろうなと思います。

また、時制について、ブレてしまっている箇所が多いかもしれません。
それは先に頂いたご意見の回想部分冒頭についてもそうだし、後の方で回想の割には内面に入りすぎているというか、その場の感情のような文章を書いてしまっている箇所は思い返せばありました。
その辺りの書き方は、初歩的な部分ではありますが、見直していかないといけないなと思います。

頂いた言葉を充分噛み砕くことが、まだできていないので、お返事として十分ではないかもしれませんが、今の段階でご感想から考えたことを書かせていただきました。

ありがとうございました。

香川
KD182250058188.au-net.ne.jp

連投すみません。

先のお返事で、大事なことを書きそびれました。
クローゼットからプレゼントと手紙を発見するくだりの件。
これはおそらくは一人称云々と言うよりも、書き手自信が主人公に寄り添えていない、彼女の気持ちを大事に扱えていないというご指摘なのかなと思います。
この点に関しては、全く言い訳の余地がないです。
私にはこのお話を通して強く言いたいことがあったのですが、多分それを語るための犠牲がこの部分だと思います。
これは、おそらくご指摘が的中しています。
キャラクターよりも、自分の主張が前に出てしまった部分であると私自身感じます。

ただ、かなりはっきりした主張があったこともあり、どう改善していくか、そもそも改善の余地があるのかも分からないのですが、とにかく仰っていることは確かだと感じました。

何度もすみません。
ありがとうございました。

群青ニブンノイチ
softbank221022130005.bbtec.net

ご返信いただいてありがとうございました。
ほとんど共感されないか、嫌味かモラハラとしか受け止められない質なものですから、ますます遠慮のないことばかりですみません。


一人称のことで誤解のないようにお伝えしたくて再訪させていただきますが、ご返信のお手間には及びません。

一人称において、主には回想の場面で書き手の意識として時制が離れてしまうのは問題外のように思いますが、実際にプロの方の作品などでも実はかなり曖昧なものがまるきり珍しくないことも事実ですから、個人的にはその嗅ぎ分けについて近頃は線引きを改めつつあるようなつもりでいます。
つまり、下手糞以外についてはそれほどの問題ではない、ということです。


先に言われている一人称の三人称的視点であったり立ち位置のようなことは、よくわかります。
個人的にも、そういったことを意図的に使いこなすこともむしろ積極的に意識したいと思っています。
程度によっては誤解を招きやすいところでもありますから、匙加減は必要なところではありますが、もっと自由度を獲得していくべきだとあたしも思っています。


むしろ感想で言ったことはそういった構造や杓子定規のようなことではなく、シンプルには“表現”ということに尽きる意味でのことでした。
以前から口癖のように言っているのですが、“書きたいことを書かない”と言うことです。
”書くべきことを書かずに書く”でもいいです。

馬鹿な人、誤解の多い人はそういった観点を、“読みやすさ”あるいは“わかりやすさ”といった欺瞞に化かして捻じ曲げて批判したがりますが、そういった貧弱な話ではまったくありません。


誤解を恐れずに言うなら、日常の会話がわかりやすさで正しさで読みやすさで伝わりやすさということなら、わざわざ文章に化かして読みたがる必要なんてないということです。
朗読アプリに任せて気が済む馬鹿は書くことなんてやめればいいと個人的には思ってます。


あたしたちは、日常で交わす言葉では飽き足らない人種なんです。
少なくとも、あたしは自分のことをそう思っています。
わざわざ練り上げたがる言葉とは、コミュニケーションという速度に追随できるようなレスポンスでは存在出来ません。
まったく能率の悪いものです。
小説はビジネス書とは違うと、個人的には思っています。


あたしは下にいる瀬尾さんの文章を、誰にでも書ける雰囲気文章程度に化かすだけの甘ったれ、と唾棄しました。
この度の香川さんの一人称は、ただの解説だと思っています。
心情でも心境でも心理でもいいです、あたしはこれを一人称として満足な読書のために向けられた視線とは、観察とは受け止めないということを言っているつもりでした。
語り手が自らの心境を懇切丁寧に平に解説することに、一体誰が興味を思いつくのかということです。
あたしは今、たったの三つか四つの場面を書き進めるだけですでに六万字費やしていて、アタマがおかしいんじゃないかと完全にふさぎ込んでいます。嫌になる。
でも読者は、ましてやお金を払って読みたい人たちは少なくともその先の一歩を踏み込んだ観察や発見、その表現方法という言葉や文章をまったくの期待をもって望むもの、要求するものだと思うんです。
少なくとも個人的にはそう思っています。
だからやるしかない。


ただ説明するだけなら、みんな日常生活でそんなことくらい知ってる。
あたしたちはそれにしてももやもやとした、言葉では上手く言い表せられないけれどありがちなほどの感情に敏感であるべきだし、それについて最適な言葉や文章や行動や景色や関りを想像したり見つけ出したりしたがるはずで、少なくともわかりやすく、普通の人が普通に心当たりがあることを普通の言葉で伝わりやすく表現することばかりに拘泥して許されるような甘さでなど、そうは生きながらえる価値のものではあり得ない気がするんです。


わかりやすいもの、見たことがあるもの、心当たりがあるもの、親しみを感じるもの、反発を覚えないもの。

つまり、差し出されたその場で理解に足る気がする程度のものなどSNSでも何でも勝手に好きなだけ腐らせていろと、いよいよそんなものにはまったく価値などなくなると個人的には普通に考えるものです。




ここには、そういうまぬけな欺瞞があまりにも多すぎます。
逆に言えば、“小説”などというものを自らひけらかしたがるような人間のほとんどが、ほぼろくなものではないのだと個人的には完全に思っています。
上位1パーセントの感性で十分に席が埋まる世界だということです。
しかも、1パーセントと99パーセントの質の差は思いのほか露骨なほどに歴然としたものですから、あるいは希望のある話でもあるということです。


すべてはノウハウや形式のような話ではなく、あなたのことでしかない、ということを言っています。
あたしはそれを確信している、ということを伝えたいと思いました。


体裁に正確であろうとすることには、案外大した意味はありません。
それは自ずとただの違和感として許せなくなるだけのことで、よほど定めるべきはあなた自身が思い描く世界について、これしかないというあなた自身でしかない言葉や表現と突き合わせることのように思います。


あたしはここにいるほとんどの人が信じているらしい怖気づいたような求め方、憧れ方をまったく馬鹿げた鈍さだと見下げています。
それは、それを思いつく人がやらかす程度のことだからです。
その程度のものになど、遠慮する気はありません。
こっちの方がよほど大切にしていることを知っているからです。



>私にはこのお話を通して強く言いたいことがあったのですが、多分それを語るための犠牲がこの部分だと思います。


あたしはこういう矜持を信頼します。
あたしたちに出来ることは、それに正確さをもたらす根拠はたぶん、こんなことにしかあり得ません。
真面目なご返信を頂けてありがたかったです。


返信はいりません。
ありがとうございました。

ドリーマー
pdcd36aee.tubecm00.ap.so-net.ne.jp

拝読しました。

冒頭に惹かれて読みました。そして読み終わってから疑問が残りました。

すべて主人公の主観なので、実際は違う点もあるかもしれませんが。
中一で両親が離婚、母親が家を出て行く。中二で父親が新しい彼女を家に連れてくる。どうやら再婚する気らしい。そして母親には「なぜもっと会いに来ない」と詰られ続ける。
思春期の主人公には、けっこうウンザリな日常だと思います。
特に父親の態度は腹立たしいです。なにしろ離婚して一年しか経っていないのに、もう新しい女を連れてくるんですから。もしかしたら離婚前から付き合っていたんじゃないかと邪推してしまいます。

そんな男と、彼女さんはなぜ結婚しようと思ったんでしょう。バツイチで中学生の娘もいるのに。ぶっちゃけ条件悪いです。それでも結婚したいと思えるほど魅力的な男性なら、そもそも妻が離婚するはずはありません。
父親の良さが欠片も書かれていないので、彼女がいい人であればあるほど不思議でした。

主人公が母親について行かなかったのはなぜでしょう。経済的な理由もあるかもしれませんが、母親と暮らしたいと思えるほど良好な関係ではなくて、仕方なく父親のもとに残ったのでしょうか。だとしたら、かなりきつい状況だと思います。

主人公は浪野くんが抱えていた苦しみと、それを表に出さなかった彼の姿に、恋心を抱くと同時に反省するわけで、それはそれでいいと思うのです。
ただ二人はたまたま同じ父子家庭だというだけで、立ち位置がだいぶ違います。
浪野くんの家の家族仲はかなり良さそうです。認知症になった祖母の代わりに家事を担っていたのも、自ら買って出たように思えます。別に浪野くんがやらなくても、家事の代行サービスや介護サービスを利用すれば、ある程度のことは事足りますし、彼の負担も少なくて済むのですから。

浪野くんが家事を担ったことで思ったのですが、母親が出て行ってから、主人公の家の家事は誰が担っていたのでしょう。家事代行サービスを利用しないなら、主人公か父親のどちらかがやっていたはずです。父親の彼女が来たのは中二以降ですし、それだって毎日来るわけではないでしょうから、主人公もできる範囲の家事はしていたんでしょうか。もしやるべきことはやっているのに、父親が威圧的で、かつ女を連れ込み(主人公視点)、母親には詰られていたんだとしたら、主人公が素直になれない気持ちもわかります。

ただ気持ちは分かりますが、共感できるか、というとまた別です。
それは主人公の心情説明はありますが、描写がないからです。
何かの出来事がある度に、主人公は自分の気持ちを語っています。その多くは相手に対する不満ですが、これは心情描写ではなく心情説明ですよね。
上で群青さんが似たことをおっしゃっていますが(同じことを、と言えないのは、私が群青さんの意図を読めているか自信がないからです)、例えば「悲しい」と書かずに悲しさを、「悔しい」と書かずに悔しさを、読者に感じさせるように書くのが心情描写だと思うのです。
でも主人公は自分の気持ちを解説しているだけなので、これでは彼女の心の痛みが伝わってきません。

でも伝えるように書くことが、香川さんならできると思うのです。
冒頭では「大好き」という言葉はどこにも出てきませんが、主人公の弟ラブな気持ちは充分に伝わってきました。追いかけっこをする主人公と透也くんの姿が目に浮かぶようですし、口では文句を言いながら、透也くんもこのじゃれ合いを楽しんでいるようです。まさにつかみはOK、描写もバッチリだと思いました。

もちろん主人公の心情をすべて描写する必要はありませんが、香川さんが「ここがこの話の山場だ」と思う場面があると思うのです。そこをガッツリ描写することで、話にメリハリも付きますし、主人公の気持ちも共感を伴って伝わってくると思います。

ところで冒頭を読んで、主人公を透也くんの母親だと思った私は、結末で姉だと知って拍子抜けしました。母親だと思った理由は、平日の昼間家にいて、子供の幼稚園バッグをチェックしていたからです。これって普通は母親の仕事ですよね。通常、幼稚園は保護者が送り迎えをするので『幼稚園から帰って来た透也』も主人公が迎えに行ったのだと思っていました(恵子さんは何をしているんでしょう。息子を主人公に預けて出掛けたとか?)。
だから大学生がなぜ平日の昼間家にいるのか、そこも疑問でした。
また透也が浪野くんの名前なら、弟の名前を呼ぶたびに彼のことを思い出すんじゃないでしょうか。勃起事件はインパクトのあるエピソードなので、これを活かすなら弟の名前は再考した方がいいと思いました。

自分のことは棚に上げて勝手なことを書きましたが、少しでも参考になれば幸いです。
失礼しました。

香川
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ドリーマーさん

ご感想ありがとうございます。

読み切った後にお感じになったという疑問点、確かに…と納得できるものがとても多く、たいへん勉強になりました。

まず、父親の魅力が全く伝わらない件。
これは本当に大きな問題でした。
この作品自体、「今まで気が付かなかった他人の長所が見えてくる」という変化が重要なファクターとなっているので、ご指摘の中でも特に重大な欠点だと思います。

順番が前後してしまいますが、主人公の家の家事の件。
これも全く描かれておらず、大きな失敗でした…。
こういう生活に関わる細部というのは、リアリティや心情表現の上でとても重要なことですよね。
ここで、父親が主人公の見えないところでいろいろ努力をしていたら、また彼に対する印象は全く違ったと思います。
最初は威圧的、支配的にしか見えていなかったけれど、見えないところで娘に不自由がないよう家事をこなしているなど、家族のことをちゃんと考えて努力していることが見えてくる、という展開にすれば、この物語のテーマを表現する上でも、間違いなく効果的でした。
ここがしっかり描かていれば、父親の恋人が父に惹かれたことも、そこまで疑問に思われなかったかもしれません(描き方にもよると思いますが)。

主人公が母親について行かなかった理由。
これは、私としては母が飛び出してしまったという状況なので、主人公には選択ができなかった、というつもりだったのですが、もっと状況きちんと描くべきでした。
中学生なら、場合によっては自分の意思を伝えることで自分の望む親の元へ行けるかもしれませんし、それができなかった理由についても(仰る経済的な理由も含め)、しっかり考え、もっと設定を詰めていくべきでした。

浪野くんと主人公の境遇について。
仰る通り、浪野くんの家族関係は良好です。
ただ、この点に関しては、主人公が境遇が似ていることから彼を見習って反省した、というつもりではなかったので、あえて境遇を近いものにする必要はないのかな、と思っています。
もちろん、そう見えてしまったことは改善点としてしっかり見直す必要はあると思っています。

心情説明はあるけれど描写はないというご指摘。
私も、これは群青ニブンノイチさんの仰っていることと同じご指摘かな、と解釈しました。
さらに言えば、たぶんその前に別の方からご指摘のあった「朗読的」というご指摘も同じようなことだと思います。
三人の方から似たようなご指摘をいただいているわけですから、これはやはり大きな問題点なのだろうなと思います。

そもそも、私の認識自体が間違っていたのかもしれないのですが、この部分に関しては、ある程度、意図的ではありました。
「朗読的な文章」というご指摘に対して、私は
『「効率の良い文章をめざした」という意図が失敗した』
『一人称回想形式は、一人語りっぽくなりやすく、それを上手く利用しようと思いましたが、たぶんやりすぎた』
というお返事を書いています。
ここでの、『一人語り』というのが、おっしゃるような「説明」「解説」に当たるのかなと思います。
なので、もう少しここについて詳しく書かせていただきます。
回想する、というのは過去の自身をふりかえって語り直す、ということだと私は思います。
そういう際、ある程度思考を整理すると思うんです。
そのため、語り手が改めて既存の事実を振り返り、整理して伝える、みたいな書き方が相応しいかなと考えていました。
だから、ご指摘通り、回想シーンではない冒頭は説明的ではない文章にしています。
リアルタイムの出来事は、整理して説明的に語れる類のものではないからです。

ただ、繰り返しですがお三方から同じようなご指摘があったということは、やはり改善点、しかもかなり大きな改善点になるのかなと思います。
上に書いたような私の解釈は、今回のように回想シーンが9割を占めるような小説には、相応しい方法ではなかったのかもしれません。
おっしゃるように説明的な文章では、小説の醍醐味である語り手への感情移入や共感、追体験するような感覚を引き起こすことは難しいですよね。よく考えれば当然のことです…。
一部分ならば問題ないのかもしれませんが、作品の大部分を回想が占めているのにこういう書き方をするのは、小説の醍醐味を放棄しているのと同じなのかなと、ご指摘について考えて感じました。

私としては、リアルタイムの出来事と回想とでは文章が変わってくるとは思うのですが、その変え方、塩梅を再考しなくてはならないなと思います。
私の中で、リアルタイムの出来事は描写し、回想シーンはナレーション的な語りで進めていく、という書き方が少しずつ定着してきてしまっていたので、ここは軌道修正していきたいと思います。
書き方がかたまり切る前にこちらに投稿し、ご指摘いただいて良かったです。

あと、主人公が冒頭母親っぽく描かれている件。
これは(失敗だった気が今はしていますが)あえてこういう形にしました。
母親と思わせておいて実は姉だった、とすることで、子どもの頃の家族とは違い新しい家族とは良い家庭を築けているという印象を抱かせておき、ラストでクルっとそれをひっくりかえして、今の家族とも良い関係になれたのだ、という風に捉えられるようにしたかったのですが、拍子抜けしてしまったということは、完全に滑ってしまったのだと思います…。
また、恵子さんが何をしているか、はどう考えてもきちんとしておくべき点でしたが完全に抜けていました…お恥ずかしいです。
大学生が平日に、という点は、大学にもよると思いますが、ガチガチにカリキュラムを組んでいなければ、平日この時間にいてもそう不思議ではないと思うのですが、間違いなくそういった点には触れておくべきでした。
ここも、細部への配慮不足だと思います。

思えば、他の方からもディテールへの言及がありました。
ご指摘の際は気がついていなかったのですが、たぶんドリーマーさんが具体的に書いてくださったことと同じようなことを仰っていたのかもしれません。
一つ一つご指摘頂かないと気がつかない、というのは、書き手としてとても未熟であることの表れのように思います。

たくさんご指摘くださって、とても参考になりました。
ありがとうございました。

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